11/02/02 17:42:06
トチ狂って「坂」「フライパン」「豆」で書いてしまった
節分から巡って豆……俺はアホか
32:名無し物書き@推敲中?
11/02/02 17:43:03
イイヨイイヨー
33:名無し物書き@推敲中?
11/02/02 17:55:48
>>32
なんでわずか一分で書けるんだよ…怖い
34:名無し物書き@推敲中?
11/02/02 18:14:53
たまたま43分開いたんだよ。
たまたまだよ。
35:名無し物書き@推敲中?
11/02/02 18:36:54
というか文字数制限に引っかかって書き込めないよ
諦めますわ
36:名無し物書き@推敲中?
11/02/02 20:26:06
二つに分けて書き込むんだ。
37:名無し物書き@推敲中?
11/02/02 20:52:48
そういうのやっていいの?
38:名無し物書き@推敲中?
11/02/02 22:37:06
いちおう>>1があるので奨励はされないかと思うけど
それより雑談はなるべく簡素スレで
39:名無し物書き@推敲中?
11/02/03 18:23:15
台所から望むベランダ越しの風景が、そう悪くもないと思い始めたのはいつの頃だったろうか。
芳醇な香りを放つ珈琲豆を、強火で熱したフライパンの上でさらさらと転がした汗だくの私は、半ば空想に耽るような思いで窓の外を眺めた。
潮の香りが風に乗ってやってくる我が住まいからは、夏を色濃く引き写した空と海、それと、私が長年忌み嫌ってきた例の存在を目にする事ができる。
それは坂だ。数年前、地方開発のあおりを受けて設置された、山沿いに走る醜いコンクリートの道路。
まるい山の外周に沿って蛇行するコンクリートの道路が、私の家から望むことのできる風景の、その左側を著しく穢していた。
道路が設置されるまで、そこには海と山があっただけだったのだ。
抜けるような海の青と生い茂った広葉樹林の緑が、その二つをもって美しいコントラストを描いていたというのに、
どこぞの木っ端役人がいらぬ世話を焼いたのか、いまそこにはぎらぎらと日光を反射するコンクリートの黒と、興ざめしそうなガードレールの白が混じっている。
集落の人間たちは「これで移動が楽になった」と皺だらけの面を破顔させたが、私にとってはいらぬ世話以外の何物でもなかった。
私にとってこの景色は、人の手が入り込まない"動く絵画"だった。
寄せては引いていく緩やかな波模様。聞こえてくるわずかな潮騒。波風が揺らす広葉樹林のさざめき、蝉の声―。
この"絵画"には、"生命の複雑さ"が交錯していた。単調なようでありながら、同じ構図になることなど絶対にあり得ない景色。私はそこに、美を見いだしていたのだ。
だがしかし、いまとなってはなんとまあ穢されてしまったことだろうか。この"絵画"に人の営みが描かれるようになって、美しさが急激に損なわれてしまった気がする。
排気ガスをまき散らして通り過ぎていく車、場違いなボディスーツで疾走するロードバイカー。
あの道路だけでなく、そこを通っていくものさえ、なにもかもこの景色から浮いていて、ちぐはぐなように思える。
40:名無し物書き@推敲中?
11/02/03 18:24:35
この景色は醜い。あの坂が憎い。あんな道路など、無くなってしまえばいい。珈琲豆を煎りながら景色を眺める度に、心の中でそう罵っていた。
あの日、白いワンピースに身を包んだ、勝ち気で生意気な彼女を目にするまでは―。
フライパンの上の珈琲豆が、ばちっ、と爆ぜてかぐわしい香りをあたりに拡散させた。
「しまった」慌ててコンロの火を止め、から煎りでチャフを飛び散らせる。ちょっと煎りすぎてしまったかもしれない。
次いで、皮が充分に飛んだのを確認した私は、ザルに移した珈琲豆を振って冷却作業に入った。
一分かそこらで触れられる温度まで冷めた珈琲豆は、少し焦げてしまっているようだった。
やっちまった。これではハイローストだ。
豆の銘柄的に、このくらいの方が風味が効いて美味いのだが、彼女はミディアムローストがお好みで、ちょっとでも焦がすとすぐ眉をつり上げる。
額に浮かぶ汗を肩にかけたタオルで拭った私は、彼女から下される審判を頭の中で思い描いて、震えがくる思いで台所から望む景色に視線を戻した。
果たしてそこには、潮風に麦わら帽子をさらわれないよう鐔を両手で押さえ込んだ彼女が、いつもの白いワンピースで坂を下っている姿がある。
やれやれ。また今日も怒られるんだろうな。
恐れも期待もないまぜにした複雑な感情が、私の胸中で渦を巻いていた。
だがしかし、遠い坂の上から私の姿を見つけたらしい彼女が、私に向かって大きく手を振っているのを視認して、恐れなど残滓も残さず吹き飛んでいくのがわかる。
あの坂は醜いが、この景色を下ってやってくる彼女は、とても美しい。この風景も、それほど悪くはないのかもしれない。
いつものように、怒られる恐怖よりも彼女と会える期待の方が勝った私は、心地よく鼓動する心臓の音を確かめて、彼女のために煎った珈琲豆をミルに投入した。
次「便器」「テレビ」「虫」
お題間違えたのはマジですまんかった
41:名無し物書き@推敲中?
11/02/03 20:59:45
『虫を入れてくれてありがとう!』
黄色い虫が画面の中でうごめく。最近私がはまっているゲームだ。
作物や家畜を育て、売却し開墾しレベルアップしていくという他愛も無いゲーム。
一人で進めるにはハードルが高いが友人同士で一緒にやれば、水遣りや害虫駆除を助け合ったりと中々楽しい。
……ネット廃人状態なのがばれてしまうのが玉に瑕だが。
今日も今日とて家に帰ればテレビをつけたリビングでPCを立ち上げビール片手に畑仕事。
本当に向上心の無い生活だ。だがそれが楽しい。なんて駄目な生活。一人身万歳。
廃人とはいっても仕事に影響は及ぼさない。仕事にはちゃんと行く。
「ねー、佐々木先輩って彼女いないんですか」休憩時間に恋話に花を咲かせる女子社員に尋ねられる。
「いやいや時間が無くて中々ね」そんなことを良いながらも、頭の中は今朝植えてきたカボチャのことが気にかかる。
最近、一定のレベルに達したのかそう簡単にレベルを上げられるわけでもなくなってきて行き詰っている。
中々ゲーム内の仮想通貨が貯まらないのだ。これでは新たに畑を開墾することも、家畜を買うこともできない。
作物が育って収穫できるまでにはまだ何時間もある。ここでゲームを辞めとけばいいものを、また新たなものに手を出してしまった。
『こんなに喉が渇いているのに!?』注文したものが無い不満に涙目になる画面の中の女の子。
それを見ながら(申し訳ございません)と謝罪を伝えるボタンを押す。
可愛い泣き顔に、あぁ結婚したいなぁと思う適齢期の夜。
今日も経験地稼ぎのためにひたすら便器掃除のボタンを押します。
ゲームをやめて現実の世界に戻るにはもうしばらく時間が必要そうです。
結婚もまだまだお預け。俺、はやくこのゲームに飽きないかなぁ。
彼女欲しいなぁ。
「南瓜」「白菜」「合成」
42:名無し物書き@推敲中?
11/02/04 13:30:04
南瓜はできるだけいちょう切りで薄きらなきゃだめ。白菜は適当にざくざく切って、はごたえがあるくらい。
そうしたら沸騰した鍋にほんだしと一緒にに入れて、十分ぐらい弱火でコトコト煮込む。
その後はちょっとの味噌を溶かせば完成。
こんな素朴な味噌汁が洋介が一番好きだった料理で、何度もわたしにおかわりをせがんだのはいい思い出。
わたしは鍋が沸騰してる間に、洋介の気に入っていた服をタンスから引っ張り出して洗濯機に突っ込む。
そして合成洗剤を適当にいれて、スタートボタンをピッと鳴らす。
こうして一年に一度は洗ってやらないと、私は洋介に怒鳴られそう。
洋介は夏でも冬でも季節関係なく、一度来た服は洗わないと気がすまないのだ。
わたしが洗濯機から洋介がまだ全然着てない服をハンガーでつりさげておくと、彼は洗ったばかりだと勘違いしてそれを着ていく。
そういったことがわたしには面白く、ひどく愛しいものに感じられたものだ。
わたしはテーブルに作っておいた味噌汁やご飯を二人分テーブルに用意する。
今日乾かしたばかりの洋介の服を、きれいに畳んで椅子の上に乗せる。そうして自分も椅子に座っていただきますを言った時、わたしはこらえ切れず泣いてしまう
こんなことをしても意味はないのだ。洋介は二度と帰ってこないのだ。わたしは何度も何度も自分に言い聞かせてきた。
でもだめなのだ。わたしはこの洋介の存在を感じさせるアパートにいる限り、この儀式をやめることはできないのだ。
数ヶ月が過ぎた後、わたしはあの思い出のアパートを出た。そうしてすぐとなりに立つ、背の高いマンションの十階に移り住んだ。
わたしは暇があれば、双眼鏡であの馴染み深い部屋を覗き見ている。
わたしの思い出がちゃんと上書きされるか、確認するためだ。
そしていつかあの部屋に新しい住人が入った時、わたしは新しい一歩を踏み出せる気がするのだ。
43:42
11/02/04 13:39:23
すみません
次のお題は「大学」「英語」「森」でお願いします
44:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 09:48:42
降り注ぐ木漏れ日、木々や緑の放つ爽やかな香り。何処からともなく聞こえてくる小鳥のさえずり、穏やかな川のせせらぎ。そこは森の奥深い場所にもかかわらず辺り一面温かく柔らかい光に包まれていて明るい。
そんな平和で楽園のような森を私は一人歩いている。鼻歌を歌いながらしばらく行くと開けた場所にたどり着いた。綺麗な花が咲き乱れる美しい場所だ。その広場の中央には腰掛けるのに丁度よい切り株があり私はそこに腰を下ろした。
ふと足元を見ると大中小並んだ白ウサギが私を見上げていた。
「こんにちはウサギさん」
ウサギはぴょこんと耳を曲げ挨拶をした。
辺りを見回すとリスやキツネ、更にはクマなど様々な動物たちがいつの間にか集まっていた。
動物たちは一通り仲間が揃ったのを確認すると一斉に歌を歌いだした。何の歌なのか、何語なのか全く分からないが無邪気で拙いその歌いぶりがかえって可愛らしい。
しかし一匹だけこの調和を乱すものがいた。いや、一羽と言った方が正しい。私の肩に止まった小鳥だけが全くデタラメなメロディーをさえずっているのである。
「ちょっと鳥さん」
鳥は無視してさえずり続ける。
「ちょっとってば」
それでも全く止める様子がない。
「うるさい!」
気付けばそこは見慣れた大学の教室だった。小鳥のさえずりは講師の話す英語だった。
「今日は十五分か」
時計を見て私は呟く、そしてノートに今日の成果を事細かに記すのだった。私が考案した「現実逃避術」を完成させるためのデータを。
次題 「理論」「ターミナル」「神格化」
45:「理論」「ターミナル」「神格化」
11/02/05 13:15:08
ここはターミナル。いろいろなものがたどり着く場所。
とはいえ、いいイメージのあるものは少なく、どちらかといえば場末、吹溜り……
そういったイメージが強い場所。
とはいえ、全てがそういうわけではなく、異端といわれ学会を追放された男が、
ターミナルで確立した理論は現在の主流であり、その理論が導いた破滅へと我々は進み続けている。
今日の日記
たちが悪いことに、破滅を回避するための手法を導き出すほど、破滅への道が加速されていく。
破滅をとめる方法として現在最も有力とされているのが「人類総江戸っ子もしくは、肝っ玉母さん化計画」であるが、
現実的にそれは不可能であり、肝っ玉母さんに当てはまる女性は神格化すらされており
特にアジア産の類似品が出回っている。
破滅への進行は地域によって異なり、多くの田舎と同様にターミナルではほとんど進んでいない。
理屈では、破滅を受け入れるのでもなく、抗うのでもなく、ただ淡々とその日を生きていくことが破滅を回避する方法であり、
ターミナルはまさにその典型だったというわけだ。
しかし、長くは続かないだろう。滅びに近い連中がここに逃げ込んできている。
ターミナルの破滅も進み始めている。
俺もいつまで日記を書けるかわからない。
まぁ、どうでもいいさ。社会的に俺は既に終わっているのだから。
この緩やかなる破滅をのんびりと眺めよう。
46:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 16:53:32
その電車がホームを出て行ったのは、彼がちょうどターミナルに着いたときだった。彼はぎりぎり間に合うかと思っていたのだが、どうやら歩いてきたのが悪かったようだ。慣れないことはしないほうが良かった、と彼は心の中で少し悔やんだ。
彼は切符を買ってターミナルのホームへ入った。そして近くのベンチでまで歩いていくと、そこに疲れたようにどっしりと座った。そうしてなんとなく向かいのホームに目をやると、そこを照らす汚れた蛍光灯が、切れかかってちらちらしているのに気づいた。
47:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 16:59:11
―思えば私はもう長くない。半年前にやっと肺炎が完治したと思ったら、最近は風邪をひいたり治ったりの繰り返しだ。階段をいちいち上がるにも足腰は痛むし、座るときはなおさらだ。もう体にがたが来ているのだ。
48:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 17:02:05
この三十年、私はひたすらグラース理論の研究に身を投じてきた。最先端の研究をするために、ここロンドンまではるばるやって来た。
最初の頃は地位や名声のためでもあったが、今となっては私が生きていた証拠を残すためだ。私には家族もいないし、跡継ぎもない。財産だってに無に等しい。借りている小さなアパートメントだって、私が死んだ後には知らない誰かに貸し出されてしまうだろう。
そうなれば私の痕跡は完全になくなってしまう…
49:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 17:03:03
私は忘れ去られることがひどく怖い。まるで私の生が意味がなかったように扱われることに、耐えられない。
だから私はこの研究をなんとしてでも完成させねばならない。私の理論が認められれば、私の研究は多くの人の知る所となるだろう。
そうすれば私は人々の心の中で神格化され、永遠に生き続ける。そうなった時初めて、私の生は価値あるものになるだろう。それまで私は死ねないのだ……
50:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 17:04:02
電車がホームに入ってくる低い、大きな音を聞いて、彼ははっと目を覚ました。どうやら彼はまどろんでいたようだ。やはり年だな、と自分を笑いつつ、彼はゆっくりと電車の中に入っていった。
警笛が鳴り、電車が大きな音を立てながら、のろのろとホームを出発した。しばらくするとターミナルは、すっかり元の静寂を取り戻した。そうしてホームには、わずかに笑みを浮かべた老人がぽつんとベンチに取り残されていた。
51:50
11/02/05 17:09:28
「祈り」 「正義」 「夜」
52:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 18:58:57
正義とはなにか。悪とはなにか。人に善するものが正義で、人に仇なすものが悪ならば、それは蜃気楼の如く掴み所のないものだろう。
腕の先も見えない闇の中、男は両手で構えたる真剣を振り上げ、全身全霊の力を込めた。
刹那、斜めから袈裟懸けに走った男の剣戟が、夜の暗黒を断ち切った。くぐもったあえぎ声が漏れ、地面を叩く水音が静かに響く。
