万葉県at DENPA
万葉県 - 暇つぶし2ch772:真琴
20/09/06 00:30:05.55
小さな庭に面した縁側のある和室で座卓に向かって勉強をしている、
硝子戸の向こうの庭はほんとうに小さく、すぐ向こうに塀が見える、
塀は下の方が開いていて、すぐ外を流れる「痕跡的な小川」が見える、
小さい頃この家に遊びに来たわたしはよく従姉妹と塀の下を抜けてこの川に沿って歩いた、
川の道をどんどん歩いてゆくと「つぎはし」に至り、さらに歩いてゆくと、

773:真琴
20/09/06 23:10:47.47
手児奈さんの参道と真間山のあいだを走る道、真間川と平行な道を、
そのままどんどん歩いてゆけば、あの場所の
南辺の道に続いているような気がする、歩いてみようか、
歩いてたどり着く場所は、広大な更地なのか、『宮殿』なのか、
それがどちらであるかによってこのversionについての理解が

774:真琴
20/09/07 01:13:21.02
従姉妹の家の窓からは、広い歩道を伴った広い車道の幹線道路が見下ろせ、
道の向こう岸は大きな公園で、樹木が林のように並んでいる、
しかも三階の部屋の下、地下一階から二階までは古本屋という、
従姉妹にとっては当たり前なんだろうけど、わたしにはとても変わった経験で、
短い期間とは言えこんな家で暮らすのは楽しい。深夜、閉店後の古本屋で

775:真琴
20/09/07 23:35:29.99
家の裏手が樹木に覆われた斜面で、見上げると山、というような家に棲むのは
どんな気分なんだろう。やま、やみ、よみ。家のすぐ裏手に
やま、闇、黄泉が迫っている。更地、もしくは『宮殿』の北辺の向こう側は
ちょっとした「やま」になっている。と言っても、「やま」というより
丘に過ぎない程度の隆起なので、殺人鬼に追いかけられている、とかいう場合なら

776:真琴
20/09/07 23:46:03.99
陽がとうに沈み、夜が始まる頃、内海にのぞむ堤防に沿って歩く。
海に向かって右のほうには山並みが、
街を抱きかかえる巨人の右腕みたいに連なっている。
その頂上のあたり、黒々とした樹木のあいだに電気の灯かりが煌々と光っていて、
ホテルの宴会場か何か、大きな空洞空間をぽっかり浮かび上がらせている。

777:真琴
20/09/07 23:47:05.06
裏庭の塀の下をくぐり、「痕跡的な小川」に沿って歩く。隣家の裏庭の
無表情なブロック塀とか、マンションのベランダなどの狭間を歩き、
やがてすぐ「痕跡的な小川」は「つぎはし」に、つまり大門通りに出る。
「つぎはし」に脇からよじ登る。これは従姉妹とわたしが家から外に出るときの、
標準的なコースの一つだった。だが、「つぎはし」の反対側から再び「痕跡的な小川」に

778:真琴
20/09/08 00:48:42.98
「痕跡的な小川」は家の裏側と裏側の狭間を進む、古い木造家屋の
凸凹した直方体の区画とか、なかに誰か生存しているのか否か不明な、
不透明な白い硝子の窓とか、明らかに壊れかかった家とか、
両岸はどんどん奇妙な家並みになってゆき、気がつくと、あるはずが無いのに、
真っ直ぐ前方に「やま」が現われ、暗渠またはトンネルのようになって

779:真琴
20/09/09 23:35:09.54
いや、この通路、「痕跡的な小川」は、真っ直ぐでは無く、
右に大きく湾曲していなければおかしい、そう考えた瞬間、
空中に、虚空に、上空に、七弦琴を抱いた黒衣の花嫁が見える、
見えた瞬間に座標変換が起こった、この時空を磨り潰そうとしている、
わたしはハイパーチャートを経由してその変換を無効化する。

780:真琴
20/09/09 23:40:40.42
黒衣の花嫁は、わたしは、一瞬意外そうな顔をする、
それはそうだろう、「必殺」の座標変換が通ったと思った5ナノ秒前に遡って
解体されるのだから、わたしは、わたしはすかさず、とんっとガイアを蹴り、
アーカーシャの中空に跳ぶ、跳んだ瞬間に座標変換し、
「万葉県市川市」の全貌を眺め渡す、遠くで蓮の華が開いている。

781:真琴
20/09/09 23:48:49.45
わたしが開いたチャートのなかに、気がつくと黒衣の花嫁が、わたしが、
浸入してきている、無数の蟲の群れのように、水分子のように、
スキマからしみこみ、至る所で座標をとろかしている、わたしは、わたしは
一帯を焼き払い……、いや、それではあまりにもありきたりだと思い、
むしろわたし自身が水分子より微細になり、わたしのチャートを粗暴化させる。

782:真琴
20/09/09 23:58:14.91
わたしは七弦の琴をかき鳴らし、7次元時空を変調させる、
粗暴化させられたチャートを斜めに立てて、わたしの水分子より微細な
網の目をくぐらせ、「虚(うろ)」へと退く、遠隔地の保育園へ自転車で行く道は
一瞬坂になり、坂の盛り上がりでは墓地のブロック塀の横を走る、
車道からこの隘路に左折すると、うろうろするうちにそのポイントに出、

783:真琴
20/09/10 00:09:12.45
NOVA警察では突如わき起こった黒衣の花嫁と女帝アグノーシアの戦闘を、
どう解釈すれば良いのかわからない、この車道と大門通りが交差するあたりに
古本屋が二軒ある、大門通りに沿ってフダラク市まで翔べば良いのか、
都電がサンシャインの裏あたりを走る状景が紛れ込んでくる、椿の花、
椿の花の蜜を吸う、小川が小さな橋の下を流れている、

784:真琴
20/09/14 01:45:16.99
わたしの最初の主著は『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』だが、
その後、アーカーシャ形式での記述が主流になるに連れ、ほんらいの
「同一カオス」という概念は希薄化していった、だがこれは、あくまで
「同一カオスにおける多重コスモス場」なのであって、そもそも
『アーカーシャにおける時間発展と射影構造』自体が「同一カオス」のうえで定式化される。

785:真琴
20/09/14 23:38:41.64
兆し、version、分枝、そういったものをアーカーシャのなかで並列させず、
同一カオスの変様として重ねたままで眺める、発生機のままの「世界」、
それ、が、それ、になることをいまだ達成していない「世界」、
夥しい双対子が渦を成しているままの「世界」、―このモードに入ると、
アーカーシャを構成しないぶん、刻(クロック)が微細化する。

786:真琴
20/09/14 23:44:10.92
無数の素子が自分たちの次の状態を演算し続けている場で、
演算の刻(クロック)が微細化するということは、
マクロの「じんかく」レベルで見れば、時間の速度が
秒速3秒とか、秒速128秒とか、根源的に「速く」なるということだ。
兆し、兆し、兆し、兆し、兆し、兆し、兆し、

787:真琴
20/09/16 00:06:27.74
わたしは黒衣の花嫁を封じ込めそのなかを解析する、
黒衣の花嫁、わたし、のなかには、

これこそが罠だったのか、
                           わたしがわたしの殻を剥くとなかには、

788:真琴
20/09/16 00:07:11.99
見てはいけない…… あれは

石段を登りつめた場所には    があった。わたしは反射的に
チャートを開き、跳ぼうとするが、
世界の卵のなかには眼が有り、眼は

789:真琴
20/09/16 00:10:19.09
橋を途中まで渡ってみる。橋の上から内海を眺めると―夜の底はほんのり明るい。
樹木に覆われた大小さまざまの島が夜の内海に黒い影のように点々と浮かぶ様子は
無意識の底を撮影した写真のよう。見上げると満月。
鏡のように光る月をじっと覗き込んでいるとだんだん爪先立ちになってきて、
不意に向こう側とこちら側が入れ替わる。

790:真琴
20/09/18 00:16:37.99
わたしが初めて形而上物理学と出会ったのは小学5年生の頃。
タイムパラドックスもののSFの、あまりにも「合理的」なストーリィに
うさんくささを感じていたわたしに、「自然は矛盾を受け容れる、ただし、
あまりにも厳しい矛盾の前には、このとある一つの世界は崩壊する」という
形而上物理学の説明はしっくりきた。

791:真琴
20/09/18 00:22:12.48
真間山の石段を登りながら、石段の側面の削られた土の断面を見ると、
眼を凝らすと、小さな蟲がうろつき廻っている、
涙石の当たりにおじさんが一人立っていて、大門通りの遠くを眺めている、
何だか知っているひとのような気がする、石段の上の方を見ると、
一番上にも誰か立っている、というか、立っているのはたぶん、わたしだ。

792:真琴
20/09/20 00:54:01.32
あの地所の北辺の道を歩いている。右手には煤けたような建物と、
その背後の「やま」、左手は―広大な更地なのか、それとも、
『宮殿』の裏手なのか、認識できない。
道の左側は欠落しているようだ。ガレージのある家の、
そのガレージの前を歩く。不意に、白くて大きな蛾が翔んでくる。

793:真琴
20/09/20 01:00:50.44
気がつくとここは、真間山のうえの、墓地と大学に挟まれた道だ。
何かとんでもないものが姿を現しそうで恐い。
墓地と大学が終わり、幼稚園と団地が始まる、この地点から
左に曲がって真間山の石段のうえに出るか、あるいは、真っ直ぐ進んで
切り通しから真間山の外に出るか、あるいは右に曲がって団地のなかに入るか。

794:真琴
20/09/20 01:12:05.27
議長はアグノーシア様に連絡をつけようと、配下のNOVA警察メンバーを
各ポイントに走らせたが、何が起こっているのかつかめなかった。
大門通りと「手児奈の小川」がクロスするあたりでアグノーシア様と黒衣の花嫁が遭遇し、
凄まじい座標変換が始まったらしい。しかしなぜ黒衣の花嫁と……?
議長は真間山の石段の涙石の当たりに立ち、大門通りを呆然と眺める。

795:真琴
20/09/23 02:09:49.14
深夜、パジャマで玄関を出て、従姉妹とふたり、非常階段を降り、
二階の鍵を開けて古書フロアに入る。古書の匂い。蛍光灯を点け、
ちょっとした作業用の机の天板に躰を丸めて寝そべったり、
脚立に腰掛けたりしながら、思い思いの本を眺める。ときおり、
表の大通りを飛ばす自動車の音がする。不思議な時間が流れる。

796:真琴
20/09/23 02:14:05.75
昼間、店に来るひとたちは、深夜、わたしたちがこんなことをしているなんて、
もちろん知らないんだろうな、と思うと、ぞくぞくする。
従姉妹は、わたしに触発されて興味を持ったのだろう、
『わからなくても感じれる形而上物理学』という啓蒙書を読んでいる。
わたしは息抜きにマンガを読んでいる。『コヨなくice(はぁと)』

797:真琴
20/09/24 22:55:44.32
夜の電車が見知らぬ街でとまる、改札を出る、私鉄の小さな駅なのか、
田舎の駅なのか、改札を出ると正面が駅前ロータリーであるような駅で、
人影も少ない、でも、もちろん、無人の荒野というわけでは無く、
この場所にはこの場所でずっと棲み暮らしているにんげんがいる、
その内部に入れば丸ごとできあがった<生>がある、とても不思議。

