万葉県at DENPA
万葉県 - 暇つぶし2ch500:真琴
20/04/13 22:48:40.37
いまこの瞬間、違う時空点でわたしがガイア芽を切り離したとしても、
わたしは気づかないだろう。ガイアは広大なので、そのガイア芽の存在に
わたしが気づかずに終わる可能性もある。もっとも、自分がガイア芽の側に
乗っていた場合は、さすがにその事実には気づくだろう。
ガイア芽に乗ったまま出航させられることはフダラク渡海だ。

501:真琴
20/04/13 22:55:13.94
肉の体を疲れさせた方がかえって躰は休まるのかも知れない、わたしは
ハイキングコースを登り始める。無限に細かい樹木の景色が、たしかに
躰の疲れを落とす、気がする。しばらく登ると、鎌倉の街を囲む山々の
尾根を歩く感じになる。とある場所で、道のすぐ横が崖で、空中たかく
ホバリングする鳶が眼の前に見える。滞空する鳶を眺めるうち、わたしは、

502:真琴
20/04/15 22:55:35.87
気がつくとわたしは高円寺南口の商店街を歩いている。
アーケードの坂を下り、川の名残の遊歩道を越え、坂道を上ってゆくと、
上り切ったあたりに喫茶店がある、わたしが座るいつもの席は日本人形の隣り、
日本人形となんとなく会話をしながら珈琲を飲む、
見上げると店の天井の頂点に千羽鶴が吊されている、それは、

503:真琴
20/04/15 23:01:32.08
純白な空間に無数の千羽鶴が散らされている、「現代芸術家」の作品だろうか、
無数の千羽鶴はわたしが実験に使って燃やしたり融合させたりした無数のモナドを
表現しているように感じられる、美しい、
この状景を見たのはどこかの美術展だったか、あるいはアーカーシャでのなにかの景色が
このように記憶されているのか、喫茶店の天井の頂点に吊されている千羽鶴を見るうちに、

504:真琴
20/04/15 23:10:12.73
NOVA警察の杣台管区基地では、アグノーシアの第三の主著を入手するミッションが企画されている。
どうも、第三の主著が存在するらしいのだが、真偽のほどはわからない、
ただ、ガイアの分枝のあちらこちらに散らばる断片的な伝承によれば、
杣台消滅による第2ガイア出航に紛れ込ませて、
とある書棚に主著を三冊並べた、らしいのである、ということは三冊目があるのだ。それはどこの書棚なのか?

505:真琴
20/04/15 23:16:41.23
「議長」は、第2ガイア出航時にNOVA警察杣台管区基地にスカウトされた人材だが、
内的資産としてはなかなか良いものを持っているものの、
多年に及ぶアグノーシアの蹂躙の結果、にんげんとしてはすっかり壊れていた、
だが、だからこそNOVA警察としては使い出がある人材なのだ、
第三の主著の探索はかれの専担事項とされた。

506:真琴
20/04/15 23:22:39.85
きょうは新しい電車のオープンの式典がある。鉄道、などという固定しているはずの景色のなかに、
新しい路線、などというものが出現するのは不思議すぎる。
新しい路線はスーパーの正面入り口のあたりを始点=終点として、
と考えるうちにわたしは、第三幹線軌道の「カサタ端」駅に立っている、
カサタたん? 相変わらず謎の萌えキャラのポスターが貼られている。

507:真琴
20/04/16 22:39:27.76
しばらく待っていると、折り返しの車両が入線してくる。
レトロな感じの車両で、わたしは扉を入ってすぐのシートに腰を下ろす。
いつのまにかNPC染みた群衆が、あるいは、幽霊染みた群衆が、
ぞろぞろと乗り込んでくる。路面電車の運転士は「たなかいちろう」さん。
漢字では「田中胃血狼」と書くらしくてこれはいったいどういう命名なのだ。

508:真琴
20/04/16 22:45:28.88
「田中胃血狼」……、あ、田中胃血狼!
それはむかし『コヨなくice(はぁと)』というマンガを連載していたマンガ家の名だ。
あの名前、ペンネームじゃなくて、実名だったのか。それとも路面電車の運転士の名を、
ペンネームで出すことが可能なのだろうか。そもそも本人なのか?
コヨ世界の滅亡とアイスクリーム屋が絡んだセカイ系SFラブコメだった気がするけど、

509:真琴
20/04/16 22:50:54.75
コヨ世界の滅亡……? たしかにわたしがコヨを滅ぼしたけど、
こんなのがなにかを啓示しているんだろうか。
車窓の向こうを流れる第3幹線軌道商店街の店たちを眺めながら、
この路面電車をいま運転している田中胃血狼氏の脳内に、
『コヨなくice(はぁと)』を描いていた頃の記憶というか思い出が眠っているのかと、

510:真琴
20/04/16 22:54:44.57
雨のなか、杣台市の端っこまで歩いてくると、河を渡る橋のたもとに
大地から生えたデベソのような小さなビルがあって、その三階建てのビルが、
地下一階から地上二階まで古本屋になっている。一般的な小説などが一階にあり、二階には
文学全集や自然科学、社会科学などがある。地下一階はマンガや文庫本。
地下一階のとある書棚に、意識して眺めると、『コヨなくice(はぁと)』が並んでいる。

511:真琴
20/04/16 23:06:14.39
Intrusion Countermeasure Electronics―ICE、侵入対抗電子機器。
アイスを意識しろという啓示……? たしかにそもそもアイが杣台を出航させたときは、
軍用AI〈杣台SQ1〉を使って都市を管制していたけど……
出航後の百万都市船で「砂海のロレンス」を構成する核になっていた院生は、
〈杣台SQ1〉のICEに引っかかっていた可能性が高い。まさか、これなのかな。

512:真琴
20/04/16 23:16:41.77
それとも、「アイスクリーム屋」という方に力点があるのか、「アイ、スクリーム」とか……?
わたしは路面電車の扉を入ってすぐのシートに腰を下ろしたまま、運転席の田中胃血狼氏の、
NPC染みた群衆のなかで意外にもリアリティがある横顔を眺める。
この頭部のなかの、頭蓋骨のなかの、脳髄のなかにある内的世界で、
『コヨなくice(はぁと)』の記憶はどういう姿をしているんだろう……

513:真琴
20/04/16 23:28:06.48
わたしは思い切って訊いてみることにする。
―あの、運転士さんって、マンガ家の田中胃血狼先生なんですか?
運転士は一瞬こちらをぎょろっと見ると、すぐ正面を向いた。
―あー、それ、良く言われるんですけど、僕じゃありません。
―でも、お名前が…… それ、ワーキングネームみたいに出来るんですか?

514:真琴
20/04/16 23:34:42.07
―いや、出来ませんよ、免許ですから、実名じゃないと。というか、マンガ描いてたのは、
僕のいとこなんです。デビューするとき、勝手に名前使われちゃって。
意外な真相だった。そもそも、第三幹線軌道を走る路面電車の運転士なんて、
ほとんどモブのNPCに近い存在だろうに、なんでこんな「設定」があるんだろう。
その、「マンガ家の田中胃血狼先生」だったいとこさんに、なにかあるのかな。

515:真琴
20/04/18 23:20:43.63
「思念物の粘度・印度の測定なら、浜崎測定器へ。オーダーメイドで作ります。
次は「深淵車庫前」」車内放送を聴き、わたしは思い出す、ああ、この深淵車庫前で
此の世を底とする「ファイバー空間」を編むうちにハイパーチャートの開き方を習得したのだった、
誰も降車ボタンを押さず停留所で待つ者も無く路面電車は「深淵車庫前」を通過する、
深淵車庫とその横の児童公園の状景が過ぎ去ってゆく。

516:真琴
20/04/18 23:28:04.71
やがて路面電車は王子の坂を蝸牛のように這い上る、何度見ても
ゆめのなかのような光景で、わたしは車両の窓と窓と窓の向こうを
動き回る街を食い入るように凝視める、映画の楽しさはやはり
カメラが動き回ることだと思う、固定カメラの向こうで沈黙気味な演技が続くような映画はキライ、
気がつくとわたしは映画館の暗闇のなかで動き回る視線のなかで動く存在を凝視めている。

517:真琴
20/04/18 23:41:05.59
映画館を出ると真昼の街。一瞬、さっきまで自分がどこにいたのか、まったく思い出せない。
ああ、映画のクライマックスでは路面電車が王子の坂を蝸牛のように這い上っていたのだった、わたしは、
上映室の階段を上ったぶんを相殺するかのようにスペイン坂の階段を下る、
この階段のたたずまいは神社の石段を思わせて楽しい、路面電車は王子の坂を登り切ると、
ある種の覚悟を決めて決然と住宅街に侵入してゆく、

518:真琴
20/04/18 23:57:05.97
わたしは人混みを横切りながら東急文化村の方に向かい、そのまま坂を上って大学に出る。
そう、きょうは東京大学大学院新領域創生科学研究科主催の特別講義、
『形而上物理学の現在と過去と未来』があるのだ。……。講義が終わり、わたしは先生に質問する。
―すると先生は、7次元時空におけるガイアの浮遊性は、
たんに外部からの観測者の不在が原因だとおっしゃるのですか?

519:真琴
20/04/18 23:58:18.64
―そうはいっとらんよ、君。
ただ、あと一歩踏み込めば不可知論になり、二歩踏み込めば宗教になってしまう。
科学者としては踏みとどまるべきだとは思わんかね?
ほら、踏み切りだ。遮断機がカンカン鳴っとるよ!
(でも、観測者はいるのです……)

520:真琴
20/04/19 00:09:31.03
随分、懐かしいことを思い出した、このやりとりのあと、わたしは、
「じんるいこそNOVA族の神経素子なのではないか」という着想を得たのだった。
そして、東京大学大学院新領域創生科学研究科衛星都市研究分室の研究員として、
富士の樹海のなかにある次元廻廊を経由してフダラク市へ昇ったのだ。
衛星都市フダラク、形而上物理学研究のメッカ。

521:真琴
20/04/19 23:02:12.81
これがその装置なのです、とNOVA警察の技官が言う、この装置の圏内でチャートを開けば、
向こう側の時間軸に対してこちらの時間軸を斜めに挿入できるのです、つまり
どういう効果があるかを単純化して言えば、向こうの1秒がこちらでは1時間に相当します、
もちろん座標変換の歪みは凄まじいものになりますから、操作を誤れば
チャート破裂、みたいな事態も考えられます、ですが、ミッション実現のためには、

522:真琴
20/04/19 23:05:37.16
「議長」は曲がりなりにも形而上物理学者だった―なにしろ、
新書『わからなくても感じれる形而上物理学』の著者である―が、
時間軸をそこまで極端に斜めに挿入する座標変換がいったいどういう原理のものなのか、
想像がつかなかった、もしそんなことをしようとするなら、
アーカーシャにおける時間発展についての理論を必要とするはずだが、そんなものはまだ、

523:真琴
20/04/19 23:10:30.52
どうしても気になった「議長」は技官に質問した、あのー、
この装置の作動原理だけど、……だが、「議長」が質問し終わる前に技官は言った、
あ、原理は不明です、上層部から装置と取説だけが降りてきていて、
作動原理はぼくも知らないっす、ちょっと考えると、とても無理な動作ですよね、
アーカーシャにおける時間発展の理論なんて、いまだに雲をつかむ状態なのに、

524:真琴
20/04/19 23:21:45.39
とにかくミッションは、コヨの杣台に、そこが消滅する直前というタイミングでチャートを開き、
『古書広獺川』の書棚からアグノーシア様の第三の主著を入手することです、
第三の主著はおそらくこの書棚にあります、多くの分枝世界における伝承を総合した結果です、
「議長」さんは当該世界のネイティブですからチャートも接続しやすいはずです、
想定される最大の危険はアグノーシア様とじかに遭遇することです、二番目は世界の崩壊とチャート破裂、

525:真琴
20/04/19 23:29:48.24
「議長」は覚悟を決めて針の穴を通すような厳密なタイミングで
消滅する直前のコヨの杣台にチャートを開いた、伝承によればアグノーシア様が
悪戯心から書棚に三冊の主著を並べたのは世界崩壊の本当に直前だったらしい、
乱流のなかなんとかチャートを開くと、―雨である、「議長」は用意していた傘を開き、
杣台市の端っこあたりを歩く、すると、河を渡る橋のたもとに

526:真琴
20/04/20 23:25:07.68
大地から生えたデベソのような小さなビル、『古書広獺川』、
雨のなかその前に立って「議長」はすこし躊躇う、これから動作原理も知らない装置に身を委ねるのだ。
と、ビルの正面の引き戸をガラガラと開けて学生風の男が出てくる。
急がないと世界の崩壊が始まる。「議長」はポケットのなかの装置のボタンを押して、
第二段階のチャートを開く、世界の最後の1秒が3600倍程度に引き延ばされる。

527:真琴
20/04/20 23:31:57.59
世界が静止した。「議長」は学生風の男をよけながらビルに入る。
光景が見えているし、歩けている、呼吸できている、ということは、
この世界と「議長」とのあいだに何らかの形で相互作用は成り立っているはずだが、
どうにもその原理がよく分からない。主観的な時間拡張か? だとすれば、
世界のなかで肉体が動いている速度が解釈できない。

528:真琴
20/04/20 23:36:24.16
とにかく「議長」は二階に昇り、物理学の書棚を探す―と、あった、これだ、
『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』
その横に…… いや、三冊目は無い。どういうことだ?
『古書広獺川』の書棚に三冊が並んでいたというのはガセネタなのか?

529:真琴
20/04/20 23:42:19.34
そもそも無意味だったのかも知れないミッションに生死を賭けていることが
「議長」に焦燥を生む。(まだ、時間はある)(店主のPCに在庫目録はないのか?)
「議長」は一階に戻ると、店主の座席にゆく。
店主は「プリントアウトを閉じたような冊子」を手に、動きを止めている。
「議長」は、開いている店主のPCの画面を見ながら、検索を試みる。

530:真琴
20/04/20 23:49:50.97
(無い…… それらしいものが、まったく無い……)
「議長」の残り時間が逼迫してくる。焦るな、落ち着け、「議長」は深呼吸しながら
停止した店内を見回す、と、閾域下で訴えてくる何か、がある。
「議長」はもう一度落ち着いて店内を見回す、と、停止した店主が眺めている冊子の頁に
記号や数式が並んでいること、―これが形而上物理学のテクストであることに気づく!

531:真琴
20/04/20 23:54:53.36
停止した店主に触れないよう、下から覗き上げると、
『アーカーシャにおける時間発展と射影構造』というタイトルが眼に入る。
これかあ! 「議長」は店主の手から本を入手しようと考える。
「議長」が本を引き抜いてからこの場を脱出すれば、店主的には本が瞬間的に消失したみたいに見えるはずだ。
しかし迂闊な動きは店主に大怪我を負わせる危険があるのでは無いか?

