この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十五ヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十五ヶ条 - 暇つぶし2ch66:名無し物書き@推敲中?
11/02/09 00:15:46
お題忘れました。
「DVD」「アイスバーン」「宿題」

でお願いします。

67:名無し物書き@推敲中?
11/02/12 02:56:22
 雨も降らなければ雪も降らない、人生のほとんど全てをこの町で過ごしてきた俺には、なんと言うか「積もった雪」というものは憧れの一つで、今その憧れが目の前にあった。

 しかし、なんと言うか「寒い……寒すぎる」俺にとって初めてで、この町にとっては25年ぶりの大雪(雪国からすれば普通らしいが)がもたらした物は混乱だった。
 喜んでいるのは子供だけで、犬も猫も丸くなっているだろうし、憧れていた筈の俺も寒さに耐えられずに、部屋にこもって宿題とか予習とか、とにかく普段やり慣れない事をして一日を過ごした。
 夕飯のとき、妹に俺が勉強したから雪が降ったとまでいわれたが、まるで順序が逆であり、こんな理解力で受験は大丈夫なのだろうか?と心配になったものの、口では勝てそうにないので無視していると、突然、妹が言い出した事実「DVD返却日今日じゃん?」

 よりにもよってこんな日に何で返却日なんだよ、母に送ってくれと頼んだら「雪道なんて走れんわ」と一言で却下された結果、自転車で恐々走っていた。普段10分程度の道のりなのに、40分もかかってしまった「って歩いても変わらんわ!」何だか虚しくなった。

 お店の中を見ていると浩子がいた。俺と同じような理由で無理してレンタル屋に来たらしい。あっという間に気持ちが上向きになるのは仕方が無いだろう?。結局浩子を家まで送って帰ることになった。

 道すがら今日のことや、いろいろなことを話した。浩子は雪ウサギを大小かまわずいくつも作ったらしい、そのすごく楽しそうな顔は今日一日の澱みを押し流してくれた。
そして、あっという間に付いた浩子の家では、5段積みの雪ウサギを始め、沢山の雪ウサギが俺たちを迎えてくれた。そこで少し話をして、ぐちゅぐちゅになり始めた靴で家路に着いた。

 帰る頃にはネットで話題になったアイスバーン映像のようになるかと思っていたが、そんなこともなく、みぞれ状の路面を足早に、恨み事を口に、浩子の顔と雪ウサギを気持ちに歩いていく。

 自宅に着いたら、俺も雪ウサギを作ろう……手も足も痛いけど、それぐらいなら何とかなるだろう。でも寒いなぁ

68:名無し物書き@推敲中?
11/02/12 02:59:11
次は「夜光虫」「散歩」「夢」

69:「夜光虫」「散歩」「夢」
11/02/12 21:34:58
夢を見た。
散歩をしている夢だ。
無数の夜光虫の放つ青い光が闇の中に浮かび上がって一筋の道となり、僕を導く。
どこに向かっているのかはわからない。
ただ、何か懐かしいものがその先に待っているような予感がして、僕の胸はいつになく高鳴っていた。
懐かしさの原因は、光の道が銀河鉄道を連想させたからかもしれないし、昔やった白線渡りの遊びを思い起こさせたからかもしれない。
なんにせよ、とても気持ちの良い夢だった。

太もも辺りにくすぐったさを覚えて目覚めると、僕はいつものベッドの上に横たわっていた。
夢の中の線路はいつだって現実へとつながっている。
昨日酔い潰れて帰ってきたせいか、四十数年ぶりにお漏らしをしていた。
白いシーツに黄色い海が広がっていた。
そこから一筋、窓のほうに向かって黒い道が伸びている。
道はせわしく運動している。
無数の黒アリが糖尿の甘い香りに導かれて行列をなしていたのだ。
現実もまた夢へとつながっている。
嗚咽を堪えきれなかった。

お次のお題は「ドーナツ」「ガーデン」「午前二時」で。

70:名無し物書き@推敲中?
11/02/14 00:10:50
おれスナイパー。エリート中のエリート。ひくてあまたなんだ。
とてもそうは見えないよね。でも本当なんだ。
今も仲間から「庭でドーナツ食おうぜ」とメールがあった。
「庭」は「2」、「ドーナツ」は「OK」、「食おうぜ」は「GO]という意味。
暗号を解くと「準備完了午前二時に決行せよ」ってことになるんだ。
じつはおれ、警察かどこかの組織にマークされてるかもしれないんだよね。
なんとなく携帯電話の雑音がひどくなった気がするんだよね。
さっきのメールもハックされてるかもしれない。
こんな感じに不安になるからおれはメールの内容どおりの行動をすることにしてる。
だからすぐ支度して駅前の「ガーデンハウス」に行ってドーナツを注文する。
そんで相手を待ってるふりをしてコーヒーとドーナツを追加注文したりする。
そんで相手が来ないからあきらめて帰るふりをする。
ほんと、ドーナツを暗号にするのは考えもんだよね。ほぼ毎日こんな調子なんだから。
だからこんなことになってるのはさ、おれがじだらくな生活してるせいじゃないんだ。
ホントだよ。

次のおだいは「牛乳パック」「パーク」「駅伝」で。

71:名無し物書き@推敲中?
11/02/14 12:52:42
人気ドラマ『踊る大捜査線』の中で使われる印象的なイントロはみなさんご存じだろうか。
曲名は『RHYTHM ANDPOLICE』と言い松本晃彦氏が独自に作曲したもの。
実はこの曲には元の曲があるというのだ。元の曲の名前はBARCELATA CASTRO LORENZOが
作曲した『El cascabel』という曲だ。2つの曲のイントロを聴いて貰えばわかるがそっくりなのがわかるはずだ。

そんな2つの曲にネット上でパクリ疑惑としての情報が流れてしまったようだ。ソース元はWikipediaと
なってしまうが次のように書かれている。「原曲はBARCELATA CASTRO LORENZOが作曲作詞した
メキシコのEl cascabel(日本音楽著作権協会(JASRAC)作品コード0K3-4404-1)であるが、著作権は
消滅しているため、著作権使用料の観点からは独立した2つの曲として扱われる」とのことだ。
URLリンク(getnews.jp)

原曲だと言われている『El cascabel』
URLリンク(www.youtube.com)

踊る大捜査線OP曲『RHYTHM AND POLICE』
URLリンク(www.youtube.com)

72:「牛乳パック」「パーク」「駅伝」
11/02/15 12:06:32
「牛乳パック」「パーク」「駅伝」

暴力的な眩しさで目を覚まし、部屋の中を彷徨いながら冷蔵庫から氷の様な人工牛乳を取り出し、胃袋に落とし込む
牛乳パックをダストシュートに放り込むと、地底人の賛美歌のような禍々しい回収音が響き渡った。
テレビをつけると100年前の駅伝が放送されていた。
駅伝は1000年経っても同じように楽しまれるのだろう。
この「パーク」は人類の結論として地球の衛星軌道上に設置された居住空間だ。
収容人数は5000万人で、全人類が居住して居る。
完全な自給自足を実現し、大地は再び動植物の楽園となった。
それが600年前。
なぜ人類がこの選択をしたかは記録に残っていない。
だが未来はわかっていた。
パークのメンテナンスをできる人間が居ないので人類は滅亡を避けられない。
やがてパークが壊れ、食料や燃料の供給が止まれば終わりだ。
メンテナンスできる人間が最初から居なかったのか、忘れられたのか誰もわからなくなっていた。
パークについての見解は複数あった。
人類が悟りを得、地球を守る為に計画的に居住した空中都市であるという永住説。
核戦争からの一時的な避難を目的としたシェルターであり、そろそろ帰るべきだとする帰還説。
帰還説派は大気圏再突入用の動力の存在を信じ、たびたびパークの内壁を引っぺがして故障させるので永住説派から蔑視されていた。
そして、永住説派はその倦怠からよく自殺をした。
人類は緑溢れる大地を眼下に収めながら身動きできないでいた。
楽園というものがあるとしたら、それはきっとこの様な地獄の様な場所なのだ。
私は人工りんごを放り投げ、手のひらで受け止めた。

「黒胡椒」「シンガボール」「隣に座っている人」

73:黒胡椒 シンガポール 隣~
11/02/15 23:45:12
私が飲食店に求めるものは極めてシンプルである。
まず間口の広い入り口。出来ればガラガラっと引き戸のタイプが良い。
それから、カウンター席の幅は隣りに座っている人に干渉せずに済む1m弱が理想的である。
定食屋にありがちな盆を、背後から客の前に差し出す隙間を考慮した至高の幅こそが1m弱なのだ。
料理の頼み方に決まりこそないが、女々しく料理のウンチクなど垂れ流すのは愚図の極みである。
例えば、「洋食料理屋のシェフをはかるにはオムレツを作らせろ」
などと戯言を吐くなど、言語道断である。
そんな戯言を私の横で吐いた日には、その輩の頭へ卓上の塩を振りかけ、もしも
スパイスとして黒胡椒も常備してあれば迷わず振りかけるであろうから、
飲食店のカウンター席は幅が大事なのだ。
幅と言えば、カウンターバーの世界規準を定めるならば、シンガポールスリング発祥のホテル……
つまるところ、私は極めてシンプルである。

「雪」「岩」「宇宙」

74:名無し物書き@推敲中?
11/02/16 22:44:19
 男は山を歩いていた。
彼は地面に積もった茶色い絨毯を踏みしめながら、紅葉した木々の茂る斜面を登っていた。
そうしてちょうど山の中腹まで来た所で、いきなり開けた場所に出くわした。
そこには神々しいほどに大きな岩がそびえるようにたっていた。
 岩は言った。
「お前は何をしにここへ来たのだ」
 男は語った。
「私は世間というものが嫌になったんです。友人はお金の話しかしないし、職場の同僚は自分の自慢ばかり……
おまけに私の妻は町の噂にしか興味がありません。食事の最中でさえ他人の不幸話を持ち出すんです。
僕はそんな周りの人間が嫌になって、ここへ逃げてきたんです」
岩はふむ、と納得したように短く言い、考え込んむように黙り込んだ。
そしてしばらくして、再び男に向かって話し始めた。
「良かろう。この先少し行ったところに、体に大きな穴の開いた私の友人がいる。
ちょうど人ひとりが入れる広さだから、そこで寝泊りするといい。寒さぐらいはしのげるだろう」
男は岩に短く礼を言うと、再び山を登り始めた。

75:名無し物書き@推敲中?
11/02/16 22:49:27
 それから数年が経ち、季節は冬に移り変わっていた。
辺りには雪が降り積もり、木々は白い化粧をして、山は神秘的な美しさで満たされていた。
その一方で男の肌は血色を失い、頬骨は出て、体は骨ばってしまっていた。
彼はここ数ヶ月病気を繰り返しているのだ。
 
 ある日彼は、いつものように夕食を得るため、重い体を引きずって外へ出かけた。
そして岩の前を通り過ぎようとした時、不意に岩が彼に話しかけた。
「お前はここに来た時と比べて、まるで別人のようにひどく衰弱してしまった。
私はお前にこの山の食べ物のありかを教えたが、それは生きるのに十分な量だったはずだ。
すると今のお前にはいったい何が足りないのだ?」
 男は空を見上げた。辺りは既に暗く、厚い雲が星の光をを遮っている。
 岩は続けた。
「お前はよく、私に町の話をしてくれた。
お前は周囲の人々がいかに無知で欲深く、救いようがない人間か語った。
そしてそのことに自分がどれほど絶望しているか私に教えたな。
でもお前は気づいていたか? そういった話をする時のお前の顔は、
どんな時よりも希望に満ちていたぞ。お前がひどく嫌っていたものは、
もしかするとお前の大きな糧だったのではないか?」
 
 男ははっとした。そしてすぐに顔を上げて、まるで宇宙の最果てまで見通すように暗い空を見つめた。
灰色の厚い雲がゆっくりと移動し、わずかに星が出始めている。
光に照らされた彼の顔は依然としてこけたままだったが、そこにはわずかな微笑と
何かを心得たといった表情が広がっていた。
彼は岩に長い長い感謝の言葉を述べてから急いで自分の穴倉に戻り、山を降りる準備を始めた。

76:75
11/02/16 22:51:34
「巡礼」「夢」「ワイシャツ」

77:「巡礼」「夢」「ワイシャツ」
11/02/17 15:58:55
 疲れた……ワイシャツを脱ぎながらベッドに横になる。ベッド脇で埃をかぶっている写真に写る自分はどこにいるのだろうか?

 若いころは、とにかく働いて金を貯めては旅行に出かけていた。しかし、結婚して定職に付き子供も出来た頃から、自分には自由は無かった。
正確には無いわけではないが、それはすなわち家族の不幸を意味していた。
 結局は自分の意思として今の生活を選んだわけで後悔も何も無い……無いのだが、
個人としての夢が無くなった訳ではない。

 マチュピチュで黄金色に染まる朝焼けを見てみたいし、太平洋航路をのんびり揺られてみたい、色々あるが一番行きたいのはカイラス山。
 ポタラ宮の正面にあるゲーセンでバイクゲームを楽しんだりした不届き者でも、五体倒地で巡礼する人の姿には心を打たれた。それ以来彼らの目指す聖地カイラス山へ行ってみたいのだ。その気持ちは静かに大きくなっている。

 「ん?」マナーモードにしたままの携帯がうねりを上げる。
電池で振動するアレはよく壊れるのに携帯は壊れないよなぁ……どうでもいい事を思いつつ電話に出る。
 たどたどしいけど、疲れが溶けていく声で娘が話しかけてくる。最近電話を覚えたらしく、自分だけでなく祖父母にもよく電話をかけているらしい。
この時間は今の自分にとって、どうでも良い内容であっても大事な時間だ。

ああ……そうか

 各駅停車で旅をする時間、中国の長距離バスに乗ったときの時間。
その行為に意味があるのかどうか分からないが、その時間はかけがえの無い大事な時間だった。

 自然と顔が緩む、娘に今の気持ちを話した。

電話の向こうで娘が妻に説明しようとしている声が聞こえる。
「みぃとゆめはおなじでだいじなんだって」

私も娘も……そして妻も、みんな笑っているだろう。

*次は「色鉛筆」「プラネタリウム」「雪」でお願いします


78:名無し物書き@推敲中?
11/02/18 19:59:10
 私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前--言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる--
でも、私はワザと『フミ』と名乗るときがある。

2/17 今日はフミ
 真帆はプラネタリウムが好き。プラネタリウムに映し出された、でも降り注ぐ様な星の光は雪ふる夜空にライトを照らしたような圧倒的な光の粒なんだって。
昨日一緒にいくはずだった智君は約束に遅れそうだったから道路を無理に横断して事故にあったって。もう生きてるのが不思議なんだって。
 だから真帆は私に「お願い、このメールを事故の前に……智に届けて」って言ったの。だから私はフミになった。

