パワプロクンポケットバトルロワイアル Part3at GSALOON
パワプロクンポケットバトルロワイアル Part3 - 暇つぶし2ch268:ゲーム好き名無しさん
09/06/28 14:01:37 y+41leY/0
やあ (´・ω・`) ようこそ
君の名をデスノートに書いたから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
死神の顔も三度までって言うしね、謝って許してくれと言っても許すつもりはない。

取り消す方法はただ一つ
↓このスレに行き
スレリンク(gamestg板)
スレリンク(gamestg板)



ケイブ厨って喧嘩弱そう
カツアゲばっかりされてて、童貞でエロアニメでオナニーしてる社会の落伍者

東方派の人はスポーツマンのイケメンで時流にうまく乗った社会のエリート



と書くことなんだ。しかも書けば書く程効果アップ
じゃあ、他の注文を聞こうか。

269: ◆7WJp/yel/Y
09/07/06 19:36:05 7g9ZkljLO
失礼、こちらに報告を忘れていました
規制中のため、仮投下スレに投下させてもらいました
誤字脱字、展開の矛盾等があれば指摘お願いします

270:ゲーム好き名無しさん
09/07/07 04:27:40 afA6C2Mw0
>>269
乙です
あと誤字発見
212
×煤で汚れているとはいえ比較的軽症な和菜がうろたえ
○煤で汚れているとはいえ比較的軽症な和那がうろたえ

271:ゲーム好き名無しさん
09/07/09 23:37:34 Z4ZivNLgO
乙です
相変わらずワクワクさせてくれますw朱里は残念だし和那はどうなるかわからないし…続きが楽しみだww

272: ◆7WJp/yel/Y
09/07/10 19:29:41 WFn895iRO
>>259
ご指摘ありがとうございます、wikiに収録する際に直させてもらいました

273:>>272
09/07/10 19:35:53 WFn895iRO
安価ミス……orz>>270さんでした

274:ああ
09/07/13 20:47:52 n+UcEVynO
御馳走様です
相変わらず上手いですね
もはや俺の楽しみです

275: ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:51:30 c+gX5HZR0
テスト

276: ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:52:11 c+gX5HZR0
書き込めた……だと……?

うし、仮投下スレを本投下するぜぃ!

277:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:53:36 c+gX5HZR0

三橋は閉じていた瞳をゆっくりと開き、瞬きを幾度かした後ソファーに下ろしていた腰を持ち上げた。
充電は九割ほど済んだ、全快ではないが十分な量である。
腕を軽く振り体に不調がないかを確かめた後、荷物をまとめていく。
荷物は鋼の支給品は言わずもがな、事務室の中で思ったよりも物を見つけることが出来た。
魔法瓶、ライター、カップ麺、ボールペン、メモ用紙、ハサミ。
他にもノートや穴あけパンチやホッチキス、乾電池などが置かれある。
カップ麺は必要ない、サイボーグは食料を必要としない。
乾電池も必要ない、三橋の規格に合わない。
持っていく必要があるとしたらライターと熱湯ぐらいだろう。
事務室に置かれていた物をしまい込んだ後、鋼の残して行った支給品をデイパックへと放り込んでいく。
ポイポイ、と迷うことなく整理していが、鋼の持っていた『それ』を見て驚愕に固まってしまう。
『それ』は物騒なんて言葉を通り越した物だった。
何故それを使わなかったのか?

この部屋にはライターもあった、使えなかったわけではないし、まさか見落としていたわけもあるまい。

……そんな疑問が浮かぶのも一瞬だけだ。
答えなんて決まっている、鋼は殺す気がなかったからだ。
もちろん、これを使えば明日香とスーツの男も巻き込むことになったという理由もあるだろう。
だが、その二人が立ち去った後、長々と話していた時に隙を見て使うことも出来た筈。
その素振りすら見せなかったことから、やはり鋼は三橋を殺す気などなかったのだ。
それは嬉しくも悲しくもない。
ただ、虚しい。
やはり、三橋にはこういう作業は向いていないのかもしれない。
だが、性格的に向いていないから、という理由で辞めることは出来ない。
それが出来たら三橋はこんな所に居はしない。
そんなことが出来るのならとうの昔に、亀田の命令に逆らってネオプロペラ団から離れている。

「……いつまでも、こうしてるわけにはいかないな」

何度目かになる台詞をつぶやき、前を見つめる。
鋼の持っていた支給品と事務室で必要と判断した物はすべて回収した。
いや、正確に言えば全てではない。
野球の硬式球、それだけは置いてきた。
先ほどの甲子園で人を殺す夢を思い出すし、何よりも幸せだった時期の象徴だ。
拳が鈍ってはいけない。
それは親友への裏切りだ。
しっかりと鬼の手を握りしめ、それを顔の前へと持っていく。
赤い、最初に見たときより幾分か赤い。
三人の血を吸ったのだから当然と言える。
そう、三橋は三人もの人間をこの手で殺したのだ。
かつての恩師を、かつてのライバルを、ユニフォームを着た名も知らぬ青年を。

「……」


278:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:54:19 c+gX5HZR0

だが、後悔しても何処にも進みはしない。
今はとにかく進まないといけない。
友のために殺人を犯したのだ、三橋の気持ちで最初からそれは変わっていない。
殺したことを後悔していても、何も変わらないのだから。
切り捨てることと拾うことが大事だ。
この場合、切り捨てるのはこの島に居る人間の命、拾うのは亀田光男との友情。
そう決めたのだ。
重い腰を起こして、様々な感情を秘めながら水族館を出る。

「……あのー、三橋一郎さん、ですか?」

その瞬間、関西方面特有の訛りを持った声をかけられた。
慌てて身構えながら振り返ると、そこに居たのは一人の少女だった。
少女、とは言ったものの一見すると少女とは思えない。
身長はプロスポーツ選手であった三橋よりもさらに高い。
目測なため確かなことは言えないが、少なくとも185センチは軽く超えているだろう。
声の高さと、童顔と、特注と思われる制服のお陰でなんとか高校生だと分かる。
いや、先に挙げた三つを考えれば普通は簡単に高校生だと分かるだろう。
だから三橋が少女を高校生だと思えなかったのは、目に見える部分以外による要素が大きい。
雰囲気、そう雰囲気だ。
普通の女子高生とは違う剣呑とした雰囲気を持っている。
ただ立っているだけなのに隙もない、笑ってはいるもののこちらの様子を静かに伺っている。
これは喧嘩が強いとかそういうレベルではない。
武道をやっている、それも素手でやる形のものだろう。
人を倒すことだけを重点を置いて、飽きもせずに毎日毎日と体を苛め続ける。
そんな連中に素手と素手の対決で勝てるとは思えない。
しかし、丸っきり不利とは言えない。
なにせこちらには一撃必殺の鬼の手がある。
鋼の鍛えられた腹筋はもちろん、木の幹すら貫けたのだ。
鍛えているとはいえ目の前に居るのは女子高校生。
当たれば殺せる。
そのアドバンテージがあれば殺せる。


279:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:55:03 c+gX5HZR0

「えーっと、三橋 一郎さん……でええんですよね?」
「……ああ、俺は三橋だ……君は?」
「ああ、うちは大江 和那言います。さっきそこで進藤ちゃんと曽根村さんに会いました」
「!?」

その言葉とともに後ろへと素早く下がることで距離を取る。
明日香とスーツの男に会ったと言うことは三橋が殺し合いに乗っているということを知っているはずだ。
だと言うのに話しかけてきたと言うことは、少女も三橋と同じく殺し合いに乗っているということか?
殺し合いに乗っているのなら協力する選択肢も出来る。

「あ、先に言っときますけどうちは殺し合いなんてしませんよ」

だが、三橋の頭によぎった考えは否定される。
ならば何故三橋に話しかける。
これ以上犠牲を増やさないために三橋を殺すのならば話しかけたりはしないはず。
と言うことは、鋼と同じ、ということか。
そう言えば、大江和那と言う名前は先ほど電話で話した浜野朱里の言っていた名前だ。
それでいて殺し合いに乗っていない。
期せずして三橋は朱里に電話越しに放った言葉を実行することになったようだ。

「説得でもするつもりかい?」
「うーん……それはうちの役割やないと思います」
「……?」
「分かってるんでしょ? 進藤ちゃんは三橋さんを止めようとしてる、ってことぐらい」
「ッ!」

図星を衝かれたような気分だ。
そうだ、明日香は三橋を止めに来る。
三橋一郎の知る進藤明日香はそういう人間だ。
だが、そうだと言って簡単に気持ちを変える気はない。


280:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:56:20 c+gX5HZR0

「そうか、それは有難いな」
「……」
「探す手間が省ける」

三橋は亀田にやれと言われた仕事を破棄することはできない。
それは身体を支配する回路を埋め込まれているからではない。
何度も言うことになってしまったが、三橋自身がそれをしたくないからだ。
亀田の願いは叶えてあげたいし、亀田に喜んでほしいし褒美も貰いたい。
今までそうすることによって亀田に付き合ってきたのだ。

「多分、彼がアンタぐらいの年になったらそんな感じなんやろうな」
「なに?」
「ちょっと三橋さんが知り合いと似とってな。嘘をつくのがヘタクソなところとか」
「……」
「ドヘタクソや。気が良すぎて人を不幸にする嘘をつくことが出来ん人間や。
 ……びっくりやで、うちの知り合いとよう似とるで」

目の前の大江という少女の言葉が終ると同時に飛びかかる。
何となく不快だった。
目の前の少女の見透かしたような眼が三橋の癇に障るのだ。
目の前の少女のまるで三橋が善人で、無理をしていると言わんばかりの言葉に苛立ったのだ。
そうだ、鋼もそんな眼をして、そんな言葉を放っていた。
憐れむような、懐かしがるような、まっすぐな眼を。
諭すような、引き留めるような、綺麗な言葉を。
そんな眼は、そんな言葉は今の三橋にとって不快な物でしかない。

「おっと……」

三橋の突進を少女は紙一重で、しかし余裕をもって避ける。
やはり格闘技、それも動き方からして空手に近い物をやっているようだ。
空手、そう高校時代のクラスメートである元空手部の村上海士や他の空手部員の動きと似ている。
何度も空手部に乗りこんだ記憶の中の部員が目の前の少女のように動いていた。
ただ、今の動きにそれだけでは説明のつかない妙な感じを覚えた。
どう妙なのだ、と聞かれるとうまく答えられないが、とにかく妙だった。
とは言え、戦いの最中に思考に大部分を取られるのは危険。
三橋は相手を観察しながら距離を取り直す。


281:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:57:02 c+gX5HZR0

「なっ……!?」
「悪いけど、少し眠ってもらうで」

だが、距離を取ろうとする三橋よりも早く、少女は三橋の眼前に『ノーモーション』で迫ってきた。
訳が分からない、とはこういうことを言うのだろう。
足を動かした様子はなかった。
腕を振った様子はなかった。
肩が動いた様子はなかった。
しかし、少女の身体によって風が切られていく感触は覚えた。
目の前の少女は身体を動かさずに、体を動かしたのだ。
唖然としているところを、素早く突き出された少女の掌底が三橋の顎を捉える。
顎に押されるような感触が続き、そして突き出されるような衝撃が頭に長く響いていく。
ぐらぐらと、世界が横に横にとずれていくような感覚を初めて覚えた。

「こいつは……!?」
「かぁ……!」

接近戦という鬼の手を突き刺すチャンスも忘れて転がるように逃げる。
少女は意外そうな、それでいて複雑な顔をして三橋を眺めている。

「今の感触……サイボーグ?!」

少女の驚愕に歪んだ顔と何処か悲痛な声に対して、三橋は言葉を返さない。
正確に言うならば言葉を返す余裕がない。
立っていることすら危うい状況、気を失わなかったのが最大の幸運。
この状況はマズイ。
先ほどの動きを見るに正面からでは少女が迫ってくるのを悟るのは難しい。

「……くそっ!」

ならばここは引くしかない。
戦うにしても満足に動けない今の状況は危険だ。
殺される可能性はまずないとは言え、気絶すれば鬼の手を奪われる可能性は高い。
鋼から奪った支給品ならば、間違いなく殺すことができる。
きちんと発動して命中すれば人を十回殺しても余り得るほどの強力な武器なのだから。
ただ、回数制限とライターを使うことを抜いても準備に時間がかかること、そして場所を選ぶこと。
この三つの条件から今は使うことが出来ない。
故に現状は鬼の手が唯一の武器と言ってもいいだろう。

「あ、ちょい待ちや!」


282:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:57:48 c+gX5HZR0

水族館の作りは完璧ではないがある程度は把握している。
水族館と言う割には、ここはあまり入り組んだ場所ではない。
出入り口付近の一階ではなく、地下のトンネルや入り組んだ鑑賞水槽の傍を逃げ回るのが得策だろう。
幸いにも、この水族館は出入り口が複数ある施設だ。
逃げ切れる可能性が高い。
その利を生かして何とか逃げ回る、一瞬で考えれる策なんてそれぐらいのものだろう。
だが、三橋は逃げ切れるという確信に近い思いがあった。
三橋の体は走力パーツで強化してある、今の三橋の足は特別速くもないが遅くもない。
だが、そのスピードの基準は下手をすればプロをも凌ぐ超人揃いの裏野球大会が基準。
地の利+単純なスピード差、逃げることに重点を置けばほぼ安泰に近い確率で逃げ切れる。

しかし、少女は三橋のそんな計算を軽く無視し迫ってくる。

「くぅ……!」
「進藤ちゃんと約束したさかいな……とは言え、サイボーグや。悪いけどマジでいくで」

少女は三橋のスピードを簡単に上回り、正面へと立ち塞がる。
やはりおかしい。
確かに股下の長さとしなやかな身体ならばそれ相応のスピードは出るだろう。
だが、幾らなんでも速すぎる。
身体能力が優れている優れていない、鍛えている鍛えていない、とかそんなレベルではない。
何かがある、三橋が見落としている何かが。

