よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3at BOOKALL
よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3 - 暇つぶし2ch227:この名無しがすごい!
11/04/29 13:57:59.75 2ZbwJ5rN
「レイチェル(笑)」

学園都市とは名ばかりの荒くれ都市レイチェル
今日も荒くれ者が青春を謳歌する
電撃姫こと四坂琴音は街に出て弱い物いじめ
白馬に乗った王子様が琴音をお仕置きしてくれるまで街を彷徨い歩くのさ
ちょっとばかり弱いものを炒めるのも私へのご褒美

「ガストの宅配」

228:この名無しがすごい!
11/04/30 03:16:23.67 l1dF+E5x
「ガストの宅配」

港町の上空を鳥に乗った少女が飛んでいる。
彼女の名前はガスト、遠い町から修行にやってきた見習い魔女であり
住み込みで働いているレストランの食事を暖かいうちにお客さんに配達するのが仕事である。

「…今日の宅配はこれで終わりっと♪…あっなたっのたーめにチャイニーズスープ♪……んぬぅ?」
お気に入りの歌を歌いながら月夜を飛行するガストの前に
モップに跨がる少女が立ち塞がった。
彼女の名前はミスド、ドーナツ屋の配達を生業としている修行中の魔女であり、
「ガスト!魔女のくせ白い鳥に乗るなんて外道だわ!
 魔女といったら箒!!メーヴェに乗る魔女とか!!ありえない!!!」
「…この鳥の名前はメーなんとかじゃなくてスカイラークだと何度言えば
 というかそっちこそ箒じゃなくてモップ…」
「うるさい!私の可愛いダスキンをモップ呼ばわりするとは何事!!
 今日こそ決着をつけてやる!!!やーいやーい貧乳女」
「…黙れピザデブ」

こうして今宵も港町の上空で壮絶な戦いが始まったのであった。



「ももものこ」

229:この名無しがすごい!
11/04/30 10:39:57.71 ay2qtIP8
「ももものこ」

 百々(ももも)、という名前の子と知り合ったのは、私が四国、徳島県の学校に初めて
赴任したときのことだ。
 小学六年生の彼女は、かわいくて元気な女の子だった。成績も優秀で、特に家庭科の
授業では料理の才能をいかんなく発揮した。女子のリーダー格であり、いじめを許さな
い正義感を持っていた。彼女のおかげで、クラスはいつもいい雰囲気に保たれていた。
 しかし彼女にはひとつだけ問題があった。将来の夢を書くというレクリエーションで、
彼女は何のためらいも無く、先生のお嫁さんになりたい、と言い放ったのだ。僕は困惑
した。数年間の四国での勤めを終えたら、転属願を出して本州の地元に戻るつもりだっ
たのだ。
 だが、彼女の熱心なアプローチは、とどまる事を知らなかった。毎月ラブレターを
貰い、バレンタインデーにはハート型の手作りチョコを貰った。僕は内心呆れながらも、
彼女の情熱がいつか覚めるだろうことを期待した。それに、初恋は実らないというでは
ないか。僕はそれでも、彼女が送ってくれたラブレターを時折読み返した。
 それから七年が経ち、僕は彼女と結婚した。とっくに彼女の担当教諭ではなくなって
いたが、教室を超えた、学年を超えた、そして学校を超えた恋のアプローチに、ついに
根負けしたというのが正しいところだ。
 僕らはやるべきことをやり、彼女は妊娠した。
「名前は百々子。ももものこ、で決まりね」
 彼女は自分の子供の名前まで、既に決めていたらしい。僕は遠大な計画の一部に過ぎ
なかったのだ。
「二人目はあなたが名前を決めてね」
 語尾にハートマークをつけて、百々は言った。

「チェルノブイリ生物圏保護区」

230:この名無しがすごい!
11/04/30 15:28:02.83 Adfp5reh
「チェルノブイリ生物圏保護区」

『Biosphere Reserves of Chernobyl』
略称ブロック(BRoC)。日本では、“領域"と書いてブロックと読む場合が多いみたい。
1986年4月、あの大規模原発事故は、人々に直接的な死をもたらしはしなかった。
“直接的な”悪影響を引き起こしはしなかった。
その代わり。
その代わり起こったのは。
新生物(ネオクリーチャー)の誕生、そしてその大繁殖。
事故により放出された放射能は、人もなにもかも含めた生き物すべてを、手当たり次第に化け物へと変えていった。
ヤツらは獰猛だった。狂暴だった。強靭だった。
近くにある街や村落からつぎつぎと、文字通り人間を食い潰し、今や、ユーラシア大陸のほぼ
すべてはヤツら新生物の巣と化している。

「今日はずいぶんと獲物が少なかった」
そして私は、そんな新生物のメス。
思考能力があるということは、元は人間だったのだろう。
しかし、生前(?)の名は忘れてしまったし、なにより、名などどうでもよい。
「まずそうな人間のコドモが二匹…か」
ずる…ずる…と、引きずるのもなかなか楽ではない。
「……か…た……す…」
「ん?あら、まだ息があったの?でももう一匹は…死んでるわね。ま、生きてたほうが美味し
いからかまわないけれど」
「ひっ…!ひ……ぃゃ…」
なにやらか細い声でうめいている。もうだいぶ原型はとどめてないが、狩る前の記憶からする
と、人間の女児だったはず。10歳前後かな。
「お…ゃめ……ぁさん」
かすかに、「お母さん」という単語が聞こえた。
どうやらあまりの激痛と恐怖で発狂しかけているみたい。
…それとも。
それとももしかして、本当に私がこの子の母親だと、そんなこともあるのかもしれない。
なにせ、私には「こう」なる前の記憶がないのだもの。
でもまあ、どうでもいいことでしょう。
とにかく今夜は、踊り食いが楽しめそうでなによりだ。


「ゲーム」

231:この名無しがすごい!
11/04/30 16:57:12.53 aDZXoMEB
「ゲーム」

運命の輪ともいうべきなんだろうか
私の一族はみな共通のルールに従い死んでいった者ばかりだ
祖父、祖母、父、母、兄もルール通りに死んだ
私に残された身内は妹だけになってしまった
妹だけはルールに縛られることなく生きてほしい
これが私の願いでもあり希望であった
我が一族を縛るルール
それは至極簡単なことだった
ある年齢に達するまでに先祖が掛けた呪いを解かなければ、呪いにより死んでしまう
たったそれだけのこと
こんな科学万能な世界で何をと思ってしまうほど、馬鹿げている
馬鹿げているからこそ、呪いは呪いとして発動しつづけ我が一族を呪い続けたのだ
妹を守るために私はこの呪いに終止符という楔を打つつもりだ
兄は死ぬ直前にこれはゲームだ、簡単に見えて実はやはり簡単だ
仕掛けさえしってしまえば誰にでも解くことが出来るといっていた
それと兄はもう一つ付け加えた、爺様の生まれ故郷に行けと
私は妹の手を引き切符を買い電車に乗り込んだ

「ゴールデンウィーク」

232:この名無しがすごい!
11/04/30 18:42:37.10 Adfp5reh
「ゴールデンウィーク」

「がっ……」
どさっ。
倒れこんだ。
「なにうずくまってんのよクソ虫?」
「……ぉまえが、俺のゴールデンウィークポイント(弱点)を…」
「アンタがあたしに触れるからよ」
「触ってきたのはお前からだが!?」
「そのほうが蹴りやすいじゃない」
「だからなんで?」
本日、某高校の入学式。
席が隣同士になったよしみで握手をこわれたのはいいのだけれど、なぜかその直後こういうこ
とに。
「いや、俺これ、暴行罪で訴えていいレベルだと思うんだけど?」
「今日はエイプリルフールにゃんっ♪」
「全国の入学式はたいてい一日にはありませんー!残念でしたー!」
「仕方ないじゃん。なんかスレの流れが暗黒面化してたんだもん」
「だからって無理矢理すぎだ馬鹿野郎」


「ビーナッツとは何か」

233:この名無しがすごい!
11/05/01 06:55:28.74 9K8Z1PTk
「ピーナッツとは何か」

チャーリー・ブラウンは、積年の疑問を持っていた。
この漫画のタイトル、ピーナッツとは何か、という疑問である。その疑問が解ければ、
自分がなぜチャーリーブラウンなのか、なぜ自分が率いる野球チームが勝てないのか
という難問にも、答えが見出せそうに思えたのである。
妹のサリー・ブラウンに訊いたところ、「知らないわよ」と言われた。
ルーシーに訊いたところ、「何で私がそんあ質問に答えなきゃなんないのよ!」と言
われた。
ライナスに訊いたところ、「僕よくわかんないや」と言われた。
シュローダーに訊いたところ、「それは難しい質問だね」と言われた。
先生に訊いたところ、「勉強すればいつか分かるわよ」と言われた。
そうか。結局、誰も満足な答えを持っちゃいないんだ。
チャーリー・ブラウンは家に戻ると、スヌーピーに尋ねた。
「ねえ、君はどう思う?」
スヌーピーは犬語で答えた。
「タイトルはユナイテッドがシュルツに相談せず、勝手に決めたのさ」
しかしチャーリー・ブラウンは犬語を理解できなかった。
「君に訊くなんて、僕はどうかしているんだろうね」
チャーリー・ブラウンは少し笑うと、家の中に入って行った。

「皇帝の椅子」

234:この名無しがすごい!
11/05/01 08:25:02.43 aZtl+3Cy
「皇帝の椅子」

ここに、皇帝の椅子がある。私は彼女に皇帝の椅子に座るよう促した。
彼女は、頭にハテナマークを浮かべた様子ながらも、私の指示にしたがってくれた。
よし、チャンスだ。と私は彼女に告白した。
「結婚してください! 一生幸せにします!」
彼女は答えた。
「ごめんなさい!」

 ちくしょう……肯定の椅子じゃなかったのかよ……。

「猫舌ソーセージ」

235:この名無しがすごい!
11/05/01 10:23:24.47 qfajAQ2p
「猫舌ソーセージ」

「何だよ、それって?」
 ハ○ーの質問に、ロ○が自慢げに答える。
「だから、猫舌ソーセージ。兄貴が開発したんだ」
 ○ーマイオ○ーが、あきれ顔で聞く。
「だから、それ、何の役に立つの? 誰得?」
「まあ見ててよ」
 ○ンはそう言うと、斜め向かいにいたネビ○・○ングボトムに声をかける。
「これやるよ。うまいんだぜ」
「いいの? ありがとう」
 3人が見つめる中、彼は嬉しそうにそれを食べた。
「変わった味だけど、おいしかったよ」
 彼はそう言って、カボチャスープを一口。その途端に、それを吐き出した。
「うわっち。熱いよ、何だよ、これ。こんなの飲めないよ」
「わあ、きたない」
 向かいの席のパー○ティたち数人の女の子が悲鳴を上げてよける。もちろん、
すぐにネ○ルへの総攻撃が始まる。
「ははは、こんな風になるんだ」
 ○ンはそれを指さして笑う。○リーも笑ったが、ふと見ると、ハー○○オニー
が皮肉な表情を浮かべてごそごそしていた。よく見ると、ソーセージらしきものを、
皿の上で細かく切り分け、ロ○の前のカボチャスープの器に入れていた。それらは、
スープに沈んで、外見では見えなくなる。
「馬鹿馬鹿しい。ハリ○、もう行きましょ」
 彼女はそう言うと、ついと席を立つ。スープを取り上げる○ンをちらりと見て、
ハ○ーもその後に付いた。
「ロ○、気を付けてね」
「ああ、じゃあね」
 二人の背後で、直後に派手な悲鳴が聞こえた。

「うっかり関取」

236:この名無しがすごい!
11/05/01 11:32:03.69 9K8Z1PTk
「うっかり関取」

―では愚霊(ぐれい)さん。関取に昇進したご感想をどうぞ。

ついにやった、という感じですね。感無量です。

―相撲取りになろうとした経緯を教えてください。

元々、日本のゲームに興味がありました。

―相撲に興味があったという意味ですか?

いえ、セキトリゲームというのがあるでしょう。

―関取ゲーム、ですか?

いや、席取りゲームです。椅子を取り合うやつです。

―それが相撲と何か関係が?

はい。子供の頃、セキトリをやりたい!と親に言ったら、
日本の相撲部屋に連れていかれました。

―うっかり間違ってしまったと?

そうですね。子供だったので、良く分からずに、これが
日本の席取りゲームなんだと納得して、猛特訓しました。

―気付いたのはいつごろですか。

ごく最近です。
席取りという割に、席が無いので変だなとは思っていたのですが。

―えー、インタビューの途中ですが、日本相撲協会から
  ストップが入ったため、ここでインタビューを中断致します。
  放送が再開されるまでしばらくお待ちください。

「狼のダンス」

237:この名無しがすごい!
11/05/01 13:15:19.95 qfajAQ2p
「狼のダンス」
 昨日、我が家の犬が脱走した。
 夕方に姿を消し、翌朝には戻っていた。普段は大人しい日本犬なのだが。そう
言えば、去年も今頃そんな事があった。数日間、毎晩姿を消したのだ。
 夕方、物陰に隠れて、私は犬を見張った。すると、彼は急にそわそわと辺りを
見回し、鎖を限界まで引っ張り、首を捻るようにして、首輪を脱した。そのまま、
小走りに裏山に駆け出した。
 そっとあとをつけると、彼は山道を駈け、尾根筋に出ると。林の中の空き地に
出た。そっと覗くと、何匹もの犬が集まっていた。近所の飼い犬や、見慣れた野
良犬もいた。
 彼らは、声も出さずに互いを見合うようにたたずみ、それから、彼方に見える
奥山に、揃って頭を向けた。
 そうして、やはり揃って頭を下げ、立ち上がり、また腹這い、それから立ち上
がって、輪になってぐるぐる回った。
 いつまでも続く不思議な動きを見ていると、不意に、その意味が理解出来た。
 それは、「狼のダンス」だったのだ。彼らの神であったニホンオオカミを悼ん
で、犬たちが捧げる踊りだった。
 これは人間の触れるべきものではない。踊り続ける犬たちに背を向けて、私は
家に帰った。

「鯨が地面に埋まっています」

238:この名無しがすごい!
11/05/02 01:43:03.45 nmqN1jk2
「鯨が地面に埋まっています」

「………うまそうだな………」
最近くじらなんてスーパーとかにはないもんなー。
捕鯨なんたら…だったっけ?
しかしこれ、これはどうなんだろうか?
密漁になるんだろうか?
海の見える丘なんてまったくない、変哲のないフツーの公園。
そのど真ん中にグサッ!!!……っと、体の半身を地面に突き刺したザトウクジラが屹立?して
いる。
…しかし俺も冷静なものだな。
むしろあまりの状況に発狂しかけているのか?
「いや、大学生にとって食費は文字通り死活問題だし…」
これはもらっていっていいよな?
全部は無理だけど、今日の晩飯用に100gくらいなら。
そう言い訳でなぐさめ、俺は包丁がわりのカッターを、近くコンビニまでいって買うことにした。


