21/06/25 17:07:22.36 cVi+6ey4.net
北海道の初夏と言うには少し早い6月。
道東、阿寒湖畔。
安物の胴長を身につけた星野よしおが鋭い眼光で湖面を睨んでいる。
胴長の中は汗が滴り、その汗は指先まで濡らしている。
バシャッ!
湖面を割って50センチを超えるアメマスが跳ねた。
気づくと夕暮れが、昼の明るさを飲み込もうとする時間になっている。
湖面から湧き立つように、モンカゲロウやユスリカといった虫たちが飛び立ち始めていた。
「これがスーパーハッチか。この瞬間をどれだけ夢見たことか。今自分は奇跡の瞬間に立ち会えたのだ。」
星野よしおはティペットの先に8番フライを結び、まさに今、湖面に現れた波紋の中心にその毛針を落とす。
刹那。水面を破って出た魚がその毛針を呑み込み水中へと消えた。
星野よしおの手にずっしりとした重みが伝わる。
ギィーーーーーーっとリールが鳴り、ラインが繰り出されていく。
初めてのリールファイトを楽しむ余裕などあろうはずもない。
星野よしおは逆回転するリールを力任せに手で押さえ付けて、それ以上ラインが出ていくのを防ぐ。
大きい!大き過ぎる!
ガッツリとフライを咥えたその魚は60cmを遥かに超えるアメマスに違いない!
そうじゃなければまぼろしの魚イトウか!?
と、そこで星野よしおは目が覚めた。
一瞬自分がどこにいるのかわからなかったが、すぐに亀田川で野営していたことを思い出した。
すべては夢だったのだ。