「っ!」

だが、少女は三橋の思考に割り込むように蹴りを入れてくる。
鋭く速い、三橋は不様に階段を転げ落ちていった。
身体に鈍い痛みが広がる。
迫ってきている、何度も言うがこのスピードはあまりにも速すぎる。
目を放していたのはわずかな間、階段を駆け降りる音も聞こえなかった。
飛び降りた着地の音も小さい。
まるで高所から飛び降りてきたような、そんなスピードだ。

「!?」


283:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:58:32 c+gX5HZR0

不格好を承知でとにかく適当に鬼の手を振り回す。
当たりはしなかったが、向こうが距離を取るために離れてくれた。
恐らく鬼の手が非常にマズイ物だと悟ったのだろう。
劣勢に追い込まれた三橋がこの隙を逃すわけがなかった。
素早く振り返り、大急ぎで地下を駈けていく。
自分ではあの少女に勝てはない、それを三橋はハッキリと理解した。
戦略的撤退や仕切り直しなんて綺麗なものではない。
はっきりとした逃亡、恥も外聞もない行動。
三橋は体裁もなく懸命に走って行く。
目指すは別出入り口。
その瞬間、デイバックから二つの筒を取り出す。
一つは熱湯に入れ替えたペットボトル、振りまくだけで虚を突くことはできるだろう。
一つは三橋の切り札、鋼の元の支給品、恐らくこの殺し合いの中で最も強力な武器。

(あの子、早めに殺しておきたいな……)

接近戦しか出来ない三橋にとってあの少女はかなり相性が悪い相手だ。
銃器を手に入れればまた別だが、鬼の手を当てることすら出来ない現状はかなりまずい。
故に、三橋は一方の筒を静かに開いた。


   ◆   ◆   ◆


浜野 朱里は水族館に来ていた。
手に持つは六尺棒とデイパックだけ。
いつも肌身離さず持っていた武器は全て奪われた。
そう思うとひどく不安になる。
戦力の低下、という面での不安もあるだろう。
だが、姉妹たちとの繋がりであるものが奪われた、ということが何処となく空虚感を覚えた。


284:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 10:59:12 c+gX5HZR0

「……」

朱里は無言で、それでいて周囲を警戒しながら水族館の中へと入っていく。
理由は単純、先ほどの電話の主、三橋一郎を殺しに来たのだ。
参加者を減らしてくれる存在だが、紫杏を殺すようなことは断じてあってはならない。
大江和那は……保留だ。あまり考えたくない。
とにかく、紫杏と合流するにもとにかく動く必要がある。
ならば、危険要素も排除しておこうと考えたのだ。
不意打ちならば殺せる、銃を持っていない人間ならば確実に殺せる。
都合のいいことに、先ほどから音が聞こえる。
しかも複数で地を蹴る音と壁にたたきつけられる音。
間違いなく戦闘、ならばやることは一つ。
決着のついたところを横合いから思いきり殴りつける、それで終わりだ。

(下を駆ける音……一方が逃げ出して終わりか。なら、ためらう必要はないわね)

聞こえた音がした場所は階段の踊り場。
大丈夫だ、素手で行ける。
そう判断し素早く駆ける。殺すのに一分もかけない、数秒でケリをつける。

「なっ……!?」

だが、廊下の角を曲ったときに見つけた階下に想像もしなかった姿で身体を固まらせてしまう。
うすい青色を基調としたブレザー、そして190センチを軽く超える身長とそれに似合わない童顔。
その姿を朱里はよく知っている。
神条 紫杏とは別の意味で殺すことを躊躇う人物。
思えば高校時代で共に居ることが多かったかも知れない人物、大江和那だ。

「……お、おー、ようやっと見つけたで朱里」
「カズ……」

和那が少し驚いた表情を浮かべた後、手を上げてカツカツと階段を昇りながら話しかける。
戦闘のためか額から汗が流れている上、言葉にも疲れを感じさせる。
朱里はその様子にはっきりとした言葉を返せない。罪悪感に似た、らじくない感情が胸に渦巻いていく。

「走太くんと真央に聞いたで。アホなことやっとるらしいやないか」
「…………」
「誤解や、とは言わんのか?」
「……言わないわ。どうせアンタ信じないでしょ」
「信じるかもしれへんで?」
「嘘ね。アンタ、そう言うことは無駄に鋭いんだから」


285:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:00:30 c+gX5HZR0

吐き捨てる様に朱里は言葉を投げかける。
和那は相変わらず笑みを浮かべたままだ。
ひどく気分が悪い、まるでお前には私を殺せないと言われているようだ。

「退いてほしいの、カズ。ここに居る男に用があってね」
「三橋さんを殺すんか?」
「知らないのなら教えてあげるわ。その三橋って言う男は」
「殺し合いに乗ってんのやろ? そんなん知っとるで」

なら、と口を開こうとするところを和那の笑みで遮られる。
いつにも増して大江和那という女が余裕を持っている。
こんな状況だと言うのに、その余裕が朱里には不思議だった。

「朱里、うち少し考えたんや」
「……なにをよ?」
「どうにかして、殺し合い以外の方法でここから生きて帰れんかなって」
「はっ!」

その言葉に思わず笑ってしまう。
余裕ぶっている割には言葉は理想もいいところだ。
和那の言葉からは具体的な策を感じることが出来ない。
甘い、とことん甘い。

「アンタ馬鹿? いや、馬鹿だったわね。なら聞いてあげるわカズ。
 首輪はどうするの?どうやってこの島から出るの?我威亜党とか言う頭のイカレた連中はどうするの?
 少なくともこの三つは考えてるんでしょ?」
「そんなん、後で考えればええ」
「はぁ?」

あまりの返答に朱里は思わず、意味が分からない、と言った気持ちを表情に出してしまう。
この三つが解消されるのなら、朱里は喜んで殺し合いを放棄しよう。
最も、襲いかかってくる相手はその限りではないが。

「なあ、朱里。そうやないんや、そんな仕方なしに殺すとかやりたくないんや。
 うちはまだ高校生のガキンチョや。お前や紫杏や彼と一緒に笑い合うような年ごろや。
 それでええし、それだけで構わへん。
 朱里、うちは完全無欠のハッピーエンド以外お断りや。
 死ぬんは畳の上で息子やら娘やら孫やら曾孫やらに囲まれて死ぬって決めとるからな」
「……そんなの、無理に決まってるじゃない」

強く否定したいはずなのに、朱里はかすれた小さな声が漏れるように出ただけだった。
何故かはわからない。
おかしいとは思う。だが、否定することが出来ない。


286:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:01:30 c+gX5HZR0

「アンタは……私たちは、そんな平凡な日常なんて送れないのよ。
 大げさな話じゃ決してないわ。
 死ぬまで戦って、死ぬまで利用されて、死ぬ時は誰にも知られずにひっそりと、よ。
 私たちはね、生きるために死ぬまで戦うなんて馬鹿なことしか出来ない類の生き物なのよ」
「アホなこと言うなや、そんなん抗ってみなぁ分からんやないか」
「無理よ、私とアンタはいつか死んじゃうの。
 もちろん死ぬ場所はアンタの言う畳の上でじゃないわ。
 打ちっぱなしの冷たいコンクリートの上で、誰にも見届けられず惨めに死ぬの。
 ……そういうものなのよ。アンタはどうなるかは知らないけど、私は間違いなくそう死ぬわ」
「そんな、そんな悲しいこと言うなや」

つかつか、と足音を立てながら朱里の目前まで和那が迫る。
人一倍背の高い和那と人一倍背の低い朱里の差は子供と大人以上のもの。
見上げる朱里の険しい目線と見下げる和那の笑っている目がかち合う。
そして沈黙が数瞬だけ続き、再び和那が口を開いた。

「朱里が居らんなったらうちは誰にツッコめばいいんや」
「関係ないわね、何度も言うけど私たちはドライな関係のはずよ。
 アンタが思ってるような幸せな関係じゃないわ」
「朱里がどう言おうと、うちらはダチや。
 うちがボケた時は朱里が突っ込んで、朱里がボケた時はうちが突っ込む。そうやろ?」
「……アンタねぇ」
「言っとくけど、これだけは譲らんで。朱里のやってることはうちにはどうしても許容出来んかってな。
 どうしても進みたい言うんやったらうちの屍を越えて行きぃ!」

カッカッカ、と愉快気に笑いながら立塞がるように朱里の前に出る。
恐らくここをやり過ごしても死ぬまで追いかけてくるだろう。
それに、喧嘩は慣れたものだ。
思えば喧嘩と稽古の違いはあれど、会うたびに殴り合っていたのだ。
やるしかない、とため息を吐きながら身構える。

何故か六尺棒は、使う気になれなかった。
デイパックを地面へと落として和那を見据える。
最初に相対した時よりも威圧感を持っており、何処か余裕も感じさせる。
この一年弱の間で何倍も大きく成長したのだろう。
そう素直に思えると目の前の天才だ。
ふと蘇るのは、朱里と和那の通っている保険医でありジャジメントの一員でもある桧垣という男の言葉。

『貴方の代わりなら幾らでもいる』

この貴方と言うのは朱里だけを指している、決して和那のことを言っているわけではない。
熟練しているとはいえアンドロイドである朱里が、未熟ではあるとはいえ超能力者である和那を。
間違っても壊すような真似をするなと、そう言っているのだ。


287:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:02:30 c+gX5HZR0
そう考えていると、和那が迫ってくる。
身体を動かさずに、不自然な体勢で迫って来ているのは、こちらに向かって『落ちてきている』からだ。
彼女が朱里側へと落ちてきた原因となった超能力。
それは『和那本人にかかる重力の向きを変える』という能力。
単純な、それでいて強力な能力。
一山幾らのアンドロイドに過ぎない朱里とは比べ物にならない貴重な戦力だ。
だが、朱里は簡単に和那の拳を避わし当てるだけのジャブとはいえカウンターを入れた。

「くぅ……!」

この勝負、朱里は負けるとは思っていない。
勝率的に見れば六分四分、低く見積もっても精々割合が逆になるぐらいのものだろう。
何故なら、朱里には和那がいつ落ちてくるかぐらいなら分かるのだ。
落ちると言う動作は思っているよりも恐ろしいものだ。
想像してみればわかる、僅か10メートルとは言えそこから飛び降りるのだ。
幾ら和那が慣れているとはいえ、落ちる瞬間は身を強張らせる。
それは僅かな動きだが、構えが固められている和那が強張らせれば直ぐに見抜くことが出来る。
旧式だとはいえ朱里は戦闘用にカスタムされているサイボーグだ。
手数で言えば互角、単純な速さならば向こうが上。
だが、和那よりも朱里の方が目も良ければ耐久も優れている。
負ける要素が見当たらない、と言うほどではないが朱里が優位に立っているのは間違いない。

「てりゃい!」
「……」

腹にカウンターに入れたと言うのに、和那は体勢を崩したままで上段蹴りを入れる。
無茶な体勢で放った蹴り、だが異常なまでに重い蹴りだ、防いだ腕がビリビリと痺れを覚える。
彼女の能力は移動のためだけでなく攻撃にも転じることが出来る。
恐ろしいことに、能力を応用すれば彼女は真上に向かって体重を乗せた攻撃も出来る。
他にも掴んだだけでも骨を折ることも出来るし、超上空へ持ち上げて落とすことも出来る。
その上、和那自身が優れた武術家でもある。
恐らく槍、もしくはそれに準じた武器があれば間違いなく朱里は簡単に抑え込まれるだろう。
朱里に本来の武装を入れたとしても、難しいところだ。

そこまで考えた思わず笑みが浮かぶ。
最初はそれほどの差はなかった。
たとえ槍を持っていたとしても朱里の方が完全に上回っていた。
それは覚悟の問題とか以前の単純な技能の差が故だ。
変わってしまった。
目の前の少女はあの最低の世界で立派に生きていける程に強くなっているのだ。


288:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:03:39 c+gX5HZR0

蹴りの衝撃をそのままに、痛みを逃がすように後ろへと蹴りの勢いに任せて飛ぶ。
衝撃を逃がすために後ろへと飛ぶ、言葉にすると馬鹿らしいものだ。
しかし、それぐらい出来なくてはあの世界で近接戦闘など出来はしない。
二・三メートルほど飛ばされ、階段を転がり落ちる。
鈍い痛みに襲われながら体を立て直そうとするが、和那は既に目の前に迫ってきていた。
機動力では和那が明らかに上回っていると認めざるを得ない。
そして間髪をおかずに朱里の顔に強い蹴りが叩き込まれる。
容赦はない、もちろん容赦なんてしていたらその隙に反撃している。
階段の踊り場の壁に大きく叩きつけられて、肺の中の空気を全て吐き出す。
だが、それが助かった。
痛みには慣れている、追撃のために目の前に迫っていた和那。
その蹴りに対して、滑るようにしゃがみ込んで躱わす。
完全に避け切れず頭に僅かに蹴りが決まるが、その痛みを無視するように足払いをかける。
和那が強制的に重心を低くするところを狙って攻撃を入れようとするが――

「……ちっ」

だが、それは決まりはしなかった。
和那の重力を操る能力で朱里とは逆方向に向かって『落ちて』いったからだ。
急な動作だったためか、上手く着地できずに背中を壁に思いきり叩きつけられる。
それでも朱里のワン・ツーをまともに食らうよりは何倍もマシだっただろう。
もし決まっていたら痛みのあまり見せた隙で良いように責められていただろう。
とは言え、結果は同じだ。
朱里もこれで決まるとは思っていなかったし、そこで手を止めるつもりなどさらさらない。
和那には劣るとはいえ素早い動きで迫る。
まずは鳩尾に拳を入れて動きを止め、次に意識を刈り取る顎への一撃。

これで終わりだ。

これで終わらせて、人を殺しに行く。

そこまで考えて、ふと思考に意識をやってしまう。

結局自分はどうしたいのだ、と朱里は考えてしまったのだ。
和那を殺す、という選択肢が浮かばなかった。
おかしい、明らかに自分はおかしい。
これが神条紫杏ならばまだ分かる、神条紫杏は浜野朱里が命を懸けてでも守るべきだと思った対象だ。
だが、何故大江和那を殺すという選択肢が浮かばなかったのだ。