「uNkNowN」

239:この名無しがすごい!
11/05/02 09:09:39.36 6f6Ifwk8
「uNkNowN」

「ふふふ……やったぞ、うまく入った」
 俺は、多分天才ハッカーだ。たった今、最近大人気の少女アイドルのツィターに、
彼女になりすまして入り込んだところだ。そんなことして何をするかって? もち
ろん、嫌がらせだ。悪戯だ。
 これから、ここに彼女のつぶやきを偽造する。何と書くか。もちろん、思い切り
嫌がらせでなければならない。何が一番の嫌がらせか? 当然、排泄行為だ。何しろ、
アイドルといえば『○○ちゃんは、絶対にうんこなんかしない!』の世界だからな。
とすれば、書くことは決まっている。
「うんこナウ」
 そんな風にタイプして、はり付ける。しかし、何だ? いよいよ実行段階で、どうし
てこんなに手が震えるんだ? いや、怖くない。犯人が俺だと言うことを調べ上げられ
る奴もいるわけない。だから……くそ、落ち着け。ここまで来たら、やるしかないんだ。
「えい! ははは、やってやったぞ」
 改めてディスプレイを見る。
「あれ?」
 手が震えた上、日本語変換を忘れていたらしい。そこには、こんな文字列が。
「uNkNowN」
「なんでだよー」


「夫テレポーター」

240:この名無しがすごい!
11/05/03 01:54:59.99 00WiIkM2
「夫テレポーター」

ふむ。下品―ていうかエロネタしか思い付かないな。
Sch(えすちゃん)の、「よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ」、というスレッド
に投稿するのが僕の日課だ。といっても、やり始めたのは最近なんだが。
…しかし困った。
「ナニナニをテレポートさせて云々だとか、どこどこにテレポートしてあれこれだとか、
成人向けのエロ漫画によくありそうな展開しか思い浮かばない」
だがここはピンク板ではないし、露骨なのは控えたほうがいいだろう。
「…個人的な趣味趣向としては嫌いじゃないが…」
ちなみに、時間帯的にそういうあれにお世話になったのかと勘繰るかもしれないが、そう
でもない。
今日は禁欲デーなのだ。
「……ってもうこんな時間か、仕方ない…」
そううそぶき、僕は次の人のためにお題を考えた。


「forbidden404error」

241:この名無しがすごい!
11/05/03 12:33:29.79 FE7iTKVx
「forbidden404error」

 今日からゴールデンウィークだ。しかし俺は特にやることもなく、
自宅に引きこもってオナニーに明け暮れているというのが現状だ。
 ダウンロードツールを使って、同人漫画サイトと動画サイトから
オナニーのおかずを並行ダウンロードしていたときのことだ。
 いきなり全ての進捗バーが真っ赤に染まり、エラーの嵐が表示
される。forbidden404error。forbidden404error。forbidden404error。
 クソッ!俺はアクセス禁止を食らってしまったらしい。今まで
ずっと同じことを繰り返してきたというのに、なぜ今日アク禁を食ら
わなくちゃいけないんだ。俺はプロキシサーバを次々と設定して
試してみたが、どの鯖でも同じエラーが出てダウンロードができな
かった。俺の愛用するロリコンサイトには串対策機能まで組み込
まれたらしい。
「クソッ」
 俺は諦めて幼女を見るために近くの公園でも散歩しようかと思い、
着替えを始めた。
 外出用の服を着終えたとき、玄関からピンポーンと音が聞こえた。
「警察です。児童ポルノ所持容疑であなたを逮捕しに来ました。
いるのは分かっています。今すぐ開けてください。開けないと公務
執行妨害も追加されますよ」
 俺は3TBのハードディスクを埋めたロリコン画像の隠し場所を
探したが、そんな都合のよい場所は存在しなかった。
 クソッ。Winnyが廃れたときに収集を止めていればこんなことには……。
 俺は観念してドアを開けた。手錠を手に持った警察官二人が
ニタニタと笑ってこちらを見ていた。

「ばあちゃんの草餅」

242:この名無しがすごい!
11/05/04 09:25:07.11 qW1c/O4z
「おばあちゃんの草餅」

桃太郎は、鬼退治の旅に出ました。おばあちゃんは、草餅を持たせてくれました。
「おばあちゃんのは誰にもまね出来ないくらいおいしいんだから、きっと役に立つよ」
 桃太郎が道を急いでおりますと、道ばたに、犬耳少女が座り込んでおりました。
「お腹がすいて動けません。何か下さい」
 桃太郎は、草餅を出してやりました。犬耳少女は一口食べて、びっくりしました。
こんなおいしいもの、食べたことがなかったのです。
「これは何ですか?」
「おばあちゃんの草餅だ」
 では、彼のそばにいると、これが何度も食べられる、犬耳少女はそう思いました。
「お願いです、私をペットにして下さい。素敵なサービスもしますから」
 桃太郎は喜んで、彼女に首輪をして、紐でつないで再び歩き始めました。
 しばらくすると、今度はお猿の尻尾の少女がいました。
「お腹がすいて(以下略)」
 桃太郎から草餅を貰い、その由来を聞いた少女も、ペットになることを望みました。
桃太郎は首輪を(以下略)。
 さらに行くと、記事の翼を持つ少女が(以下略)
 彼女もペットに(wy
 桃太郎はそれに満足すると、家に帰り、3人の少女に色々サービスさせて、天国の
ような毎日を送りました。そんな素敵な日々は、おばあさんが死ぬまで続いたと言う
ことです。

「カエル・コミュニケーション」

243:この名無しがすごい!
11/05/04 12:26:15.91 EUvszhyQ
「カエル・コミュニケーション」

グローバル化した世界で問題が発生した
言葉
今までは英語で意思疎通をしてきたが、近年新興国台頭によりもっと扱い安い言語をという世界の流れになってきた
英語圏の人たちは英語こそが一番簡単で一番意思疎通がしやすい言語と主張し
非英語圏、特にアジア圏の人たちは自国語こそがすばらしいと主張した
世界を二分する議論になり、非英語圏で英語を使うだけで差別されうという事件も起きた
国連は新しい国際言語を作ることを発表しそれに伴い言語学者が言語策定作業に入った
しかし、やはり新しい言語というのはなかなか難しく作業が進まなかった
そんな事態の中である言語が注目される
カエル語
言語学者さえ知らない言語が注目されたのだ
発見は当時18歳の少年だった、少年がなぜこの言語を発見したのかは謎だ
言語学者はカエル語の文法の単純さ発音しやすさに驚いた
一旦、教えてもらえば誰でもしゃべれるようになり
大人が一時間程度文法の勉強をすればすらすらと文章が書けるようになった
学者達はこれをカエル・コミュニケーションと呼ぶことにした
国連を通じて世界中にカエル・コミュニケーションの伝えられ、各国で教育が始まった
そして半年が過ぎ人類のほぼ全てといっていいほど言語がなくなった
代わりに人類はげこげーこげこたーげーことカエルそっくりの鳴き声を操るようになっていた

「電波時計が止まった日」

244:この名無しがすごい!
11/05/04 14:44:01.63 TylT3vyu
「電波時計が止まった日」

 2020年。あらゆる時計の電波時計化は、着々と進行し、約9割が電波時計になっていた。
 機械時計はクラシック時計と呼ばれるようになり、時計職人は死滅するかに思えた。
 だが、時計職人たちは座して死を待つような男達ではなかった。彼らはテロを行ったのだ。
それも完全に合法なテロを。
 ある日、共振現象により通常ではありえない超高周波を出すTV広告が流れた。
 全ての電波時計は止まった。狂わなかったのはクラシック時計だけだった。時計職人たちは
待ち構えた。クラシック時計を求める客を。しかし、混乱が続いたのはたったの5分と19秒の間だけだった。
 基地局から定期的に発せられる信号が、全ての電波時計の時刻を再設定し、駆動させた。

「作曲家だった男」

245:この名無しがすごい!
11/05/04 15:05:23.38 YYghixvf
「作曲家だった男」

 男は若いときから天才のピアノ弾きだった。
 曲を奏でれば絶賛されるほどの腕前だったが、しかし、それは他人の、との前置きが必要だった。
男が作った曲を奏で始めると、決まって客足は遠のいたのだ。
 ある日、長年付き添ってくれた愛する妻に、昔貴方が創った曲が聴きたい、と言われたが、
男はアレの何処がいいんだよ、と一蹴して、家から飛び出た。
 男は悔しかった。有名な曲を聴いても、自分の創った曲と比べて何が劣っているのかわからなかった。
それに、自分が奏でれば、曲はさらに良くなっているというのに、なぜ、自分の曲だけが有名にならないのか、と。
 男は酒におぼれ、金もつきたときに一件の汚い居酒屋を見つけた。そして、その居酒屋にあったメニューを馬鹿にしながらたのんだ。
 メニューには、タイムマシン、と書いてあった。
 半信半疑だった男を乗せて、居酒屋型タイムマシンは過去へ飛んだ。
 男は、そこでこれから発表されるだろう、他人の曲を自らの曲として発表することにした。
 男の曲は有名になった。しかし、愛する妻は、これは貴方の曲ではない、と去っていった。
 男は大切な者を失って、名声を得た。しかし、この瞬間から、作曲家ではなくなってしましまった。

「インド人とカリー戦記」


246:この名無しがすごい!
11/05/04 17:59:53.82 Mf0VXF9S
「インド人とカリー戦記」
「インド人だからってすぐカレーと結びつけんじゃねーよ!」
「は?いきなりなんですか?ていうかおじさん誰?」
「そもそもカリーってのは『食事』って意味なんですぅー!」
「はあ…」
「だいたいインドってどこやねん!国か?国のことゆーてんのか?本来はインドゆー
たらネパールとかパキスタンもさすねんで!?」
「いや知りませんよ…」
「ターバン巻いてカレー作ってばっかおもたら大間違いや!ターバン巻いてんのなん
かほとんどおらんわ!つーかネパールとかにもカレーあるっちゅうねん!」
「なんでエセ関西弁なんですか?」
「ちょっ!おまっ!俺がほんまもんのインドみせたる!」
ガシッ。
「あ…おまわりさーん!小児誘拐でーす!たすけてー」
「………え?」


「ライジングサン」

247:この名無しがすごい!
11/05/04 18:30:43.53 HPS3nQRC
「ライジングサン」

「おい兄ちゃん。面子が一人足りねえんだ。混ざって打っていかえねか?」
 雀荘で声をかけられたひょろりとしたその男は、申し訳なさそうに卓に座った。
 あの三人がコンビ打ちをして初心者をカモにしているということは、この雀荘
ではもはや常識になっている。だが、あの男に警告をしてやる義理は無い。
 俺は休憩所に立って煙草を吸いながら、横目でその男がハコにされるのを
見届けることにした。だが、その時。
「あ、あのう……和了りです。天和と、あと、国士無双です」
「ダ、ダブル役満!?」「ふざけんじゃねーぞ!?」「てめえサマったな!?」
「そう言われましても……和了りは和了りですし……」
 俺はその男のほうに歩いて行くと、大声で啖呵を切った。
「おう!!負けは負けじゃろが!!払うもん払って出て行きやがれ!!」
「あ、兄貴……」「兄貴がそう言うんじゃ……」「仕方がねえ……」
 俺は事を治めると、そのひょろりとした男に訊いた。
「で、どうやった?」
「ま、まぐれですよ。まぐれ。ビギナーズラックってやつです」
 俺はそいつの手を捻り上げた。右手の中指に、麻雀ダコがあった。
「なあ、嘘は良くねえぜ、確かその名は……Mr.ライジングサン」
「ば、ばれてしまいましたか。はは……」
 男は残された左手でハンカチを取り出して、額の汗を拭いた。

「湿度百パーセント」

248:この名無しがすごい!
11/05/04 18:36:57.39 EUvszhyQ
「湿度百パーセント」

湿気で世界が滅びた日
世界から生き物という生き物が全滅した
何の前触れもなく湿度が上がり続けた
なぜ上がり続けたのかは不明
原因を解明する人間が既に死に絶えてしまっているのだから
おそるべき湿度地獄
それでも空には雲が浮いていた

「今月号の付録は縞パン」

249:この名無しがすごい!
11/05/04 23:23:04.14 qW1c/O4z
「今月号の付録は縞パン」

 目の前に、母さんが座っています。六畳一間、畳み張りの客間。
 ここにいるのは僕と母さんのふたりだけです。ふたりとも、対と正座です。
「これは、なんなのかしら?」
 母さんは、僕との間に、それはそれは丁寧に整えられた代物を指さし尋ねます。僕は応えられるはずもなく、見つめていた畳みがさらにハッキリしたように感じました。
 母さんは、もう一度、尋ねてきました。「これは、なんなのかしら?」と。
 結果の見えている真実をこれでなんど僕は繰り返したことでしょうか。ですがこの場合、相手の望んでいる答えが見えていないのでは、どうしようもないことでしょう。
「ふ、ふろ……」
「嘘おっしゃいっ!」
 同じ繰り返しを想定していたのでしょう。母さんは僕の言葉を途中で遮ってしまいました。とりつく島もありません。あったとしても、それはきっと、ランゲルハンス島ほどに違いありません。
 母さんは、ひざにのせた右手のひとさし指をしきりに上下させています。きっと心の中では今晩あたり、自身の息子を青い制服のおじさん達に引き渡す算段でもしていることでしょう。だてに一緒に暮らしているワケじゃありません。見ればわかります。だれか助けて。
「さあ、さっさといいなさい。あなたの机の引き出しに入っていたこれは。いったいどこから盗んできたんだい!」
 青いストライプをあしらった小さな布が微かに動いたように見えました。おそらく目の錯覚ではないことでしょう。
「母さん、どうか信じてください」
 口に出したところで激高されるであろう言葉をどうにかこうにか飲み込みます。だって言っても信じてもらえないじゃないですか。
「毎月購読している雑誌の付録だったのですよ」
 だなんて。

「水虫薬/鍵盤ハーモニカ」

250:この名無しがすごい!
11/05/05 00:43:45.53 7zPcQrfc
「水虫薬/鍵盤ハーモニカ」

「水虫薬÷鍵盤ハーモニカ」という式によっていかなる=が結ばれるのか、このレポートはその
ことについて考察するものである。
まず「÷、すなわち『割る』」という営為の定義づけをおこなう。
ここでいう「割る」とは数学的、あるいはわり算的な「÷」であり、すなわちそれは「分ける
」ことに他ならない。
そのように定義する。
これにより問題となるのは、「鍵盤ハーモニカ(以下A)」というもの、はたして、いかにし
て、他の事物を「割る」ことができうるのか。
また「水虫薬(以下B)」というものが、いかにして、他の事物から「割られる」ことができうるのか。
さらに、Aの「割る」、そしてBの「割られる」という二つの文脈が同一面上に存在しうるの
か(つまり、二つの「割る」が文脈上で同じニュアンスをもっていられるのか、ということで
ある)。
この三つのことがらが明瞭となってはじめて、「BはAに割られる」つまり「B/A」とはど
ういった答え(=)を結ぶこととなるのか、と問うことができるのである。
では一つずつ見ていこう。
まずは、


