この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十四ヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十四ヶ条 - 暇つぶし2ch1:名無し物書き@推敲中?
10/01/23 19:56:56
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。

お約束
1: 前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2: 小説・評論・雑文・通告・㌧㌦系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3: 文章は5行以上15行以下を目安に。横幅は常識の範囲で。でも目安は目安。
4: 最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6: 感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。


前スレ
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2:名無し物書き@推敲中?
10/01/23 19:57:55
この3語で書け!即興文ものスレ
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この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層
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この三語で書け! 即興文ものスレ 第十二単
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3:名無し物書き@推敲中?
10/01/23 19:58:38
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
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4:「雪」「キャンバス」「バス停」
10/01/23 20:01:40
(過去ログ見れる人、↑もし、お題が間違っていたら修正お願いします!)


 隆二は基礎工学の授業中、アルバイトに行くために講義室を抜け出した。キャンパス前のバス停に、薄紫色のストールを
巻いた変なオバサンが立っていた。裾を引き摺り加減の深緑のゴスロリドレスだが、どうみてもオバサンは四十の坂は
超えていそうだ。右手に聖書のような分厚い本を掴み、左掌に水晶玉を載せている。近所の人も頻繁に使用するバス停だったが、
今は、他に誰もいない。(皆、ドン引きしていなくなったか?)隆二は薄気味悪く思った。今日は店を開ける当番で、
鍵を預かっているので、遅刻するわけにはいかない。隆二はしぶしぶとバス停へ並ぶ。変なオバサンは振り返り、
隆二にニタリと笑い掛ける。(うっ!)オバサンは、バレリーナなように両手を空へ広げ、
「パラポリハリヒレフレフレユキユキ……」。なにやら呪文のようなものを唱えはじめる。
(うわ~踊りだした)隆二は、いたたまれなくなって、走って逃げる。
 そのまま、バイト先まで走た。
 バス停8つ分を24分。まずまずのタイムだったが、結局、間に合わなかった。隆二が息せき切って、店のシャッターを
開けようとした矢先、爆音とともに、雑居ビルの隣の店舗が火を噴いた。(あっ! ガス爆発だ、か?)黒煙が漏れ出してきた。
隆二は急いで、雑居ビルの二階から階段を降りて直ぐの外へ出た。3階建てのビルがひしゃげ燃えている。
(もし、店中にいたら、俺、ヤバカッタ?)聴こえが悪い。人々のどよめきを抜け、消防車のサイレンが近づいてくるのは
分かった。赤い消防車の車体に降り始めの粉雪がよく映えていた。「パラポリハリヒレ」。そう、耳元で、薄紫のストールを
神々しく纏った誰かが呟いたような気がした。隆二は、放心状態に陥いる。



お題は継続で「雪」「キャンバス」「バス停」。

5:名無し物書き@推敲中?
10/01/23 20:08:08
この板で即死防止って必要なのかしらん?
取り合えず、あげとこ。


6:名無し物書き@推敲中?
10/01/23 21:15:07
雪解け後の道はとても歩きにくい。歩きたくない。理屈は分らないけれども硬い雪よりも滑るし、音も気持ち悪い。
だから、私は春は好きなのに、春になってほしくはない。冬がいい。ずっと寒いのもまた嫌なのだけれどもね。
我ながら、わがままなものだ。
そんなもんだ。
冬のキャンバスではみんな早足だ。少しでもあったかくなりたいかららしい。それはそれでいい。けれども、私を巻き込まないで。
のんびりと冬ならではの澄んだ空を見上げながら、バス停から学校までの坂道をゆるりと歩いている私を睨まないでほしい。
「うわ、またアイツいるよ。いっつもぼおっと抜けていて気持ち悪いんだよなあ」
聞こえているんだよ、後輩? 私はあんたの名前まで知っている。有名だよ、アナタ。
ざっくざっくと忙しそうに雪を蹴りながら、みんなが私を抜かしていく。私は雪をなでている。
好奇と怠惰と同情が入り混じった視線を誰かが私に投げてくる。いつもの日常。あんまり好きでない。
「よっ」
「ああ、おはよう」
「おはよう」
けれども、彼がいるから嫌いにはならない。
彼の名前は知らない。彼も私の名前は知らない。それくらいの仲。だけど、他の有象無象とはちょぴっとだけちがうところがある。
彼も他の人とおんなじようにざっくざっくと雪を蹴りながら歩く。けど、私に追いつくと、彼の歩調は一変する。
彼と二人で並んで、雪をなでる。
「雪をなでるって、不思議な表現するよな」
「今もそう思っているの?」
「いいや、思っていない」
「そう」
あんまり多くは話さない。けれども、彼はいなくならない。
いっしょに並んで雪をなでる。毎日、まいにち。
「じゃ、また明日な」
「明日も雪をなでるの?」
そうだな、と彼は笑った。
私も笑った。
やっぱり、冬は嫌いになれない。


スレが立っていたので即興で。
次も「雪」「キャンバス」「バス停」

7:名無し物書き@推敲中?
10/01/24 20:09:26
とりあえず応援

8:雪、キャンバス、バス停
10/01/24 23:02:21
学生時代の話である。美術部だった僕は
次のコンクールに出展する絵画作品を、あろうことかバス停に
置き忘れてしまった。気づいたのは帰宅後であり、深夜から降り始めた雪に
とても気が気ではなかった。というのも、忘れた作品というのはコンクールの
入賞を狙い、僕の全身全霊の技術をぶつけた大作だからである。
もう少しで完成だからと、持ち帰ろうとしたのが間違いだった。
翌日、休みにもかかわらず僕は朝一のバスに乗った。外は昨晩から降り続いた
雪で一面真っ白である。バスの車内もがら空きで、異様に静かであった。
昨夜に比べれば、ずいぶん小降りになったものの、空は太陽を隠したままである。
まもなく目的地のバス停が見え始めたのだが、僕はそこで降りる気にはなれなかった。
遠くからでも、僕のキャンバスがバス停に立てかけられてあるのがわかる。
静かな周囲に、ただ佇むバス停と雪にまみれた絵画。
徐々に近づくそれを窓越しに見つめると、まるで一つの作品のように思えた。
きっとこの作品はこれで完成に違いない、と、妙に納得した僕は、
席を立つことなく、バス停を後にした。鮮やかな色を雪の下に隠し、絵画は
どんな気持ちで僕を見送ったのだろうか。

お次「仕草」 「完敗」 「耳元」

9:名無し物書き@推敲中?
10/01/25 22:18:23
>>4
訂正m(_ _)m
×)四十の坂は超えて → ○)五十の坂は越えて

10:名無し物書き@推敲中?
10/01/26 10:00:42
応援

11:「仕草」 「完敗」 「耳元」
10/01/26 22:36:56
 客の左隣は俺。向かいはボス。残りの対偶の席には、俺の妹の竜子が入っている。
ゲームも煮詰まってきた頃、ボスがネクタイに手をかけて緩める。
ボスが客に貰った、オーデコロンの香りが空調に乗る。
俺は了解の合図にグラスに口を付ける。竜子はボスの耳元で何か呟く。
それを見て客の片眉が釣り上がる。
 俺はエースのスリーカード。場に緊張が走る。客はジョーカーを交えた「2」のスリーカード。
そして、最弱の「3」で客のあがり。今日も俺達の完敗だ。
「そのトランプセット、ジョーカーが二枚入っているのよ。知らなかった? 明日も私がご主人様ねwww」
「あー、かーちゃんずるい!」
 メイド服を着た竜子が虚しく抗議するく。執事服の俺と親父は溜息を付く。


次のお題は「エプロン」「蝶ネクタイ」「トランプ」でお願いします。

12:11
10/01/27 00:17:06
訂正
× ゲームも煮詰まってきた頃、ボスがネクタイに手をかけて緩める。
○ ゲームも煮詰まってきた頃、ボスがネクタイに手をかけて緩める仕草をする。

きゃーーー 肝心のお題を削っていたorz m(_ _;;;m

13:名無し物書き@推敲中?
10/01/28 11:42:09
"レディ・ゴー!"
 ピストルの音が響き、生徒が一斉に駆ける。空の青は瞬時に深く変化していく。とても綺麗な世界の日曜日だ。

 20メートルを数秒で走り終わった彼らは手近な紙を地面から拾う。書いてあるのは無茶な単語。本人たちも、観客たちも理解している。だからこそ、息を呑んで見守っている。
 借り物競走は体育祭の中でも一番の見所だ。
 しかし、他人を楽しませるだけでは当事者である生徒たちは楽しくない。だから一計を案じた。
 一人が紙を目の高さまで持ち上げて、文字を読む。彼らの足は止まっている。

「ああ! どうして俺のところに蝶ネクタイだなんて悪魔がやって来てしまったんだ!!!」
 唐突に、一人が天を仰ぎ地に膝を付け叫ぶ。
 隣の子供も、後から追いついた子供も同じような咆吼。絶望したかのようにバタリと身体は地面へと倒れる。
 そしてまるで鞭にでも打たれたかのような叫び声を上げて、数百人もの視線を一斉に浴びながらのたうち回っている。

 これは喜劇か、悲劇か、演劇か。あり得ないこと。
 何が起こっているのか理解できない観客たちを無視して、誰かが叫ぶ。
「ああ、なんて酷い!惨たらしい仕打ちだ!こんなものが存在しているわけないだろうに!」 「そうだ! 体育祭にトランプなんて持ってきている奴なんて居るわけない!」
「されど我々はこの使命を果たさねばならぬ! どれだけの時を労そうとも!」
 俺たちはスーパーまで行かなくちゃいけないんだ!
 叫び、休日の学校から制止なぞに聞く耳を持たない十人弱の生徒が消えた。ざわめく校庭。
 何事もなかったかのように放送係が次の組のスタートを告げ、選手は走る。競技は続行される。よく見ると、プログラムを進行させている彼らの顔は心なしかスッキリしているようだ。
 まるで、英雄へ感謝するかのような顔つきじゃないか。
 察した生徒たちは、教員の許へ駆ける。素晴らしき友情だ。


 一度は諦めたように頷いた校長。
 まあ、透けたエプロンとコンビニ弁当を両手に持ってのうのうと帰ってきた訳の分からない彼らへ鉄拳を落とすことに、躊躇なんてあるはずなかったが。


次「部屋」「掃除」「不可能」

14:名無し物書き@推敲中?
10/01/29 23:29:57
もうやめた。
とにかく不可能だ。私には不可能。

フローリングの部屋って、いつまでもキレイなんだと思っていた。

綿ぼこりがふわーっと隅っこに溜まっていく。
何コレ。
窓を開けたら窓から遠ざかるように
私が歩いたら私から遠ざかるように
軽やかにすいーっと離れていく。冷たいもんだね。
流されやすいのは誰だって同じだと思うけど。

掃除がラクだから何も無い部屋のほうが好きだと思ってた。

だけど
すぐに仕様の無い想いでいっぱいになってしまう。
空いているスペースの分だけ
私が吐き出した重たい空気で埋まってしまう。

外はイヤミなほど晴れ。

今日は
やっぱり何もする気になれないよ。



次「姉」「指」「わさび」

15:名無し物書き@推敲中?
10/01/30 13:48:58
「姉」「指」「わさび」

姉の指からしいたけが生えてきた。
おまけに股間からはわさびが。

そしておれのチ○コには今ハイビスカスが咲き乱れている。

お題継続。


16:「姉」「指」「わさび」
10/01/31 02:16:26
僕の姉はもう二十二になるというのに、いまだに指をしゃぶる癖が抜けない。
考え事をしているときなんかに、その癖は出るらしい。
細くて長い右の人差し指が、濡れた唇を撫で、しだいに唇を割って口の中へと入っていき、舌がそれを出迎え弄ぶ・・・・・・。
僕個人としては、なかなかかわいらしい仕草だと思っている。
けれども父親や母親からの受けは決してよくなく、どうにかして姉にその癖を止めてもらいたいと考えているようだ。
そこでアイデアを求められた僕は、「指にわさびでも塗ってみれば?」なんて冗談交じりに言ってみたわけだが、それが実際採用されてしまうことになった。
姉はわさびが食べられない。
けれどもやっぱり癖は癖なわけで、僕と姉以外、誰もいなくなったリビングで、姉はテレビを見ながらついついそのわさびの付いた指をくわえてしまった。
うめき声が口から漏れ出る。
そして、「大丈夫?」と心配して声をかけた僕に対して、姉は理不尽にも、「あんたのせいなんだから、あんたも味わいなさいよ、コレ!」と涙目になって、その右人指し指を僕の目の前に突き出してきた。
ついさっき口に入れたばかりの、姉の指―それは細くて、長くて・・・・・・やっぱりわさびの味がした。


次のお題―「少年」「バナナ」「追悼」

17:名無し物書き@推敲中?
10/01/31 03:25:01
少年の死はあまりにあっけないものだった。
道端に落ちたバナナの皮を踏みつけて仰向けに転倒し、縁石で後頭部を強打するという、
作り話でもあり得ないような直情型の事故死。
担任として、追悼文を頼まれたものの、こんなのは想定外だ。

お題継続。

18:「少年」「バナナ」「追悼」
10/01/31 06:46:11
ぼくは、学食でバナナを食べながらO教授の追悼文を書いていた。
教授は、冬山に出掛けて行って、滑落した。
バナナをこうして学食で食べるのは、最近のぼくの日課で、ぼくの
趣味の自転車いじりと、楽曲ダウンロードの支払いが生活を圧迫
しつつあったからだ。房を切った4、5本のバナナは100円以下で
スーパーで買える。ぼくは一番安い銘柄を買っていた。
追悼と言っても、当たり障りの無い文章しか出てこない。教授とは
専攻の講座で顔をあわせるだけで、人となりも分からない。
バナナを食べながら文章をなんとかひねりだそうとしていたら、
空いている前の席にエツが座った。学食のトレイは持っていない。
しばらくぼくの顔を観た後、エツは静かに喋りだした。
「敬くんは、バナナ食べるとき、どっちから剥く?」
「どっちからって、どういうこと」バナナを房の折り取った上部から
剥くのは困難だ。
「だから、こう、持ったとき、手前の皮からか、向こう側からか」
エツは、ロング・ヘアーをわずかにゆらしてぼくの持っている
バナナを指さした。
「ぼくは、手前だけど」
エツは、うれしそうに話を始めた。
「自分から観て、向こう側の皮から剥くひとは、警戒的なの」
へえ、そうかい、と思った。
「自分の手前から、剥くひとは、正直者、相手に心を許したひと」
相手って。
「それで、少年みたいな心を持ったひと」
「少年みたいな、いつも瞳が笑っているひと、私、好きよ」
彼女は、笑った顔のまま、バッグを肩に掛け、席を立った。ぼくの
事を馬鹿にしているようには観えない。エツの笑った顔は、必死に
固定されているように見えた。紅潮した頬が、引きつって観えた。
長身のエツの去った後、ほのかな、気分のいい芳香がその席に
残った。ぼくは、しばらく彼女の去ったその空間をみつめていた。