532:真琴
20/04/20 23:58:27.42
(だが、どのみち崩壊する世界だ、店主が大怪我をしようが構うもんか)
それでも、本を引き抜くと同時に指がバラバラと跳ね飛ぶ、みたいなのは
勘弁して欲しい、「議長」はなるべくゆっくり本を引き抜こうと、
そーっと手を伸ばす。と。
その「議長」の眼の前で本がいきなり消失し、店主の指がバラバラと跳ね飛んだ。

533:真琴
20/04/21 00:05:02.52
何が起こったのか、「議長」にはすぐには把握できなかった。
え? え? え? と動揺しながらあたりをキョロキョロ眺めるだけだった。
店主の指がバラバラと跳ね飛び、断面から血が噴き出している、それは、
「議長」の時間のなかで起こっていた、一方、店主の本体は静止したままだ、
そうか、俺のチャートに対して、さらに時間軸を斜めにして入ってきている奴がいるのか!

534:真琴
20/04/21 00:10:23.51
も、もう無理だ、ミッションは失敗だ、脱出しよう、「議長」は
周囲を警戒しながら『古書広獺川』の外に出る、だが、未知の「敵」は
「議長」の時間における瞬間のなかに侵入できるのだから、もし殺すつもりなら
第三主著の奪取の時に既にやられているはずだ、だからとりあえず警戒する必要は本当は、無い、
『古書広獺川』の外に出て広い空を見上げると、空は奇妙な台形の形に歪んでいた。

535:真琴
20/04/21 23:18:10.02
「議長」が『古書広獺川』に入ってからまだ1秒も経過していない、
引き戸のすぐ前には学生風の男が静止している、「議長」は第二段階のチャートを閉じ、
通常世界に戻った後、NOVA警察の杣台管区基地に跳ぶ、
―「議長」が基地のジャンピングスペースに戻った直後、
周辺のすべての物体が爆発炎上し始めた、うわぁああああ、なんだこれはぁあああああ

536:真琴
20/04/21 23:24:05.77
未知の「敵」が簡単に殺せる「議長」を生かしておいたのは足跡をたどるためだった、
決して、「いつでも殺せるのに殺されなかったということは、とりあえず警戒する必要は、無い」
などということでは無く、むしろ「議長」は、簡単に殺せるのになぜ殺さなかったのか、そのことの
「敵」にとっての意義を考察するべきだったのだ、
―瞬く間にNOVA警察の杣台管区基地は壊滅した。

537:真琴
20/04/21 23:31:09.26
後になって判明したことだが、犯行は帝国主義者たちの仕業だった。
この頃、NOVA警察には対抗するふたつの勢力があった、一方は帝国主義者たちであり、
アグノーシア様に文字通り女帝として君臨していただき、アグノーシア帝国を作ろうという勢力である。
この勢力は根本的にはアグノーシア様を舐めていた、女帝は親政などには興味を示さず、
宮廷政治に絡め取ることができる、と踏んでいた節がある。

538:真琴
20/04/21 23:37:13.69
他方は人間主義者たちである、かれらはアグノーシア様の無邪気さをよく理解していた、
アグノーシア様には邪気、つまり悪意は無い、ただ、善意もないのだ、「作り、壊し、遊ぶ」……
アグノーシア様は慈愛と恐怖の女神であり、本人は、ただ、無邪気に遊んでいるだけなのである。
アグノーシア様はただ遊んでいるだけなのに、下界の者たちがそれを、
慈愛であるとか、恐怖であるとか、かれら自身の都合で秤量するのだ。

539:真琴
20/04/21 23:44:11.11
人間主義者たちは、遠くから敬う、これこそがアグノーシア様への正しい態度であると理解していた、
―ただ、事実として言えることは、アグノーシア様によって実験なり何らかの理由で燃やされたモナドが
何百億に及ぶとしても、アグノーシア様によって切り開かれた時空に棲まうモナドは
何百兆にも及ぶ、そもそもガイアはもともとは静かな沈殿だったという、
アグノーシア様が攪拌することによって細胞分裂のように分枝世界が生じ、いまのような姿に進化したのだと、

540:真琴
20/04/23 00:11:33.80
「やがて、第2ガイアが、くらり、と動いたかと思うと、主ガイアから外れた。
外れたかと思うと、アーカーシャのなかを急速に移動し、真空粒子の彼方に消えた。」
この瞬間の状景を何度も思い浮かべる。もちろん、観測もしてある。
ガイアの沈殿はそもそも凝集しようとするわけだが、ふたつのガイアが外れ始めたある時点からは、
急激に斥力が働いている。この斥力を定式化したい。

541:真琴
20/04/23 00:25:20.04
「えゝ 水ゾルですよ/おぼろな寒天《アガア》の液ですよ」
アーカーシャの果てしない真空のなかに幾匹かのガイアが、
まるで《アガア》のなかの線虫のように踊っているのだろうか。
主ガイアから外れたあとの、あの第2ガイアは、
真空の彼岸でその後、どんな世界を紡いでいるのだろう。

542:真琴
20/04/23 00:34:11.80
顕微鏡から眼を離したわたしは、生物学教室の窓の外の光景を眺めながら、
一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなる、
さっきまで没入していた「蠕虫舞手」の世界から、この世界への切り替えが
うまく働かない、というか、急速にこっちに戻ってきたので、
さっきまでどこにいたのかがわからなくなった、鏡筒のなかを細く覗いて、あ、これだ、と思う。

543:真琴
20/04/23 22:37:57.90
マーラーの交響曲第9番の第4楽章のなかに、
「死後の魂たちの待合室で鳴る呼び出しベルの音」と、
わたしが個人的に思っている箇所がある。わたしが穴をくぐって
ふわりと舞い降りると、そこは巨大な客船の、夜の甲板だった。
あたり一面は海であり、しかも底知れず暗い。そのなかで、艦橋が輝いている。

544:真琴
20/04/23 22:44:14.36
樹の幹を下から上へ眺めてゆく。高さを「ある種の時間」の軸だとする。
ある高さで切断した幹の断面(じっさいに切断するのでは無く、幾何学的に考えた断面)を、
「ある時刻」での世界だと考えると、幹から枝が生えたとき、
枝が生えたあとの高さ(「時刻」)で断面を取れば、
世界が二つになっていることになる。このアナロジーで第2ガイアについて考えてみよう。

545:真琴
20/04/23 22:49:24.97
チャートを開くとき、いまここからいまここではないいまここへ跳ぶわけだが、
それが可能なのだとしたら、主ガイアから第2ガイアへ跳ぶ座標変換ができても良い気がする。
ただし、主ガイアのなかでチャートを開くときは、まさしくガイアのなかでの座標変換だが、
主ガイアと第2ガイアのあいだには茫漠たる真空の大洋が広がっている。
しかし、「ある種の時間」を遡ってかれらが分岐する前を経由すれば……?

546:真琴
20/04/23 23:04:31.72
遊覧船の航路も終わりに近く、松島海岸が近づいてくる。
土産物屋やホテルの建物が国道に沿って立ち並ぶ様子が正面に見える。
真っ直ぐ波止場に向かう航路の右手、岸の近くに、
樹木に覆われた大きな島がひとつあって、岸から島へ、
朱塗りの細くて長い長い長い橋が、幾何学的な直線を描いている。

547:真琴
20/04/23 23:07:50.08
陽がとうに沈み、夜が始まる頃、内海にのぞむ堤防に沿って歩く。
海に向かって右のほうには山並みが、
街を抱きかかえる巨人の右腕みたいに連なっている。
その頂上のあたり、黒々とした樹木のあいだに電気の灯かりが煌々と光っていて、
ホテルの宴会場か何か、大きな空洞空間をぽっかり浮かび上がらせている。

548:真琴
20/04/23 23:09:20.69
朱塗りの橋のたもとまで来た。
橋の入り口には管理棟らしき建物があったが、夜になると開放するらしく、
脇にまわれば橋に入れた。
橋のたもとに『福浦橋』と書いてある。
直線が真っ直ぐ進み、その先は夜の闇のなかの黒い島に消えてゆく。

549:真琴
20/04/23 23:12:18.73
橋を途中まで渡ってみる。橋の上から内海を眺めると―夜の底はほんのり明るい。
樹木に覆われた大小さまざまの島が夜の内海に黒い影のように点々と浮かぶ様子は
無意識の底を撮影した写真のよう。見上げると満月。
鏡のように光る月をじっと覗き込んでいるとだんだん爪先立ちになってきて、
不意に向こう側とこちら側が入れ替わる。

550:真琴
20/04/24 23:39:48.15
住宅街の細道の、直角では無い歪んだ角の所に、青い物置が置かれている。
物置のなかに何があるのかはわからない。
物置のなかににんげんが一人封じ込められていて、直方体の空間から外に出られないまま、
生存していたとしても、わからない。このような封印空間がアスファルトの道路の下とか、
デパートの建物の壁のなかとか、公園の噴水の台座のなかとかにある可能性もある。

551:真琴
20/04/24 23:48:51.18
樹海のなかのあの時空点に行くことは物理的には禁止されていないが、
現実には行かない、行けない、その到達不能点に、いま現在、とある蟲がいて、
その蟲が蠢き這っている、その地面の匂いとか感触、空気の寒さ、闇の暗さ、
そんなものを想い浮かべながら、鎌倉の、竹林の寺へ向かう裏道を歩いていると、
道沿いに並ぶ民家のうちの、とある一軒の二階の窓に明りが灯っている。

552:真琴
20/04/26 23:15:01.41
その男はフダラク市にはありえない存在だった。
その男は浮浪者だった、ホームレスだった、路上生活者だったのだ。
フダラク市は衛星軌道上に存在する人工的な生活圏であり、全構成メンバーが
何らかの組織から莫大な予算を取得してここに来ている。
その男の存在は、言ってみれば「ISSのなかに浮浪者がいた」みたいな異常事態だった。

553:真琴
20/04/26 23:23:36.09
逆にその男はここがフダラク市であることに気づいていなかった。
謎の「敵」にNOVA警察杣台管区基地を焼き払われ、うわぁああああ、なんだこれはぁあああああ、
と叫びながら、自分でもよく分からない座標変換を繰り返し、おそらくその過程で
装置のことを思い出して第二段階チャートを開いたりしたことも功を奏したのだろう、
追っ手を振り切ってただし身一つで見慣れぬ都市の路上に放り出された。

554:真琴
20/04/26 23:33:18.51
フダラク市のAIはこの男のことをその出現直後から認識していたが、
解釈不能な事態なので、経過観察をしていた。なにしろ、
形而上物理学のメッカ・フダラク市である、異常事態は研究対象だ。
おそらく男はチャートを開いてフダラク市に侵入してきたものと思われるが、
フダラク市周辺は乱流だらけであり、遊泳不可能なはずなのだ。

555:真琴
20/04/26 23:39:14.84
フダラク市のAIは三日待ったが、この三日間に男は浮浪者化、ホームレス化、路上生活者化を
深めただけだった。フダラク市のAIだけでなく、「市民」たちもこの男の存在の異常さに
気づいていたが、だからこそ多くの者は触れないようにし、秘密情報を知る一部の者及び
その部下たちだけが遠巻きに観察していた。三日目に市職員が男に話し掛けた。
―ええと、その、ここで何をしていらっしゃいますか?

556:真琴
20/04/26 23:46:09.67
男は怯えて、あ、あ、あ、と口を開こうとして開きえないまま、
一歩ずつ後ずさってゆく。
―だいじょうぶですよ、こわがらないでください、お名前は?
男のどこかの回路が通電したらしい、不意に壊れた機械のように口が動き始めた。
―NOVA警察、杣台管区基地、工作員、コードネーム「議長」、であります!

557:真琴
20/04/27 23:49:10.86
―NOVA……警察?
市職員の顔に緊張が走る。NOVA警察、それは形而上物理学界隈での都市伝説と言うべき
秘密組織である。もっとも、このフダラク市の場合、フダラク市自体がNOVA警察の遺棄施設であることから、
その存在は肯定されていた、ただ、実態はつまびらかではなかった。
眼を瞠る市職員の前で、突然、血しぶきが舞い、見ると「議長」とやらの体が消えている。

558:真琴
20/04/27 23:56:26.18
いまここがいまここであることは「永劫回帰」的に何億年も繰り返されているのだが、
それが、今、すこし時間発展をした。いまここで帝国主義者が使った第二段階チャートの技術は、
「ポスト第3主著」の産物であり、ガイア全体の概時間軸のなかでは、因果的には、
この時空点に存在し得ないものである。それが使われた。パラドックスが時間を進める。
このとき、すこしの矛盾ならガイアの再結晶に吸収されるが、激しすぎる矛盾は結晶の崩壊を招く。

559:真琴
20/04/29 23:05:54.16
スーパーの正面あたりが謎の線路の始点=終点駅になっている状景、
この記憶に関連して必ず思い浮かぶ、道沿いに水路があり、水路の向こう側が
だだっ広い更地になっていて、そこがいまは工事中であるという状景、
このふたつの状景がなぜ繰り返し思い浮かぶのか、特に後者の状景で、
水路の更地側の壁が、波打つ赤い鉄板を縦に地面に植え込んだものであることなど、

560:真琴
20/04/29 23:11:28.39
スーパーの正面入り口、なのだろうか、記憶のなかのこの場所には、
陽光を半分通すようなビニール膜の覆いが掛かっていて、
安っぽいプラスチックの腰掛けがたくさん並んでいる、むしろ、
デパートの屋上にある屋外広場風に「見える」、だが、だとしたら、
見通せないほど遠方まで真っ直ぐ延びている線路の印象と喰い違うし、

561:真琴
20/04/29 23:14:48.04
大きな建物の窓の無いのっぺらぼうな側面に沿って、
盛り土のうえを線路が走っていて、さらに、
線路のこちら側にはアスファルトの幅の広い道が走っている、
ただし、自動車の定常的な流れがあるようないわゆる車道では無く、
道の真ん中を歩行者たちがそぞろ歩いているような「車道」である。

562:真琴
20/04/29 23:20:38.75
もしかしたらこの謎の線路は、
分枝世界どうしを結ぶ「幹線軌道」を走る路面電車だったのかも知れない、
―あの、カサタとコヨを結んだ第3幹線軌道の路面電車のような。
だとすると、どうしても記憶が鮮明にならないのは、分枝世界の崩壊に伴って
記憶素自体が欠落しているからなのか。

563:真琴
20/04/30 01:12:43.72
崩壊した分枝世界、記憶に無い分枝世界、忘れてしまったことすら忘れてしまった分枝世界、
そのような分枝世界の状景であるのかも知れない、というか、
おそらくは「そう」なのだけど、とりあえず、記憶にある分枝世界、在りし日の分枝世界テータの市川に飛ぶと、
わたしは市川市の地図上を右上の方へ歩く、
記憶によればあの更地やスーパーはこの方角にあったはずだから。

564:真琴
20/04/30 01:21:04.76
見覚えの無い住宅街や田んぼの横の道を歩く。田んぼの横の道と言っても、
アスファルトで舗装された小道である。まったく確信の無い感覚に導かれるまま、歩く。
と、とある角で、とある古ぼけたビルが佇んでいる角で、車道から一本奥の
無駄に広い道に入ると、あった、あったよ、あったよ、なんだこれ……
道沿いに水路があり、水路の向こう側にはだだっ広い更地。