雲に隠れていた月があたりを照らし、男の持つ業物の刀身を赤黒く輝かせた。
闇が払われたその場所には、覚悟を瞳に灯した浪人と、大木の幹に縄で縛られ息絶えた代官の姿があった。
代官の口には猿轡が噛まされ、大量の唾液がしたたっている。絢爛な意匠の施された白い襦袢が、代官自身からあふれ出る血液でどす黒く染まっていた。
この代官は、下々の者から「名君」と言わしめられた善良な男だった。
土地の開墾、住居の提供、医師の誘致、警邏団の派遣。兎角その男は、民のために職務を全うする代官の鏡とも言うべき存在だった。
時折街に現れては民の声を聞き、「必ずや」と約束することもある心優しいその男は、しかしある理由で浪人の怒りを買ってしまう。
想像するに、おそらく代官に罪の意識はなかったと思われる。しかしそれ故に浪人は猛り狂い、復讐にその身を窶した。
この浪人は、代官の管轄するこの街より離れた、寂れた地の人間だった。
流浪の身でありながらも、この寂れた地で恋仲と呼べる女を見つけたその男は、並々ならぬ理由により医師の助けを請うこととなる。
恋仲の女は労咳をその身に宿しており、少しでも気を抜けば命に危険が及ぶ状態であったのだ。
浪人は医師にかかる費用を捻出すべく終日働き続け、それでようやく足りる治療費をもって、女の命を繋げていた。
しかし、寂れた地に居たただ一人の医師は、ある日を境にその行方をくらませる。
浪人は医師を求めて走り回ったが、その地に例の医師を除いて治療を行えるものなど存在せず、ある朝女は血を吐いて息絶えた。
男は後に知った。医師は隣の集落―代官の管轄する土地だ―に強制的に誘致されていたのだと。男の目に、復讐の炎が灯った。
代官は人に善する正義を執行したに違いない。しかしその正義が、浪人にとっての仇となってしまった。
正義も悪も、揺らいでは姿を変える蜃気楼のような存在なのだ。確固たる正義や悪など、どこにも存在しないのである―。
53:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 18:59:41
次「勉強」 「車窓」 「煙突」
54:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 19:02:21
あっ、「祈り」忘れてた…
55:修正版
11/02/05 19:05:07
正義とはなにか。悪とはなにか。人に善するものが正義で、人に仇なすものが悪ならば、それは蜃気楼の如く掴み所のないものだろう。
腕の先も見えない闇の中、男は両手で構えたる真剣を振り上げ、全身全霊の力を込めた。
刹那、斜めから袈裟懸けに走った男の剣戟が、夜の暗黒を断ち切った。くぐもったあえぎ声が漏れ、地面を叩く水音が静かに響く。
雲に隠れていた月があたりを照らし、男の持つ業物の刀身を赤黒く輝かせた。
闇が払われたその場所には、覚悟を瞳に灯した浪人と、大木の幹に縄で縛られ息絶えた代官の姿があった。
代官の口には猿轡が噛まされ、大量の唾液がしたたっている。絢爛な意匠の施された白い襦袢が、代官自身からあふれ出る血液でどす黒く染まっていた。
この代官は、下々の者から「名君」と言わしめられた善良な男だった。
土地の開墾、住居の提供、医師の誘致、警邏団の派遣。兎角その男は、民のために職務を全うする代官の鏡とも言うべき存在だった。
時折街に現れては民の祈りの声を聞き、「必ずや」と約束することもある心優しいその男は、しかしある理由で浪人の怒りを買ってしまう。
想像するに、おそらく代官に罪の意識はなかったと思われる。しかしそれ故に浪人は猛り狂い、復讐にその身を窶した。
この浪人は、代官の管轄するこの街より離れた、寂れた地の人間だ。
流浪の身でありながらも、この寂れた地で恋仲と呼べる女を見つけたその男は、並々ならぬ理由により医師の助けを請うこととなる。
恋仲の女は労咳をその身に宿しており、少しでも気を抜けば命に危険が及ぶ状態であったのだ。
浪人は医師にかかる費用を捻出すべく終日働き続け、それでようやく足りる治療費をもって、女の命を繋げていた。
しかし、寂れた地に居たただ一人の医師は、ある日を境にその行方をくらませる。
浪人は医師を求めて走り回ったが、その地に例の医師を除いて治療を行えるものなど存在せず、ある朝女は血を吐いて息絶えた。
男は後に知った。医師は隣の集落―代官の管轄する土地だ―に強制的に誘致されていたのだと。男の目に、復讐の炎が灯った。
代官は人に善する正義を執行したに違いない。しかしその正義が、浪人にとっての仇となってしまった。
正義も悪も、揺らいでは姿を変える蜃気楼のような存在なのだ。確固たる正義や悪など、どこにも存在しないのである―。
56:名無し物書き@推敲中?
11/02/05 20:01:49
>>51 ×
>>52 ○
57:名無し物書き@推敲中?
11/02/06 03:00:32
このスレはプロがネタ探しに見てそう。
58:名無し物書き@推敲中?
11/02/06 04:32:36
車窓からの風景は、ノスタルジーに浸らせる。
いつからだろう?銭湯の煙突が工場の煙突へと変貌したのは。
時は流れる。誰にでも、何にでも、平等に、残酷に。
過去へは戻れない。そんな事は分かってる。しかし、願わずにはいられない。
勉強こそが全てだったあの頃。勉学こそが存在理由だったあの時。オールでありオンリーな事柄。たった一つの生き甲斐は、たった一つの生き方で消えた。
いつからだろう?煙突が消えたのは。
心は変わる。誰しもが、残酷に、本当に?
過去は変えられない。そんな事は分かってる。だったら、変わらない心だってあるはずだ。
車窓からはもう、煙突は見えない。沈みゆく太陽が赤く紅く朱く世界を染め上げる。
こりゃポエムだな
次のお題は「生き様」「選択」「道標」
59:「生き様」「選択」「道標」
11/02/06 13:55:09
二月。高校三年生は殆どが自由登校になって校舎が閑散としている。
僕らが四月からこの高校の最上級生になる。クラスには既に受験の準備をしてる奴もいて、上級生につられて何だか
落ち着かない空気を漂わせているけど、僕にはまだこの先が見えない。
「はい、じゃあな机の上、筆記用具のみ。プリントを配るぞ」HRの時間に担任の田端がそう言った。
がたがたっとあちこちで教科書やノートをしまう音が教室に響く。一瞬静かになった後、微妙な緊張感を持った空気の中藁半紙のプリントが回ってきた。
設問1・今後実現可能な範囲内であなたが憧れる生き様を書きなさい。
設問2・なぜ設問1の回答になったのかについて理由を述べなさい。
設問3・設問1を実現するために必要な事は何か。
「えー、これはテストではない。進路調査でもない。これから三年生に進級するが社会に出る前に目標を作ってもらいたい。HRの時間内に書いて提出すること。以上。開始。」
ざっとペンを走らせる音が教室に満たされていく。僕も何か書かなくてはいけない。
何を書けばいいんだろう。憧れ……?特に無い。皆は何を書いているのだろう。教室内で一人取り残されたような気分になった。
過去に憧れを持った職業を思い浮かべた。ウルトラマン、無理だ。バスの運転手、違う。野球選手、無茶言うな。僕は帰宅部だ。
不要な物を選択し捨てていく。夢の無い生き方をしてきたんだな。残ったのは『お父さん』。
子どもの頃、お父さんみたいになりたかった。今じゃそんなこと微塵も思わないけれど、他に残る物は無かった。
結局、設問1の回答は地道に生きて無難な奥さんを貰い、2人の子どもと暮らすこと、と書いた。
校舎に鐘が鳴り響く。「はい、じゃあ回収ー。」皆、手馴れた物であっという間にプリントが集められていく。
プリント用紙を集め終え、その束をまとめ終えた田端は言った。
「設問3はなぁ、今後お前らが生きてくための道標だ。人生は長い、時々目標通過点決めておかないとだれるからな。
ま、今回まだ碌に書けなかった奴もいるだろ。来週の月曜にまた同じ物書かせるからな。真面目に書いた奴も更なる具体性を持たせられるよう調べて来い。じゃ、起立!」
ありがとうございました!の声をだした後、僕はとりあえず志望校でも決めようかなとようやく考え初めていた。
「生物」「心」「教師」
60:「生物」「心」「教師」
11/02/06 22:23:51
時間が出来ると良く考えるがいまだに答えは得られない。
恐怖や、喜びといった感情はどうなのだろうか?
親子の繋がりは?インプリンティングは心につながるのだろうか?
知識や感情が心だというのであれば、サルや多くの生物がそれを有している。
しかし、人のそれとは違うと思う。
言葉が心である、確かにそれは納得できる気がする。
日本語と英語で思考すると別の結果になりそうだ。いや、むしろそれは宗教か?
神の生贄になることが最高の名誉という事もあったそうだ。
結局、心というのは、本能と生きるための方便なのかもしれない。
正義と悪も世界が変われば逆転する。
なんと移ろい易いものだろうか?
---------
だから教師である堅い両親が俺に禁じた「してはいけない」いろいろな事が
「積極的におこなう」事になっても、それは人として当然のことであり
なんら心に引っ掛かりを覚えるべきことではないと思っていた。
しかし、子供が出来てみると、俺が親と同じようなことを考えていた
俺にとって「積極的に行う」事は、子供にとっての「してはいけない」事になった
なんと移ろい易いものだろうか?
次は「廃墟」「ムササビ」「人工衛星」でお願いします
61:名無し物書き@推敲中?
11/02/06 23:39:12
「神の目ってなぁに?」商店街での夕飯の買い物途中に小学校三年生になる娘が突然尋ねてきた。
「さぁ?どこで聞いたの?」変な事を聞く物だなと思いさりげなく尋ね返してみた。
「悪いことをしても空から神の目が見てるぞって言われたの」娘の目は逸らされている。何か隠し事でもあるのだろうか。
「誰に?」気の無い振りして大根を手に取りそっけなく答える。
「……知らないおじさん」少しぶすくれたその表情が気にかかる。
人工衛星搭載のカメラはその唇を尖らせた表情を拡大し、男の下へと高画質で届けた。
「あー、やっぱり。言っちゃったか。駄目だよって口止めしたのになぁ」ニヤニヤと笑いながら男の人差し指は赤いボタンを押した。
「何か悪いことしたの?」私は少し心配になった。
「してないよー。別にー。」この頃自分に都合の悪いことは正直に話さなくなった。
ますます難しい年頃になるのだろうなと思うと気が重い。しかし家に帰ったら話をしなくてはならないと自分に言い聞かせる。
「他は何買うの?」「今日は、これでおしまい。」「ふーん……。あ、ねえ見てリス!」気の無い返事を返した娘の視線が頭上に向く。
釣られて見上げれば電線の上には茶色の小動物が居た。帰化が問題になっていた台湾リスだろうか。
そのリスと目が合ったような気がした瞬間、私達のほうに飛び降りてきた。
「きゃっ!」思わず顔の前を手でかばう私達の頭、すぐ近くをすべる様にして飛んでいった生き物は着地の際ニヤッと笑ったように見えた。
「もーやだー。何あれ」「リス、じゃなかったわねぇ」ため息をつきながらぶつからなかった事にほっと胸をなでおろす。
「モモンガ?」「ムササビかもねぇ。後で調べましょう」居間においた動物図鑑を思い出しながら言った。
「お母さん。私にお豆腐切らせてね」「あら珍しい」そんな他愛無い話をしているうちに私は娘の隠し事をすっかりと忘れてしまった。
「おかーえーりぃー」廃墟の中、モニター群の前に座る男が一人。ドアの隙間に向かって声をかける。
「ちゃーんと、脅かしてきてくれたねぇ。いい子いい子。」男は走りよってきたモモンガの背を愛おしそうに撫でた。
「じゃ、明日またあの子と話をしないとね」男はそうつぶやくと黄色い歯を剥き出しにして笑った。
次は「蜂蜜」「ふわふわ」「白衣」でお願いします。
62:名無し物書き@推敲中?
11/02/07 00:14:03
「どうだった?」
戻った僕に彼女が無線越しに聞いてきた。機械を通して届く彼女の声は、感情が抜き取られているように感じた。
「だめだった」
「そう……」バイザーの奥の瞳が翳った。
彼女はかろうじて一つだけ壊れていなかったデスクチェアから立ち上がって、今ではテラスと化した窓際に立った。
時刻は午後5時。地平線まで続く街のむこうに今しも太陽が沈もうとしていた。
いつもなら仕事を終えた人々の車でハイウェイは渋滞し、歓楽街のネオンが瞬きはじめて寄り道を誘う。
そんな一日の終わりにふさわしい賑わいに包まれる頃合。でも、今日の街は静かだ。
僕の横で街を眺めていた彼女が、柱に凭れてかすかに息をついた。その吐息も電気信号に変換されて僕の耳に届く。
もう二度と彼女のあたたかい息を直に感じる事はできないのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、不意に彼女が、着ている放射線防護服の横脇をつまんで、
ごきげんいかがとスカートを広げるような仕草をして言った。
「ムササビ」その突飛な行動に僕は思わず笑い出す。
「何だよ、それ……」
「だって、似てるでしょ? 前からそう思ってたの」彼女も笑い出す。
無線のレシーヴァーに彼女と僕の笑い声がこだまして、消えた。戻ってきた静けさがふたたび僕たちを隔てていった。
彼女が突然ヘルメットのボタンに触れた。パシュ、と気密の破られる音。
「マリ!」
「いいの」彼女の髪が外界のかすかな風に躍る。
「もう、いいの」
「……」
「こんなことなら、お気に入りのドレスの一着でもロッカーに入れとけばよかった」
「……」
「そう思わない? この、ださい服」
夕日に満ちた廃墟の中でそう言って笑う彼女を僕は抱きしめた。頬に彼女のあたたかい息を感じた。
人工衛星が、すみれ色に染まっていく空にちかりと瞬いた。
彼はこの尽きていく特別な夜を眺めるただ一つの眼となり、また、いつも通りにやってくるであろう
あくる日の、すべてが静寂に包まれた新しい世界を見ることになるだろう。
凍った眼で。
かぶったけど書いちゃったから投下させてくれ
お題は前の人のを継続で
63:gr
11/02/07 02:25:14
#「蜂蜜」「ふわふわ」「白衣」
「シーッ! …なにしろ、密造酒だからね。見つかったら僕たちタイホされるんだよ」
私がミードというお酒の名前を知ったのは、高1の冬、放課後の理科準備室だった。
その部屋は、昔から“科学同好会”の部員の溜まり場で、私は、その副部長だった。
科学同好会に、先輩は1人しかいなかった。その人は、校内の誰よりも頭がよくて、
しかも誰よりも発想が鋭く、そして誰よりも奇抜なことを言いだす唯一の先輩だった。
先輩が制服に白衣を羽織って歩くのを、変人ハカセだとか言って笑う人もいたけれど、
私は、白衣を着ることがかっこいい気がして、いつからかそれを真似するようになった。
先輩がある日、ウィキペディアのプリントアウトを自慢げに見せてくれて、私たちは、
同好会で密造酒を作ることになった。ミードというのは、蜂蜜を発酵させて造る酒だ。
「蜂蜜は糖分が多いけど、多すぎてそのままでは発酵しない。だから水で薄めるんだ」
私は今、3年生になり、放課後は先輩のいない準備室で受験勉強をするのが日課だ。
先輩のような人が集まっているらしい“東大”というところに私も行きたいという思いは、
むしろ先輩に毎日会えなくなってからのほうが、日に日に強くなっている気がする。
先輩の卒業の日、記念にあの瓶を開けて、初めて私もお酒というものを飲んだときの、
あのカッとしてふわふわするような気持ちは今も忘れない。
ミードの酔いは一カ月続くというけれど、私のこの高揚感は一年経っても募るばかりだ。
#ごぶさたしています。新スレ乙です。
#次は「栓抜き」「耳」「インク」で。
64:名無し物書き@推敲中?