次のお題「警備」「ファッション」「荒唐無稽」

19:名無し物書き@推敲中?
10/01/31 14:53:55
「警備」「ファッション」「荒唐無稽」

「あのなあ」
呆れつつ言う。
「お前ら一日警備員だろが。何だそのファッションは。TPOってものを考えろ」
「あらわたくしたちはいつも衣装には気を遣ってるわ。ねえ未暇さん」
「ええお姉様」
姉の狂子に応えて、蚊脳姉妹の妹の方も微笑む。
「このドレスって香港のブティックで七億円もしましたのよ。何かご不満が?」

「……いやそのドレスってのがほとんど透け透けの素材でさ。おまけにふたりともノーブラにノーパンだったんだぜ。
俺はときたらもう警備員服のズボンの前がすっかり第二東京タワー状態。いや参った参った」
「誰が信じるかンな荒唐無稽なホラ話」


お題ケイゾク。

20:名無し物書き@推敲中?
10/01/31 15:34:32
警備主任集めてファッションショーって、荒唐無稽だな。

無論お題継続


21:名無し物書き@推敲中?
10/01/31 16:47:13
  ヨコレスだが、ドイツの小6は、16の単語を使って1分で論述を組立てる練習をしているそうな。

22:名無し物書き@推敲中?
10/02/02 01:06:08
「警備」「ファッション」「荒唐無稽」


 俺は受け取った台本の登場人物一覧を見てため息をついた。
「マンガに出てくる泥棒スタイルの警備員、小林幸子のステージ衣装を着た怪盗紳士、スケスケスーツの警視総監……なんだこの最後の変態は? 文化祭でOKか、これ?」
「OKかどうかはしらん。ちなみにそれ、お前の役だから」
「誰がやるか、こんな役! ったく、荒唐無稽なファッションショーって題に変えたほうがいいぞ。キャラを立てればいいってもんじゃないだろ」
「アイデアを出し合ったときはもりあがったんだけれどなぁ。正直、今思うとなんであんなにハイだったんだろうな」
 いや、そういうことは台本書く前に気づけよ。どんだけノリノリなんだよ、お前らは。
 流行遅れの新型インフルエンザをようやく完治し、久しぶりに登校したら文化祭の出し物は妙なモノになっていた。
 しかし、メイド喫茶派が強行採決するとか聞いていたんだが、あれはどうなったんだ?
「あぁ、あっさり敗れ去った。舞台劇派の買収工作が、メイド喫茶派の連携を寸断したからな。敵ながら見事だった」
 どうやら壮絶な派閥争いが水面下であったらしい。そういや、こいつメイド喫茶の提案者だったっけ。残念だったな、最後の文化祭だったのに。
「ふっ、まだ敗れたわけではないぞ。工作に乗ったふりをして、敵の懐に潜入しているといったところだ。
あがった台本の評価も微妙だしな。まぁ、最後に笑うのは俺達、メイド喫茶派だぜ」
 親指を立ててにっと笑う。いや、俺もその派閥に巻き込むのは勘弁してくれ。
「だけど、このままだとお前、スケスケ警視総監だぞ」
 うっ、それは困る。なんとか脚本を変えさせないと。
 しかし、こいつも女なのに、なんでメイド喫茶やりたがるんだか。
「ま、あんまりかき回しすぎて、共倒れにはならようにな」
「わかってるって。俺達もこれで最後だしな。そのへんはうまくやるさ」
 文化祭まであと2週間。さてどんな結末が待っているやら。


次のお題「殺人」「猫」「マジック」

23:「殺人」「猫」「マジック」
10/02/03 04:33:10
駅に着いたときにはもう深夜零時を回っていた。
人気のない道を通って、家路を急ぐ。
しかし特に急がねばならない理由があったわけではない。
ただ、人間、疲れているときは自然と時間に追われているような錯覚に陥るものなのだ。
そして、普段なら決してしないような不注意を犯す。
途中、近道をしようと思って、公園の中を通り抜けようとしたときのことだった。
猫の鳴く声につられて、ついそちらの方を向いてしまったのが運のつき。
全身黒ずくめでシルクハットをかぶった、いかにもマジシャンというような格好の男の姿を認めた途端、
私は自身の犯した致命的な不注意に気が付いて底寒くなった。
(彼だ、きっと彼が殺したのだ―二人の人間を・・・・・・腹を内から喰い破って・・・・・・しかしどうやって?)
「もちろん、種も仕掛けもございません」
男が、殺人マジシャンがそう言って裏返しにしたシルクハットに、猫が肩からダイヴした。
その動きはすごくスローに見えたけれども、それは、私が何かを理解するにはあまりに短すぎる時間で
―猫の鳴き声が自分の腹の中から聞こえてきたときにはもう、何もかもが遅すぎた・・・・・・。


次のお題―「月」「孤島」「悪魔」

24:23
10/02/03 04:41:49
訂正。
「もちろん、種も仕掛けもございません」
⇒「もちろんマジックです。種も仕掛けもございません」

まさかのお題落としでした・・・・・・。

25:「月」「孤島」「悪魔」
10/02/04 04:59:36
マリーナ・グランデという名前の港でおりて、タクシーに乗った。
長い坂をのぼり、待ち合わせた公園で降りると、ティレニア海のパノラマ。
松が生えていたせいか、柵を越えてのびるその枝と、
空と海だけを見れば日本と変わらない景色。江ノ島あたりでも眺められそう。。
でも日本と違うのは、この国に君がいること。

突然、バイオリンの音がして、柵に手を置いたまま、私は振り返った。
歩きながら君がやってくる。木屑のついたエプロンをしていた。
私はしばらく耳をすませた。孤島のように感じたカプリが、宝石のように思えてくる。
「きれいな曲」
「王子タミーノとパミーナが再会する場面。昨日、聴いただろう」

前の日にナポリで観たオペラはイタリア語だったこともあって、
内容がよくわからなかった。あらかじめ調べておくように言われていたからそうしたけど、
夜の女王と悪魔、王子と女王の娘、メインのその四人の歌だけ楽しんでいた感じ。
「覚えてない」
「月島は相変わらず、か」
成長していないみたいじゃない、と、私はすこしむくれたけど、
「いらっしゃい。会いたかった」
と言われたら涙があふれてきて、目の前のエプロンに顔をうずめてしまった。
「うわっ、バイオリンにぶつかる」
私よりもバイオリンだなんて、相変わらずは君のほうだ。
内容はよくわからなかったけど、タミーノとパミーナが抱き合った終幕はしっかり覚えている。


「太陽」「大陸」「天使」

26:名無し物書き@推敲中?
10/02/10 10:05:57
大陸 天使 太陽

どんよりとした曇り空。大嫌いな地理の授業にも関わらず僕がウキウキしているのは窓際の僕の席から見える、中庭を隔てた向かいの校舎の同じく窓際にいる彼女。大好きな美紀先輩が八月の太陽の何倍も眩しく輝いているからだ。

「ああ美紀先輩……」

これだけ離れていても僕の心を捉え無茶苦茶に破壊してしまう彼女の魅力、射程。僕は大陸弾道弾を思い出していた。

「天使だ……」

いつものようにウットリとしていたその時である。これは…… 夢だろうか、それとも僕の願望が作り出した幻影か。彼女が僕に手を振っているのである。馬鹿な!有り得ない!しかし依然として彼女は手を振り続けている。しかも笑顔で。

「ひゃっほう!!」
僕のなかで何百人という僕が一斉に祭りを始めた。「おめでとう」一人の僕が僕に言った「このやろう」もう一人の僕が肘でつついた。みんなが僕を祝ってくれた。ついに僕にも春が訪れたのだ。妄想の祝祭から戻った僕はこの喜びを早速前の席の親友、中島に伝えようとした。

「おい中島……」

しかし中島は窓の外に向かって手を振っている。そしてその視線は僕に向けられていたはずの彼女の笑顔と強く結ばれていた。

次題 隔靴掻痒 意馬心猿 二律背反


27:名無し物書き@推敲中?
10/02/12 00:28:00
南禅寺裏の眼鏡橋の上を水道が走っている。橋脚の下からは見えない。東山を穿って
琵琶湖の水を通した、所謂疎水だ。水は北接する永観堂の山側を回り、苔むした石垣を
洗って北流する。ほぼ一間幅の小さな川だが、春は桜、夏がくれば蛍、そして秋には紅葉と、
一年中人の目を楽しませて飽きない。無論冬は雪である。
この疎水脇の石畳が、哲学の小径として知られる散策路だ。だが歩くのに学は要らない。
阿呆のようにあっちを見、こっちを覗きながら小一時間もゆくと、やがて銀閣寺に至る。
寺へ行くもよし、今出川通りへ降りて、世俗の喧噪に戻るもよし。いやまて、その手前に、
小さな記念館があるのをご存じだろうか。近代の日本画家、橋本関雪の旧邸である。
関雪の一幅に意馬心猿という作品がある。猿の止まった古樹の下で、たてがみを振り乱し、
肋の浮いた白馬が、四肢を開いて見返っている構図だ。走るでもなく、停まるでもなく、
動揺した畜生が目を剥いて回転するそのさま、よく獣情を顕して人の心の理を騒がす。
そう、騒がす……。はて? 先程まで黒い水面に縷々思索にふけったは同じ心か。
いやはや、人間の出来不出来は生来のもの、表面のみ真似ても上等の人物になる能わず、
まこと隔靴掻痒、修身の道のいかに遠いことよ。
道を下り出町柳に至る。賀茂大橋の下は賀茂川と高野川の合わいで、ここから下流を
『鴨』川と呼ぶ。山から来た流れは疎水と違い、深く、荒く、大小の石を運んで、水の境に
淡い濃淡を作っている。水面はいつ見ても沸き立っていた。傍らを通る車の排気に、
思わず嫌悪と安堵のを匂いを嗅ぐ。ああ悲しきかな、俗なればこそ、俗なればこそ、あの
高みの小径に憧れるのだ。はるか南禅寺の水道橋の下、音しか聞かぬ疎水の源を思うとき、
わが心の震えるのは、ひとえに我が身の濁のためか。
だがよい。所詮は小人、高きに憧れ意馬なるをよろこぶ。この二律背反、愛すべし。

次「ウヰスキー」「でんでん太鼓」「チャンピオン」

28:名無し物書き@推敲中?
10/02/14 18:25:17
「ウヰスキー」「でんでん太鼓」「チャンピオン」

「勝者、金多大器!」
レフェリーの声に会場を埋め尽くす観客らが一斉にわあっ! と声を上げる。
新チャンピオンとなった青年は両手を振り上げてガッツポーズを示すと、どこの
民芸店で入手してきたのか、取り出した木製のでんでん太鼓を揶揄するように派手に
鳴らしてみせた。これからが祭りのはじまりだ、と言いたげなおどけた表情。

屈辱に満ちた表情で、今では前チャンピオンとなった男は力ない足取りで会場を立ち去る。
負ければ即引退、と決めていた試合。男ももう若くはない。
今夜はひとり自宅でウヰスキーか。絶望とともに男は思う。勝てばジムの仲間たちとともに
ビールで乾杯する予定だった。
愛飲していたウヰスキーボトルの中には、すでに致死量の睡眠薬を砕いて溶かし込んである。
あとは今日の敗北の苦さとともにひと息に飲み干すだけだ。
けど、さ。男は思う。調子に乗った新チャンピオンがリングの上でマイクを手に歌い出したとき。
あの判定にはどうあっても納得いかねえよな。辞められねえ。このまま辞められねえよ。
いつのまにか心の奥で、再びふつふつと闘志がたぎるのを感じる。
そうだ。このままじゃおれは納得いかねえ。


次のお題「相対性理論」「バルトリン腺」「一億総懺悔」

29:名無し物書き@推敲中?
10/02/22 02:08:45
いや、可哀想な事をしちまった。だが悪いのは俺じゃない。謝るべきは、理性をぶっ飛ばしたおまえらだろ?精子・インマイサン。謝れ彼女に。一億総懺悔だ(昨日の今日なので少なめ)。

嫌がるフリして実はノリノリなんだろ、と思ってたのさ、最中は。仕方あるまい。彼女のバルトリン腺からは白濁した粘液がいつもより分泌されてたんだから。この好き者め、つってね。
後で調べたら、女ってレイプの方が濡れるんだってな。生命の危機を感じて、本能的に子孫を残そうとするらしい。その時は知らなかったけど。
え?じゃあなんで嫌がってるのが本気とわかったかって?
―腕時計だよ。うん、着けたままだったんだ、俺も彼女も。玄関でしちゃったもんだからさ。
俺は身を以て理解したね。ほらアレ、相対性理論っていうの?違うか?

