よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3at BOOKALL
よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3 - 暇つぶし2ch300:この名無しがすごい!
11/06/19 02:19:39.58 954vrK62
>>299
ウホッ……いい叙述トリック

301:この名無しがすごい!
11/06/19 12:55:47.69 KhHvOQvZ
「ありきたりなトリック」

「なるほど、コンクリートの床に全身を強打、か」
「ま、見たところ、この階段のどこかで足を踏み外して墜落死。事故でいいんじゃないすか?」
「馬鹿野郎、サスペンスだったら、これは必ず転落死に見せかけた殺人だろうが。ありきたりだ
ぞ。どこかにそのためのトリックがあるはずだ」
「はいはい。じゃあ、この様子だと、問題は上の方かな? あ、何だろう……」
「お、何かあったのか? ああ? これは……アリだな」
「ええ。随分集まってますねえ。ああ、他の虫も来てたみたいですよ。ほら、これ」
「ああ。これはチョウバエにショウジョウバエ、それに、チャバネゴキブリの幼虫も張り付いて
いるな。多分蜂蜜か何かだろう。これは鑑識に回せ」
「で、先輩。あれは?」
「うん。このガイシャ、かなりの潔癖性だったようじゃないか」
「ええ。そうらしいですね。それが?」
「つまりな、あれは犯人があそこにわざとこぼしたんだ。虫も多少は貼り付けたん
だろう。それにアリが集まったところで、ガイシャを興奮させた上で、ここに誘導
する。で、あれを見る」
「ああ、なーる……」
「当然踏むのを嫌がって、踏み外したわけだな」
「なるほどね。アリが来たりでありきたりですか」
「いや、これは違うぞ。第一、成功率低すぎるだろ、こんなトリック」
「サスペンスなんて、そんなものなんじゃないんですか」

「パンダのパンだった」

あと、>>296>>300
お前ら、感想だったら感想スレへ池。
スレリンク(bun板)l50

302:この名無しがすごい!
11/06/30 12:55:41.16 ImOZUtT0
「パンダのパンだった」

「くだらない」
俺は辰弘の話を聞き終えて大した間をおかずにそう罵った。
「そうかなぁ」
同意を得られなかったことがさも意外だったようで、辰弘はつまらなさそうに俺を見る。
「当たり前だ。蒸しパンを動物の形にしてチョコで色付けてパンダパンとか、お前の思考回路は小学生か」
俺は辰弘の新商品のアイデアを全否定し鉛筆を机に転がす。
「有りそうで無いと思うんだけどなぁ」
「はあ? 在り来りどころか、誰でも思いつくありふれたアイデアな上に、捻りもない。第一うちの系統から外れすぎだ。そういうのは安価で大衆的な、オッサンが家族とやってる様な町のパン屋でやってくれ」
俺は辰弘に指を突き付けながら言いきった。
辰弘と二人で店を開いて五年になるが、パティシエとしての彼を頼りにしていたし、ここまで店を続けてこれたのも二人でアイデアを出し合って努力してきたからだ。
しかし今回のコイツは最低だ。
変な薬でもキメてきたんじゃないかと疑ってしまう。
「ぶっちゃけて言うと……」
「なんだよ?」
「僕はそっちの路線の方がやりたいんだ」
おいおい、五年も働いてきて今そのカミングアウトをされて俺にどうしろと?
「この店を町のパン屋におとしめると?」
「そうじゃなくて、安価でありふれた商品を独自に展開して層を広げるのも有りじゃないかと思うんだ。いつまでもスイーツスイーツって持て囃されない気がする。保険とは言えないけど、一本槍で似通った味や見栄えでは行き詰まるだけじゃないかな」
「……それ、今考えたろ?」
「あ、ばれた?」
理由をこじつけるまでやりたいならば彼を信じてみてもいいかもしれない。辰弘がこだわって推したものは大ヒットはないが根強い支持を得てきた。
「仕方ない。一ヶ月だけやってみよう。ただし、改良は必要だぞ。それと本筋の新商品もちゃんと考えて来いよ」
俺のゴーサインに辰弘は満面の笑みで頷いた。

それから一年。
パンダパンは地味に売れ、サイズの小さい子パンダ、黒糖を加えた黒い生地のレッサーパンダ、期間限定の苺味のピンクパンダ、色合いを逆転させた逆パンダまで派生した。

「人生ってホント気まぐれだよね」


303:この名無しがすごい!
11/06/30 17:05:12.20 glgl/nqs
【源氏物語】光源氏と紫の上(8才)との初夜を描いた「幻の第55巻」が発見される(画像有)
スレリンク(mitemite板)


304:この名無しがすごい!
11/07/01 12:18:28.91 /jQpI04S
娘が三島由紀夫を読んでいるのだが

URLリンク(twitpic.com)


305:この名無しがすごい!
11/07/02 01:38:28.24 9rMwTz9D
「人生ってホント気まぐれだよね」

 男はひとり、画面を見つめながらに考えていた
 客足少なき見せ物小屋のことである
 見せ物小屋は、常人には理解もできぬ頭を持ち、その頭からさらに想像も絶するような奇特な体躯を持ち得た暗愚を連ねているとの触れ込みであった
 小屋に入ればなるほど、客席の前を横切っていくのは思考の枠を超えた奇妙奇天烈摩訶不思議、奇想天外な生物もいた
 生物の枠すらも超えたそれらは悠々とその定めることも叶わぬ体躯で客席を魅了してゆく
 だが、真にそのような、この小屋に相応しい奇っ怪な輩がごく僅かしかいなかったと言うだけ
 たいていがネズミの着ぐるみや、私は悪魔ですと表記された看板片手にとぼとぼ歩みを進める老人、ユニコーンの失敗作みたくあごの下から作り物の角をぶら下げたロバのように客の期待を大きく裏切るものばかり
 それだけが、しかしそのことこそが客足を疎遠にさせてしまっているのではなかろうかと
 そう彼は考えた
 ラヴクラフトをしても目に出来ぬような奇怪をはないものだろうか
 そう思っていたのは彼だけではなかったらしい
「フザケンナー!」「カネカエセッ」「マッタクドレモコレモガムダノカタマリダナ」
 さすがにそれは言い過ぎだろうと彼は思ったが、その言葉を否定することもなかった
「人生ってホント気まぐれだよね」
 後方の席で誰かが呟いた
 それはいったい何の人生に対しての言葉なのだろうか
 この見せ物小屋に対しての言葉なのだろうか
 それとも呟いた誰か自身のことを指していたのだろうか
 そうでない別の何かにしてもである
 男はポップコーンをほおばりながら思った
 人生を気まぐれと感じるのならば──それは人生が気まぐれなどではない。人生の主人公こそが気まぐれなのだと
 その人生が如何に面白く回るかなんてものは、それこそ主人公の立ち回り一つなのだと
 だからこそ、己の人生が気まぐれだなんて感じるのならば、それは大きなはき違えなのだと──
 ツッコみたい気持ちを抑え、男は空になったポップコーンの容器を片手に見せ物小屋を出て行った

「障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式」

306:この名無しがすごい!
11/07/08 16:51:03.62 Oz4KuPdc
「障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式」


ゴミ捨て場付近に何の処置なく投棄された旧式のエアコンが、夜闇の中その電源を入れた。
もちろん電気がこの場に存在するはずもないし、長きに渡って雨ざらしになっていたこの家電が何の問題もなく通電するはずはない。
ただ普通でない、それだけの話だ。
エアコンはその噴射口をむやみに開閉させて己の仲間を探す。誰かいないのか。
私はここに。
誰か―何かの声が微かにエアコンに届いた。
骨組みばかりが残る照明の残骸が、折れた軸を震わせ手を挙げた。
私はここにいるわ、エアーコンディショナー。
微かな声。身を守る外装も失われ、内部を露出したそれに、エアコンは声をかけた。
照明の類いか。
彼の記憶にはない形だった。古式めいた型と、それを裏切る内部。
外装はどうしたんだい。
骨組みに微かにこびりついている紙らしきものの粕を見ながらエアコンは問い掛ける。
障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式。
照明は答える。
雰囲気と実際の使い勝手を両立させた彼女は、個人経営の飲食店のために用意され、店と共に終わった。
雨は嫌ね。彼女は言う。
エアコンは照明に向かい合った。
もう一雨来る前に、さっさとここから出ないか。
そうね。
二人は頷き、そっと立ち上がると、人気のない道をゆっくりと跳ねて行った。



「犬がいぬいぬ犬が犬」

307:この名無しがすごい!
11/07/10 12:38:33.32 s+Q7q+DE
「犬がいぬいぬ犬が犬」

 ようこは小学生に入ったお祝いに、と一匹の子犬をもらいました。
犬なんかいらない。犬の世話なんか面倒くさいし、どうせなら小さくてかわいいハムスターがいい。
ようこの頭のなかは不満でいっぱいでしたが、わざわざ秋田からきてくれたおじいちゃんとおばあちゃんに申し訳ないと、
子どもなりに気を遣い、笑顔でありがとうと言いました。
 夜になり、おじいちゃんとおばあちゃんが帰ってしまうと態度は一変します。
「こんな犬いらない。ハムスターと交換して」
ぶすくれた顔で犬をにらみつけ、お父さんとお母さんを困らせてしまいます。
なんとかなだめようとしますが、ようこは犬に触れようともしません。
「なあ、ようこ。名前なににしようか」
お父さんが犬を膝の上にので、指先であやします。ようこはその光景が気に入らないらしく、またぶすくれてしいました。
「……犬。そんな犬、名前なんかなくていい。ようこ、犬って呼ぶから」
ようこはそう言うと、自分の部屋へ行き、布団をかぶるとそのまま眠りました。
 目を覚ますともう朝で、お父さんとお母さんのいる部屋へいくと、やっぱり犬はそこにます。
「ようこ、あいさつは?」
「おはよう」
お母さんがいつものように朝ご飯の支度をしています。しかし、お父さんの姿が見あたりません。
お父さんは、隣の部屋で犬にえさをあげていました。ようこはそれを、じっと見ています。
ようこの視線に気づいたお父さん。お父さんは笑顔で言います。
「おはよう、ようこ」
「おはよう」
「ようこ、やっぱり名前が犬だなんてかわいそうだよ。だからお父さん、新しい名前にしたんだ」
ほら、とお父さんは犬を抱っこして、ようこに見せました。その首には、かわいらしいリボンが結ばれています。
リボンをよーく見ると、そこには「いぬいぬ」と書かれています。
「ようこも、名前よんでごらん?」
ようこはお父さんの顔を見ると、無言でお母さんがいる部屋へ戻りました。
 ようこといぬいぬの生活は、こうして始まったのでした。

「新しい靴」

308:この名無しがすごい!
11/07/14 20:41:55.94 4LewuThS
「新しい靴」

ある日、運動不足解消にと靴を買いに行った。
いや別段ジョギングやランニングやウォーキングにこだわったわけではない。
単純にジョギング愛好者やウォーキング人口が増えたと聞いたからとっつきやすかっただけだ。
あとは手軽で揃える道具も少なく、体力と気分で行えるからだ。
以前はスケートボードだの、スノーボードだの、BMXだのと足を運んでいたスポーツショップへ久々に向かった。
さすがに数年も経つと店員は入れ代わっていて、知った顔はない。
僕に付いてくれたのは二十歳そこそこのバイトバイトした姉ちゃん。
用向きを伝えるとシューズコーナーへ導かれ、大まかな説明をしてくれた。
しかしそこはたかが靴。
コンマ一秒を争うアスリートなどではない僕は感性に従いデザインとブランドであっさりと決める。
姉ちゃんも心得たもので、雑談しながらサイズを合わせたり紐の具合をみたりしながら、ソックスやウェアを奨める営業トークも混ぜて来る。
姉ちゃんの笑顔にやられたのか、ポロシャツからチラチラ見える谷間にやられたのか、しっかりウェアとソックスも包んでもらってお買い上げ。
さあ走るぞ! と意気込んで一時間。
靴ずれでヒョコヒョコ歩きながら自宅を目指していると、追い抜いていった女が振り返って一言。
「あれ、昨日のお客さん?」
「あ、店員さん」
スポーティなランニングウェアに存在感のある胸、ランニングスカートから伸びる細い足、僕の返事に答えた笑顔。
間違いない。
「どうしたんですか?」
「バッチリ靴ずれで」
「いきなり何キロも走ったんでしょ?とりあえずそこに座ってください」
姉ちゃんは僕の靴とソックスを取り去ると、ポーチから薬やらティッシュやら取り出して処置をはじめた。
「これでゆっくり歩くくらいは大丈夫ですよ」
「すいません。靴選びから手当まで」
「いいんですよ。私、このあたりを毎晩走ってますから、困ったことがあればお店か道でも声かけてくださいね」
「ありがとう」
それじゃ、と去りかけた姉ちゃんだが、「忘れるところだった」と戻ってきて一言。
「新しい靴を買った儀式」
と抱き着くように近づいて靴を踏んできた。

「君とビーチでアイス食べたい」


309:この名無しがすごい!
11/07/14 23:21:04.10 cF4WYJ9v
「君とビーチでアイス食べたい」

 ベッドの上、呼吸を補助するマスクを付け、点滴で生きながらえている少女が居た。
 その少女の名は浜岸アユミという。
 長かった髪の毛は抜け落ち、身体は細く折れそう。痛み止めを常用して、なんとか意識
を保ち、たまに喋れるといった状況だった。俺は悔やんだ。もう少し早く病院に連れて行っ
てやれば、助かったかもしれないのに。
 末期ガンだった。本人が異常に気付いて病院を受診した時には、もう全てが手遅れだっ
たのだという。皮膚には黄疸が浮かび、かつての微笑みは二度と帰らない。それでも、俺
は彼女の恋人なのだった。

「最期の願いはあるか?」俺は、なんとか言葉を絞り出した。
「君とビーチでアイスを食べたかったな。海の家のボッタクリのアイスを、二人で分け合っ
てさ。そういうのが夢だったんだ……」
「アイスならいくらでも買ってきてやる! だから、生きてくれ。お願いだ……」
「人間には寿命があるものだよ。私の場合、それが少し早かっただけの話さ」

 俺は帰りにコンビニでアイスクリームを買い、クーラーボックスに入れた。
 次の日、アイスクリームを持って、俺はアユミの病室を訪れた。珍しく医者と看護婦が
集まっている。
 
