10/06/04 18:15:40
次は「夜闇」「月光」「お姫様」でお願いします
124:「夜闇」「月光」「お姫様」
10/06/04 23:59:49
「今晩は妙に町がざわついているね。ローカルな祭でもあるのかな?」
駅前の村に一軒のコンビニ、晩御飯を購買がてら、克夫は、雇われ店長のポン太くんに尋ねた。
「はは~ん。こんな静かな夜闇で祭はなかっぺ。いつもの夜だと思うっぺよ」
云われてみればそうか? でも、なんか妙な胸騒ぎがするんだがな……
克夫は首を振り振り、外に出た。ジーパチパチ。誘蛾灯の電撃に蛾が弾ける音。
店舗なら、最近は紫外線カットで虫を寄せ付けない蛍光灯があるんだがな。
今度、漁協で会ったら、店の持ち主の西崎薫に勧めてみるか。
克夫は帰路に浜辺に立ち寄り、そこで、晩御飯の幕の内弁当を食べた。
一人暮らしの、寂しい家で、飯を食う気がしなくなったのだ。
もっとも、夜の浜辺も、人気はないのだが……。
雲間から明るい月が顔をだし、煌く月光にか細い星々の光は圧倒される。
2匹の蛾がスポットライトの中、ワルツを舞った。蛾のお姫様と王子様だ。
「あっ、これだ!」克夫の耳の中で、天然のワルツの音が美しく鳴り響いた。
次は「狸」「月」「坂」でお願いします。
125:名無し物書き@推敲中?
10/06/05 02:18:49
辺りは閑散としていて、人っ子一人いない。耳が痛くなる位の静寂が、彼を襲った。
彼は山奥の砂利だらけの坂を一人登っていた。冬も間近な11月、彼の吐く息は白かった。
街頭は無く、代わりに夜空に浮かぶ月が彼の周囲を照らしている。柔らかな光は、彼の気分を落着かせた。葉っぱの散った木々が、余計に月光を通した。
彼は人間ではなかった。悪魔でもなく天使でもない。阿弥陀如来でもなければイエス=キリストでもない。
では、彼の正体は何か。答えは簡単。狸である。名前が狸と言うわけではなく、彼は正真正銘、生物の『狸』なのである。
今宵の月は、満月だった。毎月、満月の夜には宴が開かれていた。狸だけの宴だ。踊って食べて人間を化かすための宴だ。
やがて坂道を上りきり、頂上に着く。そこは一面の草原が広がっていた。広さは人間で言うところの『コンビニ』程の大きさだった。まあ、草は殆ど枯れているのだけれども。
「およ、おいらが一番乗りかえ?」息を少し切らせつつ、彼はポツリと呟いた。
「うんにゃ、皆は今人間共を化かしに行ってるよ」彼の背後から、声が聞こえた。懐かしい声音だった。狸長の声だった。
「化かしに行ってるってことはもうフィナーレかえ?」彼の問いに「そうじゃな」と狸長は肯定した。
「うじゃ、おいらも化かしに行くとするかえ」彼がそう言って里に下りようとするのを「待ちぃよ」と狸長の声が引きとめた。
「たまにはわしと一緒に、飯でも食わんかい?お前さんとは久しく顔を合わしていなかったのでな」
狸長の提案に彼は「およ、おいらとですか。いいんですか?僕は一般狸ですよ」としどろもどろに語を継いだ。
困惑気味な返答に「たまにゃあ、いいじゃろ」と狸長。まあいいか、彼はそう思って、狸長との食事を楽しむことにした。
満月は、彼らの頭上で未だ光り輝いていた。兎がお餅をついていた。まだ11月なのに、いまからお正月の準備をしていた。
次は「灯火」「夏」「金魚すくい」でお願いします。
126:名無し物書き@推敲中?