565:真琴
20/04/30 01:28:11.65
更地には建設計画の看板が立てられている。
『女帝アグノーシア宮殿』
なにこれ。謎の記憶の場所が実在しただけでは無く、そこは
帝国主義者たちの牙城の建設予定地だった。こうなってみると、
スーパーの正面を始点=終点駅とする線路は「幹線軌道」なのかも知れない。

566:真琴
20/04/30 18:46:55.88
更地はここから見るだけでもおそろしくだだっ広い。わたしはいま
更地の東南角から南辺をすこし進んだ位置にいるが、南辺に沿った道の進行方向を眺めると、
道の果てまで、左には街並みが、右には更地が広がっている。
わたしは一度東南角まで戻って、今度は東辺に沿った道を歩いてみる。
この道も眺める限り果てまで右には街並みが、左には更地が広がっている。

567:真琴
20/04/30 18:54:05.14
更地と道のあいだには、南辺の場合も東辺の場合も、水路が走っている。
お濠と言うほど幅広いわけでは無いが、水路が遮断しているので、更地に気楽に入ることはできない。
東辺に沿って道の反対側に広がる街並みは戸建てが多い住宅街で、
更地側はずっと水路が走っているのに、住宅街側にはときおり垂直に枝道が差し込んでくる。
かなり歩いた。かなり歩いて更地の北東角に到り、わたしは北辺に沿った道へ曲がる。

568:真琴
20/04/30 18:58:28.85
北辺に沿った道も更地とのあいだに水路を挟んで果てまで真っ直ぐに進んでいる。
おそらくこの更地は長方形で、建物を建てるというより、一つの街に匹敵するくらいの広さがあるのだ。
確かに帝国主義者たちはここにわたしの「御所」を建てるつもりなのだろう。
北辺に沿って道の反対側は、林が広がっていて、林に埋まるようにしてときおり
住居が建っている。この林が登記上どのような存在なのかはわからない。

569:真琴
20/05/04 00:34:50.35
地所の様子はだいたい分かったので北辺、西辺、南辺をすべて歩くことは割愛する。
折角だからこの広々とした更地を歩いてみたかったが、水路で囲まれているので、入るのが難しい。
チャートの切り替えで入るのもちょっと気分が違う。ふつうに道から歩いて入ってみたかった。
―更地の周囲を一周歩いたら元の場所と異なる地点に達する、とかなら、
更地のなかに面白い特異点があることになり興味深いけど、今回は一周は割愛しよう。

570:真琴
20/05/04 00:43:29.33
地所の北東角から北北東へ斜めに道が走っている。地所を取り囲んでいる道とは異質な細い道で、
アスファルトで舗装されておらず、道沿いに松が生えている。
この道があの謎の線路の始点=終点駅となっているスーパーまで繋がっている、気がする。
この細い道は、古い道で、時空の繊維をたくさん集積している。
「御所」予定地の一周より、この道をたどることの方が面白そう。楽しそう。

571:真琴
20/05/06 02:25:18.52
わたしたちはここでいったいなにをしているのだろう。
わたしたちはここでいったいなにをしているのだろう。
一度しか歩いたことのない道の状景がいつまでも消えない。
一度だけ歩くときこの状景がその後残るのかどうかそのときに判断できるのだろうか。
残ることなく消えた状景は記憶されなかったのだから思い出すこともできない。

572:真琴
20/05/06 02:32:02.32
地所の北東角から北北東へ斜めに走っている道沿いの状景は、
奇妙に生々しく同時に奇妙に曖昧で、わたしに刻印されていつまでも残るような気もするし、
忘れてしまう気もする。木の長い塀や、コンクリートの長い塀。
塀の向こうに樹が植えられていたりするが、家は平屋だったり2階建てだったりする。
道は舗装されていない土の道で、道沿いに松が生えている。

573:真琴
20/05/06 02:39:13.83
歯科技工士の工房がある。発注を受けてここで制作するのだろうか、
住居的な入り口の他に事務所的な引き戸もあって、建物がキメラになっている。
この建物は周囲にそぐわない。道沿いの他の住人たちには、
あの家がいつ頃あのように変質したのかについて一言ありそうな感じがする。
この家が「おじいちゃんのいえ」であるようなこどもがどこかにいるのだろうか。

574:真琴
20/05/06 02:44:23.74
夏休みに「おじいちゃんのいえ」に行くとにんげんの口だけの模型があって、
独特な器具、独特な匂いがあった、そのようなこどもがどこかにいて、
一方、「じぶんのいえ」が大地から生えたデベソのような3階建てのビルで、
地下一階から二階までは古本屋を営んでおり、じぶんたちは三階に住んでいる、
そのようなこどももいるのだ。いけない、これではあのスーパーが遠ざかってゆく。

575:真琴
20/05/06 23:14:44.05
このまま進んでもあの謎の線路の始点=終点駅となっているスーパーまで辿り着ける気がしない。
あのポイントまで繋がっていそうだという感覚が急速に退いてゆく。
北北東を目差していたはずの道も、気がつくと南南西を目差している感じがする。
わたしは「とんっ」と4次元時空沈殿を蹴り、虚空に浮かぶと、スケールを変換したうえで、
ガイアを外から眺める。と、「御所」予定地のあたりに凄まじい特異点の柱が立っている。

576:真琴
20/05/06 23:20:52.07
やはりあの地所のなかには特異点が含み込まれていたらしい。
北辺、西辺、南辺をちゃんと歩くべきだったかも知れない。
凄まじい特異点の柱に隠れるようにして白い紐が走っている。
生魚に包丁を入れたとき白い紐のような神経が肉のあいだを走っているように、
独特な存在感を見せるあれはきっと幹線軌道だけど、わたしはあれを作った記憶がない。

577:真琴
20/05/06 23:27:20.89
わたしが作ったけどわたしにはその記憶がないのか、
「未来の」わたしが作るのか、あるいはわたし以外の誰かが作るのか、
いずれにせよ、あの謎の線路の始点=終点駅までの距離は、一見近そうでいて物凄く遠い、
特異点の近傍だからだ。気がつくとわたしは、江戸川の市川市とは反対側の岸辺の
とある街にある書店にいる。なぜここに飛んだのか?

578:真琴
20/05/06 23:33:07.08
小さな駅の(どの駅か?)駅前にある小さな書店、書棚の大部分は、
文庫本・新書本・雑誌・マンガ・実用書、なのに店主の矜持なのか、この書店には
「専門書」コーナーがあり、そこには2冊の本が並んでいた、
『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』
『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』

579:真琴
20/05/06 23:40:11.91
罠なのかな、うーん、罠だね、わたしが3冊目を置くことを期待しているのか、
それにしてもここはどこの街なんだろう、市川市とのあいだに江戸川を挟んでいることに
防壁的な意味があるのか、気がつくとこの書店の所在地が書き換えられていて、
ここは高円寺のアーケイド商店街、アーケイドに開口している古本屋さんに転換している、
わたしは後ろを見ずに店を出ると、アーケイドの天井を仰ぐ。

580:真琴
20/05/07 02:26:03.72
アーケイドの天井いっぱいに大きな顔が浮かんでいる。どこが眼とか、
どこが口とか、特に定めることは出来ないけれども、とにかくこれは大きな顔だ。
大きな大きな顔、顔がこちらを見下ろしている。
わたしたちはここでいったいなにをしているのだろう。
わたしたちはここでいったいなにをしているのだろう。

581:真琴
20/05/07 02:29:52.58
一度しか歩いたことのない道の状景がいつまでも消えない。
一度だけ歩くときこの状景がその後残るのかどうかそのときに判断できるのだろうか。
残ることなく消えた状景は記憶されなかったのだから思い出すこともできない。
記憶しなかった状景を思い出してしまったらどうすれば良いのか。
江戸川の向こう岸の本屋、床がざらっとしたコンクリートで、

582:真琴
20/05/07 02:36:13.74
福浦島を歩いているとき、下り坂に沿って青い小さな建物があった、
建物には入り口が無く、出口も無く、内側に閉じた空間を孕んでいて、
そのなかにはとある殺人鬼の内面が封印されていた、だから、
そのなかに入るためにはチャートを開くしか無く、その福浦島と本土とのあいだには
福浦橋が架かっている、架空の橋は虚空へと、足元に見下ろす夜景へと、

583:真琴
20/05/07 02:42:04.42
天井から見下ろしている大きな大きな顔の口らしき口では無い口からたらーっと
粘液が垂れてくるので気持ち悪いから頭をぶんっとふると髪が彗星の尾のように舞い広がり
大鴉の翼のようになり気がつくとすべてのうえのうえのほうを飛んでいてそこから
見下ろすと、そう、見下ろすとなんだか美味しそうになって口からたらーっと
つばきが垂れるのが気持ち悪いからいっそのこと飛び下りると世界がプールの水面のように

584:真琴
20/05/07 02:48:17.35
「御所」予定地の南辺に戻る。南辺沿いには住居というより、
仕事をするビルのような建物がちらほら並んでいる。しかし、豆腐屋さんも在ったりする。
灰色の2階建ての会社のビルの横に豆腐屋さんがある。そのお豆腐の硬さは
大脳を指でぷにぷにした感じに近い。店先の水槽に浮かんでいるお豆腐に指を差し込むことは
社会的なにんげんとしてはできない、同様に、露出した大脳に指を

585:真琴
20/05/07 02:53:48.11
どうしよう、前回はここから東辺に進んだ、だから今回は西辺に回ろうか、
あるいは逆回りなど避けるべきかも、前回と同じく東辺に進むべき?
西辺を目差すと空回りする気がする、その図書館はJRの駅と私鉄の駅の
中間くらいの丘の上にあった、どちらから目差しても坂を上る、
この図書館に通っていた頃、核戦争があったのだった、真夏だった、

586:真琴
20/05/09 00:33:47.90
地所の東辺に沿って歩く。道を隔てて東側には戸建てが多い住宅街が広がっている。
あの2階建ての家、2階部分に広いベランダがあり、物干し竿を支える台などが見える、
その2階建ての家のところで東に向かう分岐路に入る。
分岐路をしばらく歩いたあとで後ろを振り返ると、道幅に切り取られた更地の状景が見える。
だいぶ歩いたところで左折、北を目差す。

587:真琴
20/05/09 00:39:14.43
住人にとっては、一軒一軒、物凄い質と量の記憶の堆積物だが、
通りすがりに眺める限り、どれもこれも似たり寄ったりな家家が立ち並ぶ、
しばらく北を目差しては右折して東に向かい、東に歩いては左折して北を目差す。
あの「地所の北東角から北北東へ斜めに走っている道」に合流してしまうと、
筋道を掻き乱され、スーパーまで辿り着けないと思う、だから、

588:真琴
20/05/09 00:45:52.81
気がつくと丘の中腹を横に這う道を歩いている。
道の傍らに露出した水路があり、丘の下の方へ激しく水が流れている。
水路は丘の上のほうから降りてきて、道の下をくぐって露出点に至り、
丘の下へ流れてゆくらしい。地形からしてあの住宅街とは異なる。
露出した水流は凄まじく、うっかり転落でもしたらどこまで流されるのか

589:真琴
20/05/09 01:00:50.52
フダラク市は衛星都市なので、そこに至る経路としては、
チャートを開いてアーカーシャを跳ぶ形而上物理学的な方法の他に、
ふつうに4次元時空沈殿のなかで重力井戸から抜け出すという通常物理学的な方法もある。
都市のメンテナンス要員のなかには、ふつうに宇宙空間のなかで都市外に出て
作業をする専門の者たちもいる。

590:真琴
20/05/09 01:08:54.29
わたしたちが「上下」だと理解している参照枠は、上下とは異なる何かだ。
わたしたちが直立しているとき、「上下」と上下は一致していて、
ものが落ちる方向がうえからしたへ、である。
だが、宇宙空間にいるときも状景には「上下」がある。
地球上で逆立ちをしているときに見える状景にも「上下」はあるのだ。

591:真琴
20/05/09 01:17:12.65
NOVA警察がおこなった非道な実験の一つに、次のようなものがある、
大気中を浮遊するポッドのなかで、多数のにんげんたちを天地逆さまに飼育したのだ、
その結果、かれらの視界の常態は、つねに「上」を面(地面、海面)に蓋されて、
多くの物体がこの蓋から垂れ下がり、「下」はつねに茫漠と広がっている青、というものになった。
占有を離脱した物体は「上」にあがってゆく。このとき、被験体であるにんげんたちのモナドは、

592:真琴
20/05/09 01:27:43.25
どうもおかしいと思ったら、ここは
千葉県市川市ではなかった、
万葉県市川市なのだ。だからだ、だからだ。
八幡から北東へ歩き続けたとき、
だだっ広い更地までは到達できても、

593:真琴
20/05/09 01:38:02.85
「市会議員・小川笑顔」は、とあるだだっ広い更地の南側に面する、豆腐屋の次男として生まれました。
実家の小川豆腐店は、脳髄のかたちをした「脳髄豆腐」で一世を風靡した人気店で、
オガワエガオが小学生の頃は、まいにち百メートルもの行列で賑わっていました。
店頭の巨大水槽のなかに浮かぶ無数の「脳髄豆腐」、そのなかには本物の脳髄も混ざっていたと言われています。
医学部の入試に十年間失敗し続けた小川笑顔は、

594:真琴
20/05/09 01:43:08.84
「議長」という通り名で呼ばれるNOVA警察上級職員は、
小学生の頃、お盆が来るたびに、とあるだだっ広い更地の北北東に位置する
歯科技工士のおじいちゃんの家に遊びに来ていた。
歯の生えた口の模型を眺めた幼少期と、形而上物理学の研究を目差した青年期のあいだに、
何か関係があるのかないのかは不明である。

595:真琴
20/05/09 01:51:05.99
オガワエガオと「議長」が同じ小学校に通っていたという線はあり得るだろうか、
あり得るとしたらそれがこの一帯をややこしくこじれさせている一因かも知れない。
フダラク市で帝国主義者に拉致された「議長」は、その後、人格調整を受け、
新しいOSをインストールされて、NOVA警察上級職員になった。
オガワエガオはどういう立ち位置なのだろう……?