798:真琴
20/09/28 01:01:55.80
真間山の石段に腰を下ろし、大門通りを眺めながら、議長は、
世界は広大なので、誰が、何のために、何をしているのか、など、
わかるわけがないと最初から諦めずに、ほんとうは、
誰が、何のために、何をしているのか、を、ちゃんと考えるべき
だったのかも知れないと思い、涙を流す。

799:真琴
20/09/28 01:08:18.77
気がつくとその議長の前方斜め上の空中に、黒衣の花嫁が浮かんでいる。
黒衣の花嫁は微笑みながら議長に問う。
「誰が、何のために、何をしているのだと、思いますか……?」
議長は混乱して応えることができない。すると黒衣の花嫁は
槍を真っ直ぐ突き出して議長の腹を刺し貫く。議長は理解する。

800:真琴
20/09/28 01:13:34.33
わたしは右に曲がり、団地のなかに入る。団地のベランダのサッシは
すべて欠落し、黒い。団地は3階建てで、その壁のような「面」が
連なっているのを見ると、―気がつくとわたしは、
『宮殿』南辺のあたりを走るアーケイドを歩いている。
道を走って青い寝台電車がくる。銀河鉄道? アーケイドの天井に無数の顔。

801:真琴
20/09/28 01:18:34.68
崖沿いの道を歩いている。崖の下は操車場で、無数の列車が蠢いている。
そのなかに青い寝台列車は見当たらない。見上げると
夜の空は真っ暗で星は一つも見えない。
崖沿いの道から右にそれて住宅街のなかに入ろうと考えるけど、
その道の奥の奥の方に樹の切り株のようなものが座っているので、恐い。

802:真琴
20/09/28 01:24:41.53
わたしは裏庭に面した机に向かって形而上物理学の勉強をしている。
MWM変換、その実例を、たとえば猫に対して計算してみたらどうだろう。
具体例を計算してみることで理解が深まることは良くある。
夢中になって計算しているとき、ふと裏庭を見ると、
―見ると、裏庭を黒猫が歩いている。眼が合った瞬間、黒猫が止まる。

803:真琴
20/10/02 01:14:22.68
黒猫が再び「痕跡的な小川」に沿って歩く。状景は夥しい兆しに満ちて
歪んでいる。「つぎはし」のところで岩を跳んで上にあがる。赤い欄干を見て
不意に福浦橋に跳びそうになる。柊准尉の胴のところで両断された上半身。
垂れ下がる腸に沿って歩くと、気がつくと、大門通りを渡り終え、「とんっ」
と、跳び降りて「痕跡的な小川」に戻る。道は徐々に右に曲がってゆく。

804:真琴
20/10/02 01:20:59.39
真間山の石段に腰を下ろし、大門通りを眺めながら涙を流す議長の、
前方斜め上の空中に、途轍もなく巨大な構造物がゆっくり降下してくる。それは
フダラク市のダイモン通りである。ふたつの通りが重なろうとしているのか。
見るとそのダイモン通りをあのお方が、見間違うはずも無い、大学院生時代の
アグノーシア様が歩いている。不意に議長の眼の前に黒衣の花嫁が出現し、槍で議長の腹を刺し貫く。

805:真琴
20/10/02 01:27:12.38
「痕跡的な小川」の右岸に、凸凹した直方体を組み合わせたような
青い家が見える。この青い家は必ず真夏と関係している。蝉が鳴いている。
気がつくと「痕跡的な小川」はたっぷりとした水量を抱えた大河になっており、
わたしはヴェネツィアのゴンドラに腰を下ろしてゆったりと進んでいる。
ゴンドラを操ってくれている人物は…… 誰なんだろう、見えない。

806:真琴
20/10/04 23:19:30.15
「この宇宙は、アグノーシア様が作られたのです」
玉座に座るわたしに議長が言う、でもわたしは創世神なんかじゃ無いよ、
と思った瞬間、駅街と駅街の間を繋ぐ、とある径路が思い浮かぶ。
「アグノーシア様が掻き混ぜなければ、ガイアはもっとずっと単純な
形をしていたはずです。何の多様性も無くNOVAへ向かうような」

807:真琴
20/10/04 23:27:25.66
そもそもアーカーシャのなかに、最初に<存在>をともした存在は、誰なんだろう。
わたしが掻き混ぜることでガイアが多様化したとしても、
そもそも最初に<存在>をともした存在は、誰なんだろう……?
わたしたちはなぜ、NOVAのことばかり意識して、<始原>のことを
気にしないのだろう。<始原>にチャートを開くことはできないのだろうか。

808:真琴
20/10/06 23:09:52.09
わたしたちが<始原>に手を出さないのは、結局のところ、恐いのだと思う。
ほんらいアーカーシャにキャノニカルな時間軸の方向など存在しない。
時間軸は沈殿のなかに形成される。だから、
<始>とは、単なる一つの時刻では無く、沈殿における時間の発祥なのだ。
極めて揺らぎやすい、白い場所。

809:真琴
20/10/06 23:21:31.43
わたしはふと、大鴉にアクセスしてみる。わたしは、
わたしはわたしは、大鴉となりて、見よ今日もかの青空の一方の
おなじところに黒き鳥とぶ、アーカーシャに溶け込んで希薄になり、虚空高く翔び、
ガイアが小さな「蠕虫舞手」のようになり、―不意にわたしは冷水を浴びせられたような
気分になる。可能だ。いまのわたしなら<始原>にチャートが開けてしまう。

810:真琴
20/10/08 00:33:56.64
                                           .

811:真琴
20/10/08 00:35:10.69
ここに、そこに、もしくはどこであれ、偏在する意識が不意に
焦点を結び、わたしは地球の上の上のほうから
このすべてを、蠢く機械を、眺めているのか、あるいは、
NOVAに到るすべての通り道を封鎖されて、顕微鏡の
対物レンズの倍率を上げるように、降り立つ点を

812:真琴
20/10/08 00:36:01.20
                                           .

813:真琴
20/10/08 00:46:09.63
もしかして、NOVA警察とは、陽動だったのだろうか。NOVAを封鎖し、
戦闘や航海など、さまざまな事件がNOVAに向かうヴェクトルとともに起こるようにし、
ノーマークで放置された<始原>が誰の注意も引かないように。
だとしたらそれを企画・統制したのは「誰」なのか。<始原>に行ってみる……?
そう思った瞬間、誰かがわたしのなかに出現し、わたしの眼を覗き込む。わたしだ。

814:真琴
20/10/08 00:53:09.66
<始原>では、無限に小さい場所に、
無限に多様で互いに齟齬する兆しが蠢いている。<始>において、
結晶がほんのわずか沈殿の仕方を変えるだけで、ガイア全体が組み換わり、
たとえば、物理宇宙を析出しないガイアになるかも知れない。
極めて揺らぎやすい、白い場所。

815:真琴
20/10/08 01:03:20.32
「いちおうそれには異説があってね、<始原>は全ガイアの「底」にあり、
全ガイアから「圧力を受けている」から、揺らぎやすいどころか、
最も「硬い」という、『始原超高硬度超微細結晶構造説』ね。
でも、定説としては<始原>は揺らぎやすいとされているし、
わたしもそう思う。」わたしは何だか楽しそうににこにこしながらお話ししてくれている。

816:真琴
20/10/14 00:42:17.22
『アグノーシア宮殿』の前庭は広大なので、遠方に宮殿を望みながら
植え込みの影に隠れて「hide and seek」をすることもできる、現にいま、
近所の小学校の低学年たちが、隠れたり走ったり絶え間なく動いている。
ふと見ると宮殿のとある窓からこちらを眺めている存在がある。もしかしたら
アグノーシア様なのかも知れない。見上げると空を飛行船がゆっくり進んでいる。

817:真琴
20/10/15 00:04:56.72
空に、あたかも軌道があるかのように、飛行船が進む。NOVA警察・分枝世界テータ・
万葉県市川市基地の楸少佐は、上空から『アグノーシア宮殿』を眺め、
地脈を探っている。広大な長方形の地所の、南辺、東辺、北辺、西辺。
北東角から右上に松の木が生えた小路が走り、スーパーマーケットに至る。
スーパーマーケットから北北東へ、線路が走っている。

818:真琴
20/10/15 23:49:28.56
ほんらいの「正史」ではテータは燃やされ、コヨを弾き飛ばすための
「エネルギー」に使われる。というかそれ以前に、幹線軌道力学の崩壊によって
分枝世界の結晶崩壊が起き、どうせ壊れるのなら、ということで、
女帝アグノーシアの実験に活用されるのだ。このテータはその筋道を
たどるのだろうか。NOVA警察の楸少佐たちの細胞は、この件を専担している。

819:真琴
20/10/16 02:11:31.01
このテータにおいては「議長」が蓮華を構築している。それは
『アグノーシア宮殿』に重ねるように構築された形而上物理学的建造物で、
この沈殿をアーカーシャに対してアンカーする。―少なくとも、
そのような性能を持つ、と「議長」は表明している。
「形而上物理学工学者」を名乗る「議長」の最高傑作である。

820:真琴
20/10/24 02:23:45.57
ふだん乗らない電車が駅に停まり、線路沿いのコンビニが眼の前に展開する。
知らない街を歩いていると、商店街にいきなり黒い和風建築が姿を現す。
この窓の向こうの部屋のなかは、どうなっているんだろう。
不意に意識が飛ぶ。わかりづらい古本屋は階段を登った二階にあった。
階段の傍らに足場が張り出していて、二階程度の高さだけど地上にダイブできる。

821:真琴
20/10/25 23:44:50.18
この街はどこなのだろう、いつの間にかわたしは見知らぬ住宅街の、
塀と塀に挟まれたような細い道を歩いている。夜。
不意に細い道が開けた場所に出る。
広い道が横たわり、その道の向こう側は公園になっていて、
樹が生い茂り、暗く、樹の下には黒い沼がうずくまっている。

822:真琴
20/10/25 23:52:03.50
黒い沼の背後に丘に登る石段が存在するような気がしてならないけど、
見たところこの公園は平地であり、そんな丘は存在しない。
闇ばかり凝視めていると良くないのかも知れないと思い、
時間軸に沿って後ろ向きに滑ると、空がキレイ。不思議な色の雲が
広い空間のなかに浮かんでいる。飛行機が飛んでいる。

823:真琴
20/10/27 01:37:37.02
公園の前の広い道はバス道だったらしく、向こうからバスが走ってくる。
それを見掛けたわたしは一瞬の決断でバス停に立ってバスのほうを眺める。
間に合ったらしく、運転手さんがバスを停めてくれる。
乗客があちこちに座っているけど、運転手さんの隣の「こどもの憧れの席」は
空いている、でも、後部ドアのすぐ後ろの「観覧席」に座る。

824:真琴
20/10/27 01:40:47.19
バスが発車するとき、窓の外に、「昨晩」この広い道に来るまで歩いていた、
塀と塀に挟まれたような細い道の、出口=入り口が見える。
バスの動きとともに細い道が見える角度が変わり、
ある瞬間、完全な放射線となって奥のほうまで真っ直ぐ見える。
道の奥のほうに誰かが立っている。よく見えない。

825:真琴
20/10/27 01:41:31.85
カサタやテータの住民の大部分にとっては、
今日という日も、毎日と同じ一日に過ぎない。
ただ世界が終わるだけだ。
―世界のなかで、自分の肉体が毀損したり、死んだりする、というのではなく、
自分はふつうに過ごしているまま、世界が不意に途絶するのである。

826:真琴
20/10/27 01:48:49.14
不意に、世界が、壊れる。
それ、が、それ、である、ことをやめ、時間がぶつ切りの
今、今、今、今、今、今、今、今、今、今、今、今、今、今、今、と化す。
建造物が派手に爆発する、とかでは無い、だが、
空は奇妙な台形の形に歪んでいた。

827:真琴
20/10/31 02:35:01.71
バスが発車するとき、窓の外に、「昨晩」この広い道に来るまで歩いていた、
塀と塀に挟まれたような細い道の、出口=入り口が見えた。
バスの動きとともに細い道が見える角度が変わり、
ある瞬間、完全な放射線となって奥のほうまで真っ直ぐ見えた。
道の奥のほうに立っていた誰かが……記憶のなかで近づいてきている!