「もしブツ(もしも野球部のマネージャーが手塚治虫の『ブッダ』を読んだら)」

251:この名無しがすごい!
11/05/05 16:08:47.51 rUaU+5PR
「もしブツ(もしも野球部のマネージャーが手塚治虫の『ブッダ』を読んだら)」

野球部マネージャーの十文字霧絵が友人から借りた『ブッダ』に嵌まったことがきっかけで
野球部内でブッダが人気を集め部室には文庫版のブッダが常備されるようになった。

野球部が甲子園に出場を決め、優勝こそしなかったが4番エースの草薙大和は
実力もさることながら可愛らしい顔立ちもありマスコミのちょっとした注目を浴びた。

インタビューで愛読書について聞かれた草薙は緊張もあり答えに詰まったため
「手塚治虫のブッダが好きです」と答えた。
そのときからマスコミの間で草薙大和は『ブッダ王子』と呼ばれるようになった。



次のお題「もしドラ(もしも野球部のマネージャーが『映画ドラえもん のびたの鉄人兵団』を観たら)」

252:この名無しがすごい!
11/05/05 17:54:57.72 NsxtYowY
「もしドラ(もしも野球部のマネージャーが『映画ドラえもん のびたの鉄人兵団』を観たら)」

どんな組織もドラえもんで分析できる。
静にはそう思っていた時期がありました。
4番は出来杉君、キャッチャーはジャイアン、スポンサーはスネオ。
のび太?
まぁ、ベンチに入れておけばいい。
でも、それはレギュラー放送だけの教訓。
いざ、甲子園になると出来杉はスランプで役立たず。
スポンサーのスネオのプレッシャーに負けそうになってしまった。
やけっぱちで、のび太を4番、ピッチャーにしたら、これが大活躍。
でも、一回戦で敗退。
ドラえもんの力で上位に入っては他チームに失礼だと言う事でわざと負けました。
本当にのび太に実力があったのに気づいたのは、卒業してから。

次のお題「生ユッケ」

253:この名無しがすごい!
11/05/05 18:46:29.63 YImK26e5
『生ユッケ』

夢を見たよ
焼肉屋で生ユッケを食べる夢を
一緒に食べていたのは君かな
君は笑顔でおいしいおいしいいいながら口いっぱいに生ユッケを放り込んでいたね
僕は生肉はあまり関心しないなといったよね
でも、君はおいしいは正義と店内に響き渡る声で答えたね
ニュースで生ユッケ関連の報道を見る度に君は青ざめるね
そう、僕と君がいった店はあの社長の店だよね
とぅっとるー
目覚ましがなって僕は勢いよく上半身を起こした
寝汗で寝間着がびっしょりだ
なんて夢を見たんだろう、最近よく見る夢だ
彼女と格安の焼肉屋にいって彼女が生ユッケをおいしいおいしいって食べる夢
本当にたわいもない夢なのに・・・
夢の中の僕はとても冷たい人で彼女は現実では考えられないほど食欲旺盛で
夢は現実を投影すると本で読んだことがあるけど
僕はそんなに冷たい人間じゃないと自信を持って言える
さて、洗顔して支度して待ち合わせ場所に行こうかな
彼女とのデート
彼女が前々から行きたがっていた焼肉屋に連れて行ってやるつもりだ
格安で有名な店だから、彼女が喜ぶこと請け合い
なにせ彼女は無類の肉好きだからね
腹一杯食べさせてやるんだ

254:この名無しがすごい!
11/05/05 20:10:45.98 NsxtYowY
>>253
次のお題を…

255:この名無しがすごい!
11/05/05 21:26:51.82 YImK26e5
思いでの駅舎

256:この名無しがすごい!
11/05/05 21:59:17.83 WiISX3bU
思いでの駅舎

「ああ、ありますよ。それはもう、とっておきです」
 ほほう、聞かせて貰えるかな?
「ええ、是非聞いて下さい。それは僕が高校2年の時のことです。僕は、夏休みを
田舎の普通列車の旅に費やしたんですが、あれは、その4日目だった。ちょうど、
海岸沿いを通る鉄道の普通列車で、終点についた時は、すでに夜遅くだったんです」
 ふん、それで?
「仕方がないから、その駅舎で一晩を過ごすことにしたんです。それは、地方の中心
都市ではあったんですが、駅前にはろくに商店街もない、寂れたところでした」
 食事はどうしたんだ?
「ああ、それは、駅前に『200円ラーメン』というのがあったんで、でも、その後
ですよ」
 何が?
「いや、そこなんです。ラーメンを食べて、店を出たら、目の前に、暗闇の中に、ほわっ
と駅舎が浮かんで見えて、それが印象的でね」
 ふふん、それで?
「その時なんです。横から声がかかりました」
 ん?
「その声は、『君、頑張れば、大作家になれるよ』そう聞こえたんです。見ると、
それは白いひげの占い師で。だから、僕がいまだにワナビやってるのは、その易
者のせいなんです。だから、こんな文でも、感想は欲しいんです。よろしくお願
いします!」
 ああ、やっぱり。「思い出の易者」だったんだ。

「乾燥機の大活躍」

257:この名無しがすごい!
11/05/06 02:32:54.29 zpRjdiN6
「乾燥機の大活躍」

「先生、最近、筆がノっていますね」
「おぉ、やっぱりそうか」
「読者の気持ちをつかんでいる感じがします。彼女でもできたのですか?」
「まぁ、彼女のおかげもある。……。これで、完成と」
「では、データを…」
「いや、ちょっと待ってくれ」
 彼はそう言うと、原稿をプリントアウトして洗面所へ向かった。ぶーんと乾燥機の音が聴こえる。
 しばらくすると、彼は戻ってきた。
「こんな時間に洗濯ですか?」
「いや、まぁ……。じゃあ、これ」
 そういい、データが入ったUSBメモリを編集者へ渡した。
「ありがとうございます。では、来月もお願いします」
 編集者は帰って行った。
 彼は洗面所へ戻り。原稿を乾燥機の中に入れて、スイッチを押した。
 ロボットみたいな声がする。
「この作品はよくできています。今回はベストセラーにランクインするでしょう」
 そうだ、乾燥機ならぬ感想を言う機械、感想機だったのだ。

次のお題「カレーライスと拳銃」

258:この名無しがすごい!
11/05/06 02:58:38.22 udiLnFL+
「カレーライスと拳銃」

今手にしている拳銃
これは祖父が高校入学の記念に買ってくれた物だ
どうしても許せない奴がいたら一回だけ撃てと
その一発は絶対に外すなと言われ、拳銃を受け取った
カレーライス
今、テーブルの上にあるカレーライス
これは祖母が昨日の晩に作ってくれたものだ
一晩おくと味が染みこんでおいしくなるんですよ
明日の昼に食べましょうね、と笑顔でいわれた
ちなみに平日の昼なので家族はみんな出払って家にいない
婆ちゃん一人で食べたみたいだ
俺は学校帰りに幼なじみの文子を連れて駅前のケーキ屋にいた
文子が妊娠した記念にケーキを買って二人でお祝いするために
高校生夫婦がいたっていいじゃないか
高校生が子育てしたっていいじゃないか
二人はそう誓い合って親に内緒で借りたマンスリーマンションでケーキを食べる
彼女の笑顔は今までにないほどの笑顔だった
僕は父親として祖父から受け取った拳銃で文子と子供を護り
祖母から教わったカレーライスレシピで二人を喜ばせたい
「なぁ、文子」
「なあに?」
「カレーライス好きか?婆ちゃんから教わったカレーがめっちゃうまいんだ」
「ぷっ!カレーライスレシピだって昭和の人みたーい」
プッツン
俺は祖父からもらった拳銃で彼女の頭を撃ち抜いた
祖母のカレーライスをバカにする奴は何ぴたりとも許せね!

「もう一つの世界」

259:この名無しがすごい!
11/05/06 09:31:28.15 tM/OmP6y
「もう一つの世界」

「ありがとう、私の初めてを貰ってくれて」
 かすかに涙ぐむ彼女の頭を、僕は胸に抱える。鼻先を軽くこすりつけてくる彼女の
髪に唇を落としていると、彼女は顔を上げ、目を閉じて、キスをせがんできた。顔を
寄せると、情熱的に吸い付いてくる。舌を絡ませると、彼女の手が、僕の首に回り、
まとわりつく。
 しばらくそうして、それから、顔を離した。互いの唇の間を、粘液の橋がつなげて
いる。
「じゃあ、教えてよ。『初めての後、一つ願いを聞いて欲しい』と言ってたよね?」
「うん。でも、いいの?」
「もちろんさ。愛する君のためならね」
 彼女は頬を赤らめて、それでも嬉しそうだ。
「じゃあ、ちょっと待って、先に飲み物用意するから」
 そう言うと、コップにジュースを二人分、運んできた。僕も緊張していたし、身体を
動かした後だ。ジュースはとてもおいしかった。だが、なぜか急に眠気を覚えて、目の
前が暗くなった。
 気がついた時、目の前はやはり真っ暗だった。が、それは目隠しだとわかった時、
慌てて起きあがろうとして、両手両足を拘束されているのがわかった。どうやら、
うつ伏せで、お尻を上げた形になっているらしい。顔に触れる感触から、ベッドの
上らしかった。
「おい、一体どうしたんだ、何なんだ?」
「ごめんね。私、本で読んで、一度、試してみたかったの」
 次の瞬間、僕の尻に何かぬるぬるしたものが塗られて、それから何か太いものが
押し付けられる。それは、無理矢理に中に入ろうとするようだ。
「駄目だよ! 駄目だって、痛い、痛い!」
「大丈夫、私も、始めは痛かったけど、すぐに気持ちよくなったもの」
「いや、それとは……わあ、わああああああ!」
 僕らがもう一つの世界に目覚めた瞬間だった。

「クリック・クロック・クラック」

260:この名無しがすごい!
11/05/06 16:35:41.72 6ItERUTu
「クリック・クロック・クラック」

 近未来、クリック・クロック・クラック、通称3Cと呼ばれるハッキングソフトが、
インターネットのアンダーグラウンド、ピア・ツー・ピア-ネットワークに出回って
いた。
 それは、陥落させたいシステムをマウスで選択(クリック)し、ある程度の時間
放置する(クロック)ことで、ハッキング(クラック)を成功させるという強力な
ツールだった。
 何らかの理由で、OSやブラウザ、無料電話ツールなどの主要ソフトウェアのアップ
デートを怠った管理者は、このツールによって常に痛い目を見てきていた。
 俺は、そんな状況をどうにかするために、3Cの逆コンパイルを行った。自動逆解析
プログラムによって生成された人間には理解不能なソースコードが、俺の手元にあった。
理屈はどうあれ、このソースコードは、コンパイルして、動かすことができる。
その点が重要だった。
 俺は各関数の呼び出し回数と、幾度かのテストから、3Cの起動シーケンス部分をどう
にか解読すると、そこにマーカープログラムを追加した。このマーカープログラムは、
3CをインストールしたPCに消えない痕跡を残し、犯人逮捕を容易にする。
 3Cのインストールは、法律上は、器物損壊未遂に当たる。だが、警察が踏み込ん
でも、既にその証拠となる3C自体が見つからないケースが相次いだ。3Cのアンインス
トールは他のアプリケーションとは違って徹底的で、ゴミすら残らないのだ。
 それで俺のような天才プログラマに、出番が回ってきたのだ。本来なら、むしろ
3Cの開発に協力してやりたいくらいだが―天才ハッカーとしてはそちらのほうが
やりがいがある―サイバーポリスからの多額の報酬に目が眩んだ。
 ピア・ツー・ピア-ネットワークに、偽の署名をした3Cを放流する。このソフトは
本物と同じように働き、そして消えない証拠を残す。ハッカー気どりのクラッカーたち
が異常に気付いたときには、完全に手遅れになるという寸法だ。
 俺はサイバーポリスから報酬を貰うと、指定の銀行の貸金庫に紙に包まれた札束を
放り込んだ。マーカープログラムは、間抜け野郎(ハッカー気どり)のネットワークを
あぶり出すだろう。俺はそれを読みとるプログラムを、サイバーポリスに内緒で既に
作成し終えていた。間もなく世界中の間抜け野郎のマシンが全て俺の手に落ちる。
 それを使って何をやってやろうか―俺は自身のハッカーとしての血が滾るのを感じた。

「遺伝子プリンター」

261:この名無しがすごい!
11/05/06 20:24:21.76 kf9xbDqW
「遺伝子プリンター」

「えーと、性別は…女の子がいいわよね?あなた?」
「は?男がいいに気まってんだろ?」
「じゃあ男の子と女の子の双子にしちゃいましょう!」
「えっ、男女の双子って一番高いだろ…」
「いいじゃない、大きくなったらお返ししてくれるわ♪」
「それもそうか…じゃあ『双子』に、性別は『男女』っと」
「体型や性格はどうしようかしら?」
「そう?じゃあ体型はーっ……性格はーっ、と、こんな感じかしら」
「おいおいそれじゃケンカしちまうんじゃないか?」
「そうやっていい大人に育っていくのよー?」
「そんなもんか?」
「いいからお金!」
「はいはい、えーと、うげっ、800円かよ。たけーな…」
ちゃりりんっ。
「はいじゃあスイッチオンッ!」
ピーガー、ガコンガコンガコガコカカカカカカカ。
――。
ガコン!
「あ"―――!」
「ほら!産まれたわ!かわいー!名前なににしようかしら!」
「そうだなあ…」