596:真琴
20/05/14 23:53:59.64
建物の下を小川が流れている。建物の一階はコンクリート剥き出しの
車庫スペースで、そのスペースを区画する1尺程度の壁の向こうは
こどもの背丈くらいの斜面で、そこを小川が流れている。水流はわりと速い。
小川には幅1m程度の板が渡っていて、渡った向こう岸には倉庫風の建物がある。
こちら岸の建物は入り口を入ると階段で、2階から上は住居という感じ。

597:真琴
20/05/15 00:04:17.79
歩いているうちに、あたり一面、墓地が広がっている。
墓地に蝶が舞っているが、ということは、冬から春にかけて、
墓地のどこかで芋蟲が育つということだ。そういえば幼稚園の正門の
左手にふつうひとの歩かない裏道があった。裏道を歩くと、
丘の西の切り通し坂に出る。樹で覆われた暗い道だ。

598:真琴
20/05/15 00:13:30.90
駅前の商店街の、レンガを敷いたような路に、そんなものなかったはずなのに、
路面電車のレールが走っていて、気がつくと電車が来る。乗れるのだろうか?
乗り込みながら運転手さんに尋ねる、これに乗ればスーパーの入り口の
終点まで行きますか……? 運転手さんは黙って行き先表示を指さす。
NOVA―この路面電車のdestinationは森羅万象の終点なのだった。

599:真琴
20/05/15 00:24:03.91
AVON―即ち、反NOVA警察の組織は、もともとはNOVA警察の一つのブランチだった。
ただし、帝国主義者というわけでもない。帝国主義者にせよ、人間主義者にせよ、
NOVA警察に違いは無いわけで、AVONはそのどちらとも敵対している。
AVONの技術者たちは鞄に収まるひみつきちを開発し、AVONのエージェントたちは
その鞄を持ってアーカーシャのあちらこちらに散り、蝶のように舞う。

600:真琴
20/05/15 00:31:24.05
帝国主義者と人間主義者の戦争はついに4次元時空をも実体的に巻き込むようになる。
新宿のとあるペンシルビルが爆発し、まるで爆破解体のようにずずずずと
くずおれたあの事件は、実はかれらの戦争である。
戦争に敗れた帝国主義者たちは、全球凍結時の地球という、座標の彼方へ逃げる。
あの広大な更地を含む時空沈殿はミジンコになるまで磨り潰される。

601:真琴
20/05/15 22:26:11.57
NOVA警察のフロント企業「新星帝国社」のオフィスは
新宿のとあるペンシルビルの3~5階にある。社長である「議長」は
万葉県市川市に建設予定の『女帝アグノーシア宮殿』計画について、
進捗報告を上層部からせっつかれている。だが「議長」は思うのだ、
そんなもの建設して一体何になるのか、と。わたしも同感である。

602:真琴
20/05/15 22:35:16.61
ある日、出社した「新星帝国社」社員たちは、狭い階段を昇り始めたときから
異常な気配を感じている。それが何か分からぬまま、3階の入り口のドアを開けたとき、
あまりの光景にさすがに動揺する。昨晩最後まで社に残っていたサイトウさんが、
椅子に座ったまま真っ黒焦げに炭化した死体となっているのだ。建物には影響を与えず、
正確にかれのボディの領域のみ、高温化されたらしい。超常現象的攻撃である。

603:真琴
20/05/15 22:40:38.72
アーカーシャのなか、4次元時空沈殿からすこしズレた位置まで、
「新星帝国社」は警備している、だから、よくある亜空間からの攻撃という
手口ではない。どうやら、ある時期から業界に普遍化してきた、
隠密チャートによる侵入らしい。女帝アグノーシア様の第3主著から発生した
この手法は、NOVA警察内部での帝国主義者と人間主義者の戦争を加速している。

604:真琴
20/05/17 00:11:44.71
昨晩に向けてチャートを開けば犯行時空点そのものに至ることは可能だが、
極めて近いポイントに向けて、しかも明瞭にパラドックスを引き起こすチャートを開けば、
激しい特異点を生じることになる。うっかりすると沈殿の微崩壊を招く。
被害側が調査のために開くチャートが引き金になって爆発が起こる、という
悪趣味な機雷の可能性があるので、4次元時空沈殿に沿った通常調査しかできない。

605:真琴
20/05/17 00:18:32.76
もちろん調査をふつうの国家警察にやらせても無意味なので、黒焦げ死体は処理する。
4次元時空沈殿に垂直な方向へ軽く飛ばし、とりあえずアーカーシャへ流す。
それにしてもなぜ黒焦げなのか。純粋に殺したいだけなら、亜空間から指先を伸ばして
頭蓋骨の内部を掻き混ぜるだけで充分だ。そんなことをされないために亜空間側にも
警備員はいたが、その眼をかいくぐり、しかも丹念に燃やすとなると、

606:真琴
20/05/18 01:15:45.00
道は丘の中腹を横に這っている。進行方向の左手が上、右手が下、
上から下へ小川が流れている。小川は道の左手で地下にもぐり、
道の下をくぐって、道の右手から再びあふれ出している。
激しい雨が降っていて、小川の水流は猛々しい。特に道の右手、
地下からあふれ出る水流は獰猛で、丸くふくれあがって下へ流れ落ちてゆく。

607:真琴
20/05/18 01:30:53.14
サイトウさんの黒焦げ死体に憤った「新星帝国社」の面々が、
細けぇことは良いからとにかくサイトウを助けるぞ、と、犯行時空点にチャートを開き、
その結果、サイトウさんは死なないことになり、同時に、4次元時空沈殿に凄まじい亀裂が入る、―その場で、
死なないつまり復活したサイトウさんが、わははは、これぞわが計画通り、よく時空を壊してくれたご苦労さんと叫ぶ、
それを夢見てサイトウさんは自分で自分自身を黒焦げにしたのだった、としたら、

608:真琴
20/05/18 01:36:52.94
こんなこと、どうでも良い。すっかりバカバカしくなったわたしは、
気がつくとだだっ広い更地の真ん中を歩いている。土の香りが凄い。
だだっ広い更地のなかから眺めると、南辺の向こうには灰色のビルが並んでいて、
小川豆腐店なんかもある。東辺の向こうには色とりどりの戸建てが並んでいる。
でこぼこした土のうえを歩いていると平衡感覚がくらりとして楽しい。

609:真琴
20/05/20 23:13:01.66
コンクリートの天井に蓋をされた廻廊、両側は3階建ての建物が壁を成している。
巨大な蛇が這ったあとのように、やや曲がりながら向こうへ続いている。
電車の高架線の下なのだろうか。
廻廊の両側が建物なので、枝道というものがなく、
もし路上に怪物なり暴徒なりが現われた場合、逃げる先に困りそう。

610:真琴
20/05/20 23:20:00.92
とある建物の狭い階段が廻廊に開口している。試しに入ってみる。
階段を昇り、踊り場で折り返して、また昇る。2階。
さらに階段を昇り、踊り場で折り返してまた昇ると3階で、
手摺りに沿った短い廊下を建物の裏側に回ると、そこから左右に狭い廊下が走っている。
廊下の窓から見えるのは、この巨大な蛇のような廻廊の外側の市街の景色。

611:真琴
20/05/20 23:24:26.56
廊下を歩き、3つめの扉の前に立つ。305号室。
わたしは一瞬思案した後、扉を開ける。見知らぬ小さな空間が現われる。
ごちゃごちゃした生活空間をおぼつかない足取りで渡り、
巨大な蛇のような廻廊の内側を見下ろす小さな出窓に向かう。
窓から見下ろすと、あれ?

612:真琴
20/05/20 23:30:35.86
廻廊を見下ろすはずなのに、窓の外には黒い河が流れている。
しかも、わたしは3階から見下ろす展望を想定していたのに、
この窓の直ぐ下が堤防のコンクリートで、黒い河の水面は近い。
どう考えれば良いのか、そもそもここは誰の部屋なのか。
黒い河をカヌーが近づいてくる。カヌーを漕いでいるのは、

613:真琴
20/05/20 23:39:11.73
隣の部屋から突然凄まじい音量で激しい音楽が鳴り始める。
壁越しに聞こえるだけでも凄まじいから、隣の部屋のなかでは、
食器とかがポルターガイストのように踊り狂っているのではないか。
隣室の主はカメラマンであるという直感を得る。壁に掛けられた・
額装された作品も、振動して壁から落ちそうに違いない。

614:真琴
20/05/20 23:46:57.37
再び出窓から黒い河を見るとカヌーがだんだん近づいてきている。
わたしは窓を閉め、扉から廊下に戻る。廊下の窓から見下ろす景色は、
だだっ広い更地に変化している。『女帝アグノーシア宮殿』予定地、南辺。
なるほどね。いまもし階段を降りると、
おそらくこの建物は南辺に沿って建っていて、きっと隣は小川豆腐店。

615:真琴
20/05/20 23:50:27.24
わたしは狭い廊下を、来た階段とは逆の方へどんどん歩いてみる。
途中から、扉が並ぶのと反対側の壁から窓が消え、狭い廊下はどんどん薄暗くなって行く。
しばらく歩くと前方に小さな扉があり、それで行き止まりになった。
後ろを振り返ると碌な事になりそうにないから、後方は認識しない。
思い切って扉を開けると、

616:真琴
20/05/20 23:58:50.51
気がつくとスーパーマーケットの売り場を歩いている。
牛、豚、鶏、魚、蟲、などの冷蔵棚を背に、香辛料だの油だのの棚を抜け、
出口の方に来ると、文房具売り場などがある。さらに進むと、あ、出口だ、
入り口でもある、わたしはスーパーの正面に出る。
そこにはあの謎の線路の始点=終点駅がある。

617:真琴
20/05/21 00:07:03.44
スーパーの正面から街へ出ず、左の改札の方へゆく。
わたしは自動改札をくぐってプラットホームを歩く。
始点=終点駅なので、線路の端から見ると、彼方へ単線が走っているのが見える。
さて、電車は来るのだろうか、どこへゆくのだろうか、
ここが始点=終点であることとNOVAのあいだに関係はあるのか。

618:真琴
20/05/21 02:26:49.06
スーパーの正面から街へ出る。白っぽい塀で覆われたお屋敷が眼の前にある。
塀のなかの庭には緑の樹木が植えられていて、道からも見える。
道は、スーパーの正面のところだけ丸い広がりになっていて、
二股に分かれ、そのあいだにお屋敷を挟んでいる。道を後ろへ、
スーパーに沿う方へ戻ると、れいの線路が走っている。

619:真琴
20/05/21 02:32:17.96
あのうえが、まによろしければ、ほとろのすが、そうでないとからくすので、
暮らし山が峠の方まで、はからしるのを待つほかなく、墓所に暮れる夕陽が、
まるでモノレールが街の上空を漂うように、唐紅の唐傘がくるりくるりと、
気がつくとわたしはだだっ広い更地の真ん中を歩いている。土の香りが凄い。
だだっ広い更地のなかから眺めると、南辺の向こうには灰色のビルが並んでいて、

620:真琴
20/05/21 02:37:34.41
更地の彼方、道の向こうに、3階建ての灰色のビルがまるで長城のように並んでいる。
とある座標のもとではあの長城の向こう側に、
巨大な蛇が這ったあとのような廻廊がやや曲がりながら走っているらしい。
305号室とは何だったのか。と、―更地から眺める灰色のビルの3階の、
とある部屋がいきなり火を噴き、爆発する。

621:真琴
20/05/24 21:57:08.88
同時刻、新宿では、とあるペンシルビルが爆発し、
まるで爆破解体のようにずずずずとくずおれる。
それは「新星帝国社」が入っているビルである。
NOVA警察の乗り物、いわゆる「空飛ぶ円盤」が各地の上空を飛び回る。
至る所で局所的な時間軸が寸断され、

622:真琴
20/05/24 22:00:21.55
スーパーの正面にある始点=終点駅に列車が止まっている!
「間もなく発車いたします、お急ぎください」
古風な発車ベルがけたたましく鳴っている。
わたしも急いで車両に乗り込むと、先頭車両を目差す。
車内にはおどおどした瞳のにんげんたちがちらほら乗っている。

623:真琴
20/05/24 22:04:29.49
ベルが鳴り終わり、車掌が扉を閉める。列車が動き出す。
前方に線路は真っ直ぐ続いている。
去って行く街並みはごくふつうの街なのになぜか悲しみに満ちている。
何もいつもと変わらない、そう、何もいつもと変わらない、
わたしたちはここでいったいなにをしているのだろう。

624:真琴
20/05/24 22:18:21.39
人間主義者たちは帝国主義者たちの基地世界に矛盾爆弾を次々に投下する。
深刻な矛盾はテータ世界の結晶秩序を壊してゆく。
時空が痙攣する。
この惨劇の目撃者たちのなかから、刹那主義と悠久主義という、
対立的な、しかし本質的には同族と言える思想潮流が発生する。

625:真琴
20/05/26 00:18:37.34
刹那主義はある程度大きな塊としてのガイアの実在を否定する。
局所的な時間軸のみが実在し、大域的な概時間軸の実在を否定する。一方、
悠久主義は大域的な概時間軸のみが実在し、
局所的な時間軸はノイズに過ぎないと価値づける。いずれにせよ、
概ね安定的な時間軸のなかで生きるということからの乖離を示している。

626:真琴
20/05/26 00:25:27.10
瞬間のみに生きる者も、永遠のみに生きる者も、
「ふつう」に生きるということから乖離している。
3つの分枝世界―テータ、コヨ、カサタ、そのどのヴァージョンにおいても、
(いまでは分枝世界のなかにもさらにさまざまなヴァージョンが発生している)
もう立ち直れないくらい世界は壊れてしまっている。

627:真琴
20/05/26 00:31:48.31
スーパーの正面にある始点=終点駅から発車した列車の車窓を流れる世界の
景色を眺めながらわたしは、さすがにちょっと遊びすぎたかなー と反省している。
色々な色の絵の具を混ぜて遊んでいるうちに、虹色が出来た頃は良かったけど、
気がつくとぐちょぐちょにかきまざってパレットの上は気持ち悪い黒になっている。
実験で得たものも大きいけど、ガイアのこの領域はもう取り返しが

628:真琴
20/05/26 00:35:59.40
帝国主義者たちの上層部がなぜ此のドグマを始めたのかは不明だが、単に
政治的敵対者との差異化に過ぎなかったのかも知れない、だが、
帝国主義者たちの末端では、女帝アグノーシアはこころからの信仰の対象だった。
上層部という脳を失った末端は、それでもぴくぴく痙攣する筋肉のように、
断片的なリーダーシップにしたがって逃走する、たとえば、

629:真琴
20/05/26 00:42:09.40
「新星帝国社」のオフィスにサイトウさんの黒焦げ死体を起爆剤として撃ち込まれた
矛盾爆弾が世界の結晶を壊してしまう前に、そう、議長は自爆装置のボタンを押し、
矛盾が枝葉を伸ばして育つ前に、ペンシルビルごと該当領域を焼き殺した。
ビルの爆破自体は自爆だったのである。議長は社員残党とともにビルの地下の
「空飛ぶ円盤」に乗ると、概時間軸をひたすら遡行する。

630:真琴
20/05/26 00:57:47.37
議長のつぎはぎだらけの人生記憶……小学生の頃、お盆が来るたびに、
とあるだだっ広い更地の北北東に位置する歯科技工士のおじいちゃんの家に
遊びにきた……形而上物理学者となり、新書本『わからなくても感じれる
形而上物理学』を書く……杣台事件調査のチームリーダーをし、
女帝アグノーシアのとある顕現体たちに遭遇し、杣台修復会議議長として

