ロリショタバトルロワイアル20at SUBCAL
ロリショタバトルロワイアル20 - 暇つぶし2ch350:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 11:46:28 LQV4OQMY
ジェダの部下っていうファクターだけで、
仲間とか精神ケアとかっていう単語が落ちても仕方ないと思う。
しかもニアだし。これがメロならまだ分からないとこだが。

351: ◆CFbj666Xrw
08/08/04 03:39:51 ZQBBUAjm
シャナ、キルア、弥彦、リリスを予約します。

352:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 05:10:22 /dYSsFgb
期待

353:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 13:28:29 ZEI+VnhL
お、リリスがもう動くのか。早いw
期待してます。

354:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 14:07:08 NkekhiwP
比婆理
DQNな上最強最強言われてるがちっとも最強じゃない。お前綱より弱いだろ
あと、厨の痛さが異常
どうやったらあれが美形でモテモテのツンデレキャラになるんだ
こいつってブサイクだわ、誰からも相手にされてないわ、デレなんてどこにもないわ…厨が思ってるのとまったく逆のキャラじゃないか
しかも華奢って。メインキャラの中でかなり重いほうなんですが
最近迷惑にも再登場したがさらにブサイクになっててワロタ
そのまま顔面崩壊して腐ごとフェードアウトしろ

語句の父親
最低すぎる
語句母が大好きなだけにマジでこいつ許せん
今後どうせあれは父親のせいじゃなかったんです。父親は語句母のことも語句のこともずっと大切に思っていたんです的な描写が出て語句と和解して終わるんだろうが、どういういきさつでああなったんであろうと結局原因はお前だろ
っていうか別にお前が認知しなくても語句母に語句押し付けていっさいの縁を切ればよかったのに
まあそれはそれで最低男だが、語句母にしていればお前なんかいなくても息子と一緒にいられるならそれで幸せだろうし


355:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 19:17:54 61bHjYVV
>>284-293のSSをwikiに収録しようと思ったんだけど、キャラ別追跡表ってどうしたらいいかな
投下順にするか時系列順にするか

356:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 19:24:27 afLmILHI
時系列順収録はアリサの真夜中を取って真夜中収録でいいんだろうけど、
追跡表は……やっぱり投下順じゃないかな。
前の話が前提となってる話だし、先にすると後の話をネタバレしてしまう。

357:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 19:29:39 61bHjYVV
じゃあそうしとくよ
ありがとう

358:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 22:59:02 W1BKQxy8
7KR.e180t氏の作品がwikiに乗ってないようなんだが、あれって破棄になったのか?

359:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:07:51 kiLjfYQG
本人からの破棄宣言があった。wiki更新した人乙。

360:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:08:33 61bHjYVV
>>304で破棄宣言してたから
唐突だし理由も分からないけど、本人が言ってることだし収録しなかった

361:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:12:14 W1BKQxy8
いや、そっちじゃなくて>>262のほう。
>>304のは>>302のことだと思うんだが。



362:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:26:18 61bHjYVV
>>304の破棄宣言って>>262のことじゃなかったの?
じゃあ>>302の仮投下って何のこと?
テスト投下スレには何もないみたいだけど

363:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:35:10 W1BKQxy8
避難所に間違えて書き込まれてる奴だと思うよ。
書き込まれた時間的に。

364:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:43:06 430hf72l
いや、もうね、察しろと言いたい。

365:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:52:50 W1BKQxy8
なかったことにしたいということか…

366:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/06 00:56:18 BbHkg7zA
すいません、勘違いしてたみたいです
>>262-276のSSをwikiに収録しておきました

367:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/06 20:31:21 lL+rJtmv
>>364
気持ちは言葉に変換しなければ相手には伝わらないんだぜ!

368:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/06 23:03:50 QRu34ueT
>>367
じゃあつたえるね!
あたいってばさいきょーね!

369:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/07 20:09:32 cczrPQzB
>>368
暑いから俺の部屋にパーフェクトフリーズよろしく

370: ◆CFbj666Xrw
08/08/07 23:43:36 HgmTZZjm
予約の延長を申請します。
今夜中に投下できなかった場合、投下は日曜になりそうです。

371:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/08 05:01:48 fYYmyTFO
がんばってください

372:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/08 20:42:31 5nAZ+jGj
砂かけって一見ひどい事だけど、自ら悪者になるってのはかなりのファン思いかもしれんよ。

確かにきちんと平和的にジャンル撤退するのはカドが立ちにくいけどさ、
作家そのものでなく、その作家のそのジャンルの本が大好きだった人にとっては
名残惜しいばかりで、好きな作家さんの選んだ道だから止めることもできなくて
かといって移籍先のジャンルを恨んでも仕方のない話で、生殺しもいいとこなんだよ。
一応移籍ジャンルも最初はついてって見るけど、大概は興味ないからついてけなくなるし。
そんなら「あんな奴の本二度と読みたくない!」と思えるような別れ方の方が
よほど未練を断ち切りやすいというか。


373:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/09 12:02:55 p+S7+37W
みなみけウィッチーズ
URLリンク(www.nicovideo.jp)



374: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:31:19 OtA1E1mV
もう少ししたら投下を初めます。40分辺りからで。

あと、申し訳有りませんがキルアと弥彦部分の予約を撤回しようと思います。
影響を与えると思い予約したのですが、出さない方がリレーしやすいと判断しました。
ただし出さないにしてもある程度は動きを縛ってしまいますので、
投下後にその旨を追記します。

375:新たな武器 ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:45:36 OtA1E1mV
ちと遅れた。投下を開始します。

376:新たな武器と共に(1/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:46:45 OtA1E1mV
「行くよ、アラストール」
『どちらにだ?』
しばらく考え込んでいたシャナの唐突な言葉に、コキュートスから疑問が返る。
シャナは答えた。
「あと一周だけ街を回ってリリスを捜す。それで収穫が無かったら北東の街に向う。
 自動人形達は朝まで北東の街に居るみたいだし、まだ余裕はあるはず」
『……そうか。往こう』
自動人形を壊す、しろがねの使命。
シャナが新たに負ったという使命にアラストールは困惑を覚えていたが、
同時に彼女が已然フレイムヘイズで在り続けている事を再確認する。
リリスに執着を見せるのはそういう事なのだから。

―そしてシャナは市街地を捜索し、彼女を見つけた。

     * * *

それはリリスがバベルの本部から飛び立ったすぐ後のことだ。
「遂に見つけた」
リリスはその声を聞いてハッと体を強張らせた。
周囲を見回すと満月の方角に何かが飛んでいる。
「リリス!!」
炎の翼を生やした少女が上空からリリスの眼前へと飛来した。
紅い炎のような輝きと共に、白銀の髪を夜空へとたなびかせて。
炎色の銀髪が夜闇を祓っていた。
「あなたは誰? どうしてあたしを捜していたの?」
リリスの問いを受けて彼女は傲然と名乗りを上げる。
「私は“天壌の劫火”アラストールのフレイムヘイズ、“炎髪灼眼の討ち手”にして“しろがね”たる者、シャナ!」
シャナはリリスへと刀を向けて、言った。
「おまえにはジェダのこと、色々と話してもらうから」