「名無しのQB」

262:この名無しがすごい!
11/05/06 20:26:10.77 kf9xbDqW
あ、訂正
「体型は―」

「そう?―」
の間に
「おまえが決めていいよ」
てセリフが抜けてます

263:この名無しがすごい!
11/05/07 12:21:17.16 klNmf9/Q
「名無しのQB」

「おはようございます、先生」
紅い服を着た女性が部屋に入ってきていった
「やあ、おはよんば!」
白衣を着た中年親父が女性に向かっていった
「雨止みませんね、先生。夕方から会合だってのに」
「なに。雨が降っていようが関係ないよ」
「先生、雨降ると子供みたいに外出たがらないじゃないですか」
「な、そんなことはないよ。僕は大人だからね傘一つあればどこにだってはせ参じるつもりだよ」
「こないだの雨の時だって、前に仕事したQBさんから相談があるから会いたいっていわれた時だって」
バッ!先生と呼ばれている男が急に女の口を押さえた
「おっと気味の悪い癖だ。いちいち過去を振り返っていたら進歩しないよ」
チッチッと指を振った
「もごもごっがご」
「おっとなんだね、言いたいことがあるなら言いたまえ」
先生は女性の口を離した
「QBさん先生が相談に乗ってくれなかったから大変な目にあったらしいですよ」
「ふふん。それが彼の運命なんだよ、僕がいくら有益なアドバイスを持ってきたとしても運命は変えられない」
「そ、それでもQBさんは」
「おっと、ストップだ助手くん。君の仕事は私に文句言うことかね?違うだろ、君の仕事はなんだね」
「名無しのQB確保及びサンプル個体の経過報告です」
「分かってるじゃないか、だったら早急に街に行き名無しのQBを探して着たまえ」
「はっ!」

「君への贈り物」

264:この名無しがすごい!
11/05/07 14:56:17.61 yI0oVJxZ
「君への贈り物」

「やるよ」
「え、私に…?」
「ああ、まあ、クリスマスだしな」
「あ、ありがとう。…見ていい?」
「ああ」
ゴソゴソ…
「わあー!綺麗なチョコレートケーキ」
「チョコレートじゃない、ミソだ」
「…へ?」
「ミソケーキだ」
「…」
「なんだその顔は。まさか一口も食ってもみないで捨てるつもりじゃないだろうな?」
「そ、そうだよね!美味しいかもしれないもんね!」
あーん。
ぱk
「ちなみにミソはミソでも、パンツ的なミソだがな」
「………」
「いやー、今朝下痢でさー。そのくせあんまり臭わなかったからお前に検便させてやろうと思
って?」
「…………」
「おらおら、泣くほど嬉しいならもっと喰えよメスブタァ」


「リアルラック」

265:この名無しがすごい!
11/05/08 00:01:20.20 WmXxOHfi
「リアルラック」

「そんなはずない、俺はもっと飛べるはずだ」
 青年は、担架で運ばれながら、かすかにそうつぶやいた。
「こいつ、3階の窓から急に飛び降りまして。ただ、自殺でもなさそうで」
「多分、リアルラックじゃないかな」
「ああ、最近よく聞く奴か」
 数年前から注目されるようになった症状だ。本当は、現実感覚欠如症候群という。
ゲームにのめり込みすぎたことから、現実感覚がなくなるのだという。一昔前の、
ゲーム脳とかの話に似ているが、問題はもう少しやっかいだ。
 違いは、コンピュータ内部の疑似世界が、その性能の向上と共に、現実に近い感覚
をもたらすまでに至ったことで、ゲーム内の体験が、本当の体験として身体に受け入
れられるようになったことだ。そのため、本当にゲーム内の動きを身体が覚えてしま
う。でも、実際の身体はそんなことが出来ない。だから、彼のように危険なことでも、
不安無しにやらかしてしまい、大けがをすることになるのだ。
「ま、そこまでゲームにのめり込める気持ちがわかんないですけどね。じゃあ、俺は
署に戻ります」
「ああ、俺は直帰だ。じゃあな」
 俺は、アパートのドアを開ける。
「あら、お帰りなさい。食事出来てるわ。それとも、お風呂にします? それとも、
わ・た・し?」
「それもいいな。お前もエッチだな」
「やあん。早く準備なさって」
 俺は、さっそくディスプレイの前に陣取り、体感装置に接続する。すぐに、腕の中
に新妻の身体の柔らかさが感じられる。
「やあだ、もう、すぐ手を出すんだから」
「お前だって待ってるんじゃないか。ほら」
「あん、もう、だめえ」
 そう、これは新婚体験ゲーム。何しろ実際の結婚に関わるリスクはないから、新婚気分の
いいとこ取りだ。それに、アクションゲームと違って、無理な運動などしないから、リアル
ラックも起きない。
 と思っていたら、3日後、いつもの感じで受付嬢の身体に手を伸ばして、セクハラで訴え
られたのだった。


「奇想農場」

266:この名無しがすごい!
11/05/08 07:40:49.38 z8CwuEEj
「奇想農場」

 こんにちは、アナウンサーの堀井です。今日は、小説家なら一生に一度は行ってみた
いと噂される、奇想農場にお邪魔してみました。
 こちらは農場主の奇想英彦さんです。この農場を作ったきっかけはなんだったので
しょうか。さっそくお話を伺ってみたいと思います。
「誰でも、アイデアが枯渇することってあるでしょう。そういう人たちに、現実は小説
より奇なり、ということを思い出して欲しかった。その思いが契機になりました」
 なるほど、それでこの動物園と遊園地と水族館と映画館と図書館と野菜農場が一緒に
なったような施設ができた、と。
「娯楽施設なんか、全部まとめてしまえ、と思ったんです。感覚入力が一定値を超えると、
人は何かしらアイデアを思いつくものです。それを第一に考えて施設を配置しました」
 しかし、こうして見ると東京ディズニーランドが霞んで見えますね。
「最初から子供向けじゃないですからね。そこのところを思い知らせてやろうという
考えがあります。小説家をターゲットにしたのもそのためです」
 実際、小説家の方が来てどのような感じになるのでしょうか。
「エウレカ!という感じになるそうですね。熱心なリピーターもいて、ノートパソコン
などを使ってここで書いていく方もおられます」
 最後に、莫大な運営費をどうまかなっているかお伺いしたいと思います。
「主に、入園代と、小説家や学校、有志からの寄付ですね。驚くほどの寄付が集まって
います。これからも奇想農場がアイデアの源泉であるように、努めたいと思います」
 本日はどうもありがとうございました。

「縦書きクロニクル」

267:この名無しがすごい!
11/05/08 23:52:03.24 0EYSPmt/
「縦書きクロニクル」

「また難解なお題をだしやがって…」
今日も今日とて、Schの某スレッドをよく利用していたのだが、これまたなんというかハードルさんが激昂…とい
うより、すげー面倒臭いことを考えるヤツだなあ。
「縦書きのうえに年代記(クロニクル)かよ……いやただの歴史年表だろ!」
しかし、どうしたものかな。
PCですらない僕に縦書きなんて面倒なことは不可能に近い。
かといって横書きに甘んじるのはお題設定したヤツになんか負けた気がする。
…こいつ性格悪いんじゃないのか?
まあいい。
なら、僕が、こうすればいいだけのことだ。


>>266の恋愛遍歴」

268:この名無しがすごい!
11/05/09 08:34:37.57 GkIHUG4B
>>266の恋愛遍歴」

 彼女と付き合ったことに、特に理由は無い。強いて言えば、恋愛というもの全般に興味
があったからだろうか。
 僕ははじめの頃、人生の中で恋愛というものを経験することは、執筆の役に立つことだ
と考えていた。愛情や嫉妬というものは、昼ドラのメインテーマになっている。小説を書
くにも、何かしらの貢献があるだろうという意識があった。僕はまるで大学の退屈な講義
を受講するような気分で、彼女と付き合い始めた。
 彼女は一言で言えば、自意識過剰だった。僕はすぐに幻滅した。彼女には、自分のこと
しか見えていなかった。別段可愛い顔をしているというわけでもないのに、やたらと自分
のことや、彼氏にしたい理想の男性のことを語った。お菓子の何々が好きだとか、芸能人
の誰々が好きだとか。そういうことを一方的に、延々と喋り続けた。
 これもまた、大学の講義を受けるように、僕は頭の中に記憶し、必要に応じてノートに
メモしていった。彼女は知らないだろうが、僕は記憶すること、メモすることにかけては
人より抜きん出ていたので、自然と彼女の第一の理解者になった。
 理解者。そう。彼女はそれを求めていた。彼女が求めていたのは、それ以上のものでは
なかった。人生のパートナーという感覚は、彼女にも、僕にも無かった。その点で、二人
の関係は事実上の終末が約束されていた。
 しかし、恋愛というものについてネットで調べるうちに、興味深い記述を発見した。そ
れは、エーリッヒ・フロムという心理学者が書いた本の要約だった。
「愛するということ」と僕は呟いた。
 愛とは技術、テクニックだと、フロムは論じていた。それも一朝一夕に成るテクニック
ではない。生涯を通じて高めていくテクニックなのだと。
 僕はその本をネットで注文し、頭からお尻まで全部読んだ。愛されるのではなく、愛し
なさい。それがその本のテーマだった。いかにして愛するか。いかにして与えるか。無償
の愛。恋人に「愛されている」という錯覚を与える無数のテクニックを磨けと、その本は
語っていた。それは僕にとって、晴天の霹靂だった。
 僕は無性に彼女に電話したくなって、生まれて初めて愛しているよと囁いた。彼女は僕
の幼稚な告白を笑った。それでも僕は満足していた。まだ僕には、学ぶべきことが多く残
っているのだから。

「ひどい誤解」

269:この名無しがすごい!
11/05/09 09:33:41.22 GkIHUG4B
age、と僕は書きこんだ。
間違えてsageてしまった時には、誰かがageねばならないものなのだ。
やれやれ。

270:この名無しがすごい!
11/05/09 09:34:18.87 GkIHUG4B
……やれやれ。


271:446
11/05/09 09:53:44.24 y8JucV2Q
……やれやれ。

やっていいの?
ああ。やれやれ。
じゃあ、やってみるね。
ああ。
できたよ。責任とってね。
……ああ? あ、ああ。
でも、大丈夫? いろんなこととか。
ああ……何とかなるだろう。
ありがとう。……だから、好き。
ああ。


「『あああ』から始まります」


272:この名無しがすごい!
11/05/09 10:22:10.61 fp6Ebjn7
あああ・・・

「そんな・・」

彼は驚愕に目を見開き、手から流れ落ちる自らの血を凝視した

「・・違う、こんな結末は違う・・・」

そう呟いた彼は命の灯火が消えようとしている中で気を失うその一瞬

走馬灯を見た

ってなわけで「走馬灯」

273:この名無しがすごい!
11/05/09 22:52:00.87 ZbANYS/J
「走馬灯」

私の名は走馬 灯(そうま あかり)。
もしかしてこういう名前のキャラクターなんてすでにいたりするのかしら。
こうも思うほどしっくりくる我が尊名。
「灯、部活は?」
それを呼ぶ、線の細い容姿を連想させる、かぼそいながらもハスキー地味た声。
それは美声といってもいいだろう。少なくとも、心地がいいのだから。
「行かないわ」
「いい加減、幽霊部員のレッテルを貼られるんじゃない?」
「もとから似たようなものよ」
「そんなことないでしょ?」
「さあ。もう、よくわからない」
「なにが?」
「私が。そしてあなたが」
「私?」
「そう私」
「あなた?」
「そうあなた」
「そうね」
「ええ、そう」
「ところで」
「ところであなたは誰なのかしら」
「もう思いだせない?」
「誰が話しているのかしら」
「もう思いだせない?」
「誰が声を発しているのかしら」
「もう認識できない?」
「わからない。眠いわ」
「そう。じゃあ、気をつけて」
「なにを?」
「さあ?」

――×日未明。
女子高生の轢死体が発見された。


「ブラックホールの向こうまで」

274:この名無しがすごい!
11/05/09 23:34:56.27 7yEuooxc
「ブラックホールの向こうまで」

暗闇の研究室
明かりは小さな電球一個
ぼわーんと照らされる二つの顔
一つは初老の男性
もう一つは二十歳前後の女性
「いいかね、ブラックホールとは莫大なエネルギーを生み出すんだ」
初老の男性が自慢げに語る
女性ははいはいと苦笑しながら頷き返した
「宇宙は常に膨張していってる。最近までは膨張はいつか収まりそしてゼロに収束されるものだと信じられていた」
「違うのですか?」
「最近の研究だと、膨張はさらなる膨張を呼び、加速をまして膨張し続けている」
「それじゃ最後はどうなってしまうのですか?」
「薄れてしまうんだよ。膨張することによって時間の先端によって最後尾が引っ張られるからね」
「それじゃ私たちはいつか・・・」
「心配に及ばない、その時には既に地球なんてありゃせんだろ」
初老の男性が手をぱたぱたと振る
「そうならないように私たちはブラックホールから莫大なエネルギーを取り込む必要があるのだ」
「そのエネルギーで、他の銀河に逃げるんですね」
「そうだよ。ブラックホールには全世界の原発なんて目じゃないほどのエネルギーがあるのだから」
「私たちの未来はブラックホールに掛かっていると言っても過言じゃないんですね!」
「そうじゃよ、これこそまさに超自然エネルギーじゃ」
「なんだかわくわくしますね!博士!」

「総理の決断」

275:この名無しがすごい!
11/05/11 14:16:28.90 HJL8fElD
「総理の決断」

とある国にたいへんアニメが好きな総理大臣おりました。
総理は国の一大事を前にして、いつでも笑って素早く決断を下す優秀な人でありました。
国民の評判も、いつもすぐに動いてくれるし笑顔を絶やさない余裕のある素晴らしい総理だと、上々だったのです。
しかし、国民は知りませんでした。
総理の笑顔は素晴らしいアニメを見て満足していることの表れであることを。
その素早さは、少しでも多くアニメを見る時間を得るためのものであることを。

ところが此度、国を襲いました大事変におきましては、総理はたいへん悩んでおりました。
たいへん難しい決断を迫られていたのです。
総理は部屋に籠もって悩んで悩んで、それでも決断をすることができませんでした。
やがて焦った側近達は、いつもは黙って見ているだけなのですが、今度ばかりは総理に、まだですかご決断はまだですか、と急き立てます。
総理もしだいに焦って参りまして、なかなか決断出来ないことと、アニメを見る時間が削られていくことに頭を抱えてうんうん唸りだし、
しまいにアアともガアとも聞こえる叫び声を上げました。
その声を聞いた側近達は居ても立ってもいられずに、総理の籠もる部屋に飛び込んで大丈夫ですか、と声を上げました。
「総理! 大丈夫です……か……?」
側近達はそのときの総理の様子に、まさに顎が外れるような表情になりました。
総理は部屋に備え付けのテレビにかぶりつくようにして、アニメを見ていたのでした。
「総理……何をなさってるんですか。アニメなんて見ているときではないでしょう!」
総理を前に一同は、彼がおかしくなってしまったのではないかと疑いつつも、口々に怒りの言葉を捲し立てました。
しかし、総理はテレビにかぶりついたままピクリともしません。部屋に響くアニメの音が虚しく響くだけでした。
「総理、総理……難しいのは分かります。しかし、そろそろご決断いただかないと困るのです。どうか、どうか! ご決断を!」
側近が皆、固唾をのんで総理を見つめる中、彼はとうとう動きました。
総理は顔をアニメから側近達に向け、険しい目つきでじろりと眺め回した後、バッと勢いよく仁王立ちのポーズを決めて、
「ジャッジメントですの!」
大声で叫んだのでした。