11/02/07 18:31:50
ここは父の家。僕と姉は久しぶりに彼の家に来た。机の上に瓶が一本。
勝手知ったる身内の家。僕と姉は父が帰ってくるまで自由に過ごすことにした。
とりあえず、持って来た本でも読みながら時間をつぶすとしよう。僕はソファに腰を下ろす。
姉は机の前に立ち尽くしていた。何故だかは知らないけれど。
「栓抜きちょうだいな」「はいよ」自分で動けよと思いつつ僕は台所から取ってきて手渡す。
「ちょっとー!開かないわよ、これ!」姉の苛立つ声が僕の耳に突き刺さる。
面倒なので聞こえなかった振りをする。「明!手伝いなさいよ!」切れられても面倒なのでため息ついて立ち上がる。
「何やってんのさ」「これ、開かないの」手渡されたのはモンブランのインクの入った小瓶。
「……捻ればいいんだよ。栓抜きいらないじゃん」「・・・・・・ありがと」姉に渡した小瓶はそのまま思いもよらぬ運命を辿った。
机の上にそのままだらりとインクが流されたのだ。姉はインクの空き瓶を絨毯に投げ捨てた。
「明、帰るよ」姉はそういうと玄関へと向かって歩き出した。
ここは父とその愛人の家。姉は時々ここに嫌がらせをしに来る。直接的なものから間接的なものまで。
帰ってきた父はどんな顔をするのだろう。・・・・・・はやく僕らのうちに帰ってくればいいのに。
次は「猫目」「ティーカップ」「梯子」でお願いします
65:「猫目」「ティーカップ」「梯子」
11/02/09 00:14:46
椅子に座りワンルームの部屋を見回すと、ロフトに向かう梯子を猫が登っている。
今の重力は0.8G。今から一時間後には無重力になる予定だ。
無重力で自分の入れた紅茶を飲むのはかなり難しいので、お気に入りのテーカップを暖めながら茶葉を回す。
はじめはいくつもあったのだが、慣れない重力変化でいくつも割ってしまったものの、お気に入りがまだ残っているだけ良しとしなければいけない。
今住んでいる所は農業ステーション、初期に作られたこのステーションは遠心力を利用した人工重力と太陽の反対方向に取り付けられた分光ミラーにより、
植物の育成に必要な波長だけを取り込んでいた。離れたところから見ると、目のように見えたことからEye(無理やりな語呂合わせがあったが忘れた)と呼ばれた。
しかし分光ミラーに質量異常が起こり本来、新円であったものが楕円形になり、猫目と呼ばれるようになって久しい。
これだけ形を崩しながらも、分光ミラーの各ブロックは、担当エリアに光を供給し続け、メイドインジャパンの変態性の新たな裏づけとなった。
そんなわけで異常発生から3年間無事動き続けたこのステーションも、水の枯渇の為に作物を育てられなくなり停止させることとなった。
残された稼動するステーションは後4つ。
人類の300倍いるといわれるこいつらをいつまで養えるのか……いや、我々が生存競争に勝てるのか、まるでわからないが、少しはわかることがある。
早めに紅茶を飲み終えて、お気に入りのティーカップを割られないように隠すこと
無重力で猫の止まり木にれて怪我をしないために猫のいないところに行くことだ。
まぁ、まだ時間は少しある、ゆっくり紅茶を飲んで、どこに逃げるか考えよう。
66:名無し物書き@推敲中?
11/02/09 00:15:46
お題忘れました。
「DVD」「アイスバーン」「宿題」
でお願いします。
67:名無し物書き@推敲中?
11/02/12 02:56:22
雨も降らなければ雪も降らない、人生のほとんど全てをこの町で過ごしてきた俺には、なんと言うか「積もった雪」というものは憧れの一つで、今その憧れが目の前にあった。
しかし、なんと言うか「寒い……寒すぎる」俺にとって初めてで、この町にとっては25年ぶりの大雪(雪国からすれば普通らしいが)がもたらした物は混乱だった。
喜んでいるのは子供だけで、犬も猫も丸くなっているだろうし、憧れていた筈の俺も寒さに耐えられずに、部屋にこもって宿題とか予習とか、とにかく普段やり慣れない事をして一日を過ごした。
夕飯のとき、妹に俺が勉強したから雪が降ったとまでいわれたが、まるで順序が逆であり、こんな理解力で受験は大丈夫なのだろうか?と心配になったものの、口では勝てそうにないので無視していると、突然、妹が言い出した事実「DVD返却日今日じゃん?」
よりにもよってこんな日に何で返却日なんだよ、母に送ってくれと頼んだら「雪道なんて走れんわ」と一言で却下された結果、自転車で恐々走っていた。普段10分程度の道のりなのに、40分もかかってしまった「って歩いても変わらんわ!」何だか虚しくなった。
お店の中を見ていると浩子がいた。俺と同じような理由で無理してレンタル屋に来たらしい。あっという間に気持ちが上向きになるのは仕方が無いだろう?。結局浩子を家まで送って帰ることになった。
道すがら今日のことや、いろいろなことを話した。浩子は雪ウサギを大小かまわずいくつも作ったらしい、そのすごく楽しそうな顔は今日一日の澱みを押し流してくれた。
そして、あっという間に付いた浩子の家では、5段積みの雪ウサギを始め、沢山の雪ウサギが俺たちを迎えてくれた。そこで少し話をして、ぐちゅぐちゅになり始めた靴で家路に着いた。
帰る頃にはネットで話題になったアイスバーン映像のようになるかと思っていたが、そんなこともなく、みぞれ状の路面を足早に、恨み事を口に、浩子の顔と雪ウサギを気持ちに歩いていく。
自宅に着いたら、俺も雪ウサギを作ろう……手も足も痛いけど、それぐらいなら何とかなるだろう。でも寒いなぁ
68:名無し物書き@推敲中?
11/02/12 02:59:11
次は「夜光虫」「散歩」「夢」
69:「夜光虫」「散歩」「夢」
11/02/12 21:34:58
夢を見た。
散歩をしている夢だ。
無数の夜光虫の放つ青い光が闇の中に浮かび上がって一筋の道となり、僕を導く。
どこに向かっているのかはわからない。
ただ、何か懐かしいものがその先に待っているような予感がして、僕の胸はいつになく高鳴っていた。
懐かしさの原因は、光の道が銀河鉄道を連想させたからかもしれないし、昔やった白線渡りの遊びを思い起こさせたからかもしれない。
なんにせよ、とても気持ちの良い夢だった。
太もも辺りにくすぐったさを覚えて目覚めると、僕はいつものベッドの上に横たわっていた。
夢の中の線路はいつだって現実へとつながっている。
昨日酔い潰れて帰ってきたせいか、四十数年ぶりにお漏らしをしていた。
白いシーツに黄色い海が広がっていた。
そこから一筋、窓のほうに向かって黒い道が伸びている。
道はせわしく運動している。
無数の黒アリが糖尿の甘い香りに導かれて行列をなしていたのだ。
現実もまた夢へとつながっている。
嗚咽を堪えきれなかった。
お次のお題は「ドーナツ」「ガーデン」「午前二時」で。
70:名無し物書き@推敲中?
11/02/14 00:10:50
おれスナイパー。エリート中のエリート。ひくてあまたなんだ。
とてもそうは見えないよね。でも本当なんだ。
今も仲間から「庭でドーナツ食おうぜ」とメールがあった。
「庭」は「2」、「ドーナツ」は「OK」、「食おうぜ」は「GO]という意味。
暗号を解くと「準備完了午前二時に決行せよ」ってことになるんだ。
じつはおれ、警察かどこかの組織にマークされてるかもしれないんだよね。
なんとなく携帯電話の雑音がひどくなった気がするんだよね。
さっきのメールもハックされてるかもしれない。
こんな感じに不安になるからおれはメールの内容どおりの行動をすることにしてる。
だからすぐ支度して駅前の「ガーデンハウス」に行ってドーナツを注文する。
そんで相手を待ってるふりをしてコーヒーとドーナツを追加注文したりする。
そんで相手が来ないからあきらめて帰るふりをする。
ほんと、ドーナツを暗号にするのは考えもんだよね。ほぼ毎日こんな調子なんだから。
だからこんなことになってるのはさ、おれがじだらくな生活してるせいじゃないんだ。
ホントだよ。
次のおだいは「牛乳パック」「パーク」「駅伝」で。
71:名無し物書き@推敲中?
11/02/14 12:52:42
人気ドラマ『踊る大捜査線』の中で使われる印象的なイントロはみなさんご存じだろうか。
曲名は『RHYTHM ANDPOLICE』と言い松本晃彦氏が独自に作曲したもの。
実はこの曲には元の曲があるというのだ。元の曲の名前はBARCELATA CASTRO LORENZOが
作曲した『El cascabel』という曲だ。2つの曲のイントロを聴いて貰えばわかるがそっくりなのがわかるはずだ。
そんな2つの曲にネット上でパクリ疑惑としての情報が流れてしまったようだ。ソース元はWikipediaと
なってしまうが次のように書かれている。「原曲はBARCELATA CASTRO LORENZOが作曲作詞した
メキシコのEl cascabel(日本音楽著作権協会(JASRAC)作品コード0K3-4404-1)であるが、著作権は
消滅しているため、著作権使用料の観点からは独立した2つの曲として扱われる」とのことだ。
URLリンク(getnews.jp)
原曲だと言われている『El cascabel』
URLリンク(www.youtube.com)
踊る大捜査線OP曲『RHYTHM AND POLICE』
URLリンク(www.youtube.com)
72:「牛乳パック」「パーク」「駅伝」
11/02/15 12:06:32
「牛乳パック」「パーク」「駅伝」
暴力的な眩しさで目を覚まし、部屋の中を彷徨いながら冷蔵庫から氷の様な人工牛乳を取り出し、胃袋に落とし込む
牛乳パックをダストシュートに放り込むと、地底人の賛美歌のような禍々しい回収音が響き渡った。
テレビをつけると100年前の駅伝が放送されていた。
駅伝は1000年経っても同じように楽しまれるのだろう。
この「パーク」は人類の結論として地球の衛星軌道上に設置された居住空間だ。
収容人数は5000万人で、全人類が居住して居る。
完全な自給自足を実現し、大地は再び動植物の楽園となった。
それが600年前。
なぜ人類がこの選択をしたかは記録に残っていない。
だが未来はわかっていた。
パークのメンテナンスをできる人間が居ないので人類は滅亡を避けられない。
やがてパークが壊れ、食料や燃料の供給が止まれば終わりだ。
メンテナンスできる人間が最初から居なかったのか、忘れられたのか誰もわからなくなっていた。
パークについての見解は複数あった。
人類が悟りを得、地球を守る為に計画的に居住した空中都市であるという永住説。
核戦争からの一時的な避難を目的としたシェルターであり、そろそろ帰るべきだとする帰還説。
帰還説派は大気圏再突入用の動力の存在を信じ、たびたびパークの内壁を引っぺがして故障させるので永住説派から蔑視されていた。
そして、永住説派はその倦怠からよく自殺をした。
人類は緑溢れる大地を眼下に収めながら身動きできないでいた。
楽園というものがあるとしたら、それはきっとこの様な地獄の様な場所なのだ。
私は人工りんごを放り投げ、手のひらで受け止めた。
「黒胡椒」「シンガボール」「隣に座っている人」
73:黒胡椒 シンガポール 隣~
11/02/15 23:45:12
私が飲食店に求めるものは極めてシンプルである。
まず間口の広い入り口。出来ればガラガラっと引き戸のタイプが良い。
それから、カウンター席の幅は隣りに座っている人に干渉せずに済む1m弱が理想的である。
定食屋にありがちな盆を、背後から客の前に差し出す隙間を考慮した至高の幅こそが1m弱なのだ。
料理の頼み方に決まりこそないが、女々しく料理のウンチクなど垂れ流すのは愚図の極みである。
例えば、「洋食料理屋のシェフをはかるにはオムレツを作らせろ」
などと戯言を吐くなど、言語道断である。
そんな戯言を私の横で吐いた日には、その輩の頭へ卓上の塩を振りかけ、もしも
スパイスとして黒胡椒も常備してあれば迷わず振りかけるであろうから、
飲食店のカウンター席は幅が大事なのだ。
幅と言えば、カウンターバーの世界規準を定めるならば、シンガポールスリング発祥のホテル……
つまるところ、私は極めてシンプルである。
「雪」「岩」「宇宙」
74:名無し物書き@推敲中?
