08/08/14 04:34:39 PuVVODgH
【エセ右翼の目的は、右翼は痛い団体だと日本人に思わせ、まともな愛国心ある人を貶める事です】
・右翼団体「松魂塾」(豊島区) - 極東会(構成員1500人)
松魂塾最高顧問:松山眞一こと曹圭化(在日)
・右翼団体「祖国防衛隊」(大阪) - 七代目酒梅組(構成員160人)
七代目酒梅組組長:金山耕三郎こと金在鶴(在日)
六代目酒梅組組長:大山光次こと辛景烈(在日)
・右翼団体「松葉会」(台東区) - 松葉会(構成員1400人)
松葉会六代目会長:牧野国泰こと李春星(在日)
・右翼団体「日本皇民党」(高松) - 山口組宅見組系
日本皇民党行動隊長:高島匡こと高鐘守(在日)
・右翼団体「日本憲政党」(世田谷区) - 中野会弘田組
日本憲政党党首:呉良鎮(在日)
日本憲政党最高顧問:金敏昭(在日)
金俊昭の実兄:金銀植(在日)
・右翼団体「双愛会」(千葉)- 双愛会(構成員320人)
双愛会会長:高村明こと申明雨(在日)
・右翼団体「三愛同志会」(下関) - 六代目合田一家
五代目合田一家総長:山中大康こと李大康(在日)
・右翼団体「東洋青年同盟」(下関) - 四代目小桜組系
四代目小桜組組長:末広誠こと金教換(在日)
・右翼団体「日本人連盟」(会津若松)
四代目会津小鉄会長:高山登久太郎こと姜外秀(在日)
・右翼団体「アジア建国党」
アジア建国党最高顧問、金相洙(在日)
・右翼団体「亜細亜民族同盟」
三代目山口組柳川組、柳川次郎こと梁元錫(在日)
【興味がある方は、「右翼の正体」でググって下さい。さっきアドレスが打ち込めたんですが、
さっそく規制かけられた様でアドレス入力出来ません。】
425:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/14 10:12:45 etn52dId
転載
946 名前: ◆iCxYxhra9U 投稿日: 2008/08/14(木) 00:21:21 ID:qft6MqVU0
相変わらずアク禁なのでこちらで。
今日中には書き終わらない見込み。予約の延長をお願いします。
なんか、どんどん長くなってく……
426: ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 16:13:17 NXBXpcLB
延長していた予約分ですが、推敲の上今夜投下するつもりです。
夜の8時頃を予定しています。お時間のある方、支援をお願いします。
427:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 16:54:28 E9cRwljC
今夜用事ある俺涙目。支援できないけどがんばれー
428: ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:00:19 NXBXpcLB
では、投下開始します
429:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:01:12 NXBXpcLB
満月が、街外れの平原に立てられた2つの墓を煌々と照らしていた。
片方は巨大な鉄の板。片方は墓標もない質素な盛り土。
2つの死を悼む2つの記念碑を前に、それぞれを作った少年たちの姿があった。
「俺は行くけど、お前は?」
「俺は―」
キルアの問い掛けに、明神弥彦は少しの間逡巡する。
ある意味、彼らしくもなく―思い悩む。
犯人を追う。
いましがた弥彦が墓を作った、名も知らない少年を殺した、その犯人。それを追う。キルアはそう言っていた。
その目標は明確で、とりあえず進む方向も分かっている。
対する弥彦は、懸念事項は多いものの、どこから手をつけていいのか分からない状態。
行方の分からない千秋も、本名も顔も分からぬ『バンコラン』も、生死さえも怪しいニアも、全て手掛かりなし。
だからキルアの「お前は?」という短い問いかけは、言外に「お前も一緒に来るか?」という意味だろう。
彼とはこの場で少し話しただけの関係でしかないが、それでもお互いの性格はかなり理解できた。
弥彦の見たところ、少し口は悪いが悪人ではない。
真っ当に知り合いの死を嘆くことが出来、真っ当に知り合いの死に怒ることのできる人物だ。
そしてまた、彼は頭がいい。カンがいい。
先程のシャナも交えての情報交換の場では、少ない説明でこちらの意を的確に汲み取ってくれた。
きっと弥彦の性格も、弥彦がキルアを理解している程度には、理解してくれている。
彼が真っ直ぐな性格であることも、一箇所にじっとしていられない性分であることも、分かってくれている。
分かっているからこそ、「一緒に来ないか」と、誘ってくれている。
そこまで分かっていて……理屈ではなく、直感的にそこまで解しておいて、しかし、弥彦は迷う。
いや、そこまで解しているからこそ。
簡単に同意を返すより先に、確認しておかねばならないことがあった。
「俺は―いや、俺がどうするかより先に、聞いておきたいことがある」
「ん?」
「キルア、お前……その『犯人』を見つけて追いついた後、どうすんだ?」
問い掛けた弥彦のその手の平に、思わず汗が滲む。
そうであって欲しくない。けれども、予想がついてしまう答え。弥彦の受け入れることの出来ぬ答え。
果たしてキルアは、弥彦の予想通り。
何の気負いも力みもなく、さらりとその答えを口にした。
「どうするって……そりゃ、殺すに決まってるだろ」
430:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:02:54 W6GSfBKr
支援
431:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:03:05 NXBXpcLB
※ ※ ※
キルア=ゾルディックは、元・殺し屋である。
世界最高レベルの暗殺者一家に生まれ、一族内でも抜きん出た資質を認められ、闇のエリート教育を受け。
家業を嫌って家を飛び出し、紆余曲折の末にハンターとなった今も、それらの過去は彼の中に生きている。
念能力を身につけ、オーラを電気に換える技を習得した後も、彼の強みはその殺し屋の技。
だから……彼が後悔するとしたら、ただ一点。
大した理由もないのに殺しを躊躇ってしまった、その部分。
今思い返せば、キルアが「のび太」を生かしておく必要などなかったのだ。
できればニアの話の裏を取りたい、と欲張ってしまったが、あの時の優先事項はあくまで首輪の確保。
だから……速攻で殺していれば良かったのだ。
最初から殺す気で挑んでいれば、下手なプライドを気にすることもなかった。隠蔽工作など考えなかった。
太一を長時間放置したりしなかった。太一を騙して殺そうとした奴を、きっと返り討ちにすることもできた。
実際「最初から殺す気」で対峙した銀髪の殺人狂少女は、あっさり心臓を抜き取れたのだ。
「どうするって……そりゃ、殺すに決まってるだろ」
自らの言葉で、キルアは自分のやるべきことを改めて認識する。
犯人を追う。そして、見つけたら殺す。物事はやっぱりシンプルがいい。
そりゃあ犯人かどうかを判断するためにも、多少は言葉を交わすことになるのだろうが……
そうと分かりさえすれば、即殺す。疑わしいくらいで殺してもいいかもしれない。間違いを怖れてはいられない。
とりあえずは、さっきトンネルの中で死んでいた少年を殺した奴。そいつを探して殺す。
そいつだけじゃない。
殺し合いに乗ってる者。殺し合いに乗ろうとしている者。出会って気付けば、全部殺す。
そうやって殺して殺して殺していけば、きっと太一とゴンの仇とも遭遇できる。2人の仇も討てる。
誰が仇だったかなんて、殺した後に確認すればいい―3人殺しの、ご褒美の権利で。
いや、太一の方は犯人が持ち去ったゴーグルで確認できたのだっけ。
ともかく……殺していけばいい。
2人の仇を取ったあとどうするかなんて、その時になってから考えればいい。
この島から、優勝なんて狙う馬鹿野郎が全部いなくなってから考えればいい。
キルアの口元が、楽しげに吊りあがる。酷薄さも孕んだ、危険な笑みを形作る。
どこか楽しげに、どこかからかうように言葉を紡ぐ。なぜなら。
「で、それをわざわざ聞いて、明神弥彦はどうすんだ?」
「なら……俺は、お前を止めなきゃならねぇ」
なぜなら―
弥彦がキルアの返答を予測できたように、キルアも、なんとなく弥彦の答えが分かっていたのだから。
432:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:03:07 ADk0aTmm
支援
433:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:03:45 ADk0aTmm
434:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:04:04 NXBXpcLB
※ ※ ※
明神弥彦は、未熟な身ながら神谷活心流の剣士である。
神谷活心流が目指すのは、人を殺さずして人を活かす、活人剣。
そして背に負うた刀は、かつての人斬り抜刀斎が不殺(ころさず)の信念を誓った逆刃刀・真打。
明神弥彦は、その双方を自らの目標とし、生きる道としたのだ。
だから……彼が後悔するとしたら、ただ一点。
手の届かない者を助けようとして突っ走り、手の届く位置にいたはずの者を守れなかったこと。
目に映る者全てを守りたいと思っても、弥彦はまだまだ未熟な身だ。
けっきょく、カツオも、太一も、ニアも、守ることが出来なかった。
出会っていたのに……守れたかもしれないのに、届く距離にいたかもしれないのに、守れなかった。
もう、あんな思いは嫌だ。あんな思いを誰かにさせるのも嫌だ。
だからせめて、手の届くところにいる者だけでも。
手の届くところにいる者が、間違った道に進もうとしているのなら。
「なら……俺は、お前を止めなきゃならねぇ。
事情も聞かずに殺すつもりの奴を、そのまま行かせるわけにはいかない」
「おいおい。オレが殺すって言ってるのは、殺人犯だけだぜ?」
「それでもだ。もう、人が殺すのも殺されるのも、御免なんだ。
どんな奴だろうと俺は、この手が届く限り、誰1人たりとて死なせねぇ!」
気に入らない奴・悪い奴は見殺しにしていいのなら、ニアの破滅に心を痛めたりはしない。
きっと、ニアに反発しニアの下から離れ、ニアを破滅させることもなかっただろう。
敵や悪党であっても出来るだけ殺さずに済ませたいと願うのが、明神弥彦という少年なのだ。
弥彦は背に負うた刀をすらりと抜く。
あいにくと今の彼の体躯では、腰に常時差しておくには長すぎる。重すぎる。そ
大人が野太刀を背負うように、いつも竹刀を背負っていたように、肩口から突き出した逆刃刀の柄。
掴んで、抜いて、構える。
その切っ先は自らの正中線上、中段の高さ。教科書にそのまま載せられるような、綺麗な正眼の構え。
「あ? なんだその剣。峰と刃が逆じゃねーか。そんなモンでオレを止めるって?」
「逆刃刀・真打(さかばとう・しんうち)。不殺(ころさず)を誓った、最強のサムライの『魂』だ」
「へェ……。面白ェ。『不殺』と来たか」
キルアの顔が、歪に歪む。笑みと呼ぶにはあまりに攻撃的過ぎる表情。
互いの信念を論じ合っても、言葉だけでは誰も止まらない。
キルアは進もうとするだろう。弥彦は追いすがり立ち塞がろうとするだろう。
そして、いずれ衝突する。
殺し合いに乗っている「敵」と対峙した時か、その「敵」を倒した後かは分からぬが―いずれ、衝突する。
ならば、どちらにとっても、決着は早い方がいい。
弥彦は刀を両手で構え、キルアはだらりと両手を下げた自然体で。
町の外れ、満月の下、2つの墓の前。
じり、と2人は間合いを詰めた。
435:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:04:57 +Mv/7HTg
436:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:05:07 W6GSfBKr
支援
437:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:05:11 ADk0aTmm
シエーン
438:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:05:36 NXBXpcLB
※ ※ ※
(―力量は、そうだな。大雑把に言ってズシと同じくらい、ってとこか)
相手の構えからその力量を推し量ったキルアは、油断なく観察しつつも考える。
才能はある。鍛錬も積んでいる。経験も年齢の割には相当なもののようだし、普通に言って相当に強いはず。
ただしそれも、キルアほどではない。
キルアほどの天性の才はないし、キルアほどの訓練は受けていないし、キルアほどの場数は踏んでいない。
自惚れではなく冷静な判断として、そう見切る。
キルアはポケットに入れていた『コンチュー丹』の容器を一旦手に取り、しかし考え直してまた戻す。
こいつは、今は必要ない。
キルアの性格上出来るだけ慎重を期したいところだが、貴重な消耗品を使ってやる程の相手とも思えない。
素の実力でも、油断や事故が無ければ負ける気はしない―だがしかし、その上でキルアは少し迷う。
弥彦には恨みもない。弥彦は殺し合いにも乗っていない。
弥彦には、殺しておくほどの価値すら見出せないのだ。
ただ、大事な所で邪魔されたくないから早めに対処しておこう、という程度の相手だ。
適当に彼我の実力差を思い知らせてやれば諦めるかな、などと考えた所で、ふと思いつく。
(そうだな……いい機会だし、いろいろ試させてもらおうか)
※ ※ ※
(逆刃刀が、やけに重いぜ……。あんまり、時間かけるわけにはいかねェな)
明神弥彦は、手の内の得物の重さに、内心舌を打つ。
不殺の信念を背負わされているから―だけではない。それもあるが、もっと物理的な意味だ。
元々、それが普通の日本刀であっても、今の弥彦の身体には大きすぎ重過ぎる。
銀髪の大槍使いを前に、桜観剣そのものでなくその鞘を武器としたのも、1つにはそれが理由だ。
普段弥彦が振り回している得物は、木刀よりもさらに軽い竹刀でしかないのだ。
さらには、弥彦は今日一日で随分と走り回っている。
千秋と「バンコラン」を探し午後一杯走り回り、日没後にタワーまで駆け戻り、そのまま非常階段を登り切り。
さらには粗末なものとはいえ、人間1人が納まるほどの穴を掘り、墓を作って―
既に、相当に疲労しているのだ。
食事も休憩もロクに取っていない。年齢の割には体力がある方だが、それでも限界が近い。
刀の重さも考えに入れると、長期戦は自分に不利。弥彦はそう判断する。
『神谷活心流』はどちらかといえば守りに重点を置く流派だが、この際仕方ない。先手必勝で行くしかない。
(悪いけど早めに叩きのめして、そのやばい考えを捨ててもら―ッ!?)
439:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:06:31 ADk0aTmm
440:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:07:13 1gc7/tcB
441:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:07:22 W6GSfBKr
支援
442:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:07:53 NXBXpcLB
自然体のまま、しかし打ち込む隙の見えないキルア。
それでもこちらから攻め込み状況を崩そうと、弥彦は踵を浮かして―驚愕した。
弥彦の呼吸を読んでいたのか、まさにその瞬間に静かに歩き出したキルア。
その姿が、増えたのだ。
鏡写しのようにそっくりの無数の『キルア』が音も無く出現し、弥彦を取り囲む。彼の周囲を歩き出す。
「な―!?」
「―『肢曲(しきょく)』、って言うんだけどな。その様子だと、『コレ』はちゃんと効いてるか」
早いのか遅いのかさえもよく分からぬ速度で周囲を回りながら、無数のキルア「達」が一斉にニヤリと笑う。
弥彦は瞬時に理解する……これは、あくまで「錯覚」だ。
実際にキルアの数が増えているわけではない。緩急のついた独特の歩方で、残像が残って見えているだけ。
四乃森蒼紫の『流水の動き』と同系統の、『技術』であり『体術』なのだ。
ならば。
「なら……キルアは『1人』だっ!」
幻惑して隙を突こうとしているのを承知の上で、弥彦は雄叫びと共に『キルア』のうちの『1人』に斬りつける。
たまたま『本物』に当たればよし、外れても『本物』のキルアが襲ってくるはずだから、そこを返り討ちにする。
かなり不利で危険な賭けだが、しかし他に策が思いつかない。長々と悩んでいる時間さえ惜しいのだ。
果たして逆刃刀は予想通りに空を切り、同時に弥彦の背後で『誰か』が跳躍する気配がする。
(上から?! って高っ! 剣心並みの跳躍じゃねーか!)
咄嗟に振り返って、また驚愕。
キルアの身体は、ちょっとした家なら飛び越えられるくらいの高さにあったのだ。なんという脚力か。
だがそこは、飛天御剣流の戦いを間近で見続けた弥彦だ。瞬時に気を取り直す。
頭上を取られたのは確かに痛いが、こっちにだって迎撃用の技くらいある!
逆刃刀を構えなおした弥彦は、そして。
「撃ち落してやるっ。龍翔閃・抵(りょうしょうせんもど)―!?」
「ほとんど『練(れん)』はなし、だと、どうかな……『鳴神(ナルカミ)』」
空中のキルアの手元が小さく光ったかと思った次の瞬間。
小規模な落雷が、弥彦の身体を貫いた。
目も眩む閃光。過去に味わったことのない衝撃。形容の言葉も見つからない体の痺れ。
明治初頭の日本に生を送る弥彦には、「感電」という単語すらも咄嗟に思い浮かばない。
ただ、逆刃刀から伝わってきた正体不明の感覚に、ただ混乱する。
妖術か魔法としか思えぬその技に、とにかく混乱する。
膝を着きそうになるのを必死に堪え、ガクガクと震える脚で必死耐える弥彦。
その視界の片隅に、キルアがストンと着地する姿が映る。
(……やばっ! このままじゃ……やられるっ! 動け、俺の身体っ……!)
「ふ~ん、この程度のオーラ量で『発(はつ)』すると、こんなもん、っと……。
じゃあ今度は―『拳』に『60』、『身体』に『40』。これだと、どうなるかな」
443:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:08:12 ADk0aTmm
444:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:08:17 svSQgIlc
445:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:09:04 ADk0aTmm
446:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:09:23 q8pNJctX
447:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:09:50 NXBXpcLB
キルアが何やら意味不明なことを呟いているが、弥彦には詳しく考える余裕がない。
痺れの残る弥彦に無造作に近づいてきて、これまた無造作に殴る。避けようとするが、間に合わない。
まるで手甲でもしているかの如き硬い拳が、弥彦の鳩尾に突き刺さる。
(な、なんだこの硬さッ! 暗器を持ってる……ってわけでもねぇのか!?)
込み上げてきた酸っぱいものを吐きながら、それでも弥彦は「あえて殴り飛ばされる」。
瞬時の判断で、逆らわずに吹っ飛ぶことでその身に受ける衝撃を最小限に留める。
そういえば飯も喰ってない。胃液と唾液が混じっただけの苦い吐瀉物の味に、弥彦は顔を顰める。
それでも血の味が混じってないということは、内臓へのダメージは大したことではないということだ。
もっと酷い暴行を受けたことだってあるのだ。この程度なら、まだまだやれる!
むしろ間合いが開いた今が好機と、反撃に移ろうとして―
ぴたり。
いつの間にか爆発的に距離を詰めてきたキルアの手の平が、弥彦の胸に当てられていた。
ぞくり、と背筋が凍る。
そのあまりに素早い突進速度に、ではない。先ほどの情報交換の時に聞いた話が、ふと思い出されたのだ。
確かキルアは、銀髪の大槍使いの少女の、心臓を……!
「―なっ」
「『雷掌(イズツシ)』―」
心臓を抜かれる、と思った次の瞬間、しかし弥彦の身体を襲ったのは先ほどの落雷の時と同様の衝撃。
今度は放電ではなく通電―スタンガンの如きもう1つの電撃技、『雷掌(イズツシ)』だ。
やられた当人には理屈も原理も分からない。
ただ、弥彦にも分かったことが2つある。
キルアはその超人的な体捌きに加えて、『雷』を自在に操れる神秘の力を持っている。
そして、それらの力を持っていながら。
「っと、なるほどね。この程度の力なら、このくらい、と。
じゃあ次は―『拳』に『70』。続いて、『足』に『65』、だとどうかな」
電撃に痺れた身体に、さらに鉄塊を叩き付けるかのような拳撃と蹴撃を浴びながら、弥彦は確信する。
キルアは……こいつは、「実験」している!
弥彦と戦いながら、手加減しながら、自分の能力を、その威力を、ひとつひとつ確かめている!
弥彦を相手にしながら……全力を、出していない! 全力を出す価値すら、認めていない!
(ちく、しょうっ……!
何が10歳としては「日本で」一番強いかもしれない、だ。やっぱりそんなの大した意味ねぇじゃねぇか!)
キルアとは何歳も離れていないようにしか見えないのに、この有様だ。
どう見ても日本人には見えぬキルアを前に、弥彦は己の無力さを呪う。
殴られ、蹴られ、反撃は悉く宙を切り、合間合間に電撃を受け、痺れて焼かれ。
手も足も出ない一方的な状況の中、弥彦は怒りと悔しさに涙を滲ませた。
448:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:10:01 nq6/8vp5
449:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:10:37 ADk0aTmm
450:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:11:08 NXBXpcLB
※ ※ ※
(うん、大体分かってきたな……)
弥彦を一方的になぶるように痛めつけながら、キルアは1人自信を深める。
そう……弥彦の読みは、正しい。
キルアがやっていたのは、「実験」であり「テスト」である。
自らに課せられた「念能力」への「制限」。その程度を測るための「実験」だ。
電撃を放つ前に溜めるオーラの量。それによる稲光の強さに、実際に人に当てた時の反応。
念の基本技術である「流(りゅう)」による、拳や足の強化……それも、様々に度合いを変えて。
念ではないが、「肢曲」のような暗殺者の体術も。
実力差があるとはいえ、実戦の中で試し、用い、具合を確認したのだ。
元々キルアは、精密なオーラの操作を得意としている。
1%の狂いもなくオーラを身体の各所に振り分ける「流」の正確さは、師の1人であるビスケも認めるところだ。
自らの能力を正確に把握し、理解し、使いきる。それがキルアの真骨頂。
だがしかし、だからこそ、だったのかもしれない。
彼は、このジェダによる殺し合いの場で……致命的なミスを犯した。
手加減の度合いを、間違えた。殺す気のない相手を、殺してしまった。
理由は、「制限」。
それは、この島に来て始めて本格的に使った念能力。実験も試し撃ちもない、ぶつけ本番の一撃。
そのせいか、自らの身に課せられた枷の重さを多めに見積もってしまい、強すぎる雷を撃ってしまったのだ。
己のプライドに賭けて、二度とあんなミスは犯さない。
そのために必要なのは、正確で精密な自らの能力の再認識。
「制限」でどの程度能力が落ちることになるのかを、自らの身で把握しなおすのだ。
どうせ弥彦を叩きのめさねばならぬのなら、これは一石二鳥。実戦の中でしか掴めないことも多いのだ。
そんなわけで、手加減しながらも正確さを志し、戦いを続けてきたキルアだったが。
色々と試したお陰で、ほぼそちらの目的は達したと言っていい。
「制限」によってどの程度の目減りが見込まれ、どの程度の威力低下があるのか、ほぼ完璧に把握した。
もうこれで「のび太」の時のようなミスはしないだろう―だが、計算違いは、別の部分にあったわけで。
「それにしても……タフな奴だな。おい、いい加減辛いだろ?
そのまま寝とけよ。邪魔さえされなきゃ、オレはそれでいいんだからさ」
「まだ……まだぁっ……!」
キルアの計算違い―それは、殴れど蹴れど倒れない弥彦の存在だった。
確かに急所は打っていない。内臓も潰していないし骨も砕いていない。顎や頭も打っていない。
体中に青痣と、掠り傷と、電撃による火傷が刻まれていたが、いずれも致命傷には程遠い。
どれもただ、「痛い」だけだ。
出来ればサンドバック役として長く立っていて欲しかったから、あえて決着を引き伸ばしていたのだが―
いい加減、うんざりしてきていた。
この辺で気絶でもしてくれれば、ちょうど都合がいいのだが。
「だってお前、勝ち目ねーじゃん。
そっちの刀、全然オレの身体に当たってねーし。何回か惜しい時もあったけどさ。
どうせ無理だから、さっさと諦めなって」
「神谷活心流は、活人剣……。活人剣を振るう奴には、どんな負けも許されねぇんだよっ……!」
いい加減苛立ちすら感じ始めたキルアの前で、そして弥彦は、言葉とは裏腹に、おもむろに刀を納めてみせた。
451:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:11:46 ADk0aTmm
452:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:11:59 q8pNJctX
453:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:12:29 NXBXpcLB
※ ※ ※
(そう、俺には敗北が許されない……!)
神谷活心流は、活人剣。
人を守るために振るう剣であり、人を守るための剣だ。
1本の剣に、自分と守ろうとする者、2つの命運を賭ける。それが活人剣。
ゆえに、負ければ自分は勿論、守ろうとした者の命運をも尽きてしまうのだ。
ここでキルアを逃したら、彼は必ずやあの犯人に追いつき、殺すだろう。
釈明も弁明も改心も懺悔も許さず、雑草を刈り取るように命を奪ってしまうのだろう。
そしてそれは、弥彦にとって望ましい話ではない。
剣心の過酷な戦いを間近で見続けてきた弥彦は、よく知っているのだ。
悪党と一言で言っても、進んで悪の道に堕ちた者ばかりではない。
哀しい過去、致し方のない経緯、理不尽としか言えぬ運命。
そういったものを背負った、被害者とでも呼ぶべき殺人者たちを、どれだけ見てきたことか。
彼らの存在を思い出せば、「殺し合いに乗ってる奴は全部殺せばいい」なんて、安易に言えるはずもない。
だから。
刀を一旦納めて、鞘ごと背から外す。
外したそれを、改めて左腰に差しなおす。余裕なのか好奇心からか、幸いキルアは動かない。
そのまま左手を鯉口に、右手を柄に添えて腰を落とせば―その姿勢は。
「へぇ、居合いか。なるほど、考えたもんだ」
「…………」
キルアが楽しそうに口笛を吹く。が、その細められた目は笑っていない。
彼も分かっているのだ。この構えの特性が。
数多の剣術の中でも、居合いは「後の先」を取ることに特化した構え。カウンターこそがその本領。
これなら、キルアのスピードも捉えうる。
素手と刀のリーチの差で、先に攻撃を叩き込める可能性がある。
弥彦もあまり慣れてない構え、長すぎる刀、抜刀には向かぬ逆刃の刀……不利な条件は揃っていたが。
それでも、この構えに賭ける。
この構えから繋がる、わずかばかりの勝機に、全てを賭ける。
454:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:13:06 W6GSfBKr
支援
455:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:13:18 q8pNJctX
456:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:13:43 ADk0aTmm
457:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:13:59 NXBXpcLB
(さっきまでだって、ただ殴られてたわけじゃねぇ。
既に手は1つ打ってる……そしてまだキルアは、「気付いてない」。
だけど、「それだけ」じゃきっと「届かない」。「それだけ」で勝てる甘い相手じゃねぇ……!)
己の懐にある「あるもの」を意識しつつ、今はキルアの動きに集中する。
基本的に「待ち」の姿勢である居合いの構えだが、しかし持久戦になれば弥彦が圧倒的に不利。
しかし、弥彦はその部分は心配していなかった。何故なら。
「気付いてるだろうけどさ。オレ、ずっと手加減してたんだよね。
これ以上やるってんなら、もう手加減やめるぜ? お前、本気で死ぬぜ?」
余裕を見せているキルアの声に、微かに抑えきれない苛立ちが混じり始めている。
もう一押し。あと一押しで、きっと、望んでいたチャンスが。
「やって、みろっ……! 出し惜しみしか出来ないお前に、出来るもんならなっ……!」
「ふーん、そう。じゃぁ……」
キルアが何気ない呟きを漏らした、次の瞬間。
彼の身体が、掻き消える。
いや、消えたのではない―人間の意識が追いづらい、タテ方向の高速移動。
キルアの手の間に、紫電が走る。
念能力者でなくとも分かる、素人目にも分かる。今までの比ではない威力の電撃、その予備動作。
刀も届かぬ距離、まともに喰らえば黒焦げになること必至の大技を前に、それでも、弥彦は。
「じゃあ……死になっ!」
(剣心―技を借りるぜ!)
