10/06/21 11:18:47
黒い森の奥深く。
昼間なのにランタンを手に提げ、固い地面を踏みしめ、僕は生い茂る木々の間を進んでいた。
あちらこちらでは巨大な歯車が顔を覗かせ、うなるような低音とともに回転している。
「こんなところに……」
そう小さく呟いた声も、歯車の音で簡単にかき消されてしまう。
こんなところに永遠なんてものがあるのだろうか?
『永遠の国』
そう呼ばれるこの国は、人々が『永遠』を求めて作り出した機械仕掛けの国だった。全てが人の
手によって作られ、見せ掛けの永遠を与えられた国。
ここはそんな国のはずれにある、永遠に成り損ねた森だった。
簡単に言えばここは、永遠の失敗作。
しかし、失敗作といってもそれなりの永遠の形は存在していて、その証拠にこの森の歯車は数千
年の時を経た今でも、こうしてギシギシ回り続けていた。
こんなところから始めて、よくあれほどの国を作り上げたものだ。
そんなことを考えながら、立ち止まって辺りを見回す。いくら草を掻き分け目を凝らしても、見
えるのは草木と、その後ろから顔を覗かせる歯車だけ。足元の地面は、動物も、虫一匹さえもいな
いため、硬くなってしまっている。そんな地面から生えているのは、本物に限りなく似せた模造品
の草。上を見上げても、同じく模造品の木の葉が全てを覆い隠していて、微かな光も通さなかった。
この森も、きっと初めは明るい森だったのだろう。けれども今では、草木が際限なく成長を続け
て全てを覆い隠し、結果、黒い森と呼ばれる誰一人近づかないような場所になってしまった。
あの永遠の国が出来上がる過程であるこの森を見ると、永遠なんてものはどこにも存在しないの
ではないかとさえ思えてくる。
僕が誰も近寄らないこの森にやってきたのは、人々が自慢げに語る永遠というものに、微かな違
和感を持ったからだった。
短編の始めの一部ですが、よろしくおねがいします!