「朱里ぃぃぃぃ!」

その声にはっ、とさせられる。
動きが鈍っている、このままではマズイ。
直ぐに動きに集中させようとするが、もう遅い。


289:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:04:19 c+gX5HZR0



伸ばした朱里の腕が届くよりも速く、和那は懐に潜り込み、全体重をこめた拳を顎へと打ち上げた。



瞬間、この意識を刈り取られそうなほど痛烈な一撃で、抱えていたもやもやの正体を何となく理解した。



それは、今はもう懐かしい記憶と春先に起こった二つの大事な記憶。



そのどちらも痛みに襲われる中の、朱里にとって忘れることのできない記憶だ。



―――それは、かけがえのない姉妹を失った記憶と、かけがえのない親友が出来た記憶。




290:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:05:12 c+gX5HZR0




どうして偽名を使う際に和那の名前を使わなかったかが分かった。



――それは不快だからではなく、友達を利用するような真似をしたくなかったから。



どうして三橋に紫杏だけでなく和那も殺すと言われた時に不快な感情が生まれたか分かった。



――それは和那が朱里にとって、居なくなって欲しくない人物だったから。



どうして和那を殺すと言う選択肢が浮かばなかったかの分かった。



――それは浜野朱里にとって、大江和那は大切な友人だから。




291:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:06:08 c+gX5HZR0

ふらつく足元。ぐらぐらと揺れる脳髄。力の籠らない身体。

和那は警戒するように朱里を見ている。
それとは対照的に朱里は口元を弛ませる。
おかしくてたまらなかった。
朱里にとって大切なのは自分だけのはずだった。
大切だと思った姉妹はもう死んでしまい、さらにその姉妹は朱里に生きていて欲しいと思ったから。
だと言うのに、今は大切なものが自分以外にも出来てしまっている。

「……カズ」
「なんや」

未だに警戒を解こうとしない。
思ったよりも自分は信用されていないようだと朱里は少しおかしくなる。
まあ、この友人兼弟子とこれから親交を深めるのも悪くない、とも思った。

「とりあえず、お腹空いたから何か食べましょうか」
「――! ああ、ええで!」

一瞬で警戒を解いて駆け寄ってくる和那。
それがどうにもおかしくて朱里は思わずクスリと口を動かすだけとはいえ笑みが浮かぶ。
一度笑みがこぼれるともう止められない。
クスリと笑うだけでなく大口を開けて笑いが零れる。
和那はその様子を見て一瞬だけキョトンとした顔を見せるが、すぐに釣られるように笑いだす。
朱里と和那自身にも何故笑っているのかよく分からない。
ただ、おかしくて楽しくて、とても嬉しいと言うことだけは分かっている。
笑いを止めようとはしない。
まるで二人は凱歌を歌いながら故郷へと帰る兵士のようだ。
彼女たちの笑いは事務室にたどり着くまで続いた。

「は、ははは……あー、おかし」
「なんやねんいきなり笑いだして」

事務室のソファーに腰かけて二人は僅かに出た涙を裾で拭う。
数十秒ほど笑いをおさめることに時間をかける。
事務室はソファーと作業用の机、そして監視カメラと意外と広い作りになっている。

「……なんやえらい荒れとるなぁ」
「三橋って奴が漁ったんでしょうね」
「そう言えば、朱里。なんで三橋さんのこと知ってるの?」


292:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 11:06:33 nvI4sGWDO
しえん

293:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:07:16 c+gX5HZR0

意外そうな顔と声で和那は朱里を見る。
朱里は眉をひそめ機嫌の悪そうな声で答える。
あまり良い関係とは言えないようだ。

「殺し合いに乗ってるそうよ。……まあ、アンタも知ってるけど」
「あー、まあ朱里が来るまでどつきあったし。って、そう言えばなんで朱里はそれを知ってんの?」
「これでここに連絡した時に、ね」

朱里はデイパックから名刺大の厚みのある機械を隣に座っている和那の膝に放り投げる。
少し慌てた様子で和那は受け取り、それをじっと眺めて確かめるように呟く。

「ケータイ……?」
「その中に入ってた番号の一つがここでね。それで掛けたら三橋で出たってわけ。
 殺し合いに乗らないとアンタや紫杏を殺すーとか言う意味不明な脅しかけられたわ」
「あー、これで進藤ちゃんや曽根村さんに電話したんか」
「……知ってたの?」

少しだけ、朱里の声の調子が沈み和那からも目を逸らす。
殺し合いに乗っていた、と言うことに負い目を感じているのだろう。

「ああ、構わへん構わへん。幸いっていうんかな、死んだ人も怪我した人も居らんし。
 ほら、あれや。大事なんはこれからのことやーってよく言うやろ?」
「べ、別に後悔とかそういうわけじゃ……!」
「照れへんでもええって。それよりはよメシでも食お。お腹ペコペコやねん」

大げさに腹を押さえて、机の上に置かれていたカップ麺を眺める。
しょうゆ、塩、味噌、トンコツと何でも揃っているが和那はとりあえずと言った様子で塩を手に取った。

「朱里は何にするー? 色々あるでー」
「私は……しょうゆでいいわ」
「りょーかい」

その言葉を聞くと魔法瓶に手を伸ばして素早くお湯を注いで行く。
流れるような手慣れた動作だ。
そして、いつの間にか他のカップ麺から抜き取った大量のかやくを入れていく。
和那の突然の行動に驚いたのか朱里が目を大きく見開く。


294:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:10:48 c+gX5HZR0

「な、何やってんの、アンタ?」
「んー、どうにもすきっ腹で……かやく大量に入れて補おうと」
「なら二個食べればいいじゃない」
「阿呆! 乙女がそんなカロリー無視できるかい!」
「……って言うか、それって美味しいの?」
「よう知らんけど、まあ具沢山でお得度高いやん」

無茶苦茶な論理を言いながら和那はソファーに腰掛ける。
朱里としてはそのようなマニュアルから逸脱した冒険をする気にはならない。
朱里は大人しく平均水量平均時間で行くことにする。
未来の可能性の一つにそんなえり好みすら出来なくなることを知らずに。

「お、出来たみたいやで」
「少し早くない?」
「そうか? まあ、少々構わんやろ」
「……よっぽどお腹空いてるのね」
「あー、どうにも疲れやすくてな……なんかいつもより疲れやすいわ、歳かな?」
「言ってなさいよ」

カップ麺と同じ場所に仕舞われていた割り箸を取り出して、蓋を開ける。
その瞬間、湯気が顔に当たり思わず頭を下げる。
いずれにしろ美味しそうなものだと言うことは確かだ。
割り箸を二つに割り、同じタイミングで麺を啜る。

「おお、美味い」
「そうね」
「けど、ちょっとスープが少ないんがなー」
「……かやくを入れ過ぎなのよ」
「んー、まあ美味いから別にええか」
「アンタが構わないって言うのなら別に良いけど……それよりこれからどうするかよ」

まったりとした空気の中で朱里が真剣な顔で切り出す。
和那は麺をすすりながら目だけを動かして朱里の話を聞く。
そんな呑気な和那に特に注意をするわけでもなく、朱里はラーメンを啜りながら話を続ける。

「一先ず紫杏と合流ね。悪いけど他の奴を信用は出来ないわ」
「んー、確かに紫杏は心配やな。あれでも一応ただの女子高生やし」

神条紫杏、朱里がいま最も安否の確認を急ぎたい人物。
朱里が命に代えてでも守ると決めた、ただ一人の人間だ。
紫杏は朱里のことを友達だと思っているようだが、やはり朱里からすると主従の関係だ。
主が紫杏で従者が朱里、やはりそれが一番しっくりと来る。
そして、その紫杏は殺し合いに乗っている可能性が高い。
自身の能力と現状を考えた結果、生き残る可能性が殺し合いに高いから乗った。
神条紫杏と言う女はそれを平然と考え、平然と実行に移せる一面を持っている。


295:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 11:12:14 c+gX5HZR0

だからこそ朱里が紫杏に入れ込むのだが、やはりそれは少しマズイ。
和那を殺したくない、と朱里ははっきりと認識してしまった。
殺し合いに乗る手伝いは出来ない。
となれば、残された手段は説得しかない。
骨は折れるだろうが、やるしかない。
覚悟をきめて、話を次に進める。

「その後は……とりあえず首輪ね。
 紫杏もさすがに工学系には詳しくないからこれは私が担当するしかないわね」
「おー、頼りになるのー!」
「茶化すんじゃないわよ、大事な話なんだから。
 とりあえず、方針らしい方針なんてこんなものでしょ……あと、アイツも探すの?」
「あったり前や! もちろん十波君だけとちゃうで!  全員で生きて帰るんや!」
「はいはい……でも、正直意外ね。
 私はなんだかんだでアンタはかなりドライな奴だと思ってたんだけど」

朱里の描く和那は、馬鹿ではあるが人の感情の機微には鋭くそれを計算して動くタイプの人間だ。
いわゆる世渡りの上手いタイプ。
夢もあまり見ず、人は汚い部分を持っていることを知っているはず。
なのに、全員で生きて帰る、という言葉を放つのはひどく意外だった。

「……これは全部あのメガネの所為やろ。
 殺し合いに乗った奴を心からなんて恨めんわ、しゃあない部分が大きすぎる。
 もちろん、だからって全部許せるわけやない。
 知り合い殺されたらうちもキレるし、多分思いっきりぶん殴らな気が済まん。
 でも、それだけや。間違ったと認めて立ち直ろうとするんやったら喜んで助けたる。
 それでええと思うんや。憎んだり憎まれたりとか……そんなん、辛いだけや。
 まあ、あのメガネの場合は話は別やけどな。
 警察にぶち込むぐらいはしたるわ。
 悪どいことやって、刑務所から出てきたら死ぬまで思いっきりぶん殴り続けるけどな!」
「ふーん……」

正直、甘い話だなと朱里は思う。
簡単に立ち直れるわけがないし、そんなことをしていたら時間がいくらあっても足りない。
だけど和那の気持ちは分かる。
和那は妥協したくないのだろう。
喧嘩の最中に喋った『ハッピーエンド以外お断り』という言葉。
きっとそれが和那が動く理由の根っこになっているのだろう。
実際はまだ六時間しか経っていないというのに相当数の人間が死んでいるのだ。
たとえ運よく生き残ってもハッピーエンドなんて口が裂けても言えない。
彼女はどんなに辛いことがあっても、和那自身の力が及ぶ限りハッピーエンドを目指すだろう。


296:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 11:13:51 nvI4sGWDO
いえー、さるった

297:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:00:07 c+gX5HZR0

「まあ、良いんじゃない。ところでアンタは面白い情報でもないの?」
「あ、あるであるで!」

嬉しそうに声を上げる和那、その様子は人懐っこい大型犬を思わせる。
そんなことを朱里が思っているのを気付いていないようで、嬉々として口を開く。

「なんでもなぁ、あのメガネはタイムマシンをもっとるらしいで!」
「………………………………………………………はあ?」

空いた口がふさがらない、とはこういうことを言うのだろう。
タイムマシン、実にファンタジーだ。
そんなものがあるわけがない、現実にネコ型ロボットは作られる気配すらないのだ。
その代わりと言わんばかりに殺人機械、アンドロイドは大量に作られているが。
と言うか、多分ネコ型ロボットが作られるのはずっと後だろう。
高性能AIを搭載するならメイドロボよりも戦略兵器の方が先に作られる。
それは歴史を振り返れば簡単に分かることだ。

「なにそれ頭湧いてるんじゃない?」
「き、きついなぁ。でもでも、たぶんマジやで? 現にうちが五人も昔の人と会ったんやから」
「馬鹿にされてんじゃないの?」

朱里に取りつく島もない。
端からあり得ないと言う考えで話を進めるのだからそれも仕方ない。
と言うより、よっぽどのことがなければ向こうがからかっていると思うのが普通とも言える。

「いや、でもやで、よー考えてみ。
 あり得んことが続いてるんやから、それぐらいのことがあってもおかしゅうないやろ」
「あり得ないものはあり得ません」
「ほら、超能力かもしれへんで? ジャジメントかて全部知ってるわけやないんやろ?」
「そんなヤバいのがあれば目につくわよ……多分」
「いや、でもタイムマシン的な力があれば未来から来たってことだってあり得るやろ?」
「うっ……!」
「それに皆が皆うちと会ったとき口裏合わせとる様子はなかったで。
 第一、二人に至ってはうちにそのことを教えた人と会ってもおらへんかった」
「……でもねぇ」

確かに和那の言い分も通らないわけではない。
同時に変な理論をでっち上げる人間の言葉を鵜呑みして、辺りの人間からはあまり触れられないようにされている可能性も同じくらいある。
正直な話なら朱里は和那が痛い人間だと思われている可能性の方が高いと思っている。


298:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 12:01:28 nvI4sGWDO
支援

299:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:01:32 c+gX5HZR0

だが、だからと言って流してもいい話題ではない。
全くあり得ないということ言い切ることが出来ない。
そして、和那はここに来る前に曽根村と言う男と進藤と言う女に出会ったとも言っていた。
つまり二人組が同時に質問されて、タイムマシンの存在を認めたということだ。
鼻で笑うことも出来ない。
出来ないが、やはり信じることは理性が拒む。

「……まあ、考える余地がないわけじゃないわね。今は置いておくけど」
「冷たいなあ……んで、どうするんや?」
「あんたの口ぶりだと仲間が居るのよね」
「居るでー! 八神さんに真央に走太くん!」
「ふぅん……」

真央と言うのは恐らく黒猫のことだろう。
確か和那は『真央と走太くんを襲った』と言っていた。
それに真央、マオ、つまり猫だ。
安直ではあるが黒猫という肩書きに合う。
あの正義の味方を自称する女なら殺し合いになんて乗らないだろう。
信用は出来る、出来るがやはり和那や紫杏ほどではない。
だが、残りの二人はどうか分からない。
一方は子供だから、なんて言い捨てれるわけがない。
子供は簡単に残酷になれる。純粋で我儘な子供はある意味殺し合いに向いてると言えなくもない。
最初に亀田に反抗したような子供の方が少ないのだ。
大人も安全とは言えない、騙すことに慣れているのだから。
ただ、大人は勝手に考えすぎてくれるから楽だ。