弥彦は、未だ勝負を諦めていなかった。
458:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:14:55 q8pNJctX
459:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:15:08 W6GSfBKr
支援
460:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:15:17 NXBXpcLB
※ ※ ※
「じゃあ……死になっ!」
両足に念を込めて、一気に跳躍。
頭上を取って、「練(れん)」で練り上げた大量のオーラを両手の間に溜める。
「制限」下における、今のキルアの最大出力だ。
弥彦が居合いの構えで刀の間合いを制するのなら、「そのさらに外側」から攻撃すればいい―。
幻影旅団のノブナガよりは遥かに劣る相手、突進して接近戦を挑んでも十分に勝ち目はあったろうが。
間合いという一点に限れば、ナイフやブーメランを投げても良かったのだろうが。
なんとなく……腹が立って仕方なかった。
弥彦の諦めを知らない瞳に、責められているような気分になってしまった。
どこか見覚えのある瞳。それはそう―ゴンが追い詰められた時のような。太一が垣間見せたような―!
(……ふざけるな! あいつらと一緒なんて……認められるかっ!)
思わず脳裏に浮かんでしまった、気の迷いを振り払うにも。
全力で叩き潰さないと、気が済みそうにない。
弥彦がこれで死んでも知ったことか。
全オーラを電気に換え、弥彦の頭上から叩き付ける。
並みの人間はもちろん、生命力あるキメラアントが相手でも即死しかねない出力で。
「見様見真似―」
「遅ぇ! ……『鳴神(ナルカミ)』―!」
2つの墓の傍、眼下の弥彦が「何か」をしようとしている。
抜刀術の構えで、身体ごとその場で一回転。
だけど、この距離、この高さだ。何をしようとも、雷が落ちる方が早い!
必殺の確信を持って、キルアは電撃を放って―
落雷の轟音が、弥彦の技の宣言の後半を掻き消して―
同時に、弥彦の左腰から、「何か」が弾丸のような勢いで撃ち出されて―
けれどその方向は、キルアに当てるには、狙いがズレていて、技の出だしを潰すにも遅すぎて―
キルアは、目を見張った。
(な……? 『鳴神』が……電気が、曲が、るっ……!?)
眼下には、逆刃刀の鞘を突き出すように持つ弥彦の姿。
スローモーションのようにゆっくりと進む時間の中、キルアは確かに、弥彦の目が笑うのを見た。
461:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:15:26 nq6/8vp5
462:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:15:46 ADk0aTmm
463:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:16:01 nq6/8vp5
464:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:16:48 NXBXpcLB
※ ※ ※
それは、一瞬の出来事だった。
キルアの手から放たれた雷は、地上の弥彦を狙った雷は、しかし虚空で僅かに進路を変えて。
虚空に投げ出された「鉄の棒」……『逆刃刀・真打』に命中し。
刀を伝わった電光はそのまま逸れ、弥彦の傍ら、やや離れた位置にある巨大な鉄の板に誘導される。
そう、それは―トンネルを塞いでいた鉄扉を用いて立てた、八神太一の墓。
キルアが太一のために、と立てた「立派な墓」が、キルアの技を逸らす。受け止める。大地に放電する。
弥彦を傷つけることなく、弥彦を守る。
(よしっ、読み通り―!)
キルアの持ち技の1つ、『鳴神(ナルカミ)』。
変化系能力者が不得意とする遠距離攻撃、放出系能力であり―
不得意な部分を補うために、雷としての特性を模倣した技。
だからそれは、近くに「避雷針」があれば対象に当たらない。
明治時代の弥彦だって、雷が高い所に落ちることくらいは知っている。
門扉だけでは高さが足りず尖ってもおらず、雷が導かれることもなかったが……そこに逆刃刀を加えれば。
タイミングを合わせて、太一の墓に沿うよう逆刃刀を撃ち出せれば。
それは「読み通り」というより、髪の毛ほどに細い可能性に全てを賭けた一撃であったのだけど……!
『見様見真似・飛龍閃・改(みようみまね・ひりゅうせん・かい)』。
かつて緋村剣心が石動雷十太の『飛飯綱(とびいづな)』を前に撃ち放った抜刀術、『飛龍閃(ひりゅうせん)』。
居合い抜きの動作そのままに、しかし柄に手を添えず腰の捻りだけで剣を撃ち出す、奇想天外な飛び道具。
本来は地面と平行に撃ち出されるはずの刀、そこに弥彦は独自のアレンジを加えて。
撃ち出す瞬間、鯉口を押し上げ、足腰のバネも利用して、斜め上方に発射したのだ。
いわばこれは、弥彦オリジナルの対空迎撃技。
居合いの構えで牽制すれば、キルアがこの「刀よりも間合いの広い」技を使ってくることは容易に予想できた。
そして『飛龍閃』とは、剣士には不利な遠距離の間合いを制することに価値がある技。
優れた弟子は師の模倣だけに終わらない。
その術理の本質を見抜き、自分なりの応用をしてこそ、なのだ。
だがしかし、今この瞬間、これで終わってしまえば意味が無い。
絶妙のタイミングで、ぶつけ本番のオリジナル技を成功させはしたが、しかしそれは一撃を避けただけ。
あさっての方向に飛んでいってしまった逆刃刀・真打を拾うヒマは、おそらくない。
だが焦ることなく、素早い動きで、弥彦は懐から「とあるもの」を取り出す。
それは先ほど一方的に殴られていた時に確保した、「逆転の切り札」。
迷うことなく手に取ると、彼は「それ」を、口に含んだ。
465:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:17:01 ADk0aTmm
466:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:17:47 nq6/8vp5
467:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:18:42 W6GSfBKr
支援
468:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:18:53 NXBXpcLB
※ ※ ※
(焦るな、たった一発、かわされただけじゃないか―!)
空中のキルアは、瞬時に意識を切り替えようとした。
ありったけのオーラを注いだ一撃をあんな方法で避けられたのだ、当然動揺はある。
避雷針代わりに太一の墓を利用されたことも、正直言って腹立たしい。
けれど、今考えるべきはそんなことではなく。
空高く跳躍したキルアは、未だ自由落下の途中にあって―
念を、電気を一旦使い切った今の状況では、空中での行動の自由はほぼなくて―
つまりは地面に着地までの数秒にも満たぬ時間の間、無防備になってしまう。
低威力でも『鳴神』が当たっていれば、そんな心配はせずに済んだのだが。
(いやしかし、奴は『隠し札』とも言えるあの技を使った直後だ。もう武器もないし、やれることは……!?)
もうやれることはない、と冷静に判断しかけたキルアは、そしてすぐに驚くことになる。
弥彦が何かを口に含んでいる。見覚えのある容器から出した丸薬を、口に放り込んでいる。
あれは……! キルアは咄嗟に自らのポケットを探る。ない。
(こ……『コンチュー丹』!? いつの間に掏り取られた!? 構えを変える前、一方的だった時か!?)
確かにあの時、手の届く距離に何度も入った。弥彦も空振りばかりだったが、何度も反撃してきた。
キルアも頭に血が昇ってきていたし、チャンスはいくらでもあったと言っていい。
しかし、こんなに鮮やかに……! キルアだってそれなりに心得があるのに!
そして次の瞬間には、キルアは自らの動揺そのものを後悔する。
動揺してポケットを探っているヒマがあったら、ナイフなり何なりを投げておけば良かったのだ。
ランドセルから殺虫剤を取り出すのも、もう間に合わない。
気付いた時には自由落下するしかないキルアに合わせ、弥彦が大地を蹴っている。
蟻のパワーと蝶の身軽さ、蜂の素早さ。いやしかしこのジャンプはまるでバッタの跳躍だ。
念能力者の本気の跳躍にも負けぬ勢いで、弥彦が迫る。
飛天御剣流の継承者にも匹敵する脚力で、弥彦が跳ぶ。
そして、その手には。
「おおおおっ、『龍翔閃・抵?(りゅうしょうせんもどき)』っ―!」
「くうぅっ!」
469:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:18:57 ADk0aTmm
470:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:20:14 5oMrYyqp
471:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:20:26 nq6/8vp5
472:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:20:30 NXBXpcLB
衝撃。
下からかち上げるように、黒い棒状の凶器が振り上げられる。
なんとかキルアは両腕を交差させ、僅かに残ったオーラを集めてブロックする。
刀のように振るわれた凶器の正体―それは『逆刃刀・真打』の鉄拵えの『鞘』。
飛天御剣流の抜刀術は、全て隙を生じぬ二段重ね。
ゆえに「二の手」として使われることの多い鞘にも、十分以上の強度が求められる。十分に、『武器』になる。
(それでも、なんとか止めたっ! これでこっちにも、反撃のチャンスが―)
「まだだッ! 見様見真似・龍槌閃(みようみまね・りゅうついせん)っ!!」
「!!」
反撃のチャンスもなく、空中で弥彦が一回転する。
下からの攻撃を止めたばかり、姿勢の崩したキルアの頭部に衝撃が走る。
念によるガードすら、間に合わない。
目の前に火花が散る。脳が揺さぶられる。意識が刈り取られる。
そのまま成す術もなく、気を失う直前。
キルアが考えたのは、ただ1つ。
(畜生っ……。
やっぱコイツも、「最初っから」殺しにかかっておくんだったぜ……。
もし、「次」があるなら、必ず……!)
もしもこの後、意識を取り戻すことがあるのなら。生き恥を晒し命を永らえることになるのなら。
次からは、容赦しない。
殺し合いに乗ってる奴は最初から殺す。疑わしい奴も最初から殺す。
そして、キルアを邪魔する奴も、容赦なく完全に殺す。
全部、片っ端から、殺す。
呪詛にも近いどす黒い誓いを胸に抱きつつ、キルア=ゾルディックは、そして意識を手放した。
※ ※ ※
473:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:21:14 ADk0aTmm
474:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:22:06 W6GSfBKr
支援
475:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:22:14 NXBXpcLB
居合いの構えで相手を威嚇し、遠距離技である『鳴神』をあえて撃たせる。
『飛龍閃』の派生技で逆刃刀を撃ち出し、それを避雷針にして直撃を免れる。
相手が驚いた隙を突き、予め掏り取っておいた『コンチュー丹』を口に含み、彼我の身体能力の差を埋める。
掏り取りの事実に動揺する隙を突き、逆刃刀の鞘で『龍翔閃』の模倣技。脚力の不足はコンチュー丹で補う。
そして、最後のトドメとして、『龍槌閃』の模倣技―。
要約すればたった5行。時間にすれば数秒にも足りぬ間の攻防。
しかしこれのみが、弥彦の見出した僅かな勝機だった。
単に掏り取ったコンチュー丹を使っただけでは、きっと勝てなかっただろう。
キルアが弥彦に勝っていたのは身体能力だけでなく、戦闘技術全般だったのだから。
「まったく、俺のスリ技はどこまでも役に立ちやがる……。喜んでいいんだか」
弥彦は荒い息をつきながら、飛んでいった逆刃刀を回収して戻ってくる。
二人の激闘の跡の残る墓の前には、白目を剥いて気絶したままのキルアの姿。
コンチュー丹で得た怪力で、思いっきり頭を殴ったのだ。簡単には目覚めるまい。
頭蓋骨の中でも特に硬い所を狙って振り下ろしたから、後遺症などはないと思うのだが……。
「で……どうするかな、こいつ」
疲労困憊、全身アザだらけ。戦いの前半は避けたいと思った持久戦にもなってしまっていた。
自分自身も倒れる寸前の身体で、それでも弥彦は思案する。
それは、そう。シャナに最初に会った時、彼女から出されていた「宿題」。
『考えてみればいい。おまえが殺さなかった敵はその後どうするの?
ここには犯罪者を捕まえる警察も、拘置しておく刑務所も、裁いてくれる裁判所もないのに。
おまえの言う“不殺”はこれらなしでも成り立つものなの?』
後回しにしてきた問いかけが、今になって弥彦の所に戻ってくる。
このキルアをどうするべきなのか。
殺すべきか、放置すべきか、手足の腱でも切って身動きできないようにしておくべきか。
頭に浮かんだいくつもの選択肢に、しかし弥彦は。
「……どれも論外だろっ!!」
476:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:22:32 ADk0aTmm
477:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:22:59 nq6/8vp5
478:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:23:15 ADk0aTmm
479:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:23:24 NXBXpcLB
一声吼えると、頭から血を流すキルアの身体に手を伸ばす。
殺すことなんて出来ない。それをしたら、弥彦はキルアを否定できなくなる。
放置することも出来ない。「バンコラン」やそれに類する殺人者に見つかれば、そのまま殺されて終わりだ。
手足の腱を切る? 何だその悪趣味なアイデアは。考えるまでもなく却下に決まってる。
そう。敵対こそしたけれど。意見の相違こそあったけれど。
キルアもまた、弥彦が守りたいと思っている命の1つであることには変わりがない。
そして、そんなキルアが血を流し、怪我を負い、気を失っている。
となれば、今やるべきことは1つしかない。
「病院は……アッチか。待ってろよ、すぐに手当てしてやるからな」
脱力しきったキルアの身体を背負い、彼の荷物も両手に提げて、弥彦は沼の中央を抜ける道を走り出す。
ニアのことも、千秋のことも、「バンコラン」のことも、全て後回しだ。
キルアが追うつもりだった「犯人」のことも、後回し。
もう少し具体的な手掛かりがあったら違う判断をしていたかもしれないが、今は苦渋を呑んで後回しだ。
ひょっとしたら後で後悔することになるのかもしれないが、今はまず、キルアを助ける。
目に映る全ての人を守れる程の力はまだないけれど、せめて、手の届く所にいる命だけでも守りたい。
「目が覚めた時に気が変わっててくれりゃ、いいんだけどな……。
そうじゃなかったら、また仕切り直しだ。何度でも、叩きのめしてやる」
正直、再戦するとなったら弥彦が圧倒的に不利。あんな奇策、そうそう何度も通じるものか。
それでも、弥彦は諦めない。弥彦は折れない。弥彦は挫けない。
自分は決して強くない、だからこそ何度でも挑もう。何度でも繰り返そう……他に手段が、無いのなら。
「ぐっ……おおっ……! お、重てぇっ……!」
跳ぶように沼地の間を走りぬけ、古びた塔が見えてきたところで。唐突に弥彦の動きが鈍くなる。
コンチュー丹の効果が切れたのだ。
元より疲れきった満身創痍の身、荷物がなくとも限界間近。
蟻の怪力・蜂の素早さがなければ、とてもではないがヒト1人を背負って歩けるコンディションではない。
思わず意識が遠のきかける。膝を屈したくなる。何もかも投げ出して眠りたくなる。
だけど。
「負けるっ……もんかっ……! 見捨てる、もんかよっ……!