10/06/05 04:16:52
月が落ちて悲しみの坂を転がって湖に沈みました。狸寝入りの森は息を潜めて薄く開いた目でちゃあんとそれを見ていました。
月を無くした空は少し暗くなりました。でも星達と狼達はそれを喜びました。 月を溶かした湖は黄金に輝き森を照らしました。
僕はその一部始終を見ていました。
木に掛けた縄の事は忘れて僕は湖に進んでいました。光は辺り一面を照らすほど明るかったのですが少しも眩しくはありませんでした。それはとても優しくまるで母のようなのでした。
周りを見回すと僕のようなのが数十名同じように湖に沈んでいました。僕は少しほっとしました。
やがて僕も他の皆も湖に溶けて結晶になりきらきらと散らばりました。そして僕らは凝固し少しずつ大きくなり新しい月が出来ました。
月はゆっくり浮上し湖面に浮き上がりました。それから一瞬の惜別の輝きの後空に向かって上昇し始めました。僕は、僕らは今まで味わった事のないほどの幸福感に満たされました。狼達は寂しそうに鳴きました。星達は忌々しげに瞬きました。
しばらくして月は止まり、僕らは地上を見下ろしました。そしてさっきまでの僕が、僕らが、迷わないように優しい光を降らせたのでした。
せっかくなので投下。お題は>>125のやつで。
127:名無し物書き@推敲中?
10/06/09 00:49:53
雲間からのぞく半月が、灯火のように仄かな明かりを発していた。
私と先輩は焼き鳥や綿飴を食べたり、射的で千円ぐらい使って百円ほどのキャラメルを手に入れたり、金魚すくいで出目金をすくったりetc、夏のお祭りで大多数の人がやるようなことをし終えた。
いや、訂正。一つだけ残っている。まだ、してないこと。
私達はまだ、花火を見ていない。
ひゅるるるるる…………どぉぉぉぅぅん だぅん、だぅん ひゅるるるるる…………どぉぉぉぅぅん
花火会場に私達がついた頃には、もう花火が打ち上げられ始めていた。
幾つもの色彩が空を舞い、暗闇に華やかさを加味していく。
「きれいですね」うっとりとした口調で、私は言う。「ああ、そうだな」青色の花火が打ち上げられた。
「未央は、花火好きなの?」先輩のその問いに「嫌いだったら、わざわざ見に来ませんよ」と答える。青色の花弁が、吸い込まれるようにして消えていく。
「先輩は嫌いなんですか?」「俺?俺は………あまり、好きじゃない」「どうしてですか?」「すぐに終わっちゃうから、かな」
「でも、終わらない花火なんてありませんよ。雨と同じです」「それでもさ、何か、悲しくなるんだよね。あーあ、終わっちゃったなって言う喪失感みたいな」
喪失感。私は花火が好きだけど、先輩の言うことは良くわかった。時が早く過ぎてるように感じるし、何か、呆気ない。
せめて、私と先輩の関係があの花火みたいにすぐに終わってしまわないようにと願いながら――私は先輩の手を、強く、強く握った。
花火の大輪が、再び夜空に咲いた。
次は「証明」「教室」「欠伸」でお願いします
128:名無し物書き@推敲中?
10/06/15 23:51:59
欠伸はなぜ起こるのか?
私は大学の教室で先生に、欠伸は脳の緊張状態を和らげるために
、また深呼吸するのと同じ作用があります、と教わった。
眠いとき欠伸が出るが、しかし十分睡眠をとった被験者と比較しても有意差はない。
抗欝剤を投与すると欠伸の回数が増えるが、脳内麻薬によって欠伸は抑制される。
欠伸と射精にはなんらかの因果関係が存在する。
欠伸には性的アピールの意味がある・・・。
さてこの興味深い命題、皆さんも一緒に証明してみませんか?
お題は>>127継続で。
129:名無し物書き@推敲中?
10/06/18 21:12:16
3時限目、数学。今日はみんなの苦手な証明問題だ。
先生は逆に証明問題が大好きだから、とても良い笑顔でどっさりプリントを抱えて教室へ入ってくる。
プリントが配られる。流れるプリントを追うようにため息の波。ここからは真剣勝負だ。
と、その真剣な教室に響く、気持ちよさそうな欠伸。声の方に視線が集まる。
「何だ、余裕だな」
先生が意地悪な声をかけると、欠伸の主は慌てて
「違うんです、頭を柔らかくする為にリラックスしようとしたんです」
皆顔を見合わせる。そして教室の中は、無理矢理な欠伸で溢れかえることになった
次は「梅雨」「日差し」「階段」でお願いします。
130:名無し物書き@推敲中?
10/06/20 00:19:36
ディフェンスラインは高い位置に・・・あたかも梅雨前線のように
敵のどんな攻撃にも形を崩さず、粘り強くあれ!
攻撃に転じては、ふいに曇天に差し込む一縷の日差しの如く
鋭く、深く切り込み相手ゴールをおびやかせ!
負けるな日本!頑張れ日本!
