12/05/09 21:13:15.45 eyKU8DBQ0
銚子一本でも、ほろ酔い加減は味わえた。
結局銀時は、土方を背負った近藤と沖田の二人と店の前で別れ、もともとの目的地に向かっていた。
いないとわかっていて、昼間も行った場所に向かっている。
万が一にも、そこにいるかもしれない。
だが、もしそこにいたらどうしよう。
何か矛盾しているのだが、余計な話を聞いたせいで逆にその顔を見て安心したくなっていた彼は、ひたすら歩き続けた。
本当に、そこにいたらどうしよう。托鉢の坊主がこんな夜中までいるわけもないし。
だからといって、顔を見れないのも嫌だった。
その時はその時だ、と割り切ることにする。
別れ際に沖田は銀時にこんなことを言った。
「土方さんも旦那も、もっと素直になっちまえばいいと思いますよ……こんな飲んだくれるほどいろいろため込むより、よっぽど楽でさァ。素直になるのを恥ずかしがってるからこんなことになっちまうわけで。
俺みたいに素直に思ったことをくちにすりゃあため込んだりしやせんぜ。ああ旦那、ストレス発散に丑の刻参りとかお勧めしますぜィ。今ならこいつの髪引き抜いて持っていってもバレません」
近藤がさすがにそれを諌め、二人は屯所の方に戻って行った。
言葉の後半はともかく、沖田は珍しく土方のことを気にかけているようにも見えた。
でもって俺に、素直になれって?
まったくもってその通りだね。
いろいろ腹をくくってしまった方が、よさそうな頃あいだった。
本人に何も言わずうじうじしているから悪いのだ。そう、いろいろとためておくのはよくない。
……そしてそれは、桂にも言えることだ。
あいつも何も言わない。言わずに、耐えることをすぐに選んでしまう。あの日、自分が感情的に襲いかけた日に、少しだけ彼にすがっただけで。あげくに彼を責めるでもなく、再びすがることもなく、ただ自分の中にしまいこんでしまったのだ。
角を曲がり、昼間とは様子が異なった路地を進む。確か、団子屋の少し向こうのところにいたはずだ。もうそろそろ、その場所が見える―
「……いるし」
思わず呟いて、それでも彼は道のはじに立っている編みがさの坊主に向かって歩き続けた。
何を言ったものかと思いながら近づくと、言葉を考え付く前に桂がこちらを見た。
銀時が近くにやってくるまでそのまま待ち、声の届く位置に来たところで口を開いた。
「……どうした。こんな時間に散歩か」
「そういうテメーは、こんな時間まで托鉢の坊主かよ」
言おうと考えかけたことをすべて忘れながら銀時は言った。何事もノリがあればいけるもんだと思う。
「怪我治りきってねぇのに、何やってんだ。さっき俺、真選組のやつらと会ったぜ?」
「ふむ」
桂は一度周囲を見渡してから編みがさをかぶり直した。溜息をついて、少し気を抜きながら銀時の方に一瞥くれる。そしてすぐ視線をそらしてしまった。
こいつ最近、俺にかまわなくなったもんな……
前はしつこいほど勧誘しに来ていたくせに。
案の定、桂はサバサバした様子で彼に言った
「では忠告通り帰ることにしよう。さらばだ銀時」
「……送る」
自分でも驚くほど、素直に言葉が出てきた。
「ん?」
すぐに彼に背を向けたため聞こえなかったのか、桂が足を止めて振り向いた。
もう一度、言ってやる。
「送る。家まで」
桂が黙ってしまった。
「……」
銀時も黙った。
「……」
というか、彼にはもう何を言っていいかわからなくなった。素直に心配だからと言えばよかったか。
さすがにそれはなめられていると思われるか? 変に思われんじゃねーの? あれ? 俺もう信用なかったりしねーよな……?