12/05/09 21:08:37.11 8iQnP8Tk0
「とにかく、オメーがもしかしたら他に捕まってた奴のこと何か知らねーかと思ってな。空振りならしかたねぇが。まだ生きて捕まってるなら、どーにかして、やらねーと」
言い終えると、土方はいい加減しゃべり飽きたのか腹がもたなかったのかどんぶりをひっつかんでマヨカツスペシャルをほおばり始めた。
銀時はそれを見ながら心の中でつぶやいた。
……そいつ生きてます。
しかもあそこからちゃんと逃げだしてます。
そして君たちからも逃げなきゃいけない立場だったりします。
少し食欲が減退したままだったものの、彼もカツ丼を食らうことにして向き直った。しばらくは二人とも黙ったまま目の前の食事に取りかかる。
ややあってから、土方が口の中のものを飲み込んで言った。
少しだけ、前よりもろれつの回りが悪くなっている口調だった。
「とりあえず、このあたりで起こった誘拐事件や失踪事件と関わってねーか、その辺を洗ってみようとは思ってんだが……何にしても、胸糞悪ィ話だ。あいつら、寄ってたかって一人を嬲ってたらしいんだからよ……」
もうやめろ。
思わずそう言いそうになった
さすがに、叫びはしなかったが、かわりに別の言葉を吐き出した。
「……あのさぁ多串くん。今更言うのも遅いとは思うけど」
銀時はうめくように告げる。
「食事時にする話じゃねーよ」
「……だな、すまねぇ」
頭こそ下げなかったものの土方は素直にそう言った。やはり酔っているらしい。
だからといって、こっちの気分が晴れるわけでもない。
「大体……それって俺へのあてつけのつもり? 俺は無事逃げ出して、別に拷問とかひどいこととかされてません、怪我はしたけどっていう状態だよ、そりゃあ俺はね」
「いや……別にそういうわけじゃ……」
土方はすこしだけあわてたように否定するが、銀時は言葉を重ねてそれを中断させた。
「んじゃーなんですか? もしかしたら捕まってた他の奴? 野郎か女かはわからねーが、もしかしたらそいつも俺が助けられたかもしれねーとか、そんな風に言いてーんですかね、この税金泥棒は。
自分たちはあっさり取り逃がしちまったくせにさァ……それずいぶん調子良すぎじゃね?」
「……すまん。悪かった」
素直に謝る彼の反応に調子に乗って責めてみたものの、よけいむなしくなっただけだった。
「……まぁ、力になれなくて悪いとは思いますけれどー? さすがに食事時の良識は守ろうよ多串くん」
「……ああ」
普段なら、そんなことを言わなくてもこんな話を長々とするような男ではないはずだったが。考えてみれば何がこの男をそうさせたのだろう。
再び二人は黙々と箸を動かしはじめた。腹には重そうに見えた量も、イライラで勢いづいていた彼にかかればたいしたこともなかった。酒の肴に、と甘いものを注文すると白玉あんみつを出された。残念ながらパフェは置いてないとのことだった。
やはり黙ったまま銀時はデザートを平らげる。土方はその間、ずっと酒を飲んでいた。よくよく見れば、土方の前のお銚子は既に七本目だった。銀時はまだ一本目すら開けきっていない。どう見ても、明らかにペースが速い。彼の酒の強さは銀時と同じくらいだったはずだが。
「あのさ……多串くん、ちょっと飲みすぎじゃない?」
きつく言いすぎたかとも思い、やさしい人ぶってみることにした銀時の言葉を、その酔っ払いはすべて無視した。
そして言う。
「……桂の奴が、捕まってたかも、しれねぇ」
「なッ……!?」
何で知ってる、と続けそうになり、思わず銀時は口を右手でふさいだ。
土方は銚子を傾けながらどこかとろんとした目で言葉を続ける。
「半分つぶれちまった部屋によ……黒い長髪と、桂の服の切れ端っぽいもんが見つかったんだよ……鎖にも、黒い髪が、いくつかこう……絡んでたらしいしな……」
「……今時、長ぇ黒髪の女なんてたくっさんいるだろーが。ヅラの服の切れ端ったってオメー、ヅラがいつも同じ服ならわかるけどよ……偶然じゃねぇの?」
「目撃情報が、途絶えた時期が、被ってやがんだ……」
ついにカウンターに突っ伏した土方に、銀時は倒れかけたお銚子を助けてやりながら声をかける。
「おーい、多串くーん?」
「桂の奴と……高杉ぁ……因縁、あんだろー……?」
「多串くん?」
「ぶっ壊されたり、してんじゃ、ねーだろーな……まさかよぉ……」
どうしてなのかはわからない。だが、土方は桂の身を案じているらしかった。
そのことに驚きながら、突っ伏したままぶつぶつと呟く土方を見下ろし、銀時は心の中で返答する。