10/08/02 15:16:01
お願いします。
バイト帰りに古本屋で立ち読みをしていると、外から大きな音がきこえてきた。おや、
と思ってガラス窓ごしに外を見渡すが、何もおかしな事はない。店先の国道を、いつもと
同じように車のヘッドライトが流れているだけだ。
まあいいかと思って、片手に開いた官能小説の世界に戻った矢先、もう一度大きな音が
きこえてきた。それは連続して轟いた。
再度外を見ると、窓枠に切り取られた夜空の端に、光る雨のようなものを見つけた。
窓に近づいて、夜空を見上げる。
窓枠から広がった夜空には、鮮やかな花火が咲いていた。
ああそうか、今日は花火の日か。そうとわかると、店先を走る車が花火に急いでいるよ
うに見えてくる。店内にいる客も、いつもより少ないかもしれない。
少しの間花火を見上げて、官能小説に戻る。ちょうど生徒が女教師のショーツを取り除
くところだった。盛り上がってくるところだ。しかしどうしてか、文字の上を目が滑って
しまって、上手く集中することができない。外からは相変わらず花火の音が聞こえてくる。
舌打ちして本を閉じる。裏表紙を見るとぼろぼろになった105円のシールが張られて
いた。まあ、105円くらいならいいか。世間は楽しく花火を見ているのだし、今日ぐら
いは、おそらく一度しか使わないボロボロの官能小説に105円払ったっていいだろう。
レジに向かう。店内にいる客は、誰も彼も辛気臭い顔をしている。全員血がつながって
いるんじゃないかと思うぐらい、同じような雰囲気を漂わせている。レジの店員は、特別
辛気臭い。20歳ぐらいの彼が、多分親分だ。淡々と会計を済ませる彼を見ていると、ど
うしようもなく胸の辺りがむかむかしてきた。
手早く会計を済ませて、足早にアパートへ戻った。空は一度も見上げなかった。