ああ、そうかと思う。
リリスは彼女の事を何も知らないが、その言葉で概ねを理解した。
「あなたもジェダ様を倒そうとしているのね」
「そうよ。……『あなたも』?」
『シャナ、奴の腕を見ろ』
アラストールの言葉にシャナはリリスの腕へと視線を向けて、腕を飾る二つのリングを目にした。
グリーンとニアの、首輪だ。
「そうか、それが競争とやらで集めた首輪なのね。
 おまえが遊びとジェダへの忠誠から奪った命の証」
「競争? 違うよ。これはそんなのじゃない。これは遊びなんかじゃない」
リリスはシャナ達の早とちりを訂正する。
二つの首輪を胸に抱きしめて、ひんやりとした金属の冷たさを心に刻む。
リリスにはどうしてか、グリーンの首輪が温かく感じられた。
「これはあたしの誓いだもの。あの人にもう一度会う為の、誓い」
「誓い? ……何を誓ったというの」
「だから、あの人にもう一度だけ会う事をだよ」
その姿があまりに真摯で無垢だったから、シャナは奇妙な戸惑いを感じた。
リリスの情報は最初の会場で見たものと人づてで聞いた事だけだ。
その本性や実力を隠している可能性だって十分に考えていた。
だけど、違う。何かが噛合わない。
遊びに耽る無邪気な邪悪さも、無知ゆえの純粋さも感じられない。
目の前のリリスは事前に予想していた様とあまりにも食い違う。
「おまえは、誰?」
「あたしは、リリスだよ」
シャナの戸惑いに対して、リリスは晴れやかな答えを返した。
「あの人って、誰?」
「…………グリーン」
シャナの問い掛けに対して、リリスはそっと愛しげに言葉を紡いだ。

377:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:47:27 zl4bUSe7
 

378:新たな武器と共に(2/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:48:27 OtA1E1mV
そして宣言した。
「あたしはもう一度あの人に会う。あの人の魂と言葉を交わす。
 この気持ちに決着をつけるために。だから」
リリスの視線がシャナを射抜く。シャナは戦いを感じて身構える。
自然、両者が加速した。
「邪魔はさせない!」
リリスの翼とシャナの刀が交わった。

「……もしも、おまえがその気持ちを貫くなら」
ぎりぎり二つの刃が噛み合っている。
刃のように変じたリリスの翼とシャナの持つ楼観剣が鍔迫り合いを繰り広げている。
目と鼻の先に居るリリスに対して、シャナは告げる。
「もしもおまえがその想いを貫くなら、私はおまえを尊敬する」
シャナはリリスが抱いている感情を知っているから。
その感情がどれほど鮮烈で抑えきれない、どうしようもないものであるかを知っているから。
それに全てを捧げる存在がどれほど気高くなれるかも。
「でも、おまえは私の敵よ」
しかしその感情は時に全ての行動理念を破壊しうる。
シャナがこの島でその感情に振り回されて居ないのは、想いの行く先が不在だからだ。
想いの向う先である坂井悠二という少年がこの島に居たら、
もしかするとジェダを倒す使命に奔走するのではなく、彼が心配で走り回っていたかもしれない。
それどころか想いの暴走は時に罪無き者達や、同じ想いをしている者までも踏み躙る。
その感情はフレイムヘイズ達の中から最大規模の敵を生み出した事すら有るのだ。
だからシャナの共感はここまでの話だ。
シャナは目の前のリリスに対する好悪の感情を押し込めて、闘志を全身に充填していく。
リリスは目の前のシャナに問うた。
「あなたもこの気持ちのことを知っているの?」
「知っている。だけど」
シャナは応えた。
「今は関係無い!」
想いが触れ合ったのはただ一瞬。
シャナの放った爆炎が二人を別ち、遮る爆炎を吹き散らした紅の炎弾は緑の魔弾を相殺した。

