11/01/02 16:08:12
「名称未設定フォルダ」「オムライス」「ぬいぐるみ」
今日は12月24日。クリスマス・イブだ。今日に向けて、彼女のいる男子はデート場所の選定に余念がなかったことだろう。
実は僕もそうだ。生まれて初めての彼女が一ヶ月前にできた。いや……まだ、彼女っていうのは大げさかな。
何せ、ちゃんとした告白はまだなんだから。それでも僕が彼女のことを好きで、彼女も僕を憎からず思ってくれていることに疑いを挟む余地はない。
だからもう、彼女だって言い切っちゃっていいと思うんだ。ま、でも今日こそはちゃんと伝えなきゃね。
「お待たせー。随分早かったんだね。」彼女が笑顔で近づいてくる。
クリスマスを意識したんだろうな。赤を基調にしたワンピース。ふわふわのファーまで付けていてなんて可愛いんだろう。
僕の好きなカントリー調のこの喫茶店によく映えている。
彼女がランチセットのオムライスを品良く食べる口元にうっとり見とれながら会話を楽しんだ。
彼女もずっと良い笑顔を浮かべてくれている。絶対に大丈夫。僕は自分を奮い立たせた。
「あの、さ。これ、たいしたものじゃないんだけど。クリスマスプレゼント、受け取って」
差し出したのは彼女の好きなリラックマのぬいぐるみ。彼女がこのキャラクターを好きなのはリサーチ済み。
「うわぁ。ありがとう。いいのー?うっれしいなぁ。」そんなに喜んでもらえると僕も幸せになれる。
「ごめんね。まさか、君がプレゼントくれるなんて思ってなかったから、私何も用意してなくて」
すまなさそうな彼女の顔に逆に僕が申し訳ない気になってしまう。
「ううん。いいんだ。それよりさ、この後映画行かない?いいのがやってるんだ。正にクリスマスって感じの…・・・」
言いかけた僕の言葉を遮る様に彼女は言った。
「あ、ごめんね。この後、友達と約束があるんだ。」
……12月24日。それは多くの男性が『名称未設定フォルダ』から『男友達フォルダ』に引越しをさせられる日である。
「さかさま言葉」「カルタ」「おせち」
6:名無し物書き@推敲中?
11/01/03 10:53:23
「さかさま言葉」「カルタ」「おせち」
正月―。
俺は妹の作ったおせち料理があまりにもダイエッティなのでこう言うしかない。
「この、おせち、ちーせーおー」
妹は即座に冷たい視線で俺を興奮させる。
「なにそれ?それで逆さま言葉をいったつもり、なの?」
キター!その軽蔑に満ちあふれた氷の刃、最高っす。
その時、いとこの、坂狭間琴葉と小瀬地駈太が遊びに来た。
小瀬地駈太はニヤリと笑い、
「みんなで百人一首しませんか?上物が手に入ったんですよ」
坂狭間琴葉は着物のコスプレをしていた。
「お年玉を賭けるというのはどう? 私、負けませんわよ」
「よし、やるか」と俺。
「ところでさお兄ちゃん……」妹は俺に問うた。
「百人一首って……カルタのことよね?そうよね、ね?」
結構無知なところもある俺の可愛い妹なのだ。
次「妹」「アバター」「豆まき」
7:「妹」「アバター」「豆まき」
11/01/04 10:27:16
「おにーたんアバターってな~に?」「う~む。ネット上の自分のキャラみたいなの?」
ちょっと情弱な兄妹である。兄妹はキーボードのキーを確かめ確かめぐぐる。
「なんか3Dアニメか?」「サンスクリット語のアヴァターラが語源ですってお」
「アヴァターラっていうのはヒンドゥー教の神様の化身らしいな」
「神様ですか? なにか鬼みたいですね?」
なるほど、妹の指さしたPCのモニターに表示されたイラストのビシュヌ神は
肌を水色で塗られ、派手な宝冠は鬼の角のようにみえなくもない。
(かなり無理があるような気もするが……)
「ねー、おおおじーちゃん。ととが鬼のアバターやってくれたからもういいよ?」
兄のほうの孫の晴太郎が頭を掻き掻き言う。豆まきに夢中になって老人達を忘れていた。
妹のほうの孫の紅月がお盆に載せた深鉢二つを差し出す。
「おばーちゃんとおおおじーちゃんの分。年の数だけ食べてね(ハート)」
屈託の無い孫達の笑顔をよそに、深鉢の中の豆の多さに、ちょとため息の出る
兄妹であった、とさ。
(節分はすこしきがはやくないかい? 過疎だけどさw)
次のお題は
「カイト」「飛行機」「みかん」でお願いします。
8:「カイト」「飛行機」「みかん」
11/01/04 22:47:04
高く、高く、雲の向こう側まで行ってしまいそうな程、高く昇る凧。
僕は久々にこの街へ帰ってきた。
幼い頃…そう小学生ぐらいの頃は、毎日学校帰りに100円玉握りしめて通い詰めた駄菓子屋の看板が角が錆びつく程、時が過ぎた。
駄菓子屋の店主である老婆の容姿は僕の記憶と代わり映え無かったが、杖を使い弱々しく歩く様は過ぎた時間の長さを覚えずには居られなかった。