「とりあえず、紫杏を探しましょ。それから考えたんで良いでしょ」
「せやな、んじゃさっさとメシ食おうか」

和那の言葉に朱里は頷き、同時に二人はカップを持ち上げて流し込むように具とスープを胃に収めていく。
真面目な話、乙女のやることではない。
花も恥じらうどころかゴミ漁りの鴉もビックリの荒々しさだ。
カップ麺と割り箸、その他のゴミは片付けずに無遠慮に机の上に置いておく。
どうせ亀田の用意した会場だ。
わざわざ綺麗にするのも馬鹿らしい。

「さ、行くわよ。アンタが居れば車なんかよりよっぽど便利だから助かるわ、少し怖いけど」
「悪い、それ出来へん」
「……はぁ?」
「なんや、ひどい疲れるんよ。いつもは歩くよりも楽なぐらいやのに。
 正直、今も三橋さんと朱里との喧嘩で結構動き回ったさかい眠りたいぐらいお疲れやで」
「……ふぅん。しょうがないわね、歩いて行くわよ」


300:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:02:43 c+gX5HZR0

ここで和那が嘘をつくわけもない。
先ほどの食事は情報交換も兼ねていたから問題ない。だが、移動時間を延ばす意味はない。
無駄な時間を惜しいことぐらい和那も分かるだろう。
恐らく本気で疲れを感じているのだ。

「カズ、これ持ってなさい」
「っと……棒か。へえ、結構頑丈なええ奴やん」

六尺棒を手渡すと感触を確かめると、満足そうにほほ笑んだ。
これで戦闘は楽になった。
朱里が危険になったとも言えるが、和那の疲れが酷いと言う言葉が本当ならば体力を抑える必要がある。
ならば、全身自体が凶器の朱里よりも、天才とは言えただの人である和那が武器を持つのは当然だ。

「後は、道具を一つに纏めておきましょう。無駄な荷物は邪魔よ」
「つまり、じゃんけんやな!」
「……なに言ってんの?」
「じゃんけんで荷物持ちを決める、これは常識やろ、常識!」
「……まあ、別にいいけど」
「おっしゃ、いくでー! 最初はグー、じゃんけん、ぽん!」

和那が出した手はグー、朱里が出した手はパー。
結果は朱里の大勝利。
ニコリともせずにデイパックの口を開き、和那のデイパックに物を詰め込んでいく。
支給品一式、携帯電話、塩素系合成洗剤、酸性洗剤、油、ライター。
これですべて。
そのデイパックを見るからにしょげている和那へと押しつけるように投げつける。

「問題は色々あるわ……首輪とか面倒くさいことのこの上ないわね」
「……ま、大丈夫やろ!
 なんてたってうちらは地上最強のコンビ、ファーレンガールズやからな!」

その言葉にピタリと足を止める。
その様子に和那は先ほどはしょげていた顔を、どうした、と言わんばかりに上から眺めてくる。
朱里は額をぴくぴくと痙攣させながら、ゆっくりと口を開いた。
不自然に頬が吊り上っているのがまた不気味だ。

「……ちょっと待ちなさいよアンタ! それ、意味分かって――――――


   ◆   ◆   ◆


301:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:04:33 c+gX5HZR0

 水族館に満たされたのは、爆音。


 水族館に広がったのは、閃光。


 崩れていく。


 魚を鑑賞する、と言う趣をもった娯楽施設は無惨にも崩れていく。


 端目から見れば、何が起こったのか理解できなかっただろう。


 沈んでいくのだ、巨大な水族館が地中へと。


 見るものが見れば『奇跡だ』と呻くだろう。


 見るものが見れば『秘密基地だ!』と喜びを露わにするだろう


 見るものが見れば『爆発か……』と冷静に分析するだろう。


 そう、これは奇跡でも基地の変形でもない。


 人が起こした夢のない破壊行動、爆発。


 それは『トンネルバスター』という兵器が起こした一つの施設と二人の人間を巻き込んだ一つの爆発。


302:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 12:05:25 nvI4sGWDO
しえん

303:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:05:30 c+gX5HZR0


   ◆   ◆   ◆


三橋一郎は大きな窓を鬼の手でぶち破り、そこから外へと出る。
足場は安定している。
西側の窓のため、ここをまっすぐに進めば病院やホテルへとたどり着けるはずだ。
『逃走経路』を確かめて、ようやく準備完了。
そして、壊した窓から階下、つまり地下へと目がけてライターを投げ込み猛ダッシュで離れる。

その瞬間――爆音が響き、水族館が沈んでいった。

それは支給品、トンネルバスターの仕業。
無色無臭の空気と混じり合うことによって非常に高い爆発性を持つガス。
三橋に勝手は一切分からないが、それが強力な兵器であることは説明書を読むことで理解した。
そして、ライターを用意し、ガスの充満した地下へと放り投げる。
轟音と共に建物を支えていた柱が崩壊し、さらにトンネルバスター自体の威力で地面を壊していく。
綺麗に水族館が地面へと沈みこんでいく。
ある意味壮観だった。
これに巻き込まれたら生きて出ることは不可能だ。
予想以上に強力だ、つくづく自分が手に入れて良かったと思わせる支給品だ。

あの少女から支給品を奪えなかったのは非常に残念ではあるが、贅沢は言ってられない。
わけの分からない動き方をする少女を確実に殺せて良かったとも考えるべきだ。
しかも、音から判断するに少女は直前に誰かと殺し合っていた。
事務室に入っているのが見えたことから和解したようだが、そんなことは関係ない。
トンネルバスターを使って殺す人間が増えただけだ。

「これで……五人目か」

ポツリ、と呟く。
一人目は名も知らぬ青年、二人目はアルベルト、三人目は鋼、四人目と五人目は大江和那と顔も名前も知らない人間。
僅か八時間の間で五人もの人間に手をかけた。
それなのに普通に動けているということが三橋自身にも少しだけ意外だった。
びくびくと怯えることもなく、驚くほど冷静に物を考えて動いている。

「これも、亀田くんの仕業かな……」


304:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 12:06:16 nvI4sGWDO
支援

305:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:06:24 c+gX5HZR0

頭に浮かんだのは亀田によって体内に埋め込まれた回路のことだ。
これは思考を縛ることはできないが、身体を自由に動かすことが出来ると言う回路。
絶対服従回路とでも言うべきか。
そんなものがあるのなら、思考を誘導する回路があってもおかしくはない。
それを埋め込まれたのではないかと三橋は疑ったのだ。

「……はは、でも、それはないな」

そんな物があるのならとっくに使っているはずだ。
使っているのなら使っているで、人を殺したときに抱く嫌な気持ちを覚える意味も分からない。
だから、これは自分自身の意志で選んだ行動だ。
亀田の思いに応えたいと言う三橋自身の意志で、五人の人間を殺したのだ。

三橋は少しだけ沈んだ水族館を見る。
この惨状は自分の仕業。
沈んだ水族館には三つの死体が埋まっている。
大江和那の死体と、鋼毅の死体と、名も顔も知らぬ人間の死体。
その全てがお魚さんの仲間入りだ。

次に鬼の手に目を移し、自分のやったことを再確認する。
血に染まりさらに禍々しさを増した鬼の手。
武器と言うものは血を吸うことで妖艶な雰囲気を放つのだと三橋は初めて知った。
正しい使用法をしてこそ道具は輝くと言うことなのだろう。


306:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 12:07:06 nvI4sGWDO
しえん

307:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 12:07:57 nvI4sGWDO
支援

308:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:08:07 c+gX5HZR0

僅かに考え込む。
思えばこの仕事をしてから考えることが多くなった。

(……殺すだけだ、今はとにかくそれだけを考えよう)

眠れば悪夢にうなされるだろう。
だが、しっかりと仕事をこなせば亀田の感謝の言葉で幸せになれる。

三橋は僅かに俯いた後、すぐにそこを立ち去った。


【H-6/水族館付近/一日目/午前】
【三橋一郎@パワプロクンポケット3】
[状態]:打撲 エネルギー70%
[装備]:鬼の手、パワーと走力の+パーツ一式、豪力
[道具]:支給品一式×2、予備バッテリー
[参戦時期]亀田の乗るガンダーロボと対決して敗北。亀田に従わされしばらく経ってから
[思考]
基本:亀田の命令に従いバトルロワイヤルを円滑に進めるために行動する。
1:少しだけ休んでから移動する。
2:参加者を積極的に探して殺す。
3:もしも相手がマーダーならば協力してもいい。
4:亀田に対する恐怖心。
[備考]
※萩原(名前は知らない)は死んだと思っています。
※大江和那と浜野朱里(名前と姿が一致しない)が死んだと思っています。
※大江和那の能力の詳細を一切知りません
※トンネルバスターは一回分です

【トンネルバスター@パワプロクンポケット10(11?)】
浜野朱里の体内に内蔵された高性能の爆破兵器。
無色無臭のガスで人間が察知するのはまず不可能。
威力は強大で廃ビルとは言えその半分を狙って壊すことが出来る。
平地で単純に爆破させるよりも建築物を壊して二次災害を起こす方が強い。
取り扱いも楽で場所を選ぶことを除けば便利な兵器である。
ただし、ガスは朱里の尻から出る。
今回は缶に詰め込み支給した。


309:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 12:09:01 nvI4sGWDO
しえん

310:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:09:13 c+gX5HZR0


   ◆   ◆   ◆


「朱里ぃぃぃ!!」

和那は大声で叫びながら積み重なった瓦礫を紙切れのように吹き飛ばしていく。
これも重力を操る能力の応用。
強く瓦礫も自分自身だと思いこめば、自分が落ちて行く方向に吹き飛ぶ。
これは普通に使うよりも集中しなければいけないため、疲労が大きいが構った事ではない。
六尺棒をテコの原理で上手く使いながら探索を続ける。

あの時、朱里が何か言おうとした瞬間、凄まじい音と同時に地面が沈んでいった。
如何に優れたアンドロイドであろうと、足場が崩れてしまえばなにも出来はしない。
しかし、和那は確かに感じた。
自分の背中に痛いほどに叩きつけられた平手を。
そのおかげで速く反応出来た。
和那は思わず地面が崩れた瞬間に能力を使い、瓦礫の下敷きになることは免れたのだ。
最も直撃を免れただけで、水族館の瓦解に巻き込まれ怪我を負っている。
それでも生きている、和那は生きている。
動けるのなら、朱里を探すしかない。
僅かに涙で潤む目を拭いもせずに瓦礫を退けていく。
大きな瓦礫が少ないのがせめてもの救いだ。

「うっさいわねぇ……」

数分ほど朱里の名前を叫びながら探索を続けていると、何処からか声が聞こえる。
その声を和那が間違えるわけもない。
不機嫌そうな高い声色、ここ一年間毎日聞いていた声だ。
間違えるわけがない。
間違えるほど和那は薄情な人間ではないのだ。


311:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 12:10:12 nvI4sGWDO
支援

312:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:10:29 c+gX5HZR0

「朱里!」

今まで以上の大声で呼びかけ、声のする方向へと駆ける。
瓦礫が積み重なった影に朱里が倒れていた。
顔をしかめているものの、声を出せることから大事ではないと思いほっと息をつく。

「あんまり大声出さないでよ、うるさいから」
「え、あ、いや、その、すまん」
「……で、なんでアンタはこんな所に居るの?」
「そら、朱里が心配で――」
「あー、良いから、そう言うの。私は……まあ、もういいから」
「……朱里? ……って、な!?」

和那は朱里の顔から胴体に視線を下げていく。
そこに異様な見覚えのない物体があった。
朱里の身体のちょうど真ん中に一本の短い、しかし確かな鉄筋のようなものが刺さっている。
それに気づいているはずなのに、朱里は何ともないように話をしている。

「多分、下の階に爆弾仕込んだわね。瓦礫に巻き込まれるとはまだまだ甘い」
「……嘘やろ、朱里」
「本当よ、爆発なら何回かやったことあるんだから」
「そっちやないわアホ!」
「……だからうるさいって言ってるでしょ」
「どうなっとるんか分かっとるんか!?」
「分かってるわ、わかってるから、聞きなさい」

端目から見ればひどくおかしな光景だろう。
煤で汚れているとはいえ比較的軽症な和那がうろたえ、瓦礫にサンドイッチされ鉄筋で貫かれた朱里が落ち着きを払っている。
普通ならばどちらもうろたえるものだろう。
だと言うのに、朱里は相変わらず平然とした口調で和那を諭すように言葉を続ける。

「……多分、下手人は三橋ね。超能力者って可能性はあるけど十中八九支給品でしょ。
 数は……分かんないわね。アンタはさっき言ってた仲間と合流しなさい」
「朱里はどうすんねん!」
「あー、私は……まあ、なんとかするわよ。なんとか」
「なんとかってなんやねん!」
「聞きなさい!」
「……!」


313:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 12:11:48 c+gX5HZR0

落ち着いた声から一転、大声で和那を諌める。

「……アンタ、言ったわよね。皆で帰る、って。なら、三橋を止めてみなさいよ。
 それさえ出来ないならアンタはただのホラ吹きに過ぎないわよ」
「せ、せやかて朱里が……!」
「私は大丈夫よ、ちょっと最近アンタ私のこと舐めてない?
 言っとくけどね、こんな怪我なんて軽傷よ軽傷。足がなくなって初めて重傷って言うのよ。
 幸いと言うか私は頑丈だから、って言うかこれぐらい喋れてる時点で察しなさい」
「……」
「ほら、早く行きなさいよ。アンタならこの島一周するのですら二十分もかからないでしょ?
 その体力温存するためにも、こんなところでこんなことやってる場合じゃないでしょ」
「……すまん、朱里。パッとやってパッと帰ってくるさかい」
「駄目駄目、手抜きせずにじっくりとやりなさいよ。
 あと、紫杏を探すことも忘れないでよ!」

