06/08/03 22:17:29
【残された言葉】
1989年の暮れ、女性がよく利用していた奈良の旅館の女将に、
『女性からお礼のはがきが届いた』。女性の生前の言葉遣いをまね、
父親が代筆したものだ。
「みんな、俺のこと心配してくれてるってな。ありがとう。こんな事でへこたれてねえ。
今までどおり勉強してるから心配しないでくれよ。じゃあね、バイバイ」
「いろいろ親切にしてくれたから、俺、奈良での勉強は、いつも精一杯やれた。
本当にありがとう」
活発だったという女性の、肉声が伝わってくるようだ。
そして1993年。女性の日大での卒業論文が、本として出版された。
70ページ足らずなので、自費出版だと思われる。
この本の前文を、アグネス=チャンが書いている。そこから、等身大の彼女の姿を
うかがい知ることができる。
「いつも運動をした後のように、ちょっぴり紅潮した頬で……大きな瞳でまっすぐに
私の話を聞いていました」
「わからない時は目と目の間にちょっぴりしわができ、面白い時は白い歯を見せて笑い、
悲しい話の時は涙を流してくれました」
「授業が終わると彼女はよくデスクにやって来て……質問しました。そしていつも
スポンジのように私が話したことを吸収してくれました」
「短い人生の中で彼女は、十分に役割を果たしました」
そう、信じたい。
終わり