10/06/01 00:47:48
街は戦場と化していた。
市民は逃げ惑い、通りは悲鳴と怒号であふれていた。交差点では焦ったドライバーたちが次々と事故を起こし、
車は乗り捨てられて消防隊の通行を妨げた。立ち昇る黒煙と、赤々と照らし出される夜空は恐怖の象徴だった。
街頭のわずかな警官たちはなにもすることができず、ただ市民の波に飲み込まれていた。自分たちの街でいった
いなにが起こっているのか、説明できる者は誰もいなかった。ついに銃声が聞こえはじめたとき、人々の恐怖は
頂点に達した。
彼女は混乱のなかを、集団にまぎれて西へと逃げていた。コートのすそを握り、急にしゃがみこんだり立ち止
まったりする人をするするとかわして、足早に進みに続けた。
彼女は落ち着いていた。この群衆のなかで彼女だけが、この騒動の原因を知っていた。
計画は、完璧に遂行された。略奪者たちに目に物見せることができた。地獄色に染まった街のなかで、彼女は
笑い出しそうでさえあった。
最初の爆弾で、いったいどれだけの科学者どもを吹き飛ばせただろうか。次の爆弾では、いったいどれだけの
自覚なき盗人たちを地獄に叩きこめただろうか。
数え切れるわけがない。合計二十一にも及ぶ爆弾が、駅で、映画館で、通りのゴミ箱で、すべて予定通りに作
動したことはわかっていた。もちろん陸軍工廠でも。死者は莫大だろう。
あとは、ここから逃げるだけだった。彼女は先を急いだ。爆発のあった中心街からはかなり遠ざかり、市民の
波も少しずつばらけはじめていた。なかには安全を確信したのか振り返り、遠巻きの野次馬となっている者もい
る。彼らだけでなく、当局もすぐにこれ以上の危険がないことに気づくだろう。そうして街の秩序を回復される
前に、隠れ家にたどり着かなくてはいけなかった。