―俺のは19:30、彼女のは20:20を指してたんだ。
彼女、嫌でしょうがなかったんだろうなあ…


レモンの皮 化けの皮 インダス河

30:レモンの皮 化けの皮 インダス河
10/02/23 00:29:23
 僕は記憶の中で、インダス河の翠の流れとなって風の谷を巡り、やがて、
高原の花の里で台地へ滴る。レモンの果樹に吸い込まれて、果実を張り詰めさせる。
黄緑色の瑞々しい果実は、のどかな人々に摘まれ、騾馬の背で工場へ運ばる。

 もう、その頃には、僕の意識は、他へ漂い出ているのだけれども、
果実は調理され瓶詰めにされ、長寿の里の特産品として、遠く日本へと船旅をする。

 今日、僕は偽りの肉体で、レモンの皮で作ったレモンピルとレモンの果肉の入った
蜂蜜の瓶を受け取る。琥珀の輝きは美しいけれど、僕はためらいなく、すぐに、口に含む。
酸味のある僕の魂の欠片だ。僕は僕の欠けていた部分を取り戻す。
人間の振りをしていた化けの皮がはがれ、僕はインダス河源流の翠の流れへと戻った。


次のお題は「二月」「翡翠」「亀」でお願いします。

31:「二月」「翡翠」「亀」
10/02/24 00:16:13
「甲社は、乙社から仕入れた雑貨や鉱物・鉱石の国内店舗販売および、鉱石の研磨加工を行う資本金2億円の法人である。
甲社が顧客Aに対し、当期二月に販売した翡翠の装飾品(仕入価額20万円)を譲渡対価80万円で譲渡し、
仕入価額と譲渡対価の差額60万円を収益に計上したが、当期3月に顧客Aから「翡翠に亀裂が入っている」との
クレームを受け調査したところ、研磨工程に不備があり同様の亀裂が、他の翡翠にも生じていることが判明した。
そこで、顧客Aに対し不良品と交換に正常な代替品を納品するとともに、現金により20万円の返金を行った。

甲社と顧客Aとの一連の取引につき、甲社の法人税法上の取り扱いについて説明しなさい。」

第一問の問題文を読んだだけで目眩がした。
今年も、とても合格できそうにない。

次、「そば茶」「ドナーカード」「大道芸」

32:名無し物書き@推敲中?
10/02/24 16:29:43
多くの日本人には受け入れ難い発想かも知れないが、私にとっての内臓や器官は、脳の利用資源である。従って、脳死を前提とした移植臓器提供には吝かではない。
だが、あのドナーカードは頂けない。
いくらなんでも安っぽすぎる紙ピラだ。
利用資源とはいっても、自分用に遺伝的にチューンナップされたパーツには、現に脳が働いている現状
からはそれなりの愛着というものがある。
だから血液がサラサラになると言われれば、そば茶も飲んでしまう。
そんなことを考えながら歩いていると、人だかりが目に入った。
ピーターフランクルの大道芸だった。

「中近東」「バーチャルウォーター」「化石水」



33:中近東 バーチャルウォーター 化石水
10/03/04 00:38:51
 中近東にはかつて例を見ないほどの国家が多数あった。石油と呼ばれた宝が砂漠地帯に蜃気
楼ほどのおぼろなビル群を生み出したのだ。でもそれは遠い昔の話だ。石油は既に地球のどこに
も残されてはいなかった。砂漠はただの砂漠になり、街は砂にのまれた。だが、ブイラ・アドはかつ
ての栄華を古い古文書で知り、砂漠へとおもむいた。彼はもう若くはないが1代で築きあげた財の
全てをつぎ込んで砂漠での採掘を試みたのだ。まわりの知人や友は反対をした。馬鹿げた行く末
の知れたことだといった。
 ある日のこと、掘り始めて半年したころのことだが、アドは掘削機のあけた穴のはるか深い底の
方から轟々と何かが湧きだす音を聞いた。これはあの石油に違いないとアドは思ったのだが、し
かしそれがいざ地表に涌出した時には、ただの地下水であるとすぐさまわかり彼は落胆した。しか
し彼の妻は彼に残りわずかになった資金でここに温泉を作りましょうと助言をしたのだった。地下
水は化石水を掘り当てたものだとわかり、それは飲み水や農業用水には適さないものであると判
明したものの(もちろん人口に鑑みるバーチャルウォーターを換算したところでそんな多量の水を
必要とはしないのだ)、この地域には習慣として温泉につかる行為はないものだが、欧州や東洋で
は温泉はポピュラーなものであるし、きっとこれから大規模に土地開発を行えば観光者も誘致で
きると。
 アドは3年を費やし小さな温泉宿を開業した。客はもちろん当初は少なかった。そして半年してもう
後は潰れるのを待つばかりかと悲観していた頃、ある年老いた老人が湯船の中に小さな魚が泳
いでいるのを見つけたのだ。老人は激怒しこんな不潔な温泉には二度とくるものかと言って去って
いった。アドは魚を網ですくいごみ箱に捨てた。また数日後、湯船に魚がいると苦情が発生したの
だった。アドは不思議に思った。なぜどこからも魚が入り込む径路はないはずなのに、またどうし
てこの魚がこんなにも熱い湯の中で生きていられるのか。アドはひと月に数10匹の魚をすくいあ
げた。そしてどうしても誰かの悪戯ではないのだから、きっとこの魚はこの水に元々棲んでたもの
に違いないと首都の学者のもとに手紙を書いたのだった。

「桜」「子犬」「用水路」


34:桜 子犬 用水路
10/03/04 20:55:55
 その子犬は小さくて、まるで角がなくまん丸かったので、マリと名づけた。夜遅くのことであったが、
隣りの村から僕の村にまぎれこんできたのだった。何日か経っても、決してとなり村から何の連絡も
なかった。いっこうに犬の行方が知れないとの噂すら伝わってはこなかった。結局、子犬は僕んちの
マリになった。
 ある日のこと、村一番の老木(言い伝えによれば二百年はとうに過ぎているとのことだ)であり、
花見の時期になれば、国のどこかしこからも客が訪れることで名をはせた枝垂桜の巨木がある境
内に僕たちも花見にいったんだ。巨木の近くになればなるほど人々の場所取りは激しさを増してい
た。でも、僕にしてみれば、たしかに近くで見る枝の見事な様も雄大で見事ではあるも、少しはなれ
た場所でも別に悪くはなく、むしろ全体的な美しさを観察するにはいいと思われた。マリももちろん
一緒であり、大好物であるおでんの大根をやるとよろこんで食べた。
 そこに黒服を着た男と女があらわれた。何故か、同じような背たけで顔も似ていた。
 「もし。お邪魔して申しわけございませんが、その犬の首輪を見せてくれませんか?」
 僕は見たこともない人たちだったので隣村の人かと思って緊張した。
 「首輪ないんです」と僕はいった。父も母も、爺も何もいわなかった。
 「ぼくね、犬は必ず予防接種をしなくちゃいけないの。そして注射をしたら、必ず首輪に注射を
していますよって札をつけておかなくちゃ駄目なの。そうでないと、犬は病気になってしまって、仮
にその犬に噛まれた人も病気になってしまうのよ」と女のほうがいった。
 そのあと黒服たちはなんだかんだと父や母と話していた。最後には爺が僕にマリは家に連れ着
なさいと言いつけたのだった。しばらくして僕はマリを抱えあげた。
 僕はマリと一緒の帰り道、田んぼと田んぼの間に小さくてとても細長い用水路があるのだが、
そこに懸けられた橋の上でマリが蹲ってしまうのを見た。
 「マリ?」
 僕はマリは蹲ってしまったと思っていたのだ。が、よく見ると、マリはその橋から、ずっと上流から流
れてくる桜の花びらが川面をピンク色に染めたのを眺めているようだった。僕はマリの頭を撫でた。
マリはくーんとないた。そしてまん丸の尻尾をもどかしそうに揺すった。

「地震」「地下」「汗」

35:名無し物書き@推敲中?
10/03/04 21:15:39
↑18行目。 連れ着なさいと×→連れてきなさいと

36:地震 地下 汗
10/03/05 23:46:17
 ひとつ言えるのはここが地下であるという事だ。天井は低く、薄暗い。目をこらすと、何だかのっ
ぺりとしているようにも思えた。でも定かではない。
 水の溜りは地底湖だろう。身にしみるほど寒さを感じる。遠くは靄がかっている。そして何より明
かりのような、ぼんやりとしたしるしのような点が無数見えた。何かの目みたいだ。怖い。
 なぜ恐怖が僕をとらえるのか。僕にはこの光景の意味するところがある伝説についての証明の
ように思えたからだ。伝説は僕の国を支配しており、伝説そのものが国であるといってもおかしく
はない。かつて伝説を歪めようとした男が神隠しにあったという伝説もまた国の支配的解釈のひと
つである。それにはもう歯向えそうにない。
 伝説はこうだ。この地表はかつて地下より溢れ出した高熱の溶岩で埋め尽くされていた。これ
は地の神のせいだ。だが、天の神はこのままでは自分の分身である人間を地表で遊ばす事が出
来ないと考えた。そのわき上がる溶岩の火口に息を吹きかけ閉じた。地を冷やしたのだった。しか
しそれでも地の神の力は強かった。何度も天の神の隙をついて地表に噴煙をあげさせた。そのう
ちに天の神も自分ひとりでは地の神の抵抗にあらがうことが出来ないと考え、下僕たちを地に送
ったのだ。下僕たちはその巨大なカラダ全体を自ら蓋とした。そして、やがて地は冷え、人は大地
におりたったのだ。
 だが今でも地の神の抵抗は続いている。天の神の下僕たちには土や砂が堆積して見ることが
出来ないが、今でも彼らは地下で地の神の力と闘っているのだ。下僕たちは地の神の力に対抗し
ている。彼らのカラダは強じんではあるがそれでも熱さは耐えがたい。この薄暗い地底湖は彼ら
の汗の溜りなのだ。僕はそれを眼のあたりにしている。息つかいが聞こえる。そっと耳を澄ますと
彼らの声まで聞こえそうだ。時に地が揺れることがある。下僕たちがもがいているのだ。地の神の
力と拮抗すべく。これが人には地震と呼ばれている。
 
「幕」「夕暮れ」「鳥」


37:名無し物書き@推敲中?
10/03/06 02:13:34
「……というわけなんです、先生」
ひととおりの悩みを語り終えると、A子はそっと顔を上げた。私は戸惑っていた。
生徒の悩みを聞くのも仕事のうちだ。が、率直に言って、私には彼女を導くだけの力も経験もなかった。
そう、私の青春は青くもなければ輝きもせず、ただただ暗黒のうちに過ぎ去ってしまったのだから。
とりあえず、場を誤魔化すしかない。
「あー、うー、そうだな、まあ、そう気を落とすな、若いうちはいろいろあるさ、ハハハ」
ちょっと目線をそらしてみたりする。ところが。
「せんせい……」
なぜか、A子の顔が間近に迫っておる。エエッ、オイ、ちょと、待てってってて、せんせいそういうのって、まだ。
可憐に尖った口先が私の口元をかすった。夕暮れの冷たい空気に、A子の息が生暖かく混じるのを感じた。
私は電撃に打たれたように飛び上がった。あ、あわてて首を引き、この怪しい雰囲気を吹き飛ばそうと、
両の翼で激しく大気をかき回す。
「そ、そうだ、な、A子、夕日に、夕日に向かって飛ぼう! あの太陽が落ちるまでに、地平線まで、いっくゾォー!」
驚き顔のA子をあとに、私は大空に舞い上がった。校庭の一角に立ちつくしたA子の姿が、みるみるうちに
小さくなる。ああ、俺は逃げてるのか、生徒から、んや、A子から、んん、それとも、自分の中の雄から。
いやどうでもいい。今は、今は、俺にできることを、やるしかないんだ。
「飛べ! A子、飛ぶんだ! お前も鳥だろう! さあ!」
A子はおずおずとその小さな翼を広げた。

かくて教師B男とそれを追って空に舞い上がった女生徒A子は、遠い遠い夕暮れの果てへと消えていったのである。
この後B男が理性を保ち得たか。それは聞かない約束よ。だが、これだけは言っておこう。ここスズメの学校では、
こんなこと日常茶飯事なのであります。オクテじゃ雛を残せない、それを教えるのも、学校教育の一環だから、ね。
<幕>

次「キャンペーン」「時計台」「夏野菜」

38:キャンペーン 時計台 夏野菜
10/03/06 21:32:32
 迷路のように奇妙な蛇行をしている泥道沿いには、平屋建てか、もしくはどうみても築にして20
年以上はへている2階建の木造住宅がつらなる。どれも古めかしい材木を組み合わせただけの
造りで、これほど地震の多い日本に未だに平気に建っているのが不思議に思うくらいだった。行
きかう人々の顔色からして貧しさが感ぜられ、そこに住むものは前科者か重度の障害を持つもの、
もしくは外国の不法滞在者であった。僕の家はその中でも一番奥まった崖のそばにあり、豪雨とも
なればいつでも死を覚悟せねばならないボロ家だ。だから僕はいつでも駅に行くまでに、これ以上
心が挫けてしまわないようにそんな光景を見ないで俯きながら背を丸めて歩いてゆく。
 「もし?」
 囁くような声が僕の横から聞こえてきた。僕は何も見ないよう目をつぶって歩いたが声はついてき
た。白い手がのびてきて、それが僕の肘を掴むが思いのほか強く感じられたので思わず僕は立ちど
まった。
 「すいません・・・わたしお店を開きまして・・・その、寄っていかれませんか」
 若い女だった。ここいらに住む人々よりかは、まだ顔色に血の気があった。女の店は以前からある
八百屋であったが、そこは確か、今にも倒れそうな老夫婦が番をしている店であったはずだ。女はうな
だれている僕の疑いを察したらしく、彼女のほうから今は経営者が変わりましてと言い訳がましく言っ
てきた。店の前には不釣り合いなほどま新しい自立式の布看板が強い風にはためいており、開店オー
プンキャンペーンと書かれていた。
 「今は夏野菜がおいしゅうございまして...」
 女は時代錯誤な絣の着物を着ており、胸の辺りは透きとおるような白い肌だった。女は赤い帯のあ
たりを気にして僕の二の腕もっとをひきつけた。僕はよろめき、肩が女の胸にあった。
 「じゃぁ、これさしあげますから」
 女はクーポン件のような紙切れを僕に渡した。そして駅に向かう坂道の途中にある時計台を指
さして、そこで抽選があるからいってらっしゃいと着物の袖を捲り上げながらいった。僕が訳もわか
らないので女に声をかけようとしたら、女は黙って僕の目を覗き込んで指で行き先を示すだけであ
った。時計台には曇り空を背景に薄っすらと明かりがともっていた。時計の針は二時前だった。

「国歌」「戦場」「レンガ塀」

39:名無し物書き@推敲中?
10/03/07 17:28:06
「国歌」「戦場」「レンガ塀」

高いレンガ塀に囲まれた歴史を感じさせる古びた校舎。公立スペル学院。
「なぜ国歌斉唱を拒むんです。あなた方はこの国の国民としての誇りはないのですか」
「ヌルいことを、校長。かつてこの国では愛国心という美名のもとに、多くの若人が
戦場へ送られ虚しく死んでいった。知らないとは言わせませんぞ」
「そうよ。右翼教育反対」
それほど目くじらを立てるほどのことか。民間登用の校長は嘆息する。
要は「思想」が問題なのであって、「国歌」そのものに罪はないはずだ。それに彼らの
言い分を聞いていると、一から十まで押しつけ反対、お仕着せ反対、と叫ぶばかりで
何ひとつ建設的な意見など出ては来ない。どんなささいなことで右傾化と結びつけ、
徒らに大声を張り上げては、校長や教頭を吊し上げるための材料に利用するだけ。
もっとも彼らだけではない。国民の大多数が捏造された自虐史観を盲信し、せっかく与えられた
民主主義の精神すらもその無責任体質ゆえに腐らせてしまっている現状。
「もう、この国も終わりかもな……」
壇上の片隅。校長はひとりそう考えていた。

