11/04/14 00:33:15.95
「うーむ、誰も来ない」
「当たり前だアホ! こんな山ん中で桜祭って何考えてんだお前は!」
ねじり鉢巻に前掛け姿の前田が腕を組んで呟くと、隣でビールケースを運んでいた佐々木がぎゃんぎゃん吠えた。
「いやだから、過疎の村だからこそ我が村唯一の売り物であるこのご神木、『八左ヱ門桜』で村おこしをだな」
「…前田、その着眼点はいいんだが、お前は大きな欠点を見落としている」
ん? と前田は首を傾げる。荷物を下ろした幼なじみはその脳天をすぱこんと叩いた。
「その肝心のご神木の桜はな、…一本しかねんだよこのバカ!」
しかも小せえし! 佐々木が殴ったその手で指差した先には、前田の胸ほどまでしかない桜がひょろりと生えていた。
「まあ大きくならないが故のご神木だしなあ」
「これ一本以外うちの村には桜はないんだぞ。わざわざこんなクソ田舎まで、そのもやし桜を見に来る市民がいると思うのか!」
「まあいないかもしれないが。…まあそうキレるなよ佐々木、一応花は咲いてるし、その内誰か来るだろ」
「いっぺん死ね!」
へらへら笑う前田に、佐々木は渾身の力で回し蹴りを決めた。悶絶した前田が小刻みに痙攣している。
「……おおおお…効いた……だがしかし見ろ佐々木、客は来たぞ…」
はっと佐々木が振り返ると、確かにぽつりぽつりと遠く坂道を上ってくる人影がある。
「って全部下の集落のじじいどもじゃねえか」
「ま、いいじゃないか。のんびり花見としゃれ込もう」
脂汗を浮かべながらへらりと笑った前田に、佐々木は大きな溜め息を吐いた。
──それもまあ、いいかもしれない。
たまにはラノベ風?で
お題は「豆腐」「シュシュ」「公園」でおねがいします