【空知英秋】銀魂 ネタバレスレッドpart293at WCOMIC
【空知英秋】銀魂 ネタバレスレッドpart293 - 暇つぶし2ch250:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:05:19.43 SEy29ZTn0
万斉は半ばがれきに埋もれた廊下からちょうど脱出するところだった。一緒に地下に降りていた捜索隊のことは考えていない。全員がほぼ単独行動で捜索していたからである。
実のところ、彼らを捜索するの分散する意味はない。足手まといがいたとしても、自分以外の者では各個撃破されるに決まっているのだ。だがあえて危険を承知で分散したのは、
その中には春雨から派遣されていた、功を焦る天人も数人いたせいだった。あまりにごねてくるので、万斉はその段階で彼らに見切りをつけていた。
 そして彼は手始めに奴らが狙う可能性の高い武器庫に向かった。扉がぶち壊されていた段階で舌打ちし、中を覗いてため息をついた。小さな火力兵器がなくなり、
残された武器大型の銃器類が痛々しい刀傷で壊されていた。
 おそらく、地下に潜んで期を窺っているだろうと予想された。自分たちは上に向かいながら一気に地下にやってきた者たちを処理してしまうつもりだとしたら。
「これは相当まずいでござるな」
 つぶやいて彼が武器庫を出た時に、それがはじまった。
 爆発音が地面を揺るがす。直撃や爆風は食らわなかったものの、爆発の煙が万斉のもとまで届いてきた。
 がれきに埋められる前に脱出しなくてはなるまい。
 素早く判断した万斉はすぐさま行動に移し、地下から地上一階へと移った。その間にも、数回ほど爆発が起こった。
 一階でこの騒ぎをやられたら、火の手が上がる可能性もある。おそらくこの拠点はもう使い物にならなくなるだろう。
「ふむ。あやつらに関わるとろくなことがない……」
「そりゃこっちのセリフだ」
 後ろから掛けられた気の抜けた声に、彼は振り向かず右に跳躍した。
 彼のいた場所を、轟音と高速物体が駆け抜け、真正面の壁を爆発させた。
 向き直れば、二階へ続く階段の手すりに足を掛けた男が肩に巨大な筒を背負いながら笑っている。
「ちィ、外したか!」
「そんなものを人に向けて撃つとは、礼儀がなっていないでござるよ」
 万斉は刀を抜いた。
 白髪の男も、それに応じて砲を捨て、刀を抜く。万斉はそれに見覚えがあった。
「おぬしは盗人でござったか」
 言いながら飛び込みあい、刃が数度噛みあった。金属音が心地の良いリズムを刻む。
「ああ? これはおめー、拝借しただけだ!」
 男の表情は、真撰組を追い詰めた時よりもぎらついていた。そして怒りをわかりやすいほど出していたが、前のような焦りはない。
 これは手ごわいと、万斉は銀時の激しい剣さばきを受けながら思った。剣筋に迷いがない。
「てめぇらぶった切ったらもういらねぇからよォ! あの変態に返しといてくれや!」
「借りたものは自分で返すでござる!」
 はじき合いながら叫ぶその男の表情は、修羅のごとく。
 手数こそ多くはないが、一撃一撃がとにかく重く、そして鋭い。以前酔っ払いの鼻歌などと評した男の音色はどこへやらだった。
「桂はどうした!」
「あいつなら一人でさっさと逃げちまったぜ!」
 下から跳ね上げてくる斬撃を身をひねってかわす。その反動で横なぎの一線を鋭く放ったが、銀時はあっさりと受け止めて見せた。
「見え透いた嘘を。あの状態では一人で逃げられるはずもあるまい!」
「その辺の野郎とは違うんだよ。腐っても逃げの小太郎ってやつだ!」
 刃を交えながらにらみ合う。
 この男の笑みは、高杉とは違う。人を小馬鹿にして煙に巻く。そのくせどこかぎらつくような強さを秘めている。
 ムラっ気が強いのは高杉と同じか。おそらくそんなことを口にしたらどちらの男も否定してくるのだろうが。
 とりあえず勢いに乗っているこの男を倒すのは骨が折れそうだと感じた。
 さらに踏み込まれた一撃をはじき、万斉は間合いをとるために一度大きく退く。
 銀時が、いやな笑みを浮かべたのはその瞬間だった。

251:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:05:41.83 jVbfEZNr0
「そこ気ぃつけろォ」
「!」
 爆発。
「大当たりだぜ」
 万斉は床を踏んだ瞬間違和感を感じてさらに跳んだが、当然よけきれるものではなかった。結果、吹き飛ばされて壁に叩きつけられるまで、彼はほとんど何もできなかった。
 実際、直撃しなかっただけでもよかったと言える。
(地雷……とは!)
 受け身すら取れず叩きつけられた衝撃が彼の全身を打ちすえる。やがて壁に寄り掛かる形でずり落ちながら、彼は床に刀を取り落とした。
 背中で破損している三味線も、ダメージ緩和どころか増加させてくれた。今度からこいつを背負って切り合うのは、時と場所を考えるべきかもしれないと反省する。
 そもそも地雷原のあるところで戦うことがあれば、の話であるが……
「借りは返したぜコノヤロー」
 どこか愉しげな声が、かすんだ視界の中に映る影から届く。
 捕まえられた恨みにしては、ちと厳しくはござらんか……?
 思わず聞き返そうとした彼に、白夜叉は背を向けたようだった。そこまでが彼の記憶となった。
 さすがの万斉も、捕まえられた恨みではなく、白夜叉にバイクで突っ込まれた時の恨みを返されたということまでは気づかなかった。


252:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:06:47.56 NV7ht/Vq0
バレ師乙です
雑魚杉腐の荒らしがひどい中いつもありがとうございます

253:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:06:49.60 cWs3jxRy0
「お前なんであんなのに捕まっちゃったの? 大したことなかったんですけど」
 銀時はバズーカを拾い上げると、その近くでテーブルを倒して陰に座り込んでいる男に言った。
「……お前とて、地雷に頼らず勝てたのか?」
 一度だけ気絶している万斉を見やり、どこかくたびれたような顔つきで桂が応じた。
「当然でしょ。まぁあれだ、時間がかかっちゃ困るから、てっとり早い方が良かっただけで」
 自分も万斉に捕まったとか、その辺は内緒にしておこうと思った。
 銀時が手を伸ばすと、桂がそれを取ってゆっくりと立ち上がった。桂が与えられたのは本当に少しだけの休憩だったが、立ち上がって歩きまわれる程度には回復していた。戻った時には完全に気を失うように眠っていたので心配したが、起き出してすぐに銀時と動き始めたのだ。
 相変わらず見た目に反してかなり頑丈な男だと銀時は内心、妙に感心している。
 もちろん無理をしている可能性が高いのでその辺は常に気遣わなくてはいけないところだったが。
「外に捜索に行った者たちも、そのうち戻ってくるだろう」
「そうだな。その前に……」
 銀時はバズーカを構えた。天井に向けて。
「取り返しのつかねーことしてやらなきゃなァ!」
 叫びながら引き金を引く。
 轟音が鳴り響き、反動で銀時が軽く後退した。
 それを見ながら、桂が両手にもった物体をやや遠くに放り投げる。
 一瞬後、爆発。
「ようやくテロリストの本領発揮ってか!?」
「ふん、そう言うな」
 いろいろと手早く放り投げながら、桂は顔をしかめていた。一番負担のないやり方でも、腕を振るうだけで痛むのだろう。右手首は骨にひびくらいは入っているのではないかと思われるほど腫れていた。
 爆音があちこちで鳴り響く。
 その中で弾切れした砲を投げ捨て、銀時は快活に笑った。
「退路、ほんとに真正面でいいのかよ!」
「どうせ派手に壊していくだけだ。かまうまい」
 正々堂々帰らせてもらおう、と桂が言いかけたところだった。
「見つけたぞ! 奴らだ!」
人間というにはあまりにも異形の奴らが現れて叫ぶ。玄関に向かう廊下の真正面だった。あちこちで壁がぶち抜かれ、がれきの多い足場に苦心しながら近づいこようとしていた。
 一階の大広間ならまだ囲むなりできるだろうが、この状況ではこちらに分がある。
「後ろからも来たか」
 桂のつぶやきに、銀時は肩越しに振り向いた。数はそう多くないが、天人と人間とが雄たけびをあげながら群れをなしてこちらにやってくる。
「そっち任せた」
「そちらは頼む」
 声が重なり、二人は同時に動き出した。
 桂はややかがみながら前に進み、手榴弾のピンを歯で引っこ抜いて鋭く投げた。左投げの連投だったが、勢いよく投げだされた手榴弾は押し寄せてくる敵の真ん前に落ちた。威勢のいい爆発で、一気に片が付いていく。
「だりゃああぁぁぁ!!」
 一方で刀を構えて突っ込んでいく銀時は、接敵すると同時に的に体当たりをぶちかまし、一気に数人をはじいた。驚いてたたらをふんだ男に刃を浴びせ、自分は血を浴びる。白目をむいた男の後ろで斬りかかろうとしていた天人を切りはらう。
 面倒くせぇな。
 そう思った瞬間、桂から預かった手榴弾を取り出した。一斉にひるむ奴らに口角をつりあげながらピンを引き抜く。
 爆発で吹き飛ばされてきた男を蹴り飛ばし、煙に白髪をなびかせながら後ろを一度だけ振り向いた。
 桂の黒髪が爆風になびいている。向こうの方が景気良く爆発しているのは、刀を扱えない桂にほぼ全火力を預けているからだった。
 そして彼が怪我をしていても、こちらが有利だといえるのは銀時の剣技技量云々からではない。ここが敵の拠点である以上、奴らはこういった爆発物の類を使おうとはしない。それも桂が口にしていたことだった。
最も、彼の場合は自分の住みかだろうと自爆気味だろうと気にしないでかますのだが。
 爆風が収まり、それでも混乱している様子の敵に向かって銀時は再び飛び出した。
 後方の敵が沈黙したらしく、銀時が敵の残党をを処理し終わる頃には桂が彼の方に近づいてきた。
「まだか銀時!」
「てめー、楽な方請け負ったくせに……!」
 苦笑いを浮かべ、彼は一気に敵を沈黙させにかかった。上段から、下段から。足を払って。型どおりの戦いなど自分も敵もしやしない。ただそのまま突っ走るだけ。

254:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:08:21.19 9d6CQTWg0
ようやく最後の一人が黙ったところで、銀時は足を止めた。
 桂がその横に並ぶ。走ることはできないようだが、壁に手をついて素早く移動してきたらしい。
「これで終わりとは思えんな……」
「とりあえず最後の一発は外に出てからな」
 銀時は桂が持ち込んだ高性能炸裂弾とやらの威力を信じて疑わなかった。本人いわく、芸術的にすべてを無に帰すとか、かなり恐ろしい代物らしい。狂乱の貴公子というより、
こいつは凶弾の爆撃機じゃないのか。歩く凶器だか武器庫だ。
 銀時が無言でしゃがむと、桂がその背に乗って体重をかけてくる。
 なんだかこの移動スタイル微妙じゃね? なんかちょっとなんつの、なにかがこう嫌なんだけど。
 最初はそう思ったものの、桂も顔をしかめつつそれしかないということで、おんぶスタイルで話はまとまった。が、お互いに動きが意外に取りやすく、
戦いやすいという発見があったので結局二人とも何も言わなくなった。担がれている時より行動しやすいと言った背中の桂は、発見した敵に妙な棒を投げて吹き飛ばしまくる活躍ぶりを見せた。その際、お菓子の匂いがしたのは気のせいだと思うのだが。
「とにかくいこう」
「あいよ」
 銀時が走り出すと、あちこちで時限式の小さな爆弾が館を揺るがし始めた。基本は地下に仕掛けておいたもので、上の階にほとんど被害は出ていないだろう。
「だがそのうち火災が発生する」
「あ、やっぱり? 景気よくやっちゃったからなー」
「その前に崩れ落ちる可能性はあるが、土台を壊したわけではないのでな……ともかく、すぐにここを出なくては」
 銀時たちは廊下を駆け抜け、一階のホールに続く大扉の前までやってきた。
「ここでいいんだな?」
「ああ」
 武器庫にあった館の見取り図を頭に入れていた桂が後ろでうなずく気配がする。
 銀時はすぐさま扉を蹴り飛ばした。扉は面白いほど吹っ飛んでいった。階段わきの扉だったらしく、ホールに明かりが灯っているものの入口を含めほとんど向こうの様子が見えない。だからといって慎重になっても仕方がないことはわかっていた。
 敵が待ち受けている可能性も頭に入れつつ、二人はホールに飛び込んだ。
 直後。
「存外、遅かったじゃねぇか」
 ぶっきらぼうな声が二人にかけられる。
「ちぃと待たされたぜ」
 空気が一変した。
 自分たちのまとう空気も一変する。
「おいでなすったか……」
 銀時はつぶやいた。
 不敵な笑みのラスボスが荘厳なシャンデリアの下、フロア中央に悠然と立っている。

255:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:09:32.76 +T8JZoDz0
 右手でゆっくりと腰の刀を抜いた高杉は、やや不機嫌そうな顔つきに見えた。
 あいつ寝起きかよ、と銀時がつぶやくと、まぁなという返事が返ってきた。
「……どんだけいい耳してやがんだ」
「銀時、降ろせ」
 背中の桂が身じろぎする。彼は言われたとおり手を離した。
 いつも以上の緊張感を持った表情で、桂は彼の隣に立った。ちらりと見やれば、心なしか表情がかたい。だか言葉は落ち着いていた。
「借りは返させてもらうぞ、高杉」
 魔王は、鼻で笑う。
「なら大人しく捕まってくれねーか? 春雨にもいい加減、しびれ切らされそうなんでな」
「お前の首でも差し出せばよかろう。そのにやついた面構え、いい飾りになりそうではないか」
 あからさまな挑発に乗っている隣の男は、どうやらかなりキレているらしい。
 そこに色々な理由を見出しそうになり、銀時は考えるのをやめた。怒りを覚えているのは自分も一緒なのだ。
 そうだった。そう思った瞬間、いつの間にか腰の刃を抜き放っている自分にようやく気付く。
「余計なことをごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ!」
 叫びながら飛びかかり、数十歩はあった距離をあっという間に詰める。
 刃が高杉に振り下ろされる。これは思っていたよりもいい気晴らしになりそうだった。
「おめーに貸しを作った覚えはねーんだがなァ、銀時!」
 刃を受け止めながら、黒い獣は笑みを濃くする。
「なに忘れてんだよてめぇ……俺の腹ぁよくも蹴ってくれたじゃねーか! あれから痛くてしゃーねぇんだよ!」
 はじき合う金属音が数回。向かい合う二人の表情は、歪んだ笑み。
「銀時! そいつの相手は……っ」
「うるせぇヅラぁ! てめーは黙って他の奴の相手でもしてやがれ!」
 銀時が叫ぶと同時に、武装集団が上の階から階段で下りてきた。
 いつの間にいたのかはわからないが、まさか本当に来るとは実は思っていなかった。
「ちっ」
 桂の舌打ちをよそに、銀時は攻撃をかわしながら高杉に集中しなおした。
 見た目以上にこいつは洗練された動きをする。斬撃は相変わらずの素早さで、銀時の腕をもってしても舌を巻きそうになる。
「腕のほうはてめぇの脳ミソと違って衰えちゃいねーようだな……!」
「ああ!? んだてめぇ、どういう意味だそりゃ!?」
 相変わらずムカつく男だというところも変わっていないようだった。
 後方で爆音が聞こえてきたが、もう銀時は気にしない。
 火力を与えられた桂は、対多勢において刃を持った自身を軽く凌駕する。真選組との日々の闘争の賜物とでも言うべきか。
 そして実のところ、銀時に気にかけている余裕はなかった。
「だ……ッらぁ!!」
 気合いをこめて刃をはじき返すが、高杉はそこから自分の本領を発揮する。はじかれた勢いを受けず、流れに乗るように回転しながら刃を翻してくる。桂と銀時の間をとったような、華麗で勢いのある斬撃だった。
 避けきれず、胸元が軽く切り裂かれるがそれも一瞬のこと。無理やり耐えて銀時は踏み込んだ。そのまま蹴りを繰り出す。
 刃を戻せない高杉が上に跳んでかわす。かわしたその男に向かって一閃。
 刀で受け止めた高杉だったが、勢いを殺せずはじかれたように退く。
 銀時の追撃は終わらない。態勢を崩した男に向かって駆け、切り結ぶ。
 高杉の左肩から鮮血が飛んだ。が、それも浅い。さらに二人の手数が多少の傷など気にせず増えていく。
 不意に高杉が逆手に持ち替え、瞬間、刃が鋭く煌めいた。
「くッ!?」
 避けようとしていた刃が速すぎて、思わず前に出していた刀のにぎり、左手を切られた。
 これも浅い。しかし銀時は左手から刀を放した。力を込めると痛みが集中力を上回ってしまうと判断した。出血だけが景気よいのだから困ったものだ。
 高杉も一度かすめた頭の怪我を気にしているようだった。頭から血が流れ、包帯を少し赤く染めている。右の視界がなくなってしまっては、彼は戦えなくなる。
 かすり傷くらいはいくつも負わせ合っている。結局、ハンデはどちらにもついていない。
 同時に退き合い、間合いの外からにらみ合う。
「相変わらずいやな奴だぜてめーは」
「やりにくい野郎だな、ほんと」


256:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:10:55.10 eujMcbcz0
どちらともなく口を開いた結果、声がかさなった。
 景気のいい爆発音と悲鳴が鳴り響く中で、二人は笑った。
 笑い合いながら距離をじりじりとつめる。
「河上万斉!」
 二人の邪魔をしたのは、桂の叫び声だった。
 見れば、崩れた階段の方で広がる惨状の中、二人の男が立ち残っている。
 傷だらけで血まみれのヘッドホン男が、桂につながる弦を手にしながら地面に血を吐きつけたところだった。あんな状態でもヘッドホンをしているのが意味不明な男である。
 桂自身は無事な左腕に弦をからめられて顔をしかめていた。
 桂も万斉も、お互い立っているのが精いっぱいなのだろうが、意地でも敵を潰すという雰囲気に満ち溢れていた。
「どこいってた万斉。お前が一番の遅刻だ」
「室内で地雷を踏むとは思わなくてな。これでも最速で戻ってきたでござるが」
 その様子じゃ本当に踏んだらしいな、と高杉が笑う。
 これで全員役者がそろったというところか。銀時はため息をついた。不安が募るが、仕方がない。
「ヅラぁ、そいつは任せたぜ」
「ヅラじゃない……桂だ」
「万斉、代わってやろうか?」
「そう願いたいところだが、晋助に譲るでござる」
 軽口気味の高杉に向かって、銀時は再び切りかかった。
「ヅラの恨みでも晴らすか、銀時ィ!」
「てめーの借りを返し終わってから考えらァ!」
 動揺する間も惜しい。とにかくこの男を切り伏せてやりたかった。でなければあいつの助けにも回れまい。
 その視界の隅で、桂が動くのが見えた。


桂は武器庫にあった小刀を対万斉用に持ち出している。しびれた腕でどうにか弦を切り外し、桂は即座に自由になった左手を振るった。
 小型の炸裂弾。威力は低いが、目くらましにもなる。直撃すれば腕くらい軽く吹き飛ばす。万斉も自分のアジトにある武器くらい把握しているのだろう、目にした瞬間行動した。
だがあのキレのよい動きとはほど遠い。銀時に提案し、爆弾で吹き飛ばしておいて正解だった。人斬りが刀を使えない状況というだけでもよろこばしい。どのみち、接近戦は自分には不可能なのだから。
 お互い、痛みわけともいえるこの状態ならまだ互角だろう。だがあのときと同じく、すぐにでも援軍がくる可能性はある。
 どのみち長期戦は身体がもたない。敵も似たようなものだろうが、それに過剰な期待をかけることはできない。
 きしむ身体にむち打ってかわしながら、桂は万斉の弦を棒状のものに巻き付けた。
「くらえ」
 小刀の柄ではじくように返す。万斉めがけて飛んでいくそれは、彼の弦さばきで遠くにはじかれた。だがそれは囮だ。
 弦を封じた瞬間、桂は渾身の力で爆薬を投じた。大きさがまばらで小さいものを二十ほど。必然的にかわさざるを得なくなった万斉の着地点に時間差でもう一つ。
 これが精一杯だった。
 その精一杯を万斉はかわせなかった。
 爆発。
 いったいいつから自分は爆弾使いになったのだろうなと、桂は自嘲するような笑みを浮かべた。
 だが、笑みはすぐに消えた。
 爆煙の中からこちらに向かって地を這うように光が走る。動体視力がよくても、かわせなければ意味がない。横に動いたものの、それは動きを変えて桂を追いかけてくる。
「簡単に、やられるわけにもゆかぬ」
 万斉の声が聞こえたと同時、足にからみついた弦が桂を転ばせた。
「ぐあッ」
 したたかに打ち付けた身体が痛みを一斉に訴えた。転ばせてくれた男が、ゆっくりと歩いてくる。身体を引きずるようにしながら。さすがにこの男といえど無事とはいかなかったのだ。
 大した男だと、感心したくなる。だからといって素直にやられるわけにいかないのはこちらも同様。
 桂は一つの球体を取り出し、万斉の前に掲げた。足を止めたその男に向かって、笑う。
「……では、共に逝くのは、どうだ?」


257:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:12:03.17 gyb6Z9kd0
今までで一番大きな閃光、ついで爆発音が頭まで響き、すぐさま煙で視界が埋め尽くされた。
 銀時は驚いて桂たちが争っていた方を向いた。高杉とは距離をおいていたのでひとまず存在を無視してもいい。
「まさか……」
 今のが桂の言っていた高性能爆弾というやつなのか。煙が立ちこめ、何も見えない。
 高杉が動く足音が聞こえ、思わず構えたが足音は別の方向に向かっていた。
 どこへいったかと訝しんだのも一瞬だった。思わず叫ぶ。
「逃げろ! 高杉がいったぞ!」
 叫びながらとにかく近づこうとした彼の方に何かが転がってくる。それがピンの抜かれた手榴弾だと気づく前に、銀時の身体は動いていた。
 大きく後退して危ういところをかわす。突風でさらに数歩さがった。
 おかげで視界がよくなった。先の爆発の煙が薄れ、収まっていく。あちこちで火の手が上がっているのがわかった。そして、彼がまっすぐ見ている先、真っ正面に人がいた。
 いつの間にか距離がだいぶ離れている。銀時のすぐ後方には、玄関の大扉があった。広間の中央、天井からぶらさがったシャンデリアが今にも落ちそうに揺れている。
 その下に、三人がいた。
「どうする銀時」
 魔王が言う。足下に倒れているのはしとめられてしまった魔王の配下。そしてその腕の中には。
「う……ぐ」
 首を魔王の左腕で固められた長髪の姫君が苦しげにうめく。
 自分が勇者のような気すらしてくる。それにしては姫君の扱いが乱暴すぎるようだが。
 煙が完全に落ち着いてきたところで、ようやく銀時は気づいた。先ほどの爆発はただの目くらましだったということに。だから揺れがこなかったのだ。そしていち早く気づいた高杉に先手を打たれた。
 舌打ちする。
「お前だけ逃げるっつー手もあるぜ。てめーのすぐ後ろが出口だ。俺もこいつを抱えていちゃ止められねぇからな」
 歯がみする。そんなまねが、できるものか。おいて逃げることなど絶対にできない。もう二度と。
 どうすれば切り抜けられるかを必死に模索する銀時の前で姫君はうなるように声を上げた。
「いけ……銀、時」
 かぶりをふった彼に、桂は不吉な笑顔で言葉を続ける。
「どうせ、俺、は……助からん」
 その言葉に高杉と銀時が驚愕に目を見開き、同時に桂が右裾から何かを自分たちの足下に放った。
「てめぇ!?」
「よせ、桂ァァァ!!」
 二人の叫び声は次の瞬間、爆発の轟音の中にかき消されていた。

258:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:13:16.34 oizBIhD40
気づけば銀時は叩きつけられた扉ごと庭まで吹き飛ばされていた。
 爆発は、先ほどの目くらましの比ではなかった。距離のあった彼でさえこの衝撃。痛みに顔をしかめながら目を開けていくと、煙の向こうに館のシルエットが映った。
 崩れてはいない。おそらく大広間の中で爆発しただけだろう。あのシャンデリアは粉々になっただろうか。破片がいくつか自分の近くに落ちているらしかった。火災の明かりでガラスが反射している。
 ふざけんじゃねーぞ、桂。
 お前をこんなところで死なせてたまるか。
 銀時は立ち上がった。杖代わりにしたくとも、持っていた刀はどこかに消えていた。
 かまわず、爆発炎上した館の前で足を引きずりながら銀時は前に進む。爆風で吹き飛ばされたダメージも濃い。だが身体はまだ動く。手も足も。自分の意思一つでどうにでもなる。
 煙が立ち上っているが、それでも炎があちこちで上がっているために視界は悪くない。だがその火災と煙のせいで進みにくいことこの上なかった。むせるような熱気と煙に咳き込みそうになる。
「くそ……」
 館は今にも崩れそうな雰囲気だった。うまく中に入れても二人揃ってお陀仏させられそうだった。
 だからといって引き返せるわけが……
 銀時は、目を見開いた。
 炎の向こうに、人影を見た。
 見間違いかと思い、瞼をこする。頭から垂れてきた血が邪魔だった。
 それは間違いなく人影で、こちらに歩いてくる。敵か味方かも判別できなかったが、銀時はそれにあわせて前に出ようとした。
 だが。
「……!」
 言葉を飲み込んで足を止めた彼の前まで、人影はやってきた。
 僅か数歩の位置で足を止め、その男は担いでいたものを銀時の方に放った。
「うお……っ」
 慌てて放られた人間を抱きとめる。それは貸しておいた着物がひどく汚れて、前に見た時よりもさらに怪我を負っている桂だったが、気を失っているだけで息はある。
 その様子を全く確認せず、桂を救い出した男は門の方へ歩き出した。
 銀時のすぐ横を、やや重い足取りですれ違う。
「おい……」
 が、男は足を止めない。構わずにまっすぐ進む。その歩調は遅く、どこか頼りない。
 銀時は叫んだ。
「待て、高杉!」
背を向けたままの高杉が、ようやく足を止める。そしてどこから取り出したのか、あの状況で破損もしていないらしいキセルをふかした。
 そして振り向いた。ほこりまみれで傷だらけの、そしてつまらなそうな表情で、呟くように言う。
「うるせぇなぁ……」
「なんでこいつを助けた」
 単刀直入に問うが、彼は鼻で笑った。
「……さぁな」
 塀の外側から何か叫ぶような声が聞こえてきた。野次馬たちが騒ぎを聞きつけたのだろうか。すぐにでも逃げ出さないと、警察がやってきてしまう。その前に捜索に出ていた鬼兵隊が駆け付けるだろう。
 だが、まだ動けなかった。
 この男と対峙している間は、動けない。
 だが、ぶった切ってやりたくとも、刀がない上に桂を抱えている。
 高杉はキセルを指で軽く揺らしながら口を開いた。
「気まぐれだ」
「……気まぐれだぁ?」
「こんなところでこんな最期じゃつまらねぇだろ、お互いよォ……」
 いろいろな含みを込めた物言いで高杉は嗤った。相変わらずひどく癪に障る表情で、こいつは笑う。
「それにてめぇらは春雨に狙われてる。もう、長くねーよ」
「知るか。そう簡単にやられやしねぇよ」
「だといいがな……」
 憐れみなど感じさせない表情と声音だった。むしろ何かを愉しんでいるようにも見える。
 何か、というのはこの状況すべてかもしれない。
 唐突に、男は口を開いた。
「せいぜい今のうちに思い出作りでもしておけよ」
「なんだ、そりゃ」
 何言ってやがるこいつ……いや、言葉通りの意味か。どうせこいつは察してやがるわけだし。

259:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:14:25.94 3DOEQD5g0
なぁ、ヅラぁ。