それじゃこいつと、キルアと、一緒になっちまうっ……!」
あと少し。あと少しで廃墟の町に辿り着き、立派な病院に辿り着けるのだ。
だから、そこまでは。
頭上の満月は変わらず煌々と輝き続け、辺りには人の気配もなく。
忘れ去られたかのような静かな廃墟の町。
弥彦は蛞蝓が這うような速度で、しかし決して歩みを止めることなく、足を踏み入れた。
480:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:24:31 5oMrYyqp
481:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:24:38 NXBXpcLB
【F-8/廃墟群外周部/1日目/深夜】
【明神弥彦@るろうに剣心】
[状態]:疲労(極大)、全身に打撲と青痣と擦り傷と火傷。背中にキルアを背負っている
[装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心、サラマンデルの短剣@ベルセルク
[道具]:基本支給品一式、首輪(美浜ちよ)、核鉄(バルキリースカート)@武装錬金
コンチュー丹×5粒@ドラえもん、
[服装]:道着(ドロと血と吐瀉物で汚れている。右腕部分が半焼け、左側袖も少し焼けてる)
[思考]:負けねぇ、ぞっ……!
第一行動方針:ひとまず病院に向かってキルアの手当てをする。キルアを死なせない。
第二行動方針:キルアが目覚めたら、人を殺さないよう説得を続ける。必要なら何度でも叩きのめす。
第三行動方針:いい加減、休息と食事を取りたい。
第四行動方針:出来れば南西市街地に点在する死体(しんのすけ・ちよ・よつば・藤木)を埋めてやりたい。
基本行動方針:この手の届く限り、善悪問わず一人でも多くの人を助ける(目の前にいる人を最優先)。
それ以外のことはあえて今は考えない。
[備考]:バルキリースカートは、アームのうち3本が破損した状態です(現在自己修復中)。
コンチュー丹の効果は、既に切れています。
【キルア@HUNTER×HUNTER】
[状態]:疲労(中)。頭を強く殴られ気絶。頭から流血。
[装備]:ブーメラン@ゼルダの伝説、純銀製のナイフ(9本)、
[道具]:基本支給品×3、調理用白衣、テーブルクロス、包丁×2、食用油、 茶髪のカツラ
天体望遠鏡@ネギま!、首輪(しんのすけ)、水中バギー@ドラえもん、
殺虫剤スプレー、ライター、調味料各種(胡椒等)、フライパン
[思考]:…………。
第一行動方針:殺し合いに乗っている者・乗ろうとしてる者は容赦なく殺す(間違えても気にしない?)。
第二行動方針:キルアを邪魔しようとする者も容赦なく殺す。
第三行動方針:太一とゴンの仇をとる。ゴーグルも取り返す。
基本行動方針:仇討ちも兼ねて、殺し合いに乗っている者を積極的に探して殺していく。
いわゆるマーダーキラー路線。その後のことはあえて今は考えない。
[備考]:自らの念にかけられた制限、制限下における念能力の効果を、ほぼ完璧に把握・理解しました。
キルアの怪我の程度(特に、最後の頭部への打撃のダメージ)は、後続の書き手にお任せします。
482:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:24:42 nq6/8vp5
483:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:25:37 NXBXpcLB
以上、投下完了。支援感謝です。
wikiに収録する際は、おそらくギリギリで分割が必要になるラインだと思います。
一気に収録できるのなら、それに越したことはないのですが……。
あと、作中で「龍翔閃モドキ」の漢字が一部文字化けしてしまったようです。
wiki収録後に、なんとかします。中国語を引っ張ってくることになりますかね。
キルアが起こした『鳴神』の光と音は、シャナに影響を与えずに済むと思います。
墓作りで時間をかけている間にシャナは移動を開始しており、あるるかんの確保と練習をしていますから。
逆に、シャナが起こしたタワーの爆発も、既に弥彦が移動していて「気付かなかった」で済むと思います。
484:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:26:01 ADk0aTmm
485:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:28:42 W6GSfBKr
投下乙です
ジャンプキャラ同士の戦闘か
圧倒的不利をひっくり返した弥彦は凄い
でもそのせいでキルアの思考が何か恐ろしげなことにw
目覚めた時が怖いなw
486:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:43:42 7v7+rbsx
投下GJ
このロワはマーダーよりマーダーキラーの方が過激なのは何故だw
弥彦は決意固めてから格好いいなぁ。主人公気質だ。
キルアは初めての敗北かな?変なスイッチ入りましたー
キルアって思い込むと周り見えなくなって暴走するタイプだぞw
今のキルアはなのはさんと気が合いそうだ。
信念貫く道は険しいが弥彦頑張れーGJ
487:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:51:44 zSzv4GPp
投下乙!
キルアが目覚めたときが怖くもあるが楽しみでもある
頭への一撃はイルミの針への布石になるか
488:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 21:37:59 ShFhzd8w
投下乙
基本方針からも明らかに対極な二人の対比が見事だった
弥彦の頭脳プレイもるろ剣っぽさが出ててよかった
気絶直前、「弥彦を殺す」とか言い切っちゃってるキルアが今後の不安要素かな
数少なくなったショタのうちの二人には頑張って欲しいが
489:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 21:40:04 yJGT6knw
投下GJ
弥彦が主人公すぎる
最初一方的にやられてギリギリで逆転するのはカタルシスあるね
スリ技術役立つなー、さすが元泥棒
信念的にこの二人がぶつかるのは必然だけど……キルアがテンパリモード入ってしまったw
これは目覚めたときが楽しみだ
490:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 21:48:27 0JE4MS2+
奇しくも一対一の戦い×2になった構図か、南西エリア。
キルア、前向きなようでいて徐々に危なくなってきたな。
そして弥彦は……よく頑張ったものだ。上手い。
方向性も見つめなおせていて、爽やかだ。GJ。
491:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 22:09:15 8pXQXayW
圧倒的な戦力差を覆した弥彦には見事の一言。
しかしほんとに南西には人がいなくなったなwキルアが起きない限りは平和そうだ。
怪我の治療したら動きぐらい拘束しておけよーwああでも通用しなさそうだ。
誰かー誰かきてー
信念のぶつかり合いが凄くよかった。この前の乙女対決といい宗教対決といい名勝負がおおいLSロワだ。
キルアのテンパリモード始動とさりげない爆弾を設置していく手腕はさすがです。
492:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 22:13:35 1gc7/tcB
弥彦がんばれ
すごくがんばれ
493:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 22:27:42 E9cRwljC
投下GJ。キルアはどう転んでも中央に行くだろうと思っていたから驚いた。
先がどうなるか不透明だけど、少なくとも今はちゃんと信念を貫けたな、弥彦。
演出的には太一の墓が雷撃逸らしたのが印象深い。
494:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 23:24:47 dj1ECuBK
弥彦がんばったな、乙!
病院か・・トマ達とはタイミング的に会えないっぽいな
495:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 23:25:41 dj1ECuBK
スマソsage忘れた・・・orz
496:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 23:51:22 E9cRwljC
と、忘れてた。状態票は真夜中の間違いかな?
497: ◆sUD0pkyYlo
08/08/16 00:04:29 1s5nf+gS
……あっ!
すいません、状態票の時間は「真夜中」の間違いです。
本当に申し訳ない。指摘に感謝です。
トマたちとは……双方共に、時間の解釈に相当の幅が取れる状況ですので、自由度は高いと思います。
498:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 00:14:50 0Wcj0gaq
弥彦逃げてー!
499:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 14:06:59 5uHzk3Re
ローゼンメイデン ハリウッドで実写映画化
ワーナーブラザースは15日、『ローゼンメイデン』の実写映画化を正式に発表した。
同作品はPEACH-PIT原作の人気漫画及びアニメ作品で、一部のファンからは熱狂的な支持を得ている。
大ヒットとなった「マトリックス」シリーズを手掛けたウォシャフスキー兄弟が、今回は何とも意表をつく作品に手を出した。
日本のアニメの大ファンで知られる彼らだが、まさかこの作品を手掛けるとは意外に感じるファンも多いのではないだろうか。
『実は2年前からこの作品にハマってしまって、自分の手で実写映画にしてみたいと思っていたんだ』
堰を切ったように、アンディ・ウォシャフスキーは興奮気味に熱く語り出した
『オタク・アニメのカテゴリに分類されて、一般受けしなさそうだという意見もたくさんあったよ。でも僕はそうは思わないんだ。
魂を持つドール達が、愛する父に会うために悲しい運命を辿っていく、これはもう誇るべきストーリーなんだ。
実写にすればこの作品が本来持っている素晴らしさが存分に表現できると確信しているんだ。
だからこそ今回、周囲の反対を押し切り踏み切ったのさ。期待は絶対に裏切らない。
哀しくて儚い、でも美しいアリスゲーム(作中でドール達が戦う行為)をお見せできると思うよ。』
物語の“主役”ともいえる“ドール”は子役にCG加工を加え人形と人間の中間のような雰囲気を出す手法を取るという。
製作の中心となるのは日本製アニメの海外配給を多数手がけてきた米国のADV Filmsで、
製作費は6億ドル、公開は再来年夏になる見通し。
【ジュンが】ローゼンメイデン実写映画化 part5【ジョンに】
スレリンク(comicnews板)l50
500:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:11:05 OoYqOvf3
なのはの人はいつかな?
もうほとんどのキャラが真夜中だっけ?
0時放送は結局どうなったんだろ。
区切りってのは欲しいと思ってるんだけどさ。
501:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:21:02 VSLptOZG
0時になるには北東の連中が動かないとダメやね。
絶賛修羅場中のタバサ回りと耳の皮を被ったホムンクルスが行動直前だ。
502:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:25:55 2QhrPFBQ
タバサは真夜中だからどっちでもいい気がするけどヴィクトリアたちは夜中だからな。
503:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:45:19 dDftSXnJ
現在の予約状況まとめ
予約済 6/34
8/12予約(予約期間 8/19 まで)延長申請
◆iCxYxhra9U 氏:<北西・西> (インデックス、リンク)、(エヴァ、パタリロ)、アリサ、なのは
未予約 28/34
夜中 :<北東> (イエロー、ひまわり)、(桜、雛苺)、レミリア、ヴィクトリア
真夜中:<北西> (紫穂、ヴィータ)、イヴ
真夜中:<北東> (アルルゥ、ベルカナ、梨々、レックス)、(小太郎、蒼星石、タバサ)、トリエラ
真夜中:<中央> (ニケ、ブルー、メロ)、グレーテル、千秋
真夜中:<南西> シャナ、リリス
真夜中:<南> (キルア、弥彦)
真夜中:<南東> (トマ、レベッカ)
休んでいるレミリアはともかく他は描写が必要かもね
504:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 22:09:10 ZGhZoRM3
雛苺組は孤立中だからいらないっちゃあいらないけど
現在行動直前の黄まわりと性悪は描写がほしいね。
505:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 22:45:22 OoYqOvf3
難しそうなパートだなw
QBの監視役としての心情が明かされたりするんだろうか
ここアツイヨ……的なw
506:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 23:34:52 wueHqCcI
ぶっちゃけ死者の放送をしないなら零時のするかなしか先にやっても矛盾は起きないんだけどね。
定時放送の前に足並み揃えるのはそれで矛盾が起きちゃうからだし。
ただ、ここらで足並みを揃えておくと遅れたパートが生まれにくい利点は有る。
507:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 13:16:08 Ho5e6+Ri
>>501
耳の皮って何かと思ったw
508:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 19:07:17 WWkBetUR
転載
948 名前: ◆iCxYxhra9U 投稿日: 2008/08/17(日) 18:25:34 ID:wZtEw0Po0
相変わらず規制中なので、こちらで中間報告。
予約期間ギリギリまでかかりそうです。
投下は明日の深夜に。
多分、前半後半2回に分けての投下になると思います。
509: ◆2G4PiPq.z.
08/08/17 20:57:03 +PImC4Fg
桜、雛苺、小太郎、蒼星石、タバサ予約します。
510:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 21:25:17 PVTQTPt2
期待
511:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 22:20:18 KRcyBy+D
メンツがこええええええww
なのはの人も楽しみにしてますー
512:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 23:30:51 iAcBjYTS
全員対主催なのに死相の漂うやつばかりな北西も気になるが
こっちもどうなるか気になるな。
二つ合わせて死者何人出るんだろうか…
513:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 23:52:10 vqG4Wzfq
これでイエロー、ひまわり、ヴィクトリア、(レミリア)がくれば放送行けるな
514:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 00:11:39 6YFbsCRP
三角関係にマーダー突入かよw
wktkしながら待ってるぜ
515: ◆lr.SvCnhCc
08/08/18 00:11:44 TDm7YGnJ
遅筆ゆえ、かなり前からこつこつ書き溜め進めていましたが、ようやく目処がついたので
ヴィクトリア・ひまわり・イエロー予約します。
516:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 00:47:20 Bh0o0WUa
久々の予約ラッシュktkr
期待してます
517:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 07:33:46 tGRYcKMc
一気にきたー
これは楽しみだ
518:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 20:07:49 dYgiW5BN
代理投下行きます
519:許されざる者 ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:09:11 dYgiW5BN
工場の外壁に背中を預け、アリサ・バニングスは草むらの蔭で膝を抱えていた。
露出の高いチャイナドレス姿のため、腕や太股に葉の先端がチクチク刺さる。
やぶ蚊がいないのが、せめてもの救いだった。そういえば、ここに来てから虫や鳥の類を一匹も見かけていない。
もしかして、参加者以外の生き物は、植物しかいないのかも知れない。
逃避しがちな思考をぐるぐると弄びながら、アリサは先ほどの、親友との決別を振り返っていた。
胸に苦いものが込みあがってくる。
腹立たしく、恨めしく、堪らなくやるせなかった。
友情を拒絶されたことよりも、言い放ったばかりの自分の言葉に、彼女は深く傷付いていた。
―友達になんかならなきゃよかった!
