10/05/22 22:27:32
暑い、夏の日だった。
部屋の片隅で首を振る扇風機は、折り返しに来るたびにカクンと音を立てていた。学習机の上にはコカ・コーラが入ったコップが置かれ、時たまガラスの内側についた炭酸が、空へ舞い上がる風船のように浮き上がっていた。
鉛筆を持つ手は汗ばんで、夏休みの友のどこかしこに黒ずんだシミを残していた。縁側のガラス戸は開け放たれていて、バニラアイスを咥えた妹が遠くの入道雲を見つめていた。
「兄ちゃん」
と妹は言う。僕は、太郎君が2キロ離れたスーパーに分速400メートルで向かった時にかかった時間を求めながら、
「ん?」
と訊ねた。
「しりとりしよう」
カクン、また扇風機が折り返す。太郎君は時計を読めないんだろうか?
「いいよ」
「しりとり」
妹の声は、ほんの少しだけ弾んでいた。
「リン」
僕の声は相変わらず沈んでいた。
「―兄ちゃんいじわる」
「そうでもないよ」
人任せにせず自分で考えてください、僕は解答欄にそう書き入れながら、肩口で額の汗を拭った。
外から生暖かい風が舞い込み、僕のおでこと妹の長い髪を撫でた。カーテンのレールにぶら下げた風鈴が揺れて、僕と同じように、リン、と音を立てた。