「凍蝶」「コペンハーゲン解釈」「余桃」

40:名無し物書き@推敲中?
10/03/08 03:21:47
 彼女は楽しそうにコペンハーゲン解釈について話している。
俺は上の空で、彼女が目に力を込めて語気も強く語るその姿を眺めていた。
 カフェオレ買ってくるって席はずしても良いんだが―笑顔がきれいで。
「理論が先行するの。凍蝶よね。理論が先で、実験が後追いする。だから耐えるの」
 話なんて全然聞いてない俺は適当にあぁと相槌を打った。
 馬鹿にするように彼女は片眉を吊り上げて俺をにらみつけた。
「韓非子かな、余桃。寵愛はいつか消えるのよ? もう少し勉強しなきゃ」
「……本当に?」
 彼女は耳を赤くしてそっぽを向き、俺の様子を伺うようにちらっと眺めた。
 思わず笑えてくる。俺が笑ったら彼女の頬が赤くなった。

次の題:「てんぷら」「Windows」「宙返り」

41:名無し物書き@推敲中?
10/03/08 21:08:30
お題:「てんぷら」「Windows」「宙返り」
 
てんぷらに対して、僕はあまり良く思っていない、
なぜなら歴史上のタヌキで例えられている人物がそれを食べて死んだらしいから。
だからと言って食べないのかといわれたら、そんなことはない、エビのまるで、
宙返りをしているようなさまを見ているとついついよだれが垂れてしまう。
 でも、もう食べられない、てんぷらは太りすぎた僕にとって害でしかなくなったからだ。
 だけど、あの味が、あの食感が忘れられなくて、痩せる努力をした、でも長くは続かない。
僕が手っ取り早く痩せるのには、気力、根性、体力、この三つが圧倒的に足りなく、
僕は自分の部屋で、親が買ってくれたWindowsOSが入っている箱と画面とひたすら
睨み合いをした。
 箱と画面とにらみ合って作った僕の作ったCGをたまたま送った賞に入ってしまい、
僕は田舎から初めて上京した。
 都会が僕に与えてくれたのは、たくさんの観客とたくさんの拍手。
 僕にはその拍手の音が、てんぷらを揚げるような音にしか聞こえなくて、
なんだか涙がこぼれた。

次お題:「こっぺぱん」「お汁粉」「えんぴつ」

42:名無し物書き@推敲中?
10/03/09 20:38:21
「こっぺぱん」「お汁粉」「えんぴつ」

おなかすいた。パパもママもかえってこない。
たまにかえってきてもママはこわい。おまえにたべさせるものなんてないって。
パパはたいくつするとぼくをけとばす。なんどもなんどもけとばす。
おなかすいたよ。おなかすいたよ。

えんぴつでちらしの裏にかく。こっぺぱん。お汁粉。どーなつ。プリン。
いくつもいくつもかく。
おなかすいたよ。パパ。ママ。
いいこにするから。ぼく。いいこにするから。

来年40歳になったらちゃんとおしごとするから。


次「詞藻」「とべら」「柳筥」

43:「詞藻」「とべら」「柳筥」
10/03/10 00:33:24
 並べられた三つの漢字を睨みつける。
 『柳筥』『詞藻』『海桐』
 家庭教師の先生の出した読みの問題は、おおよそ一般的に高校入試にでてきそうな漢字ではなかった。
 二つ目だけは辛うじて読みそのままで正解する事は出来たけれど、残りの漢字の読みはどうやっても分からなかった。

 先生の事が好きだった。初めて家に挨拶に来たときから、ずっと心の中で想い続けてきた。僕の態度から、薄々は感付かれているかもしれないけれど―
 先生は派手な人ではない。文系の大学を卒業したばかりの、細長な眼鏡のよく似合う色白で落ち着いた雰囲気の美人だ。けれどなぜか、何時もきつめの柑橘系の香水をつけている。その香水の匂いが、今日は何時にもまして強く感じた。
「合格したら、ご褒美をあげる」意味深な笑みと共にそんな言葉を言われたのが、昨日だ。
 それから僕は妙に先生事が気になって、思うように勉強がはかどらなかった。
 ご褒美という響きは甘美なものに思えたけれど、もしかすると僕の思い過ごしかもしれない。無垢な純白の花のような先生に限って……でも―
 頭の中で否定と肯定がぐるぐると回る。そんな状態で今日先生を迎え、僕がもじもじしていると三つの漢字がノートに書かれた。先生の真意は読めないけれど、昨日の帰り際にご褒美の言葉と一緒に見せたあの妖しい微笑が、いままた僕のノートを覗き込んでいる顔に浮んでいた。

 先生が帰った後、僕はネットで三つの漢字を検索してみた。
『やなぎばこ』柳の枝を編んだ蓋つきの箱。『しそう』修辞と解釈するとレトリックか。『とべら』? そこで僕の手は止まった。
画面に映し出された海桐の花は、先生のように小さくて白い可憐な花だった。
つまり箱入り娘、ということだろうか? それとも何の関連性もない三つの漢字だったのだろうか。焦点を定めずに考えていた目を画面に戻すと、花とは別の意味が書かれた項目が目に入った。
 もうひとつの意味を検索した時、ぼんやりと何かが見えた気がした―



44:名無し物書き@推敲中?
10/03/10 00:38:44
次のお題:「レモン」「引き戸」「競技場」

45:名無し物書き@推敲中?
10/03/11 20:50:15
>>43
節子!それ「やなぎばこ」やない、「やないばこ」や!

46:『レモン』『引き戸』『競技場』
10/03/11 21:33:26
ユウジが部室の引き戸をガラッと開けるとタカがレモンをまるかじりしながらマンガ雑誌のグラビアアイドルのきわどい水着姿に見入っていた。
ユウジがタカに「お前すっぱすぎるだろ、それ」と言うと、タカは「ユウジ、気合いつけるのはこれが一番だぜ」とグラビアアイドルのきわどい水着姿から
目を離さずに答えた。いよいよ明日、サッカーの全国大会の予選が始まる。今日は軽めの練習で調整する予定だったが、ユウジは朝から気が高ぶって仕方がなく、
朝一番で部室にやってきた、はずだった。他の部員は放課後、部室に集まる予定である。まさか自分以外で朝からここに来る奴がいるとは思っていなかった。それがタカだなんて…。
タカは身体能力が高いわりには、あまり練習に熱心な部員ではなかった。しかしそれでも、監督はタカの身体能力に賭けたのだ。選手の名簿を監督が読みあげた時、
そこにタカの名前が入っていたのは、周り以上にタカ本人が驚いていた様子だった。ユウジはその時のタカを思い出した。
『国立競技場…マジやばい』ユウジの鼓動はワンテンポアップした。「タカ、ちょっとボールまわそうぜ」ユウジはタカに言った。
グラビアアイドルのきわどい水着姿から目を離そうとしないタカは、「一回抜いてからな」と答えた。ユウジは『駄目だこりゃ』と思った。

次は「かもめ」「北回帰線」「審判」

頑張ってね!



47:名無し物書き@推敲中?
10/03/12 12:52:23
サンなんとかって名前の小汚い港に寄港してみて、船窓から眺める港の景色で最初に意識したのがカモメ。
なぜかってえと、ちょうど船のブリッジに置いてあるCDラジカセからカモメが翔んだ日なんて古い曲が流れてきたからだ。
キャーキャー鳴きながら飛び回ってるやつらをポカンとしながら目で追っていると、おやっさんのダミ声がオレ背中をどやしつけた。
「ボケっと突っ立ってんじゃねえこのタコスケ!、とっとと荷降ろし手伝ってこい!」
「あ、スンマセ… 」
もごもごと口ごもりながらオレはおやっさんの脇を走り抜けて船倉に向かった。
遠洋漁業の漁船に乗り込んで初めての航海だというのに、北回帰線を越えたあたりからもうホームシックになりかけてる。
つい3ヶ月前まではフツーのリーマンしてたオレにとって、船での毎日はわかんないことだらけで右往左往のし通しだ。
「うわっ!」
狭い廊下を走っていると隅に積んである頑丈な木箱に蹴つまずいてスッ転んだ。おとついもこのクソ木箱に足を取られてしたたか膝を打った。
「ったく、こんな狭いとこに物おくなっつーの… 」
オレは毒づきながら立ち上がると廊下に赤い筋がついてる。手を見ると床にこすったせいで掌から血が滲んでいた。
「くそっ、なんでこんなことに… 」
これといって建設的な趣味もなかったオレはギャンブルが唯一の楽しみだった。
んでパチンコに狂った挙句とうとう街金にまで手を出し、にっちもさっちもゆかなくなった。
その街金ってえのは自己破産なんてことで見逃してくれる優しい手合いじゃない。
アチラさんとすりゃオレに保険金かけて自殺さしても構わなかったらしいが、殺さないでくれと土下座して頼んだ結果、送り込まれた“転職先”がここ。
まあ、最後の審判がくだったってことだろう。

次は「港」「リーマン」「ギャンブル」ってことで、お願いします。


48:「港」「リーマン」「ギャンブル」
10/03/13 01:32:52
 ペリーマン監督はギャンブルに目がなかった。普段から港町の外れにある競馬場で、酒
をちびりとやりながらギャンブルに興じる姿が目撃された。
 生粋の勝負師、といえば聞こえはいいが、常識を逸脱した戦術や選手起用は、しばしば
評論家から愚か者と揶揄される事もあった。
 しかし、しかしだ。その愚か者のペリーマン率いるボロセロナが、一部昇格一年目にし
て、世界一の栄冠に手の届く所まで来ていたのである。
 ボローニ港に新設された競技場には、溢れんばかりの観客が詰め掛けていた。収容人数
十二万。港に浮ぶ箱舟をイメージした巨大な競技場は、まさに歓声の渦に飲み込まれよう
としていた。
 ピッチの中央で、審判がホイッスルを吹き鳴らす。ひと際大きな声援が上がった。ワー
ルドウイナーズカップファイナルの幕開けである―


 トップリーグ開幕当初。リベロに据えられたのは、若干二十歳のミシェル・クリーマン。
二部リ-グでは皇帝の再来と呼ばれ、長身痩躯ではあるが、その抜群の攻撃センスには目
を見張るものがあった。
 だが敵将は、彼の弱点は脆弱なフィジカルにある、と開幕前から指摘していた。その他
の選手に関しても、一芸に秀でてはいるが、とてもトップリーグでやっていける素材では
ない、と酷評されるほどの寄せ集めチームであった。
 しかしシーズンが開幕してみると、あれよあれよという間に優勝をさらってしまったの
であった。そしてその勢いのままに、ウイナーズカップファイナルまで勝ち進んだのである。

49:名無し物書き@推敲中?
10/03/13 01:33:46
 ―決勝戦は終盤を迎えていた。誰もがこのまま延長に入ると信じて疑わなかった。だ
がその刹那、海を模した螺旋状の観客席から、荒ぶる波のような歓声が湧き起こった。常
勝軍団ユナイテッドマウンテンから、ロスタイムに鮮やかな勝ち越し点を奪ったのだ。
 得点者は、一分前に交代で入った、ゲーリー・マンセル。今季、監督が発展途上国から
連れてきた一人であった。
 まさにペリーマンマジック。観客は狂喜乱舞し、ペリーマンの名を連呼した。

 試合後のプレスルームで、記者たちは世界最高監督となったペリーマンを囲んだ。
「いまや太陽系軍団と呼ばれる程のチームを創り上げた監督の手腕は、実に見事なもので
すね。世界各地から無名の選手をどのような基準で拾い上げてこられたのですか?」
「なに、簡単だよ。名前に私と同じリーマンとついている選手を探して来るよう、スカウ
トに言ったまでだ」

 その年の終わり、クラブ創設以来の快挙、世界制覇を成し遂げたにも拘らず、ペリーマ
ン監督は解任された。
 ギャンブルとも呼べるペリーマンの選手起用もさることながら、絶大な支持を勝ち取っ
た監督を、あっさりと更迭したフロントの決断も、ギャンブルであったと言えよう。

50:名無し物書き@推敲中?
10/03/13 02:04:58
題:「港」「リーマン」「ギャンブル」(継続)

 お香をつまみ、手を額の辺りに掲げて目を瞑った。
 俺の目の前には、棺と、写真と、ほんの一握りほどの花束が一対。それだけ。
祭壇に掲げられた写真には、微笑む先輩の顔があった。
 口髭にエラの張った顔の写った写真から、俺は思わず目を逸らした。
「人生なんてギャンブルなんだよ。お前にはわからねえだろ?」
 先輩はキャンパスで俺を見つけるたび、そういっていた。
「お前はきっとリーマンだぜ、サラリーを頂戴して安全に生きる、安牌切るような、な。
俺ぁ違うぜ? デカく張るからな」
 彼の言葉が聞こえたような気がして、写真に目を戻した。
 先輩は先日、とある港で水死体として発見された。きっと「デカく張って」失敗したんだろう。
彼はきっと、俺の目から見ても、どうしようもなかった。
「お前よ、そんな人の目見てな、安全にな、人の気に触らないようにしてな、楽しいか?」
 写真に写った笑顔を見ると、彼はきっと最後まで楽しく生きたのかもしれないと思う。
「ダメでもな、自分を全部掛けるんだよ。そうじゃないと人生面白くないぜ?」
 祭壇の前にいる坊さんの読経を聞きながら、思わずニヤけてしまった。

次 : 「ウイスキー」「リモコン」「芸術」

51:名無し物書き@推敲中?
10/03/13 02:06:40
忘れてました。お題が浮ばないので継続でお願いします。

52:「ウイスキー」「リモコン」「芸術」
10/03/13 20:07:21
ウイスキーを初めて飲んだのが、16歳の夏だった。友人がスーパーの酒類コーナーで万引きしてきたしろものであった。
友人宅で気持ちが浮き立つのを抑えた事を思い出す。
私達二人はウイスキーの熱くむせる香りにたじろいだが、大人の男を演じたくもあったし、無理に平気なように装った。
私達二人はすぐに酔った。気が大きくなり、大声でしゃべりちらした。もう大人の男を装うことは忘れていた。
友人はテレビのリモコンを取り上げ、1階の居間の窓から力をこめて隣の家に投げつけた。
リモコンはくるくる回って隣家の窓ガラスにあたった。金属的な音があたりに響いた。私達はもう夢中になって笑った。
友人の話だとその隣家の主はなんでも自称芸術家だという。要するに、当時の私達の観念では、稼ぎもない、家人に迷惑をかけている無能な男、というわけであった。
その自称芸術家は、誰も見向きもしないヘンテコな絵を描き、誰も理解できないし、読もうとも思わない詩を書いている、と友人はもう奇声に近い大声で私に言った。
私はその男のダメっぷりを想像するだけでおかしくてたまらず、大きな声をあげて隣家に、リモコンを持ってくるように命じた。すると背の高い男が一人で出てきた。