631:真琴
20/05/26 01:05:30.81
想像を絶する長きに渡って(ある計り方では10億年くらい)酷使され、
アグノーシアによる第2ガイア切り離し実験に立ち会わされ、
このとき、……NOVA警察杣台管区基地にスカウトされ、世界の終わりの時に
アグノーシアの第3主著をかすめ取る任務を命じられ、失敗し、
フダラク市まで逃げ、……今度は帝国主義者たちにスカウトされ、

632:真琴
20/05/26 01:12:04.05
末端の管理職として「新星帝国社」を営み、あのおじいちゃんの家の
近くのだだっ広い更地に『女帝アグノーシア宮殿』を建設するという
意味不明な業務に従事し、……そしていま、人間主義者たち(NOVA警察
主流派)の凄まじい粛清にあって潰走し、座標が設定しづらい領域へ、
つまり、全球凍結した地球に逃げのびてほそぼそと呼吸している。

633:真琴
20/05/26 01:32:28.55
―いっそ、「空飛ぶ円盤」の設備を使ってこの地球を滅茶滅茶にして、
ガイアの全体に「復讐」してやろうかっ!
ジリ貧状態に追い詰められた議長はともするとこういう考えを弄ぶ。
だが、倫理観というよりは絶望によって、そんなことをしても無駄だろうと考える。
因果律の転倒法則。どうせそのような暴挙はガイアの大きな流れに吸収されるだけだろう。

634:真琴
20/05/26 01:40:04.08
社員残党のうち、刹那主義を発症した者たちはまさに刹那的になった。
チャートを開き、アーカーシャ側から4次元時空沈殿を眺め―自分自身の
頭蓋骨のなかの剥き出しの脳髄をじかに見て、見ながら電極を突き刺し、
自分自身の脳髄で遊ぶことが流行った。のちには、相互に相手の脳髄で遊んだり、
そこにゲームや博奕の要素を持ち込む者たちも出る。

635:真琴
20/05/26 01:48:23.06
社員残党のうち、悠久主義を発症した者たちは寝床に横になったまま、
呆然と悠久の時を眺め、そしてそれ以外何もしなかった、食事も取らず、
初期には糞尿も垂れ流し、いまでは何も流れず、ただ呆然と眺めている。
寝床のなかで即身仏になろうとしているようだった。
ゆっくりと物体になり、その物体のなかに<私>がいることを滅却していった。

636:真琴
20/05/26 01:58:26.41
議長を含めた数人は肯定的な現実主義者だった。かれらは初めのうち、
刹那主義も悠久主義も放置していた、いまさら取り締まっても意味が無いと思ったのだ。
だが、全球凍結した地球で、「空飛ぶ円盤」に閉じ込められて、で、だとしても、
とにかく生きるのであれば、刹那主義者も悠久主義者も邪魔だった。そこで、
刹那主義者たちに「ええじゃないか」を流行らせた。

637:真琴
20/05/26 02:02:22.65
ええじゃないか、ええじゃないか、と歌いながら、
刹那主義者たちは寝床から悠久主義者たちを引きずり出し、
ええじゃないか、ええじゃないか、とその骸骨のような人体を
抱きかかえて踊り狂い、そして「空飛ぶ円盤」の下部ハッチに飛び込んで、
地上へとゴミのように撒き散らされる。

638:真琴
20/05/29 00:26:37.96
それにしてもこの電車はあのスーパー正面の始点=終点駅を出てから
どこにも停車すること無くしかも真っ直ぐな線路を走り続けている。
刻一刻と速度を上げているようだし、車内の客たちはNPC染みている。
これはどう見ても罠。このままわたしをガイアの外、
アーカーシャの真空のただなかに放り出そうということなのかも知れないけど、

639:真琴
20/05/29 00:38:50.17
わたしはたぶん、どんな座標変換をしても消せない
ガイアの不変量みたいなものなんじゃないかと思うよ? 一方、
この電車はたぶん、一万体くらいのにんげんを燃やしながら飛んでいる。
百万都市船、古鏡、舟と同じ。<マイクロ・ガイア>がモナドを燃やしながら
鰍粒子をばら撒きアーカーシャにおける速度を獲得する。

640:真琴
20/05/29 01:04:32.00
真っ直ぐな線路を凄まじい速度で走る電車によって、絶対に消せない歪みが
布の端の方へ追い込まれてゆく。「無限大マイナス無限大」のような均衡。やがて、
どこまでいっても布を打ち破って進むことができない電車の代わりに、布の方が、
つまりガイアの該当領域の方が、ガッと地震を起こし引っ張られ、次に、
線路がくにゃっと曲がる。電車もへしゃげ、魚のような形になり、暴走を始め、

641:真琴
20/05/29 01:10:13.26
魚のような形の奇妙な<もの>は、まずガイアに凄まじい速度で突っ込み、
沈殿をザシュッとアーカーシャに巻きあげ、そのまま、
ときにガイアに潜り、ときにガイアから飛び出しながら、凄まじい速度で泳ぐ。
蟲のように蠢き、機械のように動作している、果てしない大海原を、
魚のような形の奇妙な<もの>が、小さな点が、凄まじい速さで泳いでゆく。

642:真琴
20/05/29 01:11:49.57
魚のような形の奇妙な<もの>が、小さな点が、
NOVA警察の封鎖線にぶちあたり、
凄まじい勢いで鰍粒子が撒き散らされる。
しかし、小さな点は、魚のような形の奇妙な<もの>は、
NOVA警察の封鎖線を貫通し、依然、泳ぎ続けている。

643:真琴
20/05/29 01:15:47.48
NOVAが迫る。ざっ
ざざっ ざざざざざざざざーーーーーーーーーーっ
気がつくとわたしは、巨大な蛇が這ったあとのような廻廊を歩いている。
両側は3階建ての建物が壁を成して並んでいて、天井はコンクリートに蓋をされている。
電車の高架線の下なのだろうか。というか、「電車」が通ったあとなのだろうか。

644:真琴
20/05/29 01:19:42.19
この場所をまた歩けて楽しい。この前ここに来たときは、
とある建物の階段を昇って305号室に入ってみたけど、
今回は廻廊に沿ってどこまででも歩いたときどこに繋がるのかを
見てみたい。あ、この開口部から建物の階段を昇ったんだ、
というポイントを見つけて懐かしく思いながら、その先へ進む。

645:真琴
20/05/29 01:23:48.31
ふと眼を上へやり、3階の出窓を見る、どれが305号室だろう……
しかしその窓を見つけてしまうと305号室に跳んでしまいそうなので、
慌てて眼を伏せて廻廊の湾曲の向こうを眺めるようにする。
巨大な蛇が這ったあとのような廻廊。大きな広がりを持つ空間でありながら、
閉じられてあり、しかも細長い。

646:真琴
20/05/29 23:47:38.62
いくら歩いても廻廊の湾曲の向こう側に達するような気がしない。
湾曲の向こう側からは不思議な白色光が兆している。
たくさん歩いたなーと思ってふと彼方を見ると、やはり湾曲は前方にあって、
向こう側から不思議な白色光が兆している。かといって、
両側に並ぶ3階建ての建物たちに興味を持ちすぎるとさらにチャートが跳びそう。

647:真琴
20/05/29 23:53:03.62
あっ と思う間もなく空間を何かが素早く横切って、
ばたばたばたっ と小さな赤い質量体がたくさん降り注ぐ。
廻廊の床に散らばる、それは赤い金魚たちである。
躰に当たって痛いというような重量ではないが、無感ではなく、
確かな質量感がある、そういう「やな存在感」が金魚にはある。

648:真琴
20/05/29 23:59:58.90
NPC染みた歩行者たちのうちに一人、金魚を口に頬張る者がいるが、
その人物がどんな様子のにんげんか、表現することは禁止されている。
わたしはその一人と眼を合わせないように注意深く歩く。
その一人を見ないようにしながら歩くとチャートが跳んで廻廊から離脱してしまいそう、
だから湾曲の向こう側から兆す白色光以上に白い白さについて考察しながら歩く。

649:真琴
20/05/30 00:06:18.82
気がつくと夜になっている、廻廊の至る所に闇が居座り、
両側の3階建ての建物の窓が気紛れにもたらす灯りだけが光っている、
下手に歩くと床の金魚を踏みつぶしてしまいそう、というか、
一歩一歩歩くごとに、踏みつぶして、いるね、既に、
ふと後ろを向くと、遠くの方から、大群衆が歩いてくるのが見える、

650:真琴
20/05/30 00:17:30.40
気がつくと杣台の夜道を歩いている、左手に無表情な塀が続く、
塀の向こうには何か先端テクノロジーに関係する研究型企業の建物が建っている、
右はふつうに幅広い車道で、薄暗いなかをたくさんの自動車が走っている、
この企業、なんだったっけ、思い出せないでいると、
不意に脳内に〈杣台SQ1〉の専担キャラ桜子の声が響く。

651:真琴
20/05/30 00:23:04.10
「束北大学の院生崩れです。セキュリティの甘い大学のAIに寄生して
繋いで来ています。実体は責葉区太町2丁目のマンション」
これは杣台出航時の〈杣台SQ1〉とアイの会話の一部だ。
何か、いろいろ混線している感じがする。この会話と研究型企業に
何か関係があるんだろうか。わたしはあの廻廊に戻りたい。

652:真琴
20/06/02 00:03:44.96
議長は全球凍結下の地球に到着して以来、一度も円盤を亜空間飛行させていない。
アーカーシャのなかを飛ぶと、その航跡はたどりやすい。一方、
4次元時空沈殿のなかで通常物理的に飛ぶ限りでは、航跡も通常物理的でしかなく、
隠蔽しやすい。地球は広大だし、座標が構成しづらい世界でもある。
議長は沈殿のなかに潜り込んだままやり過ごせば生き延びられるのではないかと考えた。

653:真琴
20/06/02 02:39:53.69
わたしが知らない、わたしが忘れてしまった、
わたしが忘れてしまったこと自体忘れてしまっている世界が存在したのに違いない、
おそらくその世界では百万都市船は杣台ではなく東京を材料に構成された、
ただ、東京を出航させた分枝世界は結晶崩壊し、
杣台を出航させたversionが生き残ったのだと想像される。

654:真琴
20/06/02 02:45:35.12
でも、鰍ちゃんの物語は杣台を舞台にしてでないと成立しない。
やはり東京を出航させた分枝など存在せず、
出航した杣台が東京を夢見たという可能性の方が高いのか。
とにかく、古鏡と化した百万都市船の、
片側は砂海であり、片側は東京湾だった。なぜ、杣台じゃないんだろう。

655:真琴
20/06/03 22:56:33.92
空飛ぶ円盤を閉鎖的なエコシステムとして循環させるためには、
形而上物理学的な手法を「錬成術」として使う、が、移動に関しては、
アーカーシャのなかガイアにへばりつき、「地に伏した」移動しか行わない、
このことを議長は徹底した。そのうえで議長は教養学部時代に戻った気分で、
ひたすら通常物理学を復習した。力学と電磁気学。

656:真琴
20/06/03 23:03:46.79
ついに議長は空飛ぶ円盤からスペースコロニーを構築してみせた。
これを軌道上に打ち上げるため、残念ながら物質的な手段で行うことはかなわない、
議長は、形而上物理学的な座標変換をinfinitesimalに行い、
決して4次元時空沈殿から浮上せずに、ただし、4次元時空沈殿内部的には
地球から軌道に移行するように、そのような座標変換を無限に繰り返した。

657:真琴
20/06/03 23:07:41.78
ぞろっ ぞろっとスペースコロニーが空中に浮かんでゆく。
通常物理学的な作用によるものではなく、形而上物理学的な座標変換が、
infinitesimalに無限回行われ、一切ガイアの外に出ることなく、
地球から離脱してゆく。そして、コロニーは軌道上におかれた。
フダラク市の創建である。

658:真琴
20/06/05 00:17:02.43
そして7億年が経過した。
7億年のあいだ、フダラク市は、軌道上のそのポイントに存在し続けていた。
しかし、チャートを開くことを厳禁していたので、地上の詳細な観察などはできなかった。
ただただ、存在し続けていた。
やがて宇宙開発を始めたじんるいがフダラク市を発見し、「フダラク市」と名づけた。

659:真琴
20/06/05 00:26:32.44
7億年のあいだにコロニーは増改築され、当初の姿からだいぶ変貌した。
空飛ぶ円盤を改造して作られた当初のコロニーは、
最終的な円筒状コロニーにおいて、「未知機械の森」と呼ばれる区画になった。
―議長は、この区画でいまだに生き続けていた。
かれは自分が果たして機械化されているのか、データ化されているのか、

660:真琴
20/06/05 00:32:30.11
モナドのみが何らかの形態で働いているのか、自分でもわからなかったし、
そんなことはどうでも良かった。
じんるいはフダラク市に管理AIを設置した。
議長はフダラク市のAIと「仲良し」になったので、
フダラク市で起こっている事象のすべては議長にも流れ込んできた。

661:真琴
20/06/06 18:51:59.26
来た、あの方だ、あの方が来た、とある日、議長は、
長いあいだ待ちわびた事態の到来を知った、それは、
自分のコロニーこそが、どうやらフダラク市になる、
と悟って以来、待ち焦がれていた事態である、ああ、
ここがフダラク市なのだとしたらあの方が来るのだ、

662:真琴
20/06/06 19:21:42.60
ふと日付を見て、きょうなのか、と思った。
昔のわたしが未知機械の森で「失踪」する日。
路面電車赤道線にわたしが乗り込もうとしている。
まるで遠足にでも赴くように、未知の存在への好奇心でキラキラしている。
(いってらっしゃい) わたしはこころのなかでエールを送る。(良い旅を)

663:真琴
20/06/06 19:24:01.28
わたしは路面電車赤道線に乗って円周の二分の一を移動し、
「未知機械の森」駅で下車する。
「フダラク市を建設したのはNOVA警察の一つの勢力であるが、
この勢力がどこから来て、どのようにフダラク市を作り、どこへ去ったのか、
その歴史は全くわからない。」

664:真琴
20/06/06 22:26:38.61
その秘密が分かるとしたらここ、「未知機械の森」においてだろう、
フダラク市に来て以来、見てみたかったけど、いままで
機会が無かった。わたしは一見、遺棄機械の堆積にしか見えない
「未知機械の森」に入る。脳内でアルジャーノン指数が異常値を示す。
このポイントには数億年に及ぶチャートの歪みを感じる、

665:真琴
20/06/06 22:28:40.90
それはありうることなのか? そうなのかも知れない。
NOVA警察に数億年に及ぶ歴史があるというのはありうることだ。
やはりじんるい史はNOVA警察の管理下にあったのだろうか?
機械のあいだを進んでいくと、やがてわたしは広場に出た。
―お久しぶりです。声がした。

666:真琴
20/06/06 22:30:03.94
声が物理的に音として耳に来たのか、ダイレクトに脳に来たのか、
よくわからなかった。両方だったのかも知れない。
「どなたですか? たぶん、初めまして、だと思うのですが」
―あなたはこれから長い旅に出るのです。
私は未来のあなたと会ったことがあるのです、7億年以上昔に。

