11/04/26 03:07:11.05 5Q4aK93b
>>295
「ナイーヴレーベルから出てる、サント・コロンブのヴィオール曲集のTomeⅡよ。そしてシャルパンティエのテ・デウムのクリスティ盤、クープランのクラヴサン曲集よ」
次々と発せられる未知の言葉の洪水に、危うく溺れそうになった七海。
しかし、そこは航の幼馴染。しっかりと元のテンションに戻ると、こう返事した。
「行きましょう。東京中を探し手でも、入手しましょう!」
「そうこなくっちゃ」
銀座の山野楽器のクラシックフロアは、ズラリと並んだ輸入盤が溢れる、まさに「通」向けの店舗だった。
真琴がいなかったら、オロオロして、まともに来ることはなかったろう。
「ほら、ここが輸入盤コーナーよ」
真琴がフロアの一隅に七海を連れてきた。
「テ・デウムね、シャルパンティエだから、ここにあるはず……」
サ行の作曲家の個所を人差し指でなぞる。
「死者のためのミサ曲、真夜中のミサ曲……、うーん、ないなあ、あ、待てよ!? ここに声楽作品集がある!」
それはハルモニアムンディフランスの、風景画が描かれた五枚セットのCDボックスだった。
「主の御降誕のためのカンティカム、あった! 七海ちゃん、ここにあるわ!シャルパンティエのテ・デウム。これはお買い得な品ね。今日は幸先がいいわ」
全く未知の単語に出会い、七海は茫然としていた。
「あ、そうだった。七海ちゃんはバロック聴かないのよね。シャルパンティエはね、十七世紀フランスバロック音楽を代表する作曲家よ」
「はあ、そうなんですか……」
砂糖抜きの紅茶を飲むような気分だ。お茶は確かに口を通り、胃の中に入っていくのだが、いまいち、味がわからない。
「じゃあ次は、渋谷のHMVね。行きましょう!」
山手線の車中、七海は真琴に訊いた。
「ねえ、真琴さん、こうして航君と同じように輸入盤漁りをしていれば、いつか航君が行った世界に入れるのかな?……」
「それはどうかしら」
真琴はさらりと返した。
「CD漁りは名曲の海の中を行く航海のようなものよ。当たりに巡り合った時はまさに財宝を見つけた海賊ね」
渋谷の街は、スクランブル交差点に人が溢れ、東京でも有数の活気を呈していた。
HMVの店内に入るや否や、真琴はまたしてもその猟犬のような鼻をきかせて、輸入盤コーナーへと向かった。
「サント・コロンブ、サント・コロンブ……、あ、あった。ああ、残念、TomeⅡはないわ。店員さんに訊きましょう」
数分後。
「そうですか。廃盤……。残念です」
「ねえ、真琴さん、元気を出して」
七海がそう言うが、真琴が至極がっかりした様子だ。
「残念ね……。あれはサント・コロンブの魅力がわかったものの必聴盤よ。私、TomeⅠは持ってるから、Ⅱも是非欲しかったんだけど……」
昼休み。休憩のために入った神田の喫茶店で、真琴は今朝買った、シャルパンティエの声楽作品集をまざまざと眺めていた。
その眼は獲物を探す狼の眼のようで、傍らにいる七海にもドキドキした緊張感が伝わってきた。
「こうなったら秋葉原に賭けるしかないわね。石丸電気の秋葉原店なら、在庫量が豊富だから……」
「いつもそんな感じで航君と?……」
「ええ、そうよ。私もバロック音楽は好きだから」
ホットミルクティーを飲みほした真琴に、七海が尋ねる。
「ねえ、真琴さん、あの人、知ってます? さっきからずっとあたし達の跡をつけてきてるんです」
七海はそう言って、斜め向こうの席に通路を挟んで座っている一人の老紳士を眼でそっと示した。真琴は気づかれぬように、さらりと一瞥を与えた。「そうね。何者かしら」
二人は秋葉原へ向かった。
神田の古書店街から秋葉原へは、歩いて十五分程だ。
二人が歩いていると、例によってあの紳士が、黒い杖をつきながら歩いてきた。
「クープランのクラヴサン曲集、廃盤!? 在庫はありません?」
「少々お待ち下さい」
店員がパソコンで在庫確認をしている間、真琴は意を決して、ピアノ曲売り場の棚の棚の前にいたその老紳士に声をかけた。
「あの、私たちになにか用ですか?」
紳士は初め、ひどく狼狽していた。が、やがて覚悟を決めたのか、落ち着きを取り戻すと、こう言った。
「実は私はね、アポロンなのですよ」
そろそろ飽きてきたのでやめましょうかね。
ピアノがどうこう言ってるあたり最高につまらなかったです。他作品もあるようなのでそちらも感想書きたいですね。
また訳の分からない引用感想があるようなら後半も是非とも感想書きたいです。