11/02/16 22:44:19
男は山を歩いていた。
彼は地面に積もった茶色い絨毯を踏みしめながら、紅葉した木々の茂る斜面を登っていた。
そうしてちょうど山の中腹まで来た所で、いきなり開けた場所に出くわした。
そこには神々しいほどに大きな岩がそびえるようにたっていた。
岩は言った。
「お前は何をしにここへ来たのだ」
男は語った。
「私は世間というものが嫌になったんです。友人はお金の話しかしないし、職場の同僚は自分の自慢ばかり……
おまけに私の妻は町の噂にしか興味がありません。食事の最中でさえ他人の不幸話を持ち出すんです。
僕はそんな周りの人間が嫌になって、ここへ逃げてきたんです」
岩はふむ、と納得したように短く言い、考え込んむように黙り込んだ。
そしてしばらくして、再び男に向かって話し始めた。
「良かろう。この先少し行ったところに、体に大きな穴の開いた私の友人がいる。
ちょうど人ひとりが入れる広さだから、そこで寝泊りするといい。寒さぐらいはしのげるだろう」
男は岩に短く礼を言うと、再び山を登り始めた。
75:名無し物書き@推敲中?
11/02/16 22:49:27
それから数年が経ち、季節は冬に移り変わっていた。
辺りには雪が降り積もり、木々は白い化粧をして、山は神秘的な美しさで満たされていた。
その一方で男の肌は血色を失い、頬骨は出て、体は骨ばってしまっていた。
彼はここ数ヶ月病気を繰り返しているのだ。
ある日彼は、いつものように夕食を得るため、重い体を引きずって外へ出かけた。
そして岩の前を通り過ぎようとした時、不意に岩が彼に話しかけた。
「お前はここに来た時と比べて、まるで別人のようにひどく衰弱してしまった。
私はお前にこの山の食べ物のありかを教えたが、それは生きるのに十分な量だったはずだ。
すると今のお前にはいったい何が足りないのだ?」
男は空を見上げた。辺りは既に暗く、厚い雲が星の光をを遮っている。
岩は続けた。
「お前はよく、私に町の話をしてくれた。
お前は周囲の人々がいかに無知で欲深く、救いようがない人間か語った。
そしてそのことに自分がどれほど絶望しているか私に教えたな。
でもお前は気づいていたか? そういった話をする時のお前の顔は、
どんな時よりも希望に満ちていたぞ。お前がひどく嫌っていたものは、
もしかするとお前の大きな糧だったのではないか?」
男ははっとした。そしてすぐに顔を上げて、まるで宇宙の最果てまで見通すように暗い空を見つめた。
灰色の厚い雲がゆっくりと移動し、わずかに星が出始めている。
光に照らされた彼の顔は依然としてこけたままだったが、そこにはわずかな微笑と
何かを心得たといった表情が広がっていた。
彼は岩に長い長い感謝の言葉を述べてから急いで自分の穴倉に戻り、山を降りる準備を始めた。
76:75
11/02/16 22:51:34
「巡礼」「夢」「ワイシャツ」
77:「巡礼」「夢」「ワイシャツ」
11/02/17 15:58:55
疲れた……ワイシャツを脱ぎながらベッドに横になる。ベッド脇で埃をかぶっている写真に写る自分はどこにいるのだろうか?
若いころは、とにかく働いて金を貯めては旅行に出かけていた。しかし、結婚して定職に付き子供も出来た頃から、自分には自由は無かった。
正確には無いわけではないが、それはすなわち家族の不幸を意味していた。
結局は自分の意思として今の生活を選んだわけで後悔も何も無い……無いのだが、
個人としての夢が無くなった訳ではない。
マチュピチュで黄金色に染まる朝焼けを見てみたいし、太平洋航路をのんびり揺られてみたい、色々あるが一番行きたいのはカイラス山。
ポタラ宮の正面にあるゲーセンでバイクゲームを楽しんだりした不届き者でも、五体倒地で巡礼する人の姿には心を打たれた。それ以来彼らの目指す聖地カイラス山へ行ってみたいのだ。その気持ちは静かに大きくなっている。
「ん?」マナーモードにしたままの携帯がうねりを上げる。
電池で振動するアレはよく壊れるのに携帯は壊れないよなぁ……どうでもいい事を思いつつ電話に出る。
たどたどしいけど、疲れが溶けていく声で娘が話しかけてくる。最近電話を覚えたらしく、自分だけでなく祖父母にもよく電話をかけているらしい。
この時間は今の自分にとって、どうでも良い内容であっても大事な時間だ。
ああ……そうか
各駅停車で旅をする時間、中国の長距離バスに乗ったときの時間。
その行為に意味があるのかどうか分からないが、その時間はかけがえの無い大事な時間だった。
自然と顔が緩む、娘に今の気持ちを話した。
電話の向こうで娘が妻に説明しようとしている声が聞こえる。
「みぃとゆめはおなじでだいじなんだって」
私も娘も……そして妻も、みんな笑っているだろう。
*次は「色鉛筆」「プラネタリウム」「雪」でお願いします
78:名無し物書き@推敲中?
11/02/18 19:59:10
私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前--言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる--
でも、私はワザと『フミ』と名乗るときがある。
2/17 今日はフミ
真帆はプラネタリウムが好き。プラネタリウムに映し出された、でも降り注ぐ様な星の光は雪ふる夜空にライトを照らしたような圧倒的な光の粒なんだって。
昨日一緒にいくはずだった智君は約束に遅れそうだったから道路を無理に横断して事故にあったって。もう生きてるのが不思議なんだって。
だから真帆は私に「お願い、このメールを事故の前に……智に届けて」って言ったの。だから私はフミになった。
「ごめん用事出来たから今日は無理」それだけのメールだけど代償は多分大きい。
今までも過去にメールを送っているから、どれだけの大事な手紙やメールを受け取れないのか見当も付かない。だけど、そんなことは分かっているはず。だから私はメールを届けた。
真帆はいきなり泣き顔から怒り顔になった。「智君が約束を破って来なかった」からだそうだ。智君も真帆がメールを送ったんだろ?と怒っている。私は色鉛筆で塗るように今を重ねることは出来ない消して書き直すだけ。
ま、どうせすぐ仲直りするでしょ。喧嘩なんていつものことだし。
2~3日したらすぐおなか一杯の話をしてくるんだろうな。
2/19 真帆が別れた。
仲直りのメールが届かなかったんだって。命と恋愛で釣り合うってなんか素敵だよね。明日は1日遊んで愚痴を聞かなきゃね。
*「ミシン」「ねずみ」「ダンス」でお願いします
79:「ミシン」「ねずみ」「ダンス」
11/02/18 23:49:27
今日もカタコトミシンを踏んで。
ペダルに合わせてミシンが動く。
カタコトカタコトミシンが動く。
音に合わせて踊りだす。
ネズミが三匹踊りだす。
壁の穴から顔を出し。
三匹仲良く踊りだす。
カタコトカタコトカタコトカタコト。
上手に軽いステップ踏んで。
カタコトカタコトダンスを踊る。
今日のお仕事これでおしまい。
ミシンの続きはまた明日。
それではネズミもまた明日。
次は「猫」「ギター」「狼」でお願いします
80:「猫」「ギター」「狼」
11/02/19 03:14:52
大して良い音も出していないフラメンコギターの二人組が自分たちの奏でるサビに酔っている。俺は指3本分の
スコッチの入ったグラスをそっと滑らせた。内心冷や冷やだが平静を装って自分のグラスには別の酒を注ぐ。
カウンターの真ん中で、滑るグラスを止めたのは白く長い指。すっとグラスを引き寄せる。
「貴方が『灰色狼』?」
女がカウンターに目を落としたまま、酒の量を確かめるように指でグラスを撫で、低い声で尋ねる。
「ああ、そうだ」
俺は自分の手元の酒を見つめたまま答えた。
細い煙草を灰皿に置き、女が琥珀色の酒を傾ける。美女と酒をご一緒するのは嫌いじゃないが、
こちらを値踏みするような目が年老いた猫のようだ。女がぺろりと唇を舐め、目が先を促す。
「・・・『紅い月』の居場所を知りたい。あんたが仲介役だと聞いた」
カラン。グラスが鳴った。瞬間、女の指の間に鋭い刃が現れた。
「『灰色狼』の符牒は、ライウイスキーを3フィンガーと聞いているわ!」
言い終わる間もなくメスのような刃物が俺の首目がけて飛んでくる。俺はグラスを引っ掴んでしゃがみ、
女の顔に中身を浴びせかけた。ハラペーニョ入りのウォッカだ。女は目を押さえて叫び声を上げる。音楽が止み、
歌っていた二人がギターの胴から銃を引き出す。俺はカウンターに乗り出して強い酒のボトルで女の頭をまず一発。
割れた瓶に煙草で火を付けて二人に投げつけた。二人の衣装は焚き火にはうってつけ。まさに情熱の踊りって奴だ。
大騒ぎの店内で俺は目を白黒させているマスターに多めに札を握らせると足早に店を後にした。
全く腐れ情報屋め、なんでこう毎回細部のツメが甘いんだ。そもそも俺はスコッチもバーボンも好きだが、
ライだけは苦手でね。ますます嫌いになりそうだ。仕事も失敗だし今夜はどこかで飲み直すとしますか。
81:80
11/02/19 03:19:36
次は「筆」「天ぷら」「シート」でお願いします。
82:名無し物書き@推敲中?
11/02/19 10:58:28
私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前--言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる--
でも、私はワザと『フミ』と名乗るときがある。
2/18 可愛いおばあちゃん
真帆と一花のお見舞いに行ったんだけど、とても元気で暇をもてあましていて、弟から取り上げたゲームで狩ばかりしているんだって。でも逆に倒されててストレスたまってそう。
帰りに待合室で真帆の愚痴を聞いていると、かわいいお婆ちゃんが話しかけてきたの「喧嘩したまま会えなくなることもあるんですよ」って寂しそうな声。それで真帆は仲直りのメールを打ち始めた。悩んで悩んで打っていたんだ。
おばあちゃんは汚れてボロボロな多分会えなくなった人の名前を筆で書いた手紙を取り出し、今みたいに手紙が直ぐに届いたら……と寂しそうな顔になった。
私は頼まれもしないのに、おばあちゃんの手と手紙を両手で押さえて手紙を送った。
多分リスクは私に来る。でも手紙は消えなかったけどシートに挟まれていた。
私は何食わぬ顔で「そのお手紙は?」と聞いた。おばあちゃんは可愛い笑顔で教えてくれた。
終戦後、隣町の人が「君が生きていてくれたならうれしい」って伝号を伝えてくれたんだって。
大怪我していてその人を置いて来るしかなかったって……だけど生きていて留まった国の独立の為に戦い最近まで生きていたんだって。
その人の家族の人から大使館を通して、お婆ちゃんが送ったすごく汚れてボロボロになった手紙と家族からの手紙が送られてきたんだって。
「仲直りは大事よ?」それを聞いて真帆は余計に悩んでメールを打ち直していた。仲直りできるといいね。
今夜は天ぷら--サツマイモだらけの--かぼちゃほしかったなぁ
*「崖」「太陽」「コーヒー」
83:「崖」「太陽」「コーヒー」
11/02/20 03:19:40.22
「……今日も良い天気だ」目覚めのコーヒーをテラスで飲みながら誰に聞かせるでもなく呟く。
言ってしまってからつい、苦笑いが浮かぶ。ここにいるのは自分の他は猫だけだというのに。
どうして無意味な独り言を言ってしまうのだろうか。一人の生活にまだ慣れていない証拠なのだろうか。
朝日がゆっくりと昇っていくのを見ながら、一杯のブラックコーヒーをゆっくりと飲み干す。
もう妻は亡く、落陽の日々を送る私には気にかけるべきことも殆ど残っていない。
カップを洗うと、水切り籠に置き丁寧に手を拭いた。そしてメールを一通送信する。
玄関でお気に入りの革靴を履いて振り返る。
「じゃ、行って来るよ」今度ははっきりと猫に向かって声をかける。
猫は眠そうな目でこちらを見ただけだった。私は軽く手を上げてそれを返事とした。
近所の岬まで徒歩15分。すぐに見慣れた崖に着く。
雑草の生い茂った、海を臨む景色の良い草原。私は昇りかけの太陽を一度見上げた。
そして何もかもを思い切る。助走をつけて崖から思いっきり遠くへ目掛けて力いっぱい、……飛んだ。
さぁ、後のことはメールを受け取った竜彦が全て上手くやってくれるだろう。
猫は、信彦が引き取ってくれるだろう。家財道具は美晴が処分してくれるはずだ。
皆、ありがとう。ようやく、ようやく、妻に会える。もう、すぐだ。
最後の瞬間は意外と早く訪れた。
ありがとう。ありがとう、皆。
次は「電話」「羽毛」「桃色」でお願いします。
84:名無し物書き@推敲中?
11/02/20 16:18:34.13
私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前--言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる--
一緒に歩く堤防、たくさんの羽毛のような雲が空に浮かんでいて、じっと見つめると羽を震わせるように静かに形を変えていく。もうすぐ綺麗な色に輝きそうな予感。
真帆は私の目をそっと見つめているけど私が眼をあわすと逸らす。
多分私が知っていることを聞きたいんだと思うけど私からは言わない。
堤防の上をぶらぶらと歩く真帆が話し掛けてくる
「ねぇ文、電話で仲直りしようとしたら伝わった?」
「そうだね電話なら伝わったかな?」
「そっかそれだけ大事なことだったんだ」
「真帆は恋愛に命がけだもんね」
真帆はかばんから桃色のお守りを取り出す。
「恋愛成就ってどこにでもあるけど、恋愛安全とかってないよね」
「あ~そういえばないね。」
「文ごめんね、ありがと。智が元気でうれしいよ」
いつのまにか空はオレンジに染まり、ふわふわとやさしかった雲は彫金のような鮮やかさに輝き真帆の周囲を飾っている。だけど真帆はよけい暗くなっている。
「2回は無理なんだよね」確認するだけの口調
「成功したことない……ごめんね」
「いつも思ってたけど文って大変だよね、全部抱え込むんだからさ」
横を向く真帆、夕日が浮き立たせるのはやさしい顔。どうしてこんなときに優しくなれるんだろう。見とれていると、維持の悪そうな顔で笑った。
「じゃあ、文のおごりでモス行こう」
「えっええ~~無理だよ、せめてミスドにしてっ!」
「それで手を打つか」
そう言って歩き始めた真帆の後ろを少し離れ、震える肩を眺めながらついて行く。
*「携帯」「氷」「麻雀」
85:「携帯」「氷」「麻雀」
11/02/20 17:01:04.17
「どうだ!」えらいドヤ顔をした妹が僕に向かって言い放つ。
「どうだ!じゃねえよ!今日、多治見たち呼ぶって言ってただろうが!」まったくとんでもないことをしてくれたものだ。
「だってー、私だって麻ちんたち家に呼んで遊ぶんだもーん。おっさん達が麻雀なんてしてると感じ悪いんだよね」
ぷいっとそっぽ向いて自分勝手なことを言う。とにかくこうしてはいられない。とっとと連絡を取らねば。
急いで携帯をだして多治見を呼び出す。「あ、多治見!すまん、今日約束してた麻雀なんだけどさ」
そんな俺を尻目に台所を出て行こうとしていた妹が言い放つ。
「あ、そうそう!皆で遊んでるから二階に来ないでねー。」
今、うちの冷凍庫には氷漬けにされた麻雀牌たちが眠っている。
湯をぶっ掛けて、救出することはできるだろうが、その後拭くことなどを考えると何とも面倒くさい。
これぐらいはあとであいつにやらせよう。
昔は可愛いかったのになぁ。
「兄貴」「マッスル」「りぼん」
86:名無し物書き@推敲中?