ここで初めて朱里は笑い、じたばたと手を動かす。
和那は笑いもしなければ、その姿を見もしない。
ただ、俯いた状態で立ち尽くしていた。
それを十数秒ほど続けていたが、和那の体が急に中へと浮いていく。
急スピードだ、どんどんと和那の体が瓦解した水族館から離れていく。

空へと、そう、空へと落ちていく。

高さにして約50メートル、これほどの長距離落下は和那は滅多にしない。
恐怖心は不思議となかった。
きっと、空が綺麗に晴上がっている所為だろう。
本当に晴上がっている。
雲と言う遮るもののない、気を失いそうなほど真っ青な空と、東の空に堂々とまばやく太陽。
どこまでも落ちていけそうだ。

少しだけ、何処までも広がる空を呆ける様に眺めた後、涙が零れた。

何故、涙が流れているのかは理解している。
それは大切な親友を失ってしまったから。
和那だって馬鹿ではない、朱里の言葉がすべて嘘だってことぐらいは分かっている。
だけど朱里は先に行けと言った。

「……行こか」


314:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 13:00:27 c+gX5HZR0

ぽつりと呟き、手元の六尺棒をぎしりと音が鳴るほどに強く握りしめて重力の方向を変化させる。
先ほどまで顔が圧で痛いほどに猛スピードで落下していところを、一瞬の間もなく逆方向へと落下する。
急な重圧で思わず胃の中のものを吐き出しそうになるが、ぐっと噛みしめて
そして地面から約五メートル、その瞬間に重力の方向の変更を交互に行っていく。
地面に身体を打ちつけないためとはいえ、やはり少し体は辛いところがある。

ゆっくりと立ち上がるが、身体を起き上がるよりも早く膝が抜ける。

「なっ……!?」

頭が痛む。
身体が、ではない。頭が痛むのだ。
こんなことは初めてのことだ。
いや、思い返してみると初めてではないことに和那は気付く。
これはあの夜の時と同じ。
朱里との喧嘩で一矢報いた時と同じ感覚。
頭がぐらぐらと揺らされているような感覚と体に力が全く入らない現状。
気絶する!、とここでようやく気付いた。
疲れだけだからと思って甘く見ていた。
体中に残る痛みとガンガン揺らされる意識。

(せ、せや、せめて携帯で連絡を……!)

朱里が詰め込んだデイパックの中にある携帯電話の存在を思い出し、破くようにデイパックの口を開ける。
ひっくり返すようにして中を漁っていく、出てくるものは食料や水やメモ用紙と言った要らないものばかり。
ようやく見つけた

「電話帳……! 病……い……ん……」

だが、そこまで。
携帯を開いたまま、沈んだ水族館をバックにして。
和那は半強制的に意識を手放してしまった。


【G-6/水族館/一日目/午前】
【大江和那@パワプロクンポケット10】
[状態]:全身打撲、疲労(大)、気絶
[装備]:六尺棒
[道具]:支給品一式×2、不明支給品1~3、携帯電話、塩素系合成洗剤、酸性洗剤、油、ライター
[思考]
基本:バトルロワイヤルを止める。
1:……………(気絶中)
2:朱里ぃ……
3:病院へと戻る。
【備考】
※重力操作にかけられた制限の存在に漠然と気付きました。


315:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 13:02:40 c+gX5HZR0


   ○   ○   ○


カズの気配が消える。

どうやら足音がしないことから重力操作で立ち去ったらしい。

馬鹿なカズ、無駄な体力の消費を避けるべきなのに。

しかし、体中からずきずきと鈍い痛みが広がって辛いことこの上ない。

上半身、というか口は簡単に動くのに下半身は既に動かないということは回路のショートだろう。

人間で言うなら脊髄の損傷か。

しかも、なんだか視界がふらふらと揺れているような気がする。

……何度考えても致命的な傷だ、そのうち死んでしまうと言う怪我の典型だ。

ぺらぺらと喋ったのも少し不味かったかも知れない。

ふむ……カズに嘘をついてしまったか。

まあ、嘘も方便と言う奴だ。

悪いことには違いないが、カズもそのうち納得してくれるだろう。

紫杏……どうしているのだろうか?

頭のいい紫杏はきっと悩んでいるだろう。

紫杏をサポートするのもカズに任せてしまったのも申し訳のないことの一つだ。

不思議とさっぱりとした気持ちで満たされていく。

そのことに申し訳がない気持ちも出てくる。


316:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 13:04:00 c+gX5HZR0

姉妹の亡骸を越えて今まで生きてきたのに、その命を自分勝手な理由で捨ててしまった。

怒っているだろうか?

私としてはやはり姉妹は大事な人たちだ。

その人たちを裏切ったとも取れなくもない行動だ。

駄目だ、ネガティブになり過ぎている。

逆に考えてみよう、私が姉妹の立場だとしたら、どう思う?

……許すな、きっと許す。

喜ぶかどうかは微妙だが、多分許す。

悪いことをしたわけではない。

私は後悔なんてせずに、私がしたいと思ったことをやった。

うん、後悔もない。

後は死ぬだけだ。

死ぬことは怖いが、あのままジャジメントの手駒として生きるのも嫌なものがある。

そう言えば、死んだ後はどうなっているのだろうか?

死後の世界とかいう奴があるのだろうか?

それなら、姉妹に会って謝ろう、死んでしまって御免、って。

その後、胸を張って友達が出来たと言おう。

それとも、天国ではなく来世とかいう奴に直行なのだろうか?

ならば、もし来世なんてものがあって、アンドロイドにもそれがあるのなら。

どうか、次は皆でただの人間に―――


【浜野朱里@パワプロクンポケット10  死亡】
【残り40人】

※水族館が沈没しました。
※浜野朱里の死体と鋼毅の死体は水族館に埋まっています。


317:FALLEN GIRLS ◆7WJp/yel/Y
09/07/20 13:04:55 c+gX5HZR0
投下終了
さるさんに二回も引っかかるとはこの海のリハクの目を(ry

318:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 14:22:39 ai7B5wNC0
おお朱里が死んだか


319:ゲーム好き名無しさん
09/07/20 20:18:16 Tt1j7GPU0
投下乙です!
朱里死んじゃったよ…
結局マーダ―としてはなにもしてないけど、やっぱりカズとは親友なんだよね
朱里の遺志を背負ったカズの今後に期待

320:ゲーム好き名無しさん
09/08/01 20:41:58 8Y9Qx8h50
保守

321:ゲーム好き名無しさん
09/08/09 00:28:29 4fjnE1uXO
保守

322:ゲーム好き名無しさん
09/08/12 14:59:46 G4AMDnd30
久しぶりに来た。
遅ればせながらGJ!と言わせて頂こう。
首里の最後は胸が詰まりました。

323:ゲーム好き名無しさん
09/08/13 02:39:20 +uQGDvSi0
首里って朱里のことだよな
あかりで変換してないのか?

324: ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:34:30 FO3Ugs/F0
投下します

325:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:35:50 FO3Ugs/F0

八神総八郎がチバヤシ公爵を名乗る男の放送を聞き終えて早一時間。
未だに回復する兆しのないベッドの上の男を八神は眺めていた。
止血はうまくいっている。
腕は体重を支える足に比べて消費されるエネルギーが少ないため、供給される血が比較的少ない。
だが身体の一部が吹き飛んでいるのだ、死んでもおかしくない。
出血死の前にショック死、逃れたとしても出血死。
止血と言っても何回も包帯を変えて、氷を入れた水をナイロン越しに当てて……それの繰り返しだ。
雑菌が入れば高熱にうなされ、体力が減れば生存率も下がる。
だと言うのに、ベッドの上で眠っている男はまだ激しく苦しむ様子を見せなければ、静かに息を引き取る気配もない。
それに対して少し妙な感覚を覚える。
ひょっとすると目の前の男はサイボーグでは、とも考えたが今は非常事態だ。
一見では分からない、つまり内臓の強化や人工筋肉を使っているのならば外目からでは分かりずらい。
だが、たとえ違法サイボーグであろうと助けない理由にはならない。
こんな殺し合いなんて馬鹿げた状況ならばなおさらだ。
それに、自分にはサイボーグを取り締まる資格があるかすらはっきりとしていないのだから。

(この状態でも生きていられるのは……綺麗に斬られている所為か? それとも応急処置が早かったから? サイボーグ、だからか?
 それとも、こいつのお陰か?)

八神は右手に持った一本の棒、いや、杖を見つめる。
この共に入っていた説明書きが正しいのならば、なんと魔法の杖なる物らしい。
杖の効果は『毒や麻痺を回復させる、一日一回、成功率50%、代償として支給品を一つ失う』と書かれていた。
雑菌が原因で高熱にうなされるのも毒と言えば毒だろう。
書かれてはいなかったが、結果から見ると魔法の杖とやらにはひょっとすると裂傷にも効果があるのかもしれない。
その対価となった支給品は拳銃だ。
ただの拳銃ではない、八神の直属の上司、灰原の愛銃だ。
もちろんサイボーグ取り締まりに使っていた拳銃のため火力は申し分なし。
はっきり言って八神がこれを持てば鬼に金棒と言っていいだろう。
それほどの武器のため、もったいないと思いつつも人命とは変えられないと判断して対価として払った。
すると、不思議なことにデイパックの中に入っていた拳銃はなくなっていた。
どういう原理かは分からない。恐らく名簿をデイパックに送ったのと同じ理屈だろう。

しかしながら、当然疑問が浮かんでくる。
杖を患部に向かってくるくるとゆっくり回すだけで効果が発揮されるなんて、まるで魔法だ。
少なくとも八神の知識にはこんな便利な道具は存在しない。
それに杖と言うデザインも腑に落ちない。
わざわざ木で作ったかのように見せる必要性も感じない上に、ひどく脆い印象を与える。
思いきり力を入れればぽきりと折れるそうだ。

(……手触りは似てるけど、まさか本物の木ではないだろうしな。
 だけど、知識が半端な以上俺が考えても堂々巡りだな。そういうものなんだと納得するのが一番だ。
 今は……別のことだな)

謎の杖から切り替える他の事象へと考えを移す。


326:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:36:43 FO3Ugs/F0

そこで頭に浮かぶのは一人の少女、高坂茜と一人の女、リンのこと。
ピンク色のパーカーを着て元気よく走り回っていたのに、最近は何をするでもなくただ空中を眺めるだけで無気力となってしまった茜。
そして、茜と自分の前から去っていたリン。
放送の後にいつの間にか入っていた名簿を見た時は驚いた。
いや、驚いたなんてものではない。
このような異常な事態であればあるほど、落ち着ける訓練を受けた八神が軽いパニック状態になった。
仕方ないだろう、茜は動くことすら面倒だと言わんばかりの状態だ。
デイパックを片手に病院を飛んで行っても全くおかしくないほどだった。
だが、そうしなかったのは彼の持ち前の正義感と義務感の強さ、そしてよく回る頭のお陰である。
前二つによって重傷者を見捨てるような真似ができずに、最後の一つによって茜の無事に着いて理屈づけることが出来た。
茜が動き回るとは考えづらい、何をするでもなくじっと固まっているだろう。
そして、未だに殺されていないということは見つかりにくい場所、もしくは人が来ない場所。
そのどちらかに最初に居ると思われる。
となると、一先ずは安心していい。
殺し合いに乗った人間なら人が集まりそうな場所、つまりは食料や休息する場所がある市街地を目指す。
そして、茜がそんな場所に居るのなら既に殺されている可能性が高い。
もしくは誰かに保護されたか、考えられる限り最初の六時間を生き抜いたならばこれからも生き抜ける可能性もある。
それに芹沢真央と小波走太の二人や友達を探しに行った和那が助ける可能性がある。
リンに至っては死んでいる姿を想像する方が難しい。
強い弱いと言った問題ではなくそう言う女だ。
負けている姿や傷を負っている姿ならばかろうじて想像できるが、死んでいる姿は想像できない。
一人で生き抜いてきたことから、リンは危機を逃れる術を心得ている。
唯一不安なのは、リンが殺し合いに乗ってしまったのではないかと言うこと。
汚い世界で生きる以上、リンにも冷たい面が多大にある。
そして、茜が居ることで殺し合いに乗っていなかったが殺し合いに乗ることに決めた可能性もある。
少しオーバーな妄想だが、全員を殺して自分を殺してでも茜は生き残らせる、と考えてもおかしくはない。
だが、情報の少ない状態では動かないだろう。
これも職業病と言うべきか、リンは情報を集めてから判断するはずだ。
たかだか七時間やそこらで方針を確定させるほどの決断するほどの情報は集められないだろう。

……徐々に気持ちが落ち着いた頃には、茜以外のことを考えれるぐらいの余裕が生まれていた。
その後に生まれた不安は同僚の白瀬と上司である灰原の存在。
不安要素としてはこちらの方が大きい。
茜やリンと違ってどう動くのかが八神では読み切れない。
殺し合いに乗るか反るか、どちらも十分にあり得るように思えてくるのだ。
その原因は一か月前の夜の出来事に外ならない。
日本シリーズ進出を決めた夜、チームメイトであった石中 学から聞いた情報。
衝撃の事実、とはまさにこのことだった。


327:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:37:28 FO3Ugs/F0

『CCRは政府の機関じゃない、大神グループの非合法組織だ』

今まで信じてきた組織が私設の軍隊に過ぎなかった、それはにわかには信じがたい話だ。
とは言え、石中の話は確かに辻褄が合った。
政府の秘密機関なんて真偽を確認する方法がほぼ存在しない。
さらに、国家の安全と言えば口止めも容易。
政府の関係者だって自分が知らされていないだけかもしれないと考える。
大神グループほどの巨大な組織となればそれは不可能ではない。
あれだけの資金力を持てば警察上層部とも繋がりも持てるし、軍や警察向けの装備を作っている会社もある。
そして、CCRが秘密の組織だったのも自分達がアンドロイドを作っていたなんて非人道的行為を知られないため。
本当に危険ならば一般市民に注意を呼び掛けるべきなのだ。
筋は通るのだ。