デンマークを葬り去り、決勝Tへの階段をかけあがれ!!
お題は、「カズ」「ヒデ」「HONDA」でお願いします
131:名無し物書き@推敲中?
10/06/22 00:56:46
手術も終わり、居眠り半分の彼女の手をとると「あっ!」と彼女の父が叫んだ。
「手術の話を聞いてなかったのか?」と、手術の話を切り出す。
「受胎改善術。環境ホルモン被害に対抗する唯一の出産率向上策だ!」
「ヒデー!小6の娘にそんな手術しますか、普通?」
「手術は成功だ。彼女はもう手をつないだら妊娠する。言うのが遅かったな。」
「え、ええっ?」と脱力したけど…あり得る。この父さんならやりそうだ。
でもいいか。彼女ならいいや。それにしても、残念ではあるなあ。
Hな要素なんて、かけらもない。
OSをインストールして、個人情報を記録する。女の子もパソコンも同じ扱いだ。
Noを叫んでみたところで無駄だ。
DNAを残す事が人類の使命なんだから、彼女の父さんに言わせれば。
A級の受胎能力が何より大事なんだろう。味気の無い話だ。
「出産」は三日後だった。彼女はきまり悪そうにハンカチに包んだ「子供」を見せた。
「ああっ」力無く呟いた。全くもって能率本位だ。「一回の出産で数万倍の効果」か。
彼女が産んだ僕等の子供。薄黄色に固まった卵は、まるでカズノコそのものだった。
※なんとか、全部、普通名詞で通したけど…疲れた。
次のお題は:「数字」「英語」「人工衛星」でお願いしまふ。
132:名無し物書き@推敲中?
10/06/25 20:39:23
「こんな数字ではステルスをまかせられない・・・」
担当のエージェントに告げられた。
「どうしたタイチ、君らしくない。この程度のシミュレーションなら
楽々こなせていたじゃないか?」
「こんなとき英語でどう話せば伝わるんだろ?」
タイチは入所のときから、親身になっていろいろ相談に乗ってくれる
このエージェントにだけは伝えておきたかった。
「最近、心の平衡というか、調和がうまくとれないんです」
きちんと説明したつもりだった。
「どういうこと?」
説明しては聞きただされる、そんなやりとりがしばらく続く。
「・・・とにかく頼むよタイチ。今更後戻りはできないんだ」
僕の予備はいない。僕に最適化されたステルスの攻撃システムは
僕にしか操縦できない。
「yes,sir」
パイロットの心理状況までつぶさに分析し、システムにフィードバックする
新型のこの戦闘機・・・いや飛行型ロボットというべきか。
飛行中のパイロットが不適合と判定されれば、ダミープログラムに即座に切り替わり
その後の一切のコントロールを「magi」が担う。
そう、これはエヴァンゲリオンの知られざる、サイドストーリー。
タイチは戦闘中に人工衛星軌道上に静止した使徒「アラエル」に精神を壊され、若い命を
ステルスと共に散らすことになる。
お題は、「愛」「綾波レイ」「進化」でお願いします
133:名無し物書き@推敲中?
10/07/03 02:12:38
(愛は 新たなる 破滅と進化への 序曲)
黒神と呼ばれ、543年の永きにわたり、
暗黒半球の電波界を牛耳ってきた成層圏プラットフォームは墜落した。
(暗い天球 赤い閃光の綾波 レイが踊り 複雑な文様が次々に生まれては消え 弔いを謡う)
零次はディスプビュアーに流れるデータをリアルの空に目視して、
偽の誘導電波によって友連れになった人工衛星を数える。
クリップボードに挟んだ紙の上、
1から53の数字の横に次々とチャックマークを記入していく。
最後の欄が埋まったとき、静かにペンを置き、隣で見守っていた妻のリタの手を強く握った。
リタは零次の手を握り返す。その手を彼女の膨らんだ、新しい命を宿した腹部へ沿わせる。
天と人の記憶に「bye-bye」、古からの英語の別れ言葉が刻まれた。
別れを返した小さな鼓動の主は、去り行く覇者の魂に見初められ、未来を継承する。
「綾波レイ」。これ流石に普通名詞はないわ。ということで131のお題を採用(_ _;)
次のお題は、「雷雨」「進化」「扇風機」でお願いします。
134:名無し物書き@推敲中?
