この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十五ヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十五ヶ条 - 暇つぶし2ch55:修正版
11/02/05 19:05:07
正義とはなにか。悪とはなにか。人に善するものが正義で、人に仇なすものが悪ならば、それは蜃気楼の如く掴み所のないものだろう。
腕の先も見えない闇の中、男は両手で構えたる真剣を振り上げ、全身全霊の力を込めた。
刹那、斜めから袈裟懸けに走った男の剣戟が、夜の暗黒を断ち切った。くぐもったあえぎ声が漏れ、地面を叩く水音が静かに響く。
雲に隠れていた月があたりを照らし、男の持つ業物の刀身を赤黒く輝かせた。
闇が払われたその場所には、覚悟を瞳に灯した浪人と、大木の幹に縄で縛られ息絶えた代官の姿があった。
代官の口には猿轡が噛まされ、大量の唾液がしたたっている。絢爛な意匠の施された白い襦袢が、代官自身からあふれ出る血液でどす黒く染まっていた。

この代官は、下々の者から「名君」と言わしめられた善良な男だった。
土地の開墾、住居の提供、医師の誘致、警邏団の派遣。兎角その男は、民のために職務を全うする代官の鏡とも言うべき存在だった。
時折街に現れては民の祈りの声を聞き、「必ずや」と約束することもある心優しいその男は、しかしある理由で浪人の怒りを買ってしまう。
想像するに、おそらく代官に罪の意識はなかったと思われる。しかしそれ故に浪人は猛り狂い、復讐にその身を窶した。
この浪人は、代官の管轄するこの街より離れた、寂れた地の人間だ。
流浪の身でありながらも、この寂れた地で恋仲と呼べる女を見つけたその男は、並々ならぬ理由により医師の助けを請うこととなる。
恋仲の女は労咳をその身に宿しており、少しでも気を抜けば命に危険が及ぶ状態であったのだ。
浪人は医師にかかる費用を捻出すべく終日働き続け、それでようやく足りる治療費をもって、女の命を繋げていた。
しかし、寂れた地に居たただ一人の医師は、ある日を境にその行方をくらませる。
浪人は医師を求めて走り回ったが、その地に例の医師を除いて治療を行えるものなど存在せず、ある朝女は血を吐いて息絶えた。
男は後に知った。医師は隣の集落―代官の管轄する土地だ―に強制的に誘致されていたのだと。男の目に、復讐の炎が灯った。

代官は人に善する正義を執行したに違いない。しかしその正義が、浪人にとっての仇となってしまった。
正義も悪も、揺らいでは姿を変える蜃気楼のような存在なのだ。確固たる正義や悪など、どこにも存在しないのである―。


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch