11/04/26 23:17:34.62 ZZJoH3Cg
>>328
次にどこの出身なのかとありますが、わたくしは京都の出身です。家は江戸時代から続く呉服屋でした。豊雷先生に描いて頂いた時にわたくしが着ていたのは、母が特別に仕立ててくれた
ものなのです。
さらに何歳なのかというご質問ですが、わたくしは十七になります。
あなたのことをどう思っているかというご質問ですが、わたくしは、北門堂の狭い陳列棚が嫌で嫌で仕方がありませんでした。それに始終人が行き来して、落ち着きません。そんな境遇から
わたくしを救ってくださった忠晴さまですもの。誰がいやといいましょう。
良くぞわたくしを買ってくださったと感謝いたしております。さらに忠晴様の部屋の引き出しは、良い木で造られたしっとりとした落ち着きがあります。ここで好きに眠れることが、今のわたくしに
とって大変な喜びです。ですから忠晴様、わたくし、あなたを嫌いだとか、うるさいだとか、思っておりませんのよ。全然。どうか自信をもって、私を扱ってくださいまし。
悲しみの理由ですか。わたくしそんなに暗い顔をしていたでしょうか。いつものように朝起きて、髪を整えて、着物を着て、それで豊雷先生に描いて戴きましたのよ。
忠晴様の思いは杞憂ですわ。
私はいつでも元気です。だからどうか忠晴様、ご安心なさって、学業に精をだしてくださいまし。
長くなりましたわ。今日はこれまで。それではさようなら。
敬具』
嬉しかった。忠晴は引き出しを開け、琉奈を見た。
分かったよ琉奈さん。この引き出しがお気に入りなのですね。ではどうぞゆっくり休んでください。
忠晴は朝起きると、まず引き出しを開ける。そうして琉奈におはようを言う。いつも変わらぬ顔の琉奈を見て安心する。それから顔を洗い、歯を磨き、母が作った冷製スープを飲む。
路面電車は合いも変わらず混んでいる。出勤途中のサラリーマンで溢れた車内、忠晴は右に左にと揺れる電車に乗っていく。
凌雲閣の屋上で、忠晴は鉄二と会った。
忠晴は、この少年がどうやって絵の向こう側へ行くのか考えていた。
「ねえ鉄二、君は一体どうやって絵の向こう側へ行くの?」
すると鉄二は優しい顔で、こう言うだけだった。
「それは秘密だよ」と。
でも忠晴は嬉しかった。こうして琉奈と話が出来るのだ。
浅草十二階の下には迷宮がある。
長い夏の一日が終わり、太陽が瓦屋根の連なる歪んだ稜線の向こうに沈み、軒先にそよ風が漂う頃、女たちは動き出す。
一人の男が街の中に足を踏み入れた。一日の仕事を無事終えて、道具箱片手に帰る板金工である。年のころは四十二三、肩のすわったいかつい身体にハッピを着込み、雪駄を鳴らして
道を歩く。軒端に下げられた提灯のか細い光が、街路をまだらに彩っている。
一軒の酒屋の玄関先にある格子窓の向こうから、紫色の浴衣を着た若い娘が、髪を桃割れに結い、まどろんだ瞳を輝かせ、首まで塗った白いおしろいを匂わせながら、男に声をかけた。
「ちょいと、よってらっしゃいな」
男は動じる風も無く、急いでるんでね、とだけ言うと、さっさとその場を離れた。
また別の店先で、男を呼ぶ声がする。
「ちょいと、遊んでおいきよ」
二重の眼が澄んだ、腰まで髪を伸ばした女である。男はまたも動じず、目を背けて通り過ぎた。
こうして歩いている間にも、向こう三軒から、両隣から、無数の声が男を呼んでいた。それは男を仕留めようと躍起になる女たちの戦場だった。家の軒先にある格子窓、その中からは、情念
のこもった悲しい瞳が、男たちへと向けられていた。男はその視線に何を思うでもなく、街のはずれへと遠ざかって行った。
「ちっ、逃げられたよ。おい、おゆき、もっと声を膨らませて、咽喉の奥からしっかり出さないといけないじゃないか」
昆布色の留袖を着た一人の老婆が、店先に現れた。御祭燈のほのかな明かりが、執拗に刻まれた皴の多い顔を照らし出した。
「あたし、これでも一生懸命やってるんだよ」
そういわれて一人の少女が、格子窓の向こうから言った。
藤色の浴衣に浅黄の帯、夕顔の花が描かれたうす桃色の団扇を手にしたその少女は、さっと身を起こして格子窓を離れると、店の軒先へとやって来た。切れ長の眼が涼しい、長い黒髪を
両肩に垂らした少女である。右目の下には小さな泣き黒子がある。
言葉遣いがおかしいですね
時代考証も間違えまくってます