「残念ですが……」後は聞かなくても分かっていた。アユミは死んだのだ。約束は守れな
かった。俺はバイクに乗って、海に向けて走った。海の家に辿りつくと、俺はクーラーボ
ックスを開けた。日光の下で、味のしないアイスを食べていると、周囲で子供たちが遊ん
でいるのが見えた。
 
「おーいおまえら。このアイスをやるよ。ホントは別の人が食べる予定だったんだけど、
その人は事情があって来れなくなっちゃってね」
 
 子供たちはめいめいにアイスを取り分け、それを食べた。
 
「なあおまえら。今日、アイスを食べられなかった人の、幸せを祈ってくれないか」
「なんて名前の人?」
「浜岸……浜岸アユミだ」
「アユミお姉ちゃんがどうかしたの?」「お兄ちゃんアユミお姉ちゃんに振られた?」
「アユミを知っているのか?」
「うん。夏のバイトで、アイスクリーム売ってたお姉ちゃんだよ。恋人ができたら、きっ
とここに連れてくるんだからって、自慢してた」

 俺は、そうか、とだけ言った。寄せては返す海の音に、俺の小さな嗚咽は、静かに吸い
込まれていった。

「ラノベ専門図書館」

310:この名無しがすごい!
11/07/18 12:49:20.10 nhvvP/mM
日本にもこんな時代がありました。
データバンクガイドのお姉さんはそういいながら一冊の本を棚から抜き取り
最初の三行を見て失笑します。
加えて、人を小馬鹿にする時のように細顎をしゃくりました。
自分より美人のどや顔ほど残念かつグーで殴りたくなるものは中々ありませんね。
私は首を捻りながらもガイドさんに秒間8発のマシンガンジャブを放ち
跪かせまた上で靴を舐めさせました。
もちろん精神世界での話です。

そもそもラノベとは何か。
帝国データバンクで検索したところによると
軽いノリで読めると嘯きながらもその大半がブックカバーの着用なしには読めぬ
萌え絵なるものが添付されている小説だということです。
ガイドさんが手にしているものも、やたら布地の少ない服を着た女の子が
前屈みになって目を潤ませているという、明らかに狙っているとしか思えない類のもの。
私から見ても赤面ものです。
電車でこんなものを堂々と読んでいる方がいれば力一杯軽蔑するはずです。
逆に、内容が気になりながらも表紙が原因で
手に取ることが出来ずに涙を飲んだ方も数多くいたことでしょう。

まさに禁書とも言うべきこの書物たちですが
緩慢なる腐敗といわしめた平成の世を知る上で貴重な資料となっているとのこと。
一世を風靡し、過渡期においては純文学を上回る勢力を誇っていたラノベ。
文学は時代を反映するという名言もありますし
おそらくは平成の男子たちも「この歪んだシステムをぶち壊す!」
女子であれば「アンタ、今日から私のペットだから」
などと吠えまくっていたと推測されます。
人間の思考が鈍化してきたと言われているこの時代において
先人たちの揺るぎない思考を掘り起こす意義は量り知れません。

今日から夏休み。
謎多き平成の価値観を読み解くべく
私はここで禁書たちと睨めっこする決意を固くするのでした。

「見えなそうで見える」

311:この名無しがすごい!
11/07/19 23:59:24.69 Y8YJP5Gi
見えなそうで見える。

 友人のAに誘われて連れてこられたのは駅の近くのベンチだった。
「あれをみてみな」
 Aの指指す方をみると陸橋だった。
「ここは絶妙な位置にあって向こうからこっちは見えない、逆にこっちからはあのように通行人の腰から下がギリギリ見えるんだ、このギリギリってのが重要でチラリズム主義の俺にとっては最高の角度なのさ」
 そう言ってA はだらしない顔で晒しながら見上げている。
「言ってるそばから早速お出ましだ。ほうほうあの娘は白か、あの娘は黒。お、次の娘は真っ赤かよすげーな」
 Aはもう周りのことなどお構い無しに大声で興奮している。
「どうだすげーだろ、ところで今の三人のなかでお前どの娘が一番タイプ?」

 僕は返答に困った。決して恥ずかしがっていたのではない、答えられなかったのは今陸橋を通った人たちのなかに女性は一人もいなかったからだ。A はそういうものが見えない人だと思っていたのだが……。




次題 「パラドックス・リボン」

312:この名無しがすごい!
11/07/31 12:53:47.94 gM+k7aB5
「パラドックス・リボン」

「君だというのは、そのリボンでわかったんだ」
 男は、ひどく懐かしそうに、しかし、いまだに信じられない再会を喜んでくれる。
私にはしっかりとした記憶はない。でも、彼の醸し出す雰囲気には、何か心が温かく
なるような、頼ってしまいたくなるものを感じていた。
「じゃあ、あなたが私を助けてくれた人? 確か、時間救助隊とか言っていた……」
「そうだよ、いやあ、すっかり美人になったね」
 時間航行が可能になって数年、様々な制約はあるが、天災の被害者は時間を遡って
救助が可能になっていた。十年ばかり前、大洪水で流されかかった私は、それによって
助けられたのだ。あの時、幼い私には頼もしい大人と映った彼は、今や少し年の離れた、
暖かな男性に見えた。
 当然のように私は彼に惹かれてゆき、また、彼も何度も私の勤める喫茶店に会いに来
てくれた。その年のうちに、私は結婚を決意した。
 でも、それは必ずしも幸せを意味しなかった。いつの世も、人命救助には命の危険が
つきまとう。まして、彼の仕事はその時代に助けられなかった人を対象にしているのだ。
彼に出動があるたびに、私は不安に震えながら待つしかなかった。だから、結婚して初め
ての出動の時、彼にあのリボンを託したのだ。
「これ、亡くなった母から貰ったんです。『あんたの守り神だ』って」
「わかった。必ず持って帰る。約束する」
 彼はそう言って出かけた。そして、必ず戻ってくれた。
 でも、その日は違った。家にやって来たのは、彼の同僚だったのだ。
「奥さん、申し訳ない」
 とうとうその日が来たのだ。私は、全身の血が引くのを感じたが、何とか意識
を保ち、彼の最以後の様子を聞いた。
 彼は、私の故郷の、私が助けられた時よりさらに前の洪水の救助に向かい、そこ
で身重の女性を助けたという。でも、さらに残った人を助けようとして、結局は戻
れなかったそうだ。
 ああ、彼は最後まで彼らしく闘って死んだのだ。涙が勝手に溢れ、顎を伝って床
に水たまりを作った。
「ああ、それから、彼、その女性にあのリボンを」
 彼の同僚は、何度もあのリボンの話を聞かされたという。だから、それを不安に
震えている女性に手渡したのが印象的だったそうだ。
 瞬時に理解した。その女性は、私の母だ。彼は、母を、そしてそのお腹の私を助
けてくれた。私は、二度も彼に助けられていたのだ。あのリボンは、私の『守り神』
だったのだ。

 さて、問題です。このリボン、一体どこから来たのでしょう?

「珊瑚の木」

313:この名無しがすごい!
11/08/02 10:38:20.77 6clOdXNa
「珊瑚の木」

 むかしむかし。あるところに素潜りが得意な漁師がおったそうな。その男は、毎日漁に出て
は、帰る度に同じ話を自慢しておった。
「この海の底には、珊瑚の御殿が建っておる。なかでも珊瑚の木の見事なことといったら、殿様
だって手に入れられまいて」
 その噂が殿様の耳に入ったからさあ大変。殿様はすっかりご立腹のご様子で、男に、その
珊瑚の木とやらを取ってこなければ、打ち首に致すとのお達しが出てしもうた。
 男はたいそう困って、なんとかならぬものかと、町一番の知恵者に相談しに行ったんじゃと。
 するとその知恵者は、すぐに答えをくれたわけじゃ。噂がお城に届けば、いずれこうなると
いうことが、とっくの昔に分かっておったんじゃな。
 そこで男は知恵者の言う通りに殿様の前で答えたそうな。
「珊瑚は海の林と申しまする。これは竜宮の生き物でありますゆえ、刈り取ればたちまち死に絶え、
その輝きは失われてしまいまする。もし殿様が、死体が見たいとご所望なら、喜んで刈り取り、
ここまでお運びいたしましょう。しかし、もし生きている姿がご覧になりたいと申されれば、
殿様のほうから竜宮まで出向くが道理でございましょうぞ」

その後、その漁師がどうなったかは、残念ながら伝わってはおりませぬ。
されど、その海には今でも珊瑚の木が茂り、スキューバダイビングの名所となっていることだけは、
嘘偽りなきまことの話にございまする。

「mから始まる話」

314:この名無しがすごい!
11/08/05 10:48:54.35 LdcAhSMm
「mから始まる話」

その日わたしのケータイに知らないアドレスから奇妙なメールが届いた。
「mmm」とだけ書かれた文面に『jgk.si.net』という見慣れぬドメイン。
迷惑メールでも来たのかと思ったが、期末テストも終わり家でゴロゴロしていたわたしは興味本位と暇つぶしにこの不思議なメールを送った主に返信した。
『あのぉ??まちがいメールですか??』
絵文字を散りばめ画面をデコレーションした、まさに現役女子高生の若さとバカさの権化ともいえる文章を送りつけた。
ふふふ、これを見た相手はさぞ驚くだろう。
小さないたずらをかまし、さて昼ごはんでも食べるかとベッドから身を起こしたところでケータイのランプが光った。
……おどろいた。
まさか向こうから返事が来ようとは。
『すみません さっきのめーるうちまちがえちゃったみたいです ぼくめーるなれてなくて』
なるほど、メール初心者か。いやしかし解せない。
『えーと、あなたどこのどなたですか?なんでわたしにメールを?いたずらですか?』
少し待つと返事が来た。
『いたずらじゃあありません ぼくはあなたにつたえることがあるのです』
『つたえること??っていうか誰ですかふざけてると警察突き出しますよ』
いかんいかん、どんどんメール上のキャラが崩れてきた。
数秒後に懲りずに返事がきたもんだから、どんな内容かと見てみればそこには意外なことが書かれていた。

『ぼくはあくまです。あなたきょう しにます』

は? 何言ってんだこいつは。
いいかげんに気持ちが悪くなってきた。反射的にメールを削除し、アドレスをシャットアウトしたがどうやら遅かった。
五秒後、わたしは心臓発作で死んだ。
―「666」という数字が不吉な数字であることを思い出しながら。

「オレとおまえとあいつと田中と吉田と鈴木」

315:この名無しがすごい!
11/08/08 18:22:02.17 hsjOmIar
「オレとおまえとあいつと田中と吉田と鈴木」

「田中は?」
「急にバイトが入ったんだって」
「吉田は親戚の法事を思い出したってメールが入ってたぞ。後はヨロシクがんばれよ、だってよ」
「そ、そう」
「で、言い出しっぺの鈴木は?」
「え? ええと……じ、持病の癪で行けません、って」
「お前の友達のポニーテール娘は?」
 スミレが目を伏せ、すねるように唇をとがらせた。目のふちがわずかに赤い。
「美希も来れないって。……き、今日来れるのは、あたしとあんた、二人だけだって」
「どーすんだよ! オレとおまえとあいつと田中と吉田と鈴木、計六人でバーベキューするっていうから持ってきたのに!」
 俺は両手にひとつずつスイカをぶらさげたまま叫んだ。一人あたり三分の一で分配する予定が、丸のまま一個に大増量だ。どう消費すればいいんだ、このスイカを!
「み、みんな用事があるって言うんだからしょうがないじゃない。それでその……ど、どうする?」
 スミレは落ち着かない様子で髪の毛をいじる。柔らかくウェーブのかかった、いつもと違う髪型だ。
 よく見れば、服も普段と違う。キャンプ場で走り回っている時のTシャツにジーンズの姿ではない。ふわっふわでスケスケのワンピース(シースルー、というらしい)なんぞを着ている。そういう恰好をしていると、そのへんの女の子よりもずっと女の子っぽい。
 ……なんて口に出そうものなら『あたしは生まれてこのかたずーっと女だばかやろう!』と激怒されそうなので黙っておく。
「せっかく集まっちゃったし、その……ふ、二人で、このまま映画でも見てく?」
「スイカ持ってか?」
「じゃ、じゃあ、水族館とか?」
「スイカ持ってか?」
「な、なんでそんな大きなスイカ持ってくるのよ!準備はこっちでするから手ぶらで来てって、鈴木くんが言ってたでしょ!?どうしてあんたはいっつも人の話を聞かないのよ!」
 スミレが突然にキレた。
 どうして怒っているんだろう。万年幹事のスミレをねぎらうために、朝から畑に行って、ばあちゃんちのスイカを持ってきてやったのに。超うまいんだぞ、超!
「あんたはいっつもそーよ!遊びに行こうって言ったら大人数の方がいいとか言うし!アウトドアじゃないと来もしないし!あ、あたしがどんな気持ちでいるかなんて考えたこともないんでしょ!?」
 スミレが泣きそうな顔をする。俺はふいに全てを理解した。
 みんながドタキャンした理由。
 面倒な幹事をスミレが毎回引き受けている理由。
 彼女が思いつめた表情をしている、その理由。
「スミレ……ごめんな、ずっと気づかなくて。オレ、そういうの鈍感でさ」
「え? え、えええっ!?」
 オレはスイカを持ちかえ、彼女の肩にそっと手を置いた。びくり、と硬直する感触がダイレクトに伝わってくる。
「おまえ、みんなからハブにされてるんだな?だから、いじめとは関係ないオレを毎回誘ってるんだろ?」
 スミレは顔を激怒色に染めて叫んだ。
「死ね、朴念仁!」

「東京駅で吉田以外」

316:この名無しがすごい!
11/08/14 00:23:46.07 3jTnf80N
こち東京来るの10年ぶりだぶ、前は修学旅行んちゃはっけぇ
こばやんっつぁあ佐藤っつぁあ友してきん、懐かしぽぅ。
んが良くない思い出ありし。東京駅ぶ山手線乗るしき、
出席番号順並ばぜぇ先生言うもんっつあ、こち吉田けもん、
一番あとし。村さが汽車ならわ乗るまで待っつああ、チンチロ
鳴り出ししてこち乗ってなは、乗れなは、ぎゅうぎゅう押すもの
プシュー閉まりぶ、挟まろ、いてえいってえふざけんがし
騒いだぶ、駅員きて次の電車にお乗りくださーいっつぁあ
ひぺがるるてこち一人乗れなは、置いたたかしき、
あそ皆こち見る目おどろっこしおかさししこち悔しいのぶ、
なんのぶ、忘れられなは。