しかし晴れた視界にリリスの姿は映らない。
シャナは神経を研ぎ澄ませる。……リリスが放つ“殺し”の気配を感じ取った。
「下!?」
「シャイニングブレイド!」
戦場は空。だからもちろん前後左右、上下、1080度の攻撃角度が存在する!
上空を照らし出す月明かりの中、リリスはシャナの作る月影から襲い掛かった。
対するシャナは迎撃の刃を振り下ろす。
翼が変じた鋭利な刃がシャナを切り裂くと同時、躊躇無きシャナの刃がリリスを切り返した。
シャナの胸部から、リリスの額からそれぞれの血が噴出する。
「いったあい! 別に嫌いじゃない、けど!?」
「はあっ」
リリスの傷は浅手だ。だが深手を受けた筈のシャナが掛け声と共に反撃に転じた。
一切の遅滞無く鋭い太刀筋が乱舞する。薙ぎ払い逆袈裟切り上げ唐竹に刺突。
『待て、無理をするな!』
アラストールの制止を無視してシャナの猛攻がリリスを襲う。
リリスは斬撃を躱し、受け流し、牽制するも、ガードの上から強烈な打撃を叩き込まれる。
眼下に広がるビルの屋上へと叩きつけられ、床面に無数のひび割れを走った。
それでもリリスは負傷に耐えて立ち上がる。
遅れてゆっくりと、シャナが舞い降りてきた。
諸に斬撃を受けた上、その状態で無理矢理な猛攻に出たのだ、傷は致命的なまでに広がって……。
「傷が浅い……?」
リリスは息を呑む。シャナへの斬撃は殆ど直撃したはずだった。
にも関わらずその傷は思いの他に浅く、それどころか出血さえ既に止まっていた。

379:新たな武器と共に(3/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:49:09 OtA1E1mV
「大丈夫、無理なんてしてない。今の私ならこの位、無理の内に入らない」
元よりフレイムヘイズとして肉体能力に特化していたシャナの肉体は、
しろがねの強靭な生命力を掛け合わされ更に強固な存在へと転じていた。
身体能力は跳ね上がり、特に肉体の再生力たるや鉄壁と評しても過言ではない。
「おまえの攻撃は鋭いけど、今の私なら耐え切れない程じゃない。次で決める」
シャナは楼観剣をリリスに突きつけてそう宣言した。

リリスは大急ぎで『考え』始めた。どうすれば良い?
グリーンとニアはもう居ない。でも……二人ならどう考える?
(ニアなら……そう、まずは見て聞いて、よく考えて、自分で動かずに命令する。
 命令する相手は居ないけど、見て聞いて考えることはあたしだって出来る)
リリスは先ほどの切り合いを思い返す。
自分にとってシャナは、どのくらい厄介な奴だろう?
(肉体能力で全体的に負けてるし、武器の使い方もあいつの方がずっと上。立ち回りも。
 それでも多分、ここまでなら勝ち目は有る気がする。あの刀と手足と炎だけなら、多分)
リリスは感覚的な分析しか出来なかったが、間違ってはいない。
シャナの戦い方はリリスから見れば人間的なのだ。
単に『飛んだり、格闘戦に混ぜられない程度に炎を使えるだけ』で。
自らの体を変形させ予想だにしない攻撃部位を作り出す事も、
無数の刃を作り出し槍衾で貫く事も出来ない。
怪物的な変幻自在の戦闘スタイルを会得していない。
炎弾による遠距離戦闘と刀による近接戦闘も両対応出来るだけで融合していない。
例えばリリスが低速の魔力弾を盾に突進したり、魔力弾に相手が対処した隙を狙う様な一人連携は出来ない。
剣による戦闘技術やあらゆる戦闘経験においてシャナはリリスを圧倒していたが、
その戦闘スタイル自体は極めてシンプルで、リリスはそこに勝機を見出していた。
(でも、攻撃を当てても押し切ってくるんじゃ勝てない!
 グリーンが居たなら、きっとこいつに勝つ方法も思いついて教えてくれる。
 今はあたしがそれを考えなきゃいけないんだ。
 どうすればいいの? どの技をどう使えばいいの?
 攻撃の隙を突かれたらやられる。それじゃ隙を作らなければいいの? それとも……)
シャナが屋上の床を蹴った。