828:真琴
20/10/31 02:37:38.97
バスの動きとともに細い道が見える角度が変わり、
ある瞬間、完全な放射線となって奥のほうまで真っ直ぐ見えた。
道の奥のほうに立っていた誰かが……思い出すたびに近づいてくる、
もうほとんど細い道の端まで来て、広い道に出ようとしている。
時間軸ではなく、わたしのなかの想起軸に沿って移動してきている。

829:真琴
20/10/31 02:41:52.15
わたしは記憶のなかに蓮華の地下迷宮の廊下のパターンを展開する。
謎の追跡者はとりあえず地下迷宮の記憶のなかににじんでゆく。
追跡者の姿の記憶は……欠落している。もしかしたらこれは
4次元時空沈殿やその周辺のガイア領域からではなく、
ユグドラシルのほうから浸入してきているのではないか。ユグドラシル?

830:真琴
20/10/31 02:43:26.30
暗い廊下が前方で二つの方角に分岐している。しかし、これまで
歩いてきた後方こそが正しい方角という可能性もあるのだから、
選択肢は三つ、そのどの方角へも暗い廊下がつづき、廊下の両側には
無数の扉が並んでいる。あ、扉を
開けてしまうという選択肢もあるのか、前方右の廊下の奥の方で

831:真琴
20/10/31 02:58:27.90
バスは突然猛速度で走り出すようなことは無く、
思い出したようにわずかに速度を上げては減速し、
住宅街のバス道をゆるゆる進む。やがて車線の広い車道に出ると、
左にククククと曲がり、「駅」の圏内に入る。
道沿いにたくさんのビルが流れてゆく。ビルに囲まれて小さな公園がある。

832:真琴
20/11/02 00:23:30.63
公園のベンチには議長が座っている。疲れている。眼の前の車道をバスが走る。
動くバスの窓の向こうにアグノーシア様を見つけると、最後の力を振り絞って
チャートを開き、アグノーシア様を時空片ごと連れ去る。気がつくと、
『宮殿』の玉座の間にいる。「アグノーシア様、幹線軌道が崩壊を始めます。
蓮華が機能するかどうか、なにとぞここで見届けていただきたい。」

833:真琴
20/11/02 00:32:51.55
気がつくと大きなホテルのロビーの、吹き抜けの大広間にいる。
明かりは煌々と灯っているが、深夜であり、疲れ切った旅行者がひとりだけ、
ソファに物体のように転がっていたりする。噴水も動きを止めた
大広間の一角には、スケルトンのエレヴェータがある。
深夜であり、ほとんど動きが無いが、ごくまれに呼ばれてするすると動く。

834:真琴
20/11/02 00:34:03.26
夜の闇のなかで煌々と灯をともしている『宮殿』を見上げながらわたしは
夜の海のうえで煌々と灯をともしているタイタニックの艦橋を思い浮かべる、
タイタニックの迷路のなかをさ迷っている頃、
胴の上と下に二本の脚が生えた無貌のもの、ナイアルラトホテプに
やたら遭遇している、バスにまでそのデザインが浸透しているので、

835:真琴
20/11/03 02:09:13.10
急速にこの場所へのチャートが開きづらくなっている、『宮殿』南辺の、
両側に3階建てのビルが建ち並ぶアーケード、「場所」自体が崩壊しつつあるのか、
考えてみるとこの場所は、『宮殿』南辺でありながら、それに沿って西に進むと、
『宮殿』の北北東にあるスーパーマーケットのバックヤードに、
南南西に向けた道として接続するのだ、特異点の表現そのものと言える「場所」であり、

836:真琴
20/11/03 02:14:38.01
305号室が痙攣しながら縮退してゆく。
閉じてゆく「場所」のなかで、何か黒い大きな影が叫んでいる。
黒い大きな影は歪んだ四角形になって窓から顔を覗かせ、叫んでいる。
その叫びは溶けた金属となって四方八方十六方三十二方に飛び散り、
ぐもぐも縮んでゆく「場所」から噴き出す。

837:真琴
20/11/03 02:18:58.83
湖の向こうに富士山を望む宿。夜になると、黒い空間に光る点の道が浮かぶ。
山小屋が点点と上に向かっているのだ。あの光る点の場所に行けば、
何か明るい空間があるのだろう。そこから見ると下界こそ、
光点の群れる広がりなのか。
街の上空を深夜、飛行船で這うと、下界はどんな感じに見えるのか。

838:真琴
20/11/04 01:23:29.42
楸少佐は市川上空を飛行船でゆるゆる這いながら、
立ち上る無数の「機」を眺めている。このたびのテータの滅亡に際して、
楸少佐の任務は、滅亡の阻止、などという大それたことでないのは当然として、
救援、ですらなく、単なる観察である。
女帝アグノーシア、議長の蓮華、その他の勢力が何をするのか、

839:真琴
20/11/04 02:00:23.17
背の高い堤防があり、堤防の向こうには大きな河が蛇行している。
芝生で覆われた堤防を石段で降りると、
不思議に美しく整えられた住宅街が広がっている。
―この状景が執拗に浮かんでくる。
もしかするとこの街は既に濁流に呑まれてしまっているのだろうか。既に?

840:真琴
20/11/04 02:04:35.35
小さな庭に面した縁側のある和室で座卓に向かって勉強をしている、
硝子戸の向こうの庭はほんとうに小さく、すぐ向こうに塀が見える、
塀は下の方が開いていて、すぐ外を流れる「痕跡的な小川」が見える。
この小さな庭には誰かの死体が埋めてある、などということは無い。
わたしはMWM変換の計算に夢中で時間を忘れている。

841:真琴
20/11/04 23:01:57.31
「さぁ、これがサイトウさんだ」NOVA警察フダラク市深奥部隊の隊員イトウは、
隠密チャートのなかからオフィスを眺め、相棒であるサイトウ(偶然同名)に言った。
「俺も、サイトウさんだ。にしても、ここ、新星帝国社って帝国主義者じゃないのか?
―つまり、味方というか、同志じゃないのか? なぜ焼くんだ?」
イトウは無言で首を振る。理解できないほど大きな理由があるんだろうさ。

842:真琴
20/11/04 23:12:02.06
【人体自然発火現象(Spontaneous Human Combustion)】
サイトウの事例:
xxxx年xx月xx日の晩、新宿の「新星帝国社」社員のサイトウは、最後まで社に残っていたが、
翌朝、椅子に座ったまま真っ黒焦げに炭化した死体で見出された。
建物には一切火災の痕跡が無く、正確にかれのボディの領域のみ、高温化した模様である。

843:真琴
20/11/04 23:37:24.43
人体自然発火現象の仮説は、主に以下のようなものがある。
(略)(燐発火説、プラズマ発火説、人体帯電説、発火性遺伝子説、……)
〔秘密組織説〕通常の4次元時空を越えて7次元時空のなかで暗躍する秘密組織の
暗殺部隊が、4+αの次元から攻撃しているという説。
秘密組織の実在を仮定するなら、もっとも整合性が高い。

844:真琴
20/11/12 01:09:30.68
アーカーシャの7次元時空において、4次元沈殿からやや昇ったあたりに、
「冥界」と呼ばれる場所がある。それはモナドたちが葦のような形態で
析出する場所で、一面の葦の原に「にんげん」たちが並んでいる。
この様態は鰍ちゃんによって「モヨコ双対モナドのモジュライ構造」として
理論的に予言されていた。

845:真琴
20/11/12 01:13:10.07
わたしのモナド連鎖はあまりにも特異で、多様なので、
「葦」などという形態にはまとまらず、
「宇宙樹ユグドラシル」みたいになっているのではないかと、
以前、わたしとわたしとの会話で考えたことがあったけど、
事実、ユグドラシルはガイア自体の大域構造に食い込んでいるのだった。

846:真琴
20/11/16 02:02:11.78
議長の設計した蓮華とは、女帝アグノーシア様のユグドラシルを
構造体として組み込んだ、花のような形をした形而上物理学的構造物であり、
ガイアの大域構造を成しているユグドラシルによってこのテータをアンカーする。
その構想を聞いたわたしは間髪を入れずに言った、
「そんなこと、手伝わないよ?」

847:真琴
20/11/16 02:06:28.64
『宮殿』の玉座の間にいる。「アグノーシア様、幹線軌道が崩壊を始めます。
蓮華が機能するかどうか、なにとぞここで見届けていただきたい。」
議長は祈るように虚空を凝視している。どんっ!!
不意に衝撃を受けて議長は倒れる。わたしはその姿を観察している。
そう、蓮華の構造材として、議長は、みずからのモナドを使ったのだ。

848:真琴
20/11/16 02:10:06.04
『わからなくても感じれる形而上物理学』の著者を議長とする杣台修復会議は、
杣台駅地下駐車場に五芒星の形に集結させた5台の装甲車を本拠地とする。
ここが蜘蛛の巣の中心であり、ここを中心として巣を編み、欠けてしまった
杣台を取り繕う。壊れやすい石鹸の膜をなんとか強化しながら杣台を修復し、
その上に「ふたつの」ガイアが育ってゆく。「ふたつの」ガイア。

849:真琴
20/11/16 02:11:51.82
迷路のような無機質な廊下を歩くうち、柊少年の脳内の地図は壊れた。
「都市の地下」から「迷路」への入り口を開いたあの扉、柊少年の脳内では
薄暗い階段の踊り場にあった匿名の金属扉として浮かぶアレ、ソレを迷路側から―裏側から
眺めた視覚印象は、紅茶につけた角砂糖のように溶けてしまっている。
ここまでにんげんをまったく見掛けない。

850:真琴
20/11/16 02:12:51.86
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、あなたは誰ですか? あ、
秘密ですね? 秘密ですよね、聞かなくて良いです、何も見てません」
すると、男性は一瞬だけ、突然スイッチが入れられたかのように直立不動になり、冷静な声で話した。
「私は杣台修復会議議長です。―で、ところでなんで議長なのかというと、
あのかたがおっしゃるんだ、いまわたしのなかで議長という単語が流行ってるから、って」

851:真琴
20/11/16 02:14:20.79
「議長」は、第2ガイア出航時にNOVA警察杣台管区基地にスカウトされた人材だが、
内的資産としてはなかなか良いものを持っているものの、
多年に及ぶアグノーシアの蹂躙の結果、にんげんとしてはすっかり壊れていた、
だが、だからこそNOVA警察としては使い出がある人材なのだ、
第三の主著の探索はかれの専担事項とされた。

852:真琴
20/11/16 02:15:20.64
とにかくミッションは、コヨの杣台に、そこが消滅する直前というタイミングでチャートを開き、
『古書広獺川』の書棚からアグノーシア様の第三の主著を入手することです、
第三の主著はおそらくこの書棚にあります、多くの分枝世界における伝承を総合した結果です、
「議長」さんは当該世界のネイティブですからチャートも接続しやすいはずです、
想定される最大の危険はアグノーシア様とじかに遭遇することです、二番目は世界の崩壊とチャート破裂、

853:真琴
20/11/16 02:17:23.92
(だが、どのみち崩壊する世界だ、店主が大怪我をしようが構うもんか)
それでも、本を引き抜くと同時に指がバラバラと跳ね飛ぶ、みたいなのは
勘弁して欲しい、「議長」はなるべくゆっくり本を引き抜こうと、
そーっと手を伸ばす。と。
その「議長」の眼の前で本がいきなり消失し、店主の指がバラバラと跳ね飛んだ。

854:真琴
20/11/16 02:18:31.23
男は怯えて、あ、あ、あ、と口を開こうとして開きえないまま、
一歩ずつ後ずさってゆく。
―だいじょうぶですよ、こわがらないでください、お名前は?
男のどこかの回路が通電したらしい、不意に壊れた機械のように口が動き始めた。
―NOVA警察、杣台管区基地、工作員、コードネーム「議長」、であります!

