13/02/10 20:50:44.91
>>15の続き
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】 ■第十二回■
初詣から帰宅した瑠利子と両親は間もなく訪問者を迎えた。
それは瑠利子の友達の父親で、青ざめた顔をした彼は
両親に対してこう切り出してきた。
「新年早々こうしたお話を聞かされるのはご不快極まりないと存じますが、
他にご相談する方もおりません。実は私たちは生活に行き詰まり
どうにもならなくなりました。このままでは一人娘の佐代子を売る他
ない状況となってしまいました。ご無理を承知でお願い致します。
どうかいくらかでもお金をお借りできないでしょうか…」
と搾り出すようにいった。
隣の部屋で知らず知らず聞こえてきた話に瑠利子は愕然とした。
あの優しい佐代子さんが、あの愛らしい佐代子さんが…
瑠利子は無意識の内に部屋の中へ飛び込み、両親に必死に頼んだ。
彼女には親友である佐代子が売られていくことなど耐えられなかった。
涙を流して哀願する瑠利子の姿にみんなが泣いた。
冷たい雨が降りしきる昭和59年の正月のことであった。
(第十三回に続く)