667:真琴
20/06/08 01:02:49.69
『同一カオスにおける多重コスモス場の理論』の著者はフダラク市で失踪している。
市警察は、市当局及び束京大学大学院新領域創生科学研究科衛星都市研究分室の
全面的な協力のもとに、じんるいの管理領域における通常犯罪の線から綿密な捜査を行ったが、
犯跡は何一つ出なかった。未知機械の森のどこかに飲まれたか、「遊泳禁止」を冒してチャートを開き、
戻って来られなくなったのか…… あるいは、それとも、戻って来ない、のか。

668:真琴
20/06/08 01:09:02.54
ゆるやかな登り坂。
右手にはフェンスがあり、フェンスの向こうは崖で、崖下を見下ろしている。
左手には個人経営の店が並んでいる。この坂は歩行者用のはずだが、
鉄道の線路にもなっていて、青い寝台列車がゆるゆると坂を上り、
途中で急激に左折して商店と商店のあいだの路地に入ってゆく。

669:真琴
20/06/08 01:16:58.48
青い寝台列車の最後尾車両が路地に消えてゆく瞬間、一瞬、
青いターバンの少女のようにふりかえり、こちらをじっと見つめる。
青いターバンの少女のようにふりかえり、こちらをじっと見つめながら、
ゆるゆると商店と商店のあいだの路地に吸い込まれてゆく。
向かって左の商店は古い煙草屋で、右の商店は閉店中の印度カリー屋である。

670:真琴
20/06/08 01:28:31.71
『青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)』がこの国に来たとき、
観に行った美術館は鎌倉ではなかった。閉店中の印度カリー屋のなかを硝子越しに
覗くと壁にメニューが貼ってある。カウンターに向かって丸い椅子が
七つ並んでいる。一番奥の椅子に何か黒いもやのようなものが座っているが、
謎の霊だろうか。ふと見ると青い寝台列車は路地の遠くまで進んでしまっている。

671:真琴
20/06/08 01:34:50.05
マーラーの交響曲第2番を演奏しているDVDで聴衆の最前列に
青いターバンの少女が座っている。DVD収録の演奏で最前列に座っている
青いターバンの少女は、のちに高名なピアニストになったあのひとの
少女時代の姿なのかも知れない。
第1楽章が大脳の左半球や右半球に次々と火花を発火させてゆく。

672:真琴
20/06/08 01:41:53.62
なぜ青い寝台列車が商店街の路地に侵入していったのかはよく分からない、むしろ
坂の片側のフェンスの向こうの崖下こそが鉄道の大規模な操車場なのだ。
そこでは無数の列車がうろうろと進んだり戻ったりしている、おそらく
その姿は無数の分枝世界がガイアのなかで組み立てられたり崩壊したりする姿の
隠喩なのだ。この状景を座標変換すれば、

673:真琴
20/06/09 01:03:47.08
気がつくと巨大な蛇が這ったあとのような廻廊を歩いている。
青い寝台列車が突き進んでいった路地とこの廻廊には関係があるのかも知れない。
廻廊の煉瓦の床には、舟蟲のような小さな蟲がたくさん、ひっきりなしに動いている。
その動きは互いに同期していて、何かの演算をおこなっているように見える。
気がつくと廻廊が解体してまさに海辺の岩場になっている。これ舟蟲そのものだ。

674:真琴
20/06/09 01:09:18.23
海の波が荒い。空は曇っている。荒い波が岩を打つ。
岩場に立って油断していると波になぎ倒され、海に引きずり込まれそう。
みんな、なんでこんな恐い場所で暢気に岩のうえに立っているんだろう。
一方、舟蟲たちは奇妙に理性的で、脇目もふらずに演算を続けている。
海の莫大量の水分子のことを考えると、

675:真琴
20/06/09 01:14:01.76
あっ、と思う間もなく、波に殴られたにんげんが姿勢を崩し、
岩から滑り落ちて海へ、するとこんな暢気な海辺なのに、
滑り落ちたあとは地獄で、それはちょうど、日常生活に溶け込んでいる
鉄道の踏切のなかへ戯れに跳び込めば死ぬようなもので、
観光客たちが「え? え?」と言っているあいだにそのひとの姿は消える。

676:真琴
20/06/09 01:18:28.72
あのひとはあのあとどうなったんだろう、莫大量の水分子のなかで
何を見たのか、海の底ってどうなっているのか、考えてみると、
江戸川の底がどうなっているのかも気になり出すと気になる、
わたしは堤防のコンクリートに座り、テトラポットを眺めおろしながら、
巨大な蛇が這ったあとのような江戸川の流れを見る。

677:真琴
20/06/11 01:15:05.46
電車が江戸川を渡る。幅広い黒い流れが左の方から蛇行してくる。
夜なので、流れの背後にうずくまっている丘が黒い巨人のよう。
ところどころ、光の点が光っている。
あの光の真下にはどんな光景があるんだろう。
河川敷に座り、鉄橋を渡る電車をじっと凝視している黒い影など、見当たらない。

678:真琴
20/06/11 01:23:53.06
本八幡で降りると駅前のロータリーでバスに乗る。
動き出したバスの窓と窓と窓を仕切る枠組みに切り取られながら
街がぐいぐいと動いてゆくのが楽しい。やがてバスは大きな通りから
やや寂しい車道に右折し、窓の外の景色も住宅街寄りになってゆき、やがて、
「××、脳髄豆腐の小川豆腐店はこちらです」と放送がかかる。pin!pon!

679:真琴
20/06/11 01:37:36.17
人気の無い夜の街角の停留所で下車する。バスが走り去る。
バス道からすこし歩くと、幅の広い道なのに車通りが定常的ではない道が
30度くらいの角度で斜めに交差している場所があり、その角を曲がると、
―女帝アグノーシア宮殿があった。この断片では宮殿が完成してる?
あの広大な更地には巨大な建造物が建ち、煌々と灯りをともしている。

680:真琴
20/06/11 01:45:27.72
それにしては車内放送でのバスの停留所の名は「××」であって、
「女帝アグノーシア宮殿前」ではなかった。バス道からこの「更地南辺の道」に入るとき、
角を曲がる瞬間にチャートが切り替わっている感じがする。
わたしは、煌々と灯がともり確かに活動しているはずなのに
無人に見える宮殿へ、進む。小さな橋で、お濠を渡る。

681:真琴
20/06/14 22:30:20.99
「形而上物理学の標準的な理論構成では、
先にチャート集合があり、ガイアがあって、不確かな4次元時空が沈殿する、という
記述方法をとります。ガイアの終焉はNOVAです。ですが、先生、
どの分枝世界においても社会的な動物としてのにんげんは、これはもう
どの分枝世界においても必ず、21世紀から23世紀のあいだくらいに絶滅します。」

682:真琴
20/06/14 22:34:40.52
「じんるいが絶滅したとしても、4次元時空沈殿そのものは存続するし、
いわゆる「物理地球」自体は、ある、わけです。―先生、
そのじんるい死滅以後の「物理地球」に、じんるい以外の知的生命体が
繁茂したとして、かれらが成すガイアは、じんるいのガイアと
どのような座標変換で繋がるのでしょうか……?」

683:真琴
20/06/16 23:57:55.41
とても背の高い堤防があり、堤防の向こうには大きな河が蛇行している。
芝生で覆われた堤防を石段で降りると、ごくふつうの住宅街が広がっている。
住宅街の道はせせこましくなく、ゴミも見当たらない。
不思議に美しく整えられた住宅街を歩くと、やがてゴミゴミした古い住宅街に出、
やがて幹線鉄道の駅前繁華街に出る。道はゴミだらけ。

684:真琴
20/06/17 23:58:08.00
どうもわかってきたことは、ガイアのなかに謎の大河が流れているらしい、
ということだ、その大河の現われが、たとえば穢土と万葉県を分かつ江戸川であり、
あるいは、『女帝アグノーシア宮殿』南辺の道に沿ったビルの背後に現われる
「巨大な蛇が這ったあとのような廻廊」であり、あるいは、その廻廊自体が、
ある座標変換のもとで姿を変えた黒い河、カヌーを漕ぐものがいる河、

685:真琴
20/06/18 00:05:32.97
ガイアには概時間軸が存在するが、ガイア自体にも時間発展があり、
わたしが第3主著『アーカーシャにおける時間発展と射影構造』で描写したように、
その時間発展は複雑に折り重なった形でガイアに射影されている、しかし、
わたしがハイパーチャートを開いた状態ではその時間発展も繰り広げられる、
謎の大河はその風景のなかを流れている気がする、

686:真琴
20/06/18 00:13:12.13
黒い河でカヌーを漕いでいたのは何者だったのか、
305号室は誰の部屋だったのか、オガワエガオとはなんなのか、
深淵車庫の隣の児童公園でわたしがハイパーチャートを開く修業をしているとき、
まるで靴から脚のうえへ登ってくる黒蟻のように、わたしの「躰」に沿って這い、
すべてのすべてのすべてのすべてのすべて……、へと浸透していったあの顔の無い黒い小さな子どもたちは、

687:真琴
20/06/23 23:28:10.03
物体が先なのか、言葉が先なのか。ふだんの議論では捨象されているが、
モナドというのは勿論、じんるいだけのものではなく、
猫のモナドとか、ミジンコのモナドとか、三日月藻のモナド、
縄文杉のモナド、玄武岩のモナド、窒素のモナド、水分子のモナド、
……などの複合物として、ガイアがある。

688:真琴
20/06/23 23:37:18.24
物体が先なのか、言葉が先なのか。非じんるい由来のモナドは、
とくに単なる物体のモナドは、ガイアの沈殿結晶のなかでは「小さい」ので、
だからこそ、ふだんの議論では捨象されているわけだが、
もし、非じんるい由来のモナドで、極めて「大きい」が、何らかの理由で
じんるいには「見えない」ものが存在したとしたらどうだろう……?

689:真琴
20/06/27 23:23:00.29
夜の闇のなかで煌々と灯をともしている『宮殿』を見上げながらわたしは
夜の海のうえで煌々と灯をともしているタイタニックの艦橋を思い浮かべる、
タイタニックの迷路のなかをさ迷っている頃、
胴の上と下に二本の脚が生えた無貌のもの、ナイアルラトホテプに
やたら遭遇している、バスにまでそのデザインが浸透しているので、

690:真琴
20/06/27 23:24:26.43
陽がとうに沈み、夜が始まる頃、内海にのぞむ堤防に沿って歩く。
海に向かって右のほうには山並みが、
街を抱きかかえる巨人の右腕みたいに連なっている。
その頂上のあたり、黒々とした樹木のあいだに電気の灯かりが煌々と光っていて、
ホテルの宴会場か何か、大きな空洞空間をぽっかり浮かび上がらせている。

691:真琴
20/06/29 19:52:41.79
気がつくとわたしは、巨大な蛇が這ったあとのような廻廊を歩いている。
両側は3階建ての建物が壁を成して並んでいて、天井はコンクリートに蓋をされている。
ずっと向こうの方、続いているはずの道で、何か異常事態が起こっている。
遠くの方、道の真ん中で、何かがじょじょに大きくなってくる、というかあれは、
近づいてきているのだ、巨大な蛇の顔が、口が、牙が、

692:真琴
20/06/29 20:03:08.32
それは「新幹線」だった、太い「新幹線」が、
廻廊のチューブ型の空間を線路のように使ってぐんぐん進んでくるのだ、
「新幹線」が進むに連れ歩行者たちは押し倒され、「新幹線」の足元に巻き込まれ、
―まるである種の甲虫がくるまに踏みつぶされると
にちゃぁーっとした内臓を引きずりながらもだえるように、

693:真琴
20/06/29 20:07:55.01
わたしは道沿いのとある家具屋の店先に跳び込む、
わたしが逃げ込んだ直後、店の道への開口部いっぱいを
高速で走る「新幹線」のボディが塞ぐ、
―やがて「新幹線」の速度がじょじょに遅くなり、遅くなり、遅くなり、
店の正面に「新幹線」の扉が停止する。扉が開く、

694:真琴
20/06/29 20:11:51.95
店の正面に「新幹線」の扉が停止する。扉が開く、
なかから無数の……という展開を幻視したわたしは、
店の道への開口部いっぱいを塞ぐ、高速で走る「新幹線」のボディに
引っ掛けられないように注意しながら、家具屋の隣りに開口している階段へ
ゆっくりと躰を移す、うまくいった、即座に階段を昇る、

695:真琴
20/06/29 22:51:06.93
305号室。
一瞬思案した後、わたしは扉を開ける。見知らぬ小さな空間が現われる。
ごちゃごちゃした生活空間をおぼつかない足取りで渡り、
巨大な蛇のような廻廊の内側を見下ろす小さな出窓に向かう。
窓から見下ろすと、

696:真琴
20/06/29 22:55:13.05
それにしてもこの部屋はいったい誰の部屋なのだろう。
誰かの部屋であるその生活空間の焦点が不安定に揺らめく。
本棚とか、並んでいる本とか、DVDとか、CDとか、机とか、ノートブックとか、
衣服とか、テーブルとか、サモワールとか、鍋とか、皿とか、フォークとか、
スプーンとか、箸とか、珈琲カップとか、え? あ? え?

697:真琴
20/06/29 23:00:01.95
305号室には玉座のように立派な椅子があった。
この椅子は…… わたしは判断を保留してもう一度、出窓から廻廊を見下ろす、
既に「新幹線」は通り過ぎていて、あとには踏みつぶされた甲虫の死骸のような
にんげんの死骸が散乱している、引き摺られた腸とかが道の床にまぶされ、
にちゃぁーっとした糸を引いている、奇妙に静かで灰色な朝、

698:真琴
20/06/29 23:04:16.79
やっぱりこの椅子には顔がある。この玉座のなかには
にんげんが息を潜めていて、物体でありながらにんげんなのだ、
わたしが部屋に侵入してくる前は無人の部屋で、もの、もの、もの、もの、もの、
それなのにこの玉座のような椅子のなかにはなかのひとがいるのだ、
わたしは椅子に向けて包丁を構える、いい? ものに徹しなさい?