「……総理、総理。……決断は、ディシジョンです」

「電気羊のウール」

276:この名無しがすごい!
11/05/12 01:43:41.16 zT2Z3Q4y
愛玩用のロボットペットが普及してもう何年になるのか。
いまや犬をはじめ猫、鳥、魚、はては昆虫にいたるまで様々な愛玩用動物が機械化されている。ある人に言わせれば
死なないから良いのだそうで、またある人に言わせれば必要なときには音声をオフにすることができるから良いのだそうだ。
今回の取引は電気羊のウールである。
この商売が長い私も、かつて巡った町でいくつかの噂を仕入れている。
愛玩用機械動物は、最新の機能として放牧や搾乳など家畜としての機能もある程度満たしつつあるというのだ。
無機物から有機物を発生させるメカニズムは既に一般化されている。その上での応用なのかもしれないが、いかにも
怠惰で飽き性の我々が好みそうな家畜である。今なら高値で売れるだろう。
「今日は何をお探しで」
店のオヤジが言う。
「ウールだ」
私は行商カードを提示した。これさえあればこの世界のどこでだって、仕入れを行うことができる。
「ウール……」
「そうだ。電気羊のウールだ。まだ残ってるかい?」
ありますとも。売り物じゃないんですがね、とオヤジは笑って一度奥に引っ込もうとした。が、そのまま振り返って言った。
「猫のドンブリ、なんてのもありますけど……」
「ド……機械猫かい?」
なんというどうでもいい機能だ。いやしかし好事家というものは何でも欲しがるものだ。悪くはない。
「いいえ、こりゃ生身です」
「おいおい」
それは多少悪趣味ではあった。
「ひとまずウールを見ようか」
私は言った。オヤジはゆっくりと奥に引っ込むと、ごく普通の機械羊を持って戻ってきた。シルバーのボディにいくつかの
継ぎ目が見える。両手で抱えられるほどの家庭用電気羊である。今では駅前で変える程度のものだ。
「毛なんて生えてないじゃないか」
「生えませんよ。そりゃ機械ですから」
オヤジは言う。
「ウールを買おうと言ってるんだ。売り物じゃないと言ってたが、貴重なのはわかる。言い値でもいい」
買い手が付けば値段などどうにでもなる。
「ですから、お客さんの目の前にあるのがウールですよ」
お客さん、騙されたんですよ。とオヤジは言った。
「その羊ね。ウールってんです。なぁ、ウール」
ピピピ、と名前を呼ばれた羊のセンサーアイが明滅した。
やられた。ポケットをまさぐり、タバコを取り出そうとする私にオヤジがマグカップをさし出してきた。中には薫り高いコーヒーが入っている。
「シャレにならねぇ……。オヤジ、俺みたいなのは今日で何人目だ」
タバコに火を付け、カップを持ちながら問うた。
「お客さんで15人目です」
ひひ、と笑う。
「お客さん、猫のドンブリも見ますか?」
見ると、奥の部屋から生身の三毛猫がこちらを見ていた。


次「富士の湧き水殺人事件」


277:この名無しがすごい!
11/05/12 11:57:52.84 UmwFf//k
「富士の湧き水殺人事件」

「課長!殺人事件です!」
「なに!」
「害者は朝田昼夫23歳!殺害場所は○×自然記念公園わき水付近!」
「よし!おまえとおまえいって調査してこい」
「「あいあいさっさ!」」

ぴーぽぴーぽー
キーッ!がちゃがちゃバンバン
「お疲れ様です!」
「ご苦労さま。で、害者はどこに?」
「はっ!あちらです!ご案内いたします、どうぞ」
「それにしても、人気のない公園ですね」
「そうだな、夏にならないと来ようって気にもならんな」
「だからここで殺人が・・・」
「ここです、この池の中に」
「うむ。本当だ、男が沈んでる・・・」
「何が手掛かりになるような物ありましたか?」
「いえ、まだ発見していません。争った形跡もなく自殺かと」
「いや。これは他殺だな」
「また何か掴んだんですね」
「ああ。見たまえ男の首に痣らしきものが見える」
「!!本当だ」
「君、ここの班長にいって早く男を引き上げさせてくれ」
「了解いたしました」
「これぞまさに「富士の湧き水殺人事件」」

「オチもなけりゃ希望もねえ」

278:この名無しがすごい!
11/05/12 12:26:10.00 4Oad8LEo
「オチもなけりゃ希望もねえ」

「もうだめだ。もうおしまいだ。死ぬしかない」 A氏は絶望していた。
「ちょっと待って!早まらないでください!」 B氏が引き止めた。
「でも『物語の初めに死体を転がせ』って偉い人も言ってますし」 C氏が煽った。
「そんなセオリーがこの作者に通じると思ってんのか?」 D氏が不満を述べた。
「そう。重要なのはこのSSのタイトルからして、オチも希望も無いことなんだ」 E氏が見解を語った。
「だけどよう。俺達の努力で未来を変えられるんじゃねえのかよう」 F氏は勇敢だった。
「そうかもしれない。物語の登場人物が独り歩きするという説もある」 G氏は仮説を立てた。
「俺達が独り歩きすれば、作者もオチを考える気になるかもしれない」 H氏は希望を言った。
ターン。発砲音が聞こえ、H氏は床に倒れた。額を撃ち抜かれている。即死だった。
「KI BO Uというキーワードはタイトルで禁止されている」 I氏は冷静だった。
「つまり言ったら死ぬというわけか」 J氏は冷淡とも言える態度で言った。
「俺達はみんな死ぬんだ……」 K氏は絶望した。
「いや、そんなオチらしいオチがあるとは思えないな」 L氏は推理した。
「じゃあどうなるんだ?」 M氏は訊ねた。
「何も起こらないかもしれないな」 N氏は答えた。
「それこそ我々が最も恐れていることじゃないか?」 O氏は動揺した。
「もしかして、このままアルファベットを使いきるというオチなのでは?」 P氏は大胆にも発言した。
「作者がそんなオチらしいオチを考えているわけがない」 Q氏は失望した。
「だとするとそろそろ終わりが見えてきたかもしれないな」 R氏は予想した。
「ああ、もうそろそろだろうな」 S氏は嘆息した。
「突然ですが、皆さんには殺し合いをしてもらいます」 T氏がパクった。
「著作権に訴えても無駄だよ。我々には武器も何もない」 U氏は落ち着き払っていた。
「作者を殺そうじゃないか」 V氏は無駄な提案をした。
「作中人物がどうやって作者を殺すんだよ」 W氏は現実主義者だった。
「もうすぐZ氏が登場するぞ」 X氏が期待を込めた目で辺りを見回す。
「Z氏ならいませんよ。さっき僕が殺しておきましたから」 Y氏は血走った眼でフヒヒと笑った。
全員がオチを求めて天を仰いだ。ツバメが一羽、青空を横切って行った。

「レイニーレイ」

279:この名無しがすごい!
11/05/12 17:45:18.84 zXkrYp1M
「レイニーレイ」

 陽光は透き通った水を通り抜けて底に光を与える。だがそれは決して温かみを帯びておらず、ただ冴え冴えとした冷たい光であった。
 太陽を見上げる少女は、直に触れればきっと愛しいであろう温度を思い浮かべる。
 最初は暖かで幸せな物だと考えていたが、実は熱すぎて触れた瞬間溶けてしまうかもしれないと思い直す。
 いや、本当は今足元にある光のように温度は無いのかもしれない。
 少女は表情を曇らせる。しかし一層降り注ぐ光が増すと暗い気分は消えて再び陽光への憧れが頭をもたげた。
 何時だったか、と少女は光の中に腰を下ろして回想を始める。
 祖母は言っていた。あの太陽に触った女性がいた。そして死んだのだと。
 憧れを抱き続ける少女への警告だったのか、真実だったのか。分からないがそのときの祖母はとても悲しそうだった。
 しかし少女は首を傾げる。陽に触れて消えていけるのならば本望ではないか。自分ならば本望だ。
 それから数年。上にある太陽が奇妙な揺れ方をしていたある日。
 大人になったあのときの少女は意を決して光の底を蹴った。予感があったのだ。今なら太陽に触れる事が出来るだろうという強い予感が。
 浮いた身体は真っ直ぐと朧気に揺れる太陽を目指す。近付くにつれて五感がじんわりと温度を感じ始める。
 指先に今まで感じた事のない暖かな温度を感じ―少女は海面から腕を、頭を、そして身体を突き出した。そして目に映る光景に歓喜する。
 予感通り陽光が降り注ぐ日だったのだ。晴れの空から降る滴のなかに陽光が宿っている。それは海底に注ぐ光とは違い酷く温かい。
 感極まった少女がしばらく空を見上げていると海を巻き上げる聞き慣れない音がした。少女はその方向に目を向け、驚いて顔半分出して海に引っ込む。
 海に浮く見慣れない白の物体の上。そこに自分とは違った二本の足を持つ青年が目を丸くして少女を見つめていた。

「得体の知れない物」

280:この名無しがすごい!
11/05/14 08:55:55.38 zfoW2oOp
「得体の知れない物」

それから、わたしはおかしくなってしまいました。
なんだか胸がつっかえるようで、チクチクするような感じがあったり、ちょっと息苦しかったりするんです。
学校でも家に帰ってもそのことを考えると、胸のドキドキが誰かに聞こえるんじゃないかというくらい大きくなって、顔がカーッと熱くなりました。
何かがわたしの中にいるようで、もう何が何だか分からなくなって泣きそうでした。
友達や家族と話しているときに何かの拍子にそうなって、誰かに気付かれやしないかと不安にもなりました。
それでもみんなには出来るだけ心配をかけたくないし、変な風に思われたくなかったから、出来る限り普段通りに過ごすように努力しました。
何か言ってくる人なんていなかったから、きっと誰にもばれていない。
けれど、安心していられたのはつかの間でした。二日目から胸のつかえがちょっと重くなったように感じて、三日目になると大きく膨らんだような感じがしました。
ちょっとしたことでそれが頭に浮かび、胸がバクバクして顔が熱くなります。とうとう周りの友達も心配しだして、わたしはそのたびに大丈夫だからと返しました。
四日目、起きたときわたしの中の何かは驚くくらい透明でした。昨日寝る前は枕を抱きしめてのたうち回らずにはいられないほどだったのに。
わたしは明るい気分で学校に行って、午前はいつも通りに授業を受けて、午後にいつも通りにその教室移動のため席を立ちました。
わたしは移動先の教室のことを考えて、ふと思い出してしまいまったんです。あの時のことを。
とたんに動悸が始まって息が切れて、わたしはしゃがみ込んで動けなくなってしまいました。
みんながわたしを取り囲んで、保健室に連れて行ってくれました。
保健室の先生はみんなを返した後わたしをベッドに寝かせて、何があったの、話してちょうだいと言いました。
わたしはこの四日間、自分がどんな状態だったかを正直に話しました。
「先生、わたしどうしちゃったんでしょうか? わたしの中にあるこの得体の知れない物は何なんでしょうか?」
すると先生は、なぜかにやりと笑みを浮かべて言いました。
「ふふーん、分かったわ。あなたは恋をしちゃったのね。それは恋の病の症状よ!」
わたしはハッとして先生を見ました。
そうか、そうだったのか。これが、恋という物なんだ。
「で、一体誰に恋しちゃったわけよ?」
にやけた顔で先生は聞きました。
わたしは胸が苦しくなって言葉に詰まったけれど、思いきって四日前の放課後のことを、全て先生に話しました。
「わたし……、他のクラスでなんですが、噂になってるのを聞いちゃったんです。
 それで、放課後に家庭科室にいるって聞いて……行ったんです」
「うんうん。それで?」
「放課後の家庭科室で……、午後四時四十四分にふたつある姿見で合わせ鏡を作ってその十三番目に見たんです、それを」

「えっ」


「伊達マスク」

281:この名無しがすごい!
11/05/14 23:41:19.45 rZK2cyRE
「伊達マスク」
 この歳になるとジャケットがどうとか、ズボンの着こなしがどうとか、そういった話題について行く気が起きない。
 コンビニで見かける若者向けの雑誌を見て私は溜息をついた。もう字すら読めない。
 ギャル語、とテレビは言っていたか。それは最早難解な見知らぬ土地の言語のように私には思えた。
 流行が移り変わるたびに私は歳を自覚していく。
 そして今回「伊達マスク」という商品が流行り出したときも自分の老いを感じ、
正直なところうんざりして「またか」などと斜めに見ながらブームが過ぎていくのを眺めていようと思っていた。
「おはよう。早いな」
「お互いにね。時間厳守を謳うくせに十分前行動なんて、何とも矛盾した社訓だよ」
 ある朝、同僚と雑談して無駄な時間を潰し、出社時間丁度にタイムカードを押していると見慣れない男性が
私を追い越して行った。
 私の勤める会社は機密が多い。部外者などもってのほかだ。
「立ち入り禁止ですよ」
 するとその人は振り返り怪訝な顔をした、と思ったら次の瞬間には破顔して「言っていなかったね」
と聞きなれた声を発する。
「あれ、その声は」
「私だよ。伊達マスクを買ってみたんだ。どうだい? 若返っただろう?」
 べり、と剥がれた肌色の皮の下から上司の顔が出てくる。
 上司を嫌っている同僚は心底驚いて固まっている私を置いてさっさと行ってしまった。
「なんだ、知らないのかね」
 上司は説明を始める。伊達マスク。所謂、伊達メガネと同じお洒落道具。
 ナノマシンに自分の若い頃の顔や化粧をした顔を記憶させ張り付けるのだという。
「私のコレは結構ランクが上のヤツでね。着脱が手軽にできるんだよ」
「安い物は剥がれないのですか?」
「いや、勿論剥げるとも。しかし大変らしい」
「それ、他の人がつけたらどうなるんです?」
「キミも反対派の様な事を言うんだなぁ」
 上司は呆れたように肩を竦めて、持ち主の声紋認証をしなければ張る事ができないのだと幼子に
聞かせるように教えてくれる。
 他にも自分以外の顔は作れない事、本人証明の専用のカードがある事など数々の犯罪防止策を乞いも
していないのに喋っていた。
 私はやや気分を害しながらも機嫌を損ねては出世に関わるので頷き、しかし内心では唾を吐いていた。
 それから数日後。定時間近、オフィスに不在だった上司が飛び込んできた。
「おや、ずいぶんと……」
 老けましたな、という言葉を飲み込む。
「伊達マスクはどうしましたか?」
「無くしてしまったんだ!キミ、見ていないか?」
「さあ……でも大丈夫なんでしょう?」
「テレビくらい見たまえ!」
 上司は怒鳴ってから行ってしまう。上司命令だと解釈して携帯でニュースを見る。
「世界で三億人以上の使用者がいる伊達マスクの不具合についてです。
製作会社は引き続きマスクの盗難に気を付けるよう使用者に呼びかけています。
これまでの盗難報告は二千件を越え偽装殺人も発生しており―」
 状況を把握した私は笑いを堪えながら携帯を閉じる。そして同僚に話しかけた。
「知ってたか?」
「ああ、知っていたよ。何ともいい気味だ」
 同僚はニヤニヤ笑いながらデスクの引き出しに手を入れた。
「何をしてる?」
 私が尋ねると同僚は一層笑みを深めて引き出しから肌色の皮を一瞬見せる。
 目を丸くすると同僚は悪戯っぽく人差し指を口に当てる。
「明日から俺が上司だ。言っとくが内緒だぞ」
「俺が上司だ、って……本物はどうする?」
 私は彼の目に浮かぶ暗い光を見てそれ以上は何も言わない事にした。
 カチリ、と仕事の終わりを告げる時計の長針に従い私は席を立つ。
「それじゃあ。いい人生を」
「ありがとう。良い上司に恵まれるといいな」
 街路を歩いて帰宅していると風に乗って肌色のマスクが足元に落ちる。
 私はそれを拾い上げてから―流行物は嫌いなので近くのゴミ箱に投げ入れた。

