11/05/30 22:31:12.39
俺は坂を登っていた。
登り続けていた。
雨の日も風の日も、登ることをやめなかった。
俺はそれで、そういった日には登らない者を何人も追い抜いた。
いつも登っているけれど、歩みの遅いような者もまた同様に追い越した。
ある時、今まで登ってきた道を熱心に見返している男を見た。
時々、自分よりも下にいる連中を励ましたりなんかしている。
そのくせ、いざ前を向くと驚くべき早さで進む。俺が地道に登って稼がなきゃいけないものを、男は軽々と積み上げる。
そして、いくらか行くと、また立ち止まる。俺たちを振り返って、頷いたり、笑いかけたりする。
段々、坂の高い場所へ近づくにつれ、男がそうした行動を挟むのが頻繁になってきた。俺の後ろの方で、その男に対して何かしら返事をする者も現れ始めた。
なんとなく苛々する。
俺が登り続けると、案の定、よく止まるようになった男との距離は縮まってきた。
ついに、手が届きそうなくらいまで近づいたとき、男は笑って手を差し出してきた。
天才様が凡人の俺を慰めてくれるのかい。ありがたくて涙が出るぜ。けどよ、振り返って、下の者たちに自分を誇示するような奴とは組まねえ主義なんだ。
俺はそう言って、男の横を通り過ぎようとした。
視界の隅に、悲しげな目をする男の顔が映った。首を振っている。口をぱくぱくと開閉している。
俺は気にも留めず、先を急いだ。あんな野郎の言うことなんざ知らねえよと切り捨てて。
その後も俺は登り続け、やがて傾斜が緩やかになってきた。坂の終わりが近づいている。
それでも進むと、そのうち俺の上半身は地面とほぼ垂直になり、そして完全に傾斜がなくなった。
頂上に着いたのだ。まだ誰もいない。俺が一番だ、という思いが体中を駆け巡り、一人ではしゃいだ。
はしゃぎ疲れて横になると、青空に浮かぶ大きな雲が見えた。しばらく眺めていると、また誇らしい気持ちが湧き起こってきた。
最初に到着した俺を誰かに見せ付けてやりたい。
そうして坂を少し戻ると、あの男の励ましを嬉々として受け取っていた連中がいた。
男はどこへ行ってしまったのだろう、とは思わなかった。自分を誇示して、周りからの羨望の眼差しを集めることの方が断然大切なのだから。