10/11/24 15:57:26
あなた、役者って職業欄に書いているけど、芸名はなんなの?と事務局長の伊刈は電話で質問した。
「実は・・・村上ピロといいます」
伊刈はえ~!?とひどく大きな声を上げながら、近くにあった机や椅子を蹴倒しながら信じられない!とか、嘘でしょう?とか、あんなすごい小説を水島ピロが書けるわけがない
とか、今までの人生の中で一度もやったことがないような大騒ぎをした。伊刈の周りでは部下たちがにやにやと伊刈の大立ち回りを見ていた。伊刈自身もにやにや笑っていた。そして結果的にあなたの書いた「KAGEROU」が大賞になりました!おめでとうございます!と叫んだ。
電話の向こうでは、涙声でありがとうございます、と言っているピロの声が聞こえた。では詳細は後ほど、と言って電話を切った。伊刈は大きなため息をついたあと、にやっと笑った。
「馬鹿が・・・信じやがった。簡単に。こんな小学生の作文が大賞になると本気で思っていやがった・・・。アホガキが・・・」
伊刈は手に持っていた原稿を汚い床に放り出した。近くにいた社員がいかにもわざとらしく足でふんずけた後に、大切そうにその原稿を手に持って抱いて吐き捨てるようにいった。
おめでとう、最後のポプリ社小説大賞受賞作!幻の2000万円の小説!」
ポプリ社の薄暗社屋の一室は、地の底からわきあがるような社員の下卑た笑い声で満ち満ちた。隠しマイクでそのやり取りを聴いていた社長は満足そうにスピーカーのスイッチを切った。