 からかうような声が聞こえた。
 ヅラじゃない、といつものように答えると、そいつは笑った。
 どこかひねくれていて、だが真っ直ぐな眼をして、楽しそうに笑っていた。
 
 意識の混濁から現実に帰れば、同じ男の、さげすむよう憐れむような視線が待っていた。
 やがて、体中が痛みを訴えてくるのがわかった。彼はわずかに身じろぎしたが、戒めが緩むこともない。吊り下げられた腕の感覚が鈍く、しびれているようだった。
 あの変態男の言っていた薬とやらの効果が切れたのだろう。ややはっきりしてきた意識の中で、自分の向かいの壁に背を預けた男が何か言っているのがわかる。
 気づけば、自分とその男しか、この場にはいなくなっていた。
 そういえばこの男は、さきほど何か他の奴らに言っていたような。
「てめぇら、俺が呼ぶまで部屋ぁ出てろ」
 ああ、だからここにいるのは二人だけなのだ。
 何のためだ。
 お前も奴らと同じように、下種な真似でもするのか?
 やぶにらみの視線だけで彼が問うと、高杉は一瞬目を細め、鼻で笑った。
「ズレてやがんな、相変わらず」
 こちらが何を言わずとも、察しがいいのも、相変わらずだった。
 ちょうどいい、こちらは喉がひどく傷んで声が出せないのだから。
「いい月が昇ってるぜ。宴にゃ似つかわしい」
 そんなことを話すために、部下を払ったのか?
 高杉はわかっているだろうに、それに答えない。
「……あんときも、こんな夜だったなァ」
 いつのことだ。
 身体の痛みに、イライラしていることを自覚する。大体、この男の前で奴の部下にえらい目にあわされたのだ。身体が自由なら意地でもつかみかかって首を絞めるなり唾を吐きかけるなりしてやるのだが。
「あの戦争中に、宴開いたろ。言い出したのは辰馬の奴だった」
 思い出した。
 桂は唇を噛んだ。
 あの時のことを、この男は言いたいのだ。
 身体に負った傷が、急に痛みを増したように思えてくる。
「ずいぶん酔っちまって、その場の勢いで俺ァお前を襲っちまった」
 そうだったな。それ以来、貴様のことが余計嫌いになったのだが。
 そんな桂の表情を見て高杉は、可笑しそうに笑っている。
「……ありゃあ手ひどく振られたよなぁ。お前が酒に強かったせいで、痛い目にあわされた」
 別に酒に強かったわけではない。貴様らが勢いで俺の分まで飲んでしまっただけだろうが。だが、貴様がそんなことをまだ覚えていたとはな。
 忌々しい記憶だったが、よくよく思い出せば高杉が何からしくないことを口にしていたような……
 不意に頭痛が襲い掛かり、桂はうめき声をあげた。
 今のこの状態は、考え事をしただけでも負荷がかかるようだ。
「まぁ、今更てめーが誰に手ごめられようと、どうだっていいんだが」
 いつの間にか高杉の声は、ひどく癇に障るものになっている。ひどい頭痛の中で桂は再び視線で問う。
 貴様、何が言いたい。
 高杉は見下ろすように首を傾けた。
「……あいつに知らせてやったらおもしれーだろーな」
 あいつ?
「わかってんだろ、ヅラぁ」
 ……貴様。
「んな顔するなよ……お前があいつのことをどう思ってるか、わかっちまうぜ」
 貴様に何がわかる。
「わかるさ……実際、ずっと前からそうだったんじゃねーか?」
 ……。
「ふん……いい顔しやがる」
 どうして貴様は、こんな男になってしまったのだ。
 妙な間があった。
 高杉がキセルをくわえて離すまでの間だが、彼の雰囲気がどこか変わっている。
「何でだろーな……」
 それが何なのか考える余裕はなかった。ひどく頭が痛み、視界がかすむ。頭痛と身体がきしむ痛みで意識を失わずに済んでいるにすぎない。だがそれも長くは持たないだろう。
 何かまだ、高杉は口を開いているようだったが、耳に入らない。
 言いたいことがあるならはっきり言え。貴様のせいで聞き取ってやれないではないか。いや、聞かなければいいのか。貴様の言葉など、どうせもうお前とは敵対したのだから……


260:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:15:31.09 4IvWGrTZ0
気づけば、夢の中に落ちていた。夢だと自覚する夢は久しぶりじゃないだろうか。
 どこか幼さの残る彼から、はっきりとした声が聞こえてくる。
 高杉は怒りを乗せた顔で、突き放すような口調で、桂とまっすぐ向かいあいながら言うのだ。
 わかってねぇのは、てめーの方だろ。
 ……。
 拒絶したのはそっちだ。
 ……。
 勝手なことを今更言ってんじゃねぇよ。
 それは本心なのか、貴様の。そうだとしたら、俺は。
 だが、声が出せない。
 たとえ弁解しようとしたくても。せめて何かを言ってやりたいと思っても。
 黙って向かい合っていると、高杉の姿がかき消えた。
 どこからか、寂しそうな三味線の音、弦をはじく音色が聞こえてくる。哀しい旋律が、自分の中に染みいってくる。


次に意識が戻ってくると、十名前後の男たちが戻ってきていた。高杉は、また前の位置にいる。薄ら笑いを浮かべて、彼を見ている。
 すべて夢だったか。
 そうだな。お前が俺に情けをかけるとは思えない。
 お前はそういう男なのだ。
 楽しいか、高杉。
 答えろ。
「どうだっていいんだよ、んなこたぁ」
 キセルをふかせて高杉がニヤリと口角をさらに吊り上げた。
「どうだっていいんだよ……」
 その言葉を皮切りに、再び抑え込まれて床に倒れこんだ。体中が抗議の悲鳴をあげて痛み出す。
 彼の眼は語っている。
 ―てめーらのことなんざ知ったこっちゃねーよ。
 もう興味はねーし、必要がなけりゃこっちから手ェ出す気にもならねぇ。
 そっちも充分勝手じゃねーか。そんな奴らにいちいち文句をつけられる理由はねーんだよ―
 ああ。
 何が本当で、何が偽りなのか、わからなくなってきた。
 そしてすぐに、理性が押しやられる。片隅に押しやられた理性の中で、桂は思う。
 自分の意思ではないとわかっていても。
 やはりこれは、厳しい現実だ……


261:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:16:42.13 t9Kjj9wJ0
「おーい……だいじょぶかー」
 覗き込む銀時の口から出たのは気のない言葉だったが、桂のまぶたが動く。
「もしもーし」
 怪我の少なかった肩のあたりに触れて軽く揺さぶってやると、うっすらと目が開いていった。
「おお、目を覚ましたアル!」
 隣の神楽がしゃがみ込んで覗きながら笑う。桂の視線が二人を行き来した。
「だーから大丈夫だっつったろ。とりあえず水持って来い」
「わかったアル!」
 神楽が素早く移動すると、しばらくぼんやりしていた桂が目を見開いた。
 その勢いのまま身体を起こそうと動きかけ、止まる。
「う……ッ!」
「やると思った。とりあえずまだ横になっとけ」
 銀時の言葉に、彼は素直に従った。
「……俺は、どうしてここに」
「俺が連れてきたから」
「いや、そうではなくて」
「生きてたから拾ってきてやったんだよ。何? なんか文句ある?」
 半眼ですこし怒ったように言ってやると、彼は瞬きした。
「……いや、ない」
 神楽がお盆を手に戻ってきた。盆の上には縦長のコップに入った水が用意されている。
「ヅラぁ、お水アルよ! ちゃんと飲まないとだめネ」
「ああ、すまぬなリーダー」
 桂は軽く笑うとゆっくりと身体を起こした。途中でなんどか顔をしかめたのは、やはり身体のあちこちが痛んだからだろう。どうにか上半身を起こした桂に、神楽はコップを手渡した。
 やや窺うような視線で彼女は水を飲む桂を見つめる。彼は飲み終えると首をかしげて神楽に口を開こうとした。
 が、神楽が神妙な顔つきで先に言った。
「お前今うなされてたアル。大丈夫か」
 桂は一瞬妙な間を見せたが、すぐにうなずいた。
「……心配をかけたようだ。だが、おそらく寝ている間に少し傷が痛んだのだろう。大丈夫だ」
「そうアルか」
 ちょっとだけ安心したような控え目な笑みを神楽が浮かべる。そして彼女は「じゃあまたテレビ見てるヨ」とその場を離れた。
「銀時……」
「あん?」
 桂の声は、さきほどの神楽の微笑に負けず劣らず控え目な声音だった。
「リーダーに、俺のことは」
「……ボコボコにされたとしか言ってねぇよ。紅桜の一件の時も、お前が捕まってるかもしれねーと分かったとたん真っ先にあいつらのところに飛び込んで行った奴だぜ。純粋に心配してくれてんだよ。ありがたく思え」
 そう言ってから失敗したと銀時は思った。自分はこいつがどんな目にあったか大体察してると再確認させたようなものである。なんでもっとこう、頭が働かないのかと思わず自分を責める。
「……そうか」
 沈んだ声音に、銀時は内心うめいた。
「ただいまー」
 その時、新八が大きな声を上げながら帰宅を告げた。玄関の閉まる音がして、ややあってからひょっこりと二人のいる部屋に入ってくる。
「おぅ、お帰り」
「あ、桂さん目を覚ましたんですね。今ちょうどエリザベスに連絡をつけてきたんですよ」
 新八はエリザベスとのやりとりを手短に桂に伝えた。要約すると、鬼兵隊捜索のため警察が各所で網を張っているために桂にはしばらく万屋で療養してほしいということ、その間万屋に護衛を頼みたいということだった。
「というわけなので、ゆっくりしていってください。エリザベスたちと連絡を取りたいときは、僕に言ってくれればいいですよ」
「そうか……ではすまぬが世話になる」
「その代わり報酬はお願いしますよ。いやーもう渡りに船です。これでここの家賃を久しぶりに溜めずに済みそうですね、銀さん」
 新八が屈託なく笑う。こういうときのこいつの明るさは救いだな、などと銀時はぼんやり考えた。
 ……俺は何してんだろ。
 神楽が隣室に引っ込み、テレビを見ている音がする。新八は立ち上がって部屋を出て行った。おそらく神楽とテレビでも見始めるだろうか。
 そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴らされた。


262:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:17:50.37 afpYtQZP0
「はーい、今行きますよー」
 玄関の方に新八が返事を返しながら走っていく。
 数秒後。
「ひ、土方さんんん!?」
「げ」
 銀時は思わず半眼で壁の向こうから聞こえた新八の叫び声にうめいた。
「あんだよ、何をそんなに驚いてやがる。俺が来ちゃ悪いってのか?」
 玄関口から届くまぎれもない土方の声に銀時は「悪いよ、ヤなタイミングだよ」とつぶやいた。
新八が「いや、まさかそんな……」と応える声が聞こえてきた。そして神楽もそっちに行ったらしい。さっきよりも軽いドタバタという音がした。
「あー! 何しに来たアルか!? ここに来るときは酢昆布一年分持って来いって言ったアル!」
 よし、いいぞ神楽! そのまま追い出せ!
 ところが、土方の落ち着いた声。
「あぁ、少ねーが、とりあえずこんだけ買ってきたぜ」
「新八、何してるネ!? お客様を早くお通しするアル! さっさと粗茶出すアル!」
 何やってんですか神楽ちゃん! おめ、まさか、土産に目がくらんでこっちに桂がいるってこと忘れてんじゃねーの!?
 がさがさとビニールをあさる音が聞こえ、「んじゃ上がらしてもらうわ」という土方の声と足音が聞こえてくる。
 こうなりゃおめーが頼りだ新八! なんとかしやがれ!
 心の中で銀時が叫びまくる。
 後から振り返ってみれば、このとき彼は、自分が出て行って土方を押しとどめることを思いつけないほど焦っていた。
「……出て行かなくてはなるまい」
 その声に銀時が振り向くと、桂が身体を起こして顔をしかめていた。布団に倒れ伏すほどまだ傷が痛む上、寝込んでいたこの男に奴らから逃げられる体力があるわけもない。
「いや、こっちの部屋までははいってこねーよ。いいから横になっとけ」
「だめだ、お前たちにもう迷惑をかけるわけにはいかない」
「二日もまともに目ぇ覚ませなかった奴が、何言ってやがる。第一今逃げたらすぐバレちまうだろ」
 押しとどめるように手を伸ばして両肩をつかむと、桂の身体が一瞬震えて銀時の腕を凝視する。
「……っ!」
 何か思い出したのか、その瞳に恐怖の色が映ったように見えた。
思わず手を離し、言い繕う。
「わっ、悪ぃ。……怪我ァ痛んだか」
「……いや、大事ない」
 非常に気まずい空気が流れた。
 が、実際それどころではなかった。
「おい、白髪頭はいねーのか?」
 土方の声は、隣の部屋から聞こえた。
 え、新八くん何してんの? 止めてくれたんじゃないの!?
「え、ええ。それがちょっと……」
「銀ひゃんに用アルか?」
 神楽が明らかに口にものを含んだ状態でしゃべっている。
 物を食べながらしゃべるんじゃありません! てかそれどころじゃねーし! なんとかそいつを追い出せっつーんだよ!
「銀ひゃんならほっひで―」
「だめだよ神楽ちゃんん!!」
 新八が神楽のくちを押さえたらしい。もごもごというこえが聞こえてきた。気づけば桂から異様な緊張感がただよってきている。
 いやそりゃ敵対勢力だし自分を追ってる男だもんね? わかる、わかるよヅラ。
 でも今そんな気配出してたら逆にバレちゃうからね?
「なんだ、何かあったのか?」
 どこかまだ気安さを感じる土方の声音だが、さすがに何かをいぶかしむ感情も含まれていた。
「い、今銀さん寝てるんです……そ、そっとしておいてもらえませんか?」
 新八の声は、若干たどたどしい。だがいいこと言った。それで押し通してくれ。
 そう思ったが。
「どういうこった」
 ああああ。やっぱり疑ってかかってきたよ多串君。おっかげでヅラがなんかじりじり動き始めちゃったんですけど! え、こいつ爆弾とかもう持ってないよね。
 焦る銀時をよそに、新八がゆっくりとあとを続けた。
「……すみません、その……」
「銀ちゃん、大怪我して今も寝込んでるアルよ」
 神楽があっさりと嘘をついた。
「なにぃ?」
「だからしばらくそっとしておいてほしいネ。話あるなら、私たちが聞くアル」
「いや、大怪我って、何があったんだよ?」
「神楽ちゃん!」

263:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:19:09.98 ycb7DpBC0
咎めるような新八だが、神楽は気にした様子もない。
「なんか、二日前に爆発事件に巻き込まれて、ドジ踏んだって言ってたアル。……でも、詳しいこと何も私たちに話してくれないアル」
「神楽ちゃん……」
「新八、こういうときはウソついてもしかたないネ。ちゃんと本当のことを言えば、トッシーもわかってくれるヨ」
 神楽が言っている内容は、実際のところ本当半分嘘半分である。あとは桂についてまったく口にしないだけであるが。
 新八と神楽に対し、銀時は高杉がらみの詳しい話を一切していなかった。ただ桂が捕らえられていたこと、それをどうにか助けてきたこと、おかげで散々な目にあったことだけ伝えてある。
 高杉とは二人とも面識があったが、奴らについての言及はしてこなかった。一人で巻き込まれるから怪我なんかするんだと、逆に説教をくらっただけで。
 誰かがため息をついたような音が聞こえた。おそらく土方だろう。
「前に来た時に言った屋敷が爆発騒ぎを起こしちまってな。鬼兵隊がらみらしいとようやく調べがついたんで、何か知ってるかと思ったんだが、案の定か……」
 まさかそのままこちらに乗り込んでは来やがらねーだろうな。妙に手に汗握る展開じゃねーか。
 向こうの部屋でも、新八たちが緊張しているような気配が伝わってくる。
「……んで、今はまだ寝込んでるって?」
「あ、はい……」
 再び、ため息の声が聞こえた。
「まぁいいか」
「え?」
「そっちで寝てる男に、あとで伝えといてくれ。『今度詳しい話を聞かせろ』ってよ」
「土方さん」
「どうせ今更焦ったところで鬼兵隊はしっぽも見せやしねー。万屋がある程度回復したら参考程度に聞きに来るからよ……見舞いの品でも持ってな」
 何か察してくれたらしい。おそらく、新八や神楽にも詳しいことを話していないということで。
 あの動乱で、土方も仲間と敵対するはめになった。割り切っているように見えて、いろいろ思うところがあったのかもしれない。
(まぁ、こっちはもう仲間云々の関係は一切ねーんだけどな、あの野郎とは)
 するとすぐに廊下のきしむ足音が聞こえてきた。
 とにもかくにも、土方が遠ざかったことに感謝する。
 壁の向こうはいつのまにか、こちらと完全に隔てられたように明るい雰囲気になっていた。
「見舞いに、こないだ新発売された新味覚のマヨネーズを……」
「それキモいアル。ぜったい銀ちゃんと喧嘩になるヨ」
「いや、こんどのはすげーんだよ。カロリー少なめで……ほらCMやってる」
 ぶつん、とテレビが切られたらしい音がした。神楽だろう。万事屋のチャンネル選択権は基本的に神楽のものだ。
「あれ、神楽ちゃんどこいくの?」
「せっかくいい天気だから定春の散歩いくアル。定春~散歩いくヨ~!」
 元気のいい返事が聞こえ、どてどてという音が遠ざかっていく。
「おら、ダメガネ。おめーもさっさと来いヨ」
「ちょっと待って。銀さんに書き置き残して行かないと」
 何やら紙に書き付けるような音が聞こえてくる。ついでやや遠くの方から土方の声が聞こえた。
「なんだお前ら、あいつを放っといていいのか?」
「いいアル。どうせ放置しても動けないから何もできないし、ジャンプ買ってきて恩を売る方がいいネ」
「そうそう、大丈夫ですよ。どーせ寝てればいいだけなんですから。……よし、じゃあ行こっか、神楽ちゃん」
 何やら気を使い始めたようにも感じられる二人の言動に、銀時は少し妙な気がしたものの、とりあえず感謝だけはした。
 そのあとも何やら話し声が聞こえたが、それも遠ざかり、玄関を閉める音が聞こえた。
 彼らの部屋以外、人の気配が完全になくなった。
 それに安心したとたん、身体の力が抜けていった。寝床の桂も、さすがに表情は晴れないものの、緊張は解いている。
「あーよかった。また騒ぎになるとこだった」
 思わずへらへらと笑った彼に、桂が拳を握り締めて口を開いた。
「……すまんな、銀時」
「へ? 何が」
 唐突な言葉に銀時が戸惑う。
「考えてみれば、お前は奴らともうまくやっていたのだった」
「え、いや別にそういうわけじゃ」
 腐れ縁というか、たまに依頼してくるとかつっかかってくるだけどいうか。
「俺のせいでお前を巻き込んだ上に、こんなことになるとは……」
「え」
 いやそれ違うから。別にお前のせいじゃねーし。
 ……あれ? でも元を正せば大串君からそういう話を聞いてちょっと行ってみようって思ったんだっけ? だからといってヅラのせいってわけじゃ。
「あー、それ違うから。別にあいつらとは」
「……」

264:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:22:10.18 nfxxEBif0
 銀時の言葉を聞いているのかいないのか、思った以上に深刻な表情で桂がうつむいている。
そもそも桂は、真撰組との関係を危惧してこんなことに、と口にしたわけではないだろう。銀時が怪我を負ったことや、自分をかくまっていることなども含めたすべてが気にかかっているのだ。
 まずい。
 これじゃ土方が来訪してるときとかの方がましだったんじゃないだろうか。
 ……あれ、これはデジャヴか?
 考えてもみれば、二人きりの状況はあの部屋でつながれていた時と大して変わらない。心情的には何一つ解決せず、わだかまりが残ったまま。気まずさが胃を締め付けてくる気がする。
 その時の状況を思い出したせいで、いつの間にか銀時は逆に緊張し始めていた。
『見てたんだよ、仕舞いまで全部』
 高杉は、嗤ってそう口にした。
 何を。
 何をされた。
 それも、あいつの前で。
 銀時はうつむき加減の彼を見つめながらかけるべき言葉を探した。彼の落ち込み方が尋常でないのは、よほど精神的に苦しめられたからではないのだろうか。薄ら寒くなるような、
吐き気のするようなことを、あいつらに。
思い出したくはなかったが、断片的に聞いた言葉だけでも想像を絶していた。
 狂乱の宴だと? ふざけるな。酒をかっくらって歌って踊ってどんちゃん騒ぎをするのが宴なんだよ。あー。やっぱりあの能面の変態は叩っ切っちまえばよかった。大体、三日三晩だって? がんばりすぎだろう、いくら何でも無理だ。嘘だろ、それは。
 だが、彼の消耗具合からすると考えられないことではなかった。戒められていた手足の傷もひどかった。よほど長い間戒められていなければ、あんなことにはなるまいとわかる。
 わかってしまうのも、嫌だった。
「……気にするこたぁねーよ」
 それは自分に言い聞かせたい言葉だった。
 桂が顔をあげて銀時を見る。表情こそいつも通りだが、どこか背筋に妙なものを走らせる、不安そうなまなざしだった。
 ……そんな目で見るなよ。
「偶然が重なって奴らに捕まっちまっただけだしよ。おめーが先に捕まってるなんて思ってもみなかったし」
「……そうか」
 その声も暗い。
そして再びうつむく。普段の桂を知っているだけに、この状態はあまりにもらしくなさ過ぎた。
 いつもなら茶化して口論に持ち込めるかもしれないが、今回ばかりは無理だった。神妙すぎるこの男の姿が、ひどく痛々しくい。
 それに桂が深夜に何度もうめき声をあげていたことを、銀時は知っている。おそらく悪夢を見ていたのだろう。金縛りにあったように震えていたかと思えば歯を食いしばって何かに耐えようとしていることもあった。大声で叫び出すこともあった。
 どうすればいい。
 なんて言ってやればいい。かけるべき言葉が見つからない。自分の中でもやもやしたものが渦巻いて、うまく対応しきれない。
 桂も何も言わず、ひたすら自分の手もとを見下ろしている。無言の圧力。が、おそらく桂も何かを悩んでいるのだろう。でなければこんなにも重苦しい雰囲気にはなるまい。
 沈黙は五分間ほど続いた。
 その場の雰囲気に耐えかねて彼は立ち上がった。桂がそれに合わせて顔を上げる。
 それを見下ろしながら笑いかけ、銀時は口を開いた。
「俺腹減ったから飯食ってくるわ。お前はまた休んどけ。大串くんも、今日はもうぜってー来ねぇからよ」
 それだけ口にするので限界だった。気づけば顔をそむけるように彼に背中を向けている。情けないと自覚しつつ、銀時はその場を離れようと動きかけた。
 だが、身体が止まった。
 驚いて振り向くと、桂が銀時の寝巻きの裾をつかんでいた。
 泣き出しそうな顔で。
「え?」
「あ……」
 しかし彼はすぐさま我に返り、あわてて顔をそむけて手を離した。
「いや、すまん。なんでも、ない……」
 言葉の内容とは裏腹に、彼のそむけた横顔や言葉が震えていた。いつもは無表情気味の顔も、ほとんど取り繕えていない。
 何より、さっき一瞬だけ見せた表情はひどく印象的だった。あれが本当にこいつの表情で、しかも自分に向けられたものなのかと戸惑うほどに。
 まるで、銀時にすがりたいと言わんばかりの表情で……


265:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:22:54.88 QoLuT+n50
銀時が思いを巡らせていると、寝床の男はようやく彼の方を向いた。また、平静を装ったらしい。
「お前の言葉に甘えさせてもらおう」
 は? どの言葉だって?
 俺、お前を甘やかすようなことを言ったか?
「……どうした?」
 平気そうな顔をしやがって。あんな顔を見せたくせに、何をいまさら取り繕ってやがる。
「腹が減ったのだろう、俺のことは気にせずとも大丈夫だ」
 そうやって無理をするんだよな、てめぇは。
 そう、そういうやつだ。こいつはいつも顔に出さない。だが、出さないようにしている時もある。
 わかってんだよ、くそ真面目な馬鹿が。
「……? 銀時?」
 無言でただじっと見下ろす彼を疑問に思ったらしい。桂が首をかしげながらつぶやくように尋ねた。
「どうしたのだ。傷が痛みでもしたか」


266:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:24:07.88 flozJloz0
気がつけば、目の前に顔がある。触れるか触れないか、そんな距離に。

 驚いて自分を見つめ返す相手の瞳に、どこか怒ったような自分が映っていた。
 怒っているとも。
 今までにないほど、この相手に怒りを感じている。
「……ん……とき……?」
 唇を震わせ、かすれたような言葉が彼の耳に届く。逆に、まだ澄ました面構えを取り繕おうとしているこいつが、憎たらしく思えてきた。
 左腕で抱き寄せた身体の外で、彼の腕をはずそうと申し訳程度に桂の右手が添えられている。思わず引き離そうと伸ばしてきた左腕は、銀時の右手にからめとられた。
 桂の身体は震えている。それでも表情は驚愕の領域を抜けない。瞳の色に不安と恐怖が宿っても、表情が崩れない。ギリギリのところで何かを保っている。
 それがお前の強さだとでも言うのか。
 見せちまえよ、あいつの前で散々さらしたんだろう。
 弱いお前をさらしたんだろう? 変な薬を使われたんだか知らないが、あの野郎はお前が乱れる姿を知り尽くしたんだろ。この男のあえぐ姿はどれだけなまめかしいか。
泣き叫ぶ姿がどれほど哀れか。人斬りのヘッドホンから聞こえた声は、哀願する声だった。そんな声で、お前は、あの男にもすがったんじゃないのか? あの男に犯されながら、泣いたんじゃないのか。
 ああ畜生。どうして俺はあの男をぶった斬ってやれなかったんだ。
 今更ながら悔やむ。薄汚い嫉妬だろうともうしったことか。
 だから、曝してくれ。いや、曝せ。
 今ここで。
「お前、いったいあいつらに何されたの」
「……っ」
 目の前の表情が変わる。
 思わず桂の瞳に映る自分が笑った。さすがに、これはお前でもかわしきれない攻撃らしいな。
 まさか聞かれるとは思っていなかったのだろう。
「な……なん……っ?」
 おびえた眼差しが逆に嗜虐心をもろに煽ってくる。困惑を隠せずに狼狽する姿が弱々しく、しおらしい。
 ああ、わかった気がする。わかっちゃいけないんだろうが、お前が三日三晩も可愛がられた理由がわかるように思う。
「それ……は、ん……」
顔をそらされた。だが、即座に桂の左手をつかんでいる右手の人差し指だけで顔を真正面に向けさせてやる。
 そんなことをされると思わなかったに違いない。あっさりと首が向き直り、どこかおびえたような顔が彼と向き合う。
「な、話してみ? そしたらよ、けっこう、楽になると思うぜ」
 嘘がするりと口をついて出ていった。楽になる? 誰が楽になるって?
 泥沼にどちらもはまりこむだけじゃないのか。
 だが。
「嫌だ……」
 思わず銀時が驚くほど素直な言葉が返ってきた。桂の身体が震えている。先ほどより、震えは激しくなってきた。
 だがそれだけで許してやれるほど、甘くない。彼の理性はその感情に、はるか及ばない。
「話してくれよ……なぁ」
 追い詰めるように彼は言う。心の中では笑っているかもしれないが、表情はもうなくなっていた。
 いつのまにか桂と同じように表面を取り繕い始めたのか……
「待て、銀時。それは、お、お前が聞くようなことではない……!」
 桂が慌てて顔を背け直した。今度は銀時も止めなかった。そのままで許してやった。
 そして、まったくもって彼の言うとおりだった。むしろ銀時の立場は目をつむってやらなければならないものである。わかっていても聞かない、そんな優しさを示すべきなのに。
「お前に、き、聞かせても……嫌な話になるだけだ……」
 もっとはっきり言えばいい。自分がやつらにされた最大級の屈辱を思い出して誰かに伝えることなどできないと。自分が男たちに輪姦された話など、このんでする奴はいないからな。
 中途半端な言い訳だな、と銀時は思う。中途半端に俺に対しての義理を感じさせるから。
「聞かせてくれよ……」
「な、なん、……?」
 だから付け込まれるんだっつーの。
「んなもんよぉ……」
 体重をかけるように、彼はすぐさま桂を押し倒した。


267:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:25:18.06 6NFWfega0
「俺が知りたいからに決まってんだろ……!」
「う、ぁ……っ!」
 傷が痛んだのだろう。苦しげに顔をゆがめて桂が叫んだ。
 苦痛にゆがむ顔すら憎いほど愛おしい。
 まずいな、と思う。自制がもうきかない。このまま、したいようにしてしまおうかとも考えてしまう。だが高杉の奴に何をされたのか、あの変態に何をされたのかわからないままでは、意味がない。
 耳元に唇を近づけ、銀時はゆっくりと嬲るように囁く。
「なぁ、何されたのほんと」
「や、やめ、……俺は、俺はっ!」
 桂から理性がはぎとられていくのがよくわかる。もう言葉が言葉になっていない。それじゃわからない。理性をなくしても、説明はしてもらはないと。
 両手を押さえたまま、唇を耳元から下に移し、首筋に口づける。
「なっ……あ!?」
 桂が動こうと、逃れようとするが、銀時が半ば身体ごと乗っているためにほとんど意味をなさない。
 唇を這わせながら彼は質問を続ける。
「最初から変な薬使われたの? それで、それからどうされたの?」
「ぎ、ぎんっ……っ」
「話してくれよ……なぁ……?」
「う……く」
 手のひらを鎖骨の辺りにあてがい、そのまま着物の中にゆっくりと這わせると、喉元をのけぞらせ、桂が眼尻に涙を浮かべた。まるで彼はこらえるような表情で、顔をそらす。
包帯の巻かれていない部分は、白いなめらかな肌がさらされていた。思わず撫でていくと予想以上に触れ心地がよかった。本当にこいつが自分と同じ男とは思えない。指を這わせ続けると、苦しげなうめき声が押し殺すように彼の唇からもれた。
 ああ、そうか。こんなこともされたんだな。
 少しだけ、罪悪感がわき起こった。
 荒い呼吸に変わった彼の様子を見ていると、行為を続けたい自分の他にちゃんと慰めたいと思う自分がいることに気づく。後者が頭の中でつぶやく。
『こんなことやってたら、お前もあいつらと同じじゃねぇか』
「どうし、て……、こん、な」
 震える桂のことばが、頭の中の罪悪感と一緒に自分を責める。
 ああそうだな畜生。そうなんだよな。
 だから逆に、奴らに何をされたのか知りたいとすら思っちまった。
『もうやめろよ。取り返しがつかなくなっちまう前に』
 その通りだな。ここまでして、ようやくそう思った。
やめてくれと、はっきり口にすることがなぜかできなかった。
 彼の脳裏には昔拒んだ男の顔がちらついていた。
 だが、今の銀時とあいつの違いは、怒気をはらんだ表情くらいだろうか。
 すがるような目をしている。そのくせ、どこかで俺を突き放している。それを理解していない。
 俺に何を求めるのだ、お前は。何も与えてなどやれないのに。
 何も、今の俺には何も……
 だが気づけば、自分を抑え込んでいるのは、知らない顔だった。
 そして抑え込んでいる人間は、一人ではなかった。
「な……っ」
 声をあげようとしたとたん口をふさがれた。何か詰め込まれたのだと気づいた時には、体中に奇妙な感覚がある。はいずりまわる、腕が見える。太い腕が、節くれだった大きな手が、指が彼の身体を蹂躙する。
「ぁ……ぐ」
 おぞけが走ると共に、鋭敏になった感覚が脳髄をしびれさせる。感情で怒っても嘆いても憤ろうとも、感覚だけはまるで異なったものを伝えてしまう。
 飲まされた奇妙な薬のせいだとわかっていても、こらえきれない。屈辱で覆い尽くされ、感情が焼かれていく。
「いい様だ……」
 キセルをふかした男が、彼をあざ笑う。
 いつから、そこに。
 見るな。見るな。見るな。
 俺を見るな。
「ん……ぅ、ぁ……っ」
 身体中がきしむ。全身の感覚がおかしくなっている。べたべたとした手のひらで愛撫されて、気持ちが悪いのに頭の中が違う感覚を伝えてくる。
 ちがう、そうじゃない、そうじゃないんだ。
 身体の中に何かがいる。うごめく。何かを吐き出す。
 それは何度も繰り返された行為にすぎない。
 気持ちが悪い。
 気持ちが悪い。
 だが、かき乱される感覚が、自分の体に強制的な絶頂を命じる。
 気持ちが悪い。
 やめろ、はなせ、いやだ。
 あいつが、あの男が見ているのに。

268:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:26:41.02 M9KRo+4H0
巻末コメきたの?

269:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:26:40.68 Wd6Nojrp0
男たちが、俺を見下ろして笑っているのに。
 何一つ思いのままにならない。
 やめてくれ。
 いつの間にか泣いていた。
 もうやめてくれ。
 いつの間にか、壊れていた。
 もう、許してくれ。
 いつの間にか、口が、唇が動くように解放されていた。
 ……助けだけは、求めなかった。

 どうしても口惜しくなるようなぬくもりと、男にはあるまじき柔らかく心地よい感触。それでも決心し、銀時は抱きしめていた彼を放そうとした。
 が、次の瞬間、桂が叫んだ。
「…う、ああ、ああああああああッッッ!!」
 叫ぶと同時にがむしゃらに暴れ出す。
「ッ!? おい、桂!?」
 怪我をした両腕を振り回し、銀時を引きはがそうとする。
「放せ、放せ……放せェェェ!!」
 顔を何度か殴られたが、銀時は桂の両手を押さえることに成功した。腰の入った拳ではないので、大したダメージはない。だが、歯をくいしばって桂は抵抗を続けている。
 見開いたその双眸から、大粒の涙がほほをつたってこぼれおちる。
「嫌だッ、い、やだあああ!!」
「落ち着け!」
 さすがにこれはまずいと悟った。反応を見る限り、彼は完全に錯乱している。銀時がおそらく敵に見えている。あるいは高杉か? いや、そんなことを気にしている場合か。
 拒絶するべき対象を睨みながら、それでも彼は涙をこぼし続ける。
「俺、に、触るなッ! さわ……るなっ」
 まごうことのない敵意だったが、その涙の方が銀時の胸を打った。
「大丈夫だ、桂ッ! 誰も何もしない!」
 それまでの自分を棚に上げた物言いだったが、ほかに言うべき言葉が見つからなかった。
 桂はしばらくの間、両腕に力を込めたまま全身で荒い呼吸を繰り返していた。唸り声をあげて、まるで警戒する手負いの獣のように。
「少しでいい、呼吸、押さえろ」
 その間に、銀時の方がようやく落ち着いた。
「ゆっくりにすんだ。吸って、吐いて、そう」
 ただ言い聞かせただけなのだが、彼の呼吸音が収まっていくのがわかった。どうしてそうなったのかはわからない。抑え込む力を弱めながら、最後にはそっと手放した。放しても、もう平気だった。
 やがて、桂が呆然とした表情で彼を見上げるまでにおさまった。
「あ……ぁ」
 だが、彼の表情がゆがんでいく。
「桂……?」
「……たく、ない……」
 ガチガチと歯の根が合わない声でぎりぎりそれだけを言うと、桂は自分から彼に腕を伸ばし、頭を抱え込むように抱き寄せた。驚く銀時の横から、嗚咽が聞こえてくる。
「やめ、て、……も……もう嫌、だ……」
「……かつ、ら」
「お前まで、そんな風に……そんな顔で、俺を、おれ、を……」
 桂の涙が彼のほほまでも濡らしていくのがわかった
「見ないでくれ……頼む……もう……」
 震えが止まらない。しがみついたまま、ただ震えている。傷んでいる両手に力をこめて、必死にしがみついて彼は哀願する。
 相反してか細い声が、銀時の耳に届いた。
「も……う……ゆるし……」
「……すまん」
 そっと彼の顔を、頭をなでながら、銀時は静かにくりかえす。
「悪かった……」
 俺が悪かった。
 結局、何がわかったというわけではない。むしろただ不安をあおられただけだった。
 それでも、彼が自分にすがってくれたことに安堵した。
 そんな自分に、ひどく嫌悪もする。
 泣きじゃくる彼の身体をいつまでも抱きしめながら、銀時は謝り続けた。

270:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:27:42.70 DaGfzVU80
別にもう興味は持っていない。少なくとも、あの時のような感情は持ち合わせていない。
 ただ感傷的になると、もう一度戻れないものかと考えている自分がいる。
 だがそれは、あの頃に帰りたいわけではなかった。
 信念に基づいて、手を取り合い、肩を並べて、肩を組んで笑いあったあの頃。
 目的は同じでも、すでに別の方向を向き合っていた。白髪頭のようにうすうす察してもなおそれを気にしないでいられたら、土佐の楽天家のような突飛な発想と、決断力や行動力を持っていたら。
 あいつらとどこかすれ違っていることが嫌で、それを埋めたいと思っていた。
 そんなことはできないと、幼なじみに拒絶されて初めて理解した。
 そんなことで傷ついていた自分を、今では鼻で笑ってやれる。
 どうだっていい、その一言に尽きる。
 正直、昔の自分にはあきれるほど純粋なところがあった。それこそ今のあいつのような、自分の信念に殉ずるかのような。
 今は、自分の信念に興じられる。
 てめーらのことは嫌いじゃねぇよ。だが、関心も、もうほとんどないんでな。
 そう、今の奴らには関心はない。目の前にいても、昔のことを思い出すだけ。
 先生のことを思い出すだけ。そのことで、急に奴らが憎たらしくなるだけ。
 どうしてこんなことになってしまったのかと、桂は彼に問うた。
 彼の答えは一つ。
 お互い、行き着くべき場所に、行き着いただけだろうよ。


 三味線の弦をはじく。

 この世にゃおもしろいことなんざたいしてありやしねぇ。
 だったら、どうやっておもしろくしてやるかじゃねぇか?

 その問いは、夜の闇に響く音色に乗り、風の中に消えていった。


271:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:31:33.12 K0BBz5810
>>268
まだかな
このスレにはきてない

272:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:31:45.54 k/K4qjkt0
久しぶりに見た顔はどこかぎこちないようで、こちらとしては自嘲気味に笑うしかなかった。
 といっても表情には出ないのが桂の桂たるゆえんなのだが。
「怪我はもういいのかよ」
 相変わらずぶっきらぼうな物言いで白髪の男は彼を見下ろしている。
 坊さんの格好で胡坐をかいている彼は、気にせず答えた。
「大事ない。右腕のしびれも取れた。芋侍どもに追われようと逃げきれる程度には回復したさ」
「ま、それならいいけど。一応気ィつけておけよ」
「ああ……」
 返答を受け、銀時が身をひるがえす。視界の端にそれをとらえながら、彼は小さく息を吐いた。
「ままならんな……どうも」
 あの日以来、あいつとはどこか距離が遠く感じられる。

 桂の万事屋滞在は結局一週間だけだった。先日からもう真選組も警戒網を解いてしまっているため、さほど警戒する必要がなくなったからだった。
 桂の滞在中、珍しく他人の世話を焼く神楽の姿が微笑ましかった。そういえば、いつから神楽はリーダーと呼ばれるようになったのだったろうか。
 たまに妙な話をしてはけが人なのにツッコミを受ける桂の姿を見た。まぁあいつ、あれで一応頭に怪我はしてないからな……。
 何にしても、あの二人、どっちもよく電波とんでるし頭がそろそろ変えどきなところがあるから、通じるところがあるんだろう。
 ぼんやりと考えてから、家路につく銀時は深々とため息をついた。
 あー、気まずい。
 大体散歩とか言って出てきて、結局あいつの様子見にきただけどかって、俺のキャラじゃなくね?
だが、そんなことも言っていられなかった。気持ちを自覚している以上、自分に言い訳して取り繕う必要はない。
 唯一救われたのが、あの時を境に桂がうなされなくなった点である。それについては銀時が一番驚いていた。むしろよけいひどくなるのではないかと心配していたこともあったし、下手をすればどうなっていたかわからなかったのだし。
 トラウマだか悪夢だか、本当にそれらを克服できたのならばいい。だがおそらくそれはないだろうと思う。
 おかげで手が出せなくなった。あの時以来、銀時はなんだかんだで彼に触れることは一切なかった。いや、できなかったが正しい。
 余計なことをするんじゃなかったと、銀時はひどく後悔していた。あの時は少し、というかかなり感情的になっていた。醜い嫉妬丸出しで、それでもそれを悟られたくなかったために力ずくであんな暴挙に出てしまった。
 それでも。
 どうしても、ずっと気になってることがある。
 高杉は、あいつを抱いたのだろうか。
 それが自分の中で、ひどく薄暗い感情となってくすぶっている。
 桂は高杉に対しての好意が一切消えうせたということを以前口にしている。おそらくそれは彼の本心だ。桂は好き嫌いがはっきりしているので、こういうときは救われる思いがする。
 だからって、何も大嫌いな高杉くんところに行ってとっ捕まっちゃうとかってどうなのよ? だって向こうはお前に好意あるよ? 好意というか、変な執着心なのかもしれないけど。そういう意味じゃ、あの野郎は俺に対してもいろいろ思うところがあるっぽいけど。
 それにしても気になって仕方がなかった。
 ふてくされたような表情で万事屋に帰り着くと、指定席にもたれながら机に足を乗せてぼんやりと宙を見つめた。
「あーあ。どうすっかな……」
 単なる嫉妬が一つ、芯にある。その芯から、いろいろな考えや疑問、感情がわき出てくる。銀時の口から深々とため息がもれた。
 本日、ええと、もう何回目だかわからない。
 別にいいじゃん、あいつが誰と寝ていようが。どんな目にあっていようが一緒に受け止めてやるべきなんだよ。だってあいつの意思に関係なく、不可抗力だったんでしょ?
 ……。
 そんな風に割り切れるほど、男の嫉妬は簡単なものじゃない。

273:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:41:05.25 KfugpOWUO
月詠と鈴蘭の会話が意味深なんだが、どういうこと?

274:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:44:24.81 wwyyvXlo0
画バレまだか?

275:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 20:59:10.25 Xka9He4IO
バレ乙でした

なんかもやっとする長編だったなあ
最後までちょっととっ散らかし過ぎた印象だ

276:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:00:18.70 0BxxAqYs0
>>273
新八と月詠は心中立てをしたらしい

277:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:01:39.46 0BxxAqYs0
新八と月詠お似合いだね

444 名前:名無し草 投稿日:2012/05/09(水) 20:41:18.89
新八が月詠ちゃんのオマンコペロペロしてた

278:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:02:55.67 /sSjWJrh0
 手を伸ばすと、その身体はすぐに手に入ってきた。
 抱きしめると鼓動が聞こえてきた。
 少しだけ緊張してこわばっている身体をなだめるように、その背を愛撫した。
 吐息が漏れて、耳をくすぐった。
 しなやかな腕が、抱きしめ返してきた。
 顔をよく見たくなって、少しだけ身体を離した。
 ほほを赤らめた秀麗な容貌が、こちらを見つめ返していた。
 気がつけば、柔らかい唇にかみつくように口づけを求めていた。
 ふさいだ唇からわずかなあえぎ声が聞こえた。
 だが。
「聞きたいのなら、聞かせてもよいが」
 唇を解放した瞬間のその言葉に、思わず顔を離した。
「気分の良い話ではないぞ」
 哀しげな表情がさらに言葉をつむいだ。
「本当に……聞きたいか?」
 俺が何をされたのか、その一部始終を、聞きたいか?