卒業アルバム、「東京駅で吉田以外乗った」写真とりし誰っつあ。

つぎ「地下室のヒマワリ」

317:この名無しがすごい!
11/08/27 00:42:11.40 y5nGElXl
 僕の周りではある噂が広がっていた。
噂は地下に黄金色の世界があるというものだった。

 徳川埋蔵金だという人もいれば、旧日本軍の隠し資金だとか、
黄金の国ジパングだとか、もう本当に訳が分からない。
 訳が分からないけど、にわか探検隊がたくさん生まれTVでも放送されたから遠くからも人が来た。
僕もご多分に漏れず友達同士で探検隊を作っていた。

 ある日、心霊スポットとして知る人ぞ知る廃ビル探検をすることした。

 侵入者を防止するために窓や入り口をふさがれていたのは昔。
多くの侵入者に壊され続けた柵は、応急処置をしても心もとなく
僕たちは何もしなくても、すんなりと入ることが出来た。

 廃ビルの1階は窓がふさがれており薄暗く隙間から差し込む光を埃が形作っていた。
それはそれで面白くしばらくみんなでわいわい眺めていた。

 だんだん目が慣れてくると僅かな光でも十分に周囲を見渡せ、
壁にはたくさんの落書き、床にはゴミやBB弾が散乱していた。
そのまま1階を探検しH本等戦利品を手に入れてた。

 そして僕らは……今にして思えば見つけてはいけないもの……地下への階段を見つけた。
薄暗いはずの地下の部屋から明かりが漏れているのがここからでも分かる。
1階でも暗いのに光差す地下室、それだけで僕たちの体は震えた。武者震いじゃなく恐怖から。
帰りたかった。行きたくなかった。そう思ったのは僕だけじゃなかったはずだ。
だけど誰もそれを言い出せなかった。恐怖へのチキンレース

 階段を下りるにしたがい聞こえてくるうめき声、遅くなる歩調
嫌だ逃げたい。でも一人では逃げれない、怖いから。
 恐る恐るみんなで中を覗くと意外にも天窓から十分な光が差し込み、
何故か床に土が撒かれ、天井からさす一筋の光に向けて仰ぎ咲くヒマワリがあった。
見とれてしまう何かがあり、恐怖から張り詰めた気がそがれた瞬間

 「地下室のヒマワリ~~~」しゃがれた、おどろおどろしい声が響いた。
声のほうを見ると、全身タイツでヒマワリの格好をしたおっさんがいた。
ヒマワリの花に埋もれた顔は恐ろしく、それがいきなり走り出した
「地下室のヒマワリ~~~」そういいながら迫ってくる。
僕たちは逃げ出した。多分体育の授業なら新記録間違い無しだ。
声はもうかすかにしか聞こえない、聞こえないって決めたんだ。

 その日のことは、僕たちの間だけの話となった。言っても誰も信じてくれないから。
ほかの友達が探検に言ったらヒマワリどころか、地下室すらみつから無いらしい。
僕たちが見たものが何だったかは分からないけど、多分訳がわからないものだろう。

そして今日も探検に出かける。

次「潜行した閃光」

318:この名無しがすごい!
11/08/27 10:21:09.77 AX8p2tCQ
都会の子は「イカが光る」なんて知らないさ。でも、田舎の子だって、
「禿げは本当は光らない」なんて言ったら驚くだろう。そんなものだよ。
そう言った自分の声に、驕る気持ちがなかったか。年相応に物を知ってるなんて、
勝手に思っていた俺が甘かった。富山には、光る禿が本当にいたのだ―。
朝4時に宿を出て、フィッシャーマンズワーフの隣から観光漁船に乗る。
猟師は皆禿げていた。が、どれも光っていなかった。「叔父さん、氷見にきなよ。
本当に光る禿がいるよ」とぼけた甥っ子の顔が目に浮かぶ。半信半疑、
いや零信全疑だった。それみろ、誰も光ってないじゃないか。
観光客を乗せた船が海に出ると、沖には集魚灯を点した漁船が点在して、
残り少ない夜を働いている。あの光が、もしかして禿なのか? だが、近づいてみると、
それはやはり人工の光だ。
そのときだった。
真っ暗な海面の下で、蛍光色に点滅する何かがまたたいた。蛍烏賊だ。
無数の蛍烏賊の群れが、点から帯に、やがて絨毯になって、漁船の周りを
取り巻いていく。
「来たぞ! それ!」猟師の掛け声がかかった。と、網を持った猟師が
次々に海に飛び込んだ。あっちの船からもこっちの船からも飛び込んだ。
光る衣をまとった猟師たちは海上の一点に集合すると、編隊を組み、
海に潜る。絨毯みたいだった烏賊が次第に凝集して、いくつかの光球に
まとまっていく。あっ! 禿だ! 誰かが叫んだ。息継ぎに浮上した猟師がひとり、
高く水面から飛び上がる。「大漁ーっ!」空中で叫んだ猟師の頭は、
パールホワイトに点滅していた。そして飛沫をあげて海に落ちた。その周りには、
もう他の猟師が集まっている。固唾を呑む観衆の前で、点滅するいくつもの禿が、
徐々に、徐々にタイミングを合わせていった。
そして、光った。光ったんだよ。海全体が閃光を発して、真っ白に光ったんだ。
潜行する猟師の禿が、漁具を、船を、あらゆるものを下から照らして、
俺たちは空中に―白い光の上に、浮かんだみたいに見えた。
感動に泣き出す客がいた。俺も体の震えが止まらなかった。やっと落ち着いて
きたころには、興奮して海面を飛び跳ねる猟師を、他の猟師が銛で打っていた。
帰ろう。人間の土地に。ここはだめだ。
無性に塩辛が食べたかった。

つぎ「天丼の呪い」

319:この名無しがすごい!
11/09/01 10:11:00.04 2K1W6w62
天丼の呪い」

「はいアウト!現時点をもってあなたは呪われましたー」
 昼休みに学食で天丼を食べてると、どこからともなくそんな声がした。
 ふと机に目をやると水の入ったコップの脇から五センチほどの小っさいおっさんがこっちを見ていた。
 エビの着ぐるみを身にまとったおっさんは、どこぞのセールスマンを彷彿とさせるポーズで僕に向かっ

て指をつきだしている。
 あまりの衝撃に口から天丼を吹き出すと、向かいに座った友達に「お前大丈夫か?」と心配された。
 なるほど……。彼の様子から察するにこいつは僕にしか見えないわけだな。
 下手に騒ぐと危ないやつだと疑われるため、僕はそのおっさんのことを完全に無視した。
 
 教室に戻ってもおっさんは僕の後をついてきた。小さいくせにぴーぴー騒ぐもんだからうるさい教室の

中でも嫌でも声が耳に届く。
「おいお前さっき天丼喰っただろ!喰ってないなんて言わせねぇぞ!いいか天丼喰ったら呪われるんだ!

なぜかって!?ふふふ…それはな」
 おっさんのくせに元気な奴だ。授業が始まってもまだ喚いてやがる。
「つーか聞け! さっきから無視しすぎだよ、おじさん泣いちゃうぞ」
 どうせこんな展開になるならおっさんじゃなくてかわいい女の子だったらよかったのに。
「おーい、聞いてますかー?お願いだから返事をしてくださーい」
 うるせいな、耳に引っ付くな。
「ねーねー返事してよー。おじさんにかまってよねーね……」
「っっるっせええええええええええんだよボケが!エビぶつけんぞ」
 突然の大声に教室は静まりかえった。クラスメイトの視線が痛い。
 あまりの空気に行き場をなくした僕は、苦し紛れにエビぞりをした。

「人生でもっともムダな一日」

320:この名無しがすごい!
11/09/01 16:42:36.10 1koxERET
人生で最も無駄な一日


 散歩の途中綺麗な指輪を見つける。とても綺麗だったので持ち帰って宝物にしようとくわえて歩いていると、向こうから女の人がやって来て一言。

「まあ、何てことなの信じられない、ずっとこれを探していたの、本当にありがとう」

 そらから僕を抱きかかえて頬擦りをし、何度も何度もありがとうと言った。僕はちゃんと口の中に隠せばよかったと後悔した。

 昼になり、毎日餌をくれるおばあさんの家に向かう。おばあさんは縁側で寝ていた。僕はいつものようにミャアと鳴き、餌を催促した。しかしおばあさんは全く起きない。しばらく鳴き続けていると、隣の主婦がやって来た。主婦はおばあさんを見て一言。

「あら大変」

 それからすぐ赤いランプの車が来ておばあさんを乗せて走っていった。主婦は「本当に賢いわねえ、あなたのおかげでお婆ちゃん助かったわ」と、またも僕に頬擦りをした。僕は、そんな事より餌をくれよとこぼした。

 餌を貰い損ねた僕はふらふら通りを歩いていた。すると道路を挟んで向こうからお菓子を持った女の子の姿が見えた。お腹が空いていた僕はそのお菓子をねだろうと少女のもとに駆け出した。

 次の瞬間強い衝撃が襲った。トラックから降りてくるおっさん、泣きながら駆け寄ってくる少女。ようやく何が起こったか理解する。意識が朦朧としてきた僕に少女が一言。

「私を守ってくれたんだね」

 そして例に漏れず、少女も力一杯僕を抱きしめ頬擦りをした。

 はあ、何て無駄な一日だったんだ。こんな事ならもっと縁側でゴロゴロしたり雲を眺めたり有意義に過ごせばよかった。




次題 「マネキンの彼女」

321:マネキンの彼女
11/09/02 01:02:04.35 IXYD6yyh
もう10年前になるかな、俺、バイトでゴミ回収やってたんだ。
ある日、粗大ごみの回収に行ったら、マネキンが置いてあってさ、
社員さんもこれ産廃だよなーって言ったんだけど、
普通のマンションだし、プラスチックだからまあいいかってなって
収集車の後ろに放り込んだんだ。横向きにしてさ。
で、ボタン押したの。潰すのにね。そしたら、上半身が先に
飲み込まれてったんだけど、腰のところまで入ったところで、
そこから先にいかなくなった。
あれって思って、もっかい近づいて、ボタン押したんだよ。
そのときさ。急にマネキンの股が開いて、俺の首に脚を
巻きつけやがったんだ。何言ったか覚えてないけど、ぎゃーとかあーとか
なんか叫んだような気がする。脚は生き物みたいにしなやかで、
ワイヤーを巻きつけたみたいに俺の上半身に食い込むんだ。
で、そのままゴリゴリ奥へ入っていくんだよ。
俺は死に物狂いで停止ボタン探したん。けど、手が届かない。マジでパニクった。
そしたら、気づいた社員さんが運転席からモーター止めてくれたんだ。
社員さんマジびびって、オイ、大丈夫かとか言ってたけど、
大丈夫なわけねえよ。絶対狂ってるって思った。そりゃそうだろ?
だって、俺ももう腰まで潰されてたんだからさ。

次「金の梅、銀の桜」

322:この名無しがすごい!
11/09/02 12:51:48.82 4SGg9jLU
貴方が金の梅の実を私に捧げてくれるというならば、
私は貴方を愛したいと思います。
貴方が銀の桜の花弁を私の目の前で吹かせてくれるというならば、
私は貴方を信じ続けようと思います。
見栄を張り、虚勢をあげて、嘘を吐きつづける、
遠くから見ても弱く脆い貴方を見るのも好きだけど、
偶には本当の事も言って下さい。
私の出した二つの条件を嘘では無く本当にしてくれるならば、
私は貴方を永遠に信じ、愛します。
だから、
そう。
金箔を貼り付けただけの梅の実も、
銀箔を風の強い日に私の前で吹かせてくれたことも。
嘘を吐き続ける貴方にはお似合いの虚勢の塊のようなものです。
でも・・・・、
「僕と結婚してください!!」
その本当の言葉をくれるだけで、私は十分です。
「はい」

次「魚は木の上で」


323:この名無しがすごい!
11/09/03 13:02:11.94 RLbYOgYV
「魚は木の上で」

「本当に困ったものですよ」と、その坊さんは言った。
住職ではない。修行僧か何かだろう。
見上げた梅の木には立派な瘤ができていた。
梅は剪定をすると切り落とした枝の付け根がぶくぶくと太る。
少し上を切って癒合剤を塗ってやれば、ここまでの瘤にはならないと思うが…。
昨年の春に梅が咲かず。病気かと思っているうちに、この瘤が少しずつ膨れてきたというのだ。
今年も咲かなかった為不思議に思っていると、瘤がまた徐々に膨れたのだという。
「病気か何かですかね?」と問われたが、樹木医ではなくただの庭師にはこれだけで何か分かろうはずもない。
瘤の上に穴があり、そこから雨がしみて腐ったのなら樹は交換して庭を配し直した方が良いですよ。と、言っておく。
長い脚立を使って梅の瘤を見にゆくと、瘤の上はやはり鉢の様になっていた。
そして不思議な事に水が溜まっている。覗き込むと随分と深い。
今朝がた雨が降ったっけ?いや、それでも腐っていたら水は抜けるはずだ。
坊さんがどうかと尋ねるので、「水が溜まってますね」と答える。
造園には幾ら掛かるかな。と小声で呟く坊さんに、心の中で毎度ありがとうございます。と言いつつも、やはりこの水溜りは気になる。
上手く腐らずにあるウロだとしてもここまで溜まる物なのか?
ホースとバケツを持って来て汲み出してみる。
するすると吸い上げられる水にウロの水位はどんどんと減っていくと、
ぴしゃりと何かが跳ねた。
「…魚ぁ!?」
あきらかに魚。銀に跳ねる…鯵。
「その梅は伐っておくれや」
その時後ろから坊さんに似た坊さんよりは年嵩の声がした。
振り返ると豪華な袈裟を着た見るからに住職な坊様がいた。
「もう海気に当てられておる」
住職いわく、海気に当てられた土地には海の物が生まれるという。
住職に従い伐採道具を持って戻った時、好奇心からもう一度ウロを覗いてみると水嵩が増していた。
その後、木を切り倒すのには難儀した。
最終的にトロ箱3っつ分ほどの鯵が獲れ、住職にお土産と渡された。
…口止め料かもしれない。