 「ごめん用事出来たから今日は無理」それだけのメールだけど代償は多分大きい。
今までも過去にメールを送っているから、どれだけの大事な手紙やメールを受け取れないのか見当も付かない。だけど、そんなことは分かっているはず。だから私はメールを届けた。
 真帆はいきなり泣き顔から怒り顔になった。「智君が約束を破って来なかった」からだそうだ。智君も真帆がメールを送ったんだろ?と怒っている。私は色鉛筆で塗るように今を重ねることは出来ない消して書き直すだけ。

 ま、どうせすぐ仲直りするでしょ。喧嘩なんていつものことだし。
2~3日したらすぐおなか一杯の話をしてくるんだろうな。

2/19 真帆が別れた。
 仲直りのメールが届かなかったんだって。命と恋愛で釣り合うってなんか素敵だよね。明日は1日遊んで愚痴を聞かなきゃね。

*「ミシン」「ねずみ」「ダンス」でお願いします

79:「ミシン」「ねずみ」「ダンス」
11/02/18 23:49:27
今日もカタコトミシンを踏んで。
ペダルに合わせてミシンが動く。
カタコトカタコトミシンが動く。
音に合わせて踊りだす。
ネズミが三匹踊りだす。
壁の穴から顔を出し。
三匹仲良く踊りだす。
カタコトカタコトカタコトカタコト。
上手に軽いステップ踏んで。
カタコトカタコトダンスを踊る。
今日のお仕事これでおしまい。
ミシンの続きはまた明日。
それではネズミもまた明日。
次は「猫」「ギター」「狼」でお願いします

80:「猫」「ギター」「狼」
11/02/19 03:14:52
 大して良い音も出していないフラメンコギターの二人組が自分たちの奏でるサビに酔っている。俺は指3本分の
スコッチの入ったグラスをそっと滑らせた。内心冷や冷やだが平静を装って自分のグラスには別の酒を注ぐ。
カウンターの真ん中で、滑るグラスを止めたのは白く長い指。すっとグラスを引き寄せる。
「貴方が『灰色狼』?」
 女がカウンターに目を落としたまま、酒の量を確かめるように指でグラスを撫で、低い声で尋ねる。
「ああ、そうだ」
 俺は自分の手元の酒を見つめたまま答えた。
 細い煙草を灰皿に置き、女が琥珀色の酒を傾ける。美女と酒をご一緒するのは嫌いじゃないが、
こちらを値踏みするような目が年老いた猫のようだ。女がぺろりと唇を舐め、目が先を促す。
「・・・『紅い月』の居場所を知りたい。あんたが仲介役だと聞いた」
 カラン。グラスが鳴った。瞬間、女の指の間に鋭い刃が現れた。
「『灰色狼』の符牒は、ライウイスキーを3フィンガーと聞いているわ!」
 言い終わる間もなくメスのような刃物が俺の首目がけて飛んでくる。俺はグラスを引っ掴んでしゃがみ、
女の顔に中身を浴びせかけた。ハラペーニョ入りのウォッカだ。女は目を押さえて叫び声を上げる。音楽が止み、
歌っていた二人がギターの胴から銃を引き出す。俺はカウンターに乗り出して強い酒のボトルで女の頭をまず一発。
割れた瓶に煙草で火を付けて二人に投げつけた。二人の衣装は焚き火にはうってつけ。まさに情熱の踊りって奴だ。
 大騒ぎの店内で俺は目を白黒させているマスターに多めに札を握らせると足早に店を後にした。
 全く腐れ情報屋め、なんでこう毎回細部のツメが甘いんだ。そもそも俺はスコッチもバーボンも好きだが、
ライだけは苦手でね。ますます嫌いになりそうだ。仕事も失敗だし今夜はどこかで飲み直すとしますか。

81:80
11/02/19 03:19:36
次は「筆」「天ぷら」「シート」でお願いします。

82:名無し物書き@推敲中?
11/02/19 10:58:28
 私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前--言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる--
でも、私はワザと『フミ』と名乗るときがある。

2/18 可愛いおばあちゃん
 真帆と一花のお見舞いに行ったんだけど、とても元気で暇をもてあましていて、弟から取り上げたゲームで狩ばかりしているんだって。でも逆に倒されててストレスたまってそう。
 帰りに待合室で真帆の愚痴を聞いていると、かわいいお婆ちゃんが話しかけてきたの「喧嘩したまま会えなくなることもあるんですよ」って寂しそうな声。それで真帆は仲直りのメールを打ち始めた。悩んで悩んで打っていたんだ。
 おばあちゃんは汚れてボロボロな多分会えなくなった人の名前を筆で書いた手紙を取り出し、今みたいに手紙が直ぐに届いたら……と寂しそうな顔になった。

 私は頼まれもしないのに、おばあちゃんの手と手紙を両手で押さえて手紙を送った。
多分リスクは私に来る。でも手紙は消えなかったけどシートに挟まれていた。
私は何食わぬ顔で「そのお手紙は?」と聞いた。おばあちゃんは可愛い笑顔で教えてくれた。

 終戦後、隣町の人が「君が生きていてくれたならうれしい」って伝号を伝えてくれたんだって。
大怪我していてその人を置いて来るしかなかったって……だけど生きていて留まった国の独立の為に戦い最近まで生きていたんだって。

 その人の家族の人から大使館を通して、お婆ちゃんが送ったすごく汚れてボロボロになった手紙と家族からの手紙が送られてきたんだって。
「仲直りは大事よ?」それを聞いて真帆は余計に悩んでメールを打ち直していた。仲直りできるといいね。

 今夜は天ぷら--サツマイモだらけの--かぼちゃほしかったなぁ

*「崖」「太陽」「コーヒー」

83:「崖」「太陽」「コーヒー」
11/02/20 03:19:40.22
「……今日も良い天気だ」目覚めのコーヒーをテラスで飲みながら誰に聞かせるでもなく呟く。
言ってしまってからつい、苦笑いが浮かぶ。ここにいるのは自分の他は猫だけだというのに。
どうして無意味な独り言を言ってしまうのだろうか。一人の生活にまだ慣れていない証拠なのだろうか。
朝日がゆっくりと昇っていくのを見ながら、一杯のブラックコーヒーをゆっくりと飲み干す。
もう妻は亡く、落陽の日々を送る私には気にかけるべきことも殆ど残っていない。
カップを洗うと、水切り籠に置き丁寧に手を拭いた。そしてメールを一通送信する。
玄関でお気に入りの革靴を履いて振り返る。
「じゃ、行って来るよ」今度ははっきりと猫に向かって声をかける。
猫は眠そうな目でこちらを見ただけだった。私は軽く手を上げてそれを返事とした。
近所の岬まで徒歩15分。すぐに見慣れた崖に着く。
雑草の生い茂った、海を臨む景色の良い草原。私は昇りかけの太陽を一度見上げた。
そして何もかもを思い切る。助走をつけて崖から思いっきり遠くへ目掛けて力いっぱい、……飛んだ。
さぁ、後のことはメールを受け取った竜彦が全て上手くやってくれるだろう。
猫は、信彦が引き取ってくれるだろう。家財道具は美晴が処分してくれるはずだ。
皆、ありがとう。ようやく、ようやく、妻に会える。もう、すぐだ。
最後の瞬間は意外と早く訪れた。
ありがとう。ありがとう、皆。

次は「電話」「羽毛」「桃色」でお願いします。

84:名無し物書き@推敲中?
11/02/20 16:18:34.13
私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前--言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる--

 一緒に歩く堤防、たくさんの羽毛のような雲が空に浮かんでいて、じっと見つめると羽を震わせるように静かに形を変えていく。もうすぐ綺麗な色に輝きそうな予感。

 真帆は私の目をそっと見つめているけど私が眼をあわすと逸らす。
多分私が知っていることを聞きたいんだと思うけど私からは言わない。

堤防の上をぶらぶらと歩く真帆が話し掛けてくる
「ねぇ文、電話で仲直りしようとしたら伝わった?」
「そうだね電話なら伝わったかな?」
「そっかそれだけ大事なことだったんだ」
「真帆は恋愛に命がけだもんね」

真帆はかばんから桃色のお守りを取り出す。
「恋愛成就ってどこにでもあるけど、恋愛安全とかってないよね」
「あ~そういえばないね。」
「文ごめんね、ありがと。智が元気でうれしいよ」

 いつのまにか空はオレンジに染まり、ふわふわとやさしかった雲は彫金のような鮮やかさに輝き真帆の周囲を飾っている。だけど真帆はよけい暗くなっている。

「2回は無理なんだよね」確認するだけの口調
「成功したことない……ごめんね」
「いつも思ってたけど文って大変だよね、全部抱え込むんだからさ」
横を向く真帆、夕日が浮き立たせるのはやさしい顔。どうしてこんなときに優しくなれるんだろう。見とれていると、維持の悪そうな顔で笑った。

「じゃあ、文のおごりでモス行こう」
「えっええ~~無理だよ、せめてミスドにしてっ!」
「それで手を打つか」

そう言って歩き始めた真帆の後ろを少し離れ、震える肩を眺めながらついて行く。

*「携帯」「氷」「麻雀」

85:「携帯」「氷」「麻雀」
11/02/20 17:01:04.17
「どうだ!」えらいドヤ顔をした妹が僕に向かって言い放つ。
「どうだ!じゃねえよ!今日、多治見たち呼ぶって言ってただろうが!」まったくとんでもないことをしてくれたものだ。
「だってー、私だって麻ちんたち家に呼んで遊ぶんだもーん。おっさん達が麻雀なんてしてると感じ悪いんだよね」
ぷいっとそっぽ向いて自分勝手なことを言う。とにかくこうしてはいられない。とっとと連絡を取らねば。
急いで携帯をだして多治見を呼び出す。「あ、多治見!すまん、今日約束してた麻雀なんだけどさ」
そんな俺を尻目に台所を出て行こうとしていた妹が言い放つ。
「あ、そうそう!皆で遊んでるから二階に来ないでねー。」
今、うちの冷凍庫には氷漬けにされた麻雀牌たちが眠っている。
湯をぶっ掛けて、救出することはできるだろうが、その後拭くことなどを考えると何とも面倒くさい。
これぐらいはあとであいつにやらせよう。
昔は可愛いかったのになぁ。

「兄貴」「マッスル」「りぼん」

86:名無し物書き@推敲中?
11/02/20 19:21:31.23
そこにはマッスル兄貴が居た。
あそこにリボンを巻いたマッスル兄貴が居た。
兄貴が長い夜を告げた。

「流れ星」「エンジン」「トリケラトプス」

87:名無し物書き@推敲中?
11/02/21 20:06:04.91
ペット用に遺伝子改良されたミニチュア・トリケラトプスは
大別して「流星種」と「桃尻種」に分類される。
「流星種」の2本の上眼窩角鼻角は、流れ星が尾を引いたような華麗な弧を描き、
左右の斜め前方に1.2メートルの長さに達する。
「流星種」はミニチュア種とはいえ、角を除いた部分の体長が1.7メートルに達し、
一般の家庭で飼育するのは不適当だろう。
その点、尻尾と角の短い「桃尻種」は体長60センチ、愛らしいお座りのポーズで
数年前にペットとして大ブレークした。しかし、今、新燃岳恐竜公園では、
無責任な飼い主による「桃尻種」の捨て恐竜が問題になっている。
新燃岳恐竜公園のマッスルな飼育員達の兄貴分である舞鶴博士は中指を立てて警告する。
「桃尻はりぼん(DNA:デオキシリボ核酸とグッピーのリボンの♂が極めて生殖力能力が
低いのを掛けた不生殖改良種を表す俗語)とはいえ、何十年と生きるように設計されている。
当公園では去年1年間で実に547頭もの桃尻を保護したが…………(ズォーードドドーードコドー)
ジェットエンジンのような爆音に私は執筆の手を休める。足下で丸まって寝ている桃尻のアイコの
いびきの音。さて、私はいつまで耐えられるだろうか?


次のお題は「火山」「革命」「その後」でお願いします。

88:「火山」「革命」「その後」
11/02/21 21:16:10.06
その後、何年も何年も町は何事も無かったかのように静まり返っていた。
人一人おらず、猫の姿さえなかった。
通り過ぎるのはただただ風と木の葉のみ。
ある日、一人の旅人が通りかかった。
旅人はある一つの廃屋に入った。
埃っぽいその家で大きく息を吸い込んだ。
そして、一言。「ただいま」、と。
一つの部屋に入った。灰と砂にまみれたベッドに腰掛けた。
そう、この部屋には天井がない。灰はあの火山から来たものだ。
旅人は肩から荷袋を降ろした。中からはまばゆいばかりの王冠が一つ。
旅人は焦点の合わない目でそれを見つめた。
王冠の持ち主はもう居ない。旅人が殺したのだ。
圧制に苦しむ村を通ったとき、村人を助け剣を振るった。
旅人が旅人となったのは些細な理由。もっと他の世界を知りたかったから。
しかし、けして楽な旅ではなかった。盗賊と遭遇し、泥棒と誤認され、あげくに革命騒ぎだ。
何人かの人を手にかけた。そして懐かしの家(や)にたどり着いたのだ。
ため息を一つ、吐き出すと男はベッドに寝転び直ぐに寝息を立て始めた。

この街を襲ったのは旅人が殺したあの王だった。
旅人は知らずして自分の町の敵を打っていたのだ。
だがしかし知ったところで何の救いになるだろう。
そう旅人を癒してくれるのはあの村で待っている村娘だけ。
彼女の腹の中の子は旅人の帰りを待つただ一人の身内となった。
眠った旅人の顔につたう涙を見たのは青白い月だけだった。

次は「眠気」「廃屋」「指紋」

89:名無し物書き@推敲中?
11/02/22 00:36:24.15

午前二時、廃屋、正確に言えば廃病院の入り口の駐車場で俺は奴らを待っていた。寒いなか眠気にも耐え何故こんなに頑張っているかって?そんなの決まってる、幽霊の醍醐味、そう、「脅かし」だ。
幽霊は生きている人間に直接手出しは出来ない、何故かは分からないがそういう決まりなのだ、でもそんなことはどうでもいい。幽霊は人間の恐怖や悲鳴や絶望に麻薬的な快感を覚えるのだ。だから幽霊は生きている人間を脅かす。

しばらくすれば奴らが戻ってくる。ふと一人が車の異変に気付く。フロント、サイド、バック、全てのガラスにびっしりの俺の手形、指紋までくっきりの。彼らは慌てて車に乗り込む。しかしエンジンがかからない、それもそのはず、電気系統を俺が事前に弄っているからだ。
焦る奴ら、そして奴らの恐怖が最高潮に達した瞬間……まあそこから先はまだ考えていないがアドリブでなんとかなるだろう。

しかし寒い、奴ら何してるんだ全く、その廃病院には曰くなんて全くない。院長は優秀で誠実だったし、いまだ現役バリバリだ。患者から恨まれるようなことなんて病院が潰れる最後までなかった。
病院が潰れた原因もただの経営難でそれまで入院していた患者は全員別の病院でぴんぴんしている。

