08/11/30 20:20:01 a61PEx8E
入ってきたのはローマイヤだった。彼女は最初、いつも通りの淡々とした表情で入室してきたのだが、それは扉をくぐって三歩目で崩壊した。
「!」
ローマイヤは入室して、場の惨状を目撃すると、手に持った数枚の書類をパサリと落とした。
その気配に気付いたロイはナナリーから体を離して振り返る。
そして、ロイが離れて、今までナイトオブラウンズの白い軍服で隠れていたナナリーの姿を確認すると、ローマイヤは雷が直撃したかのように身を震わせた。
ナナリーは泣いていた。そして、それに抱きつくナイトオブゼロ。
その意味を解釈したローマイヤの瞳が驚きから戸惑いになり、やがて怒りになって、その肩はワナワナと震えた。
みるみる内に表情が変わっていくローマイヤにロイは気の抜けた声をかけた。
「ど、どーしたのローマイヤ?」
ローマイヤは、過去のの好意的? な視線から180度変化させて侮蔑と軽蔑をごった煮にして煮詰めて、さらに悪意をブレンドしたような瞳でロイを睨みつけ、怒鳴りつけた。
「見損ないましたキャンベル卿!!」
「?」
「そ、そ、そ、総督に手を―」
「手を?」
「手を出すなんて!」
「………………はい?」
ロイはローマイヤの言っている意味を理解できず、呆然と聞き返した。それとは対照的に、ローマイヤは素早く身を翻して、部屋の壁に付いている防犯ベルのスイッチをポチッと押した。
ジリリリリリリリリリリ!
政庁に割れんばかりのベルが鳴り響いた。
○
ローマイヤが鳴らしたベルは政庁全体に響き渡った。
「ナナリー総督の部屋からです!」
政庁の警備を担当する部署では、それを確認した兵が、上官に顔を向けると同時に言った。
「なんだと!?」
その報告を受け取った中年の上司は目を剥いた。そして、彼の頭の中にある考えがよぎった。
(まさか、黒の騎士団か!?)
ありえない話ではなかった。いくらゼロと黒の騎士団の大部分が中華連邦に亡命したといっても、その全てが亡命したわけではないのだ。
黒の騎士団は中華連邦に亡命したと思わせて、エリア11の政庁の警戒を緩ませ、それに乗じて潜伏させていた工作員に総督を襲わせる。
現実味のある推測だ! と、少なくともこの上司は思った。
「おのれ!」