ワイが文章をちょっと詳しく評価する![9] at BUN
ワイが文章をちょっと詳しく評価する![9] - 暇つぶし2ch141:mudai1
11/05/30 22:31:12.39
 俺は坂を登っていた。
 登り続けていた。
 雨の日も風の日も、登ることをやめなかった。
 俺はそれで、そういった日には登らない者を何人も追い抜いた。
 いつも登っているけれど、歩みの遅いような者もまた同様に追い越した。
 ある時、今まで登ってきた道を熱心に見返している男を見た。
 時々、自分よりも下にいる連中を励ましたりなんかしている。
 そのくせ、いざ前を向くと驚くべき早さで進む。俺が地道に登って稼がなきゃいけないものを、男は軽々と積み上げる。
 そして、いくらか行くと、また立ち止まる。俺たちを振り返って、頷いたり、笑いかけたりする。
 段々、坂の高い場所へ近づくにつれ、男がそうした行動を挟むのが頻繁になってきた。俺の後ろの方で、その男に対して何かしら返事をする者も現れ始めた。
 なんとなく苛々する。
 俺が登り続けると、案の定、よく止まるようになった男との距離は縮まってきた。
 ついに、手が届きそうなくらいまで近づいたとき、男は笑って手を差し出してきた。
 天才様が凡人の俺を慰めてくれるのかい。ありがたくて涙が出るぜ。けどよ、振り返って、下の者たちに自分を誇示するような奴とは組まねえ主義なんだ。
 俺はそう言って、男の横を通り過ぎようとした。
 視界の隅に、悲しげな目をする男の顔が映った。首を振っている。口をぱくぱくと開閉している。
 俺は気にも留めず、先を急いだ。あんな野郎の言うことなんざ知らねえよと切り捨てて。
 その後も俺は登り続け、やがて傾斜が緩やかになってきた。坂の終わりが近づいている。
 それでも進むと、そのうち俺の上半身は地面とほぼ垂直になり、そして完全に傾斜がなくなった。
 頂上に着いたのだ。まだ誰もいない。俺が一番だ、という思いが体中を駆け巡り、一人ではしゃいだ。
 はしゃぎ疲れて横になると、青空に浮かぶ大きな雲が見えた。しばらく眺めていると、また誇らしい気持ちが湧き起こってきた。
 最初に到着した俺を誰かに見せ付けてやりたい。
 そうして坂を少し戻ると、あの男の励ましを嬉々として受け取っていた連中がいた。
 男はどこへ行ってしまったのだろう、とは思わなかった。自分を誇示して、周りからの羨望の眼差しを集めることの方が断然大切なのだから。


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