「きゃー」

女の悲鳴。くっくっく、まったくあいつら相当の臆病者だな。どれ、いっちょメインディッシュの前に軽く前菜でも振る舞ってやろうか。

病院のなかに入る。ひっそりとしていて全く気配がない。おかしい、幽霊は恐怖や怯えにはひと一番敏感だ。これではまるで俺と同じだ、死の気配だ。どういう事だ?
「まさか……」
悲鳴の聞こえた方向、霊安室の扉を開けると其処にはバラバラになった男女の死体、そしてそのそばで放心状態の男女の幽体。
「そんな……まさか……」
動けなくなった俺の背後に何かが立っていた。

次題 「天網」「ルミネセンス」「冒涜」

90:「天網」「ルミネセンス」「冒涜」
11/02/23 13:44:45.80
 また一人、目の前で人間が消えた。おとなしそうな顔をした色白の女性だった。彼女が何をしていた人なのかは
知らない。ただ、青白い光を発しながらだんだん小さくなるように消滅した。誰もが思わず目を伏せ、彼女の顔を
見る者はなかった。独自のトランスファービームが周囲と干渉して起こす光だという者や、強力な電磁バリアの
中で分解を受ける際のルミネセンスだと推測する学者もいた。ただ我々に恐怖を植えつけるためにわざと光らせて
いるのだという者もいた。誰にも真実はわからなかったが、共通して、みな人としての表情を失っていた。

「天網恢恢疎にして漏らさず、なんて言葉があったな」と誰かがつぶやいた。夜の酒場の片隅。酒の勢いか、度が
過ぎた発言の中で、また人が消えるのを見た直後のことだった。空となった席の近くで男が気色ばんで立ち上がった。
「こんなののどこに正義があるというんだ!あんたは天を冒涜するのか!」
空気が凍りついた。まもなく二人の人間が消えた。

 その昔、テロや凶悪な犯罪を防止する目的であらゆる情報を一手に集めていたコンピューターシステムがあった。
その情報収集能力と統制が極度に進み、人類に大きな害を為す恐れの高い集団を人の手を介さずに割り出すことが
可能になった。軍需産業複合体と結びつくのに時間はかからず、最新の攻撃・防御技術が次々と導入されたが、
ミスか偶然か、システムが自衛プログラムを獲得するに至った。関係者も危機に気づき対策を講じたと伝えられるが、
工業都市すら掌握して自ら進化するシステムに追いつくことはできず、今やその誰一人として行方が知れない。
 今夜も地表には光が瞬いている。


次「ガム」「カード」「夕焼け」

91:「ガム」「カード」「夕焼け」
11/02/23 23:34:14.51

ピカっと空が輝き。それを合図に爆発音と風を切る音が入り混じり、
思い出の公園はあっという間に見る影もなくなってしまった。

彼がクソッタれと呟くのはもう何度目だろうか。
彼がガムを吐き出すのは、あの日から数えて何度目だろうか。
初めて会ったあの日、やっぱり彼はブランコに揺られクソッタレとガムを吐き出していた。

また閃光と爆発が続き、彼と彼の仲間は支給された
ライフルを片手に滑り台の辺りへ走り抜けた。
少し遠くなった彼は、滑り台の影からオートマチックのライフルを打ち鳴らす。
たんたんたたんと乾いた音が数発。彼はまたガムを吐き出し、マガジンを交換すると、
やっぱりクソッタレと叫んでいた。
あの日、ブランコを漕ぐ彼が握り締めていたカード。町内会から送られた赤いカード。
―あれから十五年。あの日は親父、今度は俺だクソッタレ―ってやっぱり言ってたね。
また閃光と爆発と砂煙。
たんたんたたん。たんたんたたん。リズムに乗って彼の仲間はダンスをやめたね。たんたんたたん。たんたんたたん。
ここが前線になる最後の日、ブランコの上からガムを吐き出し、夕焼け空にカードを照らして約束したよね。
私のおなかを二度さすり、小さな声でカードは二枚までだって。俺で終わりにしてやるって。
また……閃光と、爆発と、壊れたブランコと、土煙と夕焼けに染まる真っ赤な彼……と。

―くそったれ―



次「携帯電話」「帽子」「はさみ」

92:名無し物書き@推敲中?
11/02/27 09:25:58.48
ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
でてきたものは小さいぞうさん。

ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
出てきたものはぞうさんの帽子。

ぞうさんぞうさん可愛くできた。
それではも一つ作りましょう。

ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
出てきたものは携帯電話。

ぞうさん貼って、いろいろ描いたらできあがり。
これは明日のプレゼント。
あの子は喜んでくれるかな。


「クローゼット」「ガラステーブル」「腹痛」

93:「クローゼット」「ガラステーブル」「腹痛」
11/03/03 00:31:05.11
クローゼットの中で、内緒でハツカ鼠を飼っていた。
ハツカ鼠は白い毛に赤い目をしている。シッポの耳の内側や指はピンク色をしている。
鼠算式に増えたら困るなと思ったら、全部、雌だから大丈夫とペットショップのおじさんは言っていた。
餌はペレットと給食の残りと野菜の切れっ端。大好物のヘビ苺は、腹痛を起こさないように
やり過ぎに注意する。

日曜日、ママとパパがデートに出掛けたので、
僕は居間のガラステーブルの上で、徒競走をさせて遊んでいた。
ガラスの裏側から覗くと、白い毛がスリスリ、ピンクの足がペタペタして可愛い。

玄関でガサゴソと音がしたので、鼠たちをプラスチックのケースに戻した。
いっぴき、にっひき、さんびき、よんひき、ごひき……あれ、一匹増えている!
ゆっくり見れば、どの子か解るけど、時間がなかった。

何度かそんなことがあったが、真相は解らずじまいになった。
数ヶ月後、僕は鼠アレルギーになってしまい、クローゼットの中味がママにばれてしまったのだ。
それで、ハツカ鼠たちは従兄弟に貰われていった。一匹死んだが残りは元気だそうだ。

今日、僕に妹が出来て病院で対面したのだけれども、僕は、
何故か、クシャミが止まらなくなってしまった。鼠アレルギーのときみたいだった。
妹の顔がハツカ鼠に似ていたせいかもしれないと思った。


次のお題は「鼠」「吹き矢」「草原」でお願いします。

94:「鼠」「吹き矢」「草原」
11/03/06 00:38:52.00
次の日曜日はディズニーランドに連れて行ってよと、
付き合い始めたばかりの恋人が僕にせがむ。
その時僕はベッドのふちに腰掛けて、裸でタバコを
吸っていたのだけれど、何だか急に不味くなってしまった。
日曜日のディズニーランドなんて、全く行くもんじゃない。
木枯らしの吹きすさぶ中、たかだか10分程度のアトラクションの
為に、その10倍以上もの時間並ぶなんて狂気の沙汰だ。
黙りこくって不味くなったタバコをふかしていると、彼女が答えを
求めてシーツから白い腕を出し、僕の背中をつつく。
「ねえ、いこうよ。駄目?」
幼少の頃、母親にディズニーランドの鼠の像の前に置き去りにされて
捨てられたという嘘の話をしようかとも思ったけれど、彼女は一度僕の
母親を遠目に見ていたので、その案は却下しなければならない。
それで僕は一度煙を肺一杯に満たし、ゆっくりと吐き出してから
振り向いて、にっこり笑っていいよと答えるのだった。

ディズニーランドになんて行きたくない。
人の群れの中、おかしな耳をつけて、歩きたくなんかない。
出来ればサバンナの草原にでも行って、腰ミノ一つ身につけて
槍を持って踊り明かしたい。
草むらに隠れたどこかの野蛮人が、通りかかる女を吹き矢で
昏倒させ浚うのを、サバンナのナンパと銘打って世のバッシングに
合って消えた若手芸人達のネタが、僕は結構好きだ。


「リップクリーム」「定期券」「血糊」

95:「リップクリーム」「定期券」「血糊」
11/03/07 00:07:52.74
赤いリップクリームをもらった。
だが実際に唇につけてみると無色透明だった。
その色は血の様に毒々しい色をしていた。
匂いはアメリカンチェリーだった。
色も匂いもまったくもって私の好みじゃない。
きっとPLAZAあたりでかったのだろうソレは、パッケージの説明が全て英語で書かれていた。
女子中学生の買うプレゼントなんてこんなものだ。少ない予算で選ぶので選択の幅が少ない。
結果、好みでないプレゼントを受け取ることもあるわけだ。にっこり嬉しそうに笑いながら。
彼女はきっと一生懸命考えてくれたのだろう。だから無下に処分する気にもなれない。
そんな事を考える自分は可愛くない。なんて可愛くないんだ。素直じゃない。
いっそこの毒々しい赤が付けば、血糊風の化粧をする時にでも使えたかもしれない。
もらった物に罪はない。何とか使う方法はないかな。
そんな事を考えながら、ライブハウスに行く為に家のある駅とは反対へと向かう電車に乗り込む。
定期券外だからそう頻繁には行けないが今日は特別。だってせっかくの誕生日だ。
ハッピバースデートゥーミィー。

「指」「脂肪」「好き」

96:名無し物書き@推敲中?
11/03/12 16:41:23.08
大好きだったあの子。だいじょうぶかな?
近所のスーパーに行って
脂肪のたっぷりのった豚コマを買ったよ。
君と僕とあの子で指切りげんまん。
かならず再会しよう、と約束したね。
熱々のトン汁とオニギリを用意して待ってるからね。


お題は継続でお願いします。

97:名無し物書き@推敲中?
11/03/20 20:08:44.15

「食べないのか?」
ぺっと指輪を吐き出した彼は俺の足元の死体を指差して言った。転がった指輪とこっちの死体の指輪を見比べながら返す。
「……食べない……」
「じゃあくれよ、こっちは脂肪が多くて食えたもんじゃないからさ」
今晩の飯になった彼等は察するに夫婦だと思われる。机の上や至るところに飾られた二人の写真、そして指輪がそれを示している。
「なあ、もう止めないか?」
「何を?」
「こいつらを食うのをさ」
「どうして?」
「…………」
「……草を家畜が食う。その家畜をこいつらが食う。それを俺たちが食う。この流れが何かおかしいか?それともあれかな?サイショクシュギだっけ?ドウブツアイゴだっけ?」
「そんなんじゃない」
「じゃあ……」
「好きなんだ、愛してるんだ彼女を」
「あの女か……いいじゃないかそれで、俺はそのお前のお気に入りを食べない、もちろんその家族や友達も食べないそれで万々歳じゃないか?」
「……もう止めてくれって……仲間にも止めさせてくれって……」
「俺は食うぞ」
「俺は彼女を愛してる。彼女の願いは全部聞くつもりだ、何があっても……」
「そういう事か」
奴の目付きが変わり、狩り用の二つの刃が腕の甲から鋭く伸びる。こっちの刃は既に出していた。
長いにらみ合いが続いた。やがて月明かりが雲に隠れたその時、それを合図に二人は同時に飛び出した。速さでは奴より俺のほうが上だ、殺れる。
しかし突如口を開いた大きな穴に二人は吸い込まれた。擬態し闇に潜んでいたそれはぺっと二人の骨を吐き出して言った。
「不味い」


次題 「自己保存」「臨月」「伝播」

98:名無し物書き@推敲中?
11/03/25 22:01:00.16
syuryou

99:「自己保存」「臨月」「伝播」
11/03/26 07:39:53.45
タロウがねむりにおちるとき微かな花の香りがした。
翌日、一人のはずの船内の廊下から、軽やかな女のものらしい足音を聞いた。
貯蔵庫のタンクの影から髪の長い女に手招きをされ、
タロウは狼狽して懐中電灯をとり落とした。
眩暈に襲われる。
船は遠く異界の海へ、地球のDNAを伝播する目的で作られた。
今は人々から忘れられ、地下の核シェルターにある。
冷たい水の流れの向こうに女はいる。
滝のような黒髪に縁取られた白い裸体。臨月の女のそれである腹部の巨大な膨らみ。
柔和さにタウロは惹かれた。
女が口元に湛えた原始の神々の荒々しさすら母性のミルクの息吹のように感じた。
タロウは川に浸かっていった。
古い自己保存のプログラムがアンロードされ、新しいシグナルがインストールされた。

地球からひとすじ光跡が飛び出し、やがてワープアウトして消えた。



次のお題は「終了」「現場」「新生」でお願いします。

100:名無し物書き@推敲中?
11/03/30 14:47:12.17

 公園で遊ぶあの女の子を見たとき、強くしなやかな縄を手に握ったとき、僕はそれらが自身に新生を与えてくれると確信した。
 女の子はきまって休日の午前にこの公園に訪れる。この間は可愛らしい赤の服を着ていた。明日は何色の服を着てくるんだろう、僕は出来れば明るい幸せな色の服であってほしいと思う。何せ特別な日になるんだから。
 縄はどんなに引っ張っても千切れない。これで首を絞めたらさぞ苦しいだろうな、痛いだろうな。僕はそのときを想像し、静かに溜め息をはいた。逡巡はもう終了してしまっていた。
 この木の下を、殺人現場としよう。
 僕はそう決心し、首を縄にかけた。明日、女の子が僕を見つけてくれることを祈って。


お題は「行脚」「野兎」「常夜燈」でお願いします (゚ω゚)<キリッ

101:名無し物書き@推敲中?
11/03/30 14:48:05.13
改行しわすれた……ごめん

102:名無し物書き@推敲中?
11/03/31 01:02:15.26

どこ行く どこ行く 亡者の行脚

無くした体は何処にある

どこ行く どこ行く 野兎 兎

迷子のあの娘は何処にいる

どこ行く どこ行く 麦藁坊主

潰れた西瓜 井戸の底

どこ行く どこ行く 乞食の寡婦

構わず照らすは常夜灯



お題は継続でお願いします。

103:名無し物書き@推敲中?
11/03/31 23:16:51.37
だめだ、全然15行にまとめられない…みんなすごいな
----------
はっと気がつくと男は石畳の小路に立っていた。
 月のない夜に、常夜燈が煌煌と石畳を照らしている。ちらちらと揺れる灯りの中に不揃いの石畳がどこまでもまっすぐに伸びている。目を上げると長い小路の奥にはぼんやりと大社造りが浮かんでいた。
 男はしばし呆然と立ち尽くした。──おれはイラズ山に居ったのではなかったか。
 腰に提げた獲物の野兎から、抜き損ねた血がぽたり、ぽたりと垂れた。

 猟に出ると言った男を老いた母は必死に止めた。霜月晦日は猟をしてはならぬのだという。この上禁足地のイラズ山へ入ると言えばむしゃぶりついててでも止めるだろうと、男は手近の野辺で鴨を捕るだけだと老母を宥め家を出た。
 だが獲物はほとんど見つからぬ。野兎一匹ようよう仕留め、さあ帰るかと顔を上げた時だった。
 どこかでしゃんと錫杖の音がした。
 はてこんな山の中で、と瞬きをし──気がつくと男はこの参道に立っていたのだった。