11/02/20 19:21:31.23
そこにはマッスル兄貴が居た。
あそこにリボンを巻いたマッスル兄貴が居た。
兄貴が長い夜を告げた。
「流れ星」「エンジン」「トリケラトプス」
87:名無し物書き@推敲中?
11/02/21 20:06:04.91
ペット用に遺伝子改良されたミニチュア・トリケラトプスは
大別して「流星種」と「桃尻種」に分類される。
「流星種」の2本の上眼窩角鼻角は、流れ星が尾を引いたような華麗な弧を描き、
左右の斜め前方に1.2メートルの長さに達する。
「流星種」はミニチュア種とはいえ、角を除いた部分の体長が1.7メートルに達し、
一般の家庭で飼育するのは不適当だろう。
その点、尻尾と角の短い「桃尻種」は体長60センチ、愛らしいお座りのポーズで
数年前にペットとして大ブレークした。しかし、今、新燃岳恐竜公園では、
無責任な飼い主による「桃尻種」の捨て恐竜が問題になっている。
新燃岳恐竜公園のマッスルな飼育員達の兄貴分である舞鶴博士は中指を立てて警告する。
「桃尻はりぼん(DNA:デオキシリボ核酸とグッピーのリボンの♂が極めて生殖力能力が
低いのを掛けた不生殖改良種を表す俗語)とはいえ、何十年と生きるように設計されている。
当公園では去年1年間で実に547頭もの桃尻を保護したが…………(ズォーードドドーードコドー)
ジェットエンジンのような爆音に私は執筆の手を休める。足下で丸まって寝ている桃尻のアイコの
いびきの音。さて、私はいつまで耐えられるだろうか?
次のお題は「火山」「革命」「その後」でお願いします。
88:「火山」「革命」「その後」
11/02/21 21:16:10.06
その後、何年も何年も町は何事も無かったかのように静まり返っていた。
人一人おらず、猫の姿さえなかった。
通り過ぎるのはただただ風と木の葉のみ。
ある日、一人の旅人が通りかかった。
旅人はある一つの廃屋に入った。
埃っぽいその家で大きく息を吸い込んだ。
そして、一言。「ただいま」、と。
一つの部屋に入った。灰と砂にまみれたベッドに腰掛けた。
そう、この部屋には天井がない。灰はあの火山から来たものだ。
旅人は肩から荷袋を降ろした。中からはまばゆいばかりの王冠が一つ。
旅人は焦点の合わない目でそれを見つめた。
王冠の持ち主はもう居ない。旅人が殺したのだ。
圧制に苦しむ村を通ったとき、村人を助け剣を振るった。
旅人が旅人となったのは些細な理由。もっと他の世界を知りたかったから。
しかし、けして楽な旅ではなかった。盗賊と遭遇し、泥棒と誤認され、あげくに革命騒ぎだ。
何人かの人を手にかけた。そして懐かしの家(や)にたどり着いたのだ。
ため息を一つ、吐き出すと男はベッドに寝転び直ぐに寝息を立て始めた。
この街を襲ったのは旅人が殺したあの王だった。
旅人は知らずして自分の町の敵を打っていたのだ。
だがしかし知ったところで何の救いになるだろう。
そう旅人を癒してくれるのはあの村で待っている村娘だけ。
彼女の腹の中の子は旅人の帰りを待つただ一人の身内となった。
眠った旅人の顔につたう涙を見たのは青白い月だけだった。
次は「眠気」「廃屋」「指紋」
89:名無し物書き@推敲中?
11/02/22 00:36:24.15
午前二時、廃屋、正確に言えば廃病院の入り口の駐車場で俺は奴らを待っていた。寒いなか眠気にも耐え何故こんなに頑張っているかって?そんなの決まってる、幽霊の醍醐味、そう、「脅かし」だ。
幽霊は生きている人間に直接手出しは出来ない、何故かは分からないがそういう決まりなのだ、でもそんなことはどうでもいい。幽霊は人間の恐怖や悲鳴や絶望に麻薬的な快感を覚えるのだ。だから幽霊は生きている人間を脅かす。
しばらくすれば奴らが戻ってくる。ふと一人が車の異変に気付く。フロント、サイド、バック、全てのガラスにびっしりの俺の手形、指紋までくっきりの。彼らは慌てて車に乗り込む。しかしエンジンがかからない、それもそのはず、電気系統を俺が事前に弄っているからだ。
焦る奴ら、そして奴らの恐怖が最高潮に達した瞬間……まあそこから先はまだ考えていないがアドリブでなんとかなるだろう。
しかし寒い、奴ら何してるんだ全く、その廃病院には曰くなんて全くない。院長は優秀で誠実だったし、いまだ現役バリバリだ。患者から恨まれるようなことなんて病院が潰れる最後までなかった。
病院が潰れた原因もただの経営難でそれまで入院していた患者は全員別の病院でぴんぴんしている。
「きゃー」
女の悲鳴。くっくっく、まったくあいつら相当の臆病者だな。どれ、いっちょメインディッシュの前に軽く前菜でも振る舞ってやろうか。
病院のなかに入る。ひっそりとしていて全く気配がない。おかしい、幽霊は恐怖や怯えにはひと一番敏感だ。これではまるで俺と同じだ、死の気配だ。どういう事だ?
「まさか……」
悲鳴の聞こえた方向、霊安室の扉を開けると其処にはバラバラになった男女の死体、そしてそのそばで放心状態の男女の幽体。
「そんな……まさか……」
動けなくなった俺の背後に何かが立っていた。
次題 「天網」「ルミネセンス」「冒涜」
90:「天網」「ルミネセンス」「冒涜」
11/02/23 13:44:45.80
また一人、目の前で人間が消えた。おとなしそうな顔をした色白の女性だった。彼女が何をしていた人なのかは
知らない。ただ、青白い光を発しながらだんだん小さくなるように消滅した。誰もが思わず目を伏せ、彼女の顔を
見る者はなかった。独自のトランスファービームが周囲と干渉して起こす光だという者や、強力な電磁バリアの
中で分解を受ける際のルミネセンスだと推測する学者もいた。ただ我々に恐怖を植えつけるためにわざと光らせて
いるのだという者もいた。誰にも真実はわからなかったが、共通して、みな人としての表情を失っていた。
「天網恢恢疎にして漏らさず、なんて言葉があったな」と誰かがつぶやいた。夜の酒場の片隅。酒の勢いか、度が
過ぎた発言の中で、また人が消えるのを見た直後のことだった。空となった席の近くで男が気色ばんで立ち上がった。
「こんなののどこに正義があるというんだ!あんたは天を冒涜するのか!」
空気が凍りついた。まもなく二人の人間が消えた。
その昔、テロや凶悪な犯罪を防止する目的であらゆる情報を一手に集めていたコンピューターシステムがあった。
その情報収集能力と統制が極度に進み、人類に大きな害を為す恐れの高い集団を人の手を介さずに割り出すことが
可能になった。軍需産業複合体と結びつくのに時間はかからず、最新の攻撃・防御技術が次々と導入されたが、
ミスか偶然か、システムが自衛プログラムを獲得するに至った。関係者も危機に気づき対策を講じたと伝えられるが、
工業都市すら掌握して自ら進化するシステムに追いつくことはできず、今やその誰一人として行方が知れない。
今夜も地表には光が瞬いている。
次「ガム」「カード」「夕焼け」
91:「ガム」「カード」「夕焼け」
11/02/23 23:34:14.51
ピカっと空が輝き。それを合図に爆発音と風を切る音が入り混じり、
思い出の公園はあっという間に見る影もなくなってしまった。
彼がクソッタれと呟くのはもう何度目だろうか。
彼がガムを吐き出すのは、あの日から数えて何度目だろうか。
初めて会ったあの日、やっぱり彼はブランコに揺られクソッタレとガムを吐き出していた。
また閃光と爆発が続き、彼と彼の仲間は支給された
ライフルを片手に滑り台の辺りへ走り抜けた。
少し遠くなった彼は、滑り台の影からオートマチックのライフルを打ち鳴らす。
たんたんたたんと乾いた音が数発。彼はまたガムを吐き出し、マガジンを交換すると、
やっぱりクソッタレと叫んでいた。
あの日、ブランコを漕ぐ彼が握り締めていたカード。町内会から送られた赤いカード。
―あれから十五年。あの日は親父、今度は俺だクソッタレ―ってやっぱり言ってたね。
また閃光と爆発と砂煙。
たんたんたたん。たんたんたたん。リズムに乗って彼の仲間はダンスをやめたね。たんたんたたん。たんたんたたん。
ここが前線になる最後の日、ブランコの上からガムを吐き出し、夕焼け空にカードを照らして約束したよね。
私のおなかを二度さすり、小さな声でカードは二枚までだって。俺で終わりにしてやるって。
また……閃光と、爆発と、壊れたブランコと、土煙と夕焼けに染まる真っ赤な彼……と。
―くそったれ―
次「携帯電話」「帽子」「はさみ」
92:名無し物書き@推敲中?
11/02/27 09:25:58.48
ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
でてきたものは小さいぞうさん。
ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
出てきたものはぞうさんの帽子。
ぞうさんぞうさん可愛くできた。
それではも一つ作りましょう。
ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
出てきたものは携帯電話。
ぞうさん貼って、いろいろ描いたらできあがり。
これは明日のプレゼント。
あの子は喜んでくれるかな。
「クローゼット」「ガラステーブル」「腹痛」
93:「クローゼット」「ガラステーブル」「腹痛」
11/03/03 00:31:05.11
クローゼットの中で、内緒でハツカ鼠を飼っていた。
ハツカ鼠は白い毛に赤い目をしている。シッポの耳の内側や指はピンク色をしている。
鼠算式に増えたら困るなと思ったら、全部、雌だから大丈夫とペットショップのおじさんは言っていた。
餌はペレットと給食の残りと野菜の切れっ端。大好物のヘビ苺は、腹痛を起こさないように
やり過ぎに注意する。
日曜日、ママとパパがデートに出掛けたので、
僕は居間のガラステーブルの上で、徒競走をさせて遊んでいた。
ガラスの裏側から覗くと、白い毛がスリスリ、ピンクの足がペタペタして可愛い。
玄関でガサゴソと音がしたので、鼠たちをプラスチックのケースに戻した。
いっぴき、にっひき、さんびき、よんひき、ごひき……あれ、一匹増えている!
ゆっくり見れば、どの子か解るけど、時間がなかった。
何度かそんなことがあったが、真相は解らずじまいになった。
数ヶ月後、僕は鼠アレルギーになってしまい、クローゼットの中味がママにばれてしまったのだ。
それで、ハツカ鼠たちは従兄弟に貰われていった。一匹死んだが残りは元気だそうだ。
今日、僕に妹が出来て病院で対面したのだけれども、僕は、
何故か、クシャミが止まらなくなってしまった。鼠アレルギーのときみたいだった。
妹の顔がハツカ鼠に似ていたせいかもしれないと思った。
次のお題は「鼠」「吹き矢」「草原」でお願いします。
94:「鼠」「吹き矢」「草原」
11/03/06 00:38:52.00
次の日曜日はディズニーランドに連れて行ってよと、
付き合い始めたばかりの恋人が僕にせがむ。
その時僕はベッドのふちに腰掛けて、裸でタバコを
吸っていたのだけれど、何だか急に不味くなってしまった。
日曜日のディズニーランドなんて、全く行くもんじゃない。
木枯らしの吹きすさぶ中、たかだか10分程度のアトラクションの
為に、その10倍以上もの時間並ぶなんて狂気の沙汰だ。
黙りこくって不味くなったタバコをふかしていると、彼女が答えを
求めてシーツから白い腕を出し、僕の背中をつつく。
「ねえ、いこうよ。駄目?」
幼少の頃、母親にディズニーランドの鼠の像の前に置き去りにされて
捨てられたという嘘の話をしようかとも思ったけれど、彼女は一度僕の
母親を遠目に見ていたので、その案は却下しなければならない。
それで僕は一度煙を肺一杯に満たし、ゆっくりと吐き出してから
振り向いて、にっこり笑っていいよと答えるのだった。
ディズニーランドになんて行きたくない。
人の群れの中、おかしな耳をつけて、歩きたくなんかない。
出来ればサバンナの草原にでも行って、腰ミノ一つ身につけて
槍を持って踊り明かしたい。
草むらに隠れたどこかの野蛮人が、通りかかる女を吹き矢で
昏倒させ浚うのを、サバンナのナンパと銘打って世のバッシングに
合って消えた若手芸人達のネタが、僕は結構好きだ。
「リップクリーム」「定期券」「血糊」
95:「リップクリーム」「定期券」「血糊」
11/03/07 00:07:52.74
赤いリップクリームをもらった。
だが実際に唇につけてみると無色透明だった。
その色は血の様に毒々しい色をしていた。
匂いはアメリカンチェリーだった。
色も匂いもまったくもって私の好みじゃない。
きっとPLAZAあたりでかったのだろうソレは、パッケージの説明が全て英語で書かれていた。
女子中学生の買うプレゼントなんてこんなものだ。少ない予算で選ぶので選択の幅が少ない。
結果、好みでないプレゼントを受け取ることもあるわけだ。にっこり嬉しそうに笑いながら。
彼女はきっと一生懸命考えてくれたのだろう。だから無下に処分する気にもなれない。
そんな事を考える自分は可愛くない。なんて可愛くないんだ。素直じゃない。
いっそこの毒々しい赤が付けば、血糊風の化粧をする時にでも使えたかもしれない。
もらった物に罪はない。何とか使う方法はないかな。
そんな事を考えながら、ライブハウスに行く為に家のある駅とは反対へと向かう電車に乗り込む。
定期券外だからそう頻繁には行けないが今日は特別。だってせっかくの誕生日だ。
ハッピバースデートゥーミィー。
「指」「脂肪」「好き」
96:名無し物書き@推敲中?
11/03/12 16:41:23.08
大好きだったあの子。だいじょうぶかな?
近所のスーパーに行って
脂肪のたっぷりのった豚コマを買ったよ。
君と僕とあの子で指切りげんまん。
かならず再会しよう、と約束したね。
熱々のトン汁とオニギリを用意して待ってるからね。
お題は継続でお願いします。
97:名無し物書き@推敲中?
11/03/20 20:08:44.15
「食べないのか?」
ぺっと指輪を吐き出した彼は俺の足元の死体を指差して言った。転がった指輪とこっちの死体の指輪を見比べながら返す。
「……食べない……」
「じゃあくれよ、こっちは脂肪が多くて食えたもんじゃないからさ」
今晩の飯になった彼等は察するに夫婦だと思われる。机の上や至るところに飾られた二人の写真、そして指輪がそれを示している。
「なあ、もう止めないか?」
「何を?」
「こいつらを食うのをさ」
「どうして?」
「…………」
「……草を家畜が食う。その家畜をこいつらが食う。それを俺たちが食う。この流れが何かおかしいか?それともあれかな?サイショクシュギだっけ?ドウブツアイゴだっけ?」
「そんなんじゃない」
「じゃあ……」
「好きなんだ、愛してるんだ彼女を」
「あの女か……いいじゃないかそれで、俺はそのお前のお気に入りを食べない、もちろんその家族や友達も食べないそれで万々歳じゃないか?」
「……もう止めてくれって……仲間にも止めさせてくれって……」
「俺は食うぞ」
「俺は彼女を愛してる。彼女の願いは全部聞くつもりだ、何があっても……」
「そういう事か」
奴の目付きが変わり、狩り用の二つの刃が腕の甲から鋭く伸びる。こっちの刃は既に出していた。
長いにらみ合いが続いた。やがて月明かりが雲に隠れたその時、それを合図に二人は同時に飛び出した。速さでは奴より俺のほうが上だ、殺れる。
しかし突如口を開いた大きな穴に二人は吸い込まれた。擬態し闇に潜んでいたそれはぺっと二人の骨を吐き出して言った。
「不味い」
次題 「自己保存」「臨月」「伝播」
98:名無し物書き@推敲中?
11/03/25 22:01:00.16
syuryou
99:「自己保存」「臨月」「伝播」
11/03/26 07:39:53.45
タロウがねむりにおちるとき微かな花の香りがした。
翌日、一人のはずの船内の廊下から、軽やかな女のものらしい足音を聞いた。
貯蔵庫のタンクの影から髪の長い女に手招きをされ、
タロウは狼狽して懐中電灯をとり落とした。
眩暈に襲われる。
船は遠く異界の海へ、地球のDNAを伝播する目的で作られた。
今は人々から忘れられ、地下の核シェルターにある。
冷たい水の流れの向こうに女はいる。
滝のような黒髪に縁取られた白い裸体。臨月の女のそれである腹部の巨大な膨らみ。
柔和さにタウロは惹かれた。
女が口元に湛えた原始の神々の荒々しさすら母性のミルクの息吹のように感じた。
タロウは川に浸かっていった。
古い自己保存のプログラムがアンロードされ、新しいシグナルがインストールされた。
地球からひとすじ光跡が飛び出し、やがてワープアウトして消えた。
次のお題は「終了」「現場」「新生」でお願いします。
100:名無し物書き@推敲中?
11/03/30 14:47:12.17
公園で遊ぶあの女の子を見たとき、強くしなやかな縄を手に握ったとき、僕はそれらが自身に新生を与えてくれると確信した。
女の子はきまって休日の午前にこの公園に訪れる。この間は可愛らしい赤の服を着ていた。明日は何色の服を着てくるんだろう、僕は出来れば明るい幸せな色の服であってほしいと思う。何せ特別な日になるんだから。
縄はどんなに引っ張っても千切れない。これで首を絞めたらさぞ苦しいだろうな、痛いだろうな。僕はそのときを想像し、静かに溜め息をはいた。逡巡はもう終了してしまっていた。
この木の下を、殺人現場としよう。
僕はそう決心し、首を縄にかけた。明日、女の子が僕を見つけてくれることを祈って。
お題は「行脚」「野兎」「常夜燈」でお願いします (゚ω゚)<キリッ
101:名無し物書き@推敲中?
11/03/30 14:48:05.13
改行しわすれた……ごめん
102:名無し物書き@推敲中?
11/03/31 01:02:15.26
どこ行く どこ行く 亡者の行脚
無くした体は何処にある
どこ行く どこ行く 野兎 兎
迷子のあの娘は何処にいる
どこ行く どこ行く 麦藁坊主
潰れた西瓜 井戸の底
どこ行く どこ行く 乞食の寡婦
構わず照らすは常夜灯
お題は継続でお願いします。
103:名無し物書き@推敲中?
11/03/31 23:16:51.37
だめだ、全然15行にまとめられない…みんなすごいな
----------
はっと気がつくと男は石畳の小路に立っていた。
月のない夜に、常夜燈が煌煌と石畳を照らしている。ちらちらと揺れる灯りの中に不揃いの石畳がどこまでもまっすぐに伸びている。目を上げると長い小路の奥にはぼんやりと大社造りが浮かんでいた。
男はしばし呆然と立ち尽くした。──おれはイラズ山に居ったのではなかったか。
腰に提げた獲物の野兎から、抜き損ねた血がぽたり、ぽたりと垂れた。
猟に出ると言った男を老いた母は必死に止めた。霜月晦日は猟をしてはならぬのだという。この上禁足地のイラズ山へ入ると言えばむしゃぶりついててでも止めるだろうと、男は手近の野辺で鴨を捕るだけだと老母を宥め家を出た。
だが獲物はほとんど見つからぬ。野兎一匹ようよう仕留め、さあ帰るかと顔を上げた時だった。
どこかでしゃんと錫杖の音がした。
はてこんな山の中で、と瞬きをし──気がつくと男はこの参道に立っていたのだった。
「どうなっておるのだ」
呟くと、不意にまた、しゃん、と音がした。
「獲ったな」
はっと振り向くと、ぽっかりと黒い目をした雲水が錫杖片手に男を覗き込んでいた。男はぎゃ、と叫んで後ずさる。雲水は笠の内にのっぺりと光る、黒目ばかりの目を細めてにんまりと笑った。
「獲ったな。霜月晦日に獣をとったな」
「な、なんだ貴様はっ」
男の声なぞまるで耳に入らぬ様子で雲水は嬉しそうに言う。
「やれ嬉しや、行脚の甲斐のあったというものよ。今年はこれに大きな餌が手に入った」
雲水が歯のない口でへらへら笑うのに、ぞっと背筋を凍らせた男は、「わああっ」とひときわ大きな声をあげて駆け出した。
「嬉しや、嬉しや」
その背を追うように常夜燈がふっと一対、また一対と消えていく。
しゃん、しゃん、と錫杖の音がする。
雲水の引き連れたような笑い声がする。
不意に男の乱れた足音が消えて──
それきり辺りは闇に包まれた。
----------------
お題は「梟」「旅館」「化粧」でお願いします
104:「梟」「旅館」「化粧」
11/04/02 08:32:31.67
夜の森にホォーと梟が鳴き、不運な獲物を求めて梢を飛び立っていく。
自然が豊かに残る森には三種類の梟の生息が確認されていて、
森の外れにある古めかしい旅館は物好きなバードウォッチー達を上客にそこそこ繁盛していた。
毎年、春の盛り桜の季節にはひととき客足が遠のき、
老齢の主、清兵が一人でのんびりキセルをふかしふかしフロントの番をする。
そんなある日、西洋人らしい女が訪れた。女は肌がたいへん白く黒髪をラヂオ巻きに結い
モダンな白麻のワンピースとブレザーのアンサンブルを着ていた。
女がフロントの梟の置物を掌を返して指さすのを見て、
精兵は女の肌が白塗りではなく、化粧もほとんどしていないようなのに気がついた。
女はイタリアのさる女子修道院の代理のものだと名乗り、
梟の置物は、修道院の祭壇のレリーフの一部なので是非、返して欲しいと言った。
「さて、どうしたものでしょう。その梟は祖父が渡欧の土産に持ち帰り、私も物心ついたときから慣れ親しみ
愛着があるのです。今宵あなたがお泊まりになって、もし梟があなたを選ぶなら黙ってお返ししましょう」
はたして夜更けに清兵の見守る中、幻の四種類目の梟は、旅館の庭に舞い降り、
池の縁で月光を浴びギリシャ彫刻のように佇ずむ件の女の腕に止まる。
次のお題は「月光」「警報」「慣れ」でお願いします。
105:名無し物書き@推敲中?
11/04/02 22:44:51.97
「月光」「警報」「慣れ」
「警報だ」
サイレンが鳴り響くのと同時に、少女は弾かれたように立ち上がった。私も思わずICレコーダーを握りしめて腰を浮かせる。
取材中の明るい笑顔が嘘のように、窓に駆け寄った少女は幼い顔に厳しい表情を浮かべた。
「…ヒェルビムだ」
「ヒェルビム、というと…」
少女は手早く引き出しから護符を取り出し、私をちらと見て言った。
「『御使い』よ。今日は月が明るいから、月光警報が出るかもとは思ってたの」
私は息を飲んだ。ジャーナリストの本能で思わず窓辺へ飛びつくと、暗闇を覗き込む前に、少女が「ダメよ」と叫んだ。
「見ちゃダメ。護符なら貸してあげるから、早く座って目を閉じて」
言いながら少女は自分の護符を抱き、床に腰を下ろすと目を瞑る。私も彼女に倣ってかたく目を閉じた。
欧州に未知の敵性生命体『御使い』が現れ、人類に対する侵攻を開始して既に15年。
彼らの目を誤摩化す手段はあっても、人類は未だ、彼らに対抗する術を持たない。
「怖くないのかい」
「もう慣れたわ」
最も多く『御使い』の攻撃を受けているこの国では、少女でさえもこの『空襲』に平然としている。
護符を握りしめ、かたく閉じた瞼の裏で、私はこの星の未来を思った。
お題は継続で
106:「月光」「警報」「慣れ」
11/04/09 07:46:23.30
自粛ムードで夜、早々と閉まってしまった公園に忍び込む。
思ったとおり、月光を浴びたなか、はらはらと桜の花びらが美しく舞っていた。
例年の「お花見」の宴で見慣れた艶やかさとは違って、
自然の生命力が穏やかにみなぎっている。
他にも忍び込んだご同輩は多いらしく、
互いに距離を取り合った随所に、賞賛のこもった息づかいがそこはかとなく漂っていた。
しばらく幻想的な世界に浸っていたが、警報器の音で現世に引き戻される。
間抜けな奴が正門を強行突破しようとしたららしい。さて、戻ろう……
次のお題は「悶絶」「過疎」「桜」でお願いします。
107:名無し物書き@推敲中?
11/04/13 23:54:06.11
悶絶・過疎・桜
同級生たちの容赦無いリンチに遭い悶絶していた俺はやっと目を覚ました。
やっと、そう思ったのは辺りが真っ暗だったからだ。携帯電話で時刻を確認すると七時を過ぎていた。
一時間も伸びていたのか。情けなくなってきた。
思い足取りで帰る。人気の無い桜が並ぶ道を通ったとき、寂しさが込み上げてきた。
以前はここにもライトアップされた夜桜を観に、沢山の花見客が訪れていたんだ。
地域の過疎化が進んで照明も消されてしまった。
ここは自分の場所だと思った。ちやほやしてくれる、振り向いてくれる人間はもういない。
俺は歩く事をやめた。寂しい場所は寂しい人間を求めている気がしたから。
了
おそまつ!
次は『湯気』『最初』『スタンドライト』でお願いします
108:「悶絶」「過疎」「桜」
11/04/14 00:33:15.95
「うーむ、誰も来ない」
「当たり前だアホ! こんな山ん中で桜祭って何考えてんだお前は!」
ねじり鉢巻に前掛け姿の前田が腕を組んで呟くと、隣でビールケースを運んでいた佐々木がぎゃんぎゃん吠えた。
「いやだから、過疎の村だからこそ我が村唯一の売り物であるこのご神木、『八左ヱ門桜』で村おこしをだな」
「…前田、その着眼点はいいんだが、お前は大きな欠点を見落としている」
ん? と前田は首を傾げる。荷物を下ろした幼なじみはその脳天をすぱこんと叩いた。
「その肝心のご神木の桜はな、…一本しかねんだよこのバカ!」
しかも小せえし! 佐々木が殴ったその手で指差した先には、前田の胸ほどまでしかない桜がひょろりと生えていた。
「まあ大きくならないが故のご神木だしなあ」
「これ一本以外うちの村には桜はないんだぞ。わざわざこんなクソ田舎まで、そのもやし桜を見に来る市民がいると思うのか!」
「まあいないかもしれないが。…まあそうキレるなよ佐々木、一応花は咲いてるし、その内誰か来るだろ」
「いっぺん死ね!」
へらへら笑う前田に、佐々木は渾身の力で回し蹴りを決めた。悶絶した前田が小刻みに痙攣している。
「……おおおお…効いた……だがしかし見ろ佐々木、客は来たぞ…」
はっと佐々木が振り返ると、確かにぽつりぽつりと遠く坂道を上ってくる人影がある。
「って全部下の集落のじじいどもじゃねえか」
「ま、いいじゃないか。のんびり花見としゃれ込もう」
脂汗を浮かべながらへらりと笑った前田に、佐々木は大きな溜め息を吐いた。
──それもまあ、いいかもしれない。
たまにはラノベ風?で
お題は「豆腐」「シュシュ」「公園」でおねがいします
109:名無し物書き@推敲中?
11/04/14 00:34:39.04
oh…ごめん、リロードしてなかったorz
次のお題は>>107でお願いします
失礼しました
110:「湯気」「最初」「スタンドライト」
11/04/14 22:22:01.59
「きみがいないとーなんにーもーできないわーけじゃなーいとー・・・」
ばーか・・・。
こんな鼻歌、リアルに歌うことになるなんて思ってなかった。
三日前、由香が出て行った。
同棲して2年の間、メシはまかせっきりだったから、なんにもできん。
カップめんに注いだお湯の湯気がひよひよ漂ってる。
テレビでも見ながら食べようと、リビングの電気の紐を引っ張ったけど、点かん。
「なんだよ、ったくよ・・・」
電球が切れてやがる。
換えの電球を買いに行くには遅すぎる時間だ。
「そういえば」
クローゼットにスタンドライトがあったはずだ。
携帯の明かりで、中を探す。
見つけた。
赤い鉄の傘がついた、小さなスタンドライト。
「あ・・・」
思い出した。
これ、同棲始めて最初に二人で買ったやつだ。
いろいろ、甦ってくる。
で、すぐ、思い出に蓋をした。
辛くなるだけに決まってるから。
テーブルにおいて、コンセントを挿して、スイッチを入れた。
白熱灯のあったかい明かり。
なんか、少しだけ落ち着いた。
さて食おうとカップめんの蓋をあけて、箸がないことに気づいて、立ち上がった。
テーブルに膝がぶつかった。
カップめんはぶちまけられ、ライトは倒れて、電球が割れた。
「くそったれ、なんてクリスマスだ」
別に今日はクリスマスじゃない。
でももう、今の俺にはブルース・ウィリスの真似をするぐらいしかできんのよ。
では、お題は>>108さんの「豆腐」「シュシュ」「公園」で
111:gr
11/04/15 01:46:50.89
#「豆腐」「シュシュ」「公園」
四月も半分が過ぎたけれど、大学の入学式はまだもう少し先になるっていうから、
せっかく決めたアパートへの引っ越しも先延ばしにして、今は実家で暮らしてる。
小さいころから遊んだ公園のベンチで、ペットボトルのコーラを飲んでいたら、
町内放送の「夕焼け小焼け」のオルゴールが流れてきた。午後五時になったんだ。
この聞きあきたオルゴールも、向こうの町にはないのかと思うと、少しだけ寂しい。
建物の陰で薄暗くなり始めた道路に、家に帰る人のバイクの音が目立ってきた。
その中を豆腐屋の自転車が間抜けなホーンを鳴らしながらゆっくりと進んでいく。
ただのプープー音なのに、「豆ー腐ー」と言っているように聞こえる不思議なホーン。
高校の制服を着た男子や女子が数人ずつ騒ぎながら並木の向こうを通り過ぎる。
僕も先月までは同じような服を着て、同じような格好で歩いていたんだ。
ああ、騒いでいる高校生の中に、よく目立つピンク色のシュシュをつけた子がいる。
僕の仲間にもそんな子がいた。いや、もともとはそんな子じゃなかったのだけれど。
みんなで行った初詣の屋台で、「ひそかな理解者」ぶってみたかったらしい僕が
「ぜったい似合うって!」って勧めたピンクのシュシュを、年明けの始業式の日、
あとそれから後も、なぜか僕がいる授業のときに限ってよくつけてきていた子。
それまでは、ちっともピンクなんて身につけるような子じゃなかったのに。
「豆ー腐ー」にしか聞こえないホーンが遠ざかる。
あれも、うまく聞こえるように鳴らすには結構な訓練がいるらしい、と聞いた。
#次は「ガス」「はさみ」「速度」で。
112:名無し物書き@推敲中?
11/04/18 04:13:58.83
なーらんだーなーらんだー赤白黄色ー♪
あの歌はチューリップの歌だったが自分の目の前にはカラフルな風船が浮いていた。
ガスボンベを携えた風船売りの姿を見たとたん一目散に走り出した。まだ小さい私は思いっきり背伸びをして目当ての風船を指した。
「ねえパパ!あのピンクの風船が良い。……パパ?」
振り向いた私の目の前にパパは居なかった。
見渡す限り自分の視界の中にパパは居なかった。
「パパ!ねえってば!パパ!」
息切らせ必死に泣きながら探したけれどパパは、やっぱり居なかった。
結局それからパパとは一度も会っていない。蒸発、した事になるのだろう。
はさみで糸を切られた風船は緩やかな速度で空へと上る。そうして二度と見えなくなるのだ。
だから私はこの歳になっても風船が嫌いだった。嫌なことを思い出してしまう。
「ママ!見てみて!風船もらったの!」
本当に嬉しそうな笑顔で娘が駆けてくる。
「良い物もらったね」
私はその風船を受け取るとしっかりと娘の腕に結わえ付けた。
どこにも飛んでいってしまわないように。
次は「情」「枕」「藍」でお願いします。
113:「情」「枕」「藍」
11/04/22 14:59:03.96
「ひっく・・・、えぐっ、ぐっ・・・」
「とりあえず落ち着こ?ね?」
サチは優しいなぁ、一生懸命慰めて。正直、この娘がかわいそうっていう感覚より、結婚詐欺をかましたヤツへの好奇心の方が強い。ヤツらはなぜ、結婚詐欺なんて回りくどい手を使ったんだ。
人間の「情」に興味が湧き始めている固体がいる、という報告は本当なのかも。面白い。でも待てよ、ってことは・・・、この事件は全然違う結末もありえるんじゃねぇか?
(つまんなそうな顔しないの。きっとこの結婚詐欺、ヒトモドキの仕業よ)
サチからの耳打ち。わかってるよと頷いて、部屋を見回し、手がかりを探る。
ヒトモドキなら、もう顔は変わっているはず。特定するには体毛か、分泌物か・・・。
二つ並んだ枕を裏返した。・・・あれ?変じゃねぇか?なんで・・・
「触らないで!」
ガッと取られ、キッと睨まれた。ひどい剣幕だ。「・・・あー、今日は、もう帰るね」
彼女の家を後にし、帰る道中、サチにさっきのことを聞いてみた。
「さっき枕を手にしたとき、誰の臭いも跡もなかった。あの娘のもだ。なんかおかしくねぇか」
「そうね。明日また調べてみましょ。あと、私の予想ではこいつは、一番人間に溶け込んでいるっていう山梨県属性、「藍」のヒトモドキ。」
「なるほどね。」
山梨の「藍」かぁ・・・。へッ!とっとと捕まえて、ほうとうにしてやる!
次は「巨乳」「ストロー」「鉄骨」でお願いします。
114:名無し物書き@推敲中?
11/04/25 00:33:08.53
Aは鎖骨が大好きだった。鎖骨の窪みに飲み物を注ぎ、それをストローで吸うという変態的趣味にとてつもない興奮をおぼえた。
Bは巨乳が大好きだった。形や乳首や乳輪の色等はどうでもよかった。ただただ巨乳を愛していた。
Aは巨乳だった。Bは素晴らしい鎖骨の持ち主だった。二人は運命的に出会い愛し合った。お互いがお互いの求めるものを持っていたからだ。二人は幸せに末永く暮らした。
さてここで少し考えてほしい。Aは女性だったのか?Bは男性だったのか?Aの容姿は?学歴は?B の身長は評判は?Aの胸意外の特徴は?B の鎖骨意外の特徴は?腕は?足は?頭は?
全く分からない。しかしこれだけははっきりしている。二人は幸せだった。性別がどうであろうと身分がどうであろうと五体満足であろうとなかろうとそんな事はどうでもよかったのだ。
お互いが求める最高の物をお互いが持っている。そして出会った。これが事実であり全てであり答えなのである。
ところで私は今ある人を愛している。その人は私が求めるものを持っている。私が求めるある一点において私の理想を最高度で具現化した存在であると断言できる。それほど素晴らしい逸材だ。他はどうでもいい、その一点があればいいのだ。
私だってその一点がなければ、その人の求める一点がなければどうしょうもない存在であろう。私の姿を見るだけで顔を歪め、その場でその日食べたものを吐き出すかもしれない。
だが私はその人の求めるものを幸運にも持ち合わせている。その人はまだ私の事を全く知らないが、その人の求める、私が持っている賜物を知れば、問題なく私を愛してくれることだろう。
さて、これを読んでいるあなたは私が何を持っているのか、「その人」とは誰なのか興味があるかもしれない。しかしそれはあなたが知る必要はないのである。
あなたが私の求めるものを持っていなければ全く意味の無い話なのだから。
逆にあなたが持っている者なら私がそこに向かうだけだし二人は必ず幸せになれるのだから……。
次題 「冷血動物」 「常習犯」 「コンクリート」
115:名無し物書き@推敲中?
11/04/25 00:38:03.62
やべー、書き込んでから気付いた。鎖骨じゃなくて、鉄骨だ……。
お題は>>113のやつ継続で、本当すんません。
116:名無し物書き@推敲中?
11/04/25 21:25:23.68
「巨乳」「ストロー」「鉄骨」「冷血動物」 「常習犯」 「コンクリート」
「刑事さん、あんた、なかなかのもんだねぇ」
ネクタイ姿の男が里沙の肢体を舐めるように見た。といっても人間らしさは欠片も感じられず、まさに冷血動物の視線を思わせた。
男は猟奇殺人の常習犯、それも巨乳の女性ばかりをターゲットにしていた。無残な姿で発見された被害者達は十数人にのぼったが、
捜査関係者さえも次々に排除され、犯人はこの瞬間までついぞ正体を掴ませていなかった。
「わたしは合格ってわけ?」
怖気を振り払うように軽口を返し、里沙は特殊警棒を構えた。瞬間男が滑るように襲いかかり細身の体からは想像もつかない
腕力で押し倒しにかかった。胸に刺すような痛みが走ったとみるや、細い金属製のストローのようなものが男の口元から伸びていた。
里沙は後方に倒れ込みながら異物を抜き去ると、警棒のグリップから出た長いベルトを男の首に掛け、その腹を全力で蹴り上げた。
すぐさま立ち上がった里沙が振り向くと、古いコンクリートの壁に男は逆さまに磔になっていた。古い壁から突き出した鉄骨が、
白いシャツの胸と腹からそそり立つ。しかしそこには一滴の血も流れていない。
「どういうこと!?」
致命傷を負ったはずの男は壁から逃れようとひたすらもがいているが、その動きは、動物のそれではなかった。まるで・・・。
次の瞬間里沙の目の前で男がぱっと光を上げた。思わず目を伏せた里沙が視線を戻したときには、そこには煤けた壁が残っている
だけだった。心配そうに駆けつけた同僚達の声は耳に入らず、里沙はただ言いようのない戦慄に立ちすくんでいた。
大きな羽虫のようなものがあのストローの端を音もなく持ち去ったことには誰も気づいていなかった。
次「ペットボトル」「土煙」「油」でお願いします。
117:「ペットボトル」「土煙」「油」
11/04/29 11:24:37.25
落とし穴のような陥没。若い男が自転車ごとはまる。バランスを崩して
横倒しになったが怪我はない。
土煙のおさまるのを待って、タオルで滴る汗を拭う。穴の中はひんやりして
心地よい。男はゆうちょうにペットボトルの尻を青い空に仰げ、喉の乾きを
癒やしていたが、穴が閉じて挟まれる恐怖に思い至り、這い上がる。
ロープで引き上げた自転車はチェーンが外れていた。
「機械油をさしすぎたかもしれない。そろそろ引き返すか」男はつぶやく。
遠くに見える岬で何かが光った。男が目を凝らすと、白いバンが停車し、
その側で白い防護服の者が数名、作業をしていた。ソーラ式のガーデンライトの
ようなものを道ばたに設置、いや、回収している。
「商売敵か……まあー非常時だしな。いくつかの霊魂と交換に冥府まで送って
貰えるかどうか交渉してみるか」
男はポチャポチャとペットボトルを振り、眇めた目で、天使好みの綺麗な
霊魂を探して数えた。
次のお題は「遅刻」「熊」「魔界」でお願いします。
118:「遅刻」「熊」「魔界」
11/04/30 11:04:50.63
心の卑しい者だけが迷い込むという暗い暗い魔界の中では、人々はみな飢えて病にかかり、
激痛の中で死んでもすぐに蘇りまた苦しみ続けるという、地獄絵図が広がっていました。
あるときそこに徳の高い僧侶が訪れ、人々に言いました。
「北の山に、身籠もり飢えた熊がいる。彼女に食い殺された者だけはこの世界を抜け出せるだろう」
皆は率先して北の山に向かい、そこにいた大きな大きな熊に我先にと食い殺されていきました。
その熊のもとを一番最後に訪れたガンスイという男も、さっそく熊の前に身を捧げました。
しかし、熊はガンスイに牙を伸ばしません。どうやら既に満腹になってしまったようです。
ガンスイは遅刻してきた自らを後悔しながらも、なんとか熊に食べられようと思い、身体に蜜を塗り、
香草を食み、手足の肉を細かく刻み石台の上に並べました。でも、熊は一向にガンスイを食べません。
ガンスイは熊が自分以外のものを食べないように、森に火を付け川に毒を流し地面を掘り返しました。
荒れ果てた世界に、生きているものはガンスイと熊だけになりました。
熊はどんどん痩せ細っていきました。それでも熊はガンスイを食べませんでした。
やがて、骨と皮のみになった熊の腹の中から小熊が這い出てきました。
小熊は母の乳が出ないのを悟ると、ガンスイを食べようとしました。
ガンスイは小熊に食べられるわけにはいかないので、小熊をくびり殺しました。
世界には再び、熊とガンスイだけが残りました。
ガンスイはこれでようやく熊が自分を食べてくれると思いましたが、熊は小熊の亡骸の隣で飢えて死にました。
ガンスイは一人残され、自らの遅刻を嘆きました。
次は「四月」「終わり」「ひきこもり」でお願いします。
119:名無し物書き@推敲中?
