11/05/31 21:47:02.71
男子はどこか、泣いたらかっこわるいみたいな思想あるからなあ。死活問題だよね。
もちろん、泣きそうになっているのが私だけではなかったことに少なからず安心もした。
「はい、じゃあ、いきまーす」
そういえば、このカメラの人もずっと同じだ。ちょっと白髪混じってるけど、昔からこの学校の写真撮影担当してるんだろうか。
「はい、じゃ、もう一枚撮りまーす」
考えてるうちに、撮影も進んでいた。今みたいなたわいもない考えごとのおかげで、卒業写真にまぬけな顔が写ったら大変だ。
私は即刻、真面目な顔を作る。
「ラスト一枚でーす」
カメラの人が言うのと同時に、強く風が吹いた。構わずシャッターが切られる。
「はい、終わりました」
言い終わらないうちに、私は後ろを振り向く。
「……きれい」
誰かが言った。私もそう思った。
桜の花弁が、風に吹かれて宙を舞っていた。
もとの大きな木を離れ、青空に向かって舞い上がる花びらは、何に縛られることもなく自由に踊る。
美しいと、そう思う。
けれど、そうやって自由になるということは、花弁一つ一つを繋いでいたものを失うこと。風に乗ってどこへでもいけるということは、みんなが遠く離れてしまうということ。
「おっ、あいつ泣いてるぜ」
男子の声が聞こえる。
まさか、私、と思って頬に触れた指先は、ほのかに濡れていた。
「いきなり風が吹いたからゴミが目に入っただけだし」
言い返す私の言葉はあまりに小さく、桜といっしょに風に飛ばされた。