「どうなっておるのだ」
 呟くと、不意にまた、しゃん、と音がした。
「獲ったな」
 はっと振り向くと、ぽっかりと黒い目をした雲水が錫杖片手に男を覗き込んでいた。男はぎゃ、と叫んで後ずさる。雲水は笠の内にのっぺりと光る、黒目ばかりの目を細めてにんまりと笑った。
「獲ったな。霜月晦日に獣をとったな」
「な、なんだ貴様はっ」
 男の声なぞまるで耳に入らぬ様子で雲水は嬉しそうに言う。
「やれ嬉しや、行脚の甲斐のあったというものよ。今年はこれに大きな餌が手に入った」
 雲水が歯のない口でへらへら笑うのに、ぞっと背筋を凍らせた男は、「わああっ」とひときわ大きな声をあげて駆け出した。
「嬉しや、嬉しや」
 その背を追うように常夜燈がふっと一対、また一対と消えていく。
 しゃん、しゃん、と錫杖の音がする。
 雲水の引き連れたような笑い声がする。
 不意に男の乱れた足音が消えて──
 それきり辺りは闇に包まれた。
----------------
お題は「梟」「旅館」「化粧」でお願いします

104:「梟」「旅館」「化粧」
11/04/02 08:32:31.67
夜の森にホォーと梟が鳴き、不運な獲物を求めて梢を飛び立っていく。
自然が豊かに残る森には三種類の梟の生息が確認されていて、
森の外れにある古めかしい旅館は物好きなバードウォッチー達を上客にそこそこ繁盛していた。
毎年、春の盛り桜の季節にはひととき客足が遠のき、
老齢の主、清兵が一人でのんびりキセルをふかしふかしフロントの番をする。
そんなある日、西洋人らしい女が訪れた。女は肌がたいへん白く黒髪をラヂオ巻きに結い
モダンな白麻のワンピースとブレザーのアンサンブルを着ていた。
女がフロントの梟の置物を掌を返して指さすのを見て、
精兵は女の肌が白塗りではなく、化粧もほとんどしていないようなのに気がついた。
女はイタリアのさる女子修道院の代理のものだと名乗り、
梟の置物は、修道院の祭壇のレリーフの一部なので是非、返して欲しいと言った。
「さて、どうしたものでしょう。その梟は祖父が渡欧の土産に持ち帰り、私も物心ついたときから慣れ親しみ
愛着があるのです。今宵あなたがお泊まりになって、もし梟があなたを選ぶなら黙ってお返ししましょう」
はたして夜更けに清兵の見守る中、幻の四種類目の梟は、旅館の庭に舞い降り、
池の縁で月光を浴びギリシャ彫刻のように佇ずむ件の女の腕に止まる。


次のお題は「月光」「警報」「慣れ」でお願いします。

105:名無し物書き@推敲中?
11/04/02 22:44:51.97
「月光」「警報」「慣れ」
 
「警報だ」
 サイレンが鳴り響くのと同時に、少女は弾かれたように立ち上がった。私も思わずICレコーダーを握りしめて腰を浮かせる。
 取材中の明るい笑顔が嘘のように、窓に駆け寄った少女は幼い顔に厳しい表情を浮かべた。
「…ヒェルビムだ」
「ヒェルビム、というと…」
 少女は手早く引き出しから護符を取り出し、私をちらと見て言った。
「『御使い』よ。今日は月が明るいから、月光警報が出るかもとは思ってたの」
 私は息を飲んだ。ジャーナリストの本能で思わず窓辺へ飛びつくと、暗闇を覗き込む前に、少女が「ダメよ」と叫んだ。
「見ちゃダメ。護符なら貸してあげるから、早く座って目を閉じて」
 言いながら少女は自分の護符を抱き、床に腰を下ろすと目を瞑る。私も彼女に倣ってかたく目を閉じた。

 欧州に未知の敵性生命体『御使い』が現れ、人類に対する侵攻を開始して既に15年。
 彼らの目を誤摩化す手段はあっても、人類は未だ、彼らに対抗する術を持たない。
「怖くないのかい」
「もう慣れたわ」
 最も多く『御使い』の攻撃を受けているこの国では、少女でさえもこの『空襲』に平然としている。
 護符を握りしめ、かたく閉じた瞼の裏で、私はこの星の未来を思った。


お題は継続で

106:「月光」「警報」「慣れ」
11/04/09 07:46:23.30
自粛ムードで夜、早々と閉まってしまった公園に忍び込む。
思ったとおり、月光を浴びたなか、はらはらと桜の花びらが美しく舞っていた。
例年の「お花見」の宴で見慣れた艶やかさとは違って、
自然の生命力が穏やかにみなぎっている。
他にも忍び込んだご同輩は多いらしく、
互いに距離を取り合った随所に、賞賛のこもった息づかいがそこはかとなく漂っていた。
しばらく幻想的な世界に浸っていたが、警報器の音で現世に引き戻される。
間抜けな奴が正門を強行突破しようとしたららしい。さて、戻ろう……


次のお題は「悶絶」「過疎」「桜」でお願いします。

107:名無し物書き@推敲中?
11/04/13 23:54:06.11
悶絶・過疎・桜

同級生たちの容赦無いリンチに遭い悶絶していた俺はやっと目を覚ました。
やっと、そう思ったのは辺りが真っ暗だったからだ。携帯電話で時刻を確認すると七時を過ぎていた。
一時間も伸びていたのか。情けなくなってきた。
思い足取りで帰る。人気の無い桜が並ぶ道を通ったとき、寂しさが込み上げてきた。
以前はここにもライトアップされた夜桜を観に、沢山の花見客が訪れていたんだ。
地域の過疎化が進んで照明も消されてしまった。
ここは自分の場所だと思った。ちやほやしてくれる、振り向いてくれる人間はもういない。
俺は歩く事をやめた。寂しい場所は寂しい人間を求めている気がしたから。


おそまつ!
次は『湯気』『最初』『スタンドライト』でお願いします

108:「悶絶」「過疎」「桜」
11/04/14 00:33:15.95
「うーむ、誰も来ない」
「当たり前だアホ! こんな山ん中で桜祭って何考えてんだお前は!」
 ねじり鉢巻に前掛け姿の前田が腕を組んで呟くと、隣でビールケースを運んでいた佐々木がぎゃんぎゃん吠えた。
「いやだから、過疎の村だからこそ我が村唯一の売り物であるこのご神木、『八左ヱ門桜』で村おこしをだな」
「…前田、その着眼点はいいんだが、お前は大きな欠点を見落としている」
 ん? と前田は首を傾げる。荷物を下ろした幼なじみはその脳天をすぱこんと叩いた。
「その肝心のご神木の桜はな、…一本しかねんだよこのバカ!」
 しかも小せえし! 佐々木が殴ったその手で指差した先には、前田の胸ほどまでしかない桜がひょろりと生えていた。
「まあ大きくならないが故のご神木だしなあ」
「これ一本以外うちの村には桜はないんだぞ。わざわざこんなクソ田舎まで、そのもやし桜を見に来る市民がいると思うのか!」
「まあいないかもしれないが。…まあそうキレるなよ佐々木、一応花は咲いてるし、その内誰か来るだろ」
「いっぺん死ね!」
 へらへら笑う前田に、佐々木は渾身の力で回し蹴りを決めた。悶絶した前田が小刻みに痙攣している。
「……おおおお…効いた……だがしかし見ろ佐々木、客は来たぞ…」
 はっと佐々木が振り返ると、確かにぽつりぽつりと遠く坂道を上ってくる人影がある。
「って全部下の集落のじじいどもじゃねえか」
「ま、いいじゃないか。のんびり花見としゃれ込もう」
 脂汗を浮かべながらへらりと笑った前田に、佐々木は大きな溜め息を吐いた。
 ──それもまあ、いいかもしれない。 


たまにはラノベ風?で
お題は「豆腐」「シュシュ」「公園」でおねがいします


109:名無し物書き@推敲中?
11/04/14 00:34:39.04
oh…ごめん、リロードしてなかったorz
次のお題は>>107でお願いします
失礼しました

110:「湯気」「最初」「スタンドライト」
11/04/14 22:22:01.59
「きみがいないとーなんにーもーできないわーけじゃなーいとー・・・」
ばーか・・・。
こんな鼻歌、リアルに歌うことになるなんて思ってなかった。
三日前、由香が出て行った。
同棲して2年の間、メシはまかせっきりだったから、なんにもできん。
カップめんに注いだお湯の湯気がひよひよ漂ってる。
テレビでも見ながら食べようと、リビングの電気の紐を引っ張ったけど、点かん。
「なんだよ、ったくよ・・・」
電球が切れてやがる。
換えの電球を買いに行くには遅すぎる時間だ。
「そういえば」
クローゼットにスタンドライトがあったはずだ。
携帯の明かりで、中を探す。
見つけた。
赤い鉄の傘がついた、小さなスタンドライト。
「あ・・・」
思い出した。
これ、同棲始めて最初に二人で買ったやつだ。
いろいろ、甦ってくる。
で、すぐ、思い出に蓋をした。
辛くなるだけに決まってるから。
テーブルにおいて、コンセントを挿して、スイッチを入れた。
白熱灯のあったかい明かり。
なんか、少しだけ落ち着いた。
さて食おうとカップめんの蓋をあけて、箸がないことに気づいて、立ち上がった。
テーブルに膝がぶつかった。
カップめんはぶちまけられ、ライトは倒れて、電球が割れた。
「くそったれ、なんてクリスマスだ」
別に今日はクリスマスじゃない。
でももう、今の俺にはブルース・ウィリスの真似をするぐらいしかできんのよ。

では、お題は>>108さんの「豆腐」「シュシュ」「公園」で

111:gr
11/04/15 01:46:50.89
#「豆腐」「シュシュ」「公園」

四月も半分が過ぎたけれど、大学の入学式はまだもう少し先になるっていうから、
せっかく決めたアパートへの引っ越しも先延ばしにして、今は実家で暮らしてる。

小さいころから遊んだ公園のベンチで、ペットボトルのコーラを飲んでいたら、
町内放送の「夕焼け小焼け」のオルゴールが流れてきた。午後五時になったんだ。
この聞きあきたオルゴールも、向こうの町にはないのかと思うと、少しだけ寂しい。
建物の陰で薄暗くなり始めた道路に、家に帰る人のバイクの音が目立ってきた。

その中を豆腐屋の自転車が間抜けなホーンを鳴らしながらゆっくりと進んでいく。
ただのプープー音なのに、「豆ー腐ー」と言っているように聞こえる不思議なホーン。

高校の制服を着た男子や女子が数人ずつ騒ぎながら並木の向こうを通り過ぎる。
僕も先月までは同じような服を着て、同じような格好で歩いていたんだ。
ああ、騒いでいる高校生の中に、よく目立つピンク色のシュシュをつけた子がいる。

僕の仲間にもそんな子がいた。いや、もともとはそんな子じゃなかったのだけれど。
みんなで行った初詣の屋台で、「ひそかな理解者」ぶってみたかったらしい僕が
「ぜったい似合うって!」って勧めたピンクのシュシュを、年明けの始業式の日、
あとそれから後も、なぜか僕がいる授業のときに限ってよくつけてきていた子。
それまでは、ちっともピンクなんて身につけるような子じゃなかったのに。

「豆ー腐ー」にしか聞こえないホーンが遠ざかる。
あれも、うまく聞こえるように鳴らすには結構な訓練がいるらしい、と聞いた。

#次は「ガス」「はさみ」「速度」で。

112:名無し物書き@推敲中?
11/04/18 04:13:58.83
なーらんだーなーらんだー赤白黄色ー♪
あの歌はチューリップの歌だったが自分の目の前にはカラフルな風船が浮いていた。
ガスボンベを携えた風船売りの姿を見たとたん一目散に走り出した。まだ小さい私は思いっきり背伸びをして目当ての風船を指した。
「ねえパパ!あのピンクの風船が良い。……パパ?」
振り向いた私の目の前にパパは居なかった。
見渡す限り自分の視界の中にパパは居なかった。
「パパ!ねえってば!パパ!」
息切らせ必死に泣きながら探したけれどパパは、やっぱり居なかった。
結局それからパパとは一度も会っていない。蒸発、した事になるのだろう。
はさみで糸を切られた風船は緩やかな速度で空へと上る。そうして二度と見えなくなるのだ。
だから私はこの歳になっても風船が嫌いだった。嫌なことを思い出してしまう。
「ママ!見てみて!風船もらったの!」
本当に嬉しそうな笑顔で娘が駆けてくる。
「良い物もらったね」
私はその風船を受け取るとしっかりと娘の腕に結わえ付けた。
どこにも飛んでいってしまわないように。

次は「情」「枕」「藍」でお願いします。

113:「情」「枕」「藍」
11/04/22 14:59:03.96
「ひっく・・・、えぐっ、ぐっ・・・」
「とりあえず落ち着こ?ね?」
サチは優しいなぁ、一生懸命慰めて。正直、この娘がかわいそうっていう感覚より、結婚詐欺をかましたヤツへの好奇心の方が強い。ヤツらはなぜ、結婚詐欺なんて回りくどい手を使ったんだ。
人間の「情」に興味が湧き始めている固体がいる、という報告は本当なのかも。面白い。でも待てよ、ってことは・・・、この事件は全然違う結末もありえるんじゃねぇか?
(つまんなそうな顔しないの。きっとこの結婚詐欺、ヒトモドキの仕業よ)
サチからの耳打ち。わかってるよと頷いて、部屋を見回し、手がかりを探る。
ヒトモドキなら、もう顔は変わっているはず。特定するには体毛か、分泌物か・・・。
二つ並んだ枕を裏返した。・・・あれ?変じゃねぇか?なんで・・・
「触らないで!」
ガッと取られ、キッと睨まれた。ひどい剣幕だ。「・・・あー、今日は、もう帰るね」
彼女の家を後にし、帰る道中、サチにさっきのことを聞いてみた。
「さっき枕を手にしたとき、誰の臭いも跡もなかった。あの娘のもだ。なんかおかしくねぇか」
「そうね。明日また調べてみましょ。あと、私の予想ではこいつは、一番人間に溶け込んでいるっていう山梨県属性、「藍」のヒトモドキ。」
「なるほどね。」
山梨の「藍」かぁ・・・。へッ!とっとと捕まえて、ほうとうにしてやる!

次は「巨乳」「ストロー」「鉄骨」でお願いします。

114:名無し物書き@推敲中?
11/04/25 00:33:08.53
 Aは鎖骨が大好きだった。鎖骨の窪みに飲み物を注ぎ、それをストローで吸うという変態的趣味にとてつもない興奮をおぼえた。

 Bは巨乳が大好きだった。形や乳首や乳輪の色等はどうでもよかった。ただただ巨乳を愛していた。

 Aは巨乳だった。Bは素晴らしい鎖骨の持ち主だった。二人は運命的に出会い愛し合った。お互いがお互いの求めるものを持っていたからだ。二人は幸せに末永く暮らした。

 さてここで少し考えてほしい。Aは女性だったのか?Bは男性だったのか?Aの容姿は?学歴は?B の身長は評判は?Aの胸意外の特徴は?B の鎖骨意外の特徴は?腕は?足は?頭は?

