11/05/30 22:32:21.29
しかし、期待したものは何一つ手に入らなかった。
賞賛、嫉妬、憧憬、驚嘆。どれもない。
不思議に思っているうち、何人かが自分の横を通り過ぎた。
いけない。自分が最初に着いたのに、その事実が埋もれてしまう。そう思って、男は急いで坂の頂まで戻った。
しかし、先程、ここを目指して俺を追い抜いたはずの幾人かは、そこにはいなかった。
さらなる疑念に俺が戸惑っていると、後から続々と頂上に到達するものが現れた。
よかった。俺が急いで戻る間、知らず知らずに追い越していたようだ。
安堵したのも束の間、その連中は俺の横を通り過ぎようとした。
ちょうど通り過ぎると同時に、一人が俺に声をかけてきた。
「君は雲を目指さないの?」
俺が目を丸くして振り返ると、既に連中の姿はなかった。
まさかと思って視線を上へとずらすと、一番最初に俺の横を通り過ぎた何人かも、そしてさっき俺を追い越した連中も、空へと続く坂を上っていた。
さらに見上げると、あの男がいた。
もうすぐ雲へと到達しそうな位置で、連中に向けて手を振っている。
唇をかみ締め、拳を硬く握り締めて、ならばもう一度追い越してやるまでと意気込んだ直後、俺はその坂の始まりがどこなのかわからないということに気がついた。
お願いします。