だが、八神を驚かせたのはその次に石中が放った言葉だった。
証拠はあるのか、と言う言葉に対しての、石中の返答。

『あるとも。俺たちはアンドロイドなんだ。つまり、作られた人間だから絶対に普通の人間には戻れない』

最初は八神にも何を言っているか分からなかった。
しかし、すぐに気付いた。
絶対に人間には戻れない、だとすると自分が捕まえたアンドロイドはどうなったのだろうか?
そんなこと決まっている、とっくに処分にされたか大神の研究所に逆戻りだ。
一度逃げ出したモルモットに情けをかけるとは思えない。
それを石中たちサイボーグ同盟は承知だったから、こちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。

(黒駒課長と隊長は恐らく全て知っているだろうな。以前から妙な言動が多かったし、管理職だ。
 白瀬はドライだけど頼りにはなるから日本シリーズの後にでも相談しようと思ったんだが……こんなことになるとはな)

頭が痛い。
考えるべきこととやるべきことが多すぎる。
一先ずは和那と真央を信じて、目の前の男の容態を窺うだけだ。

そんな時だった、今まで身じろぎもしなかった男がガサリと布団を動かす。
椅子から立ち上がって

「ぅ……ん……」
「……大丈夫ですか」

少しずつ目を開けていく男へと、冷静を装いながら声をかける八神。
その頭の中ではどうやって声をかけるか考えている。
真央の話では意識がある時から腕がなくなっていたらしいが、そこは無理に突っ込む必要はないだろう。
八神はとにかく向こうが話出すのを待つのが一番だと判断する。
なるべく落ち着いて受け答えしないといけないな、と心の中で呟きながら男の姿を見る。


328:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:40:17 FO3Ugs/F0

「え……俺……あれ……?」
「ここは病院ですよ。貴方が倒れてたのを知り合いが見つけたから保護したんです」
「病院……保護……そうか、確か俺は殺し合いに……!」
「寝ていた方がいいですよ、その、血を流し過ぎてますから」
「血……? ……あ、う、腕……!」

男は狐に包まれたようなぼんやりとした顔から一転、突如として顔を青くして恐怖に歪む。
が、少しすると恐怖の色が薄くなっていき、寝そべったままこちらに声を掛けてくる。

「ふぅ……ふー、はぁ……」

汗に塗れた顔のまま、大きく深呼吸をして落ち着こうとしている。
その様子に、思ったよりも落ち着いている、と八神は安心した。
パニックを起こされたら非常に面倒だ。

「縛ったのは……?」
「俺ですよ。暴れられたら困るし、寝返りでベッドから落ちたらまずいでしょう?」
「……治療も?」
「素人芸で申し訳ないけどね」

縛ったのは腕がなくなっても存分に動けるタイプのサイボーグで殺し合いに乗っている場合を警戒してのことだった。
しかし、萩原の敵意を見せない言動から少し罪悪感を覚えてくる。
口ぶりが少し言い訳がましくなったのはその所為だろう。
八神はじっくりと観察するように男を眺め、やはり異様なまでに落ち着いていることを確認すると言葉を選びながら声をかけた。
まずは、名前から入るのが自然だろう。
その後は腕がなくなった原因を、いやあえて聞かない方が良いのだろうか、など様々な考えが八神の頭に巡る。

「で、名前は?」
「……萩原、新六」
「八神 総八郎。殺し合いには乗っていないから安心して欲しい」

なるべく穏やかな雰囲気を出そうと努めながら話しかける。
顔色や雰囲気から察するにサイボーグの類ではない、身体の疲労感と右腕の空虚感に耐えているのは演技ではない。
痛みは恐らくと言うべきか魔法の杖による効果だろう。
毒、つまり雑菌を取り除くのと同時に痛みまで取り除くのかもしれない。
だが疲労感は覚えている以上後手に回ってしまう心配はない。
ならば友好的に出て相手がボロを出すかどうか見ていればいい。

「無理に喋らなくていいですよ。頷くか、とにかくこっちに分かるような仕草を返してくれればいいですから」
「……」

荻原はその八神の言葉に頭を縦に振ることで返事をする。
さて、何から尋ねるかと考え、一先ず例の疑問を確実にするために今日が何日かを訪ねておくことにした。
例の、と言うのはタイムマシンのようなものを使っているのは確実だ。
それに荻原が殺し合いに乗っていない人物だとしたら情報は共有しておきたいところである。
それに、もし殺し合いに乗っていたとしてもこちらに不利になるような情報ではない。
亀田の力として時間軸を自由に動き回れるものがあるなんて、そんな情報が殺し合いに乗っている連中に有利に働くとは思えない。

329:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:41:09 FO3Ugs/F0

「今日が何年の何月か、分かりますか?」
「……?」

案の定と言うべきかやはりと言うべきか、萩原は眉間に皺をよせて不思議そうな眼でを眺めてくる。
いきなりこんな質問をされれば訳が分からないと思っても不思議ではないだろう。
だが、萩原はそれを頭がはっきりとしているかどうかの確認かとでも思ったのか、短く「四月、です」とだけ答えた。
四月、年数は言わなかったがそれだけで十分だ。
俺が十月、大江さんが八月。そのどちらともかけ離れているのだから。

「俺にとっての今日はYY年の十月二十二日なんですよ」
「……………………んなっ!?」

僅かに顔をしかめた後、徐々に、本当に徐々に驚愕の表情へと顔を染めていく。
萩原は今までの人間とは一線を異なるほどに八神の言葉に反応していた。
顔には焦りと怒りが入り混じった形容しがたい感情が浮かんでいる。
身体が固定されているのも忘れて起き上がろうと身体をもがき出す。

「YY年……!? ど、どういうことだよ!」
「い、いや、ちょっと落ち着いて……」
「これが落ち着いてなんていられるか!」

萩原は、YY年、という八神の言葉に今までの誰よりも激しい反応を見せた。
いてもたってもいられない、とはまさに今の萩原のことを言うのだろう。
八神はそれを宥める様に、しかし力強く抑え込む。
片腕の消失による多量の出血だけでも動けるわけがないのだ。
そこに興奮させてれば回復の見どころが薄くなる。

「くそっ……!」
「……何か、知っているんですね」
「っ! …………ふぅ」

八神の言葉に荻原は僅かに考え込み、そして深く呼吸をして垂れた頭を上げる。
背筋を真っすぐに伸ばした状態で、八神の目を見ながら言葉を放った。
その真剣な様子に思わず釣られるように八神も姿勢を正してしまう。

「タイムマシン、って信じますか」
「……まぁ、今回の件が原因で、なんとなくあるのかなぁ、とは考え始めましたね」
「実際にあるんですよ。完璧ではなくて色々と制約もつきますけど、確かにあるんですよ」
「……なんでそう思うんですか?」
「普通なら言わないんですけど……今は明らかに普通じゃないですから」


330:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:43:14 FO3Ugs/F0

萩原はもったいぶるような口ぶりを見せた後、鋭かった瞳をさらに鋭くさせて息を深く吸い重々しい言葉を放った。

「俺は未来から過去を改変しようとした犯罪者を追って時代を駆ける警察官……タイムパトロールです」

タイムパトロール、萩原は大真面目に、表情をひきしめて八神を真っすぐに見据える。
その様子に八神は少し困った顔をしながらも、まあ話を聞くだけ聞いてみよう、と比較的軽く考えた。
あまりその手の理論には詳しくないことから、判断のしようが難しい。
一年や二年の間で共通認識がズレているのだ。
このことから考えて、『タイムマシン』というオーバーテクノロジーが存在する可能性はある。
ならば、それを使って犯罪や、それを取り締まる組織があっても不思議ではない。
むしろあってしかるべきだ。
もちろん、同時に様々な疑問が浮かんでくる。
浮かんでは来るが、話は聞いてみようと思えた。
どうせ萩原の怪我ではここから離れることはできない、時間つぶしにはなる。
話を聞いて、萩原が嘘をついているかどうかを判断すれば良い。

「はぁ……タイムパトロール、ですか」
「タイムマシンが作られてから、そこそこに流通されました。
 悪どいことをすればある程度の確率で手に入る程度には。
 もちろん、その性能から多くの制約と法律の規制がかかっています。
 かかっていますが、そのタイムマシンを使って悪さをしようとする人間は出てきます。
 その人間を取り締まるために作られたのが俺たちタイムパトロールってわけです。
 ……恐らく、亀田もその類の犯罪者でしょう」

険しい表情のまま、ゆっくりと自分自身が確認するように呟いていく。
一方の八神はドラマやSF小説の設定を聞かされているような、現実味のない感覚を味わっていた。
タイムマシンがあるかも、と最初に思ったのは八神自身だ。
だが、それは抽象的で超越的な、便利な物を思い浮かべていた。
それこそ過去にでも未来にでも、昨日でも明日でも百年後にでも自由に行ける、何の制約ない便利すぎる道具。
だが、萩原の語りには幾らかの機能的な制約も付いているらしい。
こんな状況だが、妙な好奇心のようなものが湧いてくる。
もちろん、危機感や怒り、不安などの感情が心の大部分を示しているが、その中でひっそりと小説の続きが気になるような感覚が生まれてくる。

「んー、と言うことは、萩原さんの追っていた犯罪者が亀田ってことですか?」
「いや、たぶん亀田はまた別の人間だと思います」

八神が比較的自然に思いついた推測を萩原は簡単に切り捨てる。
亀田がタイムマシンを持っている=未来人。
そして殺し合いなんて非道な真似をすることから真っ当な人間であるとは思えない。
故に、未来から来た犯罪者と思って問題ない。
そして八神や和那に芹沢と走太の過ごしていた時代はそれほど大きな差はない。
恐らく今までの例から考えて萩原が犯罪者を追って来た時代も八神の時代とそれほど離れていないはずだ。
そのことから、亀田がここ数年の時代を標的にして犯罪を起こそうとしていたと考えられるだろう。
ならば、亀田=萩原の追っている犯罪者、と八神は思ったのだ。
それほどおかしな考えではない。
そんな風に不思議そうな表情をしている八神に説明するように、萩原はその理由を解説し始めた。


331:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:44:39 FO3Ugs/F0

「理由は幾つかありますが、主な理由として俺が我威亜党って組織を一切知らないことです」
「……?」
「何故、タイムパトロールが過去が改変されていることに気付けると思いますか?」
「そりゃあ、歴史が目に見えて変わったからでしょう?
 タイムパラドックスって理論は置いておくとして、もし過去を改変したのなら歴史の教科書や資料に影響が……」
「そう、それですよ。
 もし亀田が我威亜党なんて組織と共に大きな事件を起こしたのなら、俺はそのことを知っていて当然なんです。
「あ、なるほど」

確かにあの亀田は何時までも裏でこそこそとやるようなタイプの人間には見えない。
色々と根回しにしたり部下に仕事を任せるにしても、良いところは全て持って行きたがる様に思えた。
その亀田が自分の名前を一切表舞台に出さないと言うのも考えづらい。

「あと、補足するなら急に歴史が変わるわけじゃないですよ。
 歴史的資料や人の記憶や生活環境にゆっくりと馴染んでいくように改変されていくんです。
 だから、俺たちは歴史が変わったことに気づけます。
 と言っても、どこがどう変わったのかまでは確定できません。
 ある程度の時間をかけて完璧に知ることが出来るんです。
 そして、その歴史が確定されると言うことは元の歴史を思い出すことすら出来なくなると言うことです。
 つまり、俺たちは曖昧な情報を元に動くことになる、ということです」
「……ややこしいな」

SF知識はあまり豊富ではないし、よほどのことがない限り必要ともされないので学ぼうとも思ったことはない。
ある程度自己流に解釈しながら、萩原の話を八神なりに理解していく。
次に続く話を待ちながら八神は若干の好奇心とともに萩原に注視する。
だが、萩原は僅かに顔をしかめて、顔を天井へと向き直して疲れきった声で

「……すみません、未来人云々は後でいいですか?」
「ああ、疲れてるなら眠っていいですよ」
「悪い、で……」

警戒心や疑念を抱く間もなく、萩原は目を閉じて再び眠りについた。
腕から出した血液は致死量には届かないとは言え、それなりの量を失ってしまったのだ。
となると、当分は目を覚まさないだろう。
そして萩原が目を覚ますまでの間に八神がするべきことは情報を纏めることだ。
一先ず、萩原が愉快犯的におちょくっているという可能性を捨てることにする。

タイムマシンを使った犯罪、これは不思議なことではない。
銃があればそれを使った犯罪が起こる、ピッキング技術あればそれを使った犯罪が起こる。
サイボーグ技術があれば、それを使った犯罪が起こる。
それと全く同じだ、有史を振り返ればそれは簡単に理解できる。


332:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:46:15 FO3Ugs/F0

だから犯罪が起こった原因でなく、最も考えるべきことは『亀田はタイムマシンを使って何をしようとしているのか』ということだ。
まず考えやすいのは、技術が遥かに劣っている過去の世界で確固たる地位を得ようとすること。
あの芝居がかった口調や立ち振る舞いを考えると、世界征服を目的としている可能性もある。
次に考えられるのは、過去の世界で未来の技術を用いて好き放題に行動すること。
地位や財力などを目的としない、快楽犯罪者である可能性だ。
亀田と相対したのは一時間にも満たない時間、それだけの時間で性格判断をする技能は持っていない。

前者ならば、殺し合いを開く必要を感じられない。
わざわざタイムパトロールに見つけられるような真似をするのは解せない。
後者ならば、殺し合いを開いたことに納得できる。
亀田は人が殺し合う姿を見て愉悦に浸る人格破綻者で、我威亜党はそんな連中の集まりだと言うことだ。
しっくりくることを選ぶならば、やはり快楽犯罪者という線だろう。

「……その場合、殺し合いに勝つことができても生き残れる可能性は低いか?
 くそ、そこはゲーム重視か殺し合い重視かで変わってくるな」

ゲーム重視、つまり殺し合いを一つのゲームとして楽しむのならルールを厳守する可能性が高い。
殺し合い重視、つまり殺し合いをさせること自体が目的ならばその勝者を放っておく可能性は低い。

