10/05/25 23:24:13
半分まで減った金色のジャムを瓶ごと床へ投げつけて、そのまま彼女は崩れ落ちるように床へ座り込んだ。
白いタイルの床にはガラスの破片。そして砂糖で煮崩れた林檎の破片がベットリと張り付いている。
ああ、せっかく遠方の農場から取り寄せた高級品だったのに。よく焼けたトーストにこの蜜のような林檎を塗
りつけて噛じるのは、ここ最近の一番の楽しみだったのに。
床へ屈んで、ガラス塗れになった林檎の一辺を指で摘まみ上げる。白色蛍光灯の下で見ると、輝かしいはずの
金色がくすんだ黄土色の土塊のようだ。朝日に照らされている時はあんなにも美しかったのに。
私は軽い吐き気を催して、粘つくそれを散らばったガラスの海へ返した。汚れた指をワイシャツの端で拭う。
不快なべたつきはそれだけでは取り除けそうにもない。
彼女は白い足を床へ投げ出したまま動こうとしない。肩が震える様子も鼻を啜る音も聞こえないから、おそら
く泣いてはいないのだろう。居心地の悪い静寂の中で、私と彼女の呼吸音だけが耳に纏わり付く。まるで、部屋
ごと砂糖煮の鍋へ放り込まれたようだ。
とりあえずは、この床へ散らばった不快な物体を取り除こうとキッチンペーパーをホルダーごと引き出す。す
ると俯いたままの彼女がそのままの姿勢で腕を伸ばした。