699:真琴
20/06/29 23:06:16.13
隣の部屋から突然凄まじい音量で激しい音楽が鳴り始める。
壁越しに聞こえるだけでも凄まじいから、隣の部屋のなかでは、
食器とかがポルターガイストのように踊り狂っているのではないか。
隣室の主はカメラマンであるという直感を得る。壁に掛けられた・
額装された作品も、振動して壁から落ちそうに違いない。

700:真琴
20/06/29 23:12:50.08
305号室を出て、廊下の窓から廻廊の外側を眺める、
目を奪うのは庭園の広がり、その奥に巨大な『宮殿』が望める、
『宮殿』は巨大な直方体とは言え、5階建てくらいに見える、
一方こちらは3階のはずなのに、妙に高所から見下ろした景色のように感じられる、
『宮殿』を見下ろして良いのだろうか? たしかに廻廊の壁は万里の長城のような

701:真琴
20/07/01 01:10:01.72
再び305号室に戻る。玉座のような椅子は包丁に滅多刺しにされている、
特にその刺し傷から紅い液体が噴き出したりはしていない、
つまり、なかのひとなどいなかったのか……? あるいは、
椅子のなかで血みどろになりながら、その血が外に出ない何らかの工夫があるのか、
とにかく、椅子は死んでいた、もう顔を感じない、「うう」呻き声が聞こえる、

702:真琴
20/07/01 01:27:57.62
「ものみなにみなことごとく一つづつ眼ありて我をつくづくとみる」
「いまだひとの足あとつかぬ森林に入りて見出でし白き骨ども」
「見よ今日もかの青空の一方のおなじところに黒き鳥とぶ」
「大いなるいと大いなる黒きもの家をつぶしてころがりてゆく」
「はてもなく砂うちつづくゴビの野に棲み玉ふ神はおそろしからむ」

703:真琴
20/07/02 22:47:28.30
フダラク市とは、NOVA警察の遺棄施設を人類が拾得し、活用したもので、
ラグランジュポイントにありながら、富士の樹海とトンネルで繋がっていた。
フダラク市の最期が思い浮かぶ。NOVA警察の索敵艦が、通りすがりに
小さなブラックホールを投げ込んだのだった。
大門通りの中空に浮かぶ黒い球は青く光りながら凄まじい勢いで質量を喰っていった。

704:真琴
20/07/02 22:48:17.81
退避する宇宙船が、宙域に、蜘蛛の子を散らすようにばらまかれた。
とある研究員は、禁則事項を破り、トンネルをくぐって富士の樹海に逃げた。
樹海に逃げた研究員はどこにも行けずに夜の闇の中、あたまがおかしくなり、
あと100mほども歩けばわかりやすい遊歩道だという場所で、
あきらめて樹の虚(うろ)に倒れ込むように潜り込んだ。無数の蟲がわきたった。

705:真琴
20/07/02 22:48:52.52
いまは夜、この夜のなかで、いま、富士の樹海の奥深く、誰かが、あるいは何かが、
不意に立ち上がった。誰もそのことを知らない、だが、たしかに何かが立ち上がった。
夜は暗く、寒い。無数の蟲が蠢いている中、誰も見ていないのに、
何かが立ち上がった。蟲のけむりがわきあがり、しばらくしておさまる。
誰も知らないこの出来事は、卵の殻の中で黄色かった。

706:真琴
20/07/02 22:57:24.94
いわゆる通常物理と違い形而上物理は、4次元時空沈殿の「面」からはみ出すものだが、
空飛ぶ円盤を軌道上に打ち上げるに当たって議長が用いた手法は、
形而上物理学的な座標変換を4次元時空沈殿の「面」から浮き上がらないように、
infinitesimalに無限回おこなう、というものだった。
ぞろっ ぞろっとスペースコロニーが空中に浮かんでゆく。

707:真琴
20/07/02 23:05:16.38
このとき空飛ぶ円盤=スペースコロニーが辿った経路が、
のちに、フダラク市と樹海を結ぶ次元廻廊になったのではないか。
だとすれば、ここにも凄まじい特異点がある。
大鴉は、わたしはわたしはわたしはわたしはわたしは、アーカーシャの
遙か高空を飛びながら、その臍の緒のような渦巻きを眺めている。

708:真琴
20/07/03 00:25:38.53
わたしは大門通りを歩いている。でも、わたしが大門通りを歩いているとき、
当たり前のことだがいつもは前方の景色、つまり、真間山の石段に至る大門通りの
景色を見ているのに、いまわたしは石段の下に立ち、
わたしが歩いてくる様子を眺めている、わたしが歩いてくる様子を眺めているわたしは、
手児奈、なのかも知れない。

709:真琴
20/07/06 23:36:21.18
『宮殿』建設予定地であるだだっ広い更地の北辺に沿った道の北側には
林が広がっていて、林に埋まるようにしてときおり住居が建っている。
そのうちの一軒は、一階部分に
コンクリートの壁で作られた白っぽい直方体の空間が空いていて、
駐車場だか、工作場だかになっている。いまはシャッターを下ろしている。

710:真琴
20/07/06 23:41:20.28
そのシャッターの向こう側では、いま、拷問がおこなわれているのかも知れない。
拷問するとき、ひとは、相手の頭蓋骨のなかの脳髄のなかに主観的に見えているものを
なんとかアウトプットさせようと、さまざまな工夫をするのだが、
相手の発言に満足するかしないかを決めるのは結局、拷問者自身なので、
その意味で、拷問にはもともと意味が無い。

711:真琴
20/07/06 23:46:37.94
そのシャッターの向こう側では、いま、拷問がおこなわれているのかも知れない、
などと考えながら歩いていると、シャッターの下から血のような赤い液体が
道の方へ流れてくるので、わたしは気味が悪くなり、急いで進む。
しばらく歩いてから後ろを振り返ると、シャッターの前に、黒くて小さなにんげんが立っていて、
道のうえの血のような赤い液体を腰をかがめて眺めているが、不意にわたしのほうを見る。

712:真琴
20/07/11 23:02:31.90
参道の両側には巨木と巨石が並んでいる。
参道は石段になっているが、一段一段が明らかに大きすぎる、
巨人が、あるいは鬼が登るのだとしたら、ちょうど良い具合の石段である。
前方遙か彼方に鳥居が見える。
鳥居のうえに大鴉がとまっている、ような気がする。

713:真琴
20/07/11 23:15:06.92
わたしは、路面電車赤道線に乗ってフダラク市の円周の二分の一を移動し、
「未知機械の森」駅で下車する。駅のすぐそばに、個人経営のこじんまりとした
珈琲店がある。一面硝子張りで、なかのカウンターとか椅子とか空間が丸見えで、
地元の老人たちが静かにつどっている。その横から奥に向かうシャッター道が走っている。
道の両側は閉じたシャッターだらけで、どこからともなく機械の作動音が聞こえてくる。

714:真琴
20/07/11 23:24:51.46
シャッター道が、くねくねと曲がりながらどこまでも続く。
道の両側は、その場しのぎの建築を重ねたようなビルが、
細胞のように軒を連ねていて、どのビルもシャッターを閉じている。
深くまで歩いてくると、だんだん、ビルの上層階に上がる階段が開口していたりするが、
そんな迷子遊戯をしなくても、シャッター道の道筋自体が、凸凹した坂になってくる。

715:真琴
20/07/11 23:31:06.30
じょじょに道の両側が、剥き出しの機械だらけになってくる。
遺棄機械たちはみな、死んでいる。だがどこからともなく作動音が聞こえてくる。
わたしは数億年に及ぶチャートの歪みを感じる。
機械のあいだを進んでいくと、やがてわたしは広場に出た。
―お久しぶりです。声がした。

716:真琴
20/07/11 23:32:08.92
声が物理的に音として耳に来たのか、ダイレクトに脳に来たのか、
よくわからなかった。両方だったのかも知れない。
「どなたですか? たぶん、初めまして、だと思うのですが」
―あなたはこれから長い旅に出るのです。
私は未来のあなたと会ったことがあるのです、7億年以上昔に。

717:真琴
20/07/14 23:40:28.63
シャッターの音がする。
見上げると、天は漏斗状にすぼまって、その彼方に巨大な瞳(単数)がある、
瞳は顕微鏡を覗いてこの世界を観察している、
顕微鏡写真を撮っているのに違いない、
外部からの観測者? 外部? そと?

718:真琴
20/07/14 23:45:40.77
大鴉は、つまり、わたしはわたしはわたしはわたしはわたしは、
ハイパーチャートを開いているとき、
外部からの観測者なのだろうか?
「見よ今日もかの青空の一方のおなじところに黒き鳥とぶ」
外部? そと? かつてわたしは、それはNOVAの向こう側にあるのだと、

719:真琴
20/07/15 00:02:25.72
「幹線軌道文明はなぜ滅びなければならなかったのでしょうか」
『宮殿』の執務室で椅子に座るわたしに議長が問い掛ける。
「幹線軌道文明の3つの分枝世界―テータ、コヨ、カサタには
豊かな可能性があったと思うのです」
わたしはにこにこ微笑みながら議長の話を耳に入れている。

720:真琴
20/07/17 00:18:19.52
蝸牛がその足を優雅に伸ばす。
一方、桜の樹の幹にはびっしりと桜餅が寄生している。
桜餅は二枚貝のようなその口を微かに開き桜の樹の幹を甘噛みしている。
桜の花びらが雪のように舞い散る。
桜の花びらは地面に触れると溶けてしまう。

721:真琴
20/07/17 00:22:36.18
全球凍結している座標も無い大地の上空に
煌々と光る空飛ぶ円盤が漂っている。
円盤の下部ハッチから、じんたいがばらばらと降ってくる。
ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか。
刹那主義者たちは寝床から悠久主義者たちを引きずり出し、

722:真琴
20/07/28 23:51:10.80
書店、あるいは図書館の、一階の天井の一部は吹き抜けになっていて、
テラスのように見下ろす二階に繋がっている。
その二階の壁一面が倉庫に改造され、来たるべき大災害への備えとして、
住人たちが家財道具一切を収納し始めたが、家財道具一切を収納してしまった場合、
とりあえず生活はどうするのだろう、新たに家財道具一切を買い直すのか……?

723:真琴
20/07/29 03:20:04.49
私鉄の小さな駅の前の商店街、アスファルトの道沿いに不意に立っている
三階建てのビルの二階にある探偵事務所に入ると、
ワンフロアすべてが伽藍堂の遊び場になっていて、
象さんの滑り台があり、そして探偵は
「珈琲は二百円だよ」と言うのだった。

724:真琴
20/07/29 03:25:45.77
住宅街のなかを流れる真間川のような河が豪雨のため、
氾濫しそうなくらい水位が上がり物凄い速度で流れているが、
空は晴れている、ただし風は強く、しかも埃っぽく、
荒々しい「圧」をはらんだ黄色っぽい風が吹いている。
葉をつけた樹の枝が濁流の河面を、

725:真琴
20/08/01 00:22:29.58
わたしはにこにこ微笑みながら議長の眼をぼんやりと凝視め、
このひとの人生記憶はいったいどうなっているのだろう、と考える、
そもそも従来の分枝世界では『宮殿』は完成せず、
帝国主義者たちは人間主義者たちに粛清され、議長は全球氷結した地球にまで逃げ、
その結果、フダラク市が成立するのだ、このversionでそのへんはどうなって

726:真琴
20/08/01 00:28:45.86
もちろん、ガイアの一角で起こった出来事は、即座に全体に波及するわけではない、
「議長が全球凍結した地球にまで逃げない」という断片は、
因果波をガイアに送り出すが、その結果、ガイアの沈殿の仕方が変質してゆくためには、
ハイパーチャート内における、とある有限の時間が必要である、
だがそれにしても、フダラク市が成立しないとなると、―大規模な結晶崩壊の可能性がある。

727:真琴
20/08/01 00:44:26.80
駅前のペンシルビルに書店が入っていて、
一階は雑誌とか売れ筋の文庫本新書本とか、そんな感じの本を並べているけど、
二階は気合いの入った専門書、『モヨコ双対モナドのモジュライ構造について』なんかも並べていて、
その書店の三階に頑張って階段を登って入ると、奇妙な毒蛾のようなマンガが並べられている、
田中胃血狼の『コヨなくice(はぁと)』とか、

728:真琴
20/08/05 00:35:52.70
幽霊が出る、ということ自体には特に問題は無く、
むしろ、色調が赤に寄っていることを考えれば、
なぜ、巨大質量による不均等拡散が起きないかの方が問題であり、
いずれにせよ、その本を受注することは、3階の寿司屋としては、
ランチで利益が出るようなものだった。だから、受注伝票は、

729:真琴
20/08/05 00:41:30.69
この道は懐かしい、とても懐かしい、
この道を真っ直ぐ抜けると駅前ロータリーに出る、
市川駅の駅前ロータリー、駅ナカの珈琲店でわたしは、
ドストエフスキーの『悪霊』を読んだ、
駅前のレストランのビルがある土地には一時期、カレーハウスがあった、

730:真琴
20/08/06 00:20:27.14
懐かしい道、この道は、ビルとビルの谷間を走る太い道で、
床には煉瓦が敷き詰められている、
道の両側の「壁」を成すと言えるビルを眺めているうちに、
この道の有り様は、あの『宮殿』南辺沿いを走る謎の道と
似ているような気がしてくる、繋がって

731:真琴
20/08/06 00:30:04.35
コンクリートの天井に蓋をされた廻廊、両側は3階建ての建物が壁を成している。
巨大な蛇が這ったあとのように、やや曲がりながら向こうへ続いている。
わたしはこの謎の道を歩きながら、やはりこの道は市川駅前まで繋がっているに違いない、と感じる。
おそらく「新幹線」が走り去った方角、その果てに市川駅前がある、気がする。
手児奈の小川もこの道の支流なのかも知れない。

732:真琴
20/08/08 00:09:08.72
何だかわからない道を歩きたい。
何だかわからない道は夏の日差しの下、堤防の土盛りの横を右にカーヴしている。
小さな蝶がはたはた翔んでいる。
土盛りのなかににんげんの死体が埋められていることは秘密だ。
蟲たちは蠢いている。

733:真琴
20/08/08 00:15:36.76
『宮殿』の執務室の奥の壁に、一見壁のようだがよく見ると扉になっている箇所があり、
その扉を開けると狭くて急な階段がうえに登っている、
登ると、展望台のような小部屋に出、窓から遠方を臨める。
3階建てのビルの群れのような、城塞都市の壁のような、
あるいは高速道路かなんかなのだろうか、謎の構造物が

734:真琴
20/08/09 00:40:23.42
大地から生えたデベソのような小さな三階建てのビルの、
その三階部分に居住区を持つ家族に生まれつくというのはいったい
どういう気分のものなのだろう、二階から三階への階段を昇る者は、
けっきょく三階から二階へ降りて街に出なければならない、
三階は大地から空中にせり上がった「洞窟の奥」なのだ、

735:真琴
20/08/09 01:13:19.37
展望台のような小部屋は本当にただ窓から外を眺められるというだけの部屋で、
床の一角に昇ってきた階段の長方形の穴が空いている。だがよく見ると、
小部屋の壁にも、一見壁のようだがよく見ると扉になっている箇所があり、
注意深く擬装された窪みのボタンを押すと扉が開く。
扉の向こうは空っぽのクローゼットのような空間、それはエレヴェータだった。

736:真琴
20/08/10 00:11:01.04
議長は、いまの自分の専門は「形而上物理学工学」だ、と言っていた。
この『宮殿』も、「形而上物理学工学」的なギミックに満ちているらしい。
エレヴェータで降りた先の地下深くが、7次元時空的にも「深い」ということは
ありそうだ。過去のNOVA警察との関係ではどうみても「罠」を
疑わざるを得ないけど、果たして「帝国主義者」たちは、

