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少しだけ減らず口気味の言葉を残し、彼は万事屋を出た。
いつの間にか日が暮れて、薄暗くなっていた。
すぐに歩きだす。一応、これからどこに向かうかは決めていた。
何よりまず外に出たのは、頭を冷やしたかったからだったが。
「やな夢見ちまったな……」
最初の方はよかったような気がするのだが、なぜか最終的には悪夢めいていた。夢の中だからか、彼があんな風に悲しげにすがってきたのは。
……聞きたいのか、銀時……
一週間前に言われた言葉を思い出す。これは夢ではなく、本当に問われたことだった。
思いきり泣かれた後に、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。ばつが悪いのか顔を伏せたまま小さな声でそう尋ねられた時に、思わず言い返していた。
「……いや、もういいよほんと」
よくわからねーこと言って、悪かった。なんつーの、魔がさしたっつーか。
銀時は星がちらつきだした夕暮れの空に向かって息を吐き出した。あいつから逃げるのは、そろそろやめた方がいい。言い訳にしてもひどすぎた。
だが憔悴していたあいつは「大丈夫だ」と言ってそのまま眠ってしまった。何か声をかけることもできず、そのあとは桂が再び起き出す前に新八と神楽が戻ってきてしまったために、なんのフォローもできなかった。
こういうときって多串君ならどうするんだろうね。やっぱうまくフォローすんのかね。
まぁ多串の奴は実際、女っ気がないから、好きなやつがいてもだめだそうだなぁ。
そんなことをつらつらと考えながら、彼はゆったりとした足取りで歩く。
「おい」
「大体多串くんて瞳孔開いちゃってるもんね。無理だよね。女の子寄りつけないよね。モテるとかそれ以前に異性を拒否してるっていうかもうアレ、下手すると人殺しの目だよね……」
「テメー、おい、こっち向け」
「そう、で口も悪いんだよ~。何かこう渋めの剣豪っぽい声してるくせに出てくる言葉が汚いっつーか。絶対女の子とかには毒だよね。モテちゃいけない人種だよホント」
銀時の後ろで、何かが切れる音とため息のような声がしたが、彼は気づかなかった。
次の瞬間。
「……おいっつってんだろーがッ!!?」
「うごッ!?」
後ろからドロップキックをくらって銀時は前に転げていった。
いきなりだったので、近所の家の壁に激突して逆さに止まったころには銀時の首は少しひねったような痛みを残していた。それ以前に体中が痛んでいたが。
さかさまのまま、彼は自分を蹴ったであろう男を見つけて口を開いた。
「……アレ? 多串くん?」
「テメーいい加減その呼び名やめろ! ひ・じ・か・ただっつーの!」
「てか俺に何か恨みでもあんのォ? 警察が一般市民に、こんなことしちゃダメでしょ」
「それはこっちのセリフだ! 歩きまわってっから怪我が治ったのかと思って声掛けてみりゃ無視しやがるわ、あげくに人の悪口さんざん言いやがって……」
「ああ、口に出てたんだ。ごめんごめん」
へにゃっと笑ってから彼は身体を動かして立ち上がった。
軽く首をまわすと、違和感もすぐになくなった。もともと頑丈にできている彼は、この程度で怪我はしない。
「けどちょっとひどいんじゃねーの? 怪我が治ったか聞こうとした相手に怪我させる気?」