失言じゃない。本音だったからこそ、心が痛い。
友達じゃなければ、こんなに哀しくなかった。
こんなに失望しなかった。
こんなに怒ったりしなかった。
多分、とっとと見捨ててしまえてた。
ああ、本当に友達でなきゃよかったのに。
でも、残念ながら友達だ。
絶対に離れたくない親友だ。
それがよくわかっているからこそ―アリサは傷付かずにいられない。
思えば今までどれほど、なのはの重荷になってきたのだろう。
ずっと、互いに支えあってこれたと思っていたのに。
魔法は使えないけど、魔導師のなのはたちを日常からサポートしてきたつもりだったのに。
いつの間にか、こんなになのはを理想化して見てたなんて、バカみたい。
こんなの友達じゃない。友達って、もっと対等なもののはずだ。
もう、なのはには頼らない。
なのはだって、自分と同じただの人間。失敗することも、間違えることもある。
魔法少女は、完璧超人じゃない。
だからもう、なのはに過度な期待は寄せない。
今までずっと、なのはを頼りにしていた。あたしはもちろん、きっとはやても同じ。
なのはと合流できればなんとかなると思っていたのは、つまり、なのはに頼りきりだったってこと。
でも、もうなのはには頼らない。
守ってもらうんじゃなくて、あたしが守る。
戦ってもらうんじゃなくて、あたしが戦う。
だって、友達だから。
やめたくってもやめられない親友だから。
そもそもあたしたちが親友になったのは、なのはがきっかけなんだから。
絶対に、そのことを後悔させた責任取らせてやる!
そこまで考えて、アリサはようやく俯いたままだった顔を上げた。
真っ赤になった目をごしごし擦り、気合一発、ぺしりと頬を叩く。
一息大きく深呼吸すると、胸の中に溜まっていた重いものが、少し薄らいだ気がした。
『アリサさん、これからどうするんですか』
今まで黙っていたルビーが、おずおずと声を掛ける。
コイツに気を遣われちゃおしまいね、とアリサは苦笑しながら言った。
520:許されざる者(2/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:10:37 dYgiW5BN
「なのはを見張るわ」
『見張るって、こっそりですか?』
アリサは立ち上がりながら頷いた。
「そ。なのはをこっそり見張って、これ以上誰かを殺しそうになったら邪魔をする。
もしも危なくなったら助ける。ルビー、忍者モードってある?」
『忍者? 忍者ですか……。うーん、つまり気配遮断のスキルがあって、尾行が得意ならいいんですね?』
「うん、そんな感じの」
了解です~と言いながら、ルビーは多元転身のシークエンスを起動する。
七色の光に包まれて現れたのは、いつもの和風メイドのコスチュームだった。
「? なんでまた割烹着なのよ」
『それはもう、ご主人に気付かれないように日常生活を余すところなく観察するのもメイドの趣……仕事ですから』
「やなメイドね、それ……」
『でも能力は折り紙付きですよ~。凄腕の暗殺者にだって気付かれたりしません』
「いや、そんなメイド絶対いないから」
だいたい、自宅にメイドのいる立場としては、年がら年中見張られてるなんて堪らない。
まさか、すずかのところのノエルやファリンはそんなことしてないだろう、と思う。
……思う。思いたい。
まさかウチの鮫島も? とか考えると、ひたすら気が重くなる。
というか、具体的に瞼が重くなってきていた。
「あと、かなり眠くなってきたんだけど、コレ、なんとかなんない?」
『ああ、ハードな一日でしたから無理もないですね~。もう夜も遅いですし。
材料さえあればなんとかなりますよ。コカの木かマリファナを探してみましょうか』
「いや、あんたの暴言にはそろそろ慣れてきたけどね? それって麻薬の原料じゃなかった?」
『目が覚める薬というと、つまり覚醒剤ですからね。薬剤師モードになれば作れますよ』
「いや、それなんか違う。てか、なんで作れんのよ。全国の薬剤師さんが怒るわよ?
普通にカフェインとかいう発想は出てこないわけ?」
『だって、それじゃ面白くないじゃないですか』
「面白けりゃいいってもんでもないわよ」
軽口を叩き合いながら気合を入れ直したその時、割烹着メイドの保有スキル『聞き耳:A+』が、
目の前の森の奥から急速に近付いてくる木の葉のざわめきを捉えた。
アリサは一瞬で、警戒態勢に切り替える。
「誰か……来る!」
※ ※ ※ ※ ※
背中で目覚めた少女との対話は、平行線を辿っていた。
自分に非はない、とパタリロは思う。
なにせ、彼女の言うことときたら、「おろせ」「うるさい」「いいからおろせ」「黙れ」「殺すぞ」ばっかりなのだ。
会話が成立するはずもない。
仕方なく、ある意味予定通り、騒ぐ少女を背負ったまま適当に宥めつつ、一路工場を目指すことにした。
どうやら少女は最近流行りのツンデレらしい。なだめるには少々手間がかかりそうだ。
なに、どうということはない。いつものように自分のペースに巻き込んでしまえばいい。
仮にも命の恩人である自分に、それほど酷い噛みつき方はしないだろう。
ただそのためには、こんな座る場所もない藪の中ではなく、落ち着いた場所が必要だ。
521:許されざる者(3/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:12:04 dYgiW5BN
木々を掻き分け、時には枝を体当たりで圧し折り、花も嵐も乗り越えて、パタリロは森を突き進む。
ぺちぺちと顔に当たる枝や葉っぱがうざったいが、話し相手が出来たので、多少は気が紛れていた。
「おろせ」
「せ、せ……セイヨウアジサイ」
「いいからおろせ」
「せ、せ……セイタカアワダチ草」
「うるさい! いい加減、本気で殺すぞ!」
「ぞ、ぞ……ゾーリンゲン。しまった、負けた!」
「黙れ! 誰がしりとりをしろと言った!」
人をおちょくることにかけては時と場所を選ばないパタリロ。
常に自分のペースで物事が進まないと気がすまないエヴァ。
二人の相性は、どうやら最悪なようだった。
※ ※ ※ ※ ※
「もしかして、工場に向かってるのかな」
「わかんないけど、とにかく追いかけるんだよ」
リンクとインデックスは、気付かれないように、エヴァを背負う少年の後を静かに追っていた。
接触して具体的にどうしよう、という考えは、二人にはまだない。
正直、どうすればいいのかわからない。
リンクも、インデックスも、さんざんエヴァに脅された経験があるため、安易に声を掛けられない。
しかもエヴァを背負っているのは、殺し合いに乗った宣言をした、あの最大警戒対象の少年である。
あれだけ特徴的な外見を、見間違えるはずもない。
ほぼ、敵対確定。
普通なら、さっさと逃走するのが正解だろう。
しかし、このまま立ち去ろうという考えも、二人にはなかった。
見過ごせない。
エヴァが敵なのか仲間なのか、それすら定かではなかったが、二人の意見は一致していた。
もともと、工場にいるであろうヴィータの説得が目的だったのだ。
仲間だった者を見捨てる選択なんて、はじめから持ち合わせていない。
味方なら助け、敵対するなら説得する。そのつもりだった。
見たところ、エヴァと少年はなにやら言葉を交わしているようだ。
遠目なのでよくわからないが、少なくとも和やかには見えない。
かといって、致命的に険悪な雰囲気でもない。
どうにも判断に困る状況だ。
道なき道を突っ切っているため、容易に追いつけないが、見失う心配もない。
なぎ倒された枝や踏まれた草木を辿っていけばいいのだから。
リンクが先頭となって、コキリの剣で邪魔な枝葉を切り払い、インデックスがその後に続く。
しかし、踏み締められてはいても、尖った枝や落ち葉で隠された地面は歩きにくい。
特に、ただでさえ怪我がある上に裸足のインデックスは辛そうだった。
月影を頼りにリンクの足跡の上や柔らかそうな場所を選んで歩いているが、少し足から血が滲んでいる。
「インデックス、おんぶする?」
「ううん、だいじょうぶ」
522:許されざる者(4/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:13:00 dYgiW5BN
何度もそう訊ねるリンクだったが、インデックスの答えはいつも同じだ。
遠慮してるのかな、と思うリンクだったが、あまり強くは言えない。
インデックスの格好がアレだからだ。
あまり意識しすぎるのもなんだが、それが理由で遠慮されてるかもと思ったら、やはり意識してしまう。
確かにちょっと、密着しすぎるのは恥ずかしいかも知れない。
そんな考えを振り払いながら進むと、樹々の隙間から、正面に工場の威容が見えた。
遠く、エヴァたちがその中に駆け込んでいく姿が見える。二人はもう森を抜けてしまっていたらしい。
「インデックス、やっぱり工場だ。もう少しだから頑張って」
「うん、平気なんだよ」
どう見ても平気には見えないが、リンクは黙って頷く。
言い出したらきかないインデックスの頑固さは、すでによくわかっていた。
※ ※ ※ ※ ※
アリサから見て右、背中を壁に寄せて首をいっぱいに曲げた視界の端を、丸々とした影が過ぎる。
彼女が隠れているのは、工場の東側の壁の陰。
森から飛び出してきた人影は、そのまま真っ直ぐ工場入り口を目指していた。
アリサの顔に緊張が走る。見覚えのある少年だ。
一番初めに、ジェダに人殺しの見返りを要求したヤツ。
要望が聞き入れられ、嬉々として殺し合いに乗ったヤツに間違いない。
その背中には、小柄な少女が背負われている。
言い争いをしているようだ。背中からおろせと少女が叫び、丸い少年はその要求をのらりくらりと躱している。
一瞬、さっき出会った金髪の少女かと思ったが、どうやら別人のようだ。
背丈も服も、雰囲気もまるで違う。
あの時の金髪の少女は無表情で、無機質な人形みたいだった。
ついついアリサは回想し、ムカムカとした感情を覚える。
そういえばあいつ、ずいぶんと偉そうな口利いてくれたわよね。
きっと後悔する―とかなんとか。ええ、後悔しましたとも。
そして、後悔したことを後悔したわ。ほっときなさい。
あたしだって人間ですから。間違えることだってあるんだから。
とか余計なことを思っているうちに、二人はアリサのすぐ近くを通り過ぎ、工場の中へ入っていく。
いけない、と後を追うために一歩を踏み出しかけて、アリサは更なる葉擦れの音を聞いた。
まだ、誰か来る。
アリサは固まった。どうしよう。
ここから工場の入り口までは、身を隠す物がなにもない。
このまま二人を追えば、さすがに後から来た誰かに見つかる可能性が高い。
かといって、後から来る誰かをこのままやり過ごせば、あの二人を見失ってしまうかも知れない。
なのははあの二人を殺すだろうか。
後ろから来る誰かは、殺し合いに乗っているのだろうか。
前者の可能性は極めて高く、後者はすべてが未知数だ。
こうして迷っている間にも、足音はどんどん近付いてくる。
考えるよりも、まず行動だ。とにかく優先すべきは、なのはのこと。
そう思い、ええいままよとばかりにアリサは暗がりから飛び出した。
それはちょうど、緑色の少年が繁みから顔を出したのと同時だった。
523:許されざる者(5/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:13:46 dYgiW5BN
※ ※ ※ ※ ※
ホールか、それとも倉庫として使われていたのか。
それなりの広さの閑散とした部屋にエヴァをおろし、パタリロはやっと耳元で繰り返された呪詛から解放された。
もっとも、自分で背負ったものなので、誰にも文句は言えないのだが。
エヴァはといえば、先ほどまでとは打って変わって黙り込み、腕を挙げたり肩を反らしたりしている。
各部位の、怪我の具合を確かめているらしい。
やがて満足したのか、ようやく視線をこちらに向けて、彼女は凄惨な笑みを浮かべた。
「さて……。よくも私をさんざん辱めてくれたな」
「なんでそーなる。危ないところを助けてやったんだぞ、少しは感謝の意を表せ」
憤懣やるかたなく肩をすくめるパタリロに、エヴァは白い視線を送る。
「貴様が勝手にやったことだろう、知ったことか」
なんだかすごく偉そうなヤツだ、とパタリロは思った。
ようし、ならばそのプライドを刺激してやろう。パタリロはふんぞり返りながら言い放つ。
「それでも命の恩人には違いないだろう。それともお前は、鶴や亀以下の恩知らずなのか?
最近は猫やペットボトルすら恩返しをする時代だというのに、それ以下とは情けない奴だ。
わかったら、とっととなにか寄越せ」
その言葉にエヴァは思案する素振りを見せ、やがて冷笑と共に感謝の意を示した。
「なるほど、そこまで言われては仕方ない。ならば、血を貰おうか」
「なんだ、それくらいなら御安い御用だ……。
っておい、逆だ! なんでぼくが提供する側にならにゃならんのだ!
しかも血が欲しいだなんて、お前は吸血鬼かっ!」
示してなかった。
エヴァは無造作に歩を進めると、殺気もなにもなく、何気ない素振りでパタリロの肩に手を置く。
「吸血鬼だが、なにか問題でも?