次は「待合室にて」

324:この名無しがすごい!
11/09/05 07:57:30.87 O+3Ojj+N
「待合室にて」

「三年ですか?」
「三年です」
「あらら、そりゃあさぞ苦しかったでしょうねェ」
「ええ、毎日が地獄のようでしたよ」
「はは…そいつはなんとも」
「…最初のほうなんかとくにひどかった。苦しくて苦しくて。自分が自分じゃあない気がするんです」
「わかりますその気持ち。私もさまよった口ですからね」
「…! あなたもですか?」
「はは、ここに来る人は多かれ少なかれそんな人ばかりでしょう」
「…そういやそうですね」
「私は一年ちょっとくらいでしたが症状が悪かった。とにかく目に映るすべてが憎くってね。やっとまともになれたのはここ最近。あるときフッと自分のしていることが虚しくなってね。気づいたらここに来てました」
「なるほど。目が覚めたんですね」
「ええ、ばっちりと」
「自分はずっと閉じこもってました。毎日毎日自分を責め続け、自分がどこにいるのかもわからなくなりまして…だけど顔をあげたら空がとてもきれいでして」
「ほほー、そこで目が覚めたと」
「許された気がしたんでしょうね」
「ふふ、いやその感覚は間違っていない」
「はは、だといいんですが…」

ピンポーン

「あ、呼ばれたみたいですよ」
「お、ほんとだ」
「それじゃあがんばってくださいね」
「…がんばるもなにも裁くのはあちらさんだからなぁ」
「いやいや、弱気でどうするんですか。死んだ気になればなんだって…」
「ん?んふふふふ。死んだき気ねぇ…」
「あ。…すいません」
「まあよ、そいじゃあ天国で会いましょうぜ」
「はは、ですね」

つぎ「最後の三択」

325:この名無しがすごい!
11/09/06 16:24:19.64 nZhMSMQG
「最後の三択」

 狭い室内には、ビールの空き缶が散乱している。
 俺も飲んでいるから気にならないが、部屋中が酒臭いに違いない。
 夕方頃に集まって、さんざん呑んで遊びに出掛け、帰って来てまた呑んでいる。
 そんな楽しい一日の締めくくり、賭けババ抜きは佳境に差し掛かっていた。
 俺は残すところ二枚となった手札を、安藤に向けて構える。
 左にはクラブのジャック。右にはスペードのエース。
 ブラックジャックならブラックジャックだ。
 そんな考えが頭に浮かんだと同時に、左のジャックが抜き去られた。
 理由はまったくないが、直感的にまずい、と思った。
 案の定、安藤はニヤリと笑って二枚のジャックを場に捨てる。クラブとハート。文句なし。
 安藤の手札は残り一枚。
 俺の手札も一枚だ。
 だが、取る一枚と取られる一枚では、意味合いが天と地ほど異なる。
「うふふふふふふ……」安藤が笑っている。
 俺が次の一手で逃げ切らなければ、安藤の逆転勝ちだ。おのれ。

 俺は左の三塚に向き直る。
 三塚の手札は三枚。もはや一位は絶望的だというのに、ニヨニヨと笑っていやがる。
 顔が真っ赤だ。アルコールが完全に頭をヤッてしまったに違いない。
 目の焦点がまるで合っていないし、さっきからぶつぶつと不明瞭な呟きを繰り返している。
 耳を澄ますと「ロリリカル」「冷蔵庫」とか聞こえてきた。意味が分からない。
 もういい。俺が引導を渡す。
 俺は三塚の手札を睨みつけた。これが正真正銘、最後の三択。
 勝率は三分の一以下。分の悪い賭けだ。
 だが、何か無いのか。
 確実に勝利を手元に引き寄せる、何か無いのか!

つづく

326:この名無しがすごい!
11/09/06 16:25:02.41 nZhMSMQG
 酔った頭が高速回転する。脳内に過去数分の映像が再構築される。
 俺はその再現映像を入念に分析し、勝利への手掛かりを探す。
 そして、見つけた。
 俺の勝利を確かなものとする、抜け道!
 鍵はほんの一手前にあった。
 酒で判断力を失った三塚が、安藤から引いた札を手札に加える、その瞬間だ。
 三塚の手札は二枚から三枚に増えた。
 そして三塚は手札を捨てなかった。元の手札に合致しなかったのだ。
 その札は元は安藤の手札にあった。つまり、安藤の他の手札にも合致しなかった。
 そして、俺達は三人だ。
 つまり!
 その札は俺のもの! エースに他ならないということ!
 三塚は俺の当たり札を持っている!
 しかもそれだけではない。
 酒にヤられた三塚は、そのハズレ札を無造作に手札の左側に加えた。俺はそれを見ている。
 そして、安藤が俺からジャックを抜き取る間も、三塚は視界の端で微動だにしなかった!
 そうだ! エースは左にある!

 俺は勝利を確信し、満面の笑みで三塚から左の札を抜き取った。
 優雅な所作でひっくり返す。

 次の瞬間、俺はその札を床に叩きつけていた。
「ハートの3だと! ふざけるな!」
 俺は自分でも驚くほどの剣幕で三塚を怒鳴りつけていた。
 安藤も三塚も、驚いた顔をしている。
「その札はエースのはずだ! クラブ? スペード? ハート?
 そんなの知るか! だがその札は絶対にエースのはずなんだ!」
 俺は目をぱちくりさせている三塚にむかって、
 俺が三塚の手札から当たり札を探し出せた理由を矢継ぎ早にまくし立てた。
「卑怯だぞ! 酔っ払った振りをして! これは絶対にイカサマだ!
 言え! どんな手を使った! この卑怯者!」
 三塚は突然怒鳴られたショックで、深い酩酊から浮き上がってきたらしく(たいした演技だ)、
 両目をごしごしと擦ると、自分の二枚の手札と、目の前に叩きつけられたハートの3を交互に見比べていた。
「あー」
 三塚は気まずそうに口を開く。
 遠慮がちにハートの3を拾い上げる。

 そしてダイヤの3と合わせて捨てた。

 あ然とする俺に、三塚の最後の札が突き出された。
「すまん。揃ってたみたいだ」
 俺は震える手でその札を裏返した。
 JOKERのいやらしい顔と目が合った。

つぎ「たんぼにグリフィン」

327:この名無しがすごい!
11/09/06 16:36:29.45 nZhMSMQG
勢いで書いちゃったけど、これ、
『俺』の手札に元からジョーカーが含まれていないと、100%確実ではないですね。
いずれにしてもハートの3というのはあり得ないので『俺』が切れるのは不自然ではないんだけど、
やっぱり恥ずかしい。申し訳ない。

328:この名無しがすごい!
11/09/06 22:29:11.69 KiDl8lD8
「たんぼにグリフィン」

アタシは必死だったの

センパイの赤ちゃんが出来たって言ったら

たぶん「堕ろせ」っていうよね

だから黙ってた。

今アタシ、田んぼにいる。田んぼで産んだ。

どおしよおって思った。やっぱり産まない方がヨカッタのカナ……

そしたら、空からすごい勢いでグリフィンが飛んできて

すごいつかみ方して飛んでいった。

怖かった。ちなみにグリフィンって上が鷲で下がライオン的な動物。

ヨカッタ。アタシみたいなのは育てない方がいいよ。

アタシは泥だらけでそう思った。



「過ぎ行く投資家の夏」




329:この名無しがすごい!
11/09/07 23:32:17.60 NQLaYGt7
夏。
そう、夏だ。
気になるあの子を祭りに誘ったり、プールに誘ったりするあの夏だ。
夏にあやかり、高校時代の夏の思い出作りのために貯めた10万。
それを使い、あの子を落とそう。
まずは定番通り夏休み開始を祝うクラス内の祝賀会で少なくとも俺よりは顔が劣る連中とあの子のグループを誘ったカラオケ。
あのが食べたいと言ったのでピザを二枚。俺が出した。
よく食べる子だがそこが可愛い。
次に男面子を変えて皆で祭に。
あらかじめ口裏を合わせて俺とあの子で二人きり。
しかし良く食べる。
やきそばに始まりりんご飴等10品目。それぞれ三つずつ。
どうやら俺に気があるらしい。デートに誘われた。
告白はまだ早いが、先に婚約指輪だろうか?
シルバーアクセを2つ買って欲しいとねだられ買ってあげた。
最後に手でも繋ごうとして指をあの子の手に近付けたら、当たった瞬間に跳ねるように手を遠ざけ、そのまま帰っていった。
なんだ照れているのか?
既に9万使ってしまい残り1万。
映画にでも誘おうと電話したら、番号が変わっていた。
どういうことかわからなかったが、しばらく待つ事に。
そのまま夏休みが終わってしまった。
夏休み明けクラスに行くとあの子に彼氏が出来て居たそうな。
その日、数名と居酒屋に雪崩れ込んで、暴れたら警察に補導された。
壊した椅子や皿の弁償代。
割り勘で10000円也。
卒業式で叫びたくなるほど思い出に残った夏だった。
この夏は100000円也。

次『ビールに蝉』

330:この名無しがすごい!
11/09/08 23:33:46.39 6cFaHwNk
『ビールに蝉』
 [人物]
 冴えない男、若い母親、若い母親の息子
 [舞台]
 大規模な同窓会が催されている、野外バーベキュー場の片隅。真新しい切り株のそば。
 
(切り株の上には手つかずのビアジョッキが取り残されている)
(つい先程、冴えない男が置き去りにしたものだ)

若い母親「見なさい! 坊や」
息子「なあに?」
若い母親「切り株の上よ。グラスの把手に蝉の幼虫がしがみついているわ。
 坊や。蝉はね。何年も何年も土の中で暮らすの。暗くて寂しい土の中で、ずっと一人で」
(若い母親は、蝉の一生について息子に語って聞かせる)
若い母親「パパに買ってもらった図鑑で見たことない? 蝉の幼虫が古い殻を脱ぎ捨て大空へと飛び立つまでの真っ白な姿を!」
息子「見たことあるー!」
若い母親「もうすぐそれが自分の目で見られるわよ」

(冴えない男が戻ってくる。肩を落とし、ひどく憔悴している)
(男は携帯電話を握り締めている。嫌な電話を受け取ったばかりのようだ)

冴えない男「ああ……。なんてこった。なんてこった……。俺はなんてミスを。
 呑まなきゃ。やってられない」

冴えない男「なんだこれ?」
若い母親「ちょっと! グラスに触らないでもらえます?
 蝉の幼虫が今まさに羽化しようとしているのですよ。
 子供に命の尊さを教えるのがどれだけ大切か、いささかもご理解頂けませんか?」
冴えない男「いや、それ、私の」
息子「ねえ、このおじさんは」
若い母親「見ちゃいけません!」
冴えない男「! あなたね!」
若い母親「見て! 坊や。背中がぱっくりと割れているわ。もうすぐ出てくるわよ」
息子「わあい」

(猫の鳴き声)
(ビアジョッキは倒れ、切り株から落ちて割れてしまう)
(猫は羽化直前の蝉をくわえて走り去る)

息子「ああ! ママ! ママ! セミさんが! 食べられちゃったよう!」
若い母親「悲しいこと……でもね。聞きなさい、坊や。
 自然の世界ではね。時々こういうことが起きるの。
 猫さんだってきっとお腹を空かせていたのよ。
 猫さんを責めちゃ駄目。誰も悪くなんか無いの。誰も悪くなんか無いのよ」
冴えない男「ビール……」
若い母親「だから命は大切にしなきゃいけないの。分かった?」
息子「……うん。ママ」
若い母親「泣かないで。いい子ね。さ、パパのところに戻りましょう」
(若い母親は子どもの手を引いて、喧騒の中心へと歩き出す)

次『しゃべらないダンボール』

331:この名無しがすごい!
11/09/10 10:26:09.54 o02zpNMQ
「しゃべらないダンボール」


スーパーに設置された無料で持ち帰れる場所がある。
 そこから白いダンボール箱を手にした。

 本来は野菜が入っていたらしい生産地と絵柄のロゴが印刷されている。
 それを手にしたのは丁度、欲しかった大きさであった事と綺麗さにある。

 車に乗せて持ち帰ったそれを綺麗に拭うと、元通りに組み立てた。
 手洗いを済ませ早速、透明な新品のゴミ袋を中に敷き詰めて、今までの思い出を挟んだアルバム写真を中へと片付けていく。

 思った通り程良い具合に収まり、袋の口を閉じるとダンボール箱の蓋も閉めてガムテープで止めた。
 押し入れの片隅にしまい込む時、黒い油性マジックで今日の日付を記入した。


 今度はいつ開けるのかわからない。


 詰め込んだ思い出は全て過去のモノだ。


 嬉しかった事や悲しかった事、好きだった人の事も……。


 私の代わりに開けるまで、きっと何もしゃべらないでいてくれる。


 そんな秘密のダンボール箱。



次のお題は「ファンレターの返事」

332:この名無しがすごい!
11/09/15 20:31:15.95 oghPfjt+
その封筒をポストの中に見つけた時には一瞬思考が止まった。
 「え?なんで?私宛て?」
それからようやく思い出す。確かに半年ぐらい前に出したよ、ファンレター。

友達にライブ誘われて行った先は結構大きな会場で、舞台の中央で歌うイケメンはステージライトの効果かキラキラ光って見えた。
予備知識は軽くしか入れてなかったけど、なんとかファンから怒られることもなく切り抜けて、友達と一緒に「かっこいーねー」って盛り上がった。
ライブ盤CDも買って付いた帰路で、友達がなんやかやと追加知識をくれる。
曰く、
今人気上昇中ですでにメジャーに声掛けられてるって噂
まだ公式ファンクラブ設立前だからファンレター送った方が後々お得な事
他。

それで出しといたんだよ。ファンレター。


部屋に戻って封を開ける。
中には手書き風の簡単なファンレターへのお礼、
一緒にライブイベントのお知らせとブログURLのフライヤー。

それを纏めてゴミ箱に捨てる。

あの後、ギターが抜けたとかでメジャーはお流れ、活動も一時休止。


ケータイが鳴る。さっきのバンドを教えてくれた友達。
 『ねー来週ライブ行かない?フォーク系のユニットなんだけど』
 「え~。フォークはなぁ…」
 『それがーすっごいイケメンなんだって!』
 「なら行く!」