「夢オチ」

282:この名無しがすごい!
11/05/14 23:43:53.24 CGuyO7hT
「夢オチ」

・・・そう、僕は気が付いたのだ
このスレ
そうこのスレに書かれたこと
全てが・・・
全て僕が見た夢だってことに


「さよならマリアンヌ」

283:この名無しがすごい!
11/05/16 04:11:25.50 PgLF96vy
「さよならマリアンヌ」

「今日はさようならを言いに来たんだ」
驚きと戸惑いの表情を見せる彼女に、ぼくは意を決してそう告げた。
いきなりの告白に困惑したのか、いつもは気丈な彼女も言葉を失っている。
「何度も考えたんだけどさ、やっぱりこのままじゃだめだと思うんだ」
張り裂けそうな想いを抑え、必死に乾いた笑みを捻り出す。
「付き合いだしてもう四年……出会った時は大学生だった俺らも今じゃあ立派な社会人だ。
お互い別々の仕事に就いて、徐々に忙しくなって、会うのだってこうして仕事の終わった夜中だけ……。
もう限界なんだよ、いろいろ」
付き合おうと言い出したのは、ぼくの方からだった。
新入生歓迎会でほろ酔いながら九州訛りで自己紹介する彼女に一目ぼれし、それから一年越しで彼女を口説き落とした。
『マリアンヌ』―それが彼女のあだ名だった。本名の真理とかけてあるのだが、どうも本人は気に入ってないらしい。
聡明で優しい彼女と一本気でどこか抜けてるぼくとは相性が良かったらしく、なんやかんやで四年も付き合うことができた。
歪みが生じたのは今にしてみれば仕方のないことだったのだ。
年齢も二十代半ばに差し掛かり、周りで結婚すり人もちらほらあらわれ、ぼくも彼女と結婚するのかなと頭に描いていた。
そんな漠然としたビジョンをそれとなく彼女に話したら鼻で笑われた。
どうやら彼女は結婚願望がないらしい。
結局のところそれが別れを切り出した一番の理由だった。

五月の夜風は湿気を含んでいる。
押し黙っていた彼女はようやくその口を開いた。
「さよならって……どういうこと?」
彼女の声は心なしか震えている。
「ごめん……。自分から付き合おうって言っといて勝手だとは思う。だけどこのままじゃ俺たちはダメだと思うんだ。
だから別れよう」
「……ッ!」
彼女のハンドバックが何やらきらりと光っている。
「ふざけないでよ!! なによ、さんざん今まで振り回しといてどの口がそんなこと」
「しょうがないだろ? きみは俺と結婚したくないって言ったじゃないか。だったらそれぞれ別の道を歩んだ方が……」
「結婚!? はッ! 当たり前でしょ!? アンタと結婚するくらいなら死んだほうがマシよ!」
「なっ、マリアンヌ!! いくら何でもそれは」
「――!」

つづく

284:この名無しがすごい!
11/05/16 04:12:11.73 PgLF96vy
次の瞬間、ぼくの腹には包丁が刺さっていた。
刺しているのが彼女だと気づいたのは、彼女の香りがぼくの鼻をくすぐったからだ。
鈍い痛みと血が抜ける感覚が体を襲う。

「なにが『別れよう』よ……いつもしつこく付きまとってきたのはあなたの方でしょ?」
…………え?
「大学の時から事あるごとに声をかけてきて、適当にあしらったら勝手に付き合ってることになってて」
…………。
「卒業してようやく解放されたかと思ったら会社帰りについてきて」
…………。
「私をなにかのキャラクターと重ねていたみたいだけど、今度会ったらこうしてやろうと思ってた」
…ああ、そうか。そういうことか。
これこそが『魔法少女マリアンヌ』の真の姿なのか。やはり別れて正解だ。
薄れゆく意識の中で、ぼくは言った。
「さよならマリアンヌ」と―

「奇妙で不毛な観察日記」


285:この名無しがすごい!
11/05/17 01:18:12.38 /+m8EXlp
「奇妙で不毛な観察日記」

最近よく新聞などで目にするゾンビシティーと呼ばれる街がある
世界的製薬会社の実験失敗の結果街全体がゾンビに化したという伝聞だ
誰もがそんな噂は信じてなかった、いくら新聞が写真入りで報道しようが、いくらテレビで映像を流そうが
みんながみんな笑ってマスコミが考えたジョークだと思っていた
もちろん俺もマスコミの考えた冗談だと信じていた・・・あの日まで

全世界的大不況
きっかけはただ一つの事件
あるEU国の国王が一人の若者によって銃撃された
ただそれでかえだった
その事件がきっかけで世界は二分割された
経済主義を中心とした国と福祉を中心とした国と
なぜ国王一人で世界が二分割したのか、話は簡単だ
殺された王は穏健派として有名で経済主義のいいところを利用し福祉政策を活発にしていこうとしていた
しかし、互いの陣営は己の成長は己によってもたされるもの
相手の力を利用して繁栄などしたくはないといいきっていたのだ
そのもっともカヤの外にいて、もっとも動向を注目しされ中心だった王が殺された
結果、EUからアジア、アフリカ、アメリカ、中東へと不況のドミノ倒しは始まり
一年もしないうちに全世界大不況になっていた

食うにも困る貧困生活で俺は、職安で一つの仕事を見つけた
ある生物の観察
時給は最低賃金より少しだけ上で、交通全支給につられ俺は応募し採用となった

仕事は簡単だった、ある街にいきそこで半年間、ある物体たちの観察日記をつける
ただそれだけだった

指定されたバスに乗って、就業場所である街に連れて行かれた
いって驚いたのは誰もいないのである、人っ子一人いない街、音といえば風の音だけ
俺はそんな街でただ一人で半年間観察日記をつけなければならない
不毛だ

なぜって、昼間には姿を見せないが夕暮れから街を闊歩する連中がいるから
奴らは日が昇るまでひたすら街中を動きまくり、生き物を殺し続けるのだ
こんな連中を観察して記録してなんの意味があるんだ
俺は今すぐこの街から出たい、出てひたすら遠くの孤島にでも逃げたい
奴らの能力を目のあたりにして人類が奴らに勝つことなど不可能なのだから
こんな不毛な観察日記など捨てて今すぐにでも逃げるべきなのだ
あああああああああああああ、小屋の外にはゾンビたちの群れが・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・しにたくなければぜんりょくでにげろ・・・

「夏休みと蛍と白ワンピース」

286:この名無しがすごい!
11/05/19 08:05:24.43 MPch8TPd
「夏休みと蛍と白ワンピース」

 蛍を採取すること。それが、僕に課せられた夏休みの自由研究だった。
 自由。僕はその言葉が大嫌いだ。
 言っておくが、僕は学校の成績はいいほうである。しかし、僕はとにかく夏休みの自由
研究というのが苦手なのだ。自由自由と言うのは容易いが、小学生にできることには限り
がある。しかも、ありきたりで結果の見えているテーマほどやる気を削ぐものはない。要
するに、僕は研究テーマを誰かに決めてもらわないと、延々テーマで悩み続けて自由研究
に取り掛かれない病気なのだ。
 小学生にしてそのことを悟った僕は―けっこう早いほうだと思う―、先生に電話で
相談して、毎回、研究テーマを何にすればよいかを勝手に決めてもらっていた。
「蛍の研究」
 小学四年生の僕にとって、そのテーマは魅力的だった。僕は昆虫について詳しくない。
だから、それ相応の発見があるだろう。また、田舎の親戚の家に行く予定がある僕にとっ
ては、うってつけの研究テーマでもあった。
 両親と相談した結果、夜の渓流という危険な場所に出向くことに対して、念のため懐中
電灯二つを準備、ということでゴーサインが出た。それで、僕は従妹と毎日夜の渓流に出
掛け、草葉の陰に身を隠す蛍を、観察、捕獲することになった。
「なかなか見つからないね」
 従妹のカオリが白いワンピース姿で僕に声を掛ける。白は光をよく反射するからと、親
が準備したものだ。僕たちはときどき懐中電灯を切って、星明かりを頼りに、蛍の光を探
す。よーく目を凝らして……いた。
「こっちにいるよ」僕はカオリに声を掛ける。
 蛍は葉っぱの上で、お尻をぼんやりと明滅させている。カオリが僕の顔の横から蛍を覗
き込む。網を構え、蛍を捕まえるのがカオリの役目だ。虫かごに移すのが僕の役目だが、
まず捕まえなければ意味が無い。
 ばさっ。網が振り下ろされる。蛍は網から逃れ、宙を舞う。逃がしたことは残念だった
が、その光の筋は幻想的だった。
「ちぇ。逃げられちゃった」
 顔の下から懐中電灯で照らし、顔だけを浮かび上がらせてカオリは言った。僕を怖がら
せるつもりらしい。小学二年生だけあって、発想が子供じみている。まあ僕も子供なのだ
が。やれやれ。
「ほら、次の蛍を探そうぜ」
 僕はそう言ってカオルの手を引いた。足元を流れる水は冷たかったが、カオルの手は、
僕が思っていたよりずいぶんと柔らかく、暖かかった。

「自爆命令」

287:この名無しがすごい!
11/05/19 16:49:49.81 q6f0IPok
「自爆命令」

 「自爆命令」が出た。
 仲間内のくだらないゲームに負けたための「罰ゲーム」である。お題は「クラス一の
美人こと委員長に教室のど真ん中でコクること」だ。これは厳しい。爆死間違いなし。
その上、密かに想っていた相手だ。正真正銘の自爆命令なのだった。
 仲間たちの視線が痛い。今は昼休みが始まったばかり。タイミングとしては、今しか
ない。委員長は弁当箱を持って立ち上がったところだ。急いでその前に立つ。
 不審な目を向けられるが、ここまで来たら後には引けない。
「俺、君のことが好きだ。付き合ってくれ」
 委員長は目を見開いて、固まってしまった。それはそうだろう。でも、そこからが予想外
だった。
「ありがとう。お受けします」
 彼女との交際は三日続いて、その後に断られた。噂では、彼女も同様な「自爆命令」を受
けていたらしい。それならわかる。
 わかってしまう自分が、若干だが悔しかった。

「さかなを探して三千里」

288:この名無しがすごい!
11/05/20 12:59:13.54 9t4NiAWJ
さかなを探して三千里」

 弟から国際郵便が届いた。根っからの自由人である奴は、このところしばらく日本を離れて諸国を
巡っている。その道中、目についた名物を面白がってかたっぱしから私に送りつけてくるのである。
 はっきり言っていい迷惑だった。名物とは言い様で、碌なものが送られてきた試しがなかったのだ。
民芸品らしき、ひたすらに場所を取る人間大の彫刻を送ってきたかと思えば、何に使うともわからな
い儀式道具を説明もなしに送りつけてきたこともあった。
 こんな贈り物はもう要らないと伝えられたらどんなによかったことだろう。ついには部屋を一つ占
領するに至った名物の数々を思うたびに、私はため息をこらえ切れなくなる。
 困ったことに、弟には私から連絡を取る手段がないのだ。奴は何故か携帯を持ちたがらないし、
頻繁に移動を繰り返している。お陰で詳細な現在地がつかめない。こうして名物を送ってくるのだか
ら生きていることだけは確かなのだが、なんとも歯がゆい話だった。
 どれだけ要らないと思っていても意味が無い。せめて説明だけは加えてくれと願ってみても伝わら
ない。伝えられない。
 最近では中身も確認しないで部屋に仕舞うことも多くなっていた。よっぽど捨ててしまおうかとも
思っている。
邪魔で邪魔で仕方が無いのだ。使い道もない無用な物どものせいで生活空間が圧迫されているなんて
馬鹿馬鹿しすぎる。
 とかく言いながら、今回の贈り物を私は期待しながら待っていた。珍しく、前もって手紙が送られ
てきていたのだ。誕生日おめでとう。そんな簡素なバースデイメッセージに添えて、プレゼントを送
るとの追記がしてあった。遠く見知らぬ土地にありながらも届けてくれた温かな祝福に、私の気持ち
はとろんと緩んでしまっていた。
 そんなわけで私は、多少なりとも期待に胸踊らせながら包装紙を破いた。中身を確認する。 出て
きたのはガラスのビンだった。中になにかがどす黒いもの詰め込まれている。
 なんだろう。不思議に思いしばらくビンをいろんな角度から見つめてみた。どす黒い瓶の中身は蛍
光灯の光を通さない。なにやら禍々しさをも内包したその黒さは、宇宙のそれというよりは退廃した
廃屋に沈む闇に似ていた。どろりとした粘着性を持っているのも興味深い。
 本当になんだろう。しばらくしてからピンと閃いた。
 手紙には、大好物を送りますと書いてあったのだ。

