10/05/23 19:56:04
雲一つない青空から、温かい春の日差しが冬の終わりを告げるようにぽかぽかとした、
木の葉の隙間から漏れる黄金の木漏れ日を浴びながら、僕のお気に入りの場所であるモク
ジイ(庭にある古い大きな木のことを僕はそう呼んでる)にもたれ、本を読んでいた僕は、
その素晴らしく魅力的な空想の世界にのめり込んでいた。
その世界は夢と希望に溢れ、主人公達は皆美しく、気高く、勇気溢れる心優しき者達で
心躍る冒険や、悪党との危険に満ちた闘い、どきどきするロマンスが繰り広げられ、小さ
い頃から体が弱く病気がちな僕を魅了して離さない。
勇敢な凛々しい騎士が激しい闘いの末、悪人に掠われた美しいお姫様を助け、決して実
ることのない愛の炎を燃やしている。しかしお姫様は悪人を愛していて、愛する人の後を
追おうと胸に短剣を突き刺し生き果てる。騎士は絶望に駆られ、姫の傍で自決する。
何度も読み擦り切れたこの本の中でも、一番好きな場面がここだった。悪人も騎士もお
姫様も、皆死を賭して一途な愛を貫き通して死ぬ悲しい物語だけれど、僕はその至高の愛
に憧れずにはいられなかった。
父も義母も異母兄弟の双子達も愛しているけれど、それは家族愛にしか過ぎない。僕は
恋愛がしたい。命を賭けるほどの愛を経験したい。
僕の運命の人はどこにいるの? 美しい人?醜い人? 名前は何て言うの? お姫様の
ように、綺麗な黄金の髪? 夜空のような、美しい漆黒の髪?
そう、青い空に問いかけていた僕の目の前に、突如現れた双子の兄達―猫みたいな顔
をしていて、義母にとてもよく似ている―が僕の想いを乱し、陽に焼けた健康な腕で無
理矢理立たされた。
「義務の時間だ、弟よ」
「我々の聖戦の目撃者となれるのを喜ぶがいい」
厳粛な顔で両手を胸の前で組んだ兄達は、機械のようにいつも決まった文句を並べたて、
まるでそれがこの世で一番大切なことのように言う。
「そろそろ僕を解放してくれないかな? もう十分償いはしたよ」