12/05/09 21:07:15.42 SbYExb0/0
捜査状況とか話していいんですかこの男は。
そして土方は銀時が何となく一瞥くれただけでも、すでに出来上がってきてるように見えた。
銀時の隣で常に目が据わっている男は酔いに任せているのか再び口を開く。
「あー……違う意味でやべぇもんはいろいろあったぜ? けどあんなもんは幕府に戦しかける時にゃ何の役にもたたねぇからな……だれか趣味のいいやつがいたんだろうな」
「違う意味でって、なに? 変な薬でも見っけたの?」
思わず彼は問いかける。
桂がやられたという薬についてなら、多少知っておきたいととっさに思ってしまうあたりが何となくむなしかったが、土方は首を横に振った。
「いや。道具だ。拘束用の、拷問用の……あとはあれだ、なんつったかな」
いやなことを思い出しかける。桂にはめられていた手枷に、足枷。そして、それだけでは済むまい。
土方の言葉も、それだけでは済まなかった。
「ああ、そうだ沖田の野郎が、地下でつぶされてた道具類を見分けたんだが……たしか拘束具と一緒に淫具も、山のように」
「……」
聞くんじゃなかったぜコノヤロー……。
思わずうめきそうになったが、彼を責めても仕方がないので銀時はため息をひとつはくだけにとどめた。
……使われたんだろうな。
想像もしたくないことだが、もう知ってしまった以上気になってどうしようもなかった。
「なぁ……」
気づけば顔の赤い土方が酒臭い息を吐きながら銀時の方を見つめている。若干身体を乗り出しているので、思わず引いていた。
そんなことにはいっさい構わず、その酔っ払いは銀時をじっと見つめてくる。
「テメーほんとに一人で拘束されちまってたのか?」
「……なんでそんなこと聞くのよ多串くん」
「……一人でのこのこ行ってあっさり捕まるような野郎かよ、テメーは。他に誰かいたんじゃねーのか?」
「いや、俺一人だって。ホント。すっげー強い人斬りとやりあって、足場が悪くてとっ捕まっちまったって言ったろ?」
実際捕まったのは思いっきり油断したからであって、しかも再戦の折に大勝したわけだが。
「まぁチャイナもメガネも行ってねぇようだったしな……一人で行ったんだろうとは思うけどよ……」
まだ納得がいかないらしく、疑惑に満ちた表情で土方がぼそぼそと呟いた。
その時、二人が注文した料理が出された。面倒くさいということで土方が丼ものを頼んだのだが、まさかまたカツ丼を二つ注文して奢ってくるとは思っていなかった。
ちょっと腹に重くないかこれ。まぁ夕飯だからいいっちゃいいけど。
大盛りで出されたカツ丼を前に銀時がため息をつくと、隣で土方がマヨネーズをどんぶりの上でくるくる回しながら盛り付けていた。
見ているだけでこっちの胃が油まみれになりそうなんだけど、多串くん……。
「他に、本当に誰もいなかったんだよな……?」
「おいおいしつこいね。俺はほんとに誰も見てねーよ?」
土方はマヨトッピングを終えたどんぶりに手をつけようとしたが、それをやめてどんぶりを見つめた。
あれ? もしかして後悔した?
もちろんこのマヨラーに限ってはそんなはずもなかった。彼の口調は顔色とは裏腹に、理性的ですらあった。
「オメーのほかに……オメーの言うことが本当なら、オメーと入れ違いぐれーに、誰かとっ捕まってたはずなんだ。……しかもそいつは、奴らからかなりひどい仕打ちを受けていた」
「……っ」
彼の言葉に思わず目を見開いた銀時には気づかず、土方は自らが作り上げたマヨカツ丼を見つめたまま唇を震わせる。
「それらしい死体は確認されちゃいねぇ……だが、そいつがいた形跡だけはあるんだ。殺されていねぇなら、奴が連れていった可能性もある」
自分の他にとらえられていた者は、一人しかいない。銀時は土方の言うところの「仕打ち」の現場こそ見ていないものの、嫌というほどその意味を知っている。
だが、第三者から客観的に語られるとは思ってもみなかった。
それにしても、饒舌すぎるこの男に、銀時の腹も立ってきた。
捜査情報一般人に公開してんじゃねーぞおい。
「拘束されてたそいつは、どうやら拷問されてたわけじゃねーらしいんだ。使用済みの淫具が散らばってる部屋が別に見つかったらしい……久々に殺し以外で気分の悪い報告受けちまった。調べた沖田の奴も軽く流しちゃいたが、ありゃあ内心苛立ってたな……」
「……で、何が言いたいんですかね、多串くんは」
少し抑えた声で問いかけると、土方はお猪口を再び開け直した。
勢いがつかないと言えないのだろうか。