 全く分からない。しかしこれだけははっきりしている。二人は幸せだった。性別がどうであろうと身分がどうであろうと五体満足であろうとなかろうとそんな事はどうでもよかったのだ。
 お互いが求める最高の物をお互いが持っている。そして出会った。これが事実であり全てであり答えなのである。

 ところで私は今ある人を愛している。その人は私が求めるものを持っている。私が求めるある一点において私の理想を最高度で具現化した存在であると断言できる。それほど素晴らしい逸材だ。他はどうでもいい、その一点があればいいのだ。

 私だってその一点がなければ、その人の求める一点がなければどうしょうもない存在であろう。私の姿を見るだけで顔を歪め、その場でその日食べたものを吐き出すかもしれない。
 だが私はその人の求めるものを幸運にも持ち合わせている。その人はまだ私の事を全く知らないが、その人の求める、私が持っている賜物を知れば、問題なく私を愛してくれることだろう。

 さて、これを読んでいるあなたは私が何を持っているのか、「その人」とは誰なのか興味があるかもしれない。しかしそれはあなたが知る必要はないのである。

 あなたが私の求めるものを持っていなければ全く意味の無い話なのだから。

 逆にあなたが持っている者なら私がそこに向かうだけだし二人は必ず幸せになれるのだから……。

次題 「冷血動物」 「常習犯」 「コンクリート」

115:名無し物書き@推敲中?
11/04/25 00:38:03.62
やべー、書き込んでから気付いた。鎖骨じゃなくて、鉄骨だ……。

お題は>>113のやつ継続で、本当すんません。

116:名無し物書き@推敲中?
11/04/25 21:25:23.68
「巨乳」「ストロー」「鉄骨」「冷血動物」 「常習犯」 「コンクリート」


「刑事さん、あんた、なかなかのもんだねぇ」
 ネクタイ姿の男が里沙の肢体を舐めるように見た。といっても人間らしさは欠片も感じられず、まさに冷血動物の視線を思わせた。
男は猟奇殺人の常習犯、それも巨乳の女性ばかりをターゲットにしていた。無残な姿で発見された被害者達は十数人にのぼったが、
捜査関係者さえも次々に排除され、犯人はこの瞬間までついぞ正体を掴ませていなかった。

「わたしは合格ってわけ?」
 怖気を振り払うように軽口を返し、里沙は特殊警棒を構えた。瞬間男が滑るように襲いかかり細身の体からは想像もつかない
腕力で押し倒しにかかった。胸に刺すような痛みが走ったとみるや、細い金属製のストローのようなものが男の口元から伸びていた。
里沙は後方に倒れ込みながら異物を抜き去ると、警棒のグリップから出た長いベルトを男の首に掛け、その腹を全力で蹴り上げた。
すぐさま立ち上がった里沙が振り向くと、古いコンクリートの壁に男は逆さまに磔になっていた。古い壁から突き出した鉄骨が、
白いシャツの胸と腹からそそり立つ。しかしそこには一滴の血も流れていない。
「どういうこと!?」
 致命傷を負ったはずの男は壁から逃れようとひたすらもがいているが、その動きは、動物のそれではなかった。まるで・・・。
 次の瞬間里沙の目の前で男がぱっと光を上げた。思わず目を伏せた里沙が視線を戻したときには、そこには煤けた壁が残っている
だけだった。心配そうに駆けつけた同僚達の声は耳に入らず、里沙はただ言いようのない戦慄に立ちすくんでいた。
 大きな羽虫のようなものがあのストローの端を音もなく持ち去ったことには誰も気づいていなかった。

次「ペットボトル」「土煙」「油」でお願いします。

117:「ペットボトル」「土煙」「油」
11/04/29 11:24:37.25
落とし穴のような陥没。若い男が自転車ごとはまる。バランスを崩して
横倒しになったが怪我はない。
 土煙のおさまるのを待って、タオルで滴る汗を拭う。穴の中はひんやりして
心地よい。男はゆうちょうにペットボトルの尻を青い空に仰げ、喉の乾きを
癒やしていたが、穴が閉じて挟まれる恐怖に思い至り、這い上がる。
 ロープで引き上げた自転車はチェーンが外れていた。
「機械油をさしすぎたかもしれない。そろそろ引き返すか」男はつぶやく。
 遠くに見える岬で何かが光った。男が目を凝らすと、白いバンが停車し、
その側で白い防護服の者が数名、作業をしていた。ソーラ式のガーデンライトの
ようなものを道ばたに設置、いや、回収している。
「商売敵か……まあー非常時だしな。いくつかの霊魂と交換に冥府まで送って
貰えるかどうか交渉してみるか」
 男はポチャポチャとペットボトルを振り、眇めた目で、天使好みの綺麗な
霊魂を探して数えた。


次のお題は「遅刻」「熊」「魔界」でお願いします。

118:「遅刻」「熊」「魔界」
11/04/30 11:04:50.63
 心の卑しい者だけが迷い込むという暗い暗い魔界の中では、人々はみな飢えて病にかかり、
激痛の中で死んでもすぐに蘇りまた苦しみ続けるという、地獄絵図が広がっていました。
 あるときそこに徳の高い僧侶が訪れ、人々に言いました。
「北の山に、身籠もり飢えた熊がいる。彼女に食い殺された者だけはこの世界を抜け出せるだろう」
 皆は率先して北の山に向かい、そこにいた大きな大きな熊に我先にと食い殺されていきました。
 その熊のもとを一番最後に訪れたガンスイという男も、さっそく熊の前に身を捧げました。
 しかし、熊はガンスイに牙を伸ばしません。どうやら既に満腹になってしまったようです。
 ガンスイは遅刻してきた自らを後悔しながらも、なんとか熊に食べられようと思い、身体に蜜を塗り、
香草を食み、手足の肉を細かく刻み石台の上に並べました。でも、熊は一向にガンスイを食べません。
 ガンスイは熊が自分以外のものを食べないように、森に火を付け川に毒を流し地面を掘り返しました。
 荒れ果てた世界に、生きているものはガンスイと熊だけになりました。
 熊はどんどん痩せ細っていきました。それでも熊はガンスイを食べませんでした。
 やがて、骨と皮のみになった熊の腹の中から小熊が這い出てきました。
 小熊は母の乳が出ないのを悟ると、ガンスイを食べようとしました。
 ガンスイは小熊に食べられるわけにはいかないので、小熊をくびり殺しました。
 世界には再び、熊とガンスイだけが残りました。
 ガンスイはこれでようやく熊が自分を食べてくれると思いましたが、熊は小熊の亡骸の隣で飢えて死にました。
 ガンスイは一人残され、自らの遅刻を嘆きました。

次は「四月」「終わり」「ひきこもり」でお願いします。

119:名無し物書き@推敲中?
11/04/30 23:07:36.99
 布団から顔を少しだけ出して窓に目をやると水滴が伝っている。今日は雨らしい。まあ関係ないけど。
 ひきこもりになって四月の終わりでちょうど一年になる。つまり、加奈が死んで一年たったってことだ。
 起き上がって窓から下の道路を見下ろす。雨の日は真っ赤な傘であたしを迎えに来てくれたっけ。
「結花!」
 あたしに気づくと大声であたしの
名前を呼んで、朝からうるさいんだよな、本当に。そんで訳の分からない話するんだ。
「春の雨は優しいんだよ」
「誰に?」
「優しさが欲しい人に」
「なにそれ」
 本当訳分からない。分からないよ。なんで、なんで加奈だったんだろう。こんなどうしようもないあたしじゃなくて、なんで加奈が。
「加奈……」
 涙が止めど無くこぼれ落ちる。それに呼応するように四月の雨もしとしとと街を濡らしていた。

次題 「チェック」「透明」「インディゴ」

120:「チェック」「透明」「インディゴ」
11/05/01 03:08:29.10
「チェック……チェック……」
 口に出しながら、ベルトコンベアの上を流れる製品を一つ一つ指さし確認する。
 ここは24工程、41確認地点。
 二十四の工程を組み上げられた製品の、四十一度目の確認をする場所だった。
「チェック……チェック……」
 物心がついたころからこの仕事をしているが、不良品を見つけたことは一度もなかった。
 当然だ。二十四の工程を抜け、四十の確認を済ませた製品だ。不良品があるわけがない。
 そう、あるわけがないのだ……たまに、この仕事を無意味に感じる瞬間があった。
 そんなときは存在しない透明な檻にのし掛かられ、息が詰まりそうになる。
 今日もそんな気分だった。無気力さに体内を溶かされながら、機械的に作業をしていた。
「チェック……チェック……チェ―え?」
 その瞬間、私は目を疑った。あり得ないと思っていた不良品が流れてきたのだ。
 それは規格外の色―インディゴブルーの奇形品。淡色に慣れた目を刺激する重たい青。
 取り除かなければ。それこそ、自分が何十年と待たされ続けた仕事なのだから……
 だが。……私は言葉に詰まったまま、その製品を見過ごしてしまった。
 理由はわからない。ただ、私はその製品を見過ごしてしまったのだ。
 きっとあの製品は、ここまで全ての工程と確認を、同じように見過ごされて来たのだろう。
 あのインディゴブルーはどこまで生き残るのか……想像しながら、私は作業を再開した。

次は「鏡」「ゲーム」「裸」でお願いします。

121:「鏡」「ゲーム」「裸」
11/05/05 15:38:32.63
「これ裸のままですみません。他のものと選りわけてたら袋破いちゃって・・・」
「いや構わないよ。大変だったろう?」
 彼が手渡してくれたのは有名RPGの続編らしい。公式発売日は明後日だそうだ。
「いえいえ、いつもお世話になってますから。んじゃ僕も戦利品を見たいんでこれで」
「ああ、ありがとう」
 彼を見送った俺は早速包装フィルムを外して中を見てみる。間違いない。包装フィルムをジャケットの
ポケットに突っ込んで、トールケースを閉めようとした途端、背中にゴリッと嫌なものが当たった。
冷たい感触だ。鏡面仕上げの初回限定ディスクに小柄な女が映っている。さっきその先でビラ配りを
していたメイドさんじゃないか。ごく自然な受け渡しをしたつもりだったが、喜びの表現が足りなかったか。
「それ、そのまま渡して」
 ディスクだけ渡そうとするとそう念を押される。仕方ない。渡すと女はバイクに飛び乗ってその場を離れた。
ケースに仕込んだ発信器を追うよう車で待機中の仲間に無線で連絡するが、実はまあ形だけのことだ。
俺はフィルムに貼られた「Paid」と書かれたアルミシールを確かめ隠しポケットにしっかりとしまった。
 この街で出回っている脱法ドラッグを扱う組織の情報は、このシールの中のナノチップに収まっている。
奴らがあのディスクにゲームソフトしか入ってないと気づくのには2日はかかるだろう。だがせっかくの本物、
しかも新作なんだから、次に俺たちに会うまで、せいぜい楽しんで貰いたいものだ。


次「晴れ」「こども」「バイク」でお願いします。

122:「晴れ」「こども」「バイク」
11/05/12 21:18:29.77
晴れた昼下がり。
そろそろ植木に水遣しなきゃね、とガラス壁の外を眺めていた。
フギャー、ニャーゴ、発情期らしい雉猫が坂をふらふらと登って来る。
ピチピチと音の鳴るこども靴を履いた小さな男の子が、虫取り編みを手に追ってくる。
坂の下の方からバルルーンとエンジンを吹かす音が轟き、バイクが一気に近づいて来る。
ゴロゴロと遠くの空で音がして、こちらではお天気雨が降ってきた。
リィーン、カラコロ、戸のカウベルが鳴り客が入って来る。
黒い皮繋ぎの男が男の子を抱き、ピチピチ靴の男の子は猫を抱え、なにも持っていない猫は
少し申し訳なさそうに、ミィギャーー。
「おばさん久しぶり。これうちの餓鬼。猫一緒で悪いけど、雨宿りさせてくれ」
「あいよ。昔、喧嘩とバンドで慣らした悪餓鬼がすっかりいいパパになったようだね」
まあ平日の昼間だけど……
まだまだ現役のジュークボックスでロックンロールを一曲サービス。
グラスにソーダ水の支度。猫には小皿にミルクでいいかしらね。


次のお題は「猫」「現役」「雨」でお願いします。

123:名無し物書き@推敲中?
11/05/16 05:28:50.99
そうそれは例えるなら、雨の日に傘も持たずに外に出て迷子になった挙句、トラックに泥水跳ねられてとぼとぼ歩きもう死んじゃおうっかなぁって気分の時だった。
もちろん実際にそんなことがあったというわけでなくそんな気分、だったのだ。
現役生活最後の試合で大敗を喫し、ちょっと良いなぁって思ってたマネージャーが実は副主将と付き合ってて、大の親友が北海道の大学なんかに進学しやがることを宣言した日だ。
校舎脇を通り、裏門へと近道をする途中に異臭を感じた。なんつーかこう、酸っぱい様な臭い匂い。
顔を顰め、小走りに走りすぎようとする俺の足がホンの少しだけ重くなった。物理的に。
えっ、と思ったのと足元に付いた重りを見つけたのはほぼ同時だったようにだ。猫がしがみ付いていたんだ。茶トラの仔猫が。
俺の足はどうやら彼女にとって良い獲物に見えたらしい。ガジガジとスニーカーをかむ姿は可愛いと言えないことも無いがむしろ憎い。
買ったばかりの靴に穴あけられてたまるか。両手で捕まえると草むらに軽く放った。
靴を確認すれば、靴紐から糸が何本か出てしまっている。なんてついてない日なんだ。
仔猫に絡まれ鉛のような心が更に重くなった俺を更に鞭打つ様な出来事は風呂に入っていたときガヤガヤと騒がしくやってきた。
「たかとしー、お風呂ついでにこれも洗ってくれなーい」何だかご機嫌な母親の声に顔をだすとそこにはあの糞仔猫。
「たかみが、さっき拾ってきたのよ。お父さんに見せる前にお願いねー」
……どうやらこいつはうちで飼われるらしい。
行き場の無いもやもやを抱えたまま俺は糞猫を無言で洗った。


次は「北」「靴」「校舎」

124:「北」「靴」「校舎」
11/05/18 11:11:10.25
北へ。ただただ、北へと歩いていた。
晴れることのない曇天の下、荒れ果てた大地に、血の滲む裸足を踏み出して、一歩一歩。