そして、正月でも僕らはその店にお年玉を持って通ったが、老婆と昔話に花を咲かせていた小1日時間の間、子供の影がこちらに現れることは無かった。
駄菓子屋で、購入した凧をひとつ買った。凧といっても、和凧ではなく、カイトと言ったほうがニュアンスとしては分かりやすいだろう。
(カイトは英語で凧であるが、一般的にカイトといえばゲイラカイトを指す)
店を後にし、散策に出る。約束の時間まではまだある。変わってしまった街並みの中にも当時の記憶と近いものを見るたびに、センチメンタルになる。
丘を超えると、河川敷に出た。
「変わらないものもあるか……」
当時の記憶と寸分と変わらず、灰色の川と手前に小麦色の床が広がっていた。
風に乗りある程度高度を保った凧を、老婆からもらったみかんの入った百貨店の紙袋で押さえて、芝生の坂に座る。
陽が重そうなネズミ色の雲に隠れたり、また顔を出したりして、どれくらいの時がたっただろうか、僕の顔を雲以外の影が覆う。
二人の人影だ。成人した女性と、幼い娘の影。待ち人来たる。罪を…、あの時逃げた罪を、僕は清算できるかどうかは分からない。
だけれども、今度は逃げる訳にはいかない。
大きい方の影が僕の影と重なる。若い時、肌を重ねたその時と同じ温もりを数年振りに戻ってくる。
立ち上がり、紙袋を持ち上げる。娘が「あっ」と声を出す。同時に、重しを無くした凧が風に乗り、飛行機のようにどこかへ飛んでいく。
歩き出す。彼女と彼女の…いや、僕と彼女の娘と歩く。
彼女の家へと向かう。あの凧と同じで、どこに行き着くかは分からないけれども、もう逃げ出すわけには行かないんだ。
9:8
11/01/04 23:06:00
すいませんお題出し忘れました
「雪」「神社」「初恋」
10:「雪」「神社」「初恋」
11/01/05 21:02:16
「雪」「神社」「初恋」
娘が結婚したらしい。
我ながらなんて他人事のようなんだろう。妻と離婚したのはもう20年以上も前になる。
いや、こんな言い方はよそう。追い出されたのだ、彼女に。
当時の僕は夢を追いかけ、碌に家に金も入れない屑野郎だった。追い出されたのは至極当然のことだ。
娘が15の頃、元妻は新しい伴侶と共に国外へと旅立った。
それ以来僕は殆ど彼女らの消息を知らなかった。知ろうともしなかった。わが身と引き比べてしまいそうで知るのが怖かった。
結局のところ、あの頃追いかけた夢なんてとっくのとうに諦めて親戚の神社で売店の手伝いなんぞをしながら生計を立ててる有様だ。
妻もなく、子もなく、金もなく、余暇もなく、希望も、夢も当の昔になくした。ただただ生きているだけの毎日。
そんな情けない50男の元に届いたのが一枚の葉書。
「結婚しました。初恋の人と少し似てるかな?」雪の降る中、チャペルでの結婚式。ウィンクしている娘の笑顔がまぶしい。
娘の夫は異国人なのにどこか僕の若い頃を思い出す風貌だった。
身勝手だとは思いながらも、少し、泣いた。
「魚釣り」「御神籤」「耳」
11:「魚釣り」「御神籤」「耳」
11/01/14 00:20:11
初子は、石を蹴り蹴り歩いていたら、いつの間にか集団下校の仲間と逸れていた。
道を一本曲がりそこねた所は、去年、住宅地の造成で森林が切り崩され、
小丘ひとつに今盛りと杜が残された場所だった。
初子が見上げると、鬱蒼とした中、木の杭と板で土を留めた急な階段の上に
小豆色の古びた鳥居が静かにあった。
以前、友達のナカちゃんの家の窓から見て、行ってみようと思い、そのまま忘れていた
神社だった。確か、ナカちゃんは池で魚釣りが出来ると言っていた。
寄り道はあぶないけど、土曜日だし日差しが明るいし、ナカちゃんの家から見えるし、
まあ大丈夫だろうということで、初子は蹴飛ばしていた狐の耳のような形をした石を
拾って、階段を登っていった。
「あれ、お嬢ちゃん。その石、ちょっと見せて」
鳥居の先の神社には、何故か警察官がいて、寄り道がばれた初子は怒られ、
家まで送ってもらうことになった。神社では、悪質な盗難事件があったらしい。
お賽銭や御神籤の自動販売機の売上の他、大きな石像まで盗まれたと
赤い袴の巫女さんが警察官に話していた。赤い袴の巫女さんは、初子の
手に持っていた石に気づいて声を高く張りあげた。
初子はちょっと、驚きながら、石を巫女さんに渡した。
「ああ、これはうちの御稲荷さまの耳です。接着剤で付けてあったんですが……」
「お嬢ちゃん、これどこで拾ったの?」
「学校のゴミ捨て場の前です」
初子の証言がもとになって、ゴミのリサイクル業者に扮した盗賊団が捕まった。
初子はナカちゃんと、帰ってきたお稲荷様に油揚げを供えに神社にいった。
巫女の小母さんが、たっぷりお礼を言って、美味しいお茶菓子を出してくれた。
巫女からお稲荷様の逸話を色々聞きながら、不思議なことがあるものだ、と初子は思った。
次は
「魚」「手袋」「階段」でお願いします。
12:名無し物書き@推敲中?