私に血と魔力の素を捧げる栄誉をくれてやろうというんだ、ありがたく思え」
がっしりと万力のような力で肩を掴まれていることに気付き、パタリロの顔が引き攣った。
「それに先ほど、私のことを、重いとかなんとか言ったな」
「いつから起きてたんだ!」
こりゃいかん、とパタリロは焦る。
完全に向こうのペースだ。
「心配するな。同じ失敗を繰り返すようなヘマはしない。
それに、貴様なら、万一のことがあったとしても、良心を痛めずにすみそうだ」
「万が一ってなんだ!
というか、ぼくとしたことが、さっきからツッコミばっかりじゃないかっ!
納得いかんぞ、原作者を出せっ!」
「心配せんでも、貴様のようなへちゃむくれを同族に迎える趣味はない。
血を吸わせてもらうだけだ。安心しろ」
「これっぽっちも安心できるかっ! はーなーせー !!」
暴れるが、すでに拘束されているせいか、力が出ない。
瞬く間に床に押さえ付けられ、圧し掛かられてしまった。
524:許されざる者(6/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:14:52 dYgiW5BN
「これはまさか、日本に伝わる武道バリツ !?
な、なにをする! いくらぼくが美少年だからって、いやんっ!」
「ただの合気術だ。変な声を出すな気持ち悪い」
「こんなムードもなにもないところで強引な……って本気で首を絞めるな!
引っ掻くな! あ痛たたたたた、せ、せめてシャワーを浴びてから……アッ――!」
※ ※ ※ ※ ※
反響する甲高い悲鳴に、なのはは足を止める。
ここは、工場の北側の廊下。なのはは荷物をまとめ、工場を立ち去ろうとしていた。
アリサに気付かれないように姿を消すために、彼女の出て行った方向とは逆の出口を探していたのだ。
耳鳴りと頭痛はいつの間にか治まっていたが、アリサに殴られた頬と胸がやけに痛い。
でも、心はもう痛まなかった。
当然だよね、となのはは思う。
そんなもの、もう錆び付いて壊れちゃった。
この身体の痛みだって、本当は感じる資格なんてない。
私はなにも感じない、ただの殺人機械。
冷酷に冷徹に、ただ目的のために、淡々と人を殺す道具。
悲鳴を聞いたのは、そんな自己暗示に意識を侵食させていた折だった。
どうやらここは、静かに休めるような所ではなかったらしい。
睡眠はそれなりに取れたけど、白レンに始まって“ひめ”にアリサと、ひっきりなしに来客が絶えない。
さすがに心身の限界が近かった。豊富な実戦経験の賜物か、危険な状態だと自分でもわかる。
どんなに自己暗示で心を騙しても、いずれ限界が来るのは明白だ。
今はなるべく人を避け、じっと休んで少しでも体調を整えるのが正しい選択だろう。
だが、それが悲鳴とあれば、無視するわけにはいかない。
立ち去ったはずの“ひめ”が誰かを襲っているのか、あるいは別の誰かか。
もしかして、アリサの悲鳴だったのかも知れない。
ともかく、危機にさらされている人がいるのなら、それは誰かに襲われている可能性が高い。
ならば、行かなくては。殺し合いに乗っている人は、この手で殺さなくては。
それが、なのはが自らに課した使命なのだから。
悲鳴は遠かったが、だいたいの方向はわかる。少なくともこの工場の中なのは間違いない。
なのはは痛む身体に鞭打って、廊下を南に向かって駆けだした。
※ ※ ※ ※ ※
一方その頃。
工場入り口付近では、
「ありさ? ありさなの !? 捜してたんだよ!
シャナとふたばから、よろしくって頼まれてたんだよ!」
「ちょっと待って、シャナとフタバって誰よ。あたし、知らないんだけど。
てかあんた、それ服? 服なの?」
「シャナとふたばは、なのはから頼まれてたんだよ!」
「なのはから !? それ、いつの話?」
予期せぬ出逢いによる混乱の嵐が巻き起こっていた。
525:許されざる者(7/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:15:39 dYgiW5BN
敵ではないとわかった以上、本当ならすぐにでもなのはの元へ駆けつけたいアリサだったが、
インデックスの怪我を見た途端に腹をくくった。
なのはのことは心配だが、それはそれとして、目の前の怪我人を放っておけるほど薄情ではない。
なにしろ、応急処置すらされていないのだ。足の擦り傷はともかく、背中のそれはかなり酷い。
ゆっくりと情報交換したいのも確かだが、アリサはひとまずインデックスの治療に専念することにした。
話はその合間に交わせばいい。大まかな状況確認だけなら、それで充分だ。
「ルビー、ナースモードお願い」
『了解で~す』
七色の光に包まれて、アリサの衣装がナース服に変わる。
インデックスとリンクは目をまん丸にして、その様子を凝視していた。
気恥ずかしさを覚えつつ、装備を探ろうとして、アリサはランドセル自体持っていないことに気付く。
「あ……。そうか、救急箱は荷物ごとヴィータのところでなくしちゃったんだ……」
「ヴィータ !? ヴィータを知ってるの?
捜してるんだよ、説得して殺し合いをやめさせないと! ここにいるんだね !?」
「ちょ、待って、ここにはいない! 暴れないで!」
興奮気味のインデックスを宥めながら、アリサは思案する。
とにかく必要なのは包帯の類。それと……服だ。
アリサはぎろりとリンクを睨む。
「リンクっていったわね。二人とも、救急道具はもってないわけ?」
「う、うん。残念だけど」
「なら仕方ないわね。脱いで」
いっ !? とリンクは驚愕するが、アリサはまなじりを吊り上げて言い放った。
「女の子が裸同然なのに、男のあんたが服着てるってどういうことよ!
いいからさっさと脱ぐ! 早く!」
剣幕に追われるように、リンクは後ろを向いてベルトをはずし始める。
一方、インデックスはといえば、
「すごいよこの杖! アラストールみたいにしゃべるんだよ!
これもカナミンの虹色の杖みたいに、蓮の杖の再現なのかな?」
『あはは、なんだかわかりませんけど違いますよ~』
カレイドステッキを相手に大はしゃぎしていた。
見た目は自分よりも年上っぽいのだが、こんな様子を見ていると、どうしても子供扱いしてしまう。
「ちょっと背中向けて、インデックス。まず水で洗うから」
そう言いながら、リンクの荷物から飲料水を取り出す。
インデックスは素直に指示に従ってくれた。キャップをはずし、少し迷った後、そのまま背中に水を垂らす。
なるべく痛みを与えないように、慎重に手で傷を洗う。タオルもガーゼもないので、仕方なく手洗いだ。
リンクのランドセルから出てきた熊のぬいぐるみを使うことも考えたが、衛生面が気になったのでやめにした。
脱衣中のリンクが見えない位置で手当てをしながら、アリサは思案を続ける。
リンクの服をインデックスに着せて、布の一部を贄殿遮那で割いて即席の包帯を作ろう。
裾の長さがちょっと不安だけど、少なくとも今よりはマシなはず。
あんまり時間を取るわけにもいかないから、手早くやらなきゃ。
「ぬ、脱いだよ」
526:許されざる者(8/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:16:32 dYgiW5BN
なぜか心細そうなリンクの声に、アリサは振り返る。
そこには、すっぽんぽんのリンクがいた。
「ぎゃ― !! ななな、なんで全部脱いでんのよ、上だけでいいの!」
「上だけって、上も下もないよ」
差し出された緑の服は、確かに一枚の布でできていた。
くらりとよろめきつつ、アリサはリンクに服を返す。
「……ごめん、悪かったわ。着ていいから。上下一体だったのね……。
しかもパンツも穿いてないなんて、これだからファンタジーの世界は……!」
見ちゃった。もう、ばっちり見ちゃったわよ。
両手で顔を覆いつつ、指の隙間から、いそいそと服を着直すリンクを確認する。
ってか、少しは隠しなさいよね!
でも、初めて見たけど、男の子ってああなってたんだ……。
「ありさ、耳が真っ赤だよ」
『アリサさんは今、ほんのちょっぴり大人の階段を昇ったんですよ』
「黙れルビー」
慌てて体ごと目を逸らし、脳裏から衝撃の映像を締め出す。
ああもう、こんなことしてる場合じゃないってのに。
とにかく服と包帯だ。リンクが駄目なら、あとは自分でなんとかするしかない。
「ルビー、あんたの力でこの子に服を着せれる?」
『残念ながら、私が服を着せ替えて遊べるのは、契約したアリサさんだけですよ』
予想通りの答えだった。遊べる、という辺りがちょっと引っかかったけど。
「なら、この子と契約したらできるってこと?」
『複数人との同時契約は無理みたいですね~。
それに、一度契約したら死ぬまで解除できないのが私のセールスポイントですから』
なんだか聞き捨てならないことをさらっと言われた気がするけど、これもまあ、予想通り。
なら、手は一つしかない。
気配がして振り返ると、着替え終わったリンクが消沈した様子で立っていた。
恨めしそうな拗ねた目で、アリサを見つめている。
「ひどいよ……」
「ほ、ホントに悪かったってば」
もう一度謝って、再び顔が赤くなるのを抑えながら、アリサはルビーに指示をした。
「ルビー、一旦変身を解除して」
『え? 何故ですか?』
「あたしだって元々服着てたでしょ。変身を解除したら元の制服姿に戻るから、
それをこの子に着せる。あたしの服はあんたが出す。わかった?」
『ああ、なるほど、アリサさん頭いいですね~』
みたび七色の光が満ちて、アリサは久し振りに、聖祥小学校の制服姿に戻る。
これを着ていた平穏だった日々を思い出して、アリサは少し胸を痛くした。
ずいぶん遠くに来てしまった気がする。
でも、絶対に帰る。もう一度、あの日常に。
527:許されざる者(9/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:20:07 jB6xyuZc
望郷の念に駆られていたのも僅かのこと。
アリサは胸のリボンを解きながら、リンクに叫んだ。
「脱ぐからリンクはあっち向いて!」
※ ※ ※ ※ ※
口元を拭い、全身に染み渡る魔力を意識する。
吸血により、魔力は九割方回復した。
全身を打った痛みも、もうない。
だが、そんなことも霞むほどの衝撃をエヴァは受けていた。
「……貴様、何者だ?」
美味かったのだ。
つぶれた肉まんのような造作に反し、彼の血は驚くばかりに美味かった。
濃厚な味わいというか、熟成したワインのような深みというか、もうなんだか人間離れした美味さだった。
魔力濃度はともかく、ネギの血よりも美味かったかも知れない。
いや、悔しいが認めよう。美味かった。
それこそ、この世のものとは思えないほどに。
「あと、なんでそんなに元気なんだ?
死ぬほどではないが、死にそうになるくらいは吸ったつもりだが……」
「ふふん、ジェダに制限されてるとはいえ、ぼくの生命力をなめるな。
たとえ10リットル抜かれたって平気だ」
そう言って意味もなく踊り狂うパタリロの様子に、エヴァは合点がいったように膝を叩いた。
「そうか、貴様は魔族だな」
「違わいっ!」
あまり説得力のない否定の言葉を右の耳から左の耳へとスルーし、エヴァはしばし考える。
エヴァの直感に、閃くものがあった。
甘露の如き美味なる血。
吸っても吸っても尽きない生命力。
あまりにも、吸血鬼にとって都合良すぎる存在だ。
ジェダが参加者をどんな基準で集めたのかは知らないが、もし、すべてに意味があると仮定したら……。
気付くか気付かないか、巡り会うか会わないかは運任せだし、ジェダの意図は正確にはわからないが、
吸血鬼が潤沢な魔力を効率よく得るための手段を、こっそり潜ませていた可能性は大いにある。
「仮にそうだとして、ジェダの思惑に乗るのも癪だが……それも一興か。いいだろう」
「なにがだ」
「貴様を非常食に採用する」
「コラ待てい!」
奇妙なヨガのポーズ(?)を取りながら、パタリロが渾身のツッコミを入れた。
「待たん。貴様はこれから先、私に血を提供し続けろ。
回復力も高そうだし、何度吸っても減らんだろう。好都合だ」
「ええい、可愛らしい女の子かと思ったらとんでもない、バンコラン以上に横暴なヤツめ!