つづく

289:この名無しがすごい!
11/05/20 13:00:00.90 9t4NiAWJ
 卓越ながら私の趣味は酒である。呑兵衛、というわけではないが、様々な種類の酒をゆっくりとち
びちび愉しむのは大好きだった。このことは周知の事実である。思い返せば、成人してからというも
の、友人家族から頂いたプレゼントはいつも酒絡みのものだった。
 そうとなれば。自ずと瓶の中身は限られてくる。どうやら液体ではないようなので、酒そのもので
はないみたいだが。
 私は意を決して瓶の蓋を開けてみた。匂いを嗅いで、予想が当たったことを確信する。間違いない。
これは酒盗の一種だ。
 俄然興味が湧いてきた。この酒盗はどんな味なんだろう。肴としてどれほど酒を引き立ててくれる
のだろう。一度火のついた好奇心は留まるところを知らず、私はほとんど無意識のうちに流しの下に
隠した日本酒を持ち出してきていた。
 外国のつまみに日本の酒とはいかにも不釣合だが、生憎といまは手持ちがこれしかない。しっくり
こないが、まあ仕方がない。諦めるしかない。そんなことよりもなのだ。いまは目の前にある酒盗の
味を確かめてみなければならない。
 私は手にした箸を瓶詰めの中に突き刺してみた。海産物の肝だとは思うのだが、原材料がよくわか
らない何かを口に運ぶ。舌に乗せ、歯で噛み切り、五味で味わい尽くし、鼻腔の奥まで風味を広げて、
じっくりと堪能してからようやく喉に運ぶ。
 私は眼を閉じていた。そのまま固まって、口腔を通り抜けた酒盗の余韻に浸っていた。
 そして一言、
「まずい」
 立ち上がると、全速力で流しに急いだ。水をガブガブ飲んで、口に残ったおぞましい味覚を洗い流す。
 とんでもない代物だった。一瞬意識が吹っ飛びかけた。しばらく休んで息を整えてから、持ち出した
日本酒をすごすごと元の場所に戻す。蓋を閉めた殺人的な何かを封じていた瓶は、もう二度と開けない
よう心に決めた。
 破り捨てた包装紙を片付けて、部屋の中に何事もなかったかのような慎ましさが戻ってくると途端に
脱力感が襲ってきた。消耗した頭でふと考えてみる。秘境のグルメライターなんぞを名乗っているがた
めに、我が弟は常軌を逸した味覚を身につけてしまったのではないだろうか。
「ゲテモノ食い、か」
 今更になって弟が遠くに行ってしまったことを実感した。

「鉛筆大進化」

290:この名無しがすごい!
11/05/21 11:32:59.62 3otfqBx/
「鉛筆大進化」

ことの始まりは至極単純だった
鉛筆工場に勤務するヤマダ電介さん63歳があるひらめきをしたのだ
今、オレが作っている鉛筆をもっと便利な物にならないかと
そうだ、どうせだったらこの鉛筆一つで電話できたりメール出来たり、写真が送れたら
考えるだけで胸がトキメク63歳
迷ってる暇はないとヤマダさんはその日から研究に勤しんだ
失敗をしてはやり直し、やり直しては失敗し、ヤマダさんの研究のために会社が傾きかけ始めた
それでもヤマダさんは研究を続け、研究開始から1年後ついに完成した
究極の鉛筆「YAMADA」が
ヤマダさんは研究結果を知ってもらうために近くにいたバイトのサトウ御飯さん23歳スリーサイズ内緒を捕まえた
「やーサトウさん。私の作った鉛筆を見てくれんかね」
「あーヤマダさん。ついに完成したんですか、どれ見て差し上げましょう」
ヤマダさんはサトウさんに鉛筆を渡した
サトウさんは鉛筆を丹念に見たり、紙に丸やら三角、四角を描いた
「これ普通の鉛筆ですよね?」
「ふ、ふふふふふふ!その鉛筆の隠された機能を見つけられないとは所詮女よ!」
「はいはい。いちいち大声ださなくていいですから、その隠された機能を見せてください」
「うむ」
ヤマダさんは鉛筆を返してもらうと、鉛筆の芯に向かって話しかけた
「あーもしもし、ヤマダだ。そうだいつもの定食を私の作業場へ持ってきてくれ」
ヤマダさんは言い終わると鉛筆を軽く振った
「まずは電話機能だよ電話。鉛筆で通話が出来るのだよ!」
続いてヤマダさんはさっきサトウさんが描いたらくがきの上で鉛筆を転がす
「今の行動が分かるかね?今のはメール機能だよ、メール。君のPCにメールとして送られているから後で見るといい」
さらに鉛筆のおしりをサトウさんに向けた
「これは写真機能だよ。取り終わったら紙の上に芯を向けると自動で画像を写しだすのだ」
ヤマダさんは胸を張った
「それって携帯で事足りません?」
ヤマダさんはその日のうちに辞表を提出し会社を辞めていった
己の研究の無意味さを知ったのだった

「A定食の男」

291:この名無しがすごい!
11/05/21 22:15:18.24 uRIzPqOl
「A定食の男」

 ここはうちの大学の食堂。バイトを初めてしばらく、ようやく慣れてきた気
がする。
「あれが、最近話題のA定食の男なんだ」
 先輩が指さす方を見ると、なにやらのんきな感じの青年がやってくるところ
だった。見ているうちに、その男はカウンターにやってきて、食券を置いた。
「B定食一つ。ご飯大盛りで頼むわ」
 それを受け取って、おばちゃんに注文を伝える。ついでに先輩に小声で言った。
「違ったじゃないすか」
「いや、そうじゃないんだ。すぐにわかる」
 そう言っているうちに、その男は食べ終わったようだ。食器を積み重ねて、トレイ
を運んでくる。カウンターの片隅、食器回収の棚にそれを置くと、中に向かって声を
かけるのだった。
「ご馳走さん。ええ定食やったで。ほな」
 先輩は、こちらにウインクして、にやっと笑った。
「な」
「しょうもないっすね。でも、何かいいっす」
「まあな」


「クラゲにくらくら」

292:この名無しがすごい!
11/05/24 19:51:07.76 ykSaeZIw
 その小部屋に入ると、種々様々なクラゲが不健康な色彩で点灯していた。
 柔らかく蠕動する体をゆらゆらと蠢かせる彼らは、名称と簡易な説明の貼
り付けられた水槽の中でたゆたっている。若々しい女性の声で、キレー、と
か、キモチワルーとか、個性の少ない甲高い声が聞こえる。彼女達はどうや
ら、友人や恋人と一緒にこの水族館に来ているらしい。私は一人だ。寂しい。
 その寂しさを共有してもらおうと、私は再びクラゲに目を向けた。屈み込
んで、顔が水槽に触れるか触れないか。そのくらいの距離で覗き込む。ゆら
ん、ゆらん、と揺れて、狭い空間を泳ぐそのクラゲは、電気的な点滅を繰り
返していた。
 そのクラゲに、別のクラゲが寄ってきた。寄り添うように、癒し合うよう
に互いに触れながら漂い、水槽の底に沈んでいく。沈みきった後も、彼らは
寄り添っていた。ヘヘヘ、と僕の口から声が漏れた。一人だ。寂しい。
 キャーと声が聞こえた。ヤダキレイ、クラゲッテキレイナンダネ。クラゲ
は仲良く手を取り合っている。クラゲですら一人じゃない。一人は私だけ。
えへへへ、と私の口から声が漏れた。限界、寂しい、一人はイヤ。
 私は座り込んだ。誰かがこちらを見た。悲鳴が聞こえた。クラクラする。
顔も体も、下半身もべちゃべちゃに濡れているような気がする。頭がくらく
らする。誰かが腕を掴んだ。私の視界から、クラゲが遠のいていった。


次は「水族館で号泣」


293:この名無しがすごい!
11/05/24 21:35:05.51 V8EfKA7h
水族館に来るのなんて何年ぶりだろう、と思う。
最近仕事がうまく行っていない。この間もまた上司に怒鳴られた。
自分の悪いところは分かっている。しかし、分かっていても治らない物は治らないのだ。
無気力のまま、人の波につられて気がつけばイルカショーまで来ていた。
最初はなんの変哲もないイルカショーだった。しかし、最近は水族館も競争化が激しいのか、イルカ達は次第に見たこともない技に挑戦しだしていた。
見たこともない技。思いつきもしなかったような技。次第に激しさを増すそのショーに、いつしかのめり込んでいた。
気がつけば、自分はショーに夢中になっていた。そしてそれに気づいた時、頬を涙が伝った。自分にもこのイルカ達のように他人が出来なくても出来ることがきっとある筈だ。また明日から頑張ろう。
とても静かに、だが激しく、イルカショーがおわろうとも、いつまでも泣いていた。
次は「水族館でバイト

294:この名無しがすごい!
11/05/24 22:01:41.04 IZEWQwn8
「水族館でバイト」

時には一人で出掛けたくなることがある
仕事に行き詰まりを感じたとき
家族関係がうまくいかないとき
恋人とケンカしたとき
理由は人それぞれだ
私はこれといった理由があるわけでもなしに家を出た
財布と携帯だけを手にしてだ
とりあえず駅に向かい、切符を買い電車に乗る
ここはあえて非日常感を出すためにスイカなど電子マネーは使わない
改札を通りそのままホームへと向かう
偶然来た電車に乗り、空いてる座席へ座りしばらくすると電車が動き出した
行き先も確認せずに乗ってしまった電車
上りと下りしかない駅なので運に任せて乗ってしまってもだいたいの行き先の見当は付く
しかし、ここはあえて心を無にしそっと車内を見回す
時間は昼過ぎ、客はほとんどいない、貸し切り車両といってもいいほどの乗車率
私はそっと向かい席の窓の外を見た
流れていく車窓を楽しんだ
いつのまにか眠ってしまったのだろうか、終点に到着していた
私は急いで電車から降りた
予想はしていたけど予想通りの場所だった
過去に何度か来たことがある駅
駅を出て、真っ直ぐに伸びる道を道なりに歩いて行けば海に着く
海までの途中にあるのは寂れた商店街だけ
あとは民家と駐車場と空き地
私はそんな海まで伸びる道をゆっくりゆっくりと歩く、嫌なことを忘れるために
海に到着した、浜辺には降りずにそのまま海沿いの道を歩く
先に水族館が見えてきた
幼い頃に両親に連れられて来た記憶がある場所
私の足は自然とその水族館に向かっていた
チケットを買い水族館へ
記憶通りの水族館、幼い頃から何一つ変わっていなかった
壁に一枚の貼り紙があった
「バイト募集中!」
水族館でバイトが私の胸に去来するものがあった
そのまま私は近くの館員にバイトしたいと申し出た
私は会社つとめということを忘れバイトをすることにした

「こんにちは夏空」

295:この名無しがすごい!
11/05/30 17:03:03.09 AOTErEXa
「こんにちは夏空」

「はっぴばーすでー、梅ー雨ー(つーゆー)」
 僕の誕生日には、毎回このダジャレを聞かされてきた。覚えているだけで、一六回は
ある。もちろん、犯人は親父である。ギャグはまさに親父ギャグレベル。
 僕の誕生日は、六月三〇日。まさに梅雨のまっただ中なのだ。生まれてこの方、晴れ
た日に祝って貰った記憶がない。朝から雨に打たれて、傘をさしても足元が濡れる中で
家に帰って、それからのお誕生日なのだった。毎年のこととは言え、ひどく湿っぽい話
だ。あまり友達がいなかったためでもあるが。
 そして今年、僕は大学一年生。大学の位置は、何と南西諸島のど真ん中だ。南の島。
戦争の爪痕。基地問題。色々なことが渦巻くところだが、そういうのとは関係なく、
何とか入れるところ、ということで選んだ学校だった。
 入ってみると、町は何だか居心地が悪かった。どこか日本とは違う景色。どこか
変わった食事。人々も、少し違い顔かたちで、会話には困らないのに、聞き取れない
言葉があちこちから聞こえる。
 大学も、だだっ広くて、どこに何があるかもわからない。都会からは遠くて、しか
もバスは予定時刻がないと来ている。移動も大変だ。
 しかも、梅雨が早い。五月半ばには、すでに梅雨だ。一体どうなっているんだ?
 雨の中、何となくだるい体を引きずるように、教室に向かう。一般教養科目なんて、
聞き流すしかない。気がついたら、眠っていたらしい。
 目が覚めると、隣に見たことのない女の子がいた。小柄で、眉が濃くて、肌の色が
浅黒い。まん丸い目がくるくる光っている。
「君、よく寝たみたいね」
「あ、ああ、もう一限終わったんだ?」
「んー違うさね。二限が終わったのよ。君、前の時間から眠りっぱなしだったの。疲れ
てるの? 顔色も悪いみたいね」
 何となく、こんな風に他人と話したのは久しぶりだった。彼女は、全く別の学部の一年
生、地元出身だそうだ。あんまりよく寝ていた僕に、興味を持ったそうだ。
 お昼だったので、二人で学食に行った。彼女の声は明るくて、言葉にはなまりがあった
けれど、朴訥な感じが耳に心地よかった。僕は色々話して、気がついたら、沢山の愚痴を
こぼしていた。何だか違和感があること、色々慣れないこと、それに雨は嫌いだ、ということ。
「もう梅雨が始まるなんて、信じられないよ」
 いつの間にか、例の「はっぴバースデー梅雨」のことまで話していた。
 彼女は不思議そうに、面白そうに、時にはおかしそうに話を聞いていたが、この下りに
来ると、けらけら笑い出したのだ。彼女は、しばらく笑って、それから僕に言った。
「ラッキーよ、君。梅雨は、もうすぐ開けるわよ、ここじゃ」
 ああ、そうか。全然思ってもいなかった。早く始まるなら、早く終わるのか。
 僕は多分、間の抜けた顔をしたのだろう。彼女は、また笑った。それから彼女は、
まじめな顔で教えてくれた。
「来週くらいには、梅雨明け。そしたら、本当に真っ青な、底が抜けたみたいな夏空
になるわ。今年の誕生日は、絶対に晴れるわよ」
 それから、ちょっと頬を赤らめて言ったのだ。
「よかったら、その時、私にお祝いさせてくれない?」
 その直後に僕が見た笑顔は、僕の知ってる一番の夏空を思わせた。そして、その約束
の日、彼女の言う通りの夏空を、僕たちは一緒に見ることが出来た。
 この土地が、好きになれそうな気がした。


