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泡の時代のまっただ中、1989年の冬。クリスマス・ソングが街のあちこちから聴こえていた。
私は血煙を上げながら仕事をしていた。カネはうなるほどあった。いずれ、世界一の大金持ちに
なってやると思っていた。愚かだった。舞い上がっていた。奢りたかぶっていた。生涯最高最悪
にして、忘れえぬ麻雀の対戦が迫っていた。
その頃、私は31歳になったばかりの若造だった。怖いもの知らずの小僧っこにすぎなかった。
心をゆるしたごく少数の年上の理解者をのぞけば、だれにも頭を下げなかった。傲岸不遜を絵に
描いたような輩だった。周囲はそれをゆるし、私はそれを当然のことと受け取った。嫌なやつも
甚だしいといまにして思うが、当時は露ほどの反省もない日々を生き、浮かれ騒いでいた。
麻雀牌に初めて触れたのは七歳の秋。おとなたちのやっている麻雀をひたすら観察し、麻雀の
ルール、約束事、掟をおぼえた。すぐに麻雀に取り憑かれた。麻雀卓を囲んだのは麻雀牌に触れ
てから二ヶ月後の正月である。勝った。勝ちつづけた。最初は笑っていたおとなたちの顔色が少
しずつ変わっていき、遂には真顔になった。怒ってわけのわからぬ奇声を発する者まで現れた。
けっきょく、私の圧倒的な一人勝ち。ほかの三人は箱テンだった。ただ勝ったことが嬉しかった
のではない。対戦者を完膚なきまでに叩きのめしたことが嬉しかった。私のそのメンタリティは
生来のものである。手加減なし。容赦なし。いまもそれは変わっていない。