さっきはノリで付き合ってやったが、さすがにもう付き合いきれんわ!」
528:許されざる者(10/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:20:56 jB6xyuZc
パタリロの短い足が無数に増え、カサカサと音を立てて部屋の入り口を目指して突進する。
「ちっ、やはり魔族だったか!」
ただのゴキブリ走法だが、人間離れしていることに違いはない。
速さを優先し、エヴァは魔法の射手を11矢、無詠唱で放った。
が、ゴキブリ並みの強靭さとネコ並みの俊敏さを併せ持つパタリロは、縦横無尽に部屋中を駆け、それらを悉く躱す。
「わははは、どーだ、捕まえられるものなら捕まえてみろ!」
「瞬動―いや、分身……でもないな、妙な動きを!」
舌打ちしつつ、エヴァは部屋の入り口を背中にして逃走を阻む。
なるべく無傷で無力化したいところだが、かといってこれから先、いちいち連れ歩くのも面倒だ。
支給品ではないので、ランドセルの中に入れるのも無理だろう。
「仕方ない、部屋ごと冷凍保存するか。―来れ氷精、大気に満ちよ。
(ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・エクステンダントゥル・アーエーリ)」
パキパキと、空気が音をたてて凍り始める。
エヴァを中心にして冷気が床を伝い、たちまちのうちに部屋中を霜が覆った。
「のわっ!」
勢い余って足を滑らせ、パタリロは床を滑走する。
その勢いのまま器用に壁を滑りあがり、天井の辺りで成長した氷の塊に絡め取られた。
「くっ、不覚!」
「手間取らせおって」
「ふかく反省」
「……」
軽い頭痛を覚えつつ、エヴァはパタリロの真下まで歩み寄った。
見上げると、半身を氷の中に封じられ、ほとんど逆さ吊り状態でバタバタ暴れている。
「しかし、本当に非常識な生命力というか、物理法則を無視してるというか……。
おい、へちゃむくれ。一応訊いておこう、貴様ジェダの居場所を知っているか?」
「うむ、知ってる」
「何処だ。言え」
「タバコ屋の角を曲がって三軒目」
「さよならだ」
エヴァはパチンと指を鳴らす。たちまち氷が伸びて、パタリロを完全に封じ込めた。
疲れ果てたように、エヴァは大きくため息を吐く。
「やれやれだ……。
―氷楯(レフレクシオー)!!」
唐突に。
エヴァは素早く振り返り、手をかざして魔法防御を唱えた。
次の瞬間、桜色の魔力光が弾け、氷の楯と相殺されて蒸気となる。
白く染まった視界、薄れゆく水蒸気の煙幕の先に、見知った少女が立っていた。
エヴァは歓喜の表情で、にやりと笑う。
「いきなり不意打ちとはご挨拶だな……高町なのは」
「……久し振りだね、エヴァちゃん」
529:許されざる者(11/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:21:41 jB6xyuZc
※ ※ ※ ※ ※
工場入り口付近でのアリサの苦労は、まだ終わっていなかった。
こんなに手間がかかるとは、完全に計算違いである。
「絶対見ないでよ。見たら殺すからね」
『アリサさん、ここじゃその言葉、シャレになりませんよ~』
それもそうだと思い、言い直す。
「殺さないけど、見たら半殺しにするからね」
『自分は見たくせに?』
「やかましい!」
悪態を吐きながら手早く制服を脱ぎ、畳む手間も惜しんでインデックスに手渡す。
「はい。着かたはわかるわよね」
「うん。白くて長いから、ちょっと修道服に似てるかも」
「着る時は、その恥ずかしい服の上から着ちゃいなさい。
でもちょっと待って、まずは包帯を巻かないといけないから」
少し考えて、おもむろにスリップも脱ぐ。
上半身は完全に裸になり、あとはショーツ一枚きりである。
「ねえ、まだ? いつまで目を瞑ってればいいの?」
「まだ! 絶対見ないでよ! ルビー、もう一度ナースモードお願い」
『ええー? もう着ちゃうんですか?
せっかくですから、もうちょっとリンクさんを悩殺してからにしましょうよ』
「しない、してない、するかっ!」
お見事な三段活用です~、と言いながら、ルビーは七色の光を撒き散らした。
完全にからかわれているのだが、もうあまり腹もたたない。慣れとは怖いものである。
それにしても、何度多元転身を繰り返したかわからない。
これって身体に悪かったりしないでしょうね、とか心配になったりもする。
贄殿遮那を裁断機代わりにして、スリップを繊維に沿って裂く。
これって、お気に入りだったのよね。まあ、そんな場合じゃないんだけど。
シルク100パーセントの無駄に高級な即席包帯を作りながら、アリサは思わず呟いた。
「……なのは、あたしが行くまで早まった真似しないでよ」
途端に反応するインデックス。
「なのはがここにいるの !? なのは! 捜してたんだよ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだあんた服着てないでしょ!
それとあんた、いろいろ捜しすぎ!」
530:許されざる者(12/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:22:46 jB6xyuZc
暴れるインデックスを取り押さえている後ろでは、リンクがじっと顔を両手で覆いながら放置されていた。
「ねえ、まだ? いつまで目を瞑ってればいいの?」
※ ※ ※ ※ ※
「聞いたぞ。あちこちではしゃぎ回っていたそうだな」
軽口を叩きながら、エヴァはなのはを観察する。
目が澱んでる……いや、腐ってるな。
以前とまるで違うなのはの有様に、エヴァは密かに奥歯を噛み締めた。
「……その子はどうしたの、エヴァちゃん」
天井近くで凍りつくパタリロを見上げながら、なのはが問う。
「ああ、コイツは最初の時に、ジェダにご褒美を請求したヤツだよ。気にすることはない」
「……そうなんだ。でも、おかげで、助からないはずだった子を一人助けられたから、
それについてはお礼をいうべき……なのかな?」
なのはの視線が泳ぐ。
まるで、心ここにあらずといった様子だ。
よくないな、とエヴァが思った途端、一転してなのはは毅然とエヴァを見据えた。
「それで、エヴァちゃんも殺し合いに乗っちゃったの?」
「だとしたら、どうする?」
「殺すよ。私はもう、引き返せないから」
「即答とは恐れ入ったな」
エヴァは冷ややかに目を細める。情緒不安定になっているのが明らかだった。
ならば―さらに揺らして底を見極めてやろう。
「それにしても、殺すときたか。
貴様は人を救うために覚悟を決めたんじゃなかったのか?
あの鉄槌の騎士を生かしておいた意味がないな」
「……そんな甘いことじゃ、結局誰も救えないんだよ。
目の前で誰かを殺しそうになってる人を、殺さずに捕まえるなんて現実的じゃない。
たとえ捕まえたとしても、その後どうするの? ずっと見張るの? 逃げられたらどうするの?」
「……」
「説得だって、通じる相手ばっかりじゃないんだよ。
殺せる時に殺しておかないと、後で悔やんでも遅いから」
言葉を交わしつつ、微妙に距離を取りながら、二人は徐々に部屋の中心へと移動していた。
緊迫した空気が漂う。
531:許されざる者(13/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:24:01 jB6xyuZc
「なるほど、見事な理屈だ。
つまり、貴様が弱いからというわけだな」
「……そう。そうかも知れないけど、私は私にできることをするだけ。
私が悪い人を殺せば、それだけみんなの生存率があがるから」
「悪い人―というのはどうやって見分ける?」
「人殺しは悪い人だよ。……うん、私も含めてね」
「質問の答えになってないな。人殺しは悪人で、悪人は人殺しか?」
エヴァの問いに、なのはの顔にクエスチョンマークが浮かぶ。
「どういう意味?」
「必要条件と十分条件の話さ。数学は苦手か? ずいぶん単純に考えているようだが、
人を殺してしまった善人はいないのか、人を殺さない悪人はいないのかと訊いている。
考えたこともなかったか? 善人であっても、状況に迫られれば人を殺めるかも知れんし、
自らの手を汚さず人を死に追いやる悪人だっているかも知れん。
それをどうやって見極めるんだと訊いているんだ、高町なのは」
しばし、沈黙が漂う。
エヴァは左足を引き、やや半身に構えた。中距離魔法、近接戦闘、どちらにも対応できる構えだ。
約5メートルの距離を置いて、なのはは静かに佇んでいる。
やがて、なのははぽつりと沈黙を破った。
「……私が殺すべきだと思った人が、悪い人だよ」
「傑作だな」
「それに、数学は得意な方」
「それも傑作だ」
底は見えた。
ずいぶんとつまらない底だった。
堕落してしまったなのはに対して、エヴァは蔑みではなく、哀れみだけを覚えていた。
以前の無邪気な笑顔を知っているだけに、それが失われてしまった哀惜の念は強い。
「歪んだな、高町なのは。闇を纏わず、闇に呑まれたか。
堕ちるなら堕ちるで、まっすぐ堕ちればよかったものを」
「まっすぐ刺しても、ねじって刺しても、流れるのは同じ赤い血だよ」
「なかなか言う。その歪み方……。誰か大切な知り合いでも死んだか。
それとも―その手で殺したか?」
びくり、となのはの肩が揺れる様子を見て、エヴァはつまらなさそうに吐き捨てた。
「図星か、つまらん。どこまでも典型的な転落模様だな。
大切な者の命を粗末にしたから、他の者の命も粗末にしなければいけないと?
そうでなければ許されないと感じているな?
知り合いを殺してしまえた自分が、知らない者を殺せないなんて許せないか?」
「そんなんじゃないよ。ただ私は、殺さなきゃいけない人がいる限り、それを自分の手でやりたいだけ。
誰にも人殺しになって欲しくないから、みんなのために。手を汚すのは、私だけでいい」
「美麗美句で己の所業を飾るな、胸糞が悪い。
理想もなく、誇りもなく、ただ無秩序に、自らの独善で悪と断じた者を容赦なく殺戮する―。
貴様がやっているのは、それだけに過ぎん」
532:許されざる者(14/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:25:41 jB6xyuZc
嘆息と共に、エヴァはあからさまに構えを取った。
なのはもそれに応え、ミニ八卦炉を握りしめる。
「やはり、貴様の存在は捨て置けんな。これ以上面倒なことになる前に、今ここで始末する」
「……そう。やっぱりこうなっちゃうんだね」
手遅れだ、とエヴァは判断した。
そもそも、闇に耐えられる性質ではなかったのだろう。
おそらくきっと、ここに来るまでは、太陽のような少女だったのだ。
しかも、あれだけ歪みながら、まだ壊れていない。それがなおさら悲劇だった。
もう、戻れない。
しかし、進めない。
その上、狂えない。
この哀れな少女は、ここで終わった方が幸せだ。
殺すつもりはない。
ただ仮死状態で、悠久の氷棺の中で永遠に眠ってもらうだけだ。
いつか運が良ければ、遥か時の彼方で目覚めることもあるかも知れない。
緊張が高まり、ついに臨界を超える。
動いたのは、なのはが先だった。
「にっくきターゲットを狙い―」
「遅い! 氷結(フリーゲランス)、武装解除(エクサルマティオー)!」
氷嵐が吹き荒れ、一瞬でなのはの服を凍らせ、砕き尽くす。
「―ひ、えっ !?」
ランドセルも吹き飛び、中身が散乱する。
クロウカードが、ヘルメスドライブが、はやての腕が、そしてミニ八卦炉が、音を立てて氷床を滑っていった。
「さて、高町なのは。貴様が求めるのは、許しか?」
視線を逸らすことすら許さず、歩を進めながら、エヴァは冷酷に告げた。
「それとも―裁きか?」
* * *
やられた。完璧にカウンターを取られた。
一瞬のパニックの後、なのはは冷静に現状を分析した。
全部の装備を持っていかれた。ミニ八卦炉は部屋の隅だし、素っ裸。
攻撃するタイミングの、一瞬の隙を突かれた。防御する間もなかった。
533:許されざる者(15/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:26:30 jB6xyuZc
いつものようにバリアジャケットを着てたなら、こんなことにはならなかっただろう。
今、オートで作動するプロテクションはない。
衣服ごと装備を剥ぎ取り、無力化するための魔法。
なのはにとっては、思いもよらない攻撃手段だった。
でも、まだだ。
なんにもなくたって、魔法が使えないわけじゃない。
「まだ、なんにも終わってない。なんにも達成してない!
だから許しも乞わないし、裁きもいらない! 私はまだ死ねない―!」
ミニ八卦炉を拾いに行く素振りを見せたら、きっと相手の思う壺。
だからなのははそちらに構わず、エヴァを見据えて咄嗟に距離を取った。
「リリカル・マジカル!
福音たる輝き、この手に来たれ。導きのもと、鳴り響け!」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!
氷の精霊17頭(セプテンデキム・スピリトゥス・グラキアーレス)、
集い来りて敵を切り裂け(コエウンテース・イニミクム・コンキダント)!」
なのはの詠唱と同時に、エヴァも詠唱を開始する。
デバイスのない今は、上位の魔法発動には詠唱が必要だ。
この一年、毎朝二時間の練習を欠かさなかったのだ。誰よりも努力を重ねた自負はある。
「ふん、福音たる輝きか。誰が今の貴様を祝福するんだか」
「……!」
余裕の表れか、憎まれ口を叩くエヴァをなのはは鋭く睨み付けた。
その視線を意にも介さず、エヴァは鼻で嘲笑う。
「もっとも、闇の福音ならば私のことだがな」
なのはの周囲に桜色のスフィアが、エヴァの周囲に薄紫色のスフィアがそれぞれ形成される。
どちらも唱えたのは、似たような系統の誘導型射撃魔法らしい。
しかし、スフィアの数が違いすぎる。
デバイスなしでの魔法制御にタスクのほとんどを割り振って、それでもこっちはたったの5個。
対して、エヴァのそれはなんと17個。
ミッドチルダの常識では、信じられない数だ。とてもじゃないが、このままでは対抗できない。
なのはは魔力を振り絞り、さらにスフィアを生成する。
レイジングハートの補助なしで、どこまで出来るかが勝負だった。
見敵必殺の覚悟を決めてから、いずれ必要になるだろうと思っていたデバイスなしでの高等魔法制御。
いきなり実戦になるのは計算外だったが、覚悟はできている。
「魔法の射手(サギタ・マギカ)! 連弾・氷の17矢(セリエス・グラキアーリス)!」
「ディバインシューター! シュート!」
534:許されざる者(16/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:27:16 jB6xyuZc
結果、生成されたスフィアは8個。8発の魔法弾が、17発の魔法の矢を迎え撃つ。
その一方で、防御魔法も用意する。コントロールはオートではなく、手動。
エヴァの魔法の矢は、複雑な軌道でなのはに向かって突進してくる。
しかし、数に反比例して速度はたいして速くない。これなら迎撃できる。
なのはの卓越した思念制御の賜物か、一発につきそれぞれ二つの矢を貫通、消滅させることに成功した。
あちこちで小さな水蒸気が破裂する。貫通力ならこっちが上のようだ。
残った一矢。左側面から回り込んできたそれを、左手のラウンドシールドが受けとめる。
防いだ。そしてまだ、なのはの魔法弾は生きている。
制御の負担がきつい。歯を食いしばり、そのまま誘導してエヴァを直接狙おうとして、
「あうっ!」
目にも見えない速さで、横から蹴り飛ばされた。
衝撃に、息が止まる。
なにをされたのか、一瞬わからなかった。
壁まで飛ばされる威力に、なのはは咄嗟にプロテクションを展開させる。
床や壁を覆っていた霜が地吹雪を上げ、なのははそのまま壁に叩き付けられた。
「くっ……、けほっ!」
呻きながら、なのはは自分の油断を理解する。
さっきの魔法の矢の速度は、わざと抑えられていたんだ。
そっちに気を取られてるうちに、意識の外から、緩急の差のミスマッチで私を直接叩くために。
手ぶらだったから考えもしなかったけど、エヴァちゃんは近接戦闘もできる。
しかも、水蒸気を煙幕代わりに利用していた。
すごく、熟練した、万能戦闘型魔導師……!