737:真琴
20/08/10 00:15:48.27
エレヴェータに乗り込む直前にふとふり返って窓の外を眺めると、
3階建てのビルの群れのような、城塞都市の壁のような、謎の構造物の
とある窓の向こうに、人影が見える。なんだか、動いている。
気になって窓に近づくと、『宮殿』の前に広がる庭園も眼に入ってくる。
庭園にもまばらにひとがいて、機械仕掛けのようにゆるゆる動いている。

738:真琴
20/08/10 21:56:21.51
なにか白い闇がもやもやとうずくまっていて、
白い闇のまんなかにおおきな蓮華が花開いている。
蓮華の茎に沿って「下」に降りてみる。
降りてゆくにつれて白い闇が火葬場の煙のような灰色に煤けてゆき、
いよいよ視界がきかなくなってくる。

739:真琴
20/08/10 23:20:47.14
蓮華を少しでもゆらすとかれらに気づかれてしまう。
臆病な神経を張り巡らせながら、しかし毅然と、螺旋階段を降りてゆく。
と、うすぼんやりした骨色の闇の底を―小川が流れている。
小川に沿って進むと、
気がつくと手児奈霊堂の参道を歩いている。ここに繋がっているのか。

740:真琴
20/08/11 00:39:33.15
参道に面したブロック塀のうえで大きな猫が眠っている。
ブロック塀の向こうには古びた二階建てのアパート、
このアパートは古びているわりに妙に清潔感があり、生活感が無い。
にんげんの棲みかというよりは自然物のように感じられる。
参道を隔てて反対側の民家が生活感あふれるのと対照的。

741:真琴
20/08/16 00:02:09.54
ふと真間山のほうを見ると、
崖に沿って建つマンションの上空に、黒衣の花嫁が滞空している。
黒衣の花嫁、わたしは、時空をととのえるための七弦の琴をかかえ、
静かな瞳で手児奈霊堂の参道を、わたしのほうを、眺めている。と、
ブロック塀のうえの黒猫が目を開け、大きく伸びをし、塀の向こう側へすとんと降りる。

742:真琴
20/08/17 23:48:31.58
従姉妹の家、ということはつまり、叔父の家、ということになるが、
その家の裏手の庭は「痕跡的な小川」に面している。
この家の土地を画する塀の向こうに首を出すと、
左右に遠くまで「痕跡的な小川」が、つまり、コンクリートで作られた水路が、
続いている。こどものころ、従姉妹と一緒にこの水路に沿って歩くと、

743:真琴
20/08/17 23:53:58.71
従姉妹の家、ということはつまり、叔父の家、ということになるが、
その家の黒い塀は、不思議な形で道が分岐している場所に面していて、
塀に開いた戸を引くと、スーパーマーケットの入り口が正面に見える。
入り口の右にはなぜか鉄道の始点=終点駅があり、
ほんとうに現実感の無い不思議な感じがする。

744:真琴
20/08/21 00:30:14.54
従姉妹の家、ということはつまり、叔父の家、ということになるが、
その家は大地から生えたデベソのようなビルの三階にあって、
地下一階から地上二階までは一家の営む古本屋であり、建物の外側に蔦のように絡まっている
非常階段を登ってゆくと玄関がある。「お邪魔しまーす」 リビングは大通りに面していて、
窓から見下ろすと、店の入り口をインサイドから眺める感じが面白い。

745:真琴
20/08/21 00:51:58.22
オレンジ色の鞄に本を入れて図書館に行く。
図書館は船みたいな建物で、住宅街のなかに脈絡も無く建っている。
艦橋のような丸い書見室があり、広い窓の向こうはなぜか森になっている。
森のなかに沼があり、沼の中央に小さな島があって、祠がある。
沼の底は漏斗状の特異点になっている。

746:真琴
20/08/21 00:59:37.57
エレヴェータで降りた『宮殿』の地下は果てしない分岐迷路だった。
いまでは「形而上物理学工学者」を名乗る議長が設計した、
ガイアに索引を与える施設なのだそうで、
わたしがさ迷いながら構造を確定させてゆくことで、
ガイアを条理化するのだそうだ。それが「女帝」の責務なのだろうか。

747:真琴
20/08/22 01:30:20.49
わたしは何一つ「責務」なんて負っていないということを、
議長が理解していることを信じたい、というか、
それすらもどちらでも良いのだけれど、うん、そうだ、そういえば、
それすらもどちらでも良いのだ、いずれにせよ、
わたしの活動の結果このあたりの時空沈殿はだいぶ地鎮され、

748:真琴
20/08/22 01:36:53.20
従姉妹の家で、お客さんであるわたしの布団は、
玄関から入って一番奥の畳の部屋に敷かれたので、
硝子戸の外は、「痕跡的な小川」に面している裏手の庭だった。
微少な時空粗片が「痕跡的な小川」に沿って絶えず流れている。
こどものころは、よく従姉妹と一緒にこの水路に沿って歩いて

749:真琴
20/08/22 01:44:37.68
見ると裏手の庭の樹の陰に黒猫が眠っている。
わたしの視線を感じた黒猫は不意に起き、事も無げに塀をくぐると
水路に沿って歩いて行く。さすがにわたしは
水路に沿って歩くわけにいかず、従姉妹の一家と朝の時間を過ごしたあと、
正面の玄関から出る、すると路地をすこし進めば手児奈さんの参道に出る。

750:真琴
20/08/22 01:52:44.20
真間山の石段の裏側に爆心地が存在するのだとすればここはかなりな危地だ。
わたしは手児奈さんの境内を歩き、池に沿って回ると、
大門通りではない方の通りに出、小学校のところで真間川を渡り、
市川駅を目差すならそのまま大通りをまっすぐ行けば良いのだが、
大通りはつまらないので左にずれ、住宅街を縫って走る路地に入る。

751:真琴
20/08/22 01:58:43.52
臓器のあいだを走る何かの管みたいに、住宅街に埋もれながら、
市川真間駅前と手児奈霊堂近辺を繋いでいる長い長い蛇のような路地。
わたしはとある古びた板塀をしみじみと凝視める。
こどもがガムのおまけのシールを貼っている! それを見ているうちに、
古びた板塀に貼られたシールから、細かい蟲たちがどやどや噴き出してきて、

752:真琴
20/08/22 22:53:26.39
京成電車の市川真間駅を見ると上野の状景が思い浮かび、
不忍池あたりから歩いて行くコースが思い浮かぶけど、そういう気分でも無く、
市川駅まで歩いて黄色い電車に乗る。
市川駅の周辺で、『宮殿』南辺の謎の道がここまで繋がっているんだった、
ということを思い浮べて、不思議な気分になる。

753:真琴
20/08/22 23:01:38.44
黄色い電車が穢土川を渡るとき、一瞬、チャートが切り替わる気配がしたけど、
あまり追究せずに身を任せる。気がつくとわたしは第3幹線軌道商店街を歩いている。
路面電車の「カサタ端」駅が見えてくる。駅には始発のレトロ車両が止まっている。
わたしはなんとなく江の島あたりの海岸に跳んでしまいたくなる。
気がつくと江の島の、陸と反対側の奥の方の、岩だらけの海岸に立っている。

754:真琴
20/08/22 23:15:08.78
従姉妹の家は、土地の旧家と言える「豪邸」だが、
その玄関の正面にはスーパーマーケットの入り口前広場が広がっており、
きょうはそこに地元の小学校のブラスバンド隊の女の子たちが揃いの衣装で来て、
何だか元気よく演奏している。きょうは鉄道の支線の開通記念式典なのだ。
スーパーマーケットの建物の横を走る玩具みたいな単線が、

755:真琴
20/08/26 23:40:43.44
スーパーマーケットを出て正面には、
ふたまたに分岐する道に挟まれて大きな「お屋敷」があり、
「お屋敷」に沿って右手にゆく道を進むと道はやがて細くなり
住宅街のなかを走る。道を覆うアスファルトが端の方で丸まって終わり、
土が露出し、道沿いに松が植えられている。松並木。

756:真琴
20/08/27 09:15:47.40
突然、視界が広くなる。道沿いに松が植えられた古い細い道が、
ある意味での終点を迎える。前方には逆T字型に近代的な道があり、
この古い細い道は逆T字型の交差点に「左下」から斜めに刺さっている。
「水平」方向の道はやや狭いアスファルト舗装道路で、
「垂直」方向の道は歩道付きの広い車道。そして、「右上」の区画には

757:真琴
20/08/27 09:25:06.36
交差点の向こう側に渡り、歩いてきた古い細い道をふり返る。
「水平」方向の道に沿って左の方には山か森のような樹木の塊が広がっている。
道の角の所に、用途が不明な青くて白い古い建物がある。住居というよりも、
昔はお店だったがいまでは無人という風に見える。
その建物から右斜め奥へ、松の道が続いている。

758:真琴
20/08/27 09:37:18.60
このversionでは『宮殿』は…… (ふーん?)
わたしは不意にうなづくと前方を見て瞬きをする。すると白い扉が現われる。
街角に現われた白い扉を開け、くぐり、閉じると、
なかには殺風景な廊下が左右に果てしなく続き、無数の扉が並んでいる。
最寄りの結節点まで歩き、エレヴェータで『宮殿』まで上がる。議長が

759:真琴
20/08/27 23:53:53.42
青くて白い建物の内面は血塗られている。
右腕が何本か、左腕が何本か、右脚が何本か、左脚が何本か、
胴体、胸部、頭部、じんたいの部品が並べられており、
壁にも血の飛沫が無数に散っている。だが、
扉を開かない限り、建物の内面がそのようなものだとは誰も知らない。

760:真琴
20/08/28 00:00:27.35
道の脇に立つ青くて白い建物を眺めながら土の道を下り、福裏島を歩く、鰍と柊准尉は、
自分たちに残された時間があとわずかであることを、
予感していただろうか、それとも、
仮に予感していたとしてもそんなはずはないと棄却していただろうか、
いずれにせよ、杣台は

761:真琴
20/08/29 00:22:49.28
大門通りに「つぎはし」という橋があり、「痕跡的な小川」に架かっている。
この「痕跡的な小川」は従姉妹の家の裏手を流れ、暗渠化したあとで、
おそらく手児奈さんの池まで繋がっている。わたしは従姉妹の家の、
玄関から入って一番奥の畳の部屋に座卓を出して、形而上物理学の勉強をしている。
ときおり裏庭越しに「痕跡的な小川」を眺める。黒猫がこちらを見ている。

762:真琴
20/08/30 00:09:59.63
MWM変換、ただし、
前半のMW変換が連鎖して描くガイアと
後半のWM変換が連鎖して描くガイアが
アーカーシャにおいて異なる多様体に置かれている、このようなMWM変換について、
行動群の要素一つ一つに対してスピノザ的な計算を行ううえで、鰍ちゃんの先駆的研究は、

763:真琴
20/08/30 00:16:35.96
「ん」
チャートを開くと衛星都市フダラクのダイモン通りにいる。
大門通りの「つぎはし」に立ち、「痕跡的な小川」の奥の方にある
従姉妹の家の裏庭の塀を眺めるうち、不意に懐かしくなって跳んでみる。
ダイモン通りの至る所には黒い小さな子どもたちの煤のような姿が蠢いている。

764:真琴
20/08/30 00:22:27.92
深淵車庫の隣りにある、古い路面電車が安置された児童公園でわたしが
ハイパーチャートを開いたとき、わたしの躰に沿って
すべてのすべてのすべてのすべてのすべて……、へと
浸透してしまった、顔の無い黒い小さな子どもたち、
その黒蟻の種族が衛星都市フダラクをいまこそ喰い潰そうとしている。

765:真琴
20/09/01 00:23:15.30
フダラク市が「無かった」ということになると、多くの分枝世界が
根こそぎ結晶崩壊を起こす可能性がある。「最近」までフダラク市の
来歴は謎だった。フダラク市の発祥が全球凍結下の地球に逃亡した
帝国主義者たちであるとわかった結果、帝国主義者たちを粛清「しない」ことが、
むしろ女帝アグノーシアへの攻撃になると踏んだ勢力が

766:真琴
20/09/01 00:32:48.84
わたしは現実が徐々に歪み始めているフダラク市を、あふれる懐かしさとともに
歩いている、束京大学大学院新領域創生科学研究科衛星都市研究分室図書館、
このドラッグストアの角を曲がると路面電車赤道線のダイモン通りステーション、
気がつくとあたまのなかで誰かが喋っている、ごあんしんください、
この事態を解決するために配下と言える者たちに指示しました、新宿の

767:真琴
20/09/01 00:44:04.39
新宿のとあるペンシルビルにあるNOVA警察帝国主義派のフロント企業
「新星帝国社」のオフィスを襲撃し、サイトウさんを焼殺したのは、
―フダラク市の「未知機械の森」の奥に棲みついている議長に指示された、
NOVA警察帝国主義派の別な組織細胞だった。帝国主義者たちは粛清され、
全球凍結下の地球にまで逃亡しなければならないからだ。ビルが爆発し、

768:真琴
20/09/03 01:32:38.97
だがそれは議長の早計だったかも知れない。フダラク市ほどの結節点の場合、
結晶崩壊は起こりにくい、という予測もある。だが、万が一、起こった場合、
「大惨事」になるというのも確かだった。とにかく議長は過去の議長自身を
7億年前に放逐した。ところで、『宮殿』が完成したversionは、分岐結晶として
残存した。こちらでさえ残存するなら、フダラク市は充分残存したのではないか……?

769:真琴
20/09/03 01:39:17.58
だが、あの顔の無い黒い小さな子どもたちは? たしかにフダラク市に
異状はあった、が、それは結晶崩壊の兆しだったのか、あるいは別の何かだったのか。
ガイアはあまりにも広大であり、あまりにも多様な勢力が
それぞれの主観的世界像に立脚して行動するので、単純にジャッジできない。
―この頃から議長は、「消滅したい」と思念するようになった。

770:真琴
20/09/03 01:49:00.31
「アグノーシア様のおちからで、蓮華の根もだいぶ条理化されてまいりました。
ありがとうございます」議長がひざまづいて低頭する。
わたしは玉座に腰掛けたままその顔をにこにこ眺めている。
にこにこ微笑みながら議長の眼をぼんやりと凝視め、
このひとの人生記憶はいったいどうなっているのだろう、と考える。

771:真琴
20/09/06 00:16:58.72
海、海が近い、巨大な塊、海の底になにものかが這った跡がある、
衛星都市フダラクの外周壁の外側は宇宙である、管理部門の職員のなかには
宇宙服作業を担当する者もいる、地球から4次元時空的な手段で
物資を運んでくる船もある、フダラク市と富士の樹海を結ぶ次元廻廊が
どれほどの質量に耐えうるか未知だったので、

772:真琴
20/09/06 00:30:05.55
小さな庭に面した縁側のある和室で座卓に向かって勉強をしている、
硝子戸の向こうの庭はほんとうに小さく、すぐ向こうに塀が見える、
塀は下の方が開いていて、すぐ外を流れる「痕跡的な小川」が見える、
小さい頃この家に遊びに来たわたしはよく従姉妹と塀の下を抜けてこの川に沿って歩いた、
川の道をどんどん歩いてゆくと「つぎはし」に至り、さらに歩いてゆくと、


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