12/05/16 00:12:17.40 TNgpy8Ai0
2070年。大阪は新世界のはずれ。
通天閣が見下ろすこの街は、58年前とまったく変わらない。
朝っぱらからシャブ中や酔っぱらいが半裸でうろつく通りだ。
そんな通りのみすぼらしい飲み屋の戸を、がんがんと叩く男がいる。
店の主人がランニング姿でしぶしぶ出てくる。
「やっぱ、またあんたか」
「さ、酒呑ませや」
足を引きずり気味のその老人は、手をぶるぶる震わせながら差し出す。
「あかん、あんたのツケなんぼ溜まっとる思とんねん。
もうこれからは現金やないとあかんで」
「せ、せ、せやから、これ」
ぶるぶる震える手に、大事そうに握られたのは、銀メダルだった。
「わ、わ、わいの、た、た、宝物や。わい、ど、ど、ドイツカップでな、貰ろてん」
「ふん、どうせパチモンやろ」
主人は老人の腕を蹴る。メダルはころころ転げてドブに落ちる。
「な、な、なにしてけつかんねん。わ、わいは有名人やったんや。す、スターやったんや」
「アホも休み休み言えや」
「ほ、ホンマやて。む、昔はワイ、一億円稼いどったんや。い、一円置くやないで」
主人はもう取り合わず、店の戸をぴしゃりと閉める。
老人はドブに腕をつっこんでメダルを探していたが、やがて泥まみれの腕を上げる。
その手にはメダルではなく硬貨が握られていた。
「ひゃ、ひゃ、百円ひろた」
老人は嬉しそうにつぶやくと、やがてどこかへ去っていった。