「鰹節コンクール」

296:この名無しがすごい!
11/06/02 20:55:12.33 EQeRFXx7
ハンバねえ

297:この名無しがすごい!
11/06/06 23:10:29.18 jHhMQub9
「鰹節コンクール」

「さあ、いよいよ『鰹節コンクール』も最終戦となりました。実況は私、多々木で
お送りします。楽しみですね。解説の磯野さん」
「ええ、予選参加が三百,その中から選りすぐりの十本の鰹の中から、いよいよ最高
の一本が選ばれるのですからね」
「大変なものですね。それで、最終戦は、どのような形で?」
「ええ、ここまでは専門家や料理人の判定だったのですが、最後は出来るだけ多くの人
に決めて貰おうというのが目的で、名付けて『飲み倒れ勝負』です」
「すると、早くなくなったら勝ちと?」
「ええ。それぞれのブースで大鍋一杯のみそ汁を作りまして、紙コップに少しずつ注ぎ、
この会場のお客様方に飲み干すまで振る舞う、ということですね」
「しかし、それでは調理次第で味が変わるのでは?」
「その点は大丈夫。味噌も具も大会から支給されるものですし、調理は大会側の係が立ち
会います。出汁がすべての味を決める、ということですね」
「なるほど、あ、いよいよ始まりました。お客さんたちが一斉に動き始めました」
「そろそろ変化が見られる頃合いですがね……ほら、流れが変わってきましたよ」
「ああ、どうやら、お客が集まるブースがはっきりしてきましたか。あれは……綾重水産
ですか」
「はい、ダークホースですね。でも、あの調子では、勝負はすぐ、おや、どうしたんだろう?」
「今、綾重のブースから、女性が一人、何か叫びながら飛び出し、あいや、さらに何人かが飛び
出して女性を取り押さえます。何でしょう? 磯野さん、内紛でしょうか?」
「わかりませんね。ああ、大会運営に連絡が行ったようです。どうしたんでしょうね。おや、大会
の中断が告げられました」
「何か不正でもあったのかな?」
「ああ、今報告がありました。綾重失格で、やり直しです。さっきの女性の内部告白で、綾重はこれ
を使ったのだそうなんです。磯野さん、どういうことなんでしょう?」
「ああ、なるほど、一般客が相手と言うことで、うまい味より馴染んだ味ごまかそうとしたわけだ」
 そこにはこう書いてあった。「○風味の本○し」


「あっさりの酒蒸し」

298:この名無しがすごい!
11/06/14 23:33:48.14 7utSMgnF
ちょっとした小話でございますがね
日本橋界隈で貧乏人相手に築地じゃ誰も買わねえような、 魚のアラ
それも鯛や平目なんてぇ素性が宜しいのでなく猫も食わねぇような
下魚のアラを使って酒蒸しを作る、魚助なんて屋台があったんでさ。
ちょっと考えれば、酒蒸しなんて詰まらないもん流行らねぇのは解りそうなもんでしょう? 
あたしらもね、そのうち潰れて消えるだろうと高ぁくくって眺めてたんですよ

そしたら魚助の野郎、潰れるどころか日に日に客を増やして行きやがるんでさ。
しかも、客ときたら屋台を出ると吉原で太夫と遊んだみてぇに幸せそうに帰って行きやがるんでね
こりゃあ何かおかしい、俺が確かめてきてやると、つれが言い出したんですよ。
そりゃあたしもね、気にはなってましたから、おう行って来い、骨は拾ってやるぜ。なんて言って離れたところで見物してたわけです。
しばらくして、ふらふら~とつれが出てきまして。黙ってるとニヤニヤと気色が悪いし、しかたがねぇから聞いたんで。
なんでぇだらしねえ、そんなに美味かったのか? 
そしたらつれの野郎、こう言いやがった。全く貧乏人ってのは情けねえもんですよ。
「ありゃあいい店だ、安いのに湯気であっさり酔える」だと。 
   
お題がむずかしいよ!

「ぱんつが消えた!」


299:この名無しがすごい!
11/06/18 15:32:21.84 icTrgv+A
「ぱんつが消えた!」

 それは私が銭湯に行った時のことだ。風呂に入り、身体を乾かしていると、
ふと、私はロッカーの鍵を掛け忘れていたことに気がついた。
「やだ……もしかして……」
 私の懸念は当たっていた。ロッカーは開け放たれ、中に入れてあった大切な
ものが消えていた。財布は無事だった。服も無事だった。大切なもの。それは
パンツだった。
「ど、どうしよう……」私は困った。文明化された世界で、パンツ無しで生きていく
ということは、私には難しいことだった。
 しかし、私は恥ずかしさから、パンツを無くなってしまったことを誰かに言いだ
すこともできず、途方に暮れていた。私はパンツ無しで着替えを終え、十五分
ほど椅子に座っていた。誰かに気付かれるのではないかと、気が気ではな
かったが、それが新鮮な刺激となり、股間が熱く火照っていたのも確かだった。
 私は、覚悟を決めると、銭湯を後にした。どうせバレることはない。パンツが
無い程度でうろたえるなんて、自意識過剰だと思うしかなかった。
 しかし、私の悪い予感は、的中してしまうことになる。
「ウホッ……いいマラしてるじゃないの……」阿部さんが近づいてきた。イチモツを
そそり立たせ、先走りに濡れた私は、彼に抗う術を持たなかった。

「ありきたりなトリック」

300:この名無しがすごい!
11/06/19 02:19:39.58 954vrK62
>>299
ウホッ……いい叙述トリック

301:この名無しがすごい!
11/06/19 12:55:47.69 KhHvOQvZ
「ありきたりなトリック」

「なるほど、コンクリートの床に全身を強打、か」
「ま、見たところ、この階段のどこかで足を踏み外して墜落死。事故でいいんじゃないすか?」
「馬鹿野郎、サスペンスだったら、これは必ず転落死に見せかけた殺人だろうが。ありきたりだ
ぞ。どこかにそのためのトリックがあるはずだ」
「はいはい。じゃあ、この様子だと、問題は上の方かな? あ、何だろう……」
「お、何かあったのか? ああ? これは……アリだな」
「ええ。随分集まってますねえ。ああ、他の虫も来てたみたいですよ。ほら、これ」
「ああ。これはチョウバエにショウジョウバエ、それに、チャバネゴキブリの幼虫も張り付いて
いるな。多分蜂蜜か何かだろう。これは鑑識に回せ」
「で、先輩。あれは?」
「うん。このガイシャ、かなりの潔癖性だったようじゃないか」
「ええ。そうらしいですね。それが?」
「つまりな、あれは犯人があそこにわざとこぼしたんだ。虫も多少は貼り付けたん
だろう。それにアリが集まったところで、ガイシャを興奮させた上で、ここに誘導
する。で、あれを見る」
「ああ、なーる……」
「当然踏むのを嫌がって、踏み外したわけだな」
「なるほどね。アリが来たりでありきたりですか」
「いや、これは違うぞ。第一、成功率低すぎるだろ、こんなトリック」
「サスペンスなんて、そんなものなんじゃないんですか」

「パンダのパンだった」

あと、>>296>>300
お前ら、感想だったら感想スレへ池。
スレリンク(bun板)l50

302:この名無しがすごい!
11/06/30 12:55:41.16 ImOZUtT0
「パンダのパンだった」

「くだらない」
俺は辰弘の話を聞き終えて大した間をおかずにそう罵った。
「そうかなぁ」
同意を得られなかったことがさも意外だったようで、辰弘はつまらなさそうに俺を見る。
「当たり前だ。蒸しパンを動物の形にしてチョコで色付けてパンダパンとか、お前の思考回路は小学生か」
俺は辰弘の新商品のアイデアを全否定し鉛筆を机に転がす。
「有りそうで無いと思うんだけどなぁ」
「はあ? 在り来りどころか、誰でも思いつくありふれたアイデアな上に、捻りもない。第一うちの系統から外れすぎだ。そういうのは安価で大衆的な、オッサンが家族とやってる様な町のパン屋でやってくれ」
俺は辰弘に指を突き付けながら言いきった。
辰弘と二人で店を開いて五年になるが、パティシエとしての彼を頼りにしていたし、ここまで店を続けてこれたのも二人でアイデアを出し合って努力してきたからだ。
しかし今回のコイツは最低だ。
変な薬でもキメてきたんじゃないかと疑ってしまう。
「ぶっちゃけて言うと……」
「なんだよ?」
「僕はそっちの路線の方がやりたいんだ」
おいおい、五年も働いてきて今そのカミングアウトをされて俺にどうしろと?
「この店を町のパン屋におとしめると?」
「そうじゃなくて、安価でありふれた商品を独自に展開して層を広げるのも有りじゃないかと思うんだ。いつまでもスイーツスイーツって持て囃されない気がする。保険とは言えないけど、一本槍で似通った味や見栄えでは行き詰まるだけじゃないかな」
「……それ、今考えたろ?」
「あ、ばれた?」
理由をこじつけるまでやりたいならば彼を信じてみてもいいかもしれない。辰弘がこだわって推したものは大ヒットはないが根強い支持を得てきた。
「仕方ない。一ヶ月だけやってみよう。ただし、改良は必要だぞ。それと本筋の新商品もちゃんと考えて来いよ」
俺のゴーサインに辰弘は満面の笑みで頷いた。

それから一年。
パンダパンは地味に売れ、サイズの小さい子パンダ、黒糖を加えた黒い生地のレッサーパンダ、期間限定の苺味のピンクパンダ、色合いを逆転させた逆パンダまで派生した。

「人生ってホント気まぐれだよね」


303:この名無しがすごい!
11/06/30 17:05:12.20 glgl/nqs
【源氏物語】光源氏と紫の上(8才)との初夜を描いた「幻の第55巻」が発見される(画像有)
スレリンク(mitemite板)


304:この名無しがすごい!
11/07/01 12:18:28.91 /jQpI04S
娘が三島由紀夫を読んでいるのだが

URLリンク(twitpic.com)


305:この名無しがすごい!
11/07/02 01:38:28.24 9rMwTz9D
「人生ってホント気まぐれだよね」

 男はひとり、画面を見つめながらに考えていた
 客足少なき見せ物小屋のことである
 見せ物小屋は、常人には理解もできぬ頭を持ち、その頭からさらに想像も絶するような奇特な体躯を持ち得た暗愚を連ねているとの触れ込みであった
 小屋に入ればなるほど、客席の前を横切っていくのは思考の枠を超えた奇妙奇天烈摩訶不思議、奇想天外な生物もいた
 生物の枠すらも超えたそれらは悠々とその定めることも叶わぬ体躯で客席を魅了してゆく
 だが、真にそのような、この小屋に相応しい奇っ怪な輩がごく僅かしかいなかったと言うだけ
 たいていがネズミの着ぐるみや、私は悪魔ですと表記された看板片手にとぼとぼ歩みを進める老人、ユニコーンの失敗作みたくあごの下から作り物の角をぶら下げたロバのように客の期待を大きく裏切るものばかり
 それだけが、しかしそのことこそが客足を疎遠にさせてしまっているのではなかろうかと
 そう彼は考えた
 ラヴクラフトをしても目に出来ぬような奇怪をはないものだろうか
 そう思っていたのは彼だけではなかったらしい
「フザケンナー!」「カネカエセッ」「マッタクドレモコレモガムダノカタマリダナ」
 さすがにそれは言い過ぎだろうと彼は思ったが、その言葉を否定することもなかった
「人生ってホント気まぐれだよね」
 後方の席で誰かが呟いた
 それはいったい何の人生に対しての言葉なのだろうか
 この見せ物小屋に対しての言葉なのだろうか
 それとも呟いた誰か自身のことを指していたのだろうか
 そうでない別の何かにしてもである
 男はポップコーンをほおばりながら思った
 人生を気まぐれと感じるのならば──それは人生が気まぐれなどではない。人生の主人公こそが気まぐれなのだと
 その人生が如何に面白く回るかなんてものは、それこそ主人公の立ち回り一つなのだと
 だからこそ、己の人生が気まぐれだなんて感じるのならば、それは大きなはき違えなのだと──
 ツッコみたい気持ちを抑え、男は空になったポップコーンの容器を片手に見せ物小屋を出て行った

「障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式」

306:この名無しがすごい!
11/07/08 16:51:03.62 Oz4KuPdc
「障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式」


ゴミ捨て場付近に何の処置なく投棄された旧式のエアコンが、夜闇の中その電源を入れた。
もちろん電気がこの場に存在するはずもないし、長きに渡って雨ざらしになっていたこの家電が何の問題もなく通電するはずはない。
ただ普通でない、それだけの話だ。
エアコンはその噴射口をむやみに開閉させて己の仲間を探す。誰かいないのか。
私はここに。
誰か―何かの声が微かにエアコンに届いた。
骨組みばかりが残る照明の残骸が、折れた軸を震わせ手を挙げた。
私はここにいるわ、エアーコンディショナー。
微かな声。身を守る外装も失われ、内部を露出したそれに、エアコンは声をかけた。
照明の類いか。
彼の記憶にはない形だった。古式めいた型と、それを裏切る内部。
外装はどうしたんだい。
骨組みに微かにこびりついている紙らしきものの粕を見ながらエアコンは問い掛ける。
障子紙よ、エアーコンディショナー。+機械式。
照明は答える。
雰囲気と実際の使い勝手を両立させた彼女は、個人経営の飲食店のために用意され、店と共に終わった。
雨は嫌ね。彼女は言う。
エアコンは照明に向かい合った。
もう一雨来る前に、さっさとここから出ないか。
そうね。
二人は頷き、そっと立ち上がると、人気のない道をゆっくりと跳ねて行った。



「犬がいぬいぬ犬が犬」

307:この名無しがすごい!
11/07/10 12:38:33.32 s+Q7q+DE
「犬がいぬいぬ犬が犬」

 ようこは小学生に入ったお祝いに、と一匹の子犬をもらいました。
犬なんかいらない。犬の世話なんか面倒くさいし、どうせなら小さくてかわいいハムスターがいい。
ようこの頭のなかは不満でいっぱいでしたが、わざわざ秋田からきてくれたおじいちゃんとおばあちゃんに申し訳ないと、
子どもなりに気を遣い、笑顔でありがとうと言いました。
 夜になり、おじいちゃんとおばあちゃんが帰ってしまうと態度は一変します。
「こんな犬いらない。ハムスターと交換して」
ぶすくれた顔で犬をにらみつけ、お父さんとお母さんを困らせてしまいます。
なんとかなだめようとしますが、ようこは犬に触れようともしません。
「なあ、ようこ。名前なににしようか」
お父さんが犬を膝の上にので、指先であやします。ようこはその光景が気に入らないらしく、またぶすくれてしいました。
「……犬。そんな犬、名前なんかなくていい。ようこ、犬って呼ぶから」
ようこはそう言うと、自分の部屋へ行き、布団をかぶるとそのまま眠りました。
 目を覚ますともう朝で、お父さんとお母さんのいる部屋へいくと、やっぱり犬はそこにます。
「ようこ、あいさつは?」
「おはよう」
お母さんがいつものように朝ご飯の支度をしています。しかし、お父さんの姿が見あたりません。
お父さんは、隣の部屋で犬にえさをあげていました。ようこはそれを、じっと見ています。
ようこの視線に気づいたお父さん。お父さんは笑顔で言います。
「おはよう、ようこ」
「おはよう」
「ようこ、やっぱり名前が犬だなんてかわいそうだよ。だからお父さん、新しい名前にしたんだ」
ほら、とお父さんは犬を抱っこして、ようこに見せました。その首には、かわいらしいリボンが結ばれています。
リボンをよーく見ると、そこには「いぬいぬ」と書かれています。
「ようこも、名前よんでごらん?」
ようこはお父さんの顔を見ると、無言でお母さんがいる部屋へ戻りました。
 ようこといぬいぬの生活は、こうして始まったのでした。

「新しい靴」


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