やがて、廃墟に遭遇した。そこにあったのは崩れ落ちたコンクリート、
錆落ちて骨組みだけになった車、溶解した石油製品。そして……飢え果てた、人間たち。
イキノコリと呼ばれる彼らは、私に食料と衣服を要求してきた。
私はありったけの食料と、着ていた衣服を、すべて彼らに差し出した。
イキノコリはそれらを受け取ると、代わりに私に、ぼろぼろになった一足の靴を与えてくれた。
それは、この街を出ないイキノコリには不要なものだったが、私にはこの上なくありがたいものだった。

それからは、身体は痩せ細り、酸性の雨と砂混じりの風に肌を削られたが、それでも旅は楽になった。
北へ。北へ。……やがて、荒野の中にも懐かしい景色が混ざり始める。
朧気な記憶を頼りに進んでいった先には、思い出の通りに、中学校の校舎があった。
クリーム色の外壁。スチールの下駄箱。プラスティック製のスノコ……
ひとつひとつに歓喜の情を刺激されながら、三階の、端から三番目の教室に駆け込む。
眩しい。窓の外は夕暮れだった。橙色の教室の中、整列した三十二の机のひとつに、腰を下ろす。
ふぅ、とひとつ息を吐くと、スピーカーからチャイムが鳴った。身体から、力が抜けていく。
ああ、間に合って良かった。死ぬときは、この場所でって、決めていたん、だ


次は「肩こり」「腰痛」「部屋」でお願いします。

125:「肩こり」「腰痛」「部屋」 忍法帖【Lv=11,xxxPT】
11/05/22 19:07:58.29
 アパートの俺の部屋で、締め切りを前に煮詰まった原稿用紙を前に、頭を掻き毟り、
もんもんと雨の夜長を過ごしていた。
 与えられた広告漫画のタイトルは『肩こりと腰痛に効く魔法のパワーストーン』。
 本当は原作者が付くはずだったのが逃げた。というか、これ、明らかな誇大広告なのだ。
 俺は職業柄、肩こりと腰痛にはさんざん悩まされてきた。で、この手のグッズについては、
まあ詳しかったりする。
 この綺麗に黒光りするコークスのような石、原産国の○×国では、既に血行障害や肩こりの
緩和にはなんの効果もないと、政府から告知されている。
編集には掛け合ったがダメ。あろうことか、適当な博士らしい写真を用意しておくから
ついでに、詳しいなら、医学的根拠も俺がでっちあげろというしまつ。
 ここのところの、低気圧と雨、加えてこのストレス。まじ、いつもより具合が……
あれ、頭は痛いが肩と腰は、どういうわけか平気だ。効いているのか?

 雑誌販売から2週間後、俺はJAR○に注意を受けたりすることはなかったが、
今、病院のベッドで警察の取り調べを受けている。あの石には見栄えを良くする
ために、湿気を帯びると猛毒素を発する塗料が塗られていたのだった。


次は「生体」「体育」「踊り」でお願いします。

126:「肩こり」「腰痛」「部屋」
11/05/22 19:23:39.16
 小柄な女がスツールに腰掛ける。彼女は攻撃的なネオンと喧騒の渦から脱出してきたばかりらしく、黒ぶち眼鏡の奥の大きな目を瞬かせていた。
「え、えーと。ソルティードッグ、プリーズ?」
 たどたどしく問いかけた女に対し、無言で頷いたバーテンダーはグラスの口を指で濡らす。

「ヘイ、カール。君の好きなジャパニーズガールだぜ? 声をかけてみたらどうだ?」
 ダークスーツに身を包んだ紳士が、隣に座る金髪の青年を小突く。
「いや、彼女は若すぎますよ。……しかし、連れはいないようだな」
 カールと呼ばれた青年は、彼女に目配せをした。アイサインに気付いてから一拍遅れ、ぎこちない笑みが返ってくる。彼らの背後でまた、大きな歓声があがった。
「どうやら彼女、まだカジノの雰囲気には慣れていないようですね」
「カール、一つ賭けをしないか? 何、ちょっとした推理ごっこだよ」
 無言でグラスを乾している女を見やり、紳士風の男がチップを2枚取り出す。怪訝そうな顔をするカールに、
「彼女の職業についての2択問題さ。私は室内勤務とみた」
「面白いですね、乗りましょう。僕は室外勤務だと思います」
 カールは女を眺めると、片頬に笑みを浮かべる。カウンター上のチップが、4枚に増えた。

127:名無し物書き@推敲中?
11/05/22 19:34:17.96
「あの腕を見てください。単に太っているわけではありません。レディにしてはかなりの筋肉がついています」
「今時、フィットネスクラブに通う人間は多いぜ? それに、陽にも焼けていない」
「生まれつき色が白いのでは? ほら、ドレスの肩口を見てくださいよ。彼女、肩こりが酷そうだ」  チップが3枚、レイズされる。
「おいおい、あのレディが肉体労働者だとでも言うのか? カール、ここはリヴァプールのカフェじゃないぜ?
 ラスベガスだ。私は、一流企業に勤めるオフィスワーカーだと考えるね」
「僕は保険の外交員だと思います。重い書類を抱えて、車を運転しているに違いない」
 二人は、互いに勝利者の笑みを浮かべつつ、同時に立ちあがる。
「お嬢さん、一つ確かめたい事があるのですがね……」

「成程なぁ。おい、俺にもカミカゼを一つ」
 数分後、二人のチップは見事、カクテルに化けてしまった。
「今回の原発事故の影響で、部屋から出ない日本人が増えたというニュースは見た」
「徒歩での外出を控えれば、例年より腰痛患者が増えてもおかしくはないですね。しかし、まさかあの整体師……」
 カールの言葉に、紳士は溜息をついて応じる。
「私よりも年上だったとはな」

128:名無し物書き@推敲中?
11/05/22 21:24:57.90
12歳 銭湯 ふくらみかけ でググれ!

          _, -‐ー― --- 、
       _,に: ::,:へ: :ィ: : ::_; ;_: :`;ヽ
     __/_/_///: : l: : : : : : : : :\: : :\
   , '".7: /: /: :/: :/: l|: l: : :l::l: : : :ヽ::ヽ : ::ヽ
. /  イ: :/:/: : ::/: /: ::| |: l: : :l: l: :l: :l: ::l: ::l: : :l
/ ./ /: /: / : : /: /::l: :| |::;|: : :l: :l: : l: : l: :l: :l: : :ト
  .| .|l: l: :l: : ::/: /i: lハ| |:|::|: :|:|: :|: : :|: ::l: ::l: :l: : :l:\
. ∧/ |:l: :l: : :/:斗|‐;ト|、 |; l; i: :i ;,L;;;_l_: :l: :l: :l: : :|: ,へ
//: :| |:|: :l: ::イ「|:| |i | |  l; liく「 i li i;「ヽ;l: l: :l: : レ ∧\
| |: : | |ハ: |: ::| | レf千;ミ i  l | 斗ぇL_い: l::l: :l:: :トイ::| | .}
| |: ::| .| いハ / |゙ i:::::}     }゙「::::゙iハヽ〉l:l: :l / | .|: | | i
i l; | ヽ ` .ハヽ.〔゙こソ     [.i::::ソ}ノ /;;Vレ/ レv:;| l   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  l:|    |: :ハ .::: ̄       ゙'-''゚ ∧::|.V    |:./  < お兄ちゃんほんとに
   ヽ   l: ::へ    __'_   ..:::::../ |::| |    l/    \  えっちなんだからー
      _」L:: ;ト` .、 ヾ. ノ   , '´ ノ|::l/    /       \_________
     く\ ヽ:ir‐‐「` -- ' 「 、_/-くヽ‐- 、

129:「生体」「体育」「踊り」
11/05/24 17:00:13.39
「先生は不本意ながら、今年の三月でこの学校を去ることになった。だからその前に、みんなと一緒に
一生懸命に一つのことをやりたいと思う! だから、みんな協力してくれ! 頼む!」
 ……それまでは、どこか冷めていて生徒にもあまり関心を持たなかった先生。
 その突然の言葉に、僕は、これほど勢いよく迷いのない『空回り』は初めて観た、と思った。

 先生はその日から、三月の合唱コンクールに向けて全力で取り組み始めた。
 クラスの合唱曲も、先生が探してきた変わった外国の曲を使うことになった。
 両手の指を首に回したり、自分の胸を何度も叩いたりする踊りのような振り付けも、先生が考えた。
 先生は本当に一生懸命で、僕らが失敗すると泣きそうになり、成功してもやっぱり
泣きそうになり―そんな先生の姿を見ている内に、冷ややかだった僕らもいつしか、
全力で合唱コンクールに取り組むようになっていた。

 そして、コンクール当日。僕らの声は体育館に伸びやかに響き渡り、伴奏は一音も外すことなく、
合間の振り付けも整然として鋭く決められた。それは他を圧倒する完璧な演技だった。
 先生は輝くような満面の笑顔で喜び、僕らも思わず、くさいドラマのように、涙してしまった。

 その日の夜、校長先生が両手の指で自分の首を絞めて死んだ。身体には何度もボールペンを
突き立てた傷跡があったが、全てに生体反応があったことから自殺であると断定された。
 僕らが歌った曲の元の題名が『呪いの歌』であることを、四月のニュースで知った。


次は「十二歳」「銭湯」「ふくらみかけ」でお願いします。いや、目に入ったからw

130:名無し物書き@推敲中?
11/05/25 19:27:59.54
梅雨に入り、湿気がこもる通勤電車の中で、A子は非常に不愉快だった。
節電の影響で空調があまり効いていないのだ。A子は両親の希望通りに難関私立の中高一貫教育B学園に合格して、この春から通学している。
都市郊外に一家は居住しているので、通学は通勤電車となったが、
級友の中には、送迎する運転手付きの車で通学している者もいた。
B学園は、それだけ富裕な子弟もいるだけあって学費は非常に高い。
A子の両親は共働きで、父は大手企業の課長であり、母は一級建築士で設計プランナーをしている。
B学園を受験するにあたり、見事合格した際の入学金と学費の高さは、両親にとっては決して安い金額ではなかった。
しかし、娘にレベルの高い教育を受けさせたい希望と、公立の中学に大勢いる雑多な少年少女の群れの中に入れる心配をかんがみた結果、
親心からいって、家のローンと教育費で出納のバランスが多少難しくなっても、今の生活は何とか維持できるという判断で、B学園を受験させた。
そして桜は見事咲いたのである。通学時間は1時間半かかるし、働きにでる大人達の間で、ぎゅうぎゅうとされるのは、12歳のA子にとって苦痛でしかない。
が、両親の期待に応えたい気持ちも殊勝にある。B学園は男女共学であり、クラスには男の子も半分いた。
その中の一人にC男という生徒がいて、D駅から乗車してくる。A子はE駅から乗車するのだが、途中のターミナル駅のビッグステーションF駅で大勢の乗客が降りてゆく。
A子とC男は、降りてゆく乗客達にもみくたにされながら、その日初めて、鼻と鼻が合うくらい接近した。

131:名無し物書き@推敲中?
11/05/25 19:30:28.02
それまでもクラスでお互いに顔は知っていたし、名前も知っていたが、面と向かったのはこの時が初めてだったのだ。
気まずいような、恥ずかしいような気持ちを持ちながら、A子は赤面してしまった。
C男はもう13歳の誕生日が4月だったので、ちょっと大人ぶるところがあった。
そして自分が男だという自覚も多分に持ち合わせていたので、A子がまだ12歳だということを知らぬまでも、
男が女をリードするものだと考えていたし、だいたいがA子を可愛いと、前々から想っていたので、
思い切って「おはよう」と声をかけた。A子は何と返事したらよいのか、ちょっとまごついたが、
「おはよう」と声を返した。C男は「佐藤は俺より家が遠いんだよな」とA子に言った。
「鈴木君はD駅だよね」とA子は会話を続けたい気持ちで答えた。C男は「俺達の学校って金持ちばっかだよな」と話題を変えた。
A子は「鈴木君んチもお金持ちなんでしょう?」と、ちょっとだけ自分の家の経済状況を知っているA子はコンプレックスを隠し隠し尋ねた。
C男は「俺んチは風呂がないんだ。だから銭湯に行ってるんだ。金持ちなんかじゃないよ。でも親が、いっぱい勉強して立派な大人になってくれって俺に頼むからさ、
勉強を頑張っているんだ。でさ、結構無理して俺をあの学校に入れたんだ」A子は話を聞いて自分の境遇にどこか似てるような気持ちと、
『風呂がない』『銭湯に行っている』という言葉に驚いたと同時に、知らない人達とお風呂に入った経験がない分、信じられないというより、
激しい好奇心にかられた。「鈴木君はほかの人とお風呂に入って恥ずかしくないの?」とA子は目をみはって聞いた。
C男は「え?何で恥ずかしいの?」と、こっちが驚いたというふうに目をまるくした。A子は思わずC男の裸を連想してしまった。
赤面した顔にはふくらみかけた異性への思慕が芽生えたようだ。男の子と女の子の出会いはいつだってカルチャーショックから始まるようである。

132:名無し物書き@推敲中?
11/05/25 19:32:40.70
次は『野球』『インターネット』『合唱』でお願いします。

133:「十二歳」「銭湯」「ふくらみかけ」
11/05/25 20:21:14.09
 漆黒の木々に向かってAKが連射される。20m前方から、くぐもった呻き声があがった。
 老人は周囲に気を配りながら歩を進める。月明かりで、年端もゆかぬ青年の引き攣った顔が斑に照らされた。
 銃剣先で右の耳朶を刺し抜くと、切断された頸動脈から噴き出た血が老人の足首の皺に吸い込まれる。
 老人は十字を切ると、無言で兵士の懐を漁った。その弾みに一葉の写真が零れ落ちる。
 十二歳ほどの少女の笑顔がひらひらと、冥い地面に吸い込まれていった。
「お、当たり。『かろりぃめいと』じゃ」
 青年兵士の懐を漁りながら、彼は嬉しそうにそう漏らす。
「よっこらせっと」
 老人が無造作に襟を掴み上げただけで、若者の死骸は軽々と持ち上げられた。

 銭湯のタイルの如くびっしりと人骨が敷き詰められた一本道を通り抜け、老人はさらに森の奥を目指した。
 折り畳み式のシャベルで土を掘り返す音が、森々たる闇夜に響く。
 無数に盛り上がり、ふくらみかけていた土の山がまた一つ、音もなく沈んだ。

134:『野球』『インターネット』『合唱』
11/05/26 13:23:06.88
夏。
外は太陽がギラギラとまぶしく、湿気のムンムンとこもる夏。
TVでは甲子園での野球中継が流れている。
別に見たかったわけじゃない。前の番組が終わってそのまま切り替わっただけのこと。
野球に青春をかける球児たち。それを応援する学生。響き渡る校歌の合唱。
夏。
春だろうが秋だろうが引きこもりの日常は変わらない。
TVの向こうは無縁の世界。
「あっつー。」
冷蔵庫からアイスを取り出しPCの前に向かう。
口にくわえたアイスとタンクトップ一枚の服装のみが季節を物語る。
全ては部屋で完結する。
さぁ今日はインターネット上では何が起こっているのだろう。