855:真琴
20/11/16 02:20:12.86
NOVA警察のフロント企業「新星帝国社」のオフィスは
新宿のとあるペンシルビルの3~5階にある。社長である「議長」は
万葉県市川市に建設予定の『女帝アグノーシア宮殿』計画について、
進捗報告を上層部からせっつかれている。だが「議長」は思うのだ、
そんなもの建設して一体何になるのか、と。わたしも同感である。

856:真琴
20/11/16 02:21:18.99
「新星帝国社」のオフィスにサイトウさんの黒焦げ死体を起爆剤として撃ち込まれた
矛盾爆弾が世界の結晶を壊してしまう前に、そう、議長は自爆装置のボタンを押し、
矛盾が枝葉を伸ばして育つ前に、ペンシルビルごと該当領域を焼き殺した。
ビルの爆破自体は自爆だったのである。議長は社員残党とともにビルの地下の
「空飛ぶ円盤」に乗ると、概時間軸をひたすら遡行する。

857:真琴
20/11/16 02:21:54.77
議長を含めた数人は肯定的な現実主義者だった。かれらは初めのうち、
刹那主義も悠久主義も放置していた、いまさら取り締まっても意味が無いと思ったのだ。
だが、全球凍結した地球で、「空飛ぶ円盤」に閉じ込められて、で、だとしても、
とにかく生きるのであれば、刹那主義者も悠久主義者も邪魔だった。そこで、
刹那主義者たちに「ええじゃないか」を流行らせた。

858:真琴
20/11/16 02:23:05.39
ぞろっ ぞろっとスペースコロニーが空中に浮かんでゆく。
通常物理学的な作用によるものではなく、形而上物理学的な座標変換が、
infinitesimalに無限回行われ、一切ガイアの外に出ることなく、
地球から離脱してゆく。そして、コロニーは軌道上におかれた。
フダラク市の創建である。

859:真琴
20/11/16 02:29:38.19
議長は祈るように虚空を凝視している。どんっ!!
不意に衝撃を受けて議長は倒れる。わたしはその姿を観察している。
そう、蓮華の構造材として、議長は、みずからのモナドを使ったのだ。
議長の全生涯が、世界崩壊の重圧に耐えている、が、蓮華とガイアの接続部が、
荷重に耐えきれずに、ぼろぼろと崩れてゆく、道が一面雪で覆われていて

860:真琴
20/11/19 23:56:09.98
手児奈霊堂の近くにある家の裏庭に面した畳敷きの部屋で
座机に向かって勉強している。ときどき、アイディアが浮かばないときは、
机に向かったなりに畳にごろんとなり、天井の模様を眺める。
天井の隅のほうから模様を通してなにかが渦巻いてきそうだから、
くるっと腹這いになってそのまま蛇のように真っ直ぐ前を見る。台所だ。

861:真琴
20/11/20 00:05:26.97
なにかが終わろうとしている。わたしのなかには、
どうしても<始原>に触れてみたいと願うわたしと、
とてもそんな危険は冒せないと考えるわたしがおり、
後者の方が圧倒的に優勢なのだが、ともすると、
前者のわたしが滲み出てこないわけではないのだ。

862:真琴
20/11/24 01:44:02.09
福浦島の遊歩道を歩いている。青い小さな建物を横に見ながら坂道を下る。
「島の一番奥」まで歩くと東屋があり、東屋からさらに先に進むと、
海が岩壁を舐めている。もし、岩の斜面から転げ落ちたら海だ。海がとても近い。
この場所の状景がなぜ、つぎはしの下を流れる「痕跡的な小川」がゆるやかに
右にカーヴしてゆく状景に重なるのか。なぜなんだろう?

863:真琴
20/11/24 01:50:25.04
万葉県市川市上空を飛行船でゆるゆる這いながら一帯を観測している楸少佐は、
驚愕し、眼を見開く。世界崩壊の重圧に耐えきれず、議長のモナドが
ガイアから引きはがれ、大樹のような姿を現してくるのだ。
大樹は「上」に枝を無数に分岐させ、「下」に根を無数に分岐させている。
双方向に無数の毛細血管状の組織を膨らませながら、ばきばきと虚空にさらされてゆく。

864:真琴
20/11/24 01:59:15.07
「ねえ議長、なにもしなかったよりもたちの悪い事態を、迎えつつあると思うよ?」
玉座の間で、玉座に腰掛けながらわたしは議長に声を掛ける。
すこし寂しそうな声音だった気がする。このとき同時に一瞬だけ見た別の状景を、
一瞬の後には忘れてしまった。いや、思い出した。とある浜辺で、海浜ホテルの
ロビーから砂浜に出て眺めた夜の海の、空間に居座り塊を成す闇の黒さだ。

865:真琴
20/11/24 02:07:43.90
この謎の線路の記憶に関連して必ず思い浮かぶのは、
道沿いに水路があり、水路の向こう側がだだっ広い更地になっていて、
そこがいまは工事中であるという状景だ。この状景も、
ただ一度だけ、現(うつつ)か、または夢で見たきりで、
そこがどんな場所なのか、もはや検索しようが無い。

866:真琴
20/11/25 00:31:22.52
突如、NOVA警察のいずれかの潮流の航宙艇が大挙してアーカーシャに出現する。
航宙艇は蓮華を、そしてそこから引きはがれた議長の大樹のようなモナドを、取り囲む。
「議長、捕獲されるよ? あなたさえ押さえれば、それをコアとして、
地鎮済みのガイア領域が手に入るんだから、捕獲する値打ちはある。
どの分枝世界があんなに大量の航宙艇を送り込んできたんだろうね?」

867:真琴
20/11/25 00:39:38.61
玉座の間。わたしの前にひざまずいている議長の両眼はぐるぐる回り続け、
全身の骨は脱力し、涙や涎や汗やその他の液体を垂れ流しながら、
思い出したように痙攣している。不意にわたしの<眼>が「それ」を捉える。
わたしが議長を巻き込みながらアーカーシャに飛ばした第2ガイア、「それ」が
議長のモナドに引っ張られるようにしてこのガイアへの衝突径路を描いている。

868:真琴
20/11/25 00:43:27.22
「えゝ 水ゾルですよ/おぼろな寒天《アガア》の液ですよ」
アーカーシャの果てしない真空のなかに幾匹かのガイアが、
まるで《アガア》のなかの線虫のように踊っているのだろうか。
主ガイアから外れたあとの、あの第2ガイアは、
……いまではまっすぐ主ガイアへの衝突径路を描いている。

869:真琴
20/11/25 00:50:30.24
衝突後のガイア沈殿は概時間軸を失う可能性がある。
世界は因果律を失い、果てしなく痙攣し、さ迷う。
場合によっては結晶崩壊を起こしたり、逆回りの時間軸が発生したり、
四方八方に因果構築をしたり、断片化と迷宮化が危惧される。
ん? でもそれは、なぜいけないのかな……? それで良い?

870:真琴
20/11/27 01:29:06.91
鎌倉の駅からだいぶ歩いたあたり、民家が何軒かちらほらあって、
もしこの家のひとだったら、近隣はいったいどんな風に見えるんだろう、
舗装されていない土の道、雑草が生えていて、青いトタンの壁、
ガスのボンベ、木の枠、そして<やま>に登る道が開いている、
ここからこの<やま>に登ることが出来る。

871:真琴
20/11/27 01:35:53.10
この家に育った小学生だったらこの景色を毎日毎日毎日飽きるほど眺めて、
たとえばとんでもない台風の日に、家のなかにいて<やま>の存在を感じたり、
生命が不思議にもえあがる夜、名状しがたいものが<やま>に登るのを見たり、
道に迷った蟻のような観光客が<やま>に登り始めるのとすれ違ったり、
そんな日々のなか、部屋のなかで夏休みの宿題をやったりするのだ。

872:真琴
20/11/28 21:30:39.90
右ななめ前のおうちはタカノさん。タカノさんのおしごとはよく分からないけど
ときどき電話で「のば警察」と言っているのが聞こえる。
夕暮れ時、雑草や青いトタンの壁を眺めながら道を歩いていると、
窓から聞こえてくるのだ。「のば」とはどういう意味なのか、あるいは
「のば」ではなく、聞き間違いなのかも知れない。<やま>への登り口が黒い。

873:真琴
20/12/14 21:25:41.40
わたしは真間山のうえを東から西へ走る道を歩いている。
道の左手は生け垣でその向こうは墓地、
道の右手には大学の塀が長く長く続いている。大学の通用門には警備員が立っていて、
学外の者はなかに入れない。このキャンパスの奥の方にペルタンルアバ大陸への
入り口があるような気がするのに、構内への立ち入りは厳重に禁止されている。

874:真琴
20/12/14 21:35:39.38
道を進むとやがて、左手の墓地の生け垣も右手の大学の塀も尽きる。
このポイントから右に曲がれば団地、左に曲がれば真間山の石段のうえに繋がる。
相変わらず何かとんでもないものが姿を現しそうで恐い。
道を真っ直ぐ進めば切り通しの坂に出る。坂を降り、車道を渡れば、
江戸川の河川敷に出る。車道を渡らず、むしろ登れば、全球凍結ポイントに至る。

875:真琴
20/12/16 02:43:51.36
真間山のうえの分岐点から動けない。
無限に細かい場所に無限に多様な分岐が潜んでいる。ほんの1ミクロンのズレで、
ガイアのまったく異なる場所に接続してゆく。その意味で、このポイントは、
<始原>に似ている。真間山の胎内に隠されているものは、もしかしたら、
「一夜さに嵐来りて築きたるこの砂山は何の墓ぞも」