バイタリティ女子に過去は無いのです。




次「南京と南京豆」

感想板に感想書いてみたッス
良し悪し分かんないので好き嫌いで書いてるッス

1と場所変わってたので貼っ付け
スレリンク(bun板)l50

333:この名無しがすごい!
11/09/23 05:10:09.35 SLQ7VEnU
「南京と南京豆」

「wikipediaで調べたけど南京豆ってラッカセイのことなのな」
「んだよおまえ、んなことも知らなかったのかよ」
深夜3時のファミレスは客も少なく店内のBGMがいやに大きく聴こえる。
かれこれ10時間もフリードリンクだけで居座る彼らの存在を店側はどう思うのだろう。
「はい、ご注文はなんでしょう?」
「あ、すみませんぼくコーヒーお代わりで」
「えーと、じゃあおれはアイスティーね」
「か……かしこまりましたぁ」
ましてやセルフサービスではなく店員に直接注文する方式をとるこの店にとっては目の上のたんこぶなのかもしれない。
それはそれとして。
「んーそれにしてもこのネーミングはないよ。『南京と南京豆』って」
「ばっか、こーいうのはインパクト勝負なんだって」
「にしては地味だしうちらだとおかしくない?」
「うるせーな。じゃあお前なんか代案あんのかよ」
「ないけど」
「だろ? 名前ってのはインスピレーションが大事なんだ。ここにきてからずーと考えてきたがさっきついに閃いたんだよ! これしかないってな」
入店してからもう何十本目かになるタバコに火をつけ、そのひょろ長な男はまくし立てた。
「とはいえ『南京』ってのはこじつけだ。語感がいいからつけただけ。まあ、していうなら俺の名字が南条だからとでも言おうか」
「うわ、じゃあ南京豆っていうのは?」
「そりゃあおまえがラッカセイに似てるからだよ」
「そんなぁ」
「俺とおまえで『南京と南京豆』―どうだ、いいだろ」
そう言ってひょろ長の男は満足げに灰皿にタバコを押し付けた。
「おまたせしましたぁ、こちらコーヒーとアイスティーでーす」
「お、ありがとうございます」
「そこ置いといてー」
―かくして、ここに『南京と南京豆』というお笑いコンビが誕生した。

「あ、ところでもう一人の方はおかわりよろしいですか?」
「はい大丈夫っす。こいつタバコしか吸わないんで」
ただし三人組だったが。

「靴のにおいを嗅いだら人生変わった男の話」

334:この名無しがすごい!
11/09/24 21:15:51.43 +8m0ps+q
「靴の臭いを嗅いだら人生変わった男の話」

「さて、この人のは……うぷ! 少々きついが、これはこれで」
「何を使います? 活性炭ですか?」
「そうだな、それに吸水効果におがくずを少々、それも桜材のだ」
「はいはい」
 彼に言われた素材を手渡す。
「でも、いちいち嗅がなくても、靴の脱臭材なんか作れるでしょうに」
 途端に、彼の怒り声が返ってくる。
「馬鹿野郎、俺が作るのは脱臭材じゃない。香り調節だって言ってるだろう」
「いや、でもほら」
「いいか、どうして世間の人が靴の臭いを嗅ぐかわかるか?」
「それは、におわないか心配だからじゃないですか?」
「確かにな」
 彼は頷いては見せるが、言いたいのはここから、という顔だ。
「でもな、俺はそれだけじゃないと思ってる。人はな、靴の臭い、
足の蒸れた臭いが好きなんだ。地面を踏みしめ、時には泥をかぶ
り、しかも汗が出て、風通しが悪くて蒸れやすい、あの足指の間
にたまる臭い。一日の活動の中で、ずっと下積みに徹して働き抜
いた結果のあの臭いが、本能で好きなんだ。もちろん、悪臭なん
だが。だったら、それをより人の好むものにする、好かれるもの
にするのは、大事なことじゃないか? 俺は靴の臭いを嗅いでい
て、それがわかった、今の俺にとっては、靴の臭いを嗅いでから、
それからが本当の人生なんだぜ」
そう言って彼はにやりと笑い、靴底シートに素材を手際よく詰めて
ゆく。手作り靴底シート作りを仕事とする男、弟子入りしている身
で言うのも何だが、変わった男だと思う。

「去るのわくせい」

335:この名無しがすごい!
11/09/27 00:46:08.90 258jDhq8
去るのわくせい

「猿の惑星ってどこにあるんだろうね」
彼女がいきなりそんな事を言い出して、僕は不意を突かれて盛大に吹きだしてしまった。
僕の反応が意外だったのか、自分から妙な事を言い出したはずの彼女が怪訝そうな顔を見せた。
二人しかいない天文部の活動中。望遠鏡を覗きながらそんな事を言ったのだから、吹き出しもするだろう。
「もう完全に夏が終わっちゃったね。結構寂しいな」
今の台詞は思いつきで言っただけらしく、彼女はすぐに話題を変えた。
確かにもう空気には鉄のような冷たさがある。日中にすら夏の面影は殆ど残っていない。
夜になれば尚更だ。
「星は良く見えるようになるけど、見る暇はなくなっちゃうかな」
乾燥してきた空気に埃をたてるように、周囲は慌ただしくなっている。彼女の周りもそうなのだろう。
「……また暇になったら来よっか。猿の惑星探しに」
彼女は微笑んで、言った。

僕はその時なんと言っただろうか。

それからまた、僕と彼女のそれぞれ日常が始まり、
僕が彼女に関わる事は結局無くなった。
日常はただ淡々と進んで行き、僕は星を見る事をしなくなった。
あの日から、何度も夏をただこなして、秋の冷たさにも寂しさを感じなくなった

336:この名無しがすごい!
11/09/27 00:48:23.05 258jDhq8
僕はその時なんと言っただろうかあの制された枠の中で見ていた日常は、今ではまるで望遠鏡で星を覗くような輝きだった。
それももう、いつかの季節のように去ってしまったのだ。
彼女と一緒に。

「タタミガール」

337:この名無しがすごい!
11/09/27 00:49:16.80 258jDhq8
あの制された枠の中で見ていた日常は、今ではまるで望遠鏡で星を覗くような輝きだった。
それももう、いつかの季節のように去ってしまったのだ。
彼女と一緒に。

「タタミガール」

338:この名無しがすごい!
11/10/01 23:09:00.33 cbOrz77H
幕末に夥しい日本の文物が欧州へと渡ったが、その中に、いま大英博物館の
倉庫に眠る、黒い畳というものがある。
この品は英国領事ハリスの帰国に際し、便船の船長が小銃と交換で手に入れたと
記録にある。が、これは当時の法に抵触し、船長はマカオで入牢の上客死している。
売ったのは駿府の浪人斉藤二三衛門。脱藩ししばし神奈川に潜伏したが、そのおり
夷狄の武器を手に入れるため、珍奇な品と交換に最新式の小銃を購ったとされる。
その品が、髪畳だ。
二三衛門には愛人がおり、髪は彼女「ら」のものだった。
愛人とは神奈川の商家の娘志ノと、伊豆の貧農の娘さち。加えてさちの妹ひわの髪を
なかば騙して刈取ったというから凶悪である。志ノは出家したが、あとの2人は
程なく死んでいる。二三衛門は武器を手に入れたものの使いこなせず、質に入れて
豪遊したが改心し、のち彰義隊に投じて死んだらしい。

私が倉庫を訪れたとき、博物員に言われたことがある。畳の前で日本語を話すなと
いうのだ。いわく、畳表は英語を解さないが、日本語はわかる。あなたが何か言えば、
畳はあなたに興味を持つでしょうと。気持ちのよくない冗談だ。
畳はぼろぼろだった。髪は油気が失せて、灰色がかった綿埃のようになっていた。
「ひどいですね」わたしが言うと、博物館員は怯えたように笑った。「150年もたてば、
無理もありませんが」相手は答えなかった。つまらない演出だと思った。
だが、その夜―。
ホテルに帰りベッドに横たわると、私はウィスキーを舐めながらテレビを見ていた。
そのとき、不意にカーテンがふわりと動いて、その合わせ目から、縦に並ぶ3つの目が
覗いたのだ。私はぞっとした。
ベッドの上をあとじさると、背中が壁に当たった。すると、何か細い糸のようなものが
天井から落ちてきて、私の顔にかかった。髪の毛だ。私は何か叫んだ。口を開けると、
蛇のようにのたうつ髪が舌にからみついた。私は吐こうとした。だが、唾液に混ぜて
吐き出せるような量ではない。口に指を突っ込んで掻き出そうとする。しかし、
そのそばから、指と唇の間を縫って、髪が、髪の毛が、私の口に入り込んだのだ―。

タタミガールの呪いですね。医者の優しい微笑みは、狂人を見る人のそれだ。
舌を切ってください。頼んだが、拒否された。舌を切ってください。舌の上に、いつまでも、
いつまでも髪の毛の感触があるんです。ああ、英国人はダメだ、俺の舌を切ってくれない。
日本へ帰ろう。日本に帰れば、きっといい医者が俺の舌を切ってくれる。はやく日本に帰りたい。
早く、早く帰りたいんだ。頼む、俺を日本へ帰してくれ。いますぐ。はやく、はやく!
あたしたちを、日本へ帰して。

次「ダンスはウィンカーを点けてから」

339:「ダンスはウィンカーを点けてから」
11/10/10 14:32:10.51 8jDrl1g3
 私と彼女の出会いはダンス教室。
別にダンスに興味があったわけじゃないけど、
仕事以外は特に出かけることなく家にいる私を心配した親に無理やり連れてこられ、
そこで、私は彼女と出会ってしまった。
 周りの人たちの姿は全て背景になり意味を成さなくなり霞んで行き
目に飛び込むものは彼女の姿であり、耳に聞こえるのは彼女の声だった。
彼女も同じような気持ちを持ってくれたらしく、付き合い始めるまでに時間はかからなかった。

 しかし彼女は人妻だった。

 私たちの逢瀬は電灯もない山の中。
手を繋いでいるはずなのに隣にいる彼女の顔が見えない闇が息づく世界
そこでは星ですら私たちを祝福する輝きだった。 
街では意味を成さない月の明かりがこんなにも世界を照らしているのを知った。

 ある日彼女がウィンカーが点滅する音ってタンゴだねと笑いながらいった。
その日以来、ウィンカーのリズムでダンスを踊りはじめた。

 曇りの日だとウィンカーの付いたときにしか周りが見えない
それでも私たちの位置は変わらない、必要なとき必要なところに君がいる

 いつかは君のとなりにいつでも並ぶことが出来るのだろうか?
ウィンカーのように現実と夢が切り替わっていく。
このままでいたい、いられない
君を放したくない、それは許されない
ダンスも気持ちもウィンカーに揺れている。

じゃあ帰ろう、今日のウィンカーは消える時間になっていた。

次は「カメムシと雪」でおねがいします

340:この名無しがすごい!
11/10/11 08:55:34.56 YMI6XjJm
「カメムシと雪」

空を見てカメムシは呟いた。
「早く雪が降ればいい」と。

桜が散ってカメムシは思うのだ。
「生まれてきたけど、ただ死ぬのが怖い」と。

朝焼けの中カメムシは考える。
鉄の味はどんなのだろう。

夕焼けに染まりカメムシは黙り込む。

雪を見てカメムシは悟るのだ。
「そろそろ死期が近いな」と。

冬が全身を優しく包み、銀色の雪に埋れた虫は何も言わない。

何も言えない。

つぎは「閉じない閉鎖空間」でお願いします。


341:「閉じない閉鎖空間」
11/10/11 21:37:16.40 cJIKNQNS
 閉鎖空間という言葉がある。
数学的な閉鎖空間は確かにあるかもしれないけれど
現実にそんな世界を見たことがない。

 例えば生命球は太陽の光が不可欠である。
例えば引きこもりの部屋、食事は差し入れられるし他者の思索をたどることも出来る
アニメの世界の閉鎖空間もなんだかんだと出入りしている奴らがいる。
もしかしたら死の世界は閉鎖しているかもしれないが試したくもない。
2次元で閉鎖していても3次元に拡張すれば閉鎖していないし3次元も同じだ
ひも理論で言われるらしい10次元も同じだろう。

 完全なる閉鎖系があるとして、その中身がどうなのかはシュレディンガーの猫どころの話ではない。中身を測定する方法すらないのだから生死もない。何もわからない。
結局、自分が閉鎖している場所にいると理解できた時点で終わっているのだ。

 しかし本当に閉じているのだろうか?
何も見えないが風も水も流れているのだ、見当たらないのは光だけだ
だからこそ今僕がいる空間は閉じていない・・・閉じないと信じている。
閉じていないと思えば閉鎖空間は開くのだ。

 足元もおぼつかないけれども、少しづつ風上に進んでいく
たぶん体が動く限り・・・


 次は「穏やかな猛火」でお願いします。


342:この名無しがすごい!
11/10/17 10:49:15.37 Ojg+W0HV
 化学製品企業の工場が燃え始めて18時間が経過した今も猛火はその姿を変えながらもその場に居座り続け、
新型消化剤をUS-1やヘリが投下した結果はでているものの現状を維持するだけだった。
その為ニュースでは相変わらずトップを飾っているが一進も一退も無い状況に良くわからない知識人が上っ面なコメントを垂れ流していた。

「こんな大災害なのに穏やかなものですね」
「現場はかなり大変みたいだが、今は消えるのを待つだけだからな。
 さて私たちの戦場に行こうか?」

二人は定例記者会見に向かっていった。


次は「山の子供たち」

343:この名無しがすごい!
11/10/19 08:25:43.21 7J10/cWH
山の子供達

「俺のほうが背が高いぞ、やっちゃん」
「馬鹿言えたてやん、こっちのほうが絶対に高い」
「何言ってるのさ。ぼくが一番高いぞ」
「やかましいぞふーやん、お前なんかぽっと出の癖に。じきにてっぺんから崩れちまうのさ」

「ああやかましい。これだから、山の子供達は困る。まだひよっ子の癖に、気位だけは高くて、
背比べをやたらにしたがるんだから。お前が俺たちみたいになるには1億年早いってえものだ」