「でぶ」「滝汗」「腹肉」

135:名無し物書き@推敲中?
11/05/26 19:19:17.12
真夏の太陽がじりじりと肌を焼く。ここはサイパンだ。浜辺ではビキミのねーちゃん達が波と戯れている。
青い波、白い砂浜。夜になったら月が綺麗だ。満天の星。恋だか愛だかを語らう男女たち。見た感じは楽園そのものだ。
でも俺が今回ここに来た理由は彼ら、彼女達とはかなり違う。今現在は正午をまわったところ。
滝汗なんて言葉は辞書にはのってないが、俺の体から流れる汗はそのまんまの意味。山を登ってるんだ。
案内役の現地のじいさんも「今日は格別の暑さだよ」なんて流暢な日本語で言ってくれた。
もう浜辺でさんざめく音は聞こえない。じいさんは「ここまでくる日本人は珍しい。あなたはジャーナリストか?」と聞いてきたんで、
俺は「違う」と息をあえがせて答えた。普段の不摂生が腹にでてるんで、言ってみりゃ腹肉(これも辞書にはのってないが)が邪魔でしょうがねぇ。
「ほらトーチカが見えたぞ」じいさんは帽子をとってタオルで汗(まったく滝汗だぜ)
をぬぐった。そこにはひんまがって錆びついた大砲があった。俺はトーチカの中に入ってみた。信じらんねー暑さだった。
大きく息をつく。それで出た。ちょっと涼しかった。「もっと登るか?でぶ?」じいさんはニヤニヤしやがる。「まだ目的を達してないんでね」俺は言った。
登った登った、山ん中。で、見つけた。大きい洞窟だ。中はひんやりしてた。あの戦争が終わって俺が初めてきた日本人じゃない。
たくさんの日本人が来てることがすぐにわかった。みんな俺達のルーツを探していたんだな。日本からのお土産がたくさんあった。
「じいちゃん。やっと来たよ」俺は手を合わせた。「あなたのじいさんここで死んだのか?」案内役のじいさんが聞いてきたんで、俺はわからないと答えた。
でもここにはなぜか懐かし匂いがした。水筒の水をグビッと飲んだ。水がおいしかった。案内役のじいさんが洞窟の中で歌いだした。
『荒城の月』だった。歌い終わったら「昔、日本の兵隊さんに教わった」とじいさんが言った。「昔の光 今いずこ…か」じいちゃん、あなたの光は今どこに?……
その夜、浜辺で案内役のじいさんにビールをおごってやった。月が綺麗だ。昔も今も月は綺麗だ。じいちゃんも見た光。明日、日本に帰る。
帰ってまずすることは『荒城の月』のCDを買うことだ。


136:名無し物書き@推敲中?
11/05/26 19:21:11.54
次は「天ぷら」「刺身」「ハンバーガー」でお願いします。

137:「天ぷら」「刺身」「ハンバーガー」 忍法帖【Lv=1,xxxP】
11/05/30 23:55:58.51
僕はNG3号。人型ロボットです。
僕を作ったのは、南喬工業高等専門学校1年C組の下田卓くんです。
卓くんはクラスのみんなからは『イモ天ぷら』と呼ばれてます。
渾名の意味は「イモ 天ぷら はんだごて」でネット検索をすると分かると思います。

まーそんなわけで、僕には幾つか偶然の回路があって、心があったりします。
しゃべれないので、卓くんもクラスのみんなも気がついていないようですけど。
今日僕は雨に濡れて、一部の回路がショートしてしまいました。
クラスメイトの浜崎くんがハンバーガーを奢るなら替わりに直してやると
申し出てくださいましたが、卓くんは自分で直す気まんまんです。
あー勘弁して欲しい。まじで……

まな板の上の刺身。いや鯉の気分です。

浜崎くんが見守る中、いよいよ卓くんは僕のお腹の蓋を外し、
回路の点検と修繕にとりかかります。
どのくらいの時間がたったでしょうか、卓くんの額から一筋の汗が
滴り落ち、ジーバチバチ。

「あーもー水に弱いのだから気お付けてください。……あれ、僕、しゃべれる? 奇跡だ」

その後、卓くんの渾名は変わり、僕の性能も何故か向上しています。
あーそろそろ、太陽系第三惑星へ行く時間です。
というこで、その話はまた、いつか……


次のお題は
「リセット」「字数」「不明」でお願いします。

138:名無し物書き@推敲中?
11/05/31 20:32:28.70
 ビルから飛び降りる時に迷ってはだめだ。
目をつぶって素直に一歩を踏み出すだけで、
後は自由落下の法則がどうにかしてくれる。ただ空気に身を任せればいい。
そんなんで俺は人生をリセットできる.。なんてイージーゲームだろう?
 
 でも何十、何百回と屋上から飛び降りた俺でも、落ちていく時に
内臓が浮くような感触には未だに慣れなくて毎回ションベンをちびりそうになる。
恐怖を感じるのだ。……俺は地面まであと三メートルくらいのところで考える。
でもそれって人間らしいことなんじゃないか?正しいことなんじゃないか?

 結局のところ人間はリアルな死なんてものは死ぬまで体験できない。
いくら字数を多くしたところで、決して死を説明することはできないのだ。
だから俺たちは身近なものから不明確な死を想像するしかない。
例えばそれはひどい怪我だったり、心の病だったり、身内の死だったりする。
人間はそういったもの中にある痛みを敏感に察知して、それが死へと
つながることを想像/創造する。だけどそれが偽者の死だからといって、
価値が無いわけじゃない。俺たちは死を想像することによって互いに優しく
し合えるのだ。思いやれるのだ。俺はそれを、すごく尊いことだと思う。

 俺は今日もビルのてっぺんから落ちる。そして地面から3メートルぐらいで
ちょっとションベンをもらそうになってから、道路の上に盛大にトマトを
ぶちまける。でもおそらくまだ大丈夫だ。俺は死を想像できる。人に思いやれる。
俺はまた生まれて、死を想い、他人と分かり合えるだろう。俺は
輪廻の中に閉じ込められながらも、まだ人間として生きているのだ。

「マッサージチェア」「タケノコ」「文化祭」

139:「マッサージチェア」「タケノコ」「文化祭」 と前のお題
11/06/01 00:09:50.21
「利尻の雲丹の天ぷらにございます」
「関アジの刺身にございます」
双方共に譲らぬ美味の競演に、審判長は唸った。
「この勝負、明日の再試合に改めて決するものなり!」
「うぉぉぉぉ!」・・・スタジアムを震撼させる歓声が鳴り止まない。

美食ブームに応え、雨後のタケノコの様に料理屋ができた。
文化祭の気軽さで催される料理合戦で、勝者と敗者が量産される。
「ハンバーガー屋の店員じゃない、日本一の料理人にやってやる!」
幾多の若者が時間を惜しみ、命をも削って最高の味に挑戦する。

「試合は明日。勝者はどちらだ!」審判長も絶叫する。
しかし、そうしながらも彼は狡猾な微笑を隠しているのだ。
勝者?最初から分かっているさ。審判が勝者さ。
評価の基準を握る者が支配する。それが世界さ。

今夜も彼は勝利を乞う者に招かれ、料亭のマッサージチェアで寛ぐ。
「うふふのふ、ブームを煽った甲斐があったな」と。

次のお題は:「南」「カラス」「ミツバチ」でお願いします。

140:「南」「カラス」「ミツバチ」
11/06/01 19:45:54.39
 北のカラスは飢えていました。
 雪間に覗く凍った草をはみ、飢えて死んだ海馬屍肉を食らい、
力を失った仲間の犠牲を血肉にして、残酷に残酷に、飢えていました。

 あるとき、カラスは旅人から南の話を聞きました。
 極彩色の草花が乱れ咲き、食べきれない果実が腐って落ちるという、そんな南の世界の話を。

 カラスは旅に出ました。海を越えるために、吹雪を抜け、嵐に見舞われながら、雨水だけで何日も飛び続けました。
 やがて骨と皮だけになったカラスは意識を失い、流木の上に墜落し、そのまま海を運ばれていきました。

 目覚めたカラスは目を疑いました。背の高い椰子の木、大輪の花々、目に鮮やかな魚たち。
 流れ着いたそこは南の海でした。カラスは喜びに飛び上がり、その世界の中に飛び出していきました。
 美味しそうな果実がそこかしこに実り、一面の花畑を蝶やミツバチが舞っています。
 飢えはありません。凍えもありません。信じられないような楽土がカラスの眼下に広がっていました。
 と、そのとき―カラスの背から、煙が上がり始めました。
 北の世界では熱を集めてカラスを守ってくれた黒い羽毛が、南の世界の激しい太陽光を吸収して、燃え上がり始めたのです。
 カラスは火の玉になって落ちていきながら、衰弱しきっているとは思えぬ大声で、堂々と、空一杯に声を発しました。
「ああ、後悔はない! 後悔はない! 南で生まれ南に死ぬ者にも、北で生まれ北に死ぬ者にも、おれの気持ちは分かるまい!
おれは抗ったのだ! 抗ったのだ! 抗ったのだぞ! おおお、おお、おおおお!」
 カラスは地に落ちる前に、灰も残さず、燃え尽きていました。


次は「猫」「砂」「うるさい」でお願いします。

141:「猫」「砂」「うるさい」 忍法帖【Lv=7,xxxP】
11/06/07 23:48:14.75
360°ぐるりにひび割れた荒野がひろがっていた。
目を凝らせば、東から西へ、北から南へ、交差した路が潜んでいるのが
判るだろう。
地平線の一方から、土埃をたててクリーム色の頑丈そうな乗用車が
十字路へやって来て停まる。
サングラスをした男が降りてきた。ペット用のゲージを地に置き、
スーツが汚れるのも構わずに座り込で蓋を開ける。
猫が様子を伺うようにして顔を出す。興奮しているようで
鳴き声がうるさい。
男が冷えたレモネードを浅いカップに注いで据えてやると、暫くして、喉を鳴らして
飲み始めた。
男が手を翳して空を見上げると、日は中天より僅かに西へ傾いている。
時計をみると12時10分。時間厳守は伝えてあるが……男は額に添えていた手を握る。
猫がじゃれてきて男の膝に前肢を載せる。その足裏には長い毛が生えていた。
暑い砂の上を歩く野生の猫の特徴である。
おまえ可愛いいな。男は猫をだき抱えて自動車に戻ると、去っていった。
日の傾きがはっきりしだした頃、別の黒い自動車がやってきた。
運転手が降りてきて、道ばたに置き去りにされていたペット用のゲージを見つけて拾う。
後部座席のロングドレスのマダムに、中が空なのを振ってみせた。


次は「メロン」「風」「三角」でお願いします。

142:「メロン」「風」「三角」
11/06/09 03:49:32.69
 『種なしメロンの開発に成功!』 そんな見出しと共に、十年ぶりに見る顔が新聞に載っていた。
 コンビニを出ると、買ったばかりのその新聞を半端な位置で二回折る。そして、思わず吹き出す。
 彼の顔に「種なし」という文字が、まるで銘打たれているかのようで……そう、あの、種なし男。

 恋人になったのは、やはり彼が自分と違って、ロマンチストだったからだと思う。
 なのにそれが、いつの間にかに重い負担になっていた。
「メロンの種なんて、普通に取り除けるわ……そんな役に立たない、馬鹿みたいな研究、やめてよ!」
 泣きつく私に、彼は申し訳なさそうに笑って答えた。
「……役にはたたないかもしれないけど、でもね、僕は夢を見たんだ……まるでスイカの一切れのように、
三角に切り出されたメロンのてっぺんを、ひとくちに、じゅぷ……って噛み締める夢。
それはとても気持ちが良くて……馬鹿って言われても、でも僕はそれをどうしても、実現したいんだ」
「……私が……私が、あなたの食べるメロンの種は取り除くから! ……それじゃ、駄目なの?」
 結局、私はメロンに負けた。性機能不全とは別の意味で、彼は男として種なしだったのだ。

 風が吹いて、私の手元から新聞を吹き飛ばす。あ、と思って、でも新聞は追えなかった。
 新聞を退けた目の前に、生身の彼が立っていたから。
「やあ。……種なしメロンが出来て……夢が実現できて……そしたら、君に伝えたくて」
 汚れた白衣姿の彼はそう言って、手にした三角のメロンを差し出してきた。
 その姿はあまりに昔のままで……だからとても、遠い場所に立っているように見えた。
「…………ごめんなさい。お店に並んだら、買って食べるわ。おめでとう」
 そう、私の胸の中にも、もう、大事なタネはなくなっていた。


次は「地震」「別荘」「出会い」でお願いします。

143:「地震」「別荘」「出会い」 忍法帖【Lv=10,xxxPT】
11/06/15 21:07:50.11
寝床はネットよりロッカーが安心できて好きだ。
暗がりの色はJの喉の奥を見詰めたときと同じ。
私と鯰(なまず)のJの出会いは二十年ほど前にさかのぼる。
当時、小学二年生の内気な少女だった私は母に連れられて、
知り合いの別荘で夏休みの大半を過ごした。母と父は離婚調停の最中だった。

保養地の外れにある小さな別荘には、不釣り合いに大きな池があって、
モネの絵に似たそこは様々な睡蓮に覆われ、沢山の騒々しい牛蛙と鯰のJが住んでいた。
Jは満腹顔で岸辺の近くでぷかぷかと浮いては、ときおり欠伸のように口を大きく開いて
ぱくぱくとやる。体長60センチぐらいの身体に、大きな切れ込みが走り、
鋭い歯列がぎっと現れるさまは、怖いモノ見たさの、子ども心に胸躍る光景であった。

私は夢遊病者みたいにJにいろいろと話しかけた。両親の不仲を愚痴ったのではないかと
推するが、もっとたわいもない話だったような気もする。
結局、母と父がどういう話し合いをしたのかは知らないが、私は、田舎の大学で教鞭を
とっていた父方の祖父の家に引き取られることになった。

新学期がはじまって直ぐに、移り住んだ町で大きな地震があった。
学校の裏の空き地に泉が湧き騒動になった。できたばかりの友達と連れ立って私も
見学にいったが、泉の中で大口を開閉するJの姿が私にだけは判った。

大学進学で都会に出たとき、仕事で移り住んだとき、似たようなことが起こった。
そして三日前、私は長期滞在要員として宇宙ステーションに着任した。
はたしてJと再会できるのか? きっと私の瞳は子どもの頃と同様に、暗がりに向かい、
したたかに熱を帯びることであろう。


