11/12/24 23:33:37.93 foLtR2780
十二月二十四日がやって来た。
クリスマス・イブである。
西の方で偉い人が生まれた日の前日で、都会はネオンの飾りなどで華やかに飾られ、
ケーキ屋にとって一番のかきいれ時で、カップルは喜び街駆け回り、独り者はコタツで欝になる日である。
そして見滝原の某所にある、そこそこ大きな邸宅、美国という表札のかけられた家では、
家主が友人たちを招いて、クリスマスパーティーを開催していた。
参加者は、家主と一心同体と言ってもいいほど寄り添っている黒髪の少女。
おっとりと柔らかな雰囲気をした、金髪の少女。
彼女らよりだいぶ年下の緑髪の少女で、家主を入れて合計四人。
パーティーというにはやや寂しい人数だが、当事者たちはそんなことを思わない。
家主が手製のケーキとローストチキンに舌包みを打ち、トランプゲームの勝敗に一喜一憂。
最大のイベントであるプレゼント交換はまだだが、それも間違いなく人生の良い思い出となることだろう。
四人はとても、幸せであった。
美国邸から離れること、三千と二百メートル。見滝原の街外れの一角に、蕎麦工場があった。
作る蕎麦は、数人分を手打ちで制作するのではない。
人間が入れそうなぐらい大きなミキサーに、蕎麦粉小麦粉塩水をキロ、リットル単位でぶち込み、
練り上がったら切断機で片っ端から切り、それよりさらにでかい茹で機に十数分くぐらせ、
パック詰めにしてトラックでスーパーなどに運ぶ。そういう大量生産工場である。
その一室に、暁美ほむらと佐倉杏子は、いた。
数十畳はある広い部屋だが、いる人間は二人だけ。そして二人の格好は上下真っ白な作業服。
長い黒と赤の髪の毛も、苦労して白帽子の下に収めてある。
部屋の空間の大部分は、パック入りの蕎麦つゆが入ったケースで占有されていた。
残りの空間は、ダンボール詰めされたつゆと、まだ組み立てられてないダンボールが占めている。
ほむらは黙々と、ダンボールを取っては底をガムテープで目張りし、隣に積み上げていく。
杏子もまた黙々と、つゆをダンボールに詰めていく。一段に十二個、一箱四段。
詰め終えたら蓋をガムテープで止め、持ち上げては部屋の隅に置いていく。
部屋の中に大きな動きは何も無い。時折、隣のつゆ制作室の作業員が、
新しいつゆを持ってきて置いていくだけ。
小学生でも出来そうな単調作業。現在の時刻は午後七時。始まりから実に十時間突破。
二人はとても、うんざりしていた。