「ソウルフラッシュ !」
迎撃に放たれたのは魔力弾だ。ただし低出力のそれは速度も遅い。
リリスは自ら放った魔弾に続いて疾走した。
「こんなもの!」
シャナは羽織っていた黒いマントのような物を振るった。
これはフレイムヘイズの側の力、夜笠。この程度の攻撃なら十分に防げるものだ。

だが一瞬だけ生まれたその隙を狙い、リリスは攻撃を仕掛けていた。
(チャンスは一度だけ)
一気に押し切れなければシャナは身体能力、戦闘技術両方に秀でた自分の間合いで反撃するだろう。
その実力差はリリスと比べてもまだ大きい。
だからリリスは切り札を抜いた。
「いけぇ!」
リリスがそう叫んだ瞬間、シャナは背後に気配が生まれたのを感じた。
その正体は、もう一人のリリス。
マインドレスドールで生まれた鏡写しの分身(ミラードール)が本体と共にシャナを挟撃する。
隙を突かれない為の選択肢は二つ。一つは何時攻撃されても切り返せるだけの余裕を常に持つこと。
もう一つは、相手に攻撃させる暇も与えず一気に叩きのめすこと!
如何にダメージを無視して反撃しようとしても二人がかりで叩きのめされては身動きすらままならない。
たとえ身体能力と単純戦闘技術において若干劣る相手であっても前後からの挟撃では防げない。
本体と分身がシャナへと辿り着き勝利するまでの残り数瞬で。
シャナは突如、背中のランドセルに両腕を突きこみ、中からなにかを抜き出した。
(糸……?)
抜き出された両腕の指には指輪が填まり、指輪からは糸がランドセルの中へと伸びている。
糸が張り詰めた。
それと共にシャナが咆えた。
「あるるかん!」

380:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:49:23 zl4bUSe7
 

381:新たな武器と共に(4/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:50:06 OtA1E1mV

次の瞬間シャナに襲い掛かるリリス本体の攻撃はシャナ自身の刀が食い止めて。
同じ瞬間シャナに襲い掛かるリリス分身の攻撃はランドセルから現れた奇怪な腕が食い止めていた。

「なに、それ……?」
分身の攻撃を食い止めたのは、人形の腕に握られた人形の腕だった。
ずるりと、まるで生きているかのようにランドセルから這い出してくる。
2m以上有ろうかという巨大な人の形だった。
その左腕は無く、一本だけの右腕はまた別の人形の腕が握られている。
その各部から伸びる糸がシャナの指に填まる輪へと繋がっていた。
絡繰り人形。
「しろがねの武器、懸糸傀儡(マリオネット)あるるかん」

―シャナは街を一周だけして、それから北東の街に向うと宣言した。
しかし実のところ、シャナが街を回ってから優に二時間以上が経過している。
リリスを見つける前からシャナは予定をずらしていたのだ。
この懸糸傀儡、あるるかんを見つけたから。

懸糸傀儡はしろがねの使う強力な武器である。
だがその操作は複雑さを極めており、普通なら手にとってすぐ使いこなす事など出来はしない。
例え極端に飲み込みが早くとも、戦闘に使えるほど熟達するには凄まじい修練が必要となるのだ。
本来なら、しろがねの受け継ぐ技術を持ってしても。

生命の水を飲みしろがねと化した者は幾つか特徴的な変異を起こす。
一つは肉体の変異。
髪と瞳が銀色に染まり、五年に一歳しか年を刻まなくなり、身体能力は五倍近くまで増強される。
特に再生力の上昇は顕著で、体液を流しつくすまで戦い続けられるだろう。
元より肉体特化型フレイムヘイズであったシャナはその乗算により身体能力を跳ね上げていた。
もう一つは、知識と意思の継承。
しろがねを生み出す生命の水は、その内に白銀と呼ばれたある錬金術師が溶けている。
その水を飲んだものは錬金術師白銀の知識と意思を受け継ぐのだ。
知識。即ち、懸糸傀儡を操る技もその中には含まれている。