戦慄と共に、湧き上がる焦燥感。
ヴィータの相手で慣れているとはいえ、なのはは近接戦闘が得意ではない。
防御魔法で防ぎつつ誘導弾で撹乱、距離を取って砲撃魔法で決めるのが、なのはの戦闘スタイルである。
だが、ミニ八卦炉はエヴァを挟んで反対側の壁際にある。デバイスなしでは、高出力の砲撃魔法は撃てない。
しかも、エヴァは戦闘の組み立てが巧い。
読み合いでは、一枚も二枚も上をいかれるだろう。
凌ぎ続けるにも限界がある。逃げるのだって、許してもらえるかどうか。
でも―。
なのはは不屈の闘志でエヴァを睨み付けた。
でも、さっきの魔法弾はまだ生きてる―!
「―アクセル!」
中空にあった八つの魔法弾が加速し、光の軌跡を描いてエヴァ目指して突進する。
虚を付いたタイミング。速さも角度も申し分ない。
これで倒せるとは思わないけど、時間稼ぎにはなるはず。その間に体勢を立て直して……。
535:許されざる者(17/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:28:03 jB6xyuZc
しかし、エヴァは迫り来る弾丸に目もくれず、右足で床を強く打ちながら叫んだ。
「こおる大地(クリュスタリザティオー・テルストリス)!」
床からエヴァを取り巻くように、無数の巨大な氷柱が天井まで伸びる。
伸びる。次々と伸びる。
魔法弾はすべてその氷柱に阻まれ、弾けて消えた。
そして柱は発生地点を延ばし、なのはのいる壁際まで迫る。
「えっ、きゃっ!」
巨大な質量が壁を砕き、なのはを吹き飛ばした。
間髪いれず砕けた氷の破片が降り注ぎ、なのはは慌てて転がる。
逃れた先は、薄暗い隣室だった。
さっきまでの部屋と違い、さほど広くはない。窓はなく、天井付近に換気口だけが開いている。
ドアは一つで、それは今なのはが入ってきた壁の穴、それと同じ方についていた。
ますます拙い。
こんな部屋では、機動力まで殺がれてしまう。逃げ道もない。
なのはは一瞬で覚悟を決めた。
防御魔法で身を固めて、どんな攻撃も受けて立つ。耐えてみせる。
耐えて耐えて、起死回生のチャンスを待つんだ。
逆光。真白な粉塵に影を映しながら、エヴァがゆっくりと姿を現す。
相変わらず、余裕の立ち振る舞いだ。だからこそ、つけ込む隙は必ずある。
エヴァはすぐに追撃を放とうとはせず、抑揚のない声で話しかけた。
「……貴様にだけは教えておいてやろう。私は殺し合いには乗っていない。
だが、仲良しごっこをするつもりもない」
迫力など少しもない声なのに、なのはの肝がしんと冷える。
純粋に、魔力だけで威圧されているのがわかった。
単騎でこれほどの魔力を持つ相手を、なのはは知らない。
「ジェダを見つけ出し、そこまでの道筋を付けるのが私の当面の目的だ。
誰とも馴れ合わず、何者も恃まず、私の好きなようにやらせてもらう。
善良な連中に手を出す気はないが、邪魔な輩は実力で排除する」
そう言って、エヴァは皮肉めいた笑みを向ける。
「つまり、殺し合いに乗った連中は、私にとっても敵だ」
「なら、私と同じ―」
「違うな」
なのはの言葉を遮り、エヴァの笑いは嗤いに変わる。
「私と貴様の決定的な違いがなにか、わかるか?」
536:許されざる者(18/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:28:53 jB6xyuZc
歩を進めることもなく、壁の穴の位置に佇んだまま、エヴァは問う。
それでも、なのはは徐々に部屋の隅に追いつめられていた。
少しでも距離を取りたい。
プロテクションはすでに展開済みだが、魔力節約のため、ラウンドシールドは待機状態だ。
「状況に強いられたとはいえ、私は自ら選んだ」
そう言いながら、エヴァは右腕を高く掲げる。
その掌に魔力が収束し、薄紫色の輝きを放った。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。
来たれ氷精、闇の精(ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・オブスクランテース)。
闇を従え、吹けよ常夜の氷雪(クム・オブスクラティオーニ・フレット・テンペスタース・ニウァーリス)」
―来る。
あれはおそらく、ディバインバスター並の砲撃魔法だ。
なのはの身体に染み付いた戦いの感覚が、それを教えている。
この中距離で撃たれるそれは、脅威以外のなにものでもない。
「くっ!」
咄嗟に両手をかざしたなのはの正面に、桜色のドームと、二枚の魔法陣が浮かび上がる。
プロテクションとラウンドシールドの同時強化多重展開。
得意の防御魔法とはいえ、今のなのはにはギリギリだ。
「だが、状況に強いられたとはいえ、貴様は結局流された」
シールドの角度を調整し、弾くのではなく、流すことに重点を置く。
バリアジャケットがなく、普通の服すら着ていない現状、余波でさえ致命になり得る。
絶対に、プロテクションを抜かれるわけにはいかない。
「防御に自信がありそうだな。堪えてみせろ。
―闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!」
* * *
手加減せざるを得なかったとはいえ、本当に耐え切ったなのはに、エヴァは素直に感心した。
なのはのいた部屋は完全に破壊され、壁も一面崩れてしまっている。
その先は、森だった。どうやら東の外壁に面した部屋だったらしい。
なのはは今、『闇の吹雪』によってなぎ倒された樹木の真ん中に、荒い息でうずくまっている。
だが、外傷はほとんどないようだし、なにより目が死んでいない。
澱んだ、しかし力強い視線は闘志を湛えて、エヴァを射抜いていた。
これで心を折るつもりだったエヴァとしては、不満の残る結果である。
氷棺に封じるだけでは足りないのだ。閉じ込められた者にとっては、悠久の時間でさえも一睡の夢に過ぎない。
いずれ目覚めた時、今のままの荒んだ精神状態では、結局なのはには破滅への道しか残らない。
どうしても今、あの歪んだ心を粉砕せねばならない。
537:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 20:54:17 SGvJ2iGU
支援
538:許されざる者(19/20) ◇iCxYxhra9U(代行)
08/08/18 21:03:03 PWIzNU6n
ああ、いやだ。こんなことはとっとと終わらせたい。
こんな、女子供をいたぶるような真似は、趣味ではない。
そう思いながら、表情にはおくびも出さず、エヴァは月下へと足を踏み出した。
月は、ほとんど真上まで昇っている。
「闇を纏い、闇に生きるものはな、例外なく、自らに一つのルールを課している。
自身が悪であると自覚するが故に、善悪に拘らない、自己満足のルールをな。
例えば、契約は遵守する。例えば、不意打ちはしない。
例えば、逃げる者は追わない。例えば―女子供は殺さない」
声に反応して、なのはは半身を起こす。
信じられない意志力だ。
これが正しい方向へ向かっていれば、どれほどの人物になっただろう。
惜しい―と思うと同時に、なんともやり切れない。
「そうやって己を厳しく律し、闇の中で生きるための指針とするのだ。これを、悪の美学と呼ぶ。
しかし、闇に呑まれ、どこまでも堕ちていく者にはそれがない。今の貴様のようにな……」
ゆっくりと、なのはの傍まで歩み寄る。
外傷は見当たらなくとも、なのはの体力は限界だったらしい。
あるいは、魔力の限界か、胸にある青痣のせいか。
どうやら、立ち上がることができないようだ。
「ましてや、人の命を奪いながら、さもそれを正しいことのように居直るなど、愚の骨頂も甚だしい」
「た、正しいことだなんて、思ってない!」
「みんなのために殺すんだと、貴様は言った」
「……!」
唇を噛みながら、なのはは腕の力だけで、身体を引き摺るようにして後退る。
月光に照らされた裸体が芋虫のように地面を這いずる様には、一種凄惨な美しさがあった。
「醜いぞ、高町なのは。ああ、吐き気を催す醜悪さだ」
言いながら、エヴァは眉を細めてなのはの様子を観察する。
怯えた素振りでも見せれば可愛いものを、この少女はまだ諦めていない。
魔法障壁はまだ健在だし、左腕には体重をかけていない。
リンクと同じく、コイツも左利きだ。起死回生の一手を狙っているのか、あるいは盾を準備しているのか。
呆れ果てた強情さに、エヴァは小さく舌打ちする。
本当なら賞賛すべきところだが、今のなのはにとっては毒にしかならない。
仕方がない。幻想空間(ファンタズマゴリア)へ誘い、そこでじっくり教育してやるか。
あそこなら、制限を気にせずに全力で叩き潰せる。
ここまで強情なヤツだとわかっていれば、はじめからそうしていたものを……。
「私の目を見ろ、高町なのは」
539:許されざる者(20/20) ◇iCxYxhra9U(代行)
08/08/18 21:04:07 PWIzNU6n
目に魔力を込め、エヴァはなのはに呼びかける。
距離は約2メートル。
もとより目を逸らす気のないなのはは、言われるままにエヴァを見上げ、視線を合わせた。
幻術対策は慣れていないのか、まったく抵抗がない。
「……見るんだ」
視線が交わり、精神を引き寄せる。
精神を侵食し、意識を掌握する。
意識が同調し、そのまま呑み込んで固定する―。
―その、瞬間。
眩い煌きが、エヴァとなのはの間に割り込んだ。
「―なにっ !?」
幻術を破られ、エヴァは反射的に飛び退く。
あらゆる自在法を受け付けない宝具。
その刀身に反射した月光が、エヴァの視線を弾いていた。
金髪が流れ、次に大きな太刀が目に入る。
握るは、大時代的な鳶色の割烹着を纏った緑眼の少女。
突然の闖入者が、エヴァとなのはの間に立ちはだかっていた。
なのはが息を呑むような声をあげた。
「―アリサちゃん !?」
「間に合った……!」
どう気配を断っていたのか、ここまで接近されて気付かなかったことに、エヴァは驚く。
少なくとも只者ではない。警戒し、さらに距離を取る。
ここにきての第三者の介入は、正直厄介だった。
アリサと呼ばれた少女の腰に差された玩具のようなステッキから、可憐な声が響く。
『アリサさん、死徒ですよ! すごいですね~、二十七祖クラスです!』
その声を無視し、大太刀の切っ先を突き付けたまま、少女はまっすぐエヴァと対峙する。
幻想空間へ行っている間は本体が無防備になるため、多対一の時には使えない。
予定が台無しにされた怒りを隠しもせず、エヴァは睥睨して問うた。
「貴様は? 高町なのはの知り合いか?」
少女は勝気そうな目で、きっぱりと言い放った。
「―友達よ!」
540:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 21:04:54 fjNa+r+B
541:されど赦す者(1/20) ◇iCxYxhra9U(代行)
08/08/18 21:05:04 PWIzNU6n
インデックスの手当てを終えると、着替え終わるのを待たずにアリサは工場内に駆け込んだ。
後でリンクと一緒に追いかけてくるだろう。それよりも、なのはが心配だ。
あの少年は、まだ無事だろうか。
あの少女は、まだ生きているだろうか。
そんな心配をしなくてはいけないことが、友達を疑っているようで、たまらなく厭だった。
しかし、疑うもなにも、それが現実なのだから仕方がない。
地響きがする。
もう、戦いが始まっているらしい。
凍りついた部屋を見つけ、壁の穴に飛び込んだ先に、対峙する二人の姿が見えた。
少年のほうは見当たらなかったが、一人は間違いなくなのはだ。
何故か服を着ていない。しかも、地面に倒れ込んでいる。
まさか、なのはが追いつめられているとは予想外だったが、それならなのはを守るだけだ。
贄殿遮那は、すでに抜いてある。
限界まで気配を遮断しながら接近し、二人の間に割り込んだ。
飛び退き、こちらを窺っている少女が、インデックスの言っていたエヴァだろう。
少年の背に負われているのを見たときよりも、何故か元気そうだ。
戦いを挑むのは初体験だ。震えそうになる脚を、精神力で押さえ込む。
油断なく周囲の気配と足場を探りながら、アリサは眼前の敵に意識を集中した。
「友達とな。ふん、今のコイツの体たらくを知っても、まだそう言えるか?」
偉そうな態度で、エヴァはそんなことを訊いてくる。
なのはのことなんて、なんにも知らないくせに。
カチンと来て、アリサは感情のままに怒鳴った。
「とっくに、イヤってほど知ってるわよ!」
こんな馬の骨に、知った風な口を利かれる筋合いはない。
もう三年も親友をやっているのだ。なのはのことなら、誰よりもよく知っている。
明るくて、思いやりがあって、困ってる人は放っとけなくて、いつも悩みは一人で抱え込んじゃって。
だから、今どんなに苦しんでるかだって、わたしが一番よく知ってる!
「ならば、貴様にもわかっているはずだ。高町なのはは、もう手遅れだと」
「なんであんたにそんなことが言えんのよっ!」
「高町なのはは、命を粗末にしすぎた」
その口調に沈痛な響きを感じ、アリサはドキリとした。
エヴァは冷笑を浮かべ、蔑んだような目でこちらを見据えている。
微かに感じる違和感。
言葉と態度の間に、僅かなギャップを感じる。
「取り返しのつかないものが、世の中にはあるのだよ。もう、高町なのはに救いはない」
「そ、そんなこと―!」
「命を軽々しく捉えるな、小娘」