07/05/05 05:00:11
>遺体を最初に見たとき、私も
>「ずいぶん傷が多いな。顔面と顎に目立つ外傷もあるし、警察が殴られて死んだのではないかと疑うのも当然だな」
>と思ったが、一方では
>「全身に無数の軽い擦過傷があるということは、人に殴られて出来た傷ではないな」
>という印象を持った。
(略)
>「すごく傷だらけだけど、この傷を見ると、どうも人に叩かれた傷じゃないな。こんな小さな傷を全身につけるなんてことは、他人には出来ない。何かに身体をこすりつけたような傷跡だ」
>私がそう言うと、立会いの警察官がうなずきながら話した。
>「空き地で倒れているのを発見されたとき、仏さんが裸で地面に体をこすりつけて、のたうち回っているのを目撃した人がいるんです。何でも地面に顔をたたきつけていたそうです。」
>警察では当初、傷害致死を疑っていたので、男性が亡くなるまでの足取りを調べていた。
>とくに男性がだれかと争っているのを目撃した人がいないかを調べたが、目撃証言はなかった。
>私は皮膚の擦過傷と打撲傷をじっくり調べた。だが他殺をうかがわせるようなものはなかった。
(略)
>手拳によって殴られると、皮下に出血を生じコブ状に青く膨れれるものの、皮膚の表面に擦過傷は生じない。ところが男性の打撲傷は、ことごとく皮膚の表面にこすった跡があった。
>つまり、男性の傷は殴られたせいではなく、地面などに自らをこすりつけたり、打ち付けたせいで生じたものと推定された。
>また解剖によって、脳の頭頂部に外傷性クモ膜下出血が認められたが、斑点状の極微量の出血で、死因となる程度ではなかった。
(略)
>また、肺にはすっかり水が溜まっていて、重かった。肺の中に水が溜まっていることを肺水腫という(略)。
>肺は毛細血管の網のようなものだが、毛細血管は普通、水を通さない。ところが覚醒剤の中毒症状を起こすと、血管から水が漏れるようになる。そして、そのまま水がどんどん漏れだすと、肺の中が水浸しになるのだ。
支倉逸人「検視秘録」(光文社刊)より