11/01/17 18:16:16
夜道で会ったその魚は手袋をして階段を降りて来た。
「蟻地獄」「スターバックスコーヒー」「魚釣り」
13:名無し物書き@推敲中?
11/01/17 20:37:35
「この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第13巻」立ちました!
スレリンク(bun板)
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14:「蟻地獄」「スターバックスコーヒー」「魚釣り」
11/01/18 20:17:44
キャラメルマキアートに口をつけ、
量が減ったら、紙コップを振ってかき混ぜる。
小さな渦を巻き、止めたとき水壁が崩れて、
蟻地獄の巣から突き出した二又の蟻地獄の角だか顎だが
みたいだと思った。
出会った頃、真希のマイブームはスターバックスコーヒーで、
デートの度にまだ長蛇の列の出来る銀座の店舗に寄り、
並ぶのが嫌いなわたしはへきえきしていた。
風の噂に、真希の現在のマイブームは魚釣りらしい。
ピサデブにもめげず、
どこかの岬だかダムだかで粘り強く糸を垂れ、眉間にあの三本ジワを寄せる。
真希のどこかユーモラスな姿が思い浮かんで、ふと失笑してしまう。
もういいよね? デッキの中に忘れ残された
『昆虫探偵 ヨシダヨシミ』のDVDをゴミ箱にシュートしようか否か、
しばし、逡巡する。
次のお題は
「星座」「鴎」「相撲」でお願いします。
15:「星座」「鴎」「相撲」
11/01/18 22:39:23
仕事や人付き合いに失敗した俺は何となく旅にでた。
寒いのは嫌だったから南に向かったつもりなのに、さっきまで雪に降られていた。
「沖縄にでも行けばよかったなぁ……」
日も沈み、騒々しかった鴎(かもめ)もいつの間にか何処かに行ってしまった。何となく、余計寂しく、心細く、寒くなった気がする。
つい先日振られた相手は、誰が何言おうと自慢の彼女で、メールよりも手紙が好きだといった古臭い趣味を持っていたが、それさえも好きだった。だから自覚のある無しにかかわらず、いろいろとしてきたつもりだった。いや、間違いない、してきた。
だけど
「あなたががんばってくれたのは知ってる、私が好きなものを理解してくれようと
してたのもわかってる。でも、なんていうのかな?梅の花が好きと言ったら、梅酒をもらった……そんな感じ?多分これからも、私の好きなものをあなたは理解したつもりで、わかってくれないだから、もう分かれましょう」
それが答えだった。
俺のしていた事は一人相撲だったって事だ。
「酒飲んで寝よう」
防波堤から立ち上がり、気持ちを回りに向けると何故か明るくなった気がする
何となく雪を降らせていた雲が薄くななっていく様を眺めていると、雲の裂け目からプラネタリウムでしか見たことがない量の星が集まっていた。
「天の川……」
ミルキーウェイを「乳道」と約して彼女に怒られたことや、彼女に合わせるために星座を覚えたこと、いろいろなことを思い出す。だけど、いつのまにか雲は流れていった満天の空の様に全て忘れて見入ってしまった。
あまりにも圧倒的で、強く、今にも降って来そうな空
星の光が囁いている……聞こえないけれど、星が歌っている、そんな空だった
何となくだけど初めて彼女がわかった気がする。
「へっくしょん!さむ……宿に戻るか」
僕は無性に手紙が書きたくなった。
次は「安宿」「迷子」「崖」でお願いします