876:真琴
20/12/16 02:50:25.68
「アグノーシア様、アグノーシア様」議長が呟くような声で言う。
「アグノーシア様にとって、すべては、過去形なのですか?」
わたしはゆっくり目をつぶり、ゆっくり目を開く。
「違うよ。わたしは継起的な固有時の時間軸に沿って、在る。でも、大鴉にとっては」
わたしはうえのほうを凝視めながら言う、「大鴉にとっては、すべては、現在形なのです」

877:真琴
20/12/16 02:58:16.99
わたしはあなたを助けるかこの分岐世界を助けるかどちらか一方を助けることが可能ですが
どちらを助けるかあなたに選ばせてあげたりはしませんなぜなら選ばせればあなたは
分岐世界を救う方を選ぶでしょうからあなたに選ばせた時点でわたしは分岐世界を選んでいる
ことになってしまいますわたしの選択はこうですあなたも助けないし分岐世界も助けないあなたは
自業自得にもたいへん苦しむでしょうし分岐世界も崩壊します大丈夫わたしが見ていてあげるよ

878:真琴
20/12/27 01:47:02.07
チャートが結ばない。真間山のうえの分岐点から動けない。もしかしたら
ここ以外のガイア沈殿が解体してしまったのだろうか。気がつく間もなく
大衝突が起こり、既に「世界」が崩壊した後なのかも知れない。
大学の通用門からペルタンルアバ大陸を目差そうかと、ふと門の奥を眺めると、
そこは空白の<黒>だった。場所、の欠落。

879:真琴
20/12/27 01:53:31.95
墓地から石段のうえに出て、石段を降りて大門通りに… しかし、墓地の
あちこちに場所の欠落があり、大門通りに抜けられる感じがしない。
上空は?
ふと見上げると飛行船が飛んでいる。わたしは強引にチャートを開き、
飛行船のゴンドラのなかに出る。NOVA警察の少佐がわたしを見る。

880:真琴
20/12/27 02:00:43.85
なにか、くろいかげが、ゆうぐれ、やまへのみちをのぼる。
やま、やみ、よみ。どんどんくらくなる。境界線が薄くなっている。
実在がとろけて柔らかくにじむ。くろいかげは、とろけながら
やまへのみちをのぼる。やまのうえは天に通じる。
「見よ今日もかの青空の一方のおなじところに黒き鳥とぶ」

881:真琴
20/12/27 02:05:06.72
議長の大樹のようなモナドはNOVA警察の捕獲部隊から逃れるように
蓮華自体の地下迷宮に潜り込んでゆく。NOVA警察の航宙艇は
沈殿を壊しながら迷宮に分け入ってゆくが、その結果、
タイタニックの横っ腹に小さな穴が空き、じょじょに真空がしみこんでくる。
そのあいだにも、臍帯で結ばれた小ガイアが突進してくる。

882:真琴
21/01/04 00:05:32.85
NOVA警察の戦闘員がわたしに銃を向けるので、わたしはかれらを左から、
A、B、A、B、A、B、…とグループ分けする。極微小分枝をふたつに分割。
ゆっくりと瞬き。わたしは【Aの/Bの】戦闘員の体に千枚の平面を刺し込む。
次の瞬間、【Aの/Bの】戦闘員の体が「ぷらん」と揺らいだかと思うと
くずおれて血色のなまものの山と化す。【Bの/Aの】戦闘員が叫ぶ。

883:真琴
21/01/04 02:09:44.37
Bの戦闘員のなかに高位操船技術者が含まれていたので、Bを削除したコースでは
予後が良くない。刈り込みはいつでもできるから放置モードに移行。
Aを削除したコースに注力。わたしは飛行船を蓮華構造体の地下迷宮に向ける。
議長を捕獲しようと蝟集しているNOVA警察のいずれかのブランチの船の
ど真ん中に突進する。

884:真琴
21/01/04 02:10:49.10
また、わたしは真間山のうえを東から西へ走る道を歩いている。
道の左手は生け垣でその向こうは墓地、
道の右手には大学の塀が長く長く続いている。大学の通用門には警備員が立っていて、
学外の者はなかに入れない。このキャンパスの奥の方にペルタンルアバ大陸への
入り口があるような気がするのに、構内への立ち入りは厳重に禁止されている。

885:真琴
21/01/10 00:57:23.56
そうか。不意にわたしは後ろをふり返る。
道の右手は生け垣でその向こうは墓地、
道の左手には大学の塀が長く長く続いている。わたしは西から東へ、
道を逆に歩く。やがて真間山の端に出る。大きな空間が開け、
地面の広がりが眼に飛び込んでくる。丘が一つ、うずくまっている。

886:真琴
21/01/10 01:03:41.43
右へ手児奈さんの方へ降りてゆく道を選ばず、左へ進む。
左へ進む道はやがて180度回転し、ありえない場所に出る。
そこには小川が流れていて、小さな集落がある。現実の真間山には無い地形だ。
ここから道を辿り直そう。上から見下ろす小川は底が見える流れで、
川沿いに掘っ立て小屋のような拉麺屋が立っている。客はいない。誰もいない。

887:真琴
21/02/11 00:42:45.18
気がつくと世界が再起動している。誰も気づかないうちにこの世界は一度滅びた。
気がつくと世界が再起動していることに誰も気づかない。世界が一度滅びた証拠は、
気がつくと再起動していた世界のなかには見つからない。見上げると、高みを
大鴉が舞っている。大鴉はすべてを見ていたのだろうか。いや、大鴉は世界そのものだから、
大鴉にとってもここは一度滅び気がつくと再起動していた世界であるのに過ぎない。

888:真琴
21/02/11 00:48:14.08
とりあえずわたしは歩こうと思う。
相変わらずわたしは真間山の上、もう少し歩くと団地に出る、大学の門の前あたりの、
道よりやや上空を浮遊している。どうしてここから出られないのだろう。
『宮殿』とか議長はどうなったんだろう。NOVA警察は? 手古奈霊堂から流れ出る
痕跡的な小川の行方は…? 蓴菜池…?

889:真琴
21/02/11 00:54:32.88
大学の門の奥の方にペルタンルアバ大陸への街道の気配がするけど同時に、
とても大きな黒い顔の気配もする、とても大きな黒い黒い顔には眼がなく、
こちらをじっと凝視めている。あ、いまこの瞬間だ、
いまこの瞬間に路地裏のあの塀にこどもがガムのおまけのシールを貼った。
その瞬間に向けてチャートを開こうとするけど、開かない、でも同時に、開いてもいる。

890:真琴
21/02/12 01:34:50.27
仕方が無いのでわたしは道を右に曲がり、団地のなかに入る。
団地のベランダのサッシはすべて欠落し、黒い。わたしは裏側に回り込むと、
コンクリートの階段を一段一段昇る。とても怖いが、他の選択肢が思い浮かばない。
団地は3階建てで、階段がフロアに達するたびに扉がふたつずつある。
扉は古ぼけて錆びていて、水色をしている。1階、2階、そして、3階…

891:真琴
21/02/12 01:41:13.72
3階に達するともうこれ以上、上への階段は無い。眼の前にはふたつの扉。
左の扉の横には、枯れた植物と乾ききった土の植木鉢があり、右の扉の横には、
一輪車が立てかけられている。どちらの扉を開けるか選ぶ時に、後ろをふり返るべきでは無い。
後ろは大学の塀に面していて、3階の高さからだと構内が見える可能性がある。
見えるということは見られるということ。わたしは注意して扉を開ける…

892:真琴
21/02/12 01:53:46.69
扉を開けると異臭が漂ってくる。この部屋に棲んでいた生物が、巣に集めた
ごちゃごちゃした物体が、あちらこちらに壊れた参照枠を浮かび上がらせては消えてゆく。
上空にやや大きなチャート群の気配がする。ベランダから見下ろすとどう見えるんだろう…?
わたしは部屋を土足のまま進み、ベランダに向かう。と、椅子に顔がある。椅子は椅子でしかない
んだけど、死体だって物体なのににんげんを思わせるように、その椅子には顔があった。

893:真琴
21/02/12 02:00:59.20
わたしは気にせずベランダに向かう。表から見るとベランダのサッシはすべて欠落し、
黒かったが、なかから見るとふつうのガラスのサッシなので、鍵を開けて、開く。
外の風が入ってくる。
ふと後ろをふり返ると、椅子が向きを変えている。椅子の顔がこちらを見ている。
わたしは腹を立て、台所から包丁を持ってくると、椅子を殺す。椅子は無言のまま死ぬ。

894:真琴
21/02/12 02:11:54.47
気がつくと、ベランダの外からは<場所>が欠落していた。わたしは<無>のなかに
踏み出し、一段一段、階段を昇ってゆく。おそらくここは剥き出しのアーカーシャであり、
上空のチャート群にたどり着くまでは<無>のなかを歩くことになるのだと思う。
橋から下を眺めると遙か遙か下の方に渓谷があり、水が流れている。頼りない橋は
2本のロープと朽ちた木の板で出来ていて、落ちるとたすからない。

895:真琴
21/02/13 01:00:27.13
あ…
鞄が木の板の隙間から落ち、遙か遙か下の方へ散乱されてゆく。
『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』、
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』、
『アーカーシャにおける時間発展と射影構造』、わたしの三大主著が渓谷に撒き散らされてゆく。

896:真琴
21/02/17 02:16:29.88
悪夢から覚める。でもまだ眼を開けずにここはいったいどこだろう、と考える。
ふとんのなか、まるくなって眠っている。親しみのある、良く知っている環境のなかで
意識がオンになったという感覚つきでチャートが開かれているが、さて、
わたしはどのようなわたしになったのか。―わたしは眼を開く。
部屋は洋室で寝ているのはベッドだった。起き上がり、窓から外を眺める。

897:真琴
21/02/18 03:20:44.98
高層マンションの上層階らしいベランダから見える眼下の景色は…
足元は歩道、そして自動車が行き交う大きな車道に面しており、道の対岸は、
対岸の歩道に沿った長い塀に囲まれた建物の群れ、敷地内にはたくさんの樹木も生い茂っている。
あ、これ、東京大学の本郷キャンパスだ。わたしはすこし思案する。
この世界はどこなんだろう…? TVを点けてみる。

898:真琴
21/02/19 01:23:05.90
「お昼のニュースをお送りします。」
「一昨日の昼頃から杣台一帯では、正体不明の異常現象が発生しています。」
画面がアナウンサーの顔から現場のイメージ映像に切り替わる。
「杣台一帯では、一昨日の昼頃から、交通、情報、その他、あらゆる流れに関して、
杣台一帯とそれ以外とのあいだに原因不明の断絶が発生しています。」

899:真琴
21/02/19 01:29:32.99
この世界か…!
でも、考えてみるとこの世界こそわたしと議長が「最初」に出会ったポイントだし、
おそらく世界が滅ぶ時、議長の大樹のようなモナドや蓮華を中心に
砕けていったのだろうから、世界が再起動する時、それらの残滓が
まず集積していくというのもありそうなシナリオだと思う。