11/04/30 23:07:36.99
布団から顔を少しだけ出して窓に目をやると水滴が伝っている。今日は雨らしい。まあ関係ないけど。
ひきこもりになって四月の終わりでちょうど一年になる。つまり、加奈が死んで一年たったってことだ。
起き上がって窓から下の道路を見下ろす。雨の日は真っ赤な傘であたしを迎えに来てくれたっけ。
「結花!」
あたしに気づくと大声であたしの
名前を呼んで、朝からうるさいんだよな、本当に。そんで訳の分からない話するんだ。
「春の雨は優しいんだよ」
「誰に?」
「優しさが欲しい人に」
「なにそれ」
本当訳分からない。分からないよ。なんで、なんで加奈だったんだろう。こんなどうしようもないあたしじゃなくて、なんで加奈が。
「加奈……」
涙が止めど無くこぼれ落ちる。それに呼応するように四月の雨もしとしとと街を濡らしていた。
次題 「チェック」「透明」「インディゴ」
120:「チェック」「透明」「インディゴ」
11/05/01 03:08:29.10
「チェック……チェック……」
口に出しながら、ベルトコンベアの上を流れる製品を一つ一つ指さし確認する。
ここは24工程、41確認地点。
二十四の工程を組み上げられた製品の、四十一度目の確認をする場所だった。
「チェック……チェック……」
物心がついたころからこの仕事をしているが、不良品を見つけたことは一度もなかった。
当然だ。二十四の工程を抜け、四十の確認を済ませた製品だ。不良品があるわけがない。
そう、あるわけがないのだ……たまに、この仕事を無意味に感じる瞬間があった。
そんなときは存在しない透明な檻にのし掛かられ、息が詰まりそうになる。
今日もそんな気分だった。無気力さに体内を溶かされながら、機械的に作業をしていた。
「チェック……チェック……チェ―え?」
その瞬間、私は目を疑った。あり得ないと思っていた不良品が流れてきたのだ。
それは規格外の色―インディゴブルーの奇形品。淡色に慣れた目を刺激する重たい青。
取り除かなければ。それこそ、自分が何十年と待たされ続けた仕事なのだから……
だが。……私は言葉に詰まったまま、その製品を見過ごしてしまった。
理由はわからない。ただ、私はその製品を見過ごしてしまったのだ。
きっとあの製品は、ここまで全ての工程と確認を、同じように見過ごされて来たのだろう。
あのインディゴブルーはどこまで生き残るのか……想像しながら、私は作業を再開した。
次は「鏡」「ゲーム」「裸」でお願いします。
121:「鏡」「ゲーム」「裸」
11/05/05 15:38:32.63
「これ裸のままですみません。他のものと選りわけてたら袋破いちゃって・・・」
「いや構わないよ。大変だったろう?」
彼が手渡してくれたのは有名RPGの続編らしい。公式発売日は明後日だそうだ。
「いえいえ、いつもお世話になってますから。んじゃ僕も戦利品を見たいんでこれで」
「ああ、ありがとう」
彼を見送った俺は早速包装フィルムを外して中を見てみる。間違いない。包装フィルムをジャケットの
ポケットに突っ込んで、トールケースを閉めようとした途端、背中にゴリッと嫌なものが当たった。
冷たい感触だ。鏡面仕上げの初回限定ディスクに小柄な女が映っている。さっきその先でビラ配りを
していたメイドさんじゃないか。ごく自然な受け渡しをしたつもりだったが、喜びの表現が足りなかったか。
「それ、そのまま渡して」
ディスクだけ渡そうとするとそう念を押される。仕方ない。渡すと女はバイクに飛び乗ってその場を離れた。
ケースに仕込んだ発信器を追うよう車で待機中の仲間に無線で連絡するが、実はまあ形だけのことだ。
俺はフィルムに貼られた「Paid」と書かれたアルミシールを確かめ隠しポケットにしっかりとしまった。
この街で出回っている脱法ドラッグを扱う組織の情報は、このシールの中のナノチップに収まっている。
奴らがあのディスクにゲームソフトしか入ってないと気づくのには2日はかかるだろう。だがせっかくの本物、
しかも新作なんだから、次に俺たちに会うまで、せいぜい楽しんで貰いたいものだ。
次「晴れ」「こども」「バイク」でお願いします。
122:「晴れ」「こども」「バイク」
11/05/12 21:18:29.77
晴れた昼下がり。
そろそろ植木に水遣しなきゃね、とガラス壁の外を眺めていた。
フギャー、ニャーゴ、発情期らしい雉猫が坂をふらふらと登って来る。
ピチピチと音の鳴るこども靴を履いた小さな男の子が、虫取り編みを手に追ってくる。
坂の下の方からバルルーンとエンジンを吹かす音が轟き、バイクが一気に近づいて来る。
ゴロゴロと遠くの空で音がして、こちらではお天気雨が降ってきた。
リィーン、カラコロ、戸のカウベルが鳴り客が入って来る。
黒い皮繋ぎの男が男の子を抱き、ピチピチ靴の男の子は猫を抱え、なにも持っていない猫は
少し申し訳なさそうに、ミィギャーー。
「おばさん久しぶり。これうちの餓鬼。猫一緒で悪いけど、雨宿りさせてくれ」
「あいよ。昔、喧嘩とバンドで慣らした悪餓鬼がすっかりいいパパになったようだね」
まあ平日の昼間だけど……
まだまだ現役のジュークボックスでロックンロールを一曲サービス。
グラスにソーダ水の支度。猫には小皿にミルクでいいかしらね。
次のお題は「猫」「現役」「雨」でお願いします。
123:名無し物書き@推敲中?
11/05/16 05:28:50.99
そうそれは例えるなら、雨の日に傘も持たずに外に出て迷子になった挙句、トラックに泥水跳ねられてとぼとぼ歩きもう死んじゃおうっかなぁって気分の時だった。
もちろん実際にそんなことがあったというわけでなくそんな気分、だったのだ。
現役生活最後の試合で大敗を喫し、ちょっと良いなぁって思ってたマネージャーが実は副主将と付き合ってて、大の親友が北海道の大学なんかに進学しやがることを宣言した日だ。
校舎脇を通り、裏門へと近道をする途中に異臭を感じた。なんつーかこう、酸っぱい様な臭い匂い。
顔を顰め、小走りに走りすぎようとする俺の足がホンの少しだけ重くなった。物理的に。
えっ、と思ったのと足元に付いた重りを見つけたのはほぼ同時だったようにだ。猫がしがみ付いていたんだ。茶トラの仔猫が。
俺の足はどうやら彼女にとって良い獲物に見えたらしい。ガジガジとスニーカーをかむ姿は可愛いと言えないことも無いがむしろ憎い。
買ったばかりの靴に穴あけられてたまるか。両手で捕まえると草むらに軽く放った。
靴を確認すれば、靴紐から糸が何本か出てしまっている。なんてついてない日なんだ。
仔猫に絡まれ鉛のような心が更に重くなった俺を更に鞭打つ様な出来事は風呂に入っていたときガヤガヤと騒がしくやってきた。
「たかとしー、お風呂ついでにこれも洗ってくれなーい」何だかご機嫌な母親の声に顔をだすとそこにはあの糞仔猫。
「たかみが、さっき拾ってきたのよ。お父さんに見せる前にお願いねー」
……どうやらこいつはうちで飼われるらしい。
行き場の無いもやもやを抱えたまま俺は糞猫を無言で洗った。
次は「北」「靴」「校舎」
124:「北」「靴」「校舎」
11/05/18 11:11:10.25
北へ。ただただ、北へと歩いていた。
晴れることのない曇天の下、荒れ果てた大地に、血の滲む裸足を踏み出して、一歩一歩。
やがて、廃墟に遭遇した。そこにあったのは崩れ落ちたコンクリート、
錆落ちて骨組みだけになった車、溶解した石油製品。そして……飢え果てた、人間たち。
イキノコリと呼ばれる彼らは、私に食料と衣服を要求してきた。
私はありったけの食料と、着ていた衣服を、すべて彼らに差し出した。
イキノコリはそれらを受け取ると、代わりに私に、ぼろぼろになった一足の靴を与えてくれた。
それは、この街を出ないイキノコリには不要なものだったが、私にはこの上なくありがたいものだった。
それからは、身体は痩せ細り、酸性の雨と砂混じりの風に肌を削られたが、それでも旅は楽になった。
北へ。北へ。……やがて、荒野の中にも懐かしい景色が混ざり始める。
朧気な記憶を頼りに進んでいった先には、思い出の通りに、中学校の校舎があった。
クリーム色の外壁。スチールの下駄箱。プラスティック製のスノコ……
ひとつひとつに歓喜の情を刺激されながら、三階の、端から三番目の教室に駆け込む。
眩しい。窓の外は夕暮れだった。橙色の教室の中、整列した三十二の机のひとつに、腰を下ろす。
ふぅ、とひとつ息を吐くと、スピーカーからチャイムが鳴った。身体から、力が抜けていく。
ああ、間に合って良かった。死ぬときは、この場所でって、決めていたん、だ
次は「肩こり」「腰痛」「部屋」でお願いします。
125:「肩こり」「腰痛」「部屋」 忍法帖【Lv=11,xxxPT】
11/05/22 19:07:58.29
アパートの俺の部屋で、締め切りを前に煮詰まった原稿用紙を前に、頭を掻き毟り、
もんもんと雨の夜長を過ごしていた。
与えられた広告漫画のタイトルは『肩こりと腰痛に効く魔法のパワーストーン』。
本当は原作者が付くはずだったのが逃げた。というか、これ、明らかな誇大広告なのだ。
俺は職業柄、肩こりと腰痛にはさんざん悩まされてきた。で、この手のグッズについては、
まあ詳しかったりする。
この綺麗に黒光りするコークスのような石、原産国の○×国では、既に血行障害や肩こりの
緩和にはなんの効果もないと、政府から告知されている。
編集には掛け合ったがダメ。あろうことか、適当な博士らしい写真を用意しておくから
ついでに、詳しいなら、医学的根拠も俺がでっちあげろというしまつ。
ここのところの、低気圧と雨、加えてこのストレス。まじ、いつもより具合が……
あれ、頭は痛いが肩と腰は、どういうわけか平気だ。効いているのか?
雑誌販売から2週間後、俺はJAR○に注意を受けたりすることはなかったが、
今、病院のベッドで警察の取り調べを受けている。あの石には見栄えを良くする
ために、湿気を帯びると猛毒素を発する塗料が塗られていたのだった。
次は「生体」「体育」「踊り」でお願いします。
126:「肩こり」「腰痛」「部屋」
11/05/22 19:23:39.16
小柄な女がスツールに腰掛ける。彼女は攻撃的なネオンと喧騒の渦から脱出してきたばかりらしく、黒ぶち眼鏡の奥の大きな目を瞬かせていた。
「え、えーと。ソルティードッグ、プリーズ?」
たどたどしく問いかけた女に対し、無言で頷いたバーテンダーはグラスの口を指で濡らす。
「ヘイ、カール。君の好きなジャパニーズガールだぜ? 声をかけてみたらどうだ?」
ダークスーツに身を包んだ紳士が、隣に座る金髪の青年を小突く。
「いや、彼女は若すぎますよ。……しかし、連れはいないようだな」
カールと呼ばれた青年は、彼女に目配せをした。アイサインに気付いてから一拍遅れ、ぎこちない笑みが返ってくる。彼らの背後でまた、大きな歓声があがった。
「どうやら彼女、まだカジノの雰囲気には慣れていないようですね」
「カール、一つ賭けをしないか? 何、ちょっとした推理ごっこだよ」
無言でグラスを乾している女を見やり、紳士風の男がチップを2枚取り出す。怪訝そうな顔をするカールに、
「彼女の職業についての2択問題さ。私は室内勤務とみた」
「面白いですね、乗りましょう。僕は室外勤務だと思います」
カールは女を眺めると、片頬に笑みを浮かべる。カウンター上のチップが、4枚に増えた。
127:名無し物書き@推敲中?
11/05/22 19:34:17.96
「あの腕を見てください。単に太っているわけではありません。レディにしてはかなりの筋肉がついています」
「今時、フィットネスクラブに通う人間は多いぜ? それに、陽にも焼けていない」
「生まれつき色が白いのでは? ほら、ドレスの肩口を見てくださいよ。彼女、肩こりが酷そうだ」 チップが3枚、レイズされる。
「おいおい、あのレディが肉体労働者だとでも言うのか? カール、ここはリヴァプールのカフェじゃないぜ?
ラスベガスだ。私は、一流企業に勤めるオフィスワーカーだと考えるね」
「僕は保険の外交員だと思います。重い書類を抱えて、車を運転しているに違いない」
二人は、互いに勝利者の笑みを浮かべつつ、同時に立ちあがる。
「お嬢さん、一つ確かめたい事があるのですがね……」
「成程なぁ。おい、俺にもカミカゼを一つ」
数分後、二人のチップは見事、カクテルに化けてしまった。
「今回の原発事故の影響で、部屋から出ない日本人が増えたというニュースは見た」
「徒歩での外出を控えれば、例年より腰痛患者が増えてもおかしくはないですね。しかし、まさかあの整体師……」
カールの言葉に、紳士は溜息をついて応じる。
「私よりも年上だったとはな」
128:名無し物書き@推敲中?
11/05/22 21:24:57.90
12歳 銭湯 ふくらみかけ でググれ!
_, -‐ー― --- 、
_,に: ::,:へ: :ィ: : ::_; ;_: :`;ヽ
__/_/_///: : l: : : : : : : : :\: : :\
, '".7: /: /: :/: :/: l|: l: : :l::l: : : :ヽ::ヽ : ::ヽ
. / イ: :/:/: : ::/: /: ::| |: l: : :l: l: :l: :l: ::l: ::l: : :l
/ ./ /: /: / : : /: /::l: :| |::;|: : :l: :l: : l: : l: :l: :l: : :ト
.| .|l: l: :l: : ::/: /i: lハ| |:|::|: :|:|: :|: : :|: ::l: ::l: :l: : :l:\
. ∧/ |:l: :l: : :/:斗|‐;ト|、 |; l; i: :i ;,L;;;_l_: :l: :l: :l: : :|: ,へ
//: :| |:|: :l: ::イ「|:| |i | | l; liく「 i li i;「ヽ;l: l: :l: : レ ∧\
| |: : | |ハ: |: ::| | レf千;ミ i l | 斗ぇL_い: l::l: :l:: :トイ::| | .}
| |: ::| .| いハ / |゙ i:::::} }゙「::::゙iハヽ〉l:l: :l / | .|: | | i
i l; | ヽ ` .ハヽ.〔゙こソ [.i::::ソ}ノ /;;Vレ/ レv:;| l / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
l:| |: :ハ .::: ̄ ゙'-''゚ ∧::|.V |:./ < お兄ちゃんほんとに
ヽ l: ::へ __'_ ..:::::../ |::| | l/ \ えっちなんだからー
_」L:: ;ト` .、 ヾ. ノ , '´ ノ|::l/ / \_________
く\ ヽ:ir‐‐「` -- ' 「 、_/-くヽ‐- 、
129:「生体」「体育」「踊り」
11/05/24 17:00:13.39
「先生は不本意ながら、今年の三月でこの学校を去ることになった。だからその前に、みんなと一緒に
一生懸命に一つのことをやりたいと思う! だから、みんな協力してくれ! 頼む!」
……それまでは、どこか冷めていて生徒にもあまり関心を持たなかった先生。
その突然の言葉に、僕は、これほど勢いよく迷いのない『空回り』は初めて観た、と思った。
先生はその日から、三月の合唱コンクールに向けて全力で取り組み始めた。
クラスの合唱曲も、先生が探してきた変わった外国の曲を使うことになった。
両手の指を首に回したり、自分の胸を何度も叩いたりする踊りのような振り付けも、先生が考えた。
先生は本当に一生懸命で、僕らが失敗すると泣きそうになり、成功してもやっぱり
泣きそうになり―そんな先生の姿を見ている内に、冷ややかだった僕らもいつしか、
全力で合唱コンクールに取り組むようになっていた。
そして、コンクール当日。僕らの声は体育館に伸びやかに響き渡り、伴奏は一音も外すことなく、
合間の振り付けも整然として鋭く決められた。それは他を圧倒する完璧な演技だった。
先生は輝くような満面の笑顔で喜び、僕らも思わず、くさいドラマのように、涙してしまった。
その日の夜、校長先生が両手の指で自分の首を絞めて死んだ。身体には何度もボールペンを
突き立てた傷跡があったが、全てに生体反応があったことから自殺であると断定された。
僕らが歌った曲の元の題名が『呪いの歌』であることを、四月のニュースで知った。
次は「十二歳」「銭湯」「ふくらみかけ」でお願いします。いや、目に入ったからw