22/07/23 11:05:39.75 xZi4e9EM0.net
>>232
下町の姫に捧ぐ一皿 後編
夕方になりました。とは言え日暮れはまだまだ遠く、ただただ蒸し暑い夕方です。
他の仕事を終えた小Yさんが、珍々軒へ出勤しました。小雅ちゃんと交代です。
「ご苦労だったね小雅、ありがとうね」
「うん!忙しかったけど楽しかったよ」
小雅ちゃんはエプロンを小Yさんに渡しました。文字どおりバトンタッチです。
「母ちゃん、ちょっとだけシャンちゃんとこ寄ってもいい?」
「気をつけて行くんだよ、皆さんによろしくね」
「ああちょっと待った小雅ちゃん、これさあ」
大将は小雅ちゃんに、ふたつの小さな包みを手渡しました。
「お友だちに、ちょっとつまんでごらんって渡してくんないかな」
「お友だちに?いいんですか?」
「きゅうりのぬか漬けと、こっちがメンマ」
「ありがとうございます!これから行くところなんです」
「生野菜とは違う香りと食感で、気分が変わるといいんだけど」
「分かりました」
「きみのじいじが好きだったメンマだよって、そう伝えて」
「シャンちゃんのことだって分かってたんですか?すごーい!」
小雅ちゃんからの尊敬のまなざしを背に受けて、大将は休憩に入りました。
しばらく休んだら、再び暑い厨房に立って夜に向けての仕込みが始まります。
『孫は宝ものじゃよ、日本にそういう歌があるじゃろ』
『あの観覧の大行列よ、ウチの孫は姫さまのようじゃ』
孫自慢の止まらない爺さんを思い出し、大将は烏龍茶のグラスを軽く掲げました。
(梨)