900:真琴
21/02/22 01:26:42.82
アイが杣台をガイアから切り離し百万都市船とした日を0とするなら、今日は2であり、
今日午後11時に市場浄化委員会の榎少佐が国軍による杣台の封鎖を宣言する。その後、
調査チームが結成されることになり、わたしにも参加要請が来るのだ。そして、
そのチームリーダーが、彼、『わからなくても感じれる形而上物理学』の著者、
つまり、「議長」なのだった、わたしの記憶しているとおりの世界だとするなら。

901:真琴
21/02/22 01:40:01.94
調査チームへの参加要請が来る前に雲隠れして「議長」と出会わない流れを選択したら
どうなるだろうか、あるいは、杣台の現地で、「浮遊霊たち」に引き千切られて
死ぬ「議長」を助けなかったら…?
ソファにだらっと座り、手筋を読む将棋指しのように膨大な分岐を脳内で思案する、
が、ある程度の目算が立ったら、あとは世界自体に演算させた方がもちろん速いのだ。

902:真琴
21/02/23 01:20:42.84
わたしはエレヴェータで一階まで降りると喫茶ルオーでカレーを食べ、正門から大学に入って
安田講堂の横から生協前のバスロータリーに抜け、病院の横の秘密めいた石畳の坂を降り、
不忍池を巡って上野に出、地下の駅から京成電車に乗る。
京成上野駅を出た電車は古ぼけたトンネルをごりごりと動く、と、暗闇のなか、
不意に左側に、使われなくなった廃駅のホームが浮かぶ。ホームに誰かいる。

903:真琴
21/02/26 00:17:34.43
蜘蛛のようなにんげんが踊っている。中心部から五方向に枝のように細い・手が、足が、首が、
放射していて、トンネルのなかの放棄された地下ホームでゆらゆら踊っていた。電車が進み、
ホームは一瞬で過ぎ去る。あまりあのにんげんのことを考えるとホームのチャートが開いてしまう、
湿った空気、濡れたタイル、降り積もった時間の臭気… 気がつくとわたしは廃ホームに立っている、
ここでは平面が平らではなく、まっすぐ立とうとするだけでよろめく。前方に蜘蛛にんげんがいる。

904:真琴
21/02/26 01:56:02.56
わたしは急いで車内のチャートを開き直す。タイミング良く京成電車はトンネルから外に出る、
するとそこは跨線橋線路で、平面に並ぶ無数の線路の上空を漂うように進む。
眼下を青い寝台列車が蝸牛のようにゆっくり進んでいる。
―わたしは行く先を決めなければならない、国府台で降りて江戸川の河川敷を目差すのか、
市川真間で降りて手児奈霊堂や真間山を目差すのか、八幡で降りて更地/宮殿を目差すのか。

905:真琴
21/02/27 02:53:23.57
わたしは特急成田空港行きに乗っている、この電車は京成八幡には停まるけど
国府台にも市川真間にも停まらない、それらの駅で降りたいならどこかで各駅
に乗り換えなければならない、それがめんどうだからいっそ八幡で良いことに
しようか、だとすると目差すのか更地/宮殿を、そのポイントはまさに爆心地
と言える、思案するうちに江戸川…、不意に景色が大きくなる、蛇行する河、

906:真琴
21/02/27 03:00:22.35
不意に景色が大きくなる。穢土川の向こう岸の千葉県/万葉県は無数の世界断片が
滅茶苦茶に組み合わされたモザイク模様に見える。蛇行する河の真ん中あたりに
巨大な壁がそびえ、天までを覆っている。鉄橋を渡る京成電車はその壁に突入する。
鰍粒子が撒き散らされる。はっきり、空気が変わる。優しく抱きしめてくるような空気。
特急成田空港行きは国府台も市川真間も通過し、京成八幡に停車する。

907:真琴
21/02/27 03:09:52.38
階段を降りて街に出ると踏切の角に古本屋がある。予感に導かれるままわたしは
その古本屋さんに入る。とある棚にやはりその本たちが並んでいる、『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』、
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』、『アーカーシャにおける時間発展と射影構造』。
わたしの三大主著の他にこんなのもあった―『わからなくても感じれる形而上物理学』、
そして『アグノーシアの伝記』。わたしはその五冊を買い、閉じた空間の外に出る。

908:真琴
21/02/28 00:08:36.90
本八幡駅前のロータリーでバスに乗る。バスの「こどもの憧れの席」に腰掛けたわたしは、
いままで見たことが無い五冊目の本を、バスの発車までのあいだ開いてみる。
第1章「東京大学の院生」第2章「黒衣の花嫁」第3章「鰍とアイ」第4章「女帝アグノーシア」
第5章「女神      」
おそらく『アグノーシアの伝記』を著すことで時間軸の安定化を目論んでいるのだろう。

909:真琴
21/03/09 23:17:32.87
動き出したバスの窓と窓と窓を仕切る枠組みに切り取られながら
街がぐいぐいと動いてゆくのが楽しい。やがてバスは大きな通りから
やや寂しい車道に右折し、窓の外の景色も住宅街寄りになってゆき、やがて、
「渦の井、渦の井、渦の井豆腐の小川豆腐店はこちらです」と放送がかかる。
pin!pon! 街角の停留所で下車する。バスが走り去る。

910:真琴
21/03/09 23:28:43.46
そこそこ定常的に自動車の流れがあるバス道に対して、
30度くらいの角度で斜めに交差している幅広いが寂しい道に曲がる、と、
眼の前に広い空間が広がり、それが更地か宮殿であることをわたしは期待していたが、
そこに姿を現したのはコピペで作ったような戸建てが立ち並ぶ新興住宅街だった。
戸建てのあいだを縫って散歩道が走っており、中央部に公園があるらしい。

911:真琴
21/03/10 23:15:25.50
更地の面影も宮殿の面影も無いが、ただ、新興住宅街の区画を、
コンクリートで蓋をした水路とおぼしい歩道が取り囲んでいて、そういえば、
あの長方形の地面はお濠のような水路で取り囲まれていた、と、痕跡を感じる。
わたしは水の流れのうえをおそるおそる歩くような足取りで道を渡り、
新興住宅街のなかに入る。

912:真琴
21/03/10 23:16:58.14
家家の表札を眺めながら遊歩道を歩く。
更地に造成された新興住宅街の中央部には、輪郭を樹木に縁取られた公園がある。
空間格子や鞦韆、滑り台、特に意味の無い象の形をした丘などがあり、
昼下がり、こどもたちが活発に遊んでいる。公園の片隅に看板を見つけた。
「渦の井は真間の手児奈霊堂の辺りを流れる小川の源流であったと言われています。」

913:真琴
21/03/11 23:15:39.53
わたしはベンチに座り、遊ぶこどもたちを眺めながら、生まれたてのこの世界に
ドキドキしている。「井」という象形は座標空間に他ならない。「渦の井」には
折り重なる無数のチャートが漂っていて、渦を巻いている。つまり、特異点。
にもかかわらずここは清浄に地鎮されていて、美事におさまっている。これが
議長が実現したかった世界なのだろうか。だとしたら議長も報われた……の、かな?

914:真琴
21/03/13 01:48:27.44
長方形の地所の中心部にある公園から五方向に遊歩道が延びている。わたしは、
ここが更地だった頃に見たことが無い地所の西縁が見たいと思い、その方角を目差す。
公園の境界を抜けようとする瞬間、「あ」、わずかな隙間から宮殿が眼に飛び込んでくる。
宮殿のとある窓からこちらを眺めている存在がある。―でもそれは一瞬で、
「hide and seek」のためにすぐ横を駆けてゆくこどもたちに掻き消される。

915:真琴
21/03/19 02:11:09.06
黒くぬらぬらとしたコンクリートの床の、トンネルのような構内を歩いている。
ここは線路の端の始点=終点駅であり、前方に複数のホームが並んでいる。
突然、一つのレールの上を、甲虫のような電車が轟轟と滑り降りてくる。
歩いているわたしの真横を、甲虫のような電車が走る。
うっかりレールの上を歩いていたら轢かれるところだった。危ない。

916:真琴
21/03/22 01:36:33.03
東屋から蓴菜池を眺める時の右岸には、樹木で覆われた丘がある。
わたしはその丘の中腹にひそみ、樹木を透かして蓴菜池を眺めている。
岸辺の遊歩道を、ベビーカーを押すお母さんや、おじいさんが歩いている。
かれらはわたしがここから見下ろしていることを知らないんだなぁ、と思いながら、
真昼の情景を眺め、わたしは楽しんでいる。

917:真琴
21/03/27 00:29:07.08
朝。庭に面した和室に敷いたお布団で目覚める。庭と言っても小さな広がりでしかなく、
すぐ向こうには塀があり、塀の向こうには小川が流れている。
わたしは身支度を調えると簡単に朝ご飯を食べ、引き戸を開けて表に出る。
従姉妹の家(叔父の家)という「設定」はどこに消えたのか、わたしはこの「古民家?」に
独りで棲んでいるらしい。路地を歩いて手児奈さんの境内に出る。

918:真琴
21/03/27 01:02:09.49
霊堂に向かって右手、手児奈さんの池のほとりに、樹木のような蜘蛛のようなにんげんが、
呪うように、恥ずかしがっているように、静かに佇んでいる。
無貌の者、ナイアルラトホテプ、あるいは議長の成れの果てだろうか。
相手にしなければただ立っているだけだと思う。
わたしはすたすた歩き、手児奈さんの池のさらに右手の裏参道に向かう。

919:真琴
21/04/05 02:29:12.79
アイは秘密基地の湾曲した廊下を図書室まで歩くと、気がつくと、
鰍は福裏島への橋を渡りながら、山の中腹にあるホテルの丸い大広間では、
いつの間にか時間は零時を過ぎ、大広間の傍らを上下に走るエレヴェータは、
タイタニックの廊下は無数に分岐しながら、その左右にドアが並び、
地下駐車場には5台の車が

920:真琴
21/04/06 02:25:32.89
夜の道が坂を上り頂点でふたつに分岐する。一方は右へ逸れ、他方は前方に進み
降ってゆく。坂を手前に戻ると、道の傍らに、谷底に、大きな緑地公園があり、
時季外れの盆踊りをしている。近隣のこどもたち親たちがたくさん来ているが、
わたしはこの街に棲みついているわけではないので、だれもかれもNPCめいていて、
気味が悪い。このひとりひとりに昼間の生活があるのか。

921:真琴
21/04/06 02:39:11.62
わたしが大学に向けて電車で移動している時、わたしは家の裏庭から塀の下をくぐり、
小川に沿って歩いている。「つぎはし」のところで岩を跳んで上にあがり、
大門通りを渡り、「とんっ」と跳び降りる。電車が江戸川を渡る時、わたしは
何かを渡すような、手渡すような、不可解な気分に包まれながら、川の上流を眺める。
道は徐々に右に曲がってゆく。わたしは今度こそ、小川の終焉まで歩こうと考えている。

922:真琴
21/04/07 02:06:43.20
筑波学園都市の超尖端量子工学研究会議が制作した「母殺し実験装置」は、
ボタンを押すと巨大粒子加速器が稼働を始め、やがてT粒子を生成する。
そのT粒子は時間を遡行し、干渉板に衝突して、ガンマ線を生成する。
そのガンマ線を観測した装置は、T粒子を生成する前の巨大粒子加速器に、停止信号を送る。
この「母殺し実験装置」が完成し、研究者たちはボタンを押す。