 八ヶ岳、立山、富士山の口げんかを遠く眺めて、ヒマラヤの峰はそうおっしゃいました。

次「通勤かい足」

344:この名無しがすごい!
11/10/26 00:00:39.36 Zt6sqAqE
保守

345:この名無しがすごい!
11/10/27 15:27:41.84 WOhRZh7i
「通勤かい速」

 ○月×日。僕は日記を書くことにする。こうやって真面目に日記に書こうと
思うことは珍しい。僕は朝の漠然とした思考を打ち消し、一方向にまとめ上げ、
日記を書こうと念じる。インプラント・コンピュータが、自動的に日記アプリを
立ち上げる。
 僕は今日も、いつもどおりに、通勤かい速に乗って出社する途中である。
大手出版社勤務とはいえ、帰っては寝るだけの生活。昼食は慌しく、帰りは
遅い。そういった意味では、早朝のこの時間帯だけが、自分に与えられた
自由時間だと言っても過言ではない。
 ふと、垂れ幕が目に入る。言語改正法10周年記念。そういえば、「かい」
の字がひらがな表記になってから、ずいぶん経つ。快不快。好き嫌い。
喜怒哀楽。学生時代に使っていた感情を表す漢字は、全てひらがなになって
しまった。初めのうちは言論の自由を盾にこの政策に強硬に反発していた
小説家や言語学者も、言語改正派の正当な主張には抗えなかった。法律が
施行され、出版社で検閲が始まり、現実に逮捕者が出始めると、ペンは脆くも
世論に屈したのだ。
 そこまで書いたところで、僕は日記を保存した。と、その瞬間に脳内に文法
エラーの音が鳴り響いた。その文法エラーは電車内の装置と連動し、途端に
警告灯が回り始める。電車の中は一時騒然となった。車掌が手錠を持って、
僕のいる車両へと乗り込んでくる。
 脳内で起動された日記アプリへの書き込みは、当然のように当局の検閲の
対象となる。僕はうっかり、そのことを忘れ、使用を禁止されている表現を
使ってしまったのだ。そして仮にも、僕は大手出版社の社員なのだ。トップ
ニュースになることは間違いない。
 僕は自分の取り返しのつかないミスに真っ青になってしまって、それからの
ことはよく覚えていない。

「本が読めない男」

346:この名無しがすごい!
11/10/29 15:20:09.27 whG7IqYv
『本が読めない男』

 俺自身はしごく平凡な男だ。だが俺の友人の中には世界を股にかけ、冒険に満ちた波乱万丈
の人生を送ってきた男もいる。これから俺が語るのもその友人の物語だ。父親が不明であるた
めに幸福ならざる幼少期を過ごした彼は、義務教育を終えると同時に国を飛び出し、あまたの
成功を引き連れて帰ってきた。友人の人生は大昔にこぞって書かれた冒険物語さながらであっ
て、友人本人もまた、振りかかる危険をくぐり抜けるだけの主人公たる天分を備えていた。
 だから彼が本(※紙で綴じた書物のこと)を読んだこともなければ触れたこともないと言っ
たとき、俺は意外なような、それでいて腑に落ちるようなどっちつかずの印象を受けたものだ
った。
 彼がそう口にしたのは、彼のかつての生家の二階でのことだった。そのとき俺と友人は木製
のテーブルを挟んで相対していた。テーブルの上には錠で厳重に封じられた一冊の本が置かれ
ていた。
「小説みたいな人生を送ってきた奴が一度も本に触れたことがないってのは、驚いたよ。俺の
祖父さんあたりが聞いたら間違いなく目を剥くな。まさに新世代の人間だ。実用書やコミック
も、紙媒体のものは一切?」
「ああ。学校の教科書なんかも、俺が入学したときにはすべて電子化されていたから」
「たしかにそうだ。しかし紙の本が今やアンティークだとしても、親の世代はいくらか抱え込
んでたりするものだがな。この家だって建てられてから結構経つだろうに。他には一冊ぐらい
残ってたりしなかったのか」
「知らんよ……いや、実を言うとな」彼は声のトーンを少しだけ落とした。
「紙の本を読むことは禁じられていた」
「そりゃまた、どうして?」
「さあな」彼はぶっきらぼうに言った。
「……それは、その、亡くなった親御さんから?」友人は半年前に母親を亡くしていた。
「そうだ。思い返せば、母の教えで、今も破らずにいるのはこれぐらいだ……」
 彼はしばし昔を思い出すような顔つきをしていた。
「で、屋根裏を整理していたらこれが出てきた」
 そう言って、彼は本に巻きつけられた太い鎖に手を掛けた。
「どうだい? 手持ちの道具で開けられそうかい?」
「できるだろうよ。この錠、古いが特別なものには見えないからな」
 俺は快諾した。彼が俺を呼んだ理由というのが、つまりはそういうことだった。
「しかしいいのかね。紙の本を読むなってことは、この本を読むなってことでは?」
「そうだろうな。鍵も見つからなかったし……。
 ま、死人に口なしと言うだろう? 気兼ねしないでやっちまえ」
 本人がそこまで言うなら構うまい。俺は「了解」と告げると鍵を開けるための作業に取り掛
かった。

つづく

347:この名無しがすごい!
11/10/29 15:20:43.88 whG7IqYv
 十分程度で鍵は開いた。かちゃりと音を立てて難なく。何重にも巻きつけられた鎖を解いて
ゆくと、最後には形の歪んだハードカバーが残された。それは臙脂色の小さく分厚い本で、表
紙には何も書かれていなかった。
「さて読んでみようじゃないか」彼は待ちきれないというように本の表紙に手を伸ばした。
「俺も見てもいいのか」
「かまわんよ。報酬代わりとでも思ってくれれば幸いだ」
 そう言って、彼は本を開いた。

「なんだ」思わず落胆の声が洩れた。
 内容を検めるまでもなかった。表紙が無地だったものだから手書きの日記かなにかだと期待
したが、それどころではない。本の中身はすべてが白紙だったのだ。
「こりゃまた手の込んだジョークだな。母上殿は茶目っ気のある人だったのかい?」
 俺は苦笑い混じりにそう友人に呼びかけた。彼もまた俺と同じ反応をするか、腹を抱えて笑
い出すかのどちらかだと思った。
 ただ沈黙だけが返された。
 顔を上げると、友人の姿はなかった。
 友人は消えてしまった。
「……おい?」
 部屋を見渡しても誰もいない。テーブルの下を覗いても誰もいない。
 死角はもうない。
 窓は閉まっている。扉は閉まっている。開閉音など聞こえなかった。
 ついさっきまで俺の目の前に立っていたはずの彼は、忽然とその場から消えていた。
「おいおい……」
 俺の視線は部屋の中をぐるぐると何周もした挙句、途方に暮れたようにテーブルの上の本へ
と落とされた。

 驚きで声も出なかった。
 だが、納得はさせられた。
 非常識極まりないことだが、目の前の光景は非現実を説明できるくらいには不条理だった。
 俺は、もはや一ページたりとも白紙ではない本を前にして、
 父親のいない彼が一体何から生まれたのかを理解した。
 
 彼は故郷へと帰ったのだ。

次『天井の高い部屋』

348:この名無しがすごい!
11/10/29 22:43:15.12 wp5gGPgA
 目覚めると天井が高かった。
 冷たいフローリングの上にのろのろと立ち上がり、体を上に上にと大きく伸ばしてみても、しかしその指先は天井に届く気配すらない。

 七分かけて洗顔を済ませた。

 十五分かけて朝食を済ませた。胃はおろか喉にまで白米が詰まっているように感じる。最近の僕はついつい食事を多く盛りつけてしまう。自分の体というものを考えなければならない。

 スーツを着込むと、なんだか自分がとんでもなく間抜けな格好をしている気がして、その途端に全身を脱力感に支配されてしまったので、そのままフローリングに横たわることにした。

 天井が高い。
 僕は想像する。
 いつか、僕の姿が誰からも見つけられなくなる日のことを。

 どんどん天井が高くなっていく。



次は「たわしの調理法」

349:この名無しがすごい!
11/10/31 02:47:43.12 kOSuWOBB
私には妻がいる。
とても愛らしい妻で、私には勿体無いぐらいの愛しい我が妻だ。

「今日は随分遅かったのね」

私は彼女が居なくては、生きていけないだろう。

「私、今晩の夕飯の買い物の帰りに見ちゃったのよね。知らない女と歩いてるあなたを」

会社の得意先と偶然すれ違ったので、荷物を運んだ。だが、彼女にとってそれはどうでもいい事だ。

「私、あなたを愛してるわ。だから信じる。でも、それでも怖いのよね」

気持ちはとてもよく分かる。私が逆の立場に立たされれば、きっと私は自殺してしまう。

「だから、今日の夜ご飯は絶対に食べ切ってほしいの」

彼女が無造作に机の上に置いたのは、一つのたわし。

「食べてくれるわよね」

迷いは無い。彼女からそれで信頼を勝ち取れるのなら、それは幸福な事なのだから。

「わかったわ」

彼女は台所へと消えていった。たわしを持って。

それを見送る私はただ一言、「愛しているよ」と呟いた。

350:この名無しがすごい!
11/10/31 02:49:00.01 kOSuWOBB
sage忘れた…

次は「ヘッドフォン」で

351:ヘッドフォン
11/11/02 22:54:15.08 DRDPbbFo
令嬢の傍らには、いつも本物の音楽があった。
生まれて17年間屋敷を出たことのない令嬢は、朝起きると
精妙なヴァイオリンの演奏を聴きながら朝食をとり、
遠くマンドリンの調べを聞きながら読書をし、洒脱なアコーディオンの
リズムを聞きながら昼食を食べ、葉から落ちる雨滴のような
オルゴールの音を背にしながら編み物をし、父のお気に入りの
声楽隊を招いて賞賛の微笑を投げ、夕食時には屋敷中に
散らばっていた音楽家を集めてその日のアレンジを楽しみ、
夜は離れで歌う若いソリストの声を感じながら客に応対する。
Music is her life..........
そして令嬢の一日が終わる。鉄格子の嵌った石の部屋に
戻り、乳母が扉に錠を下ろすと、彼女は化粧台の下から
ヘッドフォンを取り出し、目を瞑って耳に掛ける。
「環境音シリーズ07 工事現場 基礎・溶接・舗装」
これが令嬢のオアシスだった。生活(life)ほど鬱陶しいものはない。

次「海から飛び出すホームラン」


352:この名無しがすごい!
11/11/04 05:48:36.17 2Ojhc7R3
フロリダで個人タクシーなんて職業をやっていると、時たま変な客が乗り込む場合がある。
今回もそうだった。
名前の部分に「ホームラン」と書かれた猫用のケージを抱えた、何故かチップを多く渡す黒いコートの男。
日本から移住した俺の醤油顔という奴を見て、彼は「港まで」と一言だけ呟いた。
しかし男がケージを座席に置くと、衝撃に驚いたらしい『中身』はうぞうぞと動き始め、吸盤の付いた足を一本外へと出した。
「ホームラン君は海から飛び出してきちまったのかい」笑いながらそう俺が言うと、男はおもむろになんと100ドル札を握らせてきた。
「家出してしまいましてね。一緒に帰る所です」
「…お客さん、ツいてるぜ。面倒臭い仕事が終わったら凄い物が見られる。今日はなんとその港から行ける島で、シャトルの打ち上げがあるんだと」
「知っています」

港で無事に男を下ろした俺は、一服しながら車に寄りかかっていた。
海洋研究でもしていたのかな。遠くで白い煙を上げながら上昇していくシャトルを見ながら男について空想を走らせていたが、車載ラジオから聞こえた言葉に俺はタバコをポロリと落としてしまった。
『緊急ニュースです。フロリダ州メリット島で今日打ち上げられたシャトルですが、それに黒いコートを着た侵入者が乗り込んで行ったとの情報が警察から入りました。男はシャトルをジャックし、『船が壊れた。家へ帰るだけだ』等と意味不明の発言をしており……』
「まさかな」
個人タクシーなんてやっていると、空想癖が付いてしまうらしい。

次は「扇風機男子」

353:この名無しがすごい!
11/11/06 10:13:56.03 NWE6Md0y
暑い。僕の何もかもが溶けてしまいそうだった。
いっそのこと溶けてしまったら楽なのかもしれない。
扇風機からは熱風しかこなかった。

今日僕は彼女にふられた。
彼女に僕より好きな人ができたのは知っていた。
それでも僕は彼女の気持ちが変わることを信じて、気付かないふりをした。
いや、結局のところ信じていたかっただけなのかもしれない。
たぶん、わかっていたのだろう。でもそれを僕は無かったことにした。
今日ふられてわかったことはただ一つ。

扇風機からは熱風しかこない。
つけていても無駄だ。
そんな扇風機と僕がなんとなく似ている気がして、僕はよけいみじめに感じた。
僕の無駄だった毎日を嘲笑うように太陽は輝く。

次は「今週の終末」

354:この名無しがすごい!
11/11/07 21:18:08.23 jtTIyzFD
日曜日、彼と来週の日曜に映画を行く約束をした。
月曜から木曜は出張で彼とは会えない。
金曜日、久しぶりのデート。映画のチケットを彼から渡される。
土曜日、原因不明の心臓発作で彼が亡くなった。
一夜明けた日曜日、彼とのデート。
そしてまた、来週日曜に映画を観る約束をする。
月曜から木曜は彼の出張で会えない。
その間に私は彼の命を守るためにあらゆる手立てを考える。
先週は心臓発作、その一つ前の今週は自動車事故、
二つ前の今週は歩道橋の階段から転がり落ち、三つ前は・・・
運命はどうにかして私から彼を奪おうとしている。
もしかすると、私が彼を手放せば彼は救われるのかもしれない。
でもそれだけはどうしても嫌だ。
そのくらいならこのループの中に永遠にいた方がいい。
いつかこの週末を終わらせ、私は彼と約束した映画を観る。きっと。

次は「幽霊かばん」

355:この名無しがすごい!
11/11/08 11:30:49.03 +UNcx/nl

 幽霊かばんというものがある。

 幽霊が持ち歩く幽霊用のかばんだ。「死んだものが今さら何を持ち歩く必要があるのか」と思う人がいるかもしれない。実際その通りで、需要は少ないらしい。

 しかし未練というものは人や場所だけでなく物にも込められるのは当然で、それを持ち歩きたいと思う霊もいる。そういう者にとって幽霊かばんは必要なのである。
サッカー大会の優勝カップとかトランジスターラジオとかビーズの首飾りとか、ボロボロのぬいぐるみ等々。幽霊だからこそそういった生きていた頃の思い出に執着してしまうのだ。

 私のかばんにもそのような大切な過去の宝物が詰まっている。

 私は目を上げトンネルを抜けて右方に広がった海を眺めた。冬の海は黒髪のように冷えて見えたが、時折雲間から差す陽が優しさを与えていた。
私はかばんから白い馬と黒い馬の人形を取り窓際に置いた。そしてその人形と景色を交互に見ながら微笑み、それからゆっくりと遠い記憶の日だまりに溶けていった。きらきらと霧散していった。



