11/02/21 22:02:54.37 yPj86ktP0
何かがぶつかる音がした。暗闇の中で目覚めた克夫は耳をそばだてた。低く尾を引く唸り声、
この野郎、という人間の声。
母の向こうに寝ている父が起き、障子を開けて縁側に出ていく。克夫も布団を跳び出した。
父は縁側のガラス戸を透かして外を覗いていた。その後ろにしがみついて克夫も覗いた。雪の
なかに棍棒を振り上げた人影が動く。棍棒は何度も振り下ろされ、同時にけたたましい悲鳴が
起きる。克夫は雪の上をのたうつものから眼を逸らすことができなかった。やがてそれは動か
なくなった。
「やっつけたか……」
父はかすれた声で言い、それから便所の電灯を点けた。薄明かりが裏庭一面を白く際立たせ、
雪のなかに横たわる犬の形を映した。鼻の辺りに血が飛び散っている。
「手こずらせやがって」
忠夫の声は白い息になって何度も闇に吹き出した。