10/07/05 03:44:01
子供のころ、飛行機が進化したらタケコプターになるんだぜ、と
右隣の席のカドワキくんがでっかい声で話していた。
「そんなわけないよ、首がちぎれちゃう」私は、読み齧った本の通りに答える。
うっせーよガリ勉。不満げな返事とオーバーラップする予鈴の音を妙に覚えている。
外は雷雨だ。湿気と熱気が部屋中にこもり、空気が酷く重い。
築35年のボロアパートは音もよく響く。
激しい雨音と、扇風機の微かなモータ音が支配する、世界から遮断された空間。
一心に首を振る、どこにも行けないタケコプターは、懸命に風を送りだしているが、
ぬるい風が移動したところで、たいして涼しいわけでもない。
雨が上がっても、この部屋で世界を遮断し続ける私には、お似合いかもしれない。
どしゃ降りの雨は、上がるのも早い。
顔馴染みの猫が来るかもしれないから、冷蔵庫の残りを確かめに、私はのっそりと立ち上がった。
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次は「生物」「時計」「洗濯物」でお願いします
135:名無し物書き@推敲中?
10/07/12 15:59:15
生物は皆、死んでしまうらしい。
だから、私が死んでしまうのも仕方ないことなのだ。だって、私は生物……人間なのだから。
もう長くない、と医者が言ってるのを聞いてから、今日で何ヶ月経ったのだろう。もう、覚えていられないほど経ったということなのか。
時計の針は進めども、私にはそれが死へのカウントダウンに聞こえてならない。
ふと、窓の外を見る。
6月の雨が降っていた。外に出なくても、じめじめとしているのが見て取れる。
今、私の入院代を稼ぎながら、高校にも通っている私の妹は何をしているだろう。洗濯物を取り込んでいる最中だろうか。
そういえば、明日は特別に家へ帰ることが許可されているのだ。明日一日だけだけど、とても楽しみだ。
この前、家に電話したとき、妹はカレーを作って待ってるといった。わざわざ1日寝かして、私にご馳走するらしい。もしかしたら、今カレーを作っているのかもしれない。
どくん。
あ、やばい。どくん、どくん。
どくんどくんどくんどぐんどぐんどぐどぐどぐどぐどぐ。
これは、やばい。どぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐ
私はナースコールを押そうと―手が、動かなかった。それだけじゃない。全身が麻酔かけられたみたいに動かない。
瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、生きたいという感情だった。それがもう叶わないことを知っていて、私は願った。
しかしその思いは、次から次へと再生される走馬灯に掻き消された。
私、死ぬんだ。
それが、憎たらしいくらい明瞭に、わかってしまった。
さよなら。
私は、ここにいない妹に、静かに静かに呟いた。
届かない言葉は、私の意識が闇に落ちる寸前で消えてしまった。
136:名無し物書き@推敲中?
10/07/12 16:01:44
次は「遊園地」「観覧車」「両親」でお願いします。
137:名無し物書き@推敲中?
10/07/29 01:46:31
ご迷惑かと思いますが失礼いたします
アリの穴というところで日曜日に競作コンペをやります
お暇な方がいらっしゃればご参加ください
参加作品が5作を越えれば、8月に30枚程度の競作コンペも行う予定です
よろしくお願いします
宣伝、大変失礼しました
○●○創作文芸板競作祭・プチ夏祭り2010○●○
「前夜祭? 祭は不要? 参加作品数が答えです」
テーマ……「蝉」「裸体」どちらでも可、両方も可
会 場……「アリの穴」 URLリンク(ana.vis.ne.jp)
枚 数……アリの穴の枚数で5枚~10枚を厳守して
内容説明に「プチ夏祭り参加作品」と明記
(それ以外は参考作)
日 程……投稿期間 7/31(土)のみ
(日付が変わったら終了)
感想期間 8/1(日)のみ
(5作以上来たら8/2(月)を感想期間に追加)
採点方法……アリの得点をそのまま集計する読者賞のみ
※参加作品が5作以上集まったら、8月20日~22日投稿期間の例年どおりの3枚~32枚までの祭を開催します
その際にはお題は「夏と●●」とします
●●の部分はプチ祭終了後改めて決定します
本スレ スレリンク(bun板)
予備スレ スレリンク(bun板)
138:名無し物書き@推敲中?