53:「ウイスキー」「リモコン」「芸術」
10/03/13 20:09:41
男は手にリモコンを持っていた。私達は怖気づいてしまったが、あいつは世間のクズなのだと、全然怖がる必要はないんだと、お互いの目で言いきかしあった。
男は、はっきり顔がわかるところまで近づいた。顔は整ってい、鼻筋はすっきりし、形のよい唇と優しそうな目元には穏やかな微笑みが浮かんでいた。
男は「どっちが投げたんだ?」と私達に尋ねた。私達は黙っていた。男は「君たちは酒を飲んでいるな?」とやや厳しい口調になった。私達は黙っていた。
「あんな大きな声をだしてちゃ、僕が言わなくても、君のお父さんもお母さんも、後で大変だぞ。これはテレビのリモコンだろ。ガラスはいい。こっちで始末するから」と友人に向かって男はリモコンを手渡した。
友人はさっきまでの勢いはどこへやら、すっかり萎縮してしまい。「すみませんでした」と、くぐまって、小さな声で、もうつぶやくと言ってもいいくらいになって、視線も泳がしながら、答えた。
 それから時がたち、年齢だけがかさんだ。それを大人というのなら、私は正真正銘の大人だ。あの当時の友人が言ったところの自称芸術家は本当の芸術家になってしまっていた。
描いた絵がフランスのなんとかいう賞をもらったそうだ。あの時の友人とはもう連絡もとっていない。友人の選び方を間違うと、大きな財産をなくすに等しいようだ。


54:「ウイスキー」「リモコン」「芸術」
10/03/13 20:11:33
次は「ガラス」「未成年」「歌」でお願いします。

55:ガラス 未成年 歌
10/03/13 23:36:04
 ミーナは26になった。歌手になるために青森から出てきて10年が過ぎた。かつて活動を共に
していた子にはテレビにも出演して知名度を得る者もいた。でも、それはほんの一時期であり、
主だったコネクションが消滅してしまえば、それまでだった。女男の関係が、それだった。
 ミーナも、その様な誘いが頻繁にあった時期がある。ある上場企業の会長のパトロンがついたこと
もあった。でもそれは生活だけのためにである。別の力でメディアへの露出をあげたくはなかった。
 ミーナは25辺りから、歌でやってゆくのは無理なことはわかった。本物の歌手であれば、メディア
の力を借りなくても歌手でいられることはできるだろう。でも本物の歌手など、この世にはいない。
彼女が求めたのはもっと違った何かであった。
 ミーナは三鷹にあるガラス工芸の教室に通うようになった。駅から20分ほど歩いた森の中の小
さな教室であった。生徒のほとんどは地元の主婦たちだ。創作の合い間には子育ての話などが中心
であったが、それがミーナの心を何故か励ました。主婦たちの中には家事に追われ、疲れた顔をして
いる者もいたが、みんなが幸せな顔をしていた。
 主婦の一人に、若い頃ミーナのライブにきたことがあるという子がいて、ミーナにひどくなついた。
 「わたしミーちゃんのライブで主人と知り合ったのよ」
 彼女は未成年で結婚をして2人の子供がいた。二人は窓辺の小さなテーブルを挟んで腰かけていた。
彼女は携帯の受付画面に子供の写真を使っていたが、それをミーナに見せた。
 「かわいいね」とミーナはいった。
 彼女は満足そうに携帯をたたみ、ミーナの空になりかけた茶碗に紅茶をそそいだ。
ミーナと彼女は長い間話した。ミーナはこんなに他人と会話したのはいつ以来だろうと思うくらい
だった。その中で、ミーナはピンと来る事があった。彼女の夫が、かつてミーナに頻繁に言い寄っ
ていた、その界隈では有名な浮ついた男だとわかったのだった。
 ミーナは教室を見渡してみた。昼下がりのやわらかい光が室内を満たしていた。あいも変わら
ず主婦たちは幸せそうだった。でも、ミーナは主婦たちの幸せが、自ら演じているプライドの現れ
であるかのようにその時感じたのだった。ミーナは大きく息を吸い込んで、もう一度吐いて、しびれ
た足を組み直すのだった。

56:名無し物書き@推敲中?
10/03/13 23:36:44
「バランス」「綱」「ナイフ」

57:「バランス」「綱」「ナイフ」
10/03/14 03:16:34
 眼下に見えるのはナイフだろうか。鋭利な突起物がびっしりと敷き詰められている。武
蔵は断崖に立ち、吹き上げてくる風に身を任せていた。
 額の汗を拭う。ここまで来るのにもかなりの時間を費やし、喉がからからに渇いていた。
 武蔵の数ブロック先には、不安定に揺れながら上下するクレーンが見える。先へ進むに
はあのクレーンに飛び移り、その反動を利用して更に先の崖へ飛び乗らなければならない。
 少しでもバランスを崩せば奈落の底。命はないだろう。武蔵の鋼のような肉体を持って
しても、それを免れる事は不可能だと思えた。
「さあ、どうしたの。はやく飛んで!」
 挑戦的な声が耳元で響く。
 どうやら武蔵が、今までのトラップを簡単にクリアしたのがいけなかったらしい。声の
主のあどけない顔が怒りに歪んでいた。
「降参っていうのは駄目なのか、美紀ちゃん」
「ダメ、絶対に! まだまだ許さないんだから!」
 バランスボードの上で溜息をつく。
 いま話題のバランス型フィットネスゲーム機。こんな物を妻の誕生日に送った自分が馬
鹿だった。
 まあ、今更後悔しても遅いんだけれど。
 美紀の睨むような視線に促され、ボードの後ろ部分を踏んで画面上の武蔵を後退させる。
勢いよく助走に入ろうとしたところで、
「ちょっとタイム!」
 美紀はゲームのエディット画面を操作して、更にナイフ状のユニットを追加した。これ
はもう絶対にクリア出来そうにもない。
 フィットネス効果で俺が痩せるのがはやいか、それとも娘に嫌われるのがはやいか。ど
っちにしてもこれは諸刃の剣ならぬ諸刃のナイフだな。

次は「円周率」「農園」「オリジナルルーティン」でお願いします。

58:円周率 農園 オリジナルルーティン
10/03/14 19:37:19
 施設の中庭は農園になっていた。作業は農作業だった。囚人たちは人形のようにこなす。囚人た
ちは死刑囚である。
 刑務官の阿呆は、囚人が入所する度に彼の胸のバッチに標された〝あほう〟の文字を見て、少し
でも笑んでくれることに救いを求めていた。彼らには絶望がやがて訪れるのだが、せめてそれまでは
魂の救済の可能性を信じていたかったからである。
 ここには完全な絶望が存在する。阿呆はまだ薄暗い早朝、囚人にそれを伝えにいく。阿呆は監視
窓ごしに起きてくる囚人の目を見ない。数センチ下の頬の辺りを見て、囚人に伝える。若い頃は囚人
の目を見たものだ。でも、歳を重ねるごとに彼らの絶望が彼らの瞳ごしに伝染し、彼にある暗示をかけ
るようになった。暗示を言葉にするのは難しく、それが余計に彼を苦しめた。
 ある囚人が農作業同様に、日課として円周率を暗記するのだと、円周率の数字の羅列されただけ
の紙を大事にしていた。彼はやがて処刑されるのだが、阿呆がその後、囚人の部屋と片付けている
と紙切れを発見したのである。それは枕もとに隠すようにあった。彼は死の間際までこれをお経の
ように唱えていたのだろうか。阿呆はその紙切れを眺めるようになった。やがて死刑囚を見送る度にあ
の死刑囚と同じように数字の列を暗誦するようになったのである。暗誦といったが、今ではそれは自動
的に流れる彼の心の歌のようなものになっていた。
 阿呆は齢76で死んだが、死の間際に夢を見た。あの死刑囚が枕もとに現れたのである。臨終
に立ち会った家族は阿呆が死に際に笑んでいたことを証言している。夢の死刑囚はこう言ってい
た。「だんな、あほうのだんな、わたしゃ、天国でいろんな物事を眺めていたが、一番注目してたの
は、だんなのことですよ、だんなはわたしが入所した頃笑わしてくれました、だんなは、わたしが死
んでからも、わたしのことを考えてくれてました、おまけに、だんなはわたしのやっていたことを、続
けてくれました、それはだんなに役に立ってました、あれはきっと、だんなのオリジナルルーティン
になったんですねえ」
 阿呆は夢の中で、自分が夢見てることを知っていた。自分は夢の中で、自分が何事か知らない言
葉を夢見てる事に失笑したのである。阿呆は死の間際、これに感動して失笑したのである。


59:名無し物書き@推敲中?
10/03/14 19:38:00
「山羊」「悲鳴」「柵」

60:名無し物書き@推敲中?
10/03/15 03:16:53
深夜三時。ブラウザの文字を読む俺の意識が、背景色の白と混ざり始める。
ピクセルが……。そう、液晶画面の、見えるはずのない微少なピクセルが粟立って、
看板に使う巨大な電光掲示板のように、白いランプを幾何学的に並べた平面として知覚される。
やがて俺は、その真っ白な画面の上を、飛翔しはじめるた。
ここは綿花の大栽培地だ。
鳥の目は鋭い。豊穣そのものの大地にもこもこと花開いた綿は、実は羊の背中で、
怯えきった黒く細い顔は、土に突っ込まんばかりに項垂れている。俺はその上を、どこまでも、
どこまでも飛ぶのだ。
と、丸い地平線を斜めに区切って、一本の黒い線が動いているのに気がついた。線は近づいてくる。
線の正体はわかっている。それは木でできた柵だ。ぴょん、ぴょんと、柵は羊の上を一列、また一列と
飛び越えながら、まっすぐに、いや斜めに、もとい、やはり真っ直ぐに、こちらへと向かってくる。
私は頃合いをみて、柵の上に舞い降りた。
「一列検索、異常なし。一列検索、異常なし。」柵はその全体でもって呟いている。
私は聞いた。「山羊を捜しているのかい?」 柵が答える。「そうですよ。山羊をね。あ、あれ、話し
かけられたから、わからなくなった。今の一列、ちゃんと検索したかな?」「さあ」
柵がジャンプを止める。羊の列の間に着地した柵は、ずぶりと不気味な音を立てて、深く畑に突き立った。
羊のおびえが震えとなって、柵の停止位置から直角に、柵の動きの続きのように、白い世界を
伝わっていく。とそのとき、今しがた飛び越えた一列の羊の一頭が、がばと地面から顔を上げた。
「あれだ! 山羊はあそこにいるぞ!」私が叫ぶ。山羊は羊のかぶり物を脱ぎ捨てると、ちらりとこちらを
振り返って、あとは一目散に柵の来た方へと逃げ出した。
「何してるんだ! 追わないと! オイ、追わな……あ、うあああああ!」声が悲鳴に変わる。
羊の群れがもこもこと動き出し、行と列を一瞬でかき混ぜたのだ。あたりは羊毛の海となり、柵はそれに
飲まれて、みしみしという音だけが不気味に私の耳に聞こえて、ぼきり、と、いうおと、の、ああ、
俺の意識、ひつじ、クリーム。泡。ゆ め  の。

次「パプリカ」「標識」「きつね穴」

61:「パプリカ」「標識」「きつね穴」
10/03/17 00:22:11
 一体こいつの味覚はどうなってやがるんだ、と思った。パプリカパプリカパプリカ。来
る日も来る日もパプリカだ。
 ホワイトシチューにパプリカが振りかけてあったのが美味くて、褒めたのは褒めた。け
どそれは、単にシチューが美味かっただけの話であって、パプリカが美味いと褒めたわけ
じゃない。なのにこいつときたら、味噌汁にも焼き魚にも、挙句の果てにはご飯にまでふ
りかけのようにかけるのだ。
 そして今日も、目の前の特選松坂牛すき焼きの上には、てんこ盛りのパプリカ。せっか
く俺が買ってきてやったのに、ふざけんじゃねえぞ。おいこらっ、極上の笑顔で擦り寄っ
て来るんじゃねぇ。絶対口なんて聞いてやらないんだからな!
 確かにこいつは可愛い。芸能人と比べても、遜色ないくらい可愛い。パッチリとした目
だって、濡れた唇だって、食べてしまいたいくらい可愛いのは認める。でもそれは、人間
として見た場合の事だ。狐が化けた女など、彼女いない歴=年齢の俺でも御免被る。
 なのにこいつときたら、短いスカートで太ももをむき出しにして、くびれた腰をクネク
ネと振るのだ。しかもパンツ丸見えの状態でだ。
 鼻血が出そうで注意すると、尻尾が邪魔だから仕方ないでしょ。そこは突っ込まないで、
なんて抜かしやがる。だがな、突っ込みたくても突っ込めるか、狐のお前に。元々進入禁
止の標識が立ってるだろ。
「じゃあ食べよっか。はい、あーんして」
「あーんっ」
「おいしい?」
「うん。おいちい」
 可愛い顔でじっと見つめられたら、結局こう答えるしかないだろ? あくまで仕方なく
だ。分かるだろ?
 追い返す気があるなら、とっくに追い返してた。恩返しとかいいながら、こいつがドア
の前に立ってた時にな。
 しかし一度だけ切れたことがある。男としてこれだけは許せなかったからな。こいつは
こともあろうに、俺が楽しみに取っておいたプリンにパプリカをかけやがったんだ! あ
ん時だけは、頭に血が上ってパプリカより赤くなってたはずだ。
「とっとときつね穴にでも帰りやがれ!」
「……じゃあ、帰る」
 でも即座に謝った。泣き顔まで可愛かったから。
「ごめん、俺が悪かった。Uターン禁止です」

