11/05/27 23:10:55.44
帝国プリンスホテルで行われた名人戦第7局は、名人
松原遼が戦局不利な状況にあった。戦局を見守る待合
室の記者達も口を揃えて「名人が負ける時がきた」と湧
きかえっている。
松原遼は23歳と若く、勿論、名人としては異例の早さ
であった。デビューしてから8年、破竹の勢いで星を積
み上げた。圧倒的な勝率が示すその戦績から、彼の頭
脳は宇宙さえ想像できるとも謳われた。外見は美男子と
言われるたぐいのものであって、整然とした顔立ちと長く
艶やかな黒髪は、世の女性を虜にした。また、遼君など
と言われてテレビCMにもひっぱりだこである。名人にな
ってから2年ほど経つが、もはや天下無双であった。
そんなある日のこと、いやついにやって来たというべき
か、最強の相手を迎えることになった。当初は彼の取り
巻き達、将棋連盟は猛反対であった。そんな血の通って
いない輩と果たして戦う意味があるのか、しかも名人位
を懸けてなど言語道断であるというスタンスであった。だ
がしかし松原遼は、迎え撃って出たのである。
理由はあった。松原遼が少年時代に将棋を培ってきた
場所、将棋を教えてくれた祖父の面影、いや急死した父
との対話、それらすべてに触れることが出来るかもしれな
かったからだ。無論、対戦相手が史上最強だと言われて
いるのも大きな理由ではある。