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『かもめのジョナサン』 リチャード・バック著 五木寛之訳 (新潮社)
P40
年月が流れ、そして或る日の夕方、彼らがやってきた。彼らはジョナサンがただひとり、
愛する空を静かに滑空しているのを発見して近づいてきたのである。
P41
ジョナサンは水平飛行にもどった。そしてしばらく黙っていたが、やがて口をひらいた。
「大したものだ」と彼は言った。「ところで、あなたがたは?」
「あなたと同じ群れの者だよ、ジョナサン。わたしたちはあなたの兄弟なのだ」
その言葉は力強く、落ち着きがあった。
「わたしたちは、あなたをもっと高いところへ、あなたの本当のふるさとへ連れて行くため
にやってきたのだ」
「ふるさとなどわたしにはない。仲間もいはしない。わたしは追放されたんだ。それに
われわれはいま、<聖なる山の風>の最も高いところに乗って飛んでいるが、わたしには
もうこれ以上数百メートルだってこの老いぼれた体を持ちあげることはできんのだよ」
「それができるのだ、ジョナサン。あなたは飛ぶことを学んだじゃないか。この教程は
終わったのだ。新しい教程にとりかかる時がきたのだよ」
これまでいつも彼の頭の中には何かが瞬間的にひらめくことがよくあったが、この時も
ジョナサンは即座にさとった。彼らの言うことは正しい。自分はもっと高く飛ぶことができる。
自分の真のふるさとへ行くべき時が来たのだ。
彼は最後の長い一べつを、そこで自分が多くのことを学んだ空と銀色の壮麗な陸地へ
投げかけた。
「よし、行こう」ついに彼は言った。
そして、ジョナサン・リヴィングストンは、星のように輝く二羽のカモメとともに高く昇ってゆき、
やがて暗黒の空のかなたへと消えていった。