62:名無し物書き@推敲中?
10/03/17 00:25:37
無理矢理感アリアリで……orz

次は「新着メール」「桜」「飛行機雲」でお願いします。

63:名無し物書き@推敲中?
10/03/17 19:29:54
新着メールがまた一件きた。早速開いて、中身をみる。
『ゆっちー、合格したー?』
私は返信する。『うぅん、してなかった』と。数分経ってもメールの返事は、なかった。
辛かった。苦しかった。泣き叫びたかった。きっと皆合格してるんだ、と思うと余計に泣きたくなる。
春は始まりの季節です、とは良く言ったものだ。私にとっては浪人生活が始まりだ。
桜舞い散るなかで、新しい生活が始まる――なんてことはなかった。新たな生活に期待してた自分が馬鹿みたいだった。
「また、勉強の毎日か………」
それで、いいかもしれない。だって、苦労した方が、人生に深みが出るような気がする。
一回位の失敗で挫けちゃいけない。いちいち後悔してたら、一歩も前に進めない。
「うん、そうだ。頑張ればいいんだ」私はいつの間にか出ていた涙をそっと拭う。
「私にはまだ、時間があるんだし―」
キイィィィィィィン、と飛行機の飛んでる音がした。窓の外をみると、飛行機雲が出来ていた。
        頑張れって、言われてる気がした。

初カキコで良く判んないけど、感想?は要りません
次は『鴉』『夕闇』『目ざまし時計』でお願いします

64:名無し物書き@推敲中?
10/03/19 22:17:45
     _人人人人人人人人人人人人人人人_
     >     わりとどうでもいい      <
      ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^^Y^ ̄

               ヘ(^o^)ヘ 
                  |∧   
                 /

65:鴉、夕闇、目ざまし時計
10/03/20 00:19:48
けたたましい目ざまし時計の音に僕は顔をしかめる。手探りで時計を止めて、ああしまったと盛大に
溜め息を吐いた。休みなのに、癖で時計をセットしてしまったのだ。
勿体無い気に襲われながら、日が差し込むカーテンを捲る。
寝そべったままの限られた視界に、二羽の鴉が映る。
おそらく夫婦なのだろう、仲睦まじく寄り添いながら電線に停まっている。
おしどり夫婦という言葉あるが、別におしどりじゃくても十分仲が良いではないかと、
僕はぼんやり思った。互いの身体を突付きあってなんだか可愛い。
夕闇の中、群れで騒ぎ飛ぶ鴉の姿は気味が悪いと思っていたが、この夫婦を見ていると、
とても平和な気持ちになる。
ノックも無しに部屋の扉が開いて、妻が入ってきた。さきほどの目ざまし時計の音に
起こされたようだ。「ごめん、間違ってセットしただけ」と声を掛ける。仕事なのかと確認しに来たのだろう。
無言のまま立ち去ろうとする妻を呼び止めて、僕らは一緒に窓の外を見やった。
無表情の妻は「これがなんだと」言いたげだが、口を開かない。なにせ別居中である。
だというのに、たまたま僕も妻も上下黒のスウェット姿だった。鴉の夫婦みたいで、なんだか可笑しい。
笑う僕を訝しんで、妻がようやく「なんなの?」と口を開く。
鴉の片割れがちらりと僕を振り返った。きっとあれは旦那に違いないと思いながら、
僕は鴉の目を見つめて口を開く。
「離婚、取り消そう」
隣の鴉が「カア」と鳴いた。

次「薬」 「あくび」 「独り言」


66:「薬」 「あくび」 「独り言」
10/03/20 22:21:57
「東京近郊の高台にある一軒家から、春の大気が馥郁と香る夜の
街並みを眺めているうちに、倦怠からくるものではないあくびが出た。
芳醇な季節の始まりを予期したことによる、種としての歓びが
体の奥深いところに渦巻いていた。
春の大気に潜む歓びと野蛮は、直前の季節において繰り広げられた
冬将軍による大虐殺の名残だろうか。
脳内麻薬が見せる春の嵐が、ストラヴィンスキーの交響曲さながらに
鳴り響いていた。」・・・と独り言を言っていたらいつのまにか見たことの
ない色の救急車が俺を迎えに来ていた。
明日はまた寒さがぶりかえすだろう。


「不動産」「教科書」「柿の種」

67:「不動産」「教科書」「柿の種」
10/03/21 08:33:44
俺は図書館に本を借りに出かけた。
長い書棚を端から目で追い、ようやくそれらしい本を見つけて手に取った。
不動産の教科書はすんなりと開いた。ページに砕けた柿の種がへばり付いていた。
別のところには、スモークチーズ、薄切りのサラミなどが挟まっている。
俺は本を書棚に戻した。急ぎ足で館内を出る。

ああ、また酔っぱらいに逆戻りだ。そんなことを思いながら買い込んだビールを飲む。
もちろん、肴はスモークチーズにサラミなのはいうまでもない。

次は「ナイフ」「泥のついた靴」「古ぼけた写真」でお願いします。

68:名無し物書き@推敲中?
10/03/22 11:25:57
 一時的な障害というべきか。まるで古ぼけた写真のように、俺の記憶は判然としなかった。
 狭い取調室にはデスクライトのほかに光源がなく、冷たく張り詰めた空気が部屋を満た
していた。ライトの笠に手をかけた老刑事は、先ほどから耳を覆いたくなるような事を話し続けている。
 民家に押し入り、家主を滅多突きにして殺害し現金を奪った。死体は床下に埋め、フェ
リーで逃走を図った。列挙されても、全てがピンと来なかった。
「いつまでもとぼけているんじゃない! 全部お前がやったことだ。知らんとは言わせん
ぞ」痺れを切らしたように、老刑事がデスクを叩く。
 にわかには信じられなかった。本当に何も思い出せなかった。けれど彼の目を見れば、それが嘘でない事はわかった。
 側に立っていた若い刑事が、ビニール袋に入った品を手渡す。老刑事はそれを受け取り、
静かにテーブルの上に置いた。
「じゃあこのナイフには覚えがあるだろう?」
 差し出されたナイフには、赤黒い汚れが付着していた。柄の部分に滴るようにして凝固
したものは血なのだろう。けれどそれが被害者の血痕だと言われても、やはり思い出す事はなかった。
 無言でテーブルのナイフを見詰めていると、もうひとつ大きなビニール袋が置かれた。
「この靴はどうだ? お前の部屋の押入れから押収したものだ。現場の庭の泥と同じ物が付着していた。足型も一致したんだ」
 視界が揺らぐ。急に眩暈がした。目の前の靴を見て。確かに覚えている。この泥のつい
た靴。まるで一瞬前の出来事のように、事件当日の光景が鮮明に蘇ってきた。
 なぜ今まで俺は、こんな衝撃的な映像を思い出せなかったんだろう。いや、衝撃的だか
らこそ無意識に、記憶にブラインドを掛けていたのかもしれない。
 いきなり引き倒され、靴底の泥が頬に当たり、湿った臭いが鼻を衝いた。次の瞬間、俺
は胸に焼けるような痛みを感じた。そこで意識が途絶えた。
 ―ああ、俺は死んでいたのだ。必死になって犯人の足にしがみ付いたつもりが、取り憑いていたのだ。
 静止して古ぼけた写真のように見えた記憶のフレームが、徐々に色を取り戻す。死の間
際に網膜に張り付いた強烈な映像が、スローモーションのように再生された。男は狂った
ようにナイフを振り下ろす。瞬きひとつせず、釣り上がった目で血飛沫をあびて。

69:名無し物書き@推敲中?
10/03/22 11:29:53
お題継続で。

70:名無し物書き@推敲中?
10/03/22 16:59:04
夕焼けの赤色が、空を支配していた。紅の光が、学校の屋上を照らしていた。
私は屋上の端にあるフェンスに背をあずけた。ガシャン、とフェンスの歪む音がした。
制服のスカートにあるポケットから、1枚の写真を取り出した。古ぼけた写真だ。私と、親友の2人が写っていた。
「あのころに、戻れたらいいのにね………」私はポツリと呟いた。
その願いは決して叶わないことを、私は知っていた。だから、自嘲気味に笑った。
私から数メートル離れた所に、写真に写る親友の面影をもつ死体はあった。胸にはナイフが刺さっていて、血は未だ、どくどくと流れていた。
生気のない瞳が――親友だった死体の瞳が、まるで咎めているように私を見つめていた。
「あんたのせいよ」私は再度、呟いた。誰も聞いていないと知っていた。
私はゆっくりと、親友の亡骸に近づいた。宵の屋上に、足音が、かつかつと響いた。
地べたに転がっている親友の足元に、私は座る。少し、泥のついた靴を履いていた。
その泥を、そっと拭う。せめてもの、贖罪とでも言うように………。
「許してほしいわけじゃないよ」夕闇に包まれた屋上、語りかけるようにして、私は語を継ぐ。
「私は、何1つ悪くないんだから」いつの間にか、私は泣いていた。私はすっと涙を拭った。頬にちょっと、泥がついた。
何1つ私は悪くないのに、何で私はこんなにも悲しいのだろう………。
「ごめんね」私は言う。何度も何度も日が暮れるまで言い続けた。けれど悲しみは薄れなかった。

71:名無し物書き@推敲中?
10/03/22 17:02:14
次は「ラジオ」「蛍光灯」「真夜中」で

72:「ラジオ」「蛍光灯」「真夜中」
10/03/22 18:15:58
NHK第一にチャンネルを合わせたラジオから君が代が流れる。もはや真夜中。
NHK教育テレビにて豊かにはためく日章旗とともに流れる君が代は清涼な響きだが、ラジオのは陰に篭もっている。
水深200メートルの海底に潜めく貝が、偶然に地上世界の噂を聞きつけ、憧れる。
しかし手足も皮膚も視覚もない身体で水上に揚がれようはずもなく、再び殻の蓋を閉じて絶望する。

貝の殻に篭もる怨念。そのような感触が、ラジオ放送終了時の君が代にはある。
脳裏で駄文をこねくり回してキーボードを叩きつける生活も、もはや10年目。
最初は両手の指一本ずつで打ち込むのがやっとだったタイピング技術が、
その年月でようやく両手の指6本使えるまでには上達した。
それだけだ。
若い自分には、文芸雑誌に自身の顔写真が麗々しく載る光景を夢見ただろう。
自身の生い立ちを、インタビュアーに自慢たらしく訥々と語るためのネタを用意しただろう。
確かに文章で飯を食う夢は達成したとは言えるだろう。しかし構成と校正に泣き、
涙も涸れて目薬でほとびらかす人生など、まさに昔の流行語での圏外だ。
その圏外に私はいる。光と美食にあふれる世界の住人のセリフを拾っては海底に持ち帰り、こねくりまわして目薬を差す。
蛍光灯がジジジと鳴る。白く冴えた光は飲食物から旨味を削り取り、人間から生気を奪い取る。
光の下で鏡を取り出し、わが身を照らしてふかいため息をつく。
ため息は掃除もままならないキーボードから、2,3片の埃を浮かした。
埃は浮いても、吹き飛ばされることはなかった。


つぎは「水泳選手」「斧」「出生の秘密」

73:「水泳選手」「斧」「出生の秘密」
10/03/23 18:40:53
スタート台に並んだ水泳選手たちの体が、合図とともに
屈曲し、彫琢された筋肉に全ての力が瞬間的に溜めこまれる。
俺はこの大会で優勝しなけらばならなかった。
父は資産数億の成金で、母は見合いを経てその父に嫁いだ。
母は触るだけで折れてしまいそうな華奢な体をしており、
病弱だったが、比類なき美貌を備えていた。
父はまるで数百年前に人類に分化する前の類人猿のような
容貌で、指輪物語のホビットさながらの小男だった。
全国社会人水泳選手権大会の北近畿大会決勝。
人間の暮らす空気世界から水中へ向け、鋭利に研がれた
斧による電光石火の一撃のような、水しぶきさえあがらない
直線的なダイブを試みた俺の体は、どこから観ても両親の
いずれにも見られぬ資質としてコーカソイドの優越した
筋肉を鎧っており、それは俺の出生の秘密すなわち
母の英会話講師との不倫を雄弁に物語っていた。
優勝賞金で、俺はDNA鑑定をするだろう。
地元ケーブルテレビ局による優勝インタビューで、
俺は北近畿全体へ向けて秘密を暴露するだろう。
俺の掌が硬いタイル地の壁を捉えた時、地上で一斉に歓声が
あがるのが遠く聞こえた。

お題継続で

74:名無し物書き@推敲中?
10/03/23 21:15:04
「水泳選手」「斧」「出生の秘密」

「珠世さん。あなたには実は出生の秘密があって」
「まあ。では私はぞぬ神佐兵衛翁の実の孫娘」
「しかし佐清君はなぜあんな死に方を。元水泳選手ですか」
「違うだろ常考。顔洗って出直して来いよヴォケ」
「犯人はぞぬ神家に伝わる三種の家宝、斧・琴・菊になぞらえて殺人を犯して
いたのですよ。ヨキコトキク…思えば皮肉なものです」
「よし分かった! スケキヨを逆さにしてヨ・キ・ケ・ス。そしてその下半身だけが
湖上から突き出していた。つまりヨ・キ…斧だ」
「いやあれって実は青沼静馬だし」
「誰だー、さっきからちょこちょこツッコミ入れてるのはー?」
「だーかーらー、主役より目立つんじゃないよ!」

(横チン精子『ぞぬ神家の一族』過度皮文庫より ※ネタバレ注意)

75:名無し物書き@推敲中?
10/03/24 23:42:48
「水泳選手」「斧」「出生の秘密」

青年の目の前に男が現れた。青年はその姿に驚いた。
男は筋肉質の肉体を競泳パンツで装い、ゴーグルとスイムキャップで固めている。
しかしここはプールサイドではない。深夜の自室だ。このような人物がいていいはずは無い。
しかも男は、手に大きな斧を握っている。かけたゴーグルで顔立ちはうかがえない。
青年が問いかけようと口を開けた瞬間、男は斧を振り下ろした。

頭蓋は断ち割られ血と脳漿と絶叫が噴出し、青年の命は絶たれた。

男は斧を下ろし、ゴーグルを外す。その顔立ちはたった今切り裂かれた青年に瓜ふたつだった。
男には出生の秘密があった。彼は殺された青年の双子の兄弟だった。

地域の名士として名高い青年の家系。迷信深いその家に生まれた双子は「畜生腹」と見なされ、
片方は養子に出されたのだった。家に残され跡取りとして大切に育てられたほうが、殺された青年である。
一方、養子に出された先で厄介者扱いされ、あらゆる辛酸をなめた男。
名家の御曹司が自身の双子の兄弟と悟れば、それとの入れ替わりを企むのは当然の成り行きだ。
こうして第一の殺人が行われたのである。

男は周囲に散った血をふき取り、遺体を担ぎ揚げて風呂場へと持ち込む。
スイムキャップやゴーグルを装着したおかげで、髪も目も返り血から守られた。
衣服に血を浴びればしみこんで落ちない。しかし裸に血を浴びても、シャワーを浴びれば落ちる。
水泳選手の姿で犯行に及んだのは、計算ずくのことだ。