「結論として、まだ分からない、ってことか」

はぁ、と八神は肩をおろしながら軽くため息をつく。
今できることは、茜の身を心配しながら真央たちに託すことだけだろう。
一応、考察を進めておこうと思った瞬間、廊下から物音が聞こえた。

「!」

その音を聞いた瞬間、ドアの傍まで素早く駆け寄り外の様子を音で察するように身体をドアに寄せる。
僅かにコツコツと足音のようなものが聞こえる。
数は一つ、周囲を警戒するようにゆっくりと歩いている。
ただ、歩き方や息の殺し方からプロではないことだけは分かる。
さすがに所持している武器は判断できない。
丸腰である以上、こちらから仕掛ける真似は出来ない。
となると、やり過ごすしかあるまい。

「……すみません」

その声をかけられたのは、相手が去るまで息を殺そうとした決めた瞬間だった。
そのタイミングの良さに思わずドキリと心臓の鼓動が速くなる。
だが、それも一瞬だけ。直ぐに落ち着きを取り戻し、相手の出方を待つ。

「大江和那さんからここなら安全だと聞いて来たのですが……」

大江和那、八神が出会った最初に出会った尋常じゃないほど背の高い少女。
彼女は友達を殺し合いから止めるためにここを去った。
その道中で出会った人間、ということか。


333:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 16:48:18 FO3Ugs/F0

声の人間が安全かどうかを僅かの間だけ考え込み、一先ず応答することにした。
理由は単純に大江和那が死ぬと言う考えがすぐに湧かなかったから。
彼女が見せた不思議な動き、彼女の口ぶりからしてサイボーグを知り戦闘したことがある。
このことから考えても彼女が普通の人間ではなく、八神よりの人間だと言うことは明らかだ。

「動くな。もし動いたのなら、撃つ」

一先ずブラフとして釘を刺してから続きを促す。
足音が規則的なことから怪我をしている様子はない、よって交戦した可能性も低い。
恐らく大江和那に会い、ここに避難してきたと言うのは本当だろう。
本当だろうが、確認はしておきたい。

「あなたの名前は?」
「曽根村、と言います」
「一人?」
「……ええ、一人です」

僅かに空いた間に少しだけ引っ掛かりながらも問いを続ける。
大江とはどこで会ったか、殺し合いに乗っていないのか、武器は持っているか。
曽根村が真実を語る語らないは別として質問を重ねていく。

「貴方は今まで何をしていた?」
「水族館で鋼と言う男と進藤と言う少女と会って……二人とも死んでしまいました」
「……そうか」

曽根村の声には確かな悲しみがあるように思えた。
もう十分、とは言えないが覚悟を決めるしかない。
味方は多い方がいいのは間違いないし、知り合った人間が早々に死んで落ち込んだ人間を放っておくわけにはいかない。
もし腹芸をして八神を騙しているのでは、そんなことを考えていては切りがない。

「服を脱いで物を捨ててから手を上げてください」
「……」
「……初めまして、八神総八郎です」

物音で上はワイシャツ、下はズボンを脱ぎ棄てたことを確認し、ここで初めて曽根村へと身体を晒す。
曽根村はどう思ったのかまでは分からない。
ただ分かることは一つ、傷はない。
しかし、アンダーシャツと下着姿の中年はひどく滑稽だ。
仕方ないこととは言え、こんなことをしなければ一般人を信じる気になれない自分に少し嫌気がさす。
石中の話から自分は法の下に集う正義の集団ではない、と確信したから余計にだ。

「曽根村さん、こっちに来てるください」
「……ひどく簡単に信用してくれるんですね」
「こんな状況ですから、進んで丸腰になる人ぐらいは信じてみたいんですよ」


334:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 17:00:09 FO3Ugs/F0

その言葉を聞くと曽根村はキョトンと呆気に取られたような表情をした。
さすがに臭すぎたかと思いつつ、少し急かすように曽根村を病室の中へと入れる。
もちろん、荷物は廊下に置かせて服は脱ぎ捨てさせたまま、だ。

「そこに座ってください」
「ええ……」
「早速で悪いんですが、その二人が死んでしまった時のことについて聞かせて下さい」

先ほど死んだ知り合いのことについて尋ねるのは酷かと思うが、これからのことを考えると八神は尋ねざるを得ない。
少なくとも人を殺した人間が周囲に居るのだ。
それが事故であれ故意であれ、警戒すべき存在には変わらないのだ。

「……鋼さんは、水族館で三橋と言う男に殺されました。
 私も一緒に銃で交戦しましたが、訳のわからない真っ赤な手で鋼さんは死んでしまいました。
 進藤さんは……分からないんです」
「分からない?」

その言葉に八神は眉をひそめた上で首をひねる。
殺された時のことが分からないとは理屈に通っていない話だろう。
曽根村は話しづらそうに、だが、なんとか八神に分かるように伝えようと声を絞り出す。

「その、大江さんと別れてからしばらく経った後でした。
 少し、疲れていたのでゆっくりと歩いていたら……乾いた、音が聞こえたんです」
「乾いた音……というと」
「……じゅ、銃声、だと思います。私が辺りを窺うように前方を歩いて、進藤さんが後ろを歩いていたので気付かなかったんです。
 そ、それで、音に釣られて後ろを向くと胸からち、血を、流した進藤さんが……
 そこからは、とにかく無我夢中で逃げてきました。なるべく物の陰になる場所を通りながら、早く病院につけるように」

曽根村はそこまで言い切ると、何かから逃げる様に頭を抱え込み下へと俯く。
曽根村の服に血が付いていたのは別に不思議ではない。
銃殺なら撃ち抜かれた個所やそれぞれの立ち位置によっては血が飛び散らない可能性も十二分にある。
進藤って人を殺した犯人が曽根村を殺さなかったのは銃弾の制限か、単純に気付かなかったからか……
少し不可解ではあるが、説明が出来ないわけではない。

「つまり……近くに殺し合いに乗った顔も名前も分からない人間が居るってことですか」

八神は曽根村が最後まで話を言い終えたと思うと、確かめる様に呟く。
曽根村は反応する様子を見せずにただ俯き続ける。
これでまた頭を痛める要素が増えた。
三橋と言う男と、進藤明日香を殺した銃を持った人間に、浜野朱里。
殺し合いに乗ったと思われる人間が周囲に三人もいると言うことだ。


335:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 17:02:52 FO3Ugs/F0

「そこでじっとしていて下さい」
「……」

八神はゆっくりと席を立って、曽根村から目を離さずにドアの方向へと移動する。
フォローをするべきなのかもしれないが、一先ずは曽根村は放っておくことにした。
いい年なのだ、自分を安定させる術ぐらいは持っているかもしれない。
それに曽根村の見た目からは武器を隠せるようなスペースはない。
少しだけ眠っている萩原を残して部屋を出ることを躊躇うが、曽根村を信用することにした。

「……大丈夫です。そこの男も、曽根村さんも俺が守りますから」

そう言い捨てて扉を閉める。
外に出てから僅かに扉に耳を当てるが、中で何かが動く様子はない
注意しながら、それでも素早く曽根村が廊下に残したデイパックと服を漁る。
まずは服からまさぐっていくと、内ポケットから一丁の拳銃を見つけた。
僅かに焦げたにおいがする、少なくとも一発は撃ったことがあると言うことだろう。
曽根村の言ったことを鵜呑みにするなら水族館で発砲したことになる。
穿った見方をするなら、水族館では発砲せずに進藤を殺す際に使ったことになる。
銃身は、若干だけ熱を持っている、ような気がする。
熱を持っているようにも持っていないようにも判断できる感覚だ。
銃の中の残りの弾は三発消費、予備のマガジンは六発入りがちょうど五つ。
弾数の区切りからしても三発しか消費していないと考えていないだろう。
他にはめぼしいものは服には隠されていない。
次はデイパックの中を調べる。
綺麗なナイフが一つと食料や地図といった八神にも大江にも入っていた共通の支給品と思わしき一式。

「これだけじゃ判断はできないな……」

曽根村が黒か白か、八神はひとまず黒に近い灰色と言う評価を下した。
やはり進藤という女が死んでいるのに、曽根村だけ無事と言うのが気にかかる。
だが、嘘をつくのならもっと凝った嘘をつくのではないか、という気持ちもある。
現実とは得てして不可解なことが多い。
本当に曽根村が殺されなかったのは、ただの偶然で知り合いの死を深く悲しんでいることだって十分にある。
それに、八神としてはこんな状況だからこそ人を信じてみたい。
疑心暗鬼に陥るような真似はしたくない。
曽根村は自ら丸腰になったのだ、向こうはとにかくこちらと協力したがっていると言うことだ。

(とは言え、銃は貰っておかないと……さっき失くしたばかりだし)

どう説得するかが少し面倒だが、自身専用の武器はやはり確保しておきたい。
殺し合いに乗っていても乗っていなくても、他人に武器を渡すと言うことは避けたいだろう。
まあ、それはそれ。後で考えればいいし、最悪銃を手に入れられなくてもいい。
どれだけ警戒をしても、警戒のし過ぎはあり得ない。
警戒は怠れないのだ、何せこちらには動けない萩原が居るのだ。
この状況でCCRや身体を強化したサイボーグが襲ってきたら、そのことを考えるだけで背中へと冷たい汗が走る。
危険が目に見えて増していく現状に、どうにも不気味で嫌な感覚を覚えていく。


336:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 17:04:55 FO3Ugs/F0

「……茜」

殺し合いに乗った人間が居る、命が危ない、その言葉で思わず思い出してしまう。
意識的に考えないようにしていた人間、その人間の名をポツリと呟いてしまう。
今すぐにでも茜を探しに行きたい気持ちと、曽根村と萩原を放っておけない気持ちがせめぎ合っている。
それでも病院に留まっているのは、やはり困っている人を見捨てられないから。

「……」

廊下の東側の窓から太陽を覗きつつ、茜の顔を思い浮かべる。
和那や真央たちを当てにするしかない。
今、八神がすべきことは茜を見つけて直ぐに脱出、もしくは亀田を倒すための方法を模索することだ。


【F-6/病院/一日目/午前】
【八神総八郎@パワプロクンポケット8表】
[状態]健康
[装備]ナイフ、ブロウニング拳銃(3/6、予備弾数30発)
[道具]支給品一式×2、魔法の杖@パワプロクンポケット4裏
[思考]
基本:バトルロワイヤルを止める
1:しばらくは籠城。
2:茜が心配。
3:曽根村を信じたいが、警戒は怠らない。
4:浜野朱里に注意。
5:白瀬、リン、灰原が殺し合いに乗ったのでは?と疑っている。
[備考]
※走太と真央から、彼らにこれまでであった話を聞きました。
※荻原との話でタイムマシンの存在を確信。

【萩原新六@パワプロクンポケット6】
[状態]:左腕欠損、腹部に軽度の切り傷、貧血(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、野球用具一式(バット8本、ボール7球、グローブ8つ)@現実、野球超人伝@パワプロクンポケットシリーズ、パワビタD@パワプロクンポケットシリーズ、自身の左腕
[思考・状況]
1:???

【曽根村@パワプロクンポケット2】
[状態]右手首打撲
[装備]アンダーシャツと下着以外は着ていない。
[道具]なし
[思考]
基本:漁夫の利で優勝を目指す
1:一先ず病院で休憩。
[備考]
※タイムマシンの存在を聞かされていません。


337:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 17:05:57 FO3Ugs/F0

【魔法の杖@パワプロクンポケット4裏】
ヤマダがルクハイドの魔女から貰った魔法の杖。
素人でも100G払うことで毒や麻痺を一日かけて成功率50%程度の確率で直すことのできる。
今回はところどころを弄った状態で支給。
さらに金ではなく支給一つを失うことで使うようにした。

【灰原の拳銃@パワプロクンポケット8】
灰原が本編で使っていた拳銃。
サイボーグ対策のため装甲対策を施していたと思われる強力な拳銃。
魔法の杖の効果の対価として


338:MISSING RELATION ◆7WJp/yel/Y
09/08/13 17:08:04 FO3Ugs/F0
投下終了です
それと失礼、八神総八郎の状態欄に茜ルートBADからの登場だと書き忘れていました
少し冒険、と言うか無茶な部分もあると思いますので指摘、よろしくお願いします

339:ゲーム好き名無しさん
09/08/14 19:18:03 1i86S/fZO
投下乙です


340:ゲーム好き名無しさん
09/08/15 09:59:27 JMgyg0M6O
投下乙です。


341:ゲーム好き名無しさん
09/08/15 21:37:49 8CVCnzEp0
乙!
何やら八神に不穏なフラグが立ったような
萩原も話しを小出しで寝ちゃうし、何よりソネムーという爆弾が

それにしても、もう八月も中盤か
書こう、書こう思っても一向に書いてない…
俺、九月に入ったら最低でも一作は投下するんだ…

342:ゲーム好き名無しさん
09/08/15 22:24:11 lWZPVdX20
>>341
おお……楽しみに待ってますぜ!