 ……聞きたくない。
 もう、聞きたくなどない。
 泣きそうな顔で、彼は言うのだ。
「俺は……、……に」


「よせ!」
「ひえッ!?」
「うわっ!?」
 目の前に、驚いて両手をあげた新八と神楽がいた。
 肩で息をしながら、思わず前のめりになっていたことに気づく。
 うたた寝していて、夢を見ていたらしい。
「……夢か……」
 呼吸を落ちつけながら驚いたまま固まっている二人の手に視線がいった。
 キャップを外した油性マジックをもっている。黒と赤。銀時にはすぐ想像できた。
 それはたぶん、おでことほっぺたのために。
 銀時は半眼になりながら口を開いた。
「お前ら……はァ。ったく……」
 そのまま椅子に座ってしまった彼に、思わず顔を見合せながら二人がすぐさまペンを隠した。さらに言い訳じみたことを言い始める。
「こ、これはちょっと試しただけアルよ!」
「い、一流の剣客は眠っていても殺気を察知できるっていう話になって、銀さんの警戒心を試してみようかなー、なんてぇ……」
「……何か、言ってたか、俺は」
「え?」
「何が?」
 あんな夢を見たものだから、何か余計なことを口走っていたかもしれないと思ったが、二人の反応を見る限りだとそうではないようだった。
「や、なんでもねぇ」
 苦笑しながら立ち上がり、銀時はそのまま洗面所に向かった。落書きはされていない。念のため瞼を固めずつ閉じて目の上まで確認したが、本当に書かれる寸前で起きたようだった。
 彼はさらに、二人が顔を見合せて首をひねり合っている横を通り、玄関の方に向かった。
「あれ、銀さんどこいくんです?」
「……出かけてくらぁ」
「え、銀ちゃん今からどこか行くアルか? 夕ご飯だったら私も行きたいネ!」
「や、ちょっとな。野暮用」
「野暮用って……」
「大人になったらいろいろあんのよ。わりーけど、今日は一人にしといてくんね?」
 振り返らずに銀時が言うと、向けた背中から何か察したのだろうか。二人はそれ以上余計なことは言ってこなかった。
「じゃあ神楽ちゃん、夕飯外食しよっか。こないだ散歩中に見つけたとことか、高そうだったけど今月は実入りがいいし」
「おー、たまにはいいこと言うネ新八も! 銀ちゃん、あとで悔しがっても連れてってやんないアル!」
「へいへい。行ってくるのはいーけど、その高そうな店で門前払いくわないよーにね」

279:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:04:48.71 f324ecY00
少しだけ減らず口気味の言葉を残し、彼は万事屋を出た。
 いつの間にか日が暮れて、薄暗くなっていた。
 すぐに歩きだす。一応、これからどこに向かうかは決めていた。
 何よりまず外に出たのは、頭を冷やしたかったからだったが。
「やな夢見ちまったな……」
 最初の方はよかったような気がするのだが、なぜか最終的には悪夢めいていた。夢の中だからか、彼があんな風に悲しげにすがってきたのは。
 ……聞きたいのか、銀時……
 一週間前に言われた言葉を思い出す。これは夢ではなく、本当に問われたことだった。
 思いきり泣かれた後に、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。ばつが悪いのか顔を伏せたまま小さな声でそう尋ねられた時に、思わず言い返していた。
「……いや、もういいよほんと」
 よくわからねーこと言って、悪かった。なんつーの、魔がさしたっつーか。
 銀時は星がちらつきだした夕暮れの空に向かって息を吐き出した。あいつから逃げるのは、そろそろやめた方がいい。言い訳にしてもひどすぎた。
だが憔悴していたあいつは「大丈夫だ」と言ってそのまま眠ってしまった。何か声をかけることもできず、そのあとは桂が再び起き出す前に新八と神楽が戻ってきてしまったために、なんのフォローもできなかった。
 こういうときって多串君ならどうするんだろうね。やっぱうまくフォローすんのかね。
 まぁ多串の奴は実際、女っ気がないから、好きなやつがいてもだめだそうだなぁ。
 そんなことをつらつらと考えながら、彼はゆったりとした足取りで歩く。
「おい」
「大体多串くんて瞳孔開いちゃってるもんね。無理だよね。女の子寄りつけないよね。モテるとかそれ以前に異性を拒否してるっていうかもうアレ、下手すると人殺しの目だよね……」
「テメー、おい、こっち向け」
「そう、で口も悪いんだよ~。何かこう渋めの剣豪っぽい声してるくせに出てくる言葉が汚いっつーか。絶対女の子とかには毒だよね。モテちゃいけない人種だよホント」
 銀時の後ろで、何かが切れる音とため息のような声がしたが、彼は気づかなかった。
 次の瞬間。
「……おいっつってんだろーがッ!!?」
「うごッ!?」
 後ろからドロップキックをくらって銀時は前に転げていった。
 いきなりだったので、近所の家の壁に激突して逆さに止まったころには銀時の首は少しひねったような痛みを残していた。それ以前に体中が痛んでいたが。
 さかさまのまま、彼は自分を蹴ったであろう男を見つけて口を開いた。
「……アレ? 多串くん?」
「テメーいい加減その呼び名やめろ! ひ・じ・か・ただっつーの!」
「てか俺に何か恨みでもあんのォ? 警察が一般市民に、こんなことしちゃダメでしょ」
「それはこっちのセリフだ! 歩きまわってっから怪我が治ったのかと思って声掛けてみりゃ無視しやがるわ、あげくに人の悪口さんざん言いやがって……」
「ああ、口に出てたんだ。ごめんごめん」
 へにゃっと笑ってから彼は身体を動かして立ち上がった。
 軽く首をまわすと、違和感もすぐになくなった。もともと頑丈にできている彼は、この程度で怪我はしない。
「けどちょっとひどいんじゃねーの? 怪我が治ったか聞こうとした相手に怪我させる気?」


280:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:06:10.24 DZkc87uE0
「……無事そうで何よりだ。心配して損しちまった気がするくれーだ」
 イライラした表情で土方は銀時をにらみながら煙草をふかした。
 ほこりを払いながら銀時はチンピラ警官を見つめ返す。
「そーいやオメー、こんなところで何してんのよ。また見回り? ごくろうさんだねぇ」
 吸い終わったたばこを携帯灰皿にねじ込みながら、どこかバツが悪そうに土方が舌打ちする。
「ちげーよ。今日はオメーに会いに来たんだよ」
「俺に? 何でまた」
「テメーらんとこ行ったら電気が消えてたんでな。どっかいっちまったんだろうと思って引き返してきたとこだ。そしたら偶然白髪頭の男が街中歩いてるのを見つけてな」
「へぇ……で、何の用なの? 俺もう真選組に話せること、もーないんだけど」
 土方とはすでに、四日前に鬼兵隊についての話をしてある。銀時は万事屋に来られると困るので、わざわざ痛む傷をおして屯所近くまで出向いて話してやった。桂についても聞かれたが、
高杉に彼が捕まっていたことも一緒に戦って逃げ出したことも話していない。銀時ひとりで屋敷付近まで行ってみたところ、偶然巻き込まれたことにしてあった。
「別に、そういうわけじゃねーよ。真選組の件でてめーにゃ世話になってたからな……今日はようやく時間もできたし、酒の一杯くらい奢ろうかと思ったんだよ」
 ついでに何か聞き出すつもりだと思ったのは、銀時の色眼鏡のせいだろうか。
 いや、もしかしたら彼も何か語りたいことがあるのかもしれない。何の裏もなく。
 ツンデレと突っ込みたいところだが、どことなくくたびれた雰囲気の土方は、そういう要素とことなったある種の陰りを見せている。
 認めたくはないが、土方はやはり自分と似たところがある男だった。
 少しだけ考えてから、銀時は肩をすくめた。
「ついでに夕飯奢ってくれんならつきあってもいーぜ、多串くん」
居酒屋で二人は席をひとつあけて横に並びながら適当に料理を注文した。土方は案の定、さらにマヨネーズもチューブで出すよう注文していた。
 相変わらずの味覚崩壊ぶりですね、このマヨラは。
「その後どーなのよ。鬼兵隊の奴らはなんか動いたわけ?」
 唐突に銀時は言った。適当な話題がなかったことと、何か話していないとまた余計なことを考え出しそうだったからそう言っただけだった。
 実際、聞くまでもなく何もないことはわかっている。
「いや……いたって平穏無事。拍子抜けしたくれーだ」
 ちょうど酒とつまみを先に出されたので、二人は黙ってお猪口に熱燗を注ぎ、同時に飲みほした。日本酒の熱燗。安酒だが、気分が悪い時に飲む分には何でもよかった。
 そもそも、市中の警戒網は解かれたものの、要所要所では未だ幕府側は警戒を怠っていない。それに何かが引っかかることもなかったようである。
第一、鬼兵隊が本格的に動いてしまったらそれはそれは大きな騒ぎを起こすに決まっている。銀時たちの耳に入らないはずもないのだ。
 さらにもう一杯飲み干す土方の方をちらりと見やって、銀時は口元に笑みを浮かべた。
「ま、あれだね。まだ気は抜けねーだろーけど。とりあえず奴らは見事にとんずらかましたってことか」
「ったく……あいつら、やるこたぁ過激なくせにちっともその姿を見せやがらねぇ……攘夷志士ってのはどいつもこいつも逃げ足だけは速ぇようだな」
 やや挑発するような言葉だったが、自分には関係ないので無視した。おそらく桂のことも言いたいのだろうが。
 土方はさらに杯を干し、一本目の銚子を開けてしまうとすぐさま店主に追加を注文した。
 今日はいやに飲もうとしているようだった。
「それにしてもわからねぇ……」
 少し赤みのさしたほほの仏頂面は、照れているようにも見えてどこかおかしかった。笑いをこらえながら、人のいいお兄さんのような声音で銀時は土方に問う。
「何がわかんねーって?」
「へいおまち、熱燗一本ね」
 店主がカウンター越しに出してきた酒を受け取るなり注ぎ、いっきにお猪口を開けてから土方がつぶやくように言った。
「あの館にゃあ……何にもなかった。そりゃ武器の類はあったけどな。オメーが破壊してきたっつーやつ以外には、そういう危ねぇもんは何にもなかった」
「……」


281:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:07:15.42 SbYExb0/0
捜査状況とか話していいんですかこの男は。
 そして土方は銀時が何となく一瞥くれただけでも、すでに出来上がってきてるように見えた。
 銀時の隣で常に目が据わっている男は酔いに任せているのか再び口を開く。
「あー……違う意味でやべぇもんはいろいろあったぜ? けどあんなもんは幕府に戦しかける時にゃ何の役にもたたねぇからな……だれか趣味のいいやつがいたんだろうな」
「違う意味でって、なに? 変な薬でも見っけたの?」
 思わず彼は問いかける。
 桂がやられたという薬についてなら、多少知っておきたいととっさに思ってしまうあたりが何となくむなしかったが、土方は首を横に振った。
「いや。道具だ。拘束用の、拷問用の……あとはあれだ、なんつったかな」
 いやなことを思い出しかける。桂にはめられていた手枷に、足枷。そして、それだけでは済むまい。
 土方の言葉も、それだけでは済まなかった。
「ああ、そうだ沖田の野郎が、地下でつぶされてた道具類を見分けたんだが……たしか拘束具と一緒に淫具も、山のように」
「……」
 聞くんじゃなかったぜコノヤロー……。
 思わずうめきそうになったが、彼を責めても仕方がないので銀時はため息をひとつはくだけにとどめた。
 ……使われたんだろうな。
 想像もしたくないことだが、もう知ってしまった以上気になってどうしようもなかった。
「なぁ……」
 気づけば顔の赤い土方が酒臭い息を吐きながら銀時の方を見つめている。若干身体を乗り出しているので、思わず引いていた。
 そんなことにはいっさい構わず、その酔っ払いは銀時をじっと見つめてくる。
「テメーほんとに一人で拘束されちまってたのか?」
「……なんでそんなこと聞くのよ多串くん」
「……一人でのこのこ行ってあっさり捕まるような野郎かよ、テメーは。他に誰かいたんじゃねーのか?」
「いや、俺一人だって。ホント。すっげー強い人斬りとやりあって、足場が悪くてとっ捕まっちまったって言ったろ?」
 実際捕まったのは思いっきり油断したからであって、しかも再戦の折に大勝したわけだが。
「まぁチャイナもメガネも行ってねぇようだったしな……一人で行ったんだろうとは思うけどよ……」
 まだ納得がいかないらしく、疑惑に満ちた表情で土方がぼそぼそと呟いた。
その時、二人が注文した料理が出された。面倒くさいということで土方が丼ものを頼んだのだが、まさかまたカツ丼を二つ注文して奢ってくるとは思っていなかった。
 ちょっと腹に重くないかこれ。まぁ夕飯だからいいっちゃいいけど。
 大盛りで出されたカツ丼を前に銀時がため息をつくと、隣で土方がマヨネーズをどんぶりの上でくるくる回しながら盛り付けていた。
 見ているだけでこっちの胃が油まみれになりそうなんだけど、多串くん……。
「他に、本当に誰もいなかったんだよな……?」
「おいおいしつこいね。俺はほんとに誰も見てねーよ?」
 土方はマヨトッピングを終えたどんぶりに手をつけようとしたが、それをやめてどんぶりを見つめた。
 あれ? もしかして後悔した?
 もちろんこのマヨラーに限ってはそんなはずもなかった。彼の口調は顔色とは裏腹に、理性的ですらあった。
「オメーのほかに……オメーの言うことが本当なら、オメーと入れ違いぐれーに、誰かとっ捕まってたはずなんだ。……しかもそいつは、奴らからかなりひどい仕打ちを受けていた」
「……っ」
 彼の言葉に思わず目を見開いた銀時には気づかず、土方は自らが作り上げたマヨカツ丼を見つめたまま唇を震わせる。
「それらしい死体は確認されちゃいねぇ……だが、そいつがいた形跡だけはあるんだ。殺されていねぇなら、奴が連れていった可能性もある」
 自分の他にとらえられていた者は、一人しかいない。銀時は土方の言うところの「仕打ち」の現場こそ見ていないものの、嫌というほどその意味を知っている。
 だが、第三者から客観的に語られるとは思ってもみなかった。
 それにしても、饒舌すぎるこの男に、銀時の腹も立ってきた。
 捜査情報一般人に公開してんじゃねーぞおい。
「拘束されてたそいつは、どうやら拷問されてたわけじゃねーらしいんだ。使用済みの淫具が散らばってる部屋が別に見つかったらしい……久々に殺し以外で気分の悪い報告受けちまった。調べた沖田の奴も軽く流しちゃいたが、ありゃあ内心苛立ってたな……」
「……で、何が言いたいんですかね、多串くんは」
 少し抑えた声で問いかけると、土方はお猪口を再び開け直した。
 勢いがつかないと言えないのだろうか。

282:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:08:37.11 8iQnP8Tk0
「とにかく、オメーがもしかしたら他に捕まってた奴のこと何か知らねーかと思ってな。空振りならしかたねぇが。まだ生きて捕まってるなら、どーにかして、やらねーと」
 言い終えると、土方はいい加減しゃべり飽きたのか腹がもたなかったのかどんぶりをひっつかんでマヨカツスペシャルをほおばり始めた。
 銀時はそれを見ながら心の中でつぶやいた。
 ……そいつ生きてます。
 しかもあそこからちゃんと逃げだしてます。
 そして君たちからも逃げなきゃいけない立場だったりします。
 少し食欲が減退したままだったものの、彼もカツ丼を食らうことにして向き直った。しばらくは二人とも黙ったまま目の前の食事に取りかかる。
 ややあってから、土方が口の中のものを飲み込んで言った。
 少しだけ、前よりもろれつの回りが悪くなっている口調だった。
「とりあえず、このあたりで起こった誘拐事件や失踪事件と関わってねーか、その辺を洗ってみようとは思ってんだが……何にしても、胸糞悪ィ話だ。あいつら、寄ってたかって一人を嬲ってたらしいんだからよ……」
 もうやめろ。
 思わずそう言いそうになった
 さすがに、叫びはしなかったが、かわりに別の言葉を吐き出した。
「……あのさぁ多串くん。今更言うのも遅いとは思うけど」
 銀時はうめくように告げる。
「食事時にする話じゃねーよ」
「……だな、すまねぇ」
 頭こそ下げなかったものの土方は素直にそう言った。やはり酔っているらしい。
 だからといって、こっちの気分が晴れるわけでもない。
「大体……それって俺へのあてつけのつもり? 俺は無事逃げ出して、別に拷問とかひどいこととかされてません、怪我はしたけどっていう状態だよ、そりゃあ俺はね」
「いや……別にそういうわけじゃ……」
 土方はすこしだけあわてたように否定するが、銀時は言葉を重ねてそれを中断させた。
「んじゃーなんですか? もしかしたら捕まってた他の奴? 野郎か女かはわからねーが、もしかしたらそいつも俺が助けられたかもしれねーとか、そんな風に言いてーんですかね、この税金泥棒は。
自分たちはあっさり取り逃がしちまったくせにさァ……それずいぶん調子良すぎじゃね?」
「……すまん。悪かった」
素直に謝る彼の反応に調子に乗って責めてみたものの、よけいむなしくなっただけだった。
「……まぁ、力になれなくて悪いとは思いますけれどー? さすがに食事時の良識は守ろうよ多串くん」
「……ああ」
 普段なら、そんなことを言わなくてもこんな話を長々とするような男ではないはずだったが。考えてみれば何がこの男をそうさせたのだろう。
 再び二人は黙々と箸を動かしはじめた。腹には重そうに見えた量も、イライラで勢いづいていた彼にかかればたいしたこともなかった。酒の肴に、と甘いものを注文すると白玉あんみつを出された。残念ながらパフェは置いてないとのことだった。
 やはり黙ったまま銀時はデザートを平らげる。土方はその間、ずっと酒を飲んでいた。よくよく見れば、土方の前のお銚子は既に七本目だった。銀時はまだ一本目すら開けきっていない。どう見ても、明らかにペースが速い。彼の酒の強さは銀時と同じくらいだったはずだが。
「あのさ……多串くん、ちょっと飲みすぎじゃない?」
 きつく言いすぎたかとも思い、やさしい人ぶってみることにした銀時の言葉を、その酔っ払いはすべて無視した。
 そして言う。
「……桂の奴が、捕まってたかも、しれねぇ」
「なッ……!?」
 何で知ってる、と続けそうになり、思わず銀時は口を右手でふさいだ。
 土方は銚子を傾けながらどこかとろんとした目で言葉を続ける。
「半分つぶれちまった部屋によ……黒い長髪と、桂の服の切れ端っぽいもんが見つかったんだよ……鎖にも、黒い髪が、いくつかこう……絡んでたらしいしな……」
「……今時、長ぇ黒髪の女なんてたくっさんいるだろーが。ヅラの服の切れ端ったってオメー、ヅラがいつも同じ服ならわかるけどよ……偶然じゃねぇの?」
「目撃情報が、途絶えた時期が、被ってやがんだ……」
 ついにカウンターに突っ伏した土方に、銀時は倒れかけたお銚子を助けてやりながら声をかける。
「おーい、多串くーん?」
「桂の奴と……高杉ぁ……因縁、あんだろー……?」
「多串くん?」
「ぶっ壊されたり、してんじゃ、ねーだろーな……まさかよぉ……」
 どうしてなのかはわからない。だが、土方は桂の身を案じているらしかった。
 そのことに驚きながら、突っ伏したままぶつぶつと呟く土方を見下ろし、銀時は心の中で返答する。

283:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:10:21.75 JRh8Gdzr0
 壊されかけてたよ。あの反応を見る限りじゃ。
 だが。
「なんでそんなこと気にすんだよオメー。まさか、ヅラに気でもあるんじゃねーだろーな?」
 思わず口をついて出た質問に、土方はカウンターを押しのけるように身体を起こした。そしてそのまま立ち上がると明らかに焦点も定まらないような目で、銀時の方を見ようとする。だが、ぐらぐらと揺れる彼の身体がそれを邪魔しているようだった。今にも倒れそうである。
「ちっげーよ! なんっで俺が、野郎なんかにッ……てか、よりにもよってあの野郎に気を持たなきゃいけねーんだよっ!?」
「あーごめんごめん。聞いてみただけ。からかってみただけ」
 肩を掴んで押さえてやると、あっけなく土方は席に座った。が、そのままの勢いでカウンターに再び倒れこんだ。
 幸いお銚子は倒さなかった。痛そうな音が店内に軽く響いただけで済んだ。
「高杉はぁ……まずいって……ほんと、あいつは、やべーん、だよ……ぉ」
 へろへろになりながらも訴えてくる土方に苦笑しながら銀時はつぶやいた。
「それはむしろ、俺の方がよく知ってるよ……」
 昔から知っていたのに、嫌というほどあの場で思い知らされた。
 ため息をついて自分の酒を飲んでしまうと、銀時は寝息を立て始めた土方に一瞥くれて再びため息をついた。
 結局、何が言いたかったのか分からなかった。それでも、おそらく土方は本当に桂のことを心配しているらしいということがよくわかった。
 そしてそれが少しだけ、気に入らない自分がいた。
 せっかくフォロ方くんに会えたのにねぇ。まぁこいつに相談したって仕方がないけどさ。そもそも恋愛相談だか人生相談だか、そういうことをする相手じゃねぇよな。
 そんなことをぼんやりと考えてから、銀時は新たにあんみつを頼もうと口を開きかけた。
 その時だった。
「トシー、いるかー?」
「あれ……ゴリラじゃん」
 銀時が振り向くと暖簾を分けて中を見渡しているひげ男が視界に入った。銀時と目があうが、近藤の視線はその横にすぐ向けられた。
「ああ、いたいた……おーい、こっちだ沖田ァ!」
 外の方に声を掛け、近藤は店の中に入ってきた。そのまま銀時たちの方にやってくると、土方を見下ろして肩をすくめた。
「すまねぇが邪魔するぞ万事屋。……あーあー、こいつつぶれちまったのか?」
「なんか、勝手に飲んで勝手につぶれてったけど。俺に責任ねーよ?」
「いや、いいんだ。わかってる。最近こいつの様子がおかしかったからな」
「たまにまた深夜アニメとかつけてましたからね、体育座りでぼんやりしながら」
 沖田がやってきて、相変わらず飄々とした声で銀時に言う。
「旦那、どーもすみません。うちの土方がつき合わせたみたいで」
「別に、土方くんの奢りらしいからいいんだけどさ。酒はちょっと飲み足りねーけど」
 沖田にそういうと、彼は軽く口元だけ微笑んで土方の身体を揺らしてみたりして反応を確かめ始めた。その間に近藤が店主に声をかけている。
「おっちゃん、勘定してある? ……あ、してない? じゃ俺が払うから。いくら?」
「あーあ。ほんとにつぶれてやがら。近藤さん、ほっといて帰りやせんか? これじゃお荷物ですぜ」
「まぁそう言うな。ここんとここいつは毎日あちこち駆けずり回って鬼兵隊のことを調べまわってたんだからよ。少しくらい優しくしたってバチは当たらねーぞ総語」
 酔いが回ったのもあるが、どうもくたびれていたからその回りも速かったらしい。
 銀時はそんな状態でなんで土方がわざわざ自分に会いに来るのかと不思議に思ったが、口にはしなかった。
 ふと、財布を取り出して店主と談笑している近藤の傍らの沖田と視線が合った。
「……土方さん、何か言ってやせんでしたか?」
 肩をすくめながら銀時は応えてやる。
「……何が? 別にたいしたこと言ってなかったよぉ、お宅らの捜査じゃ結局ろくなこともわかんねーとか、結局鬼兵隊の足取りはつかめてねーとか。前に聞いたのから進展してねーってことしかわかってねーよ」
「あらら。土方さん余計なこといっぱいしゃべっちまったみてーだ」
 ……。俺そんなこと一切言ってねーんだけど。
 高杉みてーな奴だよな、こいつ。察しがいいって言うか。
 半眼の銀時に、沖田は土方を担ぎあげようと試しながら言った。
「桂のことなんですけどね」

284:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:12:02.21 DJGB5dKn0
唐突すぎるんだよてめぇ。しかも一番俺が食いつきやすい所をわかってやがるなコノヤロー。
 唐突に攻めを発揮する男、沖田は、どうにか土方に肩を貸しながら言葉を続けた。
「旦那ならたぶん何か知ってると思ったんですよ。その様子だと、おそらく無事なんでしょうが」
「なんでそんなことわかるわけ?」
 思わず聞き返してしまう。沖田少年は別にいやらしい顔をするわけでもなく、淡々とそれに返答した。
「土方さんの話を聞いたはずの旦那が、慌ててるよーに見えねーから」
 なるほど。こいつは本当に察しがいい。銀時は表情を変えずに内心苦笑せざるを得なかった。
「てこたぁ、土方さんの心配も無用の長物だったわけだ。はあ、大体最初から桂が妙な真似されてようがなんだろうが、気にしなきゃいいのに」
「なんでそいつ、そんなにヅラのこと気にしてんの?」
「あれ? 旦那はわからないんですかィ? 旦那ならすぐ気付くと思ってたんだけどな……」
 肩からずり落ちてきた土方をどうにか支えなおそうと沖田は態勢を崩しかけたが、途中でため息一つこぼして手をはなしてしまった。思った以上に大変だったらしい。
 ……その決断、ちょっと早すぎない?
 どさりと床に倒れる土方を無視して沖田は銀時に言う。
「攘夷志士でも、桂は好敵手、まぁ特別な標的なんでさァ。すぐ見つかる割にうまく逃げおおせやがるが、むやみに被害をださねぇ。今じゃ攘夷志士の穏健派とも言われるくらいで。
鬼兵隊みてーな超過激な奴らより、はるかに好感が持てますぜィ。もちろんムカつく奴に変わりはねーんですが」
 床でぐうぐうと寝息を立てている土方をちらりと見やって沖田が続ける。その表情は心なしか、楽しそうにも見えた。突っ伏した土方は完全に真正面から床に突っ込んでいるため、かなり痛そうなのだが。
「土方さんも、敵とわかっていても気が気じゃなかったらしいんでさァ。桂の奴が鬼兵隊に調教だか拷問だかされて奴らに染まっちまったか、あるいはぶっ壊されちまったか。あいつは俺たちの手で捕まえてーのに、そうなっちまってたら意味がねーんで」
 調教、とこの少年は表現した。現場を検分した沖田という男の見解ではそうなるのかと一瞬うめきそうになる。
 だが、とりあえず沖田の説明は銀時に得心のいく回答だった。土方の荒れようは、ある意味彼らしいものなのかもしれない。……本当に気があるかどうかは別にしても。
 さすがに、酔った上であれだけ否定したのだから桂に対して気があるなどということはないだろうと思ったが。
 勘定と話を終えたらしく、近藤がようやく二人の方に向き直った。
「総悟、帰るぞ……ってオイ!? 何でトシが床に突っ伏して尻上げてんだ!? 何プレイ!?」
 土下座にしてはムカつく姿勢で土方は寝息を立てていた。
「なんか、こうしてほしいって土方さんに言われたんで」
 沖田があっさりと嘘をつく。
 彼のとぼけっぷりに、銀時は思わず苦笑した。


285:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:13:15.45 eyKU8DBQ0
銚子一本でも、ほろ酔い加減は味わえた。
 結局銀時は、土方を背負った近藤と沖田の二人と店の前で別れ、もともとの目的地に向かっていた。
 いないとわかっていて、昼間も行った場所に向かっている。
 万が一にも、そこにいるかもしれない。
 だが、もしそこにいたらどうしよう。
 何か矛盾しているのだが、余計な話を聞いたせいで逆にその顔を見て安心したくなっていた彼は、ひたすら歩き続けた。
 本当に、そこにいたらどうしよう。托鉢の坊主がこんな夜中までいるわけもないし。
 だからといって、顔を見れないのも嫌だった。
 その時はその時だ、と割り切ることにする。
 別れ際に沖田は銀時にこんなことを言った。
「土方さんも旦那も、もっと素直になっちまえばいいと思いますよ……こんな飲んだくれるほどいろいろため込むより、よっぽど楽でさァ。素直になるのを恥ずかしがってるからこんなことになっちまうわけで。
俺みたいに素直に思ったことをくちにすりゃあため込んだりしやせんぜ。ああ旦那、ストレス発散に丑の刻参りとかお勧めしますぜィ。今ならこいつの髪引き抜いて持っていってもバレません」
 近藤がさすがにそれを諌め、二人は屯所の方に戻って行った。
 言葉の後半はともかく、沖田は珍しく土方のことを気にかけているようにも見えた。
 でもって俺に、素直になれって?
 まったくもってその通りだね。
 いろいろ腹をくくってしまった方が、よさそうな頃あいだった。
 本人に何も言わずうじうじしているから悪いのだ。そう、いろいろとためておくのはよくない。
 ……そしてそれは、桂にも言えることだ。
 あいつも何も言わない。言わずに、耐えることをすぐに選んでしまう。あの日、自分が感情的に襲いかけた日に、少しだけ彼にすがっただけで。あげくに彼を責めるでもなく、再びすがることもなく、ただ自分の中にしまいこんでしまったのだ。

角を曲がり、昼間とは様子が異なった路地を進む。確か、団子屋の少し向こうのところにいたはずだ。もうそろそろ、その場所が見える―
「……いるし」
 思わず呟いて、それでも彼は道のはじに立っている編みがさの坊主に向かって歩き続けた。
 何を言ったものかと思いながら近づくと、言葉を考え付く前に桂がこちらを見た。
 銀時が近くにやってくるまでそのまま待ち、声の届く位置に来たところで口を開いた。
「……どうした。こんな時間に散歩か」
「そういうテメーは、こんな時間まで托鉢の坊主かよ」
 言おうと考えかけたことをすべて忘れながら銀時は言った。何事もノリがあればいけるもんだと思う。
「怪我治りきってねぇのに、何やってんだ。さっき俺、真選組のやつらと会ったぜ?」
「ふむ」
 桂は一度周囲を見渡してから編みがさをかぶり直した。溜息をついて、少し気を抜きながら銀時の方に一瞥くれる。そしてすぐ視線をそらしてしまった。
 こいつ最近、俺にかまわなくなったもんな……
 前はしつこいほど勧誘しに来ていたくせに。
 案の定、桂はサバサバした様子で彼に言った
「では忠告通り帰ることにしよう。さらばだ銀時」
「……送る」
 自分でも驚くほど、素直に言葉が出てきた。
「ん?」
 すぐに彼に背を向けたため聞こえなかったのか、桂が足を止めて振り向いた。
 もう一度、言ってやる。
「送る。家まで」
 桂が黙ってしまった。
「……」
 銀時も黙った。
「……」
 というか、彼にはもう何を言っていいかわからなくなった。素直に心配だからと言えばよかったか。
 さすがにそれはなめられていると思われるか? 変に思われんじゃねーの? あれ? 俺もう信用なかったりしねーよな……? 


286:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:15:27.54 oFHGZVWt0
内心冷や汗をかきながら言葉を待っていると、桂がどこか力を抜いた表情で言う。
「お前、時間はあるのか」
「……え? あ、まぁうん。別に用事もねーし」
 新八と神楽が既に万屋に戻っているような気がしていたが、それはすぐに頭の隅に追いやった。心の中で一度だけ詫びる。
 すまん。明日は相手してやるから。
「なら、少し飲まないか」
「へ?」
「エリザベスが無事の帰還を祝ってくれてな。何やらいい酒をくれたのだ」
「……俺は、かまわねーけど」
 お前それでいいのか? え、もしかして俺いろんな意味で誘われてんの?
 仮にも自分を襲おうとした人間相手にすることじゃねーだろそれ。こいつ何考えてんの?
 銀時の内心の焦りなど、彼の表情には全く現れていなかった。桂の考えが、銀時にはまったくわからない。
「ではいこう。少し入り組んだ道を通るから、しっかりついてくるのだぞ」
 桂はきびきびと移動を始めてしまった。仕方なくついていく銀時を時々振り返って確認しながら足早に歩いて行く。
 完全に動きは元に戻っていた。一週間前と少し前は脚がろくに動かない状態で、あげくにあちらこちらに怪我をおったまま完治していない人間とは思えない動きである。
 が、桂はやはり無理をしていたらしく、彼の家に着くころにはかなり息を切らせていた。
 少しだけおかしそうに笑いながら、彼は言う。
「半ば寝たきりで一週間も過ごしていたからな……体力を取り戻すのも一苦労だ。お前はもう完治したのか?」
「まさか。けどもう包帯ぐるぐる巻くようなこともねーな」
「そうか」
 言って家の中に彼を案内する。とりあえず手近な和室に通されたが、銀時が今日は月が出ていたことを思い出し、結局縁側で晩酌することになった。
少し涼しい風のふく縁側で銀時がぼんやり月を見ていると、杯を二つと、日本酒の一升瓶を持って桂が部屋から出てきた。着替えていつもの衣になっている。
 そういえば、こいつもそんなに着物のバリエーションがない気がする。同じもの四着とかなんかな、やっぱ。妙な着替えはいっぱい持ってるみたいだが。
 出された酒は確かに旨いものだった。かといって土方のように泥酔するほど飲もうとは思わなかったが。もちろんここが桂の家であり、供されているのが彼の酒だという遠慮もあるが、泥酔する理由はないはずだった。
 ……いや、そうでもないか。
 自分が泥酔したくなる理由となりかねない男が、彼の横で同じ酒を飲んでいる。
 夜空には少し欠けはじめた月が輝いていた。時刻はもう夜をすぎ、深夜に向かうだろうか。あの二人には悪いことをしたと思うが、電話をするのもなんとなく避けてしまった。結局、明日になってから二人にしかられればすむと割り切ってしまう。
 そして今、悩める男は悩みの原因と向き合っている。
 本当の意味では向き合っておらず、隣に並んでいるだけなのだが。
 その隣を見る。
 桂は縁側に姿勢正しく座りながら気品のあるしぐさでお猪口を傾けた。
 喉を鳴らして、ほう、と感嘆のため息をもらす。嫌味なほど絵になっているそれをぼんやりと眺めながら、銀時は胡坐かいて背中を丸めたまま自分の盃を傾けた。
 ほんとにまぁ、隙のない……。少しはくだけないもんかね。
「銀時」
 と、ふいに桂の唇が動いた。
「どした」
 ぼんやりしたまま答えると、桂がどこか抑えた声音で再び唇を動かした。
「あの日……」
 どきりというよりもグサリと胸に何か刺された彼に、和装のよく似合う貴公子は、月を見上げたままやわらかい風に黒髪をなびかせてしばらくだまった。おかげで、違う意味でもなにか気持ちが揺らぐ。胸が痛くてそういう気分にならないだけましだったが。
 そんな彼につゆほど気づいた様子も見せず、桂は続けた。
「お前が俺を助けてくれたときに、高杉の奴も生きていたのか?」
 ……そうきたか。


287:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:16:39.34 58eq/Zox0
自爆の小説って、自作なの?
どっかからのパクリ?

288:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:17:39.33 JPrs1SDe0
ある意味、再び傷口をえぐられたような感覚を味わいながら銀時はゆっくり返答した。
「……ああ。まぁ、ありえねぇぐれーぼろぼろだったけどな。キセルふかしてガンつけて、俺らより先に逃げてったよ」
 結局、この男がいつまでもあの野郎を気にしているらしいことが腹立たしい。高杉のことが、そして何よりあれほど苦しめられてなお野郎のことを気にかけている桂自身が。
 なんだかまた、薄暗いどろどろとした感情が胸の中で膨れはじめたような気がする。
「生きてて欲しかったのか?」
 銀時が憎々しげに吐き出したその言葉に、桂が笑った。
 え、笑っ……?
「ならば、いい……」
 怒気をはらんだ声音で、彼はもう感情を隠さなかった。
「今度相対するときは、俺がこの手で必ず葬ってやる……その時は、手を出すなよ銀時」
 あれ? こいつもしかして怒ってる?
 どう好意的に見てもそうとしか思えない顔つきだった。
「そもそもあの館で最初に人斬りなぞと会わずあやつに会えていれば……捕まる前にぶった斬ってやれたものを」
「……ははは」
 銀時は思わず肩の力を抜きながら笑った。桂にはあいつに対する執着心はあっても、考えていた方向とベクトルが違うらしい。
 ややおいてから、銀時は鼻で笑った。
「馬鹿言うな、俺がたたっ斬っといてやるから譲っとけよ。大体オメーよぉ、あの野郎にまともに勝ったこともねーんじゃねーか?」
「稽古の時は防具が邪魔でやりにくかっただけだ。実践では負けんぞ」
「いや、どうかねぇ。あいつ、ちっとも腕さびついてなかったよ。もっかいやったら、またとっ捕まるんじゃねーの?」
「……次は、もうない」
「あん?」
「俺たちにはもうどちらが斬り伏せるか、それしかなかろう。会えば必ず敵対し、斬り合うことになる。そんなことはわかりきっている。……いや、喧嘩を売った春雨に捕まることはあるかもしれんな。いずれにせよ、次は決着をつける時だろうと俺は思う」
 覚悟のようなものを感じさせる声音だった。庭を見つめる視線も、まっすぐ前だけを見ている。そのくせどこかはかなく危ういような、矛盾した感覚を覚えさせられた。
「……おいおい。前みたいな自爆はもうやめろよ? すげぇ気負いまくってんじゃねぇか」
 酔っているとしても、あまり過激なことを言われると少し怖くなる。そう、この男には前科があるからだ。桂が高杉に捕まって即座に自爆覚悟で爆弾を使った時に、いやというほどの驚きと恐怖を味わったものだ。
 あの時の感覚だけは、もう味わいたくない。
 つかなんだそりゃ。こだわりと執着のベクトルが違っても、特攻されたら何の意味もねーよ。
「……」
 銀時の言葉に、桂は応えることなく黙ってしまった。どこか思いつめた表情で盃を傾けている。
 何だよ、その顔。
 冗談じゃない。お前に死なれてたまるか。
 銀時は再び口を開く。こんどは、確固たる意志を持って。
「ヅラぁ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「やめてくれよ、そういうの」
 押し殺した声音で横の男にそう言うと、彼はこちらを向いた。やや驚いたような顔つきで。
「……あいつをたたっ斬るのはかまわねーよ。俺だってぶちのめしてやりてーけど、別に譲ってやるし。……けどな、あん時みてーに特攻してもかまわねぇって思ってるんだったら、あいつに関わるのは絶対にやめてくれ。俺はオメーに、死なれたくねぇ」
「銀時……」
「……嫌なんだよ、そればっかは」
 視線をそらさずにはいられず、銀時は真正面を向いて、手もとの盃を見下ろしながら続けた。
「てめーが攘夷活動やっていようが、妙なバイトしていようが、仲間と馬鹿やってようがかまわねーからよ……」
 勝手なことだとわかりつつ、それを口にする。
「俺の目の届かねぇところに、手の届かねぇところに行っちまうのは、やめてくれ……」
 最後には、思っていたよりも情けない声が自分の口からこぼれ出ていることに気づいた。高杉の笑い声が聞こえてきそうな気がするほど。
 てめーで見捨てたくせになぁ?
 そのとおり。だから勝手は自覚している。それでも言わずにはいられなかった。


289:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:19:05.66 0xKFzhtV0
「……」
 桂は黙って銀時を見つめていた。言葉の意味をとらえかねているのか、言葉について考えていてくれるのか、視線だけを感じながらも銀時には当然判断できなかった。
 そうして、どれだけ時間が経ったかわからない。
 ただ、月は天頂部分までにも移動していなかったから、実際はさほどたっていなかったのかも知れない。
 不意に、桂が立ち上がった。
 思わずそちらを見上げると、彼は日本酒に蓋をして彼に言った。
「そろそろ冷え込んできた。中に入らぬか」
 その顔は、柔らかい彩りを得た、やさしい笑みだった。

 さほど酔っていたとも思わない。
 どちらが先だったのかもわからない。
 どちらからともなく寄り添い合った。
 それだけだった。
 いや、それだけではなかった。

 お互いに言いたいことを少しだけ言い、聞きたいことを少しだけ聞いてみた。
「高杉は俺に指一本触れておらんよ」
 それが気になっていたのか、と桂はどこか苦笑気味に言う。
「俺があいつ本人に捕まった、あの時まで……あいつは俺に触れもしなかった」
 ……そっか。
 銀時は小さく返答した。それが見苦しい嫉妬だとでも思ったのか、安堵しつつも気まずそうな顔をしている。
「俺が好きか?」
 銀時のようにばつの悪そうな回りくどい質問はしなかった。だから素直に聞いてみた。
 だがそのごく単純な質問に、彼を抱き寄せる男は言葉を詰まらせた。
「……まぁ、その……うん」
「ならばそれほどでもないということか」
 それであれだけのことをしてくれるのだから、お前はよっぽど嫉妬深いということだ。
「ちがっ……いや、そのな? ……ああ、もう……」
 むずがゆそうなその反応に、苦笑する。
 だが。
 銀時が意を決して桂の耳元にその言葉をささやくまで、そう長くはかからなかった。


290:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:19:51.24 I8IcVj6R0
>>287
>>10

291:名無しさんの次レスにご期待下さい
12/05/09 21:20:04.60 7PXVqS400
辰馬はすでに酔いつぶれていた。豪快にいびきをかきながら自分の横で眠っていた。
 辰馬を酔いつぶした男は、自分の前で柱に寄りかかっていたが、意識だけはあるようだった。部屋に残っているのは自分と辰馬と高杉だけで、あとはみなうまく自室に引き下がらせた。
 辰馬はそのつぶれ様から、起き上がらせることはあきらめていた。体格的にも一人で担ぐのは大変だったし、自分も飲んでいたこの状態ではまず担ぐことはできないだろうと思った。
 辰馬には誰かが脱ぎ散らかしたらしい着物をかけて布団代わりにしてやった。それから向き直ると、高杉はまだ動けそうではあった。だから声をかけた。
「立てるか? 無理なら何かかけるものをとってこようか」
「……いや。部屋に戻る……」
 反応も返答もどこか鈍かったが、そう言いながら高杉は腰を上げようとした。そしてそのまま軽く足を滑らせた。
 がつん、といい音がした。
「……ってぇ」
 柱に後頭部をぶつけた高杉が顔をしかめ、思わず苦笑しながらそれに手を伸ばした。
「しっかりしろ。肩を貸すから」
 高杉はあっさり自分の手をとった。珍しく素直なその姿に、よほど酔っているのかと呆れながらもその身体を支えてやった。
 廊下をゆっくり歩きながらふと夜空を見上げれば、少しだけ欠けた月が昇っている。
「……銀時はどーした……あの野郎は」
「外の空気を吸ってくると出たままだが……まぁ心配はいるまい」
「別に心配なんざしちゃいねぇ……あいつが途中で逃げやがったせいで、俺が辰馬と飲み比べる羽目になっちまったんだぜ……」
「おかげでそのざまか。だがあれは挑発に乗ったお前が悪い」
 ふいに高杉が押し黙った。
「……? どうした」
「……辰馬の奴……変じゃなかったか?」
 その言葉に振り返ってみるが、思い当たるようなことはなかった。
「そうか? いつも通りのはしゃぎようだったと思うが」
「……そう、見えたか」
「どうした高杉。何か気になることでもあるのか?」
 結局高杉は、それに返答しなかった。
 酔いのまわっている相手に対していろいろと考えさせるのも悪かろうと、それ以上は何も言わなかった。
 そしてちょうどその時に廊下を突き当たり、高杉の部屋の横まで来た。障子をあけてやりながら、肩を貸している男に言った。
「ついたぞ」
「……」
「どうした?」
 顔を覗きこむと、無表情のまま高杉が見つめ返してきた。いぶかしがって声をかけようとした瞬間、その男はこちらに体重をかけてきた。
 とっさに支えようと軽く踏ん張った足が、唐突に払われた。驚きながらなすすべもなく、二人で畳の上に倒れこんだ。
 身体を打ったが、わずかに顔をしかめただけだった。ただひたすら驚いていた。
「……高杉?」
 開かれたままの障子の間から差し込まれる月明かりの下で、視線がぶつかった。
 ひどくうつろな表情だった。
 ぞっとして何かを言おうとした瞬間、言葉ごと彼にのみこまれた。
 それはついばむような口づけだった気がする。
 そのあとどんなことをされたのか、細かいところまでは覚えていない。
 ただ、何を言っても高杉がやめようとしなかったことは覚えている。口づけだけではなく、脱がせようとするのも、肌に直接触れるのも。
 やめろ、おい、よせ、高杉。
 嫌悪よりも驚愕が勝っていた。この男がこんな真似をするとは思ってもいなかった。泥酔して理性がとんだかと思い、どうにか抜けだそうと抵抗していたが、不意にその行為が生々しくなった。
 深く口づけされた。舌が口腔を蹂躙し、唾液を吸い上げられた。下腹部に添えられた手が、腰ひもを解いて衣服の中にすべりこんできた。
 身震いした。
 この行為には意志がある。



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