あとはこの遺体を早急に始末しなくてはならない。この屋敷に御曹司は2人もいらぬ。
男は再び斧を振るい、兄弟の身体をいくつもの肉塊にかえつつあった。




つぎは「漬物石」「過去の怨念」「キスマーク」で

76:名無し物書き@推敲中?
10/03/25 01:53:21
「水泳選手」「斧」「出生の秘密」

水泳選手は叫んだ、「オーノー!」出生の秘密をばらされたのだ。

それはそれとして「地味」について考えてみよう。「地味」、ジミ・
ヘンドリックスではない。なぜ目立たないことが、地面の味になるのか。
土の味は無味だ。地味は無味なのか。ムミムミ。しかし、一個の種が
植えられ、育ち、野菜として葉を広げるようになると、それぞれの味に
なる。土、太陽、水、どれも無味だ。それが、この有様だよ。畜生。
無味から有味へと変わる。地味も派手派手しいものと変わるのではないか。
どうかね、ワトソン君。地味は豊饒の元なのである。

以上を持って結婚式の祝辞とさせて頂きます。礼。

77:名無し物書き@推敲中?
10/03/25 21:48:30
「つまり醜女の過去の怨念が漬物石にキスマークを浮かび上がらせたと」
「それなんてエロゲ?」


次「首吊り」「病院」「短冊」

78:首吊り、病院、短冊
10/03/25 23:56:41
仕事を終えて帰宅した妻を出迎える。
側によると微かに漂う独特の香りに僕は安堵する。
「急いで支度するから」とエプロンを纏う妻。
あっという間に普通の主婦になるが、帰宅前は白衣を身に纏う看護士だ。
妻が持ち帰る病院の香りは僕の心を安定させる。
短冊切りの野菜がなべに放り込まれて、ぐつぐつと煮立つ音が心地良い。
静かに眺めていると、妻が振り向いて微笑んでくる。「何?」と首を傾ける仕草が
可愛らしい。
「いや、首吊りも悪くないなと思ってね」と僕が自嘲気味に笑うと、
妻が不謹慎だと顔をしかめた。
3年前自殺をはかった僕は、運よく発見され病院へ搬送された。
そこで出会ったのが今目の前にいる妻だ。
キッチンに立ち込める味噌汁の香りは、とても現実的で、一度現実を投げた僕には
とても尊い香りに思えた。

次、「手紙」 「兄」 「猫」

79:名無し物書き@推敲中?
10/03/26 21:39:16
「手紙」「兄」「猫」

兄に無心の手紙を出したら、翌日なぜか猫が我が家を訪ねてきた。


「公的年金制度」「養子縁組」「貯蓄率」

80:名無し物書き@推敲中?
10/03/27 02:09:25
戸口に立った猫は、人間の齢に当てはめると年金生活を送っているであろう程よぼよぼで
あった。しかしながら猫に公的年金制度など適用されるはずもなく、もし万が一にもこの
猫が若かりし頃から貯蓄をしていたとしても、とうにそれを取り崩しているような年齢で
ある。猫の手も借りたいと頭数に数えてみた所で、与えられる賃金は猫の額ほど、否、雀
の涙ほどしかあるまい。しかも貰った尻から卑しく食べてしまう猫の事、貯蓄率などたか
が知れている。
であるならば、兄は何を思ってこのような猫をよこしたのであろうか。
小一時間考えてみて、養子縁組という名案が浮んだ。
昨今は巨大な鉄の塊に市民権を与えるお馬鹿な地域もあることだ、猫を養子に迎えても何
の不思議もないはず。
猫の年齢は推定だが15に届くかどうかだろう。ならば中学修了までを対象とした子供手
当ての恩恵に預かれるかもしれない。
いい歳をして親から小遣いを貰う鳩君のことだ、猫に子供手当ては出せないなどとは、よ
もや言うまい。


次は「油揚げ」「雨宿り」「有名人」

81:「油揚げ」「雨宿り」「有名人」
10/03/28 02:46:29
この村出身の有名人とおいいんさったら、別所千恵子じゃけぇの。
詐欺師で人殺しの恩田幾三が村の娘に産ませくさった私生児じゃけぇ、
子供の頃は「詐欺師で人殺しの子」として散々に虐められくさった。
じゃが、その過去を乗り越えんさって、人気歌手の大空ゆかりとして大成したというからぼっけぇもんじゃけぇの。

その彼女が、もうじき故郷に錦をかざりに帰ってくるんじゃ。
かつて虐めぬいた村人が、もろ手を挙げて歓迎会を開くんじゃよ。
才能が人の心を溶かしたんか、あるいは掌を返して褒め称える、節操の無い村人というもんか。
まったくもって人間とは妙なもんじゃの。
ほんな鬼首村に、わしこと金田一耕助はおる。
磯川警部に紹介された温泉宿に滞在しておったんじゃが、昨日の雨にはまいったわ。
雨宿りしたところでずぶ濡れになるような大雨じゃったけぇ、総社の町のお糸さんの旅籠に留めてもらろたんじゃ。
ところが妙じゃ。
昨日お庄屋さんと復縁して戻ってきたいう、5番目の奥さんのおりんやん。
本当は去年にもう死んでいたぁいうんじゃ。幽霊と復縁?でもわしは昨日の夕方、峠道を越えるおりん婆さんを見てるけぇの。
もんぺに草履を履きんさって、まがりこけた背中に風呂敷を背負りんさってな。
その話を聞きんさったお糸さんはもう真っ青じゃ。幽霊にしても足がある?
だからこうして、2人でお庄屋さんの庵を訪ねに行くんじゃ。

お庄屋さん、おりんさん、居りんさるか。おらん?たのむけぇ、答えてつかぁさい。
おやまぁ。昨日の大雨のなか、2人で酒盛りしたようじゃの。献立はいなり寿司に雑魚の付け焼き、
油揚げと山菜の煮しめか。美味そうじゃの。
じゃけんどお庄屋さんもおりんさんもどこにおる?出てきてつかぁさい!
あんれ!
こら血じゃ!胃の腑から吐き出だした血じゃ!
ん?なんじゃ今の水の音は!
水がめの中になんかおる!

つぎは「竹槍」「青かび」「キリシタンバテレン」で


82:竹槍、青かび、キリシタンバテレン
10/03/28 22:41:26
僕は保健室に転がり込んだ。打たれた左腕が痛い。
保健の先生が慌てて僕に駆け寄った。
無言の僕を前に、先生は少しうろたえたが、すぐにいつもの調子に戻って
小さく微笑む。僕のマリア様。
保健室には僕の他に3人の生徒がいた。3人とも僕のクラスメートである。
僕らの担任の竹倉は暴力教師だ。指導だと言っていつも木刀を持ち歩いている。
その様から、竹倉の倉の字に木を加えて、影では竹槍と呼ばれている。
実際あいつ自身凶器そのものだ。僕はさきほど木刀で打たれたばかりの
腕をさすり続けた。
校内で竹倉、もとい竹槍に逆らう人間は誰もいない。
僕はそれが嫌だった。勝ち目が無くても、恐れたくないと思っている。
そのせいで、毎日木刀に打たれる僕の身体は痣だらけだ。
まるで青かびが生えたような腕に、保健の先生は何も言わず手当てをしてくれる。
「いつでもここへ来なさい」という言葉に、僕はどれほど救われていることか。
歴史の授業中、「キリシタンバテレン」と言って、竹槍は遠回しに僕をなじった。
保健室にいる僕と他3人の生徒は、竹槍にとって異端者なのだ。
何とでも言うが良いと、僕は心内で竹槍をなじり返す。
僕らにはとっておきのマリア様がついている。

竹槍、お前が焦がれて止まない、マリア様が。

お次「友人」 「奇人」 「美人」

83:名無し物書き@推敲中?
10/03/31 01:16:25
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
友人の慟哭が聞こえる。ちらり、と友人の顔を見る。処刑人に囲まれているが、一瞬見えた。友人を見下ろしているのは、ギロチンと処刑人と観衆全員だった。
かつては美人ともいえる顔だったが、いまや赤く腫れ上がっていて、美人とはもう、言えないだろう。昔の面影なんて、もう、なかった。
胸を痛めた。僕はこのまま、友人が処罰されていくさまを見続けることしか出来ないのか?このまま、ずっと。
助けたい、そう思った。救いたい、そう思った。でも実行するには僕は、あまりにも、無力だった。
悔しかった、憎かった、ぶん殴ってやりたかった、何も出来ない自分自身を、殺してしまいたかった。
………………違う。何も出来ないんじゃない、何もしないだけだ。助けようと思えば、出来る。ただ保身のために、自己正当化してるだけだ。
助ける。僕は友人を、助ける。死なせたくない。――死なせて、たまるか。
覚悟しろ。奇人と揶揄されても、反逆者と呼ばれても、助けると言う覚悟。国に背くための、覚悟。
決意しろ。どんなことがあっても、助けてやると言う決意。友人を守り抜くための、決意。

覚悟するのは、遅すぎた。決意を固めるのは、もっと遅すぎた。総てが、遅すぎた。だから、助けられなかった。守れなかった。

「おい、殺れ」処刑人の一人が言った。その声より一瞬遅れて、ギロチンが―――、

              友人の慟哭が、消えた。

84:名無し物書き@推敲中?
10/03/31 01:23:30
次は「書店員」「機械仕掛け」「鮮血」

85:書店員、機械仕掛け、鮮血
10/04/09 16:24:16
「この地球(ほし)は機械仕掛けなのよ」と言われて
僕は目を丸くした。
「地球の中心部にある歯車たちが上手く回っているか、私たち時折
地面に蹲って耳を済ませているの」
そう言いながらトラ模様の後ろ足がガシガシと耳元を掻く。
「それなのにあなたときたら、突然勝手に身体を撫でて!
 邪魔するからそうなるのよ」
ツンとそっぽを向いて、一匹のメス猫が店の外へ出て行った。
書店員の僕は、指先の引っ掻き傷から流れる鮮血を舐めながら、
これは面白い話を聞いたと思った。
さっそく店長に「さっき店に入って来た猫ですけどね」と話をする。
この地球がからくりだという猫の話に、僕はすっかり感心してしまったのだ。
「ね、すごくないですか?」
「そうだなぁ。猫が喋るなんてなぁ~」
「ええー、そこですかぁ?」と不満そうな声を上げる僕に、
店長が「これ新刊」と、メンタルヘルスの本をくれた。

次「昼食」 「発見」 「車内」

86:名無し物書き@推敲中?
10/04/10 11:35:36
 冬の温泉旅行に訪れた熱海の地で、コンビニへ飲み物を買いに下りて財布がないのに気がついた。
時刻はちょうど昼前で、既に午前中に三ヶ所の名所を廻った後だった。
 婚前旅行のつもりだった。スボンのポケットには婚約指輪を用意していた。旅先でプロポーズをし、
職場へも土産を持って婚約を報告しようと思っていた。
 僕が財布をなくして車内泊が決定的となり、いつも慎ましやかな彼女は怒っていた。それよりも何よりも、
昼食に訪れるはずだった有名フランス料理店をキャンセルせざるを得なかったのが、
決定的に彼女の機嫌を損ねたらしい。
 彼女はお尻の大きな女で、お世辞にもプロポーションは良くない。けれども人当たりが柔らかく、
いつも笑顔を絶やさない所が好きだった。彼女となら、笑いの絶えない楽しい家庭が作れる、そう思っていた。

 来た道を戻りながら、くまなく探しても財布は発見できなかった。僕が車内と観光地を行き来する間、
「同じ場所を二度見るなんてごめんよ」と彼女は不機嫌なまま動かなかった。
 最初に訪れた観光地を探し終えて車に戻ると、彼女はこんな状況にも拘らず居眠りをしていた。
「ごめん、ここにも見当たらなかった。とりあえず警察に紛失届けを出しにいくよ」
 揺り起こしてそう告げると、迷惑そうに薄目を開けて、すぐにまた瞼を閉じた。
 空を仰ぐ。時刻はもう六時をまわり、西の空に僅かに残照が残るのみだ。蒼く染まっていく空を見つめていると、
急激に僕の中で何かが崩れていくのが分かった。

87:名無し物書き@推敲中?
10/04/10 11:39:09

 紛失届けを出し、これからどうすべきかと車を彷徨わせていると、街角で煌々と明かり
を灯す店を見つけた。助手席の彼女をみてみると、お腹を押さえたまま眠っている。アク
セサリーのイラストの書かれた看板の横に車を止め、そっと扉を開けて店に向かった。

 「お金が出来たから」新しい財布と札束を見せると、彼女はいつもの笑顔で財布の中身を覗き込んだ。
「すごーい。じゃあお昼にいけなかったフランス料理店で食事がしたいわ。お腹がすいて
もう死にそうなんだもん。旅館の予約もキャンセルしちゃったし、丘の上の高級ホテルにでも泊まりましょうよ」
 店へと向かう車中で、彼女は一言もお金の出所を聞かなかった。僕自身も話す気はなかったし、
もうどうでもよくなっていた。 
 レストランに入り、昼食の分までがっつく彼女を見ていて、飢えたメス豚だな、と思った。
 誰にも付き合いを知られる前に意外な一面が見れてよかったと思える。財布を見つけ出す事は出来なかったが、
これは財布よりも大きな発見だ。ポケットの膨らみは無くなっても、未来への希望は膨らんだはずだ。

 店を出て、真っ直ぐに最寄の駅に向かって車を走らせた。


 次は「仮面」「中心」「広場」で。

88:名無し物書き@推敲中?
10/04/11 11:08:48
ある晴れた休日の午後。街の広場、サンチュリー・パークに僕達は集まった。
サンチュリー・パーク中心には、でん、と噴水が置かれている。直径16メートルもある大きな噴水だ。
その四方を囲むようにジャングルジムやら滑り台やらブランコやらの遊具がそこかしこにあった。だから土日は子供づれの親で溢れかえっている。
僕達は吸い込まれていくみたいに、噴水のとこに向かって歩いていた。まだ噴水まで距離があるのに、水飛沫が僕達の顔や衣服を少し濡らした。
噴水では四、五人の子供が遊んでいる。子供達全員の顔に浮かぶ笑顔を見て、僕はちょっと和んだ。
「なぁ、本当にやるのか?」唐突に僕は口を開いた。罪悪感がそうさせた。
その問いに答えてくれる者はなかった。ただその沈黙が、無言で肯定をしているみたいで気味悪かった。
わかっている。犯罪でもしてカネを稼がないと、僕達は生きていけないということに。
父は病気で去年他界し、母は末っ子の僕が生まれた翌月、死んだらしい。
父が生きてたころは僕達五人兄弟はまだ楽が出来たけど、父が死んでからは僕達がなんとかカネを稼いで裕福とはかけ離れた生活を強いられてきた。
だけどもう、それも限界。いまどき高校生や中学生を雇ってくれる場所なんてないし、大学中退した人の稼げるカネなんて高が知れてる。
そう、僕達にはこれしか、道がないみたい。いや、探せば在るかもしれない。だけど探している時間はない。手っ取り早く、カネを手に入れたいから。
僕は仮面をかぶる。それは他人を蹴落としてでも生きる、犯罪者の仮面だ。もちろん比喩だが、事実だ。
冷酷になれ。冷淡になれ。罪悪感なんておぼえない、人間になれ。そう自分自身に暗示をかける。
僕達の選んだ、カネ稼ぎの方法。たった一つの冴えたやり方、それは…………………誘拐、だった。
そして僕達五人兄弟は、噴水で遊ぶ一人の少女に声をかけた。