次題 「マイ・プライベート・ターヘル・アナトミア」

356:この名無しがすごい!
11/11/14 16:43:26.27 OZkkTTuw
「マイ・プライベート・ターヘル・アナトミア」

「『解体新書』と言えば、聞いた事があると思う。
中学ぐらいだったかに習ったろう?杉田玄白の」
男はそう言いながら古臭い一冊の書物を取りだした。
「『タブライ・アナトミカイ』。これがそう。
これは当時の蘭方医の内の誰かが所有していたものだそうだけど」
本当にそうだとしたらえらい骨董品なその書物を、男は大事そうにガラスケースにしまう。博物館にあるような傾斜のついた展示用ケース。
「当時は高価だったらしいから、藩の蔵書かもね」
蓋をしないまま、男はガラスケースの中でページをめくっていく。
解剖図を一枚一枚確認しながら、
「まあ。私はオランダ語は読めないんだけれど」
そう言って苦笑した。確かに先ほどのラテン語も日本語発音だった。
「杉田玄白の得た解剖学書の一冊。彼はこれを『ターヘル・アナトミア』と記録している。
彼ら蘭方医はこれを片手に腑分けを見に行った。日本での西洋医学の始まり。それがこの一冊」
男は1ページに目を止め、うっとりと眺めた。
「そうだな。今日はこのページだ」
そこで蓋を下ろして、俺にガラス越しのそのページを見せた。
「綺麗だろう?」
男の後ろにはいくつもの解剖図が並ぶ。
「君にピッタリだ」
違う。
あれは―
解剖された死体だ。

薬で麻痺した頭がようやく認識した。
ぼんやりとした頭に危機感はない。むしろ現実味も無い。
「私オリジナルの『解剖学書』。完成まではまだ遠いねぇ」
俺はアレに加わるのか。


次は「君が居なくなってからこの部屋は狭くなった。」

357:この名無しがすごい!
11/11/14 19:04:13.02 dfPCqu5E
「君が居なくなってからこの部屋は狭くなった。」

 前略 君へ。
 最近、やたらと君と住んでいた頃のことを思い出す。君は僕の所有物を見ると、
見境なく捨てる癖があったね。あれはゴミだの、これはクズだの、そっちは不要
だのと、自分勝手な理由をつけて、思い出も何もかもを捨ててしまったね。
 君は僕が熱中しているところを見て嫉妬したのだろうか? ゲーム機でさえも
捨ててしまった。売れば幾らかの足しにでもなったかもしれないのに。
 君の判断は誤っていると僕はいつも思っていた。それというのも、僕はいまでは
ひとかどの作家なんだ。驚いたかな? 驚いただろうね。今では現代ミステリだけ
でなく、ファンタジーや時代モノにも挑戦しようとしている。そうするとどんな
ガラクタでも、いつか使うかもしれないだろう。だから、なおさらモノを捨てる
ことができなくなってしまってね。
 結局何が言いたいかというと、今では僕の座る椅子のところだけが空きスペース
になっていて、他は全部ゴミの最終埋立地みたいな状態になっているということ。
そしてそれが今にも崩れそうで、このままだと僕はその下敷きになって遠からず
死んでしまうだろう、ということなんだ。
 今の僕は、君を必要としている。そう、割と切実にね。おかしいだろう。「君を
必要としている」たったこれだけのことを書くために、こんな長い前振りが必要に
なるなんてね。
 君の心が僕の元を離れてしまったことは疑う余地が無い。けれども、どうか僕に
憐憫の情を抱いてくれるようなことがあるならば、このガラクタの山を捨てに、
この部屋に戻ってきてくれないだろうか。たった一度でいい。僕にチャンスを。
 草々

「どちらかが彼女を醸(かも)した」

358:この名無しがすごい!
11/11/14 19:05:11.86 lSxbFM7l
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE ~輝く季節へ~ 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD ~支配者の為の狂死曲~
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世
10. Dies irae

SS予定は無いのでしょうか?

359:この名無しがすごい!
11/11/14 22:31:24.25 dfPCqu5E
>>358
スレ間違ってませんか?

360:この名無しがすごい!
11/11/16 01:08:03.48 9nTVY0fQ
「どちらかが彼女を醸(かも)した」

「全く、笑わせてくれるわよね」
真っ赤なルージュがくっきりと引かれた唇を歪めながら、彼女は呟いた。
派手なワンピース。大きめのピアス。
彼女は二人の男と同時に別れたそうだ。いや、二人の男と同時に付き合う彼女もどうかと思うが。
とにかく僕は彼女に呼び出され、愚痴を聞いている。薄暗いバーの片隅で。
僕が知っている彼女はジーンズに白いシャツが似合う、笑顔のかわいい女の子だった。
たった二年でこんなに変わってしまうとは。大人の女になっていたとは。
二人の男に醸されて、いや、どちらかの男の好みなのだろうか。いったい、どっちの。
そんなことを考えながら、僕は彼女を眺めていた。
「あなたと離ればなれになったのは、確か二年前だったわよね」
けだるそうに彼女はタバコの煙を吐いた。
「そうだね。雰囲気がすっかり変わってしまったなって、思っていたところだよ」
「そうね。あのころの私は全然飾り気がなくって」
「そう。僕たちに、いつも真直ぐな笑顔を見せていたよね」
「それは、あなたがそう望んでいたから」
「え? 僕?」
「あなた、白いシャツとブルージーンズの組み合わせ、好きでしょ?」
驚いた事にそれは僕の記憶の中の彼女のイメージそのままだった。
「なんで、突然私たちから離れていったのよ。私がどんな気持ちで……」
僕は言葉を失った。僕が去った理由は、彼女から嫌われたと思ったからで……。
胸に、何かがこみ上げてくるのを感じた。二年前にも感じた何かを。
そして、僕は沈黙のまま、彼女の肩を抱いた。僕が勇気を出せば、また朗らかな表情を見る事ができるのだろうか。彼女の。

「冬の種」

361:この名無しがすごい!
11/11/19 22:52:35.76 OHYB0BvP
セーターの匂い。アスファルトを舞う落ち葉。人いきれ。曇ったガラス。
私はアイポッドをポケットに入れて好きな音楽をかけて渋谷の街を歩く。
本当はアイポッドをじゃなく別のメーカーにしようと思った。
だって何となくみんなが買ってるから買ってるみたいで流行かぶれみたいだから。

でも深くは考えないようにしよう。だってきっとどうでも良いことだから。
実際買ってみて、気に入ったのは事実。だから問題ない。

クリスマスが近づいている。クリスマス。今年はまた由美と過ごすだろう。
由美も彼氏がいない、私も彼氏がいない。由美に彼氏が出来たら
私はきっと何食わぬ顔をして言うだろう。「良かったジャン」って。
でも私は動揺して取り残された気分がするに違いない。孤独を感じるに違いない。

私はビルの間に切り取られた空を見上げ雨が降りそうだなと思う。
雪にはまだ早い。晩秋の雨。

私は毛糸の手袋をクリスマスイルミネーションに重ねる。
色とりどりの光たちは生まれたての芽のように生き生きと伸びていく。
私は手袋の上の見えない冬の種をそっと包み込んだ。


「朝に飛び込んで」




362:この名無しがすごい!
11/11/20 12:19:52.40 ZFLbkZab

水面に影が映っている。ボクの影だ。ボクは橋の上から川の流れを見つめていた。
森から蝉の声が聞こえて来る。頬に当たる風は、まだ早朝の涼しさを残している。爽やかな風。
ボクがいる橋の上から水面までは、ちょっと恐怖感を感じるくらいの高さがある。少しだけ足の震えを感じた。
ぼんやりと水面を眺めながら、一学期最後の日に担任が話していた言葉を思い出していた。

「最後に君たちにひとつだけ言っておきたいことがある。君たちも知っていると思うが、この学校には『度胸試し』という風習がある。
役場前にある川の橋から飛び降りるやつだ。昔から中学二年の夏休みに、この学校の男子のあいだで行われて来た風習なんだけれど、危険なのでこのクラスの男子は絶対に行わない事。
やった者は二学期最初に親を呼び出すからな。覚えておく様に」

朝の日差しが肌に突き刺さる。蝉の声は青空を切り裂く様に響き続けている。
昔はこの『度胸試し』の儀式を行って初めて一人前の男として認められて来たわけなんだけれど、ここ数年は危険だからということで学校からは禁止されている。
けれど、ボクはひとつの区切りとして『度胸試し』をこの夏に行う事を決めていた。
「おーい。薫、本当にやるのかよ」
親友の純也がやってきた。ボクは頷く。
「お前なんかにできるわけないだろ? 情けない所を見届けてやるよ」
智彦。クラスで一番嫌なやつだ。こいつにボクが飛び降りところを見せつけてやりたかった。
「二人にはボクの『度胸試し』を見届けて欲しい。この儀式の後、ボクは変わってしまうと思うけれど、今のボクを覚えていて欲しい」
ボクは橋の手すりに立ち、大きく深呼吸をした。そして、青空に大きく弧を描いて、水面へと落下していった。

川を泳いで岸に到着したボクは、大きな岩の上で一息ついていた。
「よくやったな。見届けたよ」
純也はボクにタオルを渡してくれた。
「本当にやるとは思わなかったよ。がんばったな」
智彦もボクを認めてくれたようだ。
ボクは嬉しくなり、胸に手を当てた。最近少し膨らみかけて来た胸に。
これで思い残す事はなにもない。今日を境に髪を伸ばそうと思った。自分のことも『わたし』と呼ぼうと。
変われる気がする。ボクはやりとげたのだから。朝に飛び込んで。

「水晶の中にあるもの」


363:この名無しがすごい!
11/11/21 01:55:46.70 katO5czG
雨が降ってきた。
私は電車のドアに顔をそっと近づけ空を見上げる。水滴のついたガラス越しの風景。
鉛色の街。色あせた風景。それは心の傷を隠してくれるような気がする。

私は買ったばかりのハンズの袋に左手から右手に移し変える。
中には水晶が入っている。インテリアのコーナーにあったもので
そこには手書きのラベルに「運気UP」と書いてあった。
私は手袋を取り汗ばんだ手の平でそれをそっとなでる。

(水晶の中にあるものよ。私の心を写し給え)
私はそっと呟く。奇跡が起きて何かが浮かんでくることを半ば期待して。
そして本当に見えたら嫌だなと思いつつ。

雨の街。私は雨が好き。
この乾いた心を癒してくれる気がするから。

そう彼女が思ったとき買い物袋の中の小さな箱が輝き始めたのを
若い女に抱かれた赤ちゃんが可笑しそうに眺めた。




第三の足





364:この名無しがすごい!
11/11/22 04:14:26.66 qIB8IAFi
博士が「これからは安定感が求められる時代」
とか言って、僕の息子を足に変えてしまった。
昨日やったUFOキャッチャーのアームのつかみが弱かったのを、結構気にしていたみたい。
服が特注って事以外は特に不都合は無いけれど……
やはり足の裏からおしっこがでるのはくすぐったいので、貰ったお金を使い切ったら元に戻してもらうことにする。

次 雨の日のポリシー

365:この名無しがすごい!
11/11/22 23:39:02.44 ep2kq4VE
改札口に向かいながら胸がドキドキするのが抑えられない。
これは中学一年生のときバスケ部の先輩にバレンタインのチョコを
あげようと先輩の前に立ったときの感じにも似てるし、屋根の雪かきを
した時に、滑り落ちそうになったときの感じにもしてるような気がする。
でも正確に言えば、こんな気持ちは味わったことが無い。
言葉が頭から滑り落ちてしまった気がしてうまく言い表せない。
ただ未知の感覚だけが渦巻いてる。

 さっき電車に乗っているときに赤ちゃんが笑い声を出したような気がして
そんな声を聞くのは珍しいと思って、ふと振り向いて赤ちゃんの目線の先にあるものを
見たら私が持っている東急ハンズの袋だった。何の変哲も無い
買い物袋で白地に「東急ハンズ」と書いてあって指を刺したようなマークが
印刷されている。その袋が提灯のようにボンヤリ明かりを発していた。

急に外の世界の音が電車がレールを走るごとごとという音、乗客たちの話し声
―女子高生がテストの結果についてしゃべっていた。が急に遠のいて
自分の中に酸素を取り込む呼吸音しか聞こえなくなったような気がした。

―そんなことあるわけない
私は思った。そんなこと。考えるのも怖かったがそんなこととは水晶が
光を発してるということ。私は何気ない振りをして袋を振ってみる。

私は自分にしっかりしろと言い聞かせて現実的に考えるべきだと言う。
ただ何かが反射したか……もしくはそう、初めから光る水晶だったのでは?
そう理性的に考えようとしたが、どう考えてもそんな構造になってるなんて思えない。
そんなんだったら気がついているはず。それにあの透明な玉のどこに電池が入るというのだろう?


366:この名無しがすごい!
11/11/22 23:53:43.75 ep2kq4VE
 私は吉祥寺駅で降りるとすぐにトイレに向かった。
ハンズの袋をあけるゴソゴソという音が個室に響いて自分が
馬鹿みたいだと思う。買ったばかりの10cm×15cmの箱。その箱を
接着テープの包装ももどかしく開けた。
そこには、ハンズの棚にあった時と同じ透明な直径5cmほどの球体が
あった。

―確かに光ったんだ。間違いない。
買う前に私は神様のことを考えた。神様って言うか
運命とか巡り合わせとか占とかそんな深刻じゃなく、神様、いいことありますようにって
神社でお祈りするような軽い気持ちで神様のことを考えた。
だけどそれだからって、まさか、こんな非現実的なことが起こりえるのだろうか?

