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色づき始めたケヤキ並木が雨に煙り、青磁色のガラスに揺れていた。4年前に開業した商業施設「表参道ヒルズ」は、
街がそのまま屋内に続く造りになっている。元の同潤会青山アパートのように、早く当たり前の景色になりたいと
▼東京の一等地。老朽住宅の建て替えは難渋した。設計者が市場原理に逆らい、高さを並木に合わせるなどの
頑固を通したのが一因だ。文化勲章を受ける安藤忠雄さん(69)である▼勉強は嫌い、家計も厳しく大学進学は頭になかった。
工業高校2年でプロボクサーになるも、長続きしない。卒業後の無職を見かね、知人が持ってきたバー設計の仕事が転機だった。
建築の教科書を読みあさり、家具や内装の注文を手当たり次第こなした▼履歴は〈独学で建築を学び、28歳で建築研究所を設立〉と始まる。
東大教授に迎えられる前には、ハーバードなど米国の有名どころで教え、昔のリング名「グレート安藤」がすっかり別の意味で似合う。
学歴信仰を笑う、徒手空拳の人生だ▼狭い長屋に育ち、住環境にかかわる原点は怒りだった。最初期の「都市ゲリラ住居」では、
無秩序に増殖する街への反抗を、コンクリむき出しの無愛想に込めた。内外で大型施設を手がける今でも、敷地や予算に限りのある小さな家が面白いという。
最後の作品は個人宅と決めている▼学窓と古典の薫りが高い文化勲章ながら、今年は「現役職人」が強くにおう。三宅一生さん(72)の衣、蜷川幸雄さん(75)の劇、
そして安藤さんの建。究めた一字を、世界が認めたすご腕である。