89:名無し物書き@推敲中?
10/04/11 11:13:22
次は「方舟」「神」「童話」で

90:名無し物書き@推敲中?
10/04/15 21:06:11
「えっ、骨皮先生の原稿を!?」
入社して一カ月の新人くんが初めて担当する作家の名を告げられ、体を強張らせた。
骨皮白血球。人気作家であり、酒好きであり、そして
人形好き。
「少年人形を好むらしいよ」
の先輩編集者の脅しに、骨皮の原稿をもらうために走る新人くんは、
べそをかいていた。
「BAR黒い方舟」
神も仏もべそをかきそうな看板だ。
「・・・こ、こんばんわぁ」
そっと覗くと、ほの暗いカウンターの奥に、黒ぶち眼鏡で顔の青白い、
名前通りの骨と皮がそのまま燕尾服を着た中年男が、細い目を向け、
「おお、こっちこっち、今回は童話でいいんだよね」
甲高くも気さくな笑顔が、店内に響いたのだった。

次は「野球」「株」「チラシの裏」でお願いします。

91:「野球」「株」「チラシの裏」
10/04/15 21:55:57
「タカユキさーん」
ふりかえると、ヤマジ君が防具をつけてグラウンドに上がってきた。
ヤマジ君の防具は比較的最近のものらしく、キャッチャーというより
アイス・ホッケーか、武道の防具のようだ。
「タカユキさん、こんにちわ。僕がキャッチャーのヤマジです」
「キミの名前は、知っていたが……」どこで出会ったのかちょっと
記憶に無い。ヤマジ君は背が高い。痩身長躯でならした私と、
そう変わっていない。
右腕。力を入れるのは久しぶりだ。隆と筋肉が二の腕の皮膚の
下を流れる。十八、十九の頃の感覚だ。
「タカユキさんは、えーっと、いつお生まれですか?」
「僕は昭和五年」
「ボクは、昭和六十二年です」
「ずいぶん早いな」「ええ、病気でです」
「そうか……僕は寿命って奴だな、思い残す事は、あるかい?」
ヤマジ君は、ちょっとうつむいて、額にしわを刻んだり伸ばしたりした。
「コドモと、ヨメさんですね。あっというまだったから、こんなことここでは
チラシの裏に書けって言われそうですが」
「僕はね……株。ごうつく爺と言われようが、死ぬまで株を子供に
操作させなかった」
「カネは、こわい」
「さ」僕は温まった身体を、田園に作られたグラウンドのマウンドに
向かって歩き出した。
「キミは、東京巨大軍のエースの高校のときのキャッチャーだったって?
そいつは豪儀だ。リード頼むよ」
「はいっ」
『九番、ピッチャー、オオガイ君、オーケー大卒、リーグ15勝、
以上で平成二十二年星雲ラッキーズの
スターティング・メンバーです……』

次のお題「花見」「裏切り」「いたずら」

92:「花見」「裏切り」「いたずら」
10/04/16 17:55:45
花見が嫌いだ。正確には花見客が嫌いだ。
第一に、なぜ花を眺めるのに人の群れる必要があるのか理解できない。
第二に、ふてぶてしくも桜の木の下に陣取る神経が理解できない。あれでは通行人が桜を眺められない。

幼心にそう思って、花見客成敗を試みたことがある。
最初は占拠だ。近所のいたずら小僧をかき集めて、まだ夜の明けぬうちに桜の下に陣取った。
一本や二本じゃない。境内すべての桜の下をゴザで敷き詰め、団員を座らせ夜を睨んだ。
睨んだのだが、これは失敗に終わった。
まず団員が若すぎた。平均年齢12歳の我々は夕飯前に帰らなければならない。
花見客が来る頃にはゴザだけ敷かれた状況になっており、さあどうぞここで花見を、という具合。
アベコベに歓迎してしまった。
そして裏切り者も現れた。占拠した陣地を花見客に売り渡した者がいて、これは酒屋の息子だが、
私は幼くしてカエサルの無情を知った。

智者は敗れどもすみやかに立ち上がる。私もすみやかに立ち上がった。
次の作戦は神頼みで、桜の木に注連縄を巻き、その傍に松明を燃した。桜を神の木に見立てる魂胆で、
いくら無神経な花見客にしても、神木の下で酒宴を催そうなどとは思わないだろう。
だが私は浅はかだった。かえって花見を盛り上げてしまった。
ふと気付くと、桜の木どころか、酩酊のオヤジたちまでもが頭に注連縄を巻いている。
正確にはネクタイだが、注連縄がないからネクタイで代用、といったところなのか、
この国の男たちは実に信心深い。私は自分の無心を恥じた。
結局私は松明で花見に明りを添えただけであり、前回同様、またしても彼らを歓迎してしまったのだ。


月日は流れ、私は今、花見歓迎大使をもって任じられている。
この幼少の功績が認められての沙汰であるのは言うまでもない。
だがひと言だけ言わせてほしい。私は、花見が、嫌いなのだ!

93:名無し物書き@推敲中?
10/04/16 17:58:10
次のお題。
「プラトン立体」「産婆」「蝉」

94:「プラトン立体」「産婆」「蝉」
10/04/16 23:44:10
夏休みまで一週間。中学二年生の僕達にとって高校受験はまだ先
で、授業には身が入らなかった。
蝉がすだく窓際で、僕と島岡は自習時間にサッカーに興じていた。
机の上に線を引いて、ペンのボタンのばねの力で消しゴムで作った
ボールを「蹴る」あれである。
最初は球体を消しゴムから切り出していたが、いまいち飛びすぎる
のと、偶然性をころがりに導入した方が面白いので、見た目が
サッカー・ボールになんとなく似ている正十二面体のプラトン立体にしてみた。
暇な連中が見物に来た。「あ、俺、俺にもやらせて」と言う声が飛んだ。
やってみるとそれ程でもないが、はたから観ると面白そうに観えるのかも
しれない。
そのうち、ディフェンスも盤上に存在した方がいいんじゃないかという意見が
出た。場合によってはオウン・ゴールも発生するわけだ。オフェンス・ファールも
相手方ディフェンスの消しゴムの人形にペンのボタンが触れたらアウトだ。
「こうなってくると観客も欲しいよな」周囲のみんなは、自分のくずの
消しゴムに目鼻を描いたり、そのころ流行だった玩具のキャラクターを
ピッチの外側に置いた。「有った!有ったサンバ・チーム」浩介がポケット
から糸くずまみれの『ビビンバ』の筋ケシを取り出した。
ビビンバは登場したときは敵側で、おまけに造形物なので、女性らしい
しおらしさは微塵もない。「サンバというか、サンババアだよな……」。
試合が白熱し、島岡のフリーキックになった。僕は自分側のディフェンス
をゴール前に配した。そうか……と妙案を思いついた。
「ジャジャーン、ここで、ビビンバ選手の登場です」
「なんで?ビビンバは観客でしょ?」「秘密選手登録しとった」
ビビンバは鉄壁であり、完全とは言わないがシュートをほぼ全部防ぎ
きった。ビビンバはグラウンド上では異常にスケールがでかい。ルール
は改正され、ビビンバは両チーム共有の助っ人ということで、一チーム
一試合3三回までの限定出場になった。「産婆!産婆貸せ!」試合局面
の転換点で僕らの声が飛んだ。
僕の営業車のミラー裏には、妻の手作りのポーチの中で、あのとき僕の
ゴールを守ってくれた「ビビンバ」の浩介から30年前貰った人形と、
僕の子供達の写真が見守っていてくれる。

95:名無し物書き@推敲中?
10/04/17 00:10:02
次のお題「ピクニック」「仲間はずれ」「逆襲」

96:「ピクニック」「仲間はずれ」「逆襲」
10/04/17 17:29:00
「くそっ、何がピクニックだ!」
 太郎は忌々しげに渡り廊下を見つめていた。セミの声がうるさいほど耳に響き神経を逆
撫でるのに、きゃあきゃあと子供のような声を上げて喜ぶ三人の友人達は、もっと鬱陶しかった。
 滴ってくる額の汗を拭い、怒りに任せ水筒の蓋に注いだお茶を一気に空ける。喉が鳴る
のと同時に、晴天の空に、パンッ! と軽快な音が響いて消えた。
 不意を衝かれた太郎はびくりと肩を上げ、校舎に張り付いていたセミも同時に飛び上がった。
「結構でかかったよな、いまの音。セミもびびってたし」
「太郎はもっと飛んだみたいだぜ。―んじゃぁ、次は俺。特大のいくぜ!」
 言って、くわえていた四角い紙パックを地面に置き、大きく足を振り上げる。太郎は頬
杖を突く振りをして、すかさず耳を塞いだ。

 なんで俺だけお茶なんだよ、と愚痴を言った今朝の事が思い出された。
「お茶で十分でしょ、潤すんなら。贅沢言いなさんな」
 母にジュース代をくれとせがんだ返答がこれだった。飲み物が欲しいんじゃなくパック
が欲しいんだ、とは言えず、太郎は渋々水筒をつかんで学校へ向かった。結果、パック踏
みの遊びから仲間はずれにされ、少し離れた場所でいじけながらお茶を飲むしかなかった。

「面白かったよな。また明日やろうぜ」
 自販機横のゴミ箱にパックを捨て、友人達は楽しそうに教室に戻っていく。取り残され
た太郎は、ピクニックと書かれたロゴを思い切り蹴飛ばした。蹴飛ばしてスッキリするわ
けではなかったが、蹴らずにはいられない疎外感があった。

 教室に戻ってみると、室内はむっとした空気で満たされていた。先ほどの無駄な怒りも
手伝って、喉がまた乾いてくる。椅子にどかっと腰を掛け、無造作にお茶を注いだ。コッ
プに口をつけようとして幾つかの視線を感じ、横目でそれを確認した。そこには物欲しそ
うに水筒を見つめる三人の顔。
 もしかしてこれが欲しいの、とコップを指さしてみる。友人達は喉を鳴らして頷いた。
「美味そうだったよなー、ピクニック。コーヒー味だったっけ? 貧乏人はお茶で我慢しとこーっと」
 期せずして逆襲に転じていた自分に気が付き、太郎はコップを傾けながらにんまりと笑った。

97:名無し物書き@推敲中?
10/04/17 17:33:00
お題は継続で。

98:名無し物書き@推敲中?
10/04/19 03:04:26
公園のベンチで横になり鳩を見ていた。様々な鳩を。

盲目の鳩。
ピクニック気分の鳩。
逆襲の鳩。
仲間外れの鳩。
時間をつぶす鳩。
羽を探す鳩。
狸寝入りの鳩。
沈黙の鳩。
典型的な鳩。
潔癖症の鳩。
鍵を無くした鳩。
鳩嫌いな鳩。

突然どこかで銃声が鳴り響き、鳩達は一斉に飛び立っていった。それでも僕はしばらく鳩達が居た地面を見つめていた。するとどこからともなく一羽、また一羽と鳩が現れ、また元の光景が再現された。僕は欠伸を一つして、また鳩の観察に戻った。


次の題 薄幸 薄荷 薄弱


99:名無し物書き@推敲中?
10/04/21 23:44:47
        それは、八月の中ごろ。煮えたぎるように暑い日のことだった。

森林公園、見渡す限りの緑が、視界に敷き詰められていた。そこにあたしはただ一人、ぽつん、といた。前後左右、延々と続く緑。
自業自得とは認めたくない。確かにちょっとはしゃいじゃったけど。帰るぞ、って両親の声から逃げるように走り回ったけど。
あたしが迷子になったのは、きっとあたし自身が薄幸で不幸だからだ。そうだ、そうに違いない。
あぁ暑い、暑い。お母さんお父さん。どこにいるのよもう!だれか返事してよ。
頬を、涙が伝っていた。ダムが決壊したみたいに、涙が溢れ出た。「お父さぁん…………」
「あれ、迷子かい?」唐突に、声が聞こえた。青年の声だった。声のした方向を見る。
「お嬢ちゃん、どこから来たの」青年は尋ねてきた。あたしは、あっちの方と指を指していった。
誰かに出会えたことへの安堵が、あたしの涙腺をさらに緩めて、涙がもっと溢れ出た。
しばらく経って(泣き止んでから)、青年は、向こうに行くかい?パパとママがいるんだろう?と聞いてきた。
あたしはこくりとうなづいて、歩き始める。あたしはぎゅうと、青年の手を握った。身長差がかなりあった。
「薄荷って、知ってるかい?」青年が切り出してきた。あたしはううんと首を横に振る。
「薄弱の薄に、荷台の荷でハッカというんだけどね、あれは実に美味しいね」食べてみたいな、とあたしは聞きながら思った。
「こう暑い日には尚美味しいんだ。すーっとしてね。食べてみるといい」あたしは静かに頷いた。
やがて、お父さん、お母さんの姿が見えた。二人はまだ、こちらに気付いていない。
「ああ、着いたね。じゃ、僕は元のとこに戻るかな」青年のその言葉に、あたしは制止の声をかける。お礼も何もしていないのに。
「お礼か、じゃ、一つお願いしたいな。この公園の麓にある墓にさ、お供えをしてくれよ」
え、と聞き返す暇もなく、青年の姿はふっと消えてしまった……。

あの出来事から、10年。いまでも週に一回はお墓参りに行っている。そしていつも同じものをお供えする。
今日も、暑い日だった。まるであの日みたいだ。今日みたいに、暑い日には――。
薄荷の香りが、鼻腔をくすぐった。すーっとして、尚良い。


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