10/08/01 23:26:18
両親との思い出を語るとき、決まって私は、遊園地へ家族みんなで行ったことを言う。
観覧車の中で姉と喧嘩してしまったことも。ジェットコースターでお漏らししてまったことも。今となっては、いい思い出だった。
紛れもなくいい思い出だし、忘れたくない思い出だから―だから、私は彼に聞かせた。昔の思い出話を。
「――と、いうことがあったのよ」
私が、家族一緒での遊園地の思い出を語り終えると、彼は興味なさげにふぅんと答えた。
「ほかに感想はないの?」私はつい、いらいらしてしまった。
「ああ、いいお話だったよ」
「それだけ?」
「うーん……じゃあ、代わりといっては何だけど、ぼくの昔話でも聞くかい?」
「釈然としないけど、いいわ。聞かせてよ」
彼は、語り始めた。
「ぼくはね、誘拐犯なんだ。知ってるかい?今、五人組の誘拐犯が、巷を騒がせているだろう?」
「面白くない冗談ね」
「いや、本当なんだ。ま、信じなくてもいいけどね」
そのとき、彼が見せた憂鬱な瞳を、私は忘れることはないだろう。
139:名無し物書き@推敲中?
10/08/01 23:27:51
次は「親友」「ブランコ」「青空」でお願いします
140:名無し物書き@推敲中?
10/08/05 02:36:51
「こうやって世界をっ、揺らっ、すんっ、だっ」
そう言って佳奈はブランコを勢いよく漕いでいた。
意味は分からなかったけど、そうだねと相槌打って僕も勢いをつけていく。でもなかなか追いつけない。
二人は、二つの弧は、追いかけ、追い抜かれ、一瞬目が合い、離れて、止まり、また出会う。僕らは笑った。
楽しかった思い出。佳奈はもういない。
一人でブランコに乗る。
「ずっと友達だよ。親友だよ」―最期の言葉が耳から離れない。
立ち漕ぐ。どんどん勢いを増していく。鎖がギチギチと悲鳴を上げる。
でも世界は揺れない。揺れているのは僕だ。
歪む視界が青に包まれた。澄み切った青色。届くような、気がした。
僕は、青空に、手を伸ばし―手を離し、地に落ちた。
夢を見た。よく覚えていないけど、誰かと楽しくおしゃべりする夢だった。
目を覚ますと体の震えは止まっていた。
でも、少し胸が痛い。気持ちはまだ、揺れ続けている。
141:名無し物書き@推敲中?
10/08/05 02:41:48
次は「目薬」「地球」「爪切り」で。
142:sage
10/08/08 20:18:37
仕事というものは人をどこか歪なものにかえてしまうようだ。
会社にいる時は時計の針を見ながら後どのくらいここにいなければならないかを考え、帰宅すると今度は後どのくらい自宅で腑抜けの状態でいられるかを考える。まことに気ぜわしい。
日々の生活もどこか虚ろなものになる。手落ちが目立ってくる。出がけに鏡を見ていて鼻毛が伸びていることに気づいたことがある。
時間が押しているので仕方なく出社の車中で信号の赤の合間にミラーを見ながら爪切りで伸びている毛を切った。心が寒々とした。
私は仕事を始める前に必ず目薬をさすようにしている。リラックスするため、心を仕事モードにするためなどの洒落た理由からではない。単にこのところ視力が頓に落ちてきて気になっているからだ。
もともと視力はよくなかったが、メガネをかけていても視界が水彩画のようにぼーとにじむことがあると、さすがに自分の目の過度の使用が不安になってくる。
これなどもやはり仕事が自分の身に与えている負担なのだろう。
そんなこと当然のことだと自分に言い聞かせる。身と精神をすり減らして月をしのぐ給金をもらう。大人になったのだから当然のことだ。いやならやめればよい。
しかしことはそんなに単簡ものではない。会社の中にいればおのずと一個の質素なシンプルな自分というものはなくなってしまう。
人と人の駆け引きがある。人間関係の摩擦生まれる。やせ我慢と意地を通さざる得なくなる。あいつだけには見下された視線を受けたくないという針を呑んだような苦痛の忍従がある。
布団の中が苦界から逃れられる唯一の居場所である。その滞在時間はとても短い。這入ってふっとしているとすぐ朝になることもある。
しかし覚醒状態から深い睡眠の状態へ移行する時のあの地球からそのまま布団ごと滑り落ちていくような感覚は何事にも得難い私の快楽である。
143:名無し物書き@推敲中?
10/08/08 20:21:18
あ。上がってる。久しぶりだから間違えたようですね。
次は 硝子 放浪 火災 で。