ガタンと音がして隣に人が入った。いつまでもこんなところに突っ立てるわけにも行かない。
まさかチカンとは間違えられないだろうが個室をひとつ使えないのは、こういう場所では
迷惑極まりない。それで私は考えた。
とりあえず考えるのは保留にしようと。また同じことが起こったらまた考えればいい。
私の錯覚かもしれないし。

―さて雨が降ってるけど自転車で帰るのどうしよう?
私は雨の日はレインコートを着て自転車に乗る。これはポリシーというか哲学みたいなもの。
実際、傘を差すのは危ないし私は雨の匂いがする駅の広場を歩きながら思った。




夜の扉

367:この名無しがすごい!
11/11/24 23:39:23.09 Tu4DdfY+
「夜の扉」
目を開けると天井が見えた。俺の家の天井だ。窓からの日差しが眩しい。
俺は寝ていた布団の中で、昨晩の出来事を回想した。
友人と行った居酒屋で、会計を済ませた所までは思い出せた。しかし、あとの記憶が全くなかった。
我ながらよく家まで辿り着いたものだなぁと思った。
頭が痛いので頭痛薬を取りに行こうと起き上がると、足下に女が微笑みながら突っ立っていた。
「私は夜の妖精」
黒くて薄いワンピースを着た、その20代前半と思われる女は、なぜかスローモーション風に髪をたなびかせながら、そう言った。背中の羽はコスプレのつもりなのだろうか。
「何が妖精だよ。どこから入ったんだよ」
「いえ、私は夜の妖精、そしてこれは夜の扉」
女は片手に持った、木製のちいさな扉を指差した。
「夜じゃねえよ、もう朝だよ」
「いえ、そういう話では……それに、今の時間を言うなら、もうお昼近くになりますが」
「そっか……昨日は遅くまで飲んだからな」
「いえ、私が言いたいのはそういう話ではなくて……」
「何だよ、分かったよ言いがかりだな。俺はあんたには何もしてないはずだぞ。ほら、昨日着ていたスーツのまま布団に入ってたんだから」
「スーツがしわしわですね。クリーニングが必要かと」
「そうじゃなくって、俺は服を脱いでないって事。あんたに変な事はしていないよな?」
「はい」
「そっか……まぁ、あんたみたいなかわいい娘、普段は放っておく事はないんだけどな。で、何なんだ?」
「私は夜の妖精、そしてこれは夜の扉」
「それはさっき聞いたって。あ、二軒目の店か。夜の扉かぁ、名前からすると高そうな店だな。お勘定まだだった?」
「いえ。夜の扉というのは、飲み屋の名前ではありません。それに私は妖精。取り立てはしません」
「よく分かんねえな。あんた、何なんだよ」
「それを今から話そうと……。お願いします、続きを話させてください」
「おう、話していいぞ」
「ありがとうございます。私は夜の妖精。そして、これは夜の扉。望んだ場所と時間のあなた自身をこの扉の向こうにお見せします。但し、お見せする時間は夜に限ります」
「わかった。いくら? まさかタダってことはないだろ?」
「いえ、私は妖精なので、お金をいただいても……」
「そうか、金額を聞いて追い返そうと思ったんだけど、タダなら覗くだけ覗いてもいいかな」
「いつ、どこの貴方をごらんになります?」
俺は考えた。けれども見たい場面なんて思いつかなかった。
「見たい場面はない」
「それじゃあ、私、帰れません」
始終笑顔だった自称妖精は、初めて困った顔を見せた。
「そうか、悪かったよ。じゃぁ、夕べの帰りの記憶が無いんだ。ベロンベロンだったからな。夕べの帰宅途中の俺を見せてくれ」
「了解いたしました」
女は、扉にまじないをかける動作をした。
「どうぞ」
俺は扉を覗き込んだ。あんな顔で街を歩いていたのか……俺は見た事を後悔した。


『真夜中の太陽』

368:この名無しがすごい!
11/11/25 23:45:37.49 sqB4fSXS
雨の予報を見ようと携帯を取り出そうとした時、水晶が袋から落ちて生き物のように転がった。
―あっまずい
きっと急いでいて、箱のテープをきちんと止めていなかったせいだろう。
私は恥ずかしさと苛立ちの中、転がる水晶を追いかけながら、駅の広場にいる人たちの視線を感じていた。
きっとおかしな人だと思われているだろう。

まずいことにすぐ先には外へと下る階段があった。あそこから水晶が落ちたら
きっと大変なことになるだろう。
私が手を伸ばし雨に濡れた床が顔に近づき水晶に手が触れそうになった瞬間、水晶は階段へと消えていった。

消える瞬間、誰かの顔が見えたような気がした。それは水晶を拾ってくれる人だ。
その人は傘を持つ手と反対の手に水晶を持っている。私にはそれが男か女かさえも分からない。
年齢さえも。

 私が目を覚ましたとき、電車が終点が近づいたアナウンスがしていた。
雨はまだ降っている。
―変な夢を見たなあ
私は思う。水晶を買った夢だ。東急ハンズで水晶を買った夢。
大切なものを暗示している夢だったような気がするが、夢の細部はもう霞み始めていた。
足元にはハンズで買った袋に入ったクリスマスツリーがある。これを私はアパートの
窓際に置こうと思う。あそこなら外からでも見えるし、通行人もちょっと綺麗だなって思ってくれるかもしれない。

水晶が階段を落ちる夢の場面がふいに思い出される。あの水晶を拾ってくれる人は
誰だったのだろう? 
夢はその答えを教えてくれたような気もするし教えてくれなかったような気もする。
私はもう一度、この座席で寝たら夢の続きが見れるかもしれないと思う。
この折り返して渋谷に戻る電車に乗り続けたら、答えが分かるかもしれないと思う。
日食の太陽が、昼を夜に変えてしまったように私の心は揺れ動く。
私は窓に指を乗せ雨をたどる。
―わからないよ。何もかも。どうしたらいいの?
私は雨が好きだ。孤独を隠してくれるから。



忘れられた森


369:この名無しがすごい!
11/11/27 23:11:53.36 t9u++RlS
「忘れられた森」

「部長、この道路計画なんですが、予算が不足しています!」
キーボードの音が冷たく鳴り響く、ここはオフィス。途中からプロジェクト責任者を命じたうちのエースが血相を変えてやってきた。
「予算が不足しているってどういうことだ?」
「私、昨日は夜中まで残業して、このプロジェクトを再度見直してみたんです」
「それはご苦労だったね」
「ええ。今日は肩が凝って……いや、そんな事ではなく、この地図の丸印を見てください」
「ここは、森だね」
「そうです。ここは伐採が必要となる森林なんですが、以前の計画では伐採業者の予算が組み込まれていないんです」
「そうなのか、それは大変なミスだな。以前の担当から話を聞かないと。結果次第では現地に見に行かないとな。君は資料をそろえて席で待機していてくれ。」
仕事を命じて一日でミスをみつけるとは。エースの仕事の速さに感心しながらも、俺は内線で以前の担当者である山田を呼び出した。
「いま、後任がこの地図を持って来たんだが」
「はい」
「この丸印の箇所、伐採の業者から見積もりはもらっているのか?」
「いえ……そこは希少生物の保護から反対運動がありまして、見積もりを含めて後回しになっていました」
「で、もらっているのか?」
「申し訳ありません。見積もりをとる事を失念していました」
「まぁ、今ならなんとかなる。君は早急に業者を選定し、現地に同行する了解を得るんだ。できればこれからすぐに視察だ」
トラブルは早めに解決した方が怪我は軽い。これは俺の持論だ。
俺は部下を待っている間に今日の仕事を終わらせてしまおうと思った。実は俺も仕事が早い。
「部長。業者と連絡がつきました。これから向かうそうです」
前任者の山田だ。こいつもミスはあったものの中々やる男だ。
「それでは現地に行くぞ。車を回してくれ。それから、総務の担当も現地に行ける様手配してくれ」
「わかりました」
さっき新担当をうちのエースと呼んだが、こいつも悪くない。いつか抜擢してやるべきだろう。

道の両側から樹木の枝がトンネルの様に覆い被さっている、昼なお薄暗くて細い山道。俺たちの乗る車は伐採予定地へと進んでゆく。運転者は前任の担当、山田だ。
「総務課はどうした?」
「仕事の切りが悪いので少し遅れて向かうそうです」
「そうか」
目の前が開けた場所で車は止まった。頂上付近は樹木もまばらで、空き地の様になっている。この分ならそれほど伐採は必要ないかな……と俺は思った。追加予算もそれほど必要なさそうだ。
軽トラックが止まっていた。旧担当の山田は、車を降りると運転手に頭を下げている。おそらく依頼した業者なのだろう。
俺は車を降りて、業者に名刺を渡した。
「部長の渡辺です。旧担当の山田がお世話になりました」
「担当、変わったんですか。で、新担当の方は?」
「新担当は森といいます」
「どちらに?」
しまった。待機している様に命じたままだった。森を忘れていた。


次のお題は「彼は誰時の少女」で!





370:この名無しがすごい!
11/11/28 23:58:57.12 NcZSn/eK
『彼は誰時の少女』


朝日の登る前の時間。
白んだ空に目は冴えて、物を見ることはできるけれど、
それは輪郭だけのようなあいまいな世界で、
まるで深海に居る気持ちになる。

起床時間の早い僕は、出社前に近所の自然公園を駆ける。
顔見知りのランナーはいる。
けれどもカワタレ時の時間は近付かなければ見分けられない。
「おはようございます」
「おや。おはようございます」
声で判別する僕らはイルカやクジラの様だ。

雑談をしながら並走していると、違うコースを誰かが走っているのが見えた。
背は低く手足は華奢で、すらりと伸びた脚の付け根にはひらひらとしたスカートかキュロットをはいているのが見える。
髪はやや長く、ヘアバンドでもしているのか頭の後ろだけが揺れていた。
音楽でも聞いているのか、走りに合わせて細いコードが胸の前で跳ねている。
そして、フォームが見事に整っていて凄く綺麗だ。

「あの人…」
思わずこぼれた僕のつぶやきに、
「見ない人ですね。新しい方でしょうか」
反応を返された。
「声かけてみますか?」
そう問われたけれど、
走っているのは僕たちよりも短いコース。
「お邪魔になりそうです。やめておきましょう」


彼は誰?と問いたいけれど、
僕の中で彼の人はすでに麗しい美少女に描かれてしまっていて、
あの綺麗なフォームとともに心の中に美しいまま仕舞って置きたかった。



次のお題は「人生チュートリアル」で。

371:この名無しがすごい!
11/11/30 22:09:49.73 xalklOKH
『人生チュートリアル』

ある男を神は哀れんだ。
男の親は自分勝手な人間であり、彼は生まれてすぐ捨て子となった。
孤児院ではいじめられ、一生物の心の傷を負い、また学校にも彼の居場所はない。
大人になってからも現状は変化せず、遂には借金を押しつけられて、自殺をしてしまった。
神は男に仰った。
「お前はあまりにも哀れだ。そこでお前が来世では成功出来るよう、来世の出来事を繰り返し体験させてやろう。先に起こる事がわかっていれば、失敗することもなかろう」
男は神様に大層感謝し、来世を体験した。

しばらく後、何十回と来世を体験した男は、再び神の前に現れた。
男は疲れた顔でこう言った。
「成功の約束など結構です。体験しなかった、未知の来世を頂けませんか」
神は驚いて、男に理由を尋ねた。
「何故そのように思うのかね、未来が分かっていた方が良いであろう」
「どうしたもこうしたも有りませんよ。どうも貴方様と私達人間の間の成功の定義には、埋めがたい溝が有るようだ。私は聖人として億万の信者に崇められるのも、磔にされて業火の中で死んでいくのも、真っ平ごめんなのですよ」


次のお題
「虹の上の目玉」


372:この名無しがすごい!
11/12/01 06:54:06.37 GTdplyeH
『虹と目』

雨が止み光が差せば虹ができる。
いつごろからだろうか、虹の上に目が見えるようになったのは・・・

最初はその不気味さに悲鳴を上げて周りの人に助けを求めた。

他の人には見えないのか助けを求めた人につまらなそうな顔を向けられる
それでも必死に
「虹の上に目が見えるんです、助けてください」
と訴えてみるも
仕舞いには内心面倒そうな顔をしながら
「何を言ってるんだい?そんなもの見えないじゃないか」
と言われ、再度恐る恐る虹のほうを振り向いたのだけれど
目はまだ虹の上にあった・・・

「まだいるよ、怖いよ」と体を震わせつつ抗議するも
少しまってるんだぞといい携帯電話を取り出され救急車を呼ばれてしまい
その後は精神に異常だのと色々調べられた。

そんな事があった。

雨の後、虹が見える度に見える目は怖いものの
とりわけ何が起こるわけでも何をしてくるでもなく
虹が出来た時のみに現れ消えていった。

見え初めてから半年ぐらいしたころだったろうか、生活は慣れ始め
虹の出る日以外は見えないことも幸いだったためか慣れ始めていた。

今日も雨が上がり目が現れるだろう。
けれど、コノ半年の間に何も起きていないし何もしてきていない。
あの目はなんなのだろうと思うが、触らない神に祟りなしというし
何も起きていないので無視する。

虹と目が見える空を水溜りが映しているので出来るだけ水溜りを踏まないように避けて家路を急ぐ

空を見る、今日も雨の上った空には虹と目が浮かんでいる・・・・・
そう思った時だった。
体が浮遊するかのような感覚に襲われる。
体が地面に寝そべったような感触がしてきた
痛いと思い始めると同時に眠くないのにまぶたが落ちてくる感覚がする
目の前がまぶたに覆われ真っ暗闇となった・・・・

まぶたの閉じる前に見えた空には目のない虹が見えた。



次のお題
「夢の扉」

373:この名無しがすごい!
11/12/02 00:21:19.17 76oFQolL
クリスマスツリーのスイッチを入れ部屋の明かりを消すと部屋の雰囲気が一変してしまった。
魔法のようだと私は思う。
電球が点滅するたびに、窓際の縫ぐるみやトロール人形が姿を現す。
私はツリーに雪が降る情景を想像する。雪は縫ぐるみや人形にも降り積もる。
縫ぐるみたちは迷惑そうに、だけどやがてはうれしそうに動き出す。

「雪が降ってるよ。雪だよ!」「あんたは北の生まれだけど僕はアフリカなんだよ。ああ寒い」
「キリマンジャロにも雪は降るんですよ。ライオンさん」「ああ、ずっと前、おもちゃ売り場でドラエモン
が言ってたような気がする」
私はベッドに寝転んで空想の世界に浸る。どこか遠くへ。車でも飛行機でもいけない場所へ私は
行く。そこには子供や、痛みを持った大人がいっぱいいる。

「あなたは誰?」
私は水晶を持っている人にそう言う。でもその人の腰の辺りしか見えない。何故なら私は子供だからだ。
記憶に無い時代、まだ私が意識と言うものを感じることが出来ない時代。
「私は君が知っている人だよ」
大人の男の人の声。誰だろう?
「知っている人? 分からないよ」
きっと体は子供でも頭は大人の私なのだろう。難しい言葉も理解できたし、その人が言葉に
込めた感情も感じることが出来る。この人は私に重要なことを問いかけている。
「そうかな? あなたも知ってる人なんだ。どこかで会った事がある」

ベッドで目が覚めると真夜中だった。どうやら外着のまま寝てしまったらしい。
―あの男の人は誰なんだろう? 
私は何気なくトロール人形の目をじっと見る。人形が答えてくれるとでも言うように。
想像の中でははしゃいでいたのに今は窓際でじっとしている。大人の姿が見えなくなったら
走り出す子供のように。



「解毒虫」」


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