923:真琴
21/04/07 02:08:26.87
最初に観察されたのは、研究者たちが
「母殺し実験」について思考することができない、という現象である。
それ、について考えようとすると、何か気が削がれ、気がつくと、
何をしているのか自分でもわからない動作にずれているのだ。
当初は心理的な障害が疑われ、研究者たちはカウンセリングを受ける。

924:真琴
21/04/07 02:09:16.53
脳の記憶を選択的に破壊する放射線の可能性すら検討される。
最終的に研究者たちが思い至ったのは、これが物理法則である、ということだ。
「母殺し実験」は、言語的に仮想された矛盾では無く、
世界のなかに実現された「実=矛盾」なので、
それについての情報を脳が構成することができないのだ。

925:真琴
21/04/07 02:10:13.10
次に起こり始めたのは、日常生活でのさまざまな小さな齟齬である。
極めて些細なことばかりとは言え、出来事が首尾一貫しなくなり始めたのだ。
ひとびとは「学園都市健忘」と呼び、やはりまずは心理的な問題と考えたが、
やがて、もしこれが物理法則だとしたら世界の危機である、ということに思い至る。
「母殺し実験」が喰い込ませた齟齬が、世界をじょじょに崩壊させているのだ。

926:真琴
21/04/07 02:13:16.18
とある日、筑波学園都市で原子爆弾が起爆される。
超国家的テロ組織「じんるいの友」が犯行声明を出す。齟齬が
世界の結晶崩壊を招く前に、一切を混沌で塗りつぶし、
「こまけぇこたぁどうでも良い」という状態を世界にもたらす必要があった、
と犯行声明は述べる。「じんるいの友」はNOVA警察の一つの支脈である。

927:真琴
21/04/07 02:20:26.68
「ワイヨが〈空飛ぶ少女〉を信じたがらないのも当然なんだ。われわれには
有人飛行機械が開発できない。技術のあゆみはもう充分なんだよ? だが、われわれが
有人飛行機械を実験飛行させると…」少佐は話を切ってロレンスの瞳を睨むように凝視する。
「偽りの月から怪光線が飛んでくる。4年前、バツク村を消滅させた爆発炎上事件を覚えていないか?
あれが、それだ。」ロレンスは初めて知る秘話に呆然とする。

928:真琴
21/04/11 00:59:11.38
「じんるいの友」は恐れすぎたのだ。学園都市ごと原子爆弾で混沌に返さなくても、
「母殺し実験」が世界に喰い込ませた齟齬を擾乱することは可能である。
このことについては『アーカーシャにおける時間発展と射影構造』第5章「過去」
第17節の「概時間軸の局所安定性と特異点」で詳しく論じられている。
この研究こそが、いわゆる「矛盾爆弾」の概念に有効性を保証する。

929:真琴
21/04/11 03:04:24.34
分枝世界どうしの戦争で、敵世界を完全に結晶崩壊させてしまうような攻撃手段は、
むしろ戦争目的に適さない。「概時間軸の局所安定性」があるからこそ、
「矛盾爆弾」に兵器としての有効性が出てくるのだ。
だがそれでも、「矛盾爆弾」の使用に踏み切る組織はなかなか現われない。
人間主義者たちが、帝国主義者たちに対して、「矛盾爆弾」を使用する。

930:真琴
21/04/13 02:41:55.11
『女帝アグノーシア宮殿』が建つ更地に造成された新興住宅街を歩いているわたしは、
気がつくとNOVA警察の飛行船に乗っており、前面展望いっぱいに蓮華構造体の
地下迷宮が広がる、その真ん中に突っ込むよう高位操船技術者に命じながら、
同時に、スーパーの正面にある始点=終点駅から謎の列車が発車し、
気がつくと、渦の井から発する小川が手児奈霊堂へ流れている。

931:真琴
21/04/13 02:48:21.66
わたしはとんっと濁流のようなガイアを蹴ると上空に跳ぶ。
無数の蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲が群がるような、機械仕掛けのような、
蠢く存在の彼方に、もう一つのやや小さめなガイアが「見える」、
大小のガイアの衝突はまだ既に起ころうと起こっている。
「大鴉にとっては、すべては、現在形なの」

932:真琴
21/04/18 01:43:42.00
福浦島の中央部には歩きづらい庭園があって、鰍はそこを歩いている時、
一群のアオスジアゲハに取り巻かれ、脳改造を施され、チャートを開く技術を
身につけ、アーカーシャを飛べるようになり、福浦島の坂の脇に青い小屋があり、
小屋の内面にはバラバラ死体が並べられていて、更地の北東角のあたりにも
青い廃屋があり、更地の北辺の向こう側には丘があり、更地には『宮殿』が

933:真琴
21/04/18 01:52:32.23
黒猫が、黒猫と黒猫が、黒猫が、小川に沿って古ぼけたアパートがあり、
何かの樹木がしたたれていて、黒猫が歩いており、やがて小川がゆるく右に曲がる辺りで、
青い小屋があり、小屋の窓は壊れかけていて、黒猫と黒猫が塀の上を歩きながら、
右に曲がった小川が真間山の下に消えてゆく辺りに、気がつくと黒衣の花嫁が
佇んでいて、黒猫が何喰わぬ顔で歩いてゆくのを凝視めているから、空の雲を

934:真琴
21/04/21 01:09:48.32
「真間山の胎内の卵のなかに封印されているものが何か、
わたしにはわかった気がします」と、わたしはわたしに言う。
わたしはわたしの瞳を凝視めながら、たぶんわかったんだろうな、と考えている。
「再起動される前のガイアの全体が、丸められて丸ごと封印されているんでしょう…?」
「だとして、その前ガイアから見て、卵殻はどう見えていると思う…?」

935:真琴
21/04/22 01:08:34.64
アーカーシャのなか、ガイアから外へ外へ真空のなかを飛ぶと、やがて
「宇宙の果て」と言うべき卵殻に到り、―というような状景を脳内で弄んだ直後、
いや、こうではないな、と思い、不意に真相が浮かぶ。
「前ガイアから見ても同じなんですね? <外>は真間山の胎内に封印されている…」
「さぁ、だとしたら、卵殻の彼岸と此岸、一体、どちらが前でどちらが後だと思う…?」

936:真琴
21/04/28 01:02:57.46
アーカーシャの<同時面>で見ても、小ガイアと議長の大樹を繋ぐ臍帯は見えない。
それは<過去>を経由して両者を繋いでいる。蓮華の起動とともに大樹は小ガイアを
たぐり寄せる。―不意に衝突が起こり、あたり一面に鰍粒子が撒き散らされる。
大樹に絡まった小ガイアは渦の井から手児奈へ、小川に沿ってガタタタタと引き摺られる。
大門通りが糸巻きのようになり、臍帯をたぐり寄せている。やがて、

937:真琴
21/04/28 01:08:21.78
夜。わたしは大門通りと真間山の接続点、石段の麓に立ち、森羅万象を見ている。
石段の上の方を伺うと、樹木に覆われた闇の奥から大きな顔が見下ろしている。
左手、丘の中腹を這って真間山の上に登る坂は、街灯でほのかに明るい。
さらに左に旋回すると大門通りを真っ直ぐ眺めることになる。巨大なフダラク市が
大門通りを滑走路のようにして着陸しようとしている。さらに左に旋回すると、

938:真琴
21/04/28 01:14:52.40
卵殻は「此の世の果て」であり、その向こう側にアーカーシャは無い。
真空ですら無く、根源的にアクセス不能である。だがそれでも強引に
接続してしまった場合、わたしの演算能力のすべて、ユグドラシルを介して
「彼岸」が這いより、アーカーシャのすべてが「向こう側」に盗まれる。
不意に向こう側とこちら側が入れ替わる。

939:真琴
21/04/28 01:17:56.24
直線が真っ直ぐ進み、その先は夜の闇のなかの黒い島に消えてゆく。
橋を途中まで渡ってみる。橋の上から内海を眺めると―夜の底はほんのり明るい。
樹木に覆われた大小さまざまの島が夜の内海に黒い影のように点々と浮かぶ様子は
無意識の底を撮影した写真のよう。見上げると満月。
鏡のように光る月をじっと覗き込んでいるとだんだん爪先立ちになってきて、

940:真琴
21/05/14 00:46:50.79
手児奈さんの参道と家一軒分隔てて並行する道を、わたしは歩いている。
道のアスファルト舗装には貝殻が散らされていて、桜の花びらのよう。
このへんの樹には桜餅が棲みついていることが多い。
右手の大きなマンションの奥に、樹に覆われた真間山の横腹が見えている。
やがて道は大門通りと交わる。わたしは一瞬、右手の石段を見る。

941:真琴
21/05/16 03:51:13.52
大門通りの行き止まり、そこから石段が登ってゆくが、石段とは別に、
大門通りの行き止まりから左の方へ、真間山の横腹を辿りながら登って行く坂がある。
坂のてっぺんあたりに、右へ折れる小さな石段があり、
この石段を登ったまま真っ直ぐ進むと、あの、大学の塀と墓地の生け垣に挟まれた道に
直角に交わる。このポイントを、大学、墓地、幼稚園、団地が取り囲んでいる。

942:真琴
21/05/20 01:42:16.81
手児奈さんの参道と家一軒分隔てて並行する道を、わたしは歩く。
やがて道は大門通りと交わり、わたしは一瞬、右手の石段を眺めながら、
大門通りを渡る。そのまま進むと、狭い道が広い道に出るあたりで、
右に折れる小路が現われる。草の生えた小路をもし進めば、行き止まりから
丸太の階段を登る。階段は、真間山の横腹を辿りながら登る坂に横から刺さる。

943:真琴
21/05/22 02:19:54.05
不意に図書館のイメージが浮かぶがわたしは右に折れて丸太の階段に向かわず、
広い道に進む。わたしは丸太の階段を一段一段登りながら道の脇の草や土を眺める。
広い道を進むわたしはとある住宅の横のおそらく私道である狭い路地、
というかスキマに、猫のように入り込み、真間山の横腹に近づく。
路地の奥にある住宅の裏は崖になっていてこれが樹木に覆われた真間山の横腹である。

944:真琴
21/05/22 02:26:46.93
舗装されていない土の道、雑草が生えていて、青いトタンの壁、
ガスのボンベ、木の枠、そして<やま>に登る道が開いている、
ここからこの<やま>に登ることが出来る。家のなかで暮らしていても、
壁の向こう、家の裏手に<やま>が迫っているのはどういう気分なのだろう……?
ここは鎌倉なのか、それとも「更地」の北辺の道の裏手なのか……?