次のお題は「駅」「ロッカー」「予知」でお願いします。

144:「駅」「ロッカー」「予知」
11/06/17 02:14:05.09
 制服姿の女子高生が、駅のロッカーに、なにか小さな箱を入れていた。

 僕は会社帰りに偶然、それを見かけた。
 箱を入れた後、鍵もかけず立ち去る彼女が気になって、僕はそのロッカーを開けて中身を確かめようとした。
「待ってください!」
 ……背後から声をかけてきたのは、先ほどの少女。どこか物陰から、このロッカーの様子を伺っていたらしい。
 僕は、目の前にした彼女の、儚い印象を伴う美しさ、育ちの良さが滲む可憐さに息を呑んだ。
 それからすぐに気を取り直して、君はなにをしていたのかと、興味本位に問いかけた。
 赤面症らしい彼女は、恥ずかしそうに頬を染めながら、躊躇いがちに告白してくれた。
「実は……私、予知が出来るんです。それで、今から十分後に、このロッカーに赤ん坊が捨てられると知って……
未来を知ってしまうと、いつも居ても立ってもいれなくて。今日も、捨てられるその子のために出来ることをしようと……」
 僕は改めてロッカーを開け、彼女がそこに仕込んだものを確認した。
 ―箱形の携帯灰皿に入れられた、仄かに燃ゆる、練炭の欠片。
 彼女は頬を染めたまま、はにかむように微笑み、言った。
「一酸化炭素中毒は、いちばん苦しくない死に方と言いますから」


次は「毒」「美」「醜」でお願いいたします。

145:「毒」「美」「醜」
11/06/23 21:22:09.68
その昔、たいそう信心深い大臣が京の都におりました。
妻が難産のおりに、陰陽師に祈祷させると西国の「升寸天」なる神様が現れ
「大臣よ生姜の茎を咬みなさい」と命じました。
大臣が生姜を咬むと同時に、玉のように美しい赤子が生まれました。
赤子はすくすくと成長し、「大臣が生姜を噛んで 生まれた美姫」ということで
人々から姜姫と呼ばれ名を馳せました。
姜姫が成人式を迎えたとき、西国の升寸天の祀られた社へお礼参りに
行きたいと言いだしたので、大臣は、荘園から送られてきた一番美味しい
お酒を捧げ物に持たせ、供を大勢つけ、姜姫を旅に送り出しました。
さて、姜姫達は知りませんでしたが、当時、京から西国へ向かう途中の路の
途中には、とても強くて酒好きな鬼が出ることがありました。
姜姫の一行は、鬼に襲われ酒を奪われてしまいました。
姜姫は恩ある神様へお供えするお酒なので許してくださいと、鬼にお願いしましたが
あまりに美味しいお酒だったので、鬼はその場で全て飲み干してしまいました。
「百薬の長も過ぎれば毒になりましょうに」姜姫がつぶやいたとき、
酔っ払って大汗をかいた鬼の形相は激しく歪みとても醜くなりました。
驚いた姜姫はとっさに鬼から棒をつかみ取り、鬼の足を払いあげます。
すると醜い鬼は 白い酉(トリ)となって「ム」を残してどこかへ行ってしまいました。
その後、升寸天の社に辿り着いた姜姫はしょうがないので「ム」を
升寸天にお供えしました。
それをもって「升寸天」は「弁才天」と神名を改め、霊験あらたかな神様として、
後生まで語り継がれたのであります。

(ある神社の倉に残された字形遊びの巻物より 「美」「醜」など 現代語訳……)

次のお題は「神社」「紫陽花」「酒」でお願いします。

146:「神社」「紫陽花」「酒」
11/07/03 03:04:40.76
私にはひとり、奇妙な友人がいた。
街を見下ろす神社の裏手……植えられた赤い紫陽花の中に、一畳だけある青い紫陽花の群れ。
その上に座っている半人半猿の神様が、私だけに観ることの出来る奇妙な友人、青猿彦だった。

彼はいつも私に酒をねだってきた。「こちらは女子高生なのだから、お酒なんて買えるわけがない」と断わったら、
「自動販売機ならどうだ、坂下の酒屋にある自販機なら、店主の婆もボケてて気付くまい」と悪知恵を吹き込んできた。
そこで「お金が無い」と言って断わったら、今度は厚紙を使った賽銭泥棒の方法を教えてくれた。

なんでそんな方法を知っているのかと糾弾すると、以前に見かけた賽銭泥棒が使っていた方法だという。
え、賽銭泥棒なんて来たの? ニュースにならなかったけど……と心配がる私を、彼はカッカと笑った。
なんでもその賽銭泥棒、帰りがけに彼のいる紫陽花のそばでタバコを一服しはじめたものだから、
彼は勢いよく、その酒気を帯びた息―いわく、神風を吹きかけたらしい。そしたら燃える燃える、
火はすぐにその賽銭泥棒の化繊の衣服に燃え移り、焦げ臭さに駆けつけた神主によって彼は病院に運ばれたという。

ああ、あのニュースに出ていた人か、と私は思い出した。神社でボヤ、全身に軽い火傷、といわれていた男性。
ニュースでは、この神社にお参りに来る地元の人たちが、この青い紫陽花の一角にお酒を撒いて願掛けをするから、
そのアルコールが漂っていたせいだろうということになっていたが……あれが賽銭泥棒なら、なるほど。
正しくバチが当たったわけかと思い、なにやら私は深く感心してしまった。


次は「暑い」「クーラー」「節電」でお願いします。

147:暑い クーラー 節電
11/07/04 19:45:43.59

 真夏も真夏。四十度を越える猛暑日に窓もドアも全て閉めきり、扇風機も使わず、クーラーも使わないある家庭があった。

 節電のためではない、僕ら佐藤家は今ゲームの真っ最中なのだ。「暑いといったら負け」というゲームの。

 じいちゃんは開始一時間で倒れた。ばあちゃんもすぐその後を追った。ミケは最初からぐったりしていたのでいつリタイアしたのか分からない。

 残りは僕と妹と母と父だ。

 開始直後はまだ皆元気で、言葉遊びをしたり相手を誘導して禁止ワードを言わせようとしたりワイワイしていたが、今はもう誰も喋ろうとしない。

 喋る気力がないのか?否。これはもう意地なのだ、我が佐藤家は代々負けず嫌いで、先祖の何人かはそれが理由で亡くなっている。そして笑われるかもしれないが僕らはそれを誇りに思っている。
証拠にじいちゃんとばあちゃんは最後まで降参しなかった。残った者達もそうだろう。

 気付けば辺り一面炎に包まれている。誰かが火を放ったのだろう。面白い。クライマックスはこうでなければ。皆の顔を見るとやはり笑っている。全く、何という家系だ。

 煙で徐々に薄れていく意識のなかで僕は叫んだ。

「我が佐藤家の誇りよ、永遠に!!」

次題 「パイプオルガン」「マント」「贖罪」

148:「パイプオルガン」「マント」「贖罪」
11/07/06 10:26:59.17
 最後の峠も下りに差し掛かった時、セバスチャンはその目に街の全貌をとらえ「案外小さな町だな」と旅の道連れで
あるロバに話しかけた。旅支度のバッグを両脇に携えたロバは全く反応する様子も無い。
長旅への疲労を感じながらも、目的地を目にしたことでセバスチャンの足取りは些か軽くなった。
季節はまだ寒かったが、日は今や天頂に達しており、
夜明けの風を心強く払い除けてくれていたマントも既折りたたまれ、ロバの荷物を一つ増やしていた。
 教会に着いたセバスチャンは神父を捕まえ、4週間の休暇をとって来た事、ぜひパイプオルガンを演奏したい事などを伝えた。
「滞在中はこちらの牧師や教徒さんと行動を共にして贖罪のお手伝いなどをしてあげてください。オルガンはいつでも好きな時にお使いなさい」
神父は穏やかに微笑みセバスチャンを受け入れた。
 部屋をあてがわれたセバスチャンは、荷解きの作業もそこそこに聖堂に降りた。そこにはセバスチャンが想像したとおりの、
いや想像以上のパイプオルガンが奏者の到着を待っていた。セバスチャンはオルガンを見上げ暫し佇んだ後、
まるで久しぶりに会う恋人と対峙した時のように、逸る気持ちを抑えゆっくりとオルガンに歩み寄った。
鍵盤を開くと、潤んだ瞳のような木の光沢がセバスチャンを迎えた。
 説教の引用に聖書を開いていた神父の耳をセバスチャンの奏でるオルガンの音色がくすぐった。
「これは・・・・・・」神父は思わず顔を起こし、セバスチャンの演奏に感嘆した。
まるで老婆がやさしく孫の髪を櫛梳くような音色が、時にはたおやかに、時には神々しく空気を変えていく。
 オルガンの音色はセバスチャンを魅了して離さなかった。セバスチャンは、休暇を終える4週間の休暇を過ぎてもこの教会に滞在し続け、
無断でさらに4週間も休暇を延長してしまい、後で酷く叱られる事になる。が、それはもう少し後の話だ。
 セバスチャンがこの地、リューベックで出会ったものは、オルガンだけではなかった。セバスチャンはこの地で、
後の作風を大きく変えるほどの出会い、音楽の師匠や音楽と言う文化そのものと出会う事になる。
 若き日のバッハ、その物語はまだ、始まったばかりだ。


 
「学者魂」「生き甲斐」「眼球」

 

149:「学者魂」「生き甲斐」「眼球」
11/07/06 12:05:03.99
 俺の生き甲斐ってなんだろう。
 一端の学者を名乗り、それなりに研究を発表している。
 有名な教授が開催する学会には足繁く通い、顔も覚えられて有用な助言を受けられるようになった。
 今は助教授の身分ではあるが某氏の強い推薦で来年には教授の地位に手が掛かるかもしれない。
 とても喜ばしいはずが気持ちは落ち着いている。どちらかと言えば沈んでいた。
 俺は最初から学者には不向きだったのか。学者魂と呼べるものは無かったのか。
考えてもわからないことに頭を使って心労が絶えない。
「……寝るか」
 俺は湿った布団の上に転がった。天気の良い日に布団を干すか、と考えながら微睡んだ。
 しばらくして眼球が激しく動いた。自覚して驚いた。
 勢いよく上半身を起こした。少し声を上げてしまった。時計を見ると、午前七時を回ったところだった。

 ヘンな夢だったな、と俺はランドセルに教科書を入れながら思った。




「大根」「カレーライス」「豆腐」

150:名無し物書き@推敲中?
11/07/06 15:30:27.51
メンヘラ「あれ、大根が無い」

ヲタ「野菜売り場で一番太いヤツもって来たよ」

メンヘラ「でもない」

ヲタ「あ、豆腐選んでる時に置きっぱなしにしたかも」

メンヘラ「大根無いと、おでんにならないよ」

ヲタ「じゃあ、もう一回買いに行く?」

メンヘラ「めんどくさいよ」

ヲタ「じゃあはんぺん入りカレーライスにしようよ」

メンヘラ「豆腐は」

ヲタ「一緒に煮込んだら?」

メンヘラ「でも、たまねぎも無い」

ヲタ「じゃあやっぱりおでんにする?」

メンヘラ「うーん、たまねぎ買いに行こう。今度は忘れないようにしよう」

ヲタ「うん、手にたまねぎって書いておくよ」



次 「中二」「引き篭もり」「オカルト」


151:「中二」「引き篭もり」「オカルト」
11/07/06 23:01:12.43
「隣の●●さんの子、小学校の高学年からずっと引き籠ってるんですって」
平日の昼下がり、道端での井戸端会議の一節に、そう聞こえたような気がした。
自分は引き籠りである。小学5年生でいじめられて引き籠り、現在は中学二年生になったばかりの引き籠りである。
引き籠りが道端の主婦の会話を聞けるのはなぜ。それはまさに、今、自分が近所のコンビニに行った帰り道だからである。
「あら、確かに。あの家の子は長男の子はよく見るけど弟の方は全く見ないわね」
全く見ないとは何か、と内心汚い笑みがこぼれるようだ。だって目の前にいる、ただ見分けがついていないだけだ。
普通は存在しないから、曖昧な事でしか情報が物事を決定できない。だって自分は「引き籠り」なのだ。
ここでやはり語学的な意味での矛盾が生じる。なぜなら自分は家に引き籠ってないことになる。今ここにいるのだから。
それなら語学上は「不登校」の方が正解である。だが、これはあくまで限られた中での話だ。本質は「多数」の中にある。
自分が学校に行かなければ、中二という学生の身分での自分は「存在」が確認されないほうが多い。でも自分は存在する。「多数」ではない、「ここ」に。
「多数」に観測されなければ「ここ」にいる自分は、家にみっともなく隠れた引き籠りだ。実際自分に貼られているレッテルこそ「それ」だった。
多数にいながら「ここ」は観測されない。今の自分は透明人間だ。目に入っていて、「はいっていない」。言語の中の透明人間。なんとオカルトな響か。

そんなことを考えていると、井戸端会議中の主婦たちをとっくに通り過ぎて、家は目前、となっていた。
ふと見ると、玄関口に見覚えのある人がいた。この家に二人と生まれた方の片割れ、つまり自分の「姉弟」だ。
「おう、不登校。鍵、お前が持っているよな?」
この姉。実はパンツルックに短髪、中性的な顔立ちのため、よく男と勘違いされる。ここに一つ、生物学的な矛盾が「起こっていた」。
思わず笑ってみる。なんと不思議な姉弟であろうか。怪奇現象にもほどがあるぞ、と。
「なんで笑う?気味が悪いぞ」
「いやぁ、僕が透明人間で姉ちゃんが・・・ジーキルとハイド?みたいな」
「はぁ、なにそれ?」






次「賞」「小」「笑」

152:「賞」「小」「笑」
11/07/10 12:28:23.77
 賞金は三十万円。文学賞としては少額に思えるがジャンルはショートショート。小ネタでは破格の賞金と言える。
 当然のことながら競争率は激化。平均して千分の一の険しい頂を目指すことになる。しかも、お題に沿った話を求められるのだ。
 前回は「股間にキュウリを挟んだ女子高生」というシチュエーションだった。アソコにキュウリを突っ込んで浅漬けを作る話は笑いを絡めた自信作であった。が、男のなけなしのプライドを粉々にした。
 今回は是が非でも勝ちたい。三十万円を引越しの費用に充てたい。その一心で男は今回のお題に向き合った。
「プリンシパルのように電車に飛び出す男」
 難題で何も思い付かない。男は目を閉じて低く唸り、額に脂汗を滲ませた。組んだ足の揺れが激しくなり、速度が頂点に達した。
 男は猛然と立った。座っていたイスは反動で引っ繰り返った。
 男は全身を震わせて叫んだ。そして外に飛び出していった。汗だくになって走って駅に着いた。改札を抜けてホームに続く階段を駆け上がる。
 視界が開けた。男は笑顔になって跳んだ。足を左右に広げて高々と宙を舞う。気持ちはプリンシパルで両隣には同じような姿の仲間がいた。
 みんな笑顔で跳んでいた。

 その後のテレビのニュースでは大々的に取り上げられた。関連性のない人々が集団で飛び込み自殺を図ったのだ。動機のない死によって精神科医や評論家は声高に自説を語ったが、どれも的外れであったことは言うまでもない。





次は「スイカ」「清流」「彼女」でお願いします


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