343: ◆7WJp/yel/Y
09/08/18 23:48:07 0rVaFc8k0
ゲリラですが投下をば
主催サイドです

344:Where I am? ◆7WJp/yel/Y
09/08/18 23:48:49 0rVaFc8k0

高い、高い、空まで続いていそうなほど高い天井を、私は何をするでもなくぼんやりと眺めていた。
ここは私の、我威亜党等幹部であり子爵の名で呼ばれる寺岡 薫に与えられた研究室ではない。
兵器がその力を発揮するまでの間、穏やかに眠り続ける寝室の役目を果たす格納庫だ。
その代表的な兵器が、格納庫の西に堂々と仁王立ちしている巨大な蒸気型鉄人である。
ちょうど八時間前、人の命を奪った兵器だ。
それを思い出すと何もかもが嫌になってくる。
何が一番嫌かと言うと、人殺しに加担していると言うのにのうのうと研究を続けている自分自身だ。
以前は何千万と言う人間を無差別に殺す兵器を開発し、今回は六十に届く人間を殺し合わせるという悪魔の如き所業に手を貸している。
しかも、この二つの非道を起こしているのは同じ組織であり、その事実を知っていて研究成果を渡しているのだ。
愚かなものだ、人道的な思考をするよりも早く研究が出来るという欲に目が行っている。
そこで思い出すのは自身がかつてある冒険家に放った言葉と、ある革命家に放たれた言葉。

『このご時世に女に資金を提供する組織などない』

『貴方は何かを発明しなければ気が済まず、我々はそれを使わずにいられない』

まさにその通りだ。
私が満足に研究するためには我威亜党に傅くしかなく、我威亜党はその研究成果を良心を一切持たずに使い続ける。
そんなことはよく理解している、一度は口を挟んで使い捨てのようにされたのだから。
そして、それでもなお私はここに居る。
本当に愚かな女だとしか言いようがない。

「おや? 誰かと思えば寺岡子爵じゃないでやんすか」
「……!?」

何の前触れもなく、後方から声をかけられる。
振り返るとそこに居るのは一人の男。
その容姿からは平凡な一般男性と似たような印象しか持てない。
しかしながら、実態は『一般男性』なんて言葉が世界一似合わない人物。
権力欲、自尊心が人の五倍は大きく膨らんでいる典型的な悪い独裁者を形にしたような男。
能力は高いことは高いが、天才と言えるほど高いわけではない。
この男を『最悪』たらしめているのは『世界』と『世界』を行き来できる不可思議な効果を持つ機械が原因だ。
現に我威亜党がここまで大きな犯罪を続けることができたのは、この男の持ち込んだ『別の世界』の道具あってこそなのだから。

「どうしたんでやんすか、こんなしみったれたところで?」
「いやぁ、それを言うなら皇帝陛下も一緒じゃないですか」

少しの強がりを含めた咄嗟の返しに亀田皇帝は笑みを深くする。
その質問を待っていた、と言わんばかりの笑みだ。
つかつかと格納庫の奥へと向かい、降ろされた暗幕をにやつきながら怪しい手つきで撫でる。


345:Where I am? ◆7WJp/yel/Y
09/08/18 23:49:42 0rVaFc8k0

「こいつをね、見に来たんでやんすよ」
「こいつ、と言いますと~?」

まさか暗幕のことではあるまい。
案の定と言うべきか、亀田皇帝は鍵を取り出し、閉じられていたスイッチの集まりをむき出しにする。
状況から考えると、あの中のどれかのスイッチを押すことで暗幕が開かれるのだろう。
想像通り、亀田皇帝の指一つで暗幕は反応し、ゆっくりと暗幕はその姿を消していく。
そして、その暗幕の奥から、一つの巨体が姿を現した。
その姿には私もよく見覚えがある。
これは、この巨大な鉄の塊は、蒸気型鉄人だ。

「これでやんす、どうでやんす? 湧き出る威圧感がそこのゴーレムとは段違いでやんすでしょ?」

暗幕の奥に眠っている『それ』は西に聳え立つ蒸気型鉄人とは明らかに違ったものだった。
人型と呼ぶには明らかに異質すぎる。
『それ』は見るからに大きく、重く、太く――例えるなら辛うじて人を連想させる形を取った小さな要塞。。
ずんぐりとした体躯には足と呼べるものが存在せず、下半身には短く配電線のような何かがはみ出ている。
巨大な樽のような胴体に繋がれた両腕も従来の鉄人のそれとは大きく違う。
肩は丸みを帯びているが、一つの大きな角が外へと向かって突き出ている。
その西に聳えるもう一体との明らかな違いから、これが特別な何かなのだということは十分に理解できた。

「こいつがオイラの切り札、遺跡から見つけた幾つかのオリジナルの一つをオイラが独自に改造したゴーレム。
 名づけるならばν頑陀亜浪菩(にゅー・がんだーろぼ)でやんす」
「ν頑陀亜浪菩……」
「ふふ、今日はひどく気分がいいでやんす。子爵にはこいつの本当の凄さを見せてやるでやんすよ」
「本当の、凄さ?」
「そう、こいつの凄さは機体自身の火力や機動力、耐久力でもないでやんす」

嬉しそうに語る亀田皇帝の表情は嘘ついているようには見えない。
興奮が前面に押し出してつかつかと大股で頑陀亜浪菩・νへ近づいていく。
どうするか迷ったが、結局私はスポンサーのご機嫌を取っておくことにした。
こんな状況でも私は研究できる施設を手放すのが惜しいと思っているようだ。
ガチャリと腹部に当たる箇所が開く、ここが搭乗口になっているのだろう。
亀田皇帝に続き、自身もその内部へと這い上がっていく。


346:Where am I? ◆7WJp/yel/Y
09/08/18 23:50:59 0rVaFc8k0

「こいつでやんすよ……オイラがνを切り札と呼び、暗幕に隠していた理由は」

少し手こずりながらも私はなんとかνの内部へと入ることができた。
私はメガネのずれを直しながら、頭を上げて内部を見渡す。
内部は思っていたよりも広かった。
奥行きも深く天井も高い、下手な長屋住居よりも広いぐらいだ。
押し詰めれば十五人は入るのではないだろうか?
しかし、そんな広さの感想も直ぐに打ち消された。
それよりも目を引かれるものが中心に聳え立っていたからだ。

「……人間、ですか?」
「そう、人間でやんすよ。最も、これを人間と呼べるのだろうかは微妙なところでやんすけどね」

亀田皇帝の言葉は何もおかしくはない。
νの中心にあったのは培養液に満たされた巨大な信管とその中に目を瞑って浮かんでいる一糸纏わぬ姿の少女だ。
少女の肌にはシミ一つ存在せず、何らかの液体の中に揺れる長い髪には癖一つなく艶やかに広がっている。
顔立ちも整っており吊り上った目と、透明な何かに覆われた小さな鼻と口はバランスよく配置されている。
生まれたままその均整のとれた裸体には何本の線が纏わりついている。
絶世の美女、とはいかずとも成長すればとても魅力的な女性になるだろうと思える。

「この人は、生きているのですか?」
「生きてるでやんすよ、オイラの持つ全ての技術と知識を総動員して延命を施しているでやんす」
「え……?」

亀田皇帝の言葉は私にとって意外としか言いようのないものだった。
血も涙もない自尊心と権力欲の塊のような亀田皇帝が一人の女性を延命しているなんてにわかに信じられない。
ひょっとすると、今までの悪行にも何か理由があってのことなのだろうか?

「あの、この女の子は一体……?」
「こいつが、オイラの最大の長所を限界までに伸ばした正体でやんす。
 いや、弱点を失くしたと言うべきでやんすかね?」
「……?」
「こいつはね、超能力者なんでやんすよ。それもオイラと相性ピッタリのね」

僅かの間だけその言葉が理解できなかったが、失望と共にその言葉の意味が胸の中へと訪れた。
生かしておいておく価値とやらまでは分からないが、この女性の人格には何ら興味はないらしい。
少しでも亀田皇帝の善性を信じた私が馬鹿だった。

「この女の名は……なんでやんしたかね? まあ、それは些細な問題でやんす。
 こいつは世にも奇妙な超能力を操る者、超能力者の中でもさらに希少な存在。
 ワームホールだとか、デス・マスだとか、ババヤガンなんて能力よりもオイラと相性ピッタリの能力の持ち主。
 ずばり、『確率変動』の能力を持つ女でやんすよ」
「確率変動……って、言いますと?」


347:Where am I? ◆7WJp/yel/Y
09/08/18 23:51:44 0rVaFc8k0

あまりにも突飛な単語に、私の脳が追い付かない。
私はなんとかオウム返しのように問いかける。
亀田皇帝は説明をするのが楽しくてたまらないと言った風に、口を止めずに言葉を滑らせていく。

「その名の通りでやんすよ、この女は1%を100%に出来るんでやんす。
 確率の操作、起こる出来事がどんなに低くても絶対に成功させるんでやんす。
 証明は厳密に言えば不可能でやんすが、」
「……えーっと、つまり自分が望んだ通りの出来事が起こるってことですか?」

それが真実ならば凄い、としか言いようがない。
頭のいい人間が手に入れても、頭の悪い人間が手に入れても、悪い結果にしかならない。
絶対に不可能なこと以外は自分の思い通りにことが運ぶようになるのだから。

「……って、ちょっと待って下さい。それならそれで世界征服をすればいいだけの話じゃないですか」

そうだ、そんな一厘しかない事象を十割に変えられるのならば、手下など必要ない。
この少女と頑陀亜浪菩νともう一体の頑陀亜浪菩、そして鉄人さえあれば今にでも世界を征服できるのではないか。
我威亜党なんて芝居がかった組織を作る必要なんてない。
私の言葉に亀田皇帝は楽しそうに、しかし少しだけ憂いを持った複雑な表情で言葉を返した。

「つまらないでやんすよ、そんなもの」
「は……?」
「オイラ自身の手で愛と勇気を振りかざす連中を倒してこそ意味があるんでやんす。
 あの借金探偵に勇者やら中間管理職の忍者、英雄に近い宇宙船長たちの鼻を明かせるんでやんすよ!
 だから、準備に準備を重ねてからやることに決めたでやんす、どーせ例の如くお邪魔虫が湧くに決まってやがるでやんすからねぇ」
「……これも、準備なのですか?」
「当然!」

亀田皇帝の目はその『次』への野望に輝いている。
そして、その目には今行われている惨劇自体への興味は薄いように私には見えた。
この惨劇での目的が達成されるのが当たり前だと、そう確信している。

「ところで、この少女は……?」
「ああ、そう言えばその話だったでやんすね。
 こいつは暗示装置と薬の連続でほとんど自我と言う物が薄まっているでやんす。
 つまり、心の一番深いところが無防備なまでに剥き出しになっている、とも言えるでやんすね。
 まあ、この状態で電気信号やら口八丁やらを使って能力を強制的に使わしてる、って感じでやんすよ」
「……」


348:Where am I? ◆7WJp/yel/Y
09/08/18 23:52:33 0rVaFc8k0

吐き気がする。
もはや表情を取り繕うのも厳しくなってくる。
聞くんじゃなかった、人体実験は私の専門外だ。
いや、今さらからも知れない。
私は既に殺し合いなんて馬鹿げた、悲惨極まりない企画の手伝いをしているのだから。

「ふふ、どうしたでやんす? ずいぶんに顔色が悪いじゃないでやんすか。
 じゃあ、オイラは秋穂侯爵の所に行ってくるでやんすからね。
 ああ、そうそう。νを勝手に弄ったら……どうなるかぐらい分かるでやんすね?」
「ッ!?」

脅しのような、からかいのような、どちらにでも取れる言葉を放ってνの中から亀田皇帝は出ていった。
取り残された私はじっと内部を眺める。
今の私では理解できない水晶板と複雑な英数字。
中心へと向かい、私は巨大な試験管へと手を触れる。ちょうど少女の眼前に当たる位置だ。
長い髪の少女は何の反応も示さなかった。
亀田皇帝の『暗示装置と薬の連続』という言葉の通り、少女は外からの何かしらの衝撃がない限り目を覚まさないだろう。
目を覚ましても亀田皇帝の持つ妖術という胡散臭いものや、何処からか持ち込んだ暗示装置で操られる。
彼女は今までそうされてきたのだろう。
そして、これからもそうなるだろう。
亀田皇帝は自身が立ちあげたこの殺し合いを『次への準備』と言った。
つまりこれは、亀田皇帝の暗い欲望を満たすためだけでなく、世界征服という目的を果たすための準備なのだろう。
それがなんの実験なのかは私は知る由もない。
今の惨劇を超える未来の惨劇への実験なのか、単純な何かを作るための儀式なのか。
実験を続けることが出来る、という欲望に抗い切れない愚かな私にはそれを察することが出来ない

ただ、そんな愚鈍な私にも一つだけ分かることがある。

私はどうせ研究を続けるだけだろうし、少女に至っては思考することすら許されないということだ。



349: ◆7WJp/yel/Y
09/08/18 23:53:32 0rVaFc8k0
投下終了です、正直厳しいかも……と思っているので指摘お願いします

ついでに久々の現在地、すっかり忘れてた……
URLリンク(takukyon.hp.infoseek.co.jp)

350:ああ
09/08/20 16:14:14 +HXMWz+FO
まさか亀田もこの自信作が中学生にボコボコにされるとは思って無かっただろうなぁw

351:ゲーム好き名無しさん
09/08/20 21:33:43 Wv1MlQM5O
なんか唐突でオリジナル要素が大きすぎるような気が…。
ν頑陀亜浪菩や確率変動の少女とか。
それにワームホール、デス・マス、ババヤガンの三人の出てる11の時間軸のキャラが出てないのに何で亀田が知っているか、知っていてなんで殺し合いに連れて来なかったのかが疑問です。

それに確率変動の能力が本当なら亀田には捕まらないと思うな。
それこそ逃げよう思えば100%逃げられるし、洗脳されないように抵抗すればそれも100%だし。

352: ◆7WJp/yel/Y
09/08/20 22:43:42 7SdKE6VV0
>>351
えーっと、色々と理由はあるんですが。
まず、ν頑陀亜浪菩と確率変動を出したのは並行世界移動装置でバトルロワイアルと開催できた理由の裏付けのためです。
並行世界移動装置の行先は完全ランダムなので、確率変動の力で確定させた、という。
そして、デス・マスたち超能力者を知っていたのは彼らが11の時間軸になって唐突に表れたわけではないので知っていてもおかしくないと。
連れてこなかったのは、上川が居るのに美空がいなかったり、さらが居るのにナオが居ないのと同じように、その存在を知っているから必ずしも殺し合いに参加させるわけではないのでおかしくはないと判断してです。
捕まった原因は研究所を襲ったか保険医と手を結んでたかで決めかねたので、確定させないで出しました。

……似たような世界に二度も行けたっていう謎に対する解答の小出しのつもりだったけど早かったしかなり読み取りにくかったと反省しています


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