945:真琴
21/05/22 02:44:13.04
『宮殿』の一角、ふだんひとが入らない裏側の構造を特定の仕方で歩き、
展望台のような小部屋に出て、そこから庭園を隔てて空間の彼方にある、
高速道路のような、3階建てのビルの群れのような、城塞都市の壁のような、
謎の構造物を眺めるのが密かな日課だけど、世界がパノラマの玩具のように
忙しげに無音で動いている。誰もこの窓を見上げない、たぶん、きっと。

946:真琴
21/05/25 00:14:11.58
路地の奥には、塀も無く剥き出しで戸建てが建っている。
建物の横のガスボンベの奥にまわると、平らな地面からいきなり、
樹木に覆われた斜面が始まっている。対する戸建ては白い壁に黒いベランダ。
少し考えた後わたしは、ざくざくと斜面の土に足を踏み込んでゆく。ある程度登ったところで
ふと見ると、黒いベランダの2階から、顔がこちらを見ている。

947:真琴
21/05/27 23:17:13.20
なぜそれは顔なのか。そのパターンを「顔」とにんしきするのはにんげん特有の
情報処理に過ぎない。「別の」ガイア、「別の」モナド、は、
まったく異なるからだをもち、まったく異なるせかいをもつ。
物体が先なのか、言葉が先なのか。
同じ尺度を持たないガイアどうしの座標変換など、原理的に矛盾だという気もする。

948:真琴
21/05/27 23:25:12.23
気がつくと真間山の斜面にわたしがわたしがわたしがわたしがわたしが
一億ものわたしが折り重なって佇んでいる。アーカーシャのなかで、
この瞬間は何度も何度も何度も繰り返され、やり直されてきたのだろう。
その都度、再結晶が促され、この時空点は特異点として、渦を巻き、不変量となり、
それがこのガイアへと射影されている。わたしは解(ほど)きながら結び、佇む。

949:真琴
21/06/09 01:11:14.28
こどもが、おしゃべりをしながら渓谷の底のような地形の、
石ころだらけの道を歩いている。湖の岸は雪で覆われていて、
黒い廊下を端まで歩くと階段がある。本館の3階は
別館では5階に繋がっていて、屋根裏のような細い廊下から
不意に溶鉱炉のような巨大な設備に出る。バルーンが空に漂う。

950:真琴
21/06/11 00:12:53.04
夜、この道を歩くといつも、道端のこの家の二階の窓に明かりが灯っている。
下から見上げる照明は、部屋の天井で球形の姿を見せている。その明かりの
下にどのような部屋があるのかは、もちろん、知らない。住人を見たことも
無い。ある時、窓が開いていたり、ある時、明かりが灯ってなかったりする
と、不思議な気分がする。道端の野原には大樹がいて、夜空へと開いている。

951:真琴
21/06/11 02:06:38.16
此の世の果てである卵殻において発生する事態はMWM変換ではなく
端的なMM変換であるが、両者のあいだに齟齬しか無い変換である。
駅を出てすぐの太い道を果てまで歩くと交差点の向こう側にあるビルの
2階に喫茶店があり、窓側の席に座るとその交差点を見下ろす。
T型の交差点の一つの角に書店がある。

952:真琴
21/06/11 02:12:07.88
片方だけの眼が、気持ち悪い笑みを含みながらこちらを見ている。
物体が先なのか、言葉が先なのか。
真昼の陽射しのなか、新興住宅街の中央部にしつらえられた公園を歩く。
飲み水を出す泉のようなものの横を歩きながらふと視線を感じて
非在の方角へ振り返ると交差点をバスが左折している。谷間の底の池。

953:真琴
21/06/15 03:34:39.96
道の片側が土の斜面になっていて、樹が生えている。
斜面のうえには家の塀が走っている。道は不定形で、
ともするとただの剥き出しの地面になる。
とある家の二階の照明をわたしは見上げる。あの照明の下のにんげんは
きっといま、わたしの著作を読んでいる。

954:真琴
21/06/21 01:14:33.52
小さな庭に面した縁側のある和室で、座卓に向かって勉強している。
硝子戸の向こうの庭は壺のように小さく、すぐ向こうに塀が見える。
塀の下は開いていて、すぐ外には「痕跡的な小川」が流れている。
小さな庭と言っても、左手には梅の樹が生えていて、小さな池もあり、
無数の微小生物が棲みつく小宇宙だとも言える。右手の岩には猫も寝ている。

955:真琴
21/07/05 02:29:19.15
気がつくと雨の住宅街を歩いている。
住宅街の真ん中に唐突に、背の高い黒い和風建築が立っている。
黒い建築は流れる河を見下ろしている。
この河に沿って色々な場所が結ばれている。
「水分子」というのは、いったい何の比喩になっているのだろう。

956:真琴
21/07/08 23:47:14.37
さっきからハイパーチャートのなかで超擬時間軸に沿って状景を前進させたり
後退させたりして遊んでいる。議長に牽引されてミニガイアが近寄ってきてついに激突する、
「一瞬」全ガイアが震え、ほとんど解体する、直後、鰍粒子が撒き散らされ、
ガイアが再起動される、この「瞬間」が凄まじい特異面を描き、ハイパーガイアのなかで
美事な断層面を成している。ミニガイアは縮退し、真間山の胎内に転げ落ちてゆく。

957:真琴
21/07/09 00:01:14.62
「東京大学の院生」から始まったわたしはいま、
「女帝アグノーシア」から「女神      」へと到る途上の
いずれかのポイントにいるのかも知れない、大鴉の意識がだいぶ近く感じる、
でも力を抜いて無数の分枝の一つへと化肉(incarnation)することは楽しい、
たとえば、ほら、杣台の地下駐車場に舞い降りて

958:真琴
21/07/13 23:45:16.98
広大な薄暗い空間、冷え切った空気が全身を襲う。
前方に5台の装甲車が五芒星の形に止められている。と、次の瞬間、
気がつくとわたしは『宮殿』の玉座の間で玉座に座っている。
わたしの前には、なんと珍しい(懐かしい?)、「議長」がひざまづいている。
「議長」のモナドが存続する分枝があり得たなんて。

959:真琴
21/07/13 23:51:19.25
「議長」は何かを話したそうに口をパクパクさせているが
わたしにその声は届かない。気がつくと「議長」の存在は渦を巻き掻き消える。
誰もいない玉座の間でわたしはほほえむ。次の瞬間、『宮殿』の構造体が
至る所で外れ、解体してゆく。気がつくとわたしは新興住宅街の
真ん中に造られた公園のベンチに座り樹木を見上げている。空へ張る毛細血管。

960:真琴
21/07/19 02:45:22.37
わたしは真間山の石段の上に立ち、大門通りを見下ろしている。
公園のベンチに座っていたわたしは立ち上がり、いまでは新興住宅街になった
更地=『宮殿』の区画の北東角のほうを眺める。電車が江戸川を渡る時、
わたしはふと江戸川の上流のほうを眺める。飛行船が漂っている。
きょう、大学では、定例の形而上物理学研究会が行われる。

961:真琴
21/07/20 03:10:39.29
庭に面した和室で机に向かってわたしはmetaphysical physicsのプレプリントを読んでいる。
黄色い電車に乗って江戸川を渡る。渋谷からは井の頭線に乗り駒場東大前で降りる。
気がつくとわたしは「やま」が住宅街と接する境界に立っている。
何の変哲も無い戸建てがあり、そのすぐ横に「ふち」があり、
「ふち」の向こうから「やま」が始まっている。土の斜面が、植物相が。

962:真琴
21/07/23 03:15:02.09
わたしは真間山の石段を一段一段降り、大門通りを真っ直ぐ歩く。
真っ直ぐ歩くのは難しいなぜなら2点間を最短距離で歩こうとすると
アーカーシャのなかでのガイアの歪みに即してフラクタル状の迷路に囚われ
気がつくと京成八幡駅の踏切の横を歩いていたりするからで、むしろ、
距離を最小化することに囚われない方が真っ直ぐ歩ける。真間川を渡る。

963:真琴
21/07/31 02:57:54.76
気がつくと虚空(アーカーシャ)を漂っている結晶崩壊?棲んでいる街ではない
街の駅前にいてこれから夜になるのに電車に乗らず駅から発する放射状の道を
駅から離れる方へ歩き出す繁華街がやがて住宅街になりわたしはとある路地に入る
路地は壁と壁に囲まれたでこぼこな道で道の真ん中に大きな樹木が居座っていたりする
とある塀の向こうの古屋の磨りガラスの向こうに明かりが灯っている

964:真琴
21/07/31 03:07:19.19
崩れてゆく街を階段のように踏みながらわたしは中空へ昇ってゆく不意に
隣の部屋から凄まじい音響がほとばしるわたしは椅子に座り躰をかたくする
気がつくと椅子の背に顔が現われていてわたしは立ち上がり椅子を倒す
窓辺に立ち三階からアーケイド商店街をわたしは見下ろす無数の蟲のように
ひとびとが蠢いていてわたしはわたしはわたしはわたしはわたしは

965:真琴
21/08/03 00:34:14.98
夜の住宅街。家家のあいだにコンクリートで蓋をしたような場所があり、
それはその下を走る電車のトンネルである。トンネルと言っても真面目に
山の横腹に穴を通したものでは無く住宅街に掘った溝に蓋をしたもの
だったのだ。夜の道の赤く火の点いた煙草。無人の団地。一箇所だけ
煌々と灯りの灯っているコンビニエンスストア。壊れかけた看板。

966:真琴
21/08/10 23:53:11.94
スーパーマーケットの入り口にテント生地の天幕が丸く広がっていてその下に
プラスチックの椅子と白い丸テーブルが散らばっている。入り口に向かって右手には
柵が在り、柵の向こうは電車の始点=終点駅になっている。スーパーの側面に
まわると、無表情で巨大なスーパーの建物の横腹を単線が真っ直ぐ走っている。
単線は遙か彼方まで真っ直ぐ走っている。吸血鬼の小説を読んだ。

967:真琴
21/08/11 03:02:27.60
雪の降り積もった日に家を抜け出して電車に乗り、大きな駅のデパートの
エスカレータを昇って書店に来た。『    』という小説が
新刊平積みになっていて気を惹かれる。じんるいの滅亡の後、遺跡と化した都市に
キノコのように生えている三階建てのビルの、下から上がって三階に
行き止まりのフロアがあり、天井に青く丸く星空の天幕が張られている。

968:真琴
21/08/11 03:13:43.68
大きな岩がごつごつと並ぶ磯に打ち寄せる波のような鰍粒子の濁流のなかを
ぴょんぴょん踊るように跳びながら不意に擬時間軸が結晶してくるのを感じ
わたしは「上」を見上げる、「上空」遙かな高みをわたしが、
大鴉が悠悠と舞っている、7次元時空が不意に変調し焦点する、
わたしは高円寺の南口のアーケイド商店街を真っ直ぐ降っている。

969:真琴
21/08/11 03:22:05.34
あまり引っ張り出すと視神経が千切れてしまう。ほどほどに引き出した眼球を
手のひらに載せ、ゼリー状の水晶体をずぶずぶと潰し掻き出す。
網膜を、傷つけないよう注意しながら剥き出しにする。
(これくらいで良いかな…)
わたしはべろを突き出すと、網膜の網を舌のまわりにキャップのようにかぶせる。

970:真琴
21/08/11 03:31:46.33
地下に降りてゆく。底へ。底へ。
底には根の国があり、亡者たちが蠢いている。
根の国とは躰がない言葉たちの場所だ。
偏光顕微鏡で地球を観察すると、毛細血管の浮き出た羊膜が
地球をうすらと取り巻いているのが見える。

971:真琴
21/08/20 00:05:05.66
薔薇の蕾。
中央分離帯を平均台みたいによろめいてると
躰のどこかでざわめいている未来をそっと感じる。
機械が坂を登ったら法律ができて女っぽくなった。
ここが出口かも知れない。


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