先述の通り、本来ならそれでも実戦で使いこなすには修練が必要となるのだ。
戦いの素人から一端のしろがねになるまでには。
だがシャナは違う。一般人が戦士になるまでの共通項を全て無視できる。
しかもこのあるるかんは懸糸傀儡の中で最も古い素体とも言うべき物だった。
白銀の死後に作られた懸糸傀儡は基本操作こそ共通しているが、多種多様な追加が為されている。
このあるるかんを使いこなすにはその追加部分の習得すら不要なのだ。
白銀の中に有る知識だけでその全てが満たされている。
必要なのは『使い方を知っている、いつもは使わない武器を体に馴染ませる』時間だけでいい。
その為に費やされた時間が二時間余り。
補助武器には十分すぎる習得期間だった。

リリスは一瞬だけ考える。まだ、行ける。
あの巨大な人形はシャナが動かしている操り人形らしい。
それなら視界は無い。背後から向う分身の攻撃には対処出来ない。
リリスは牽制の攻撃をしながら、シャナの背後から分身を突撃させた。

そう、シャナに背後の分身は見えていない。
音と、殺しの気配。それで大雑把な間合いが判るだけだ。
正確な狙いをつける事は出来ないし、リリスに攻撃されながらではこまめな操作も出来はしない。
「戦いのアート」
だからシャナはスイッチを入れた。
リリス本体と接触する直前にある複雑な操作を済ませ、リリス本体に集中した。
その背後であるるかんが動き出す。胴体部から歯車が露出する。
「コラン!!」
轟と嵐が吹いた。
シャナがリリスの斬撃を受け止めたその背後で、上半身を高速回転させたあるるかんが
その旋回半径内に在ったリリスの分身を薙ぎ払い消滅させていた。

382:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:50:14 zl4bUSe7
 

383:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:50:46 zl4bUSe7
 

384:新たな武器と共に(5/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:51:02 OtA1E1mV

リリスは吹き飛ばされていた。
シャナの斬撃を受け止め、それに逆らわず吹き飛ばされて距離をとったのだ。
そのままビルの端、戦場の外へ向って疾走する。
「逃げる気!?」
シャナは即座に対応した。片手で必殺技を終えたあるるかんをひっ掴み、投擲したのだ。
更にそれがリリスへと飛んでいく最中でコントロールを回復。
続けて自分も追撃に疾走する。
高速で迫るあるるかんと自分自身の時間差攻撃だ。
ビルの端でリリスはあるるかんに追いつかれ、一瞬その姿が隠れて。

次の瞬間、上空へと飛翔するリリスの姿が有った。
リリスは『考え』る。
(正面からの格闘戦じゃ勝てない! でもあたしの攻撃は格闘戦しか無いんだ。
 それで勝つには、後はもう……!)
シャナは気づいた。
上空に戦場を移されれば、あるるかんを連れて追撃するのは困難だ。
体積や質量を無視する奇妙なランドセルに下半身を突っ込めば出来なくは無いが、
それでも空中の機動力は大幅に低下してしまう。
どちらにしても空中戦ではあるるかんの優位が消えうせるのだ。
このままでは容易く逃げられてしまう。
「させない」
だからシャナは指輪を外し、切り札を抜いた。

フレイムヘイズとは元来復讐者である。
紅世の従を倒す使命に邁進するよう、紅世の王達は紅世の従に大切な者を奪われた者達を選び、
契約し、フレイムヘイズとしての力と使命を与えるのだ。
復讐者である事にはもう一つ重大な意味がある。
フレイムヘイズが“存在の力”を使いこなすには、彼ら自身にも燃え上がるような感情が必要なのだ。
復讐心。憎悪。憤怒。ありとあらゆる怒りの激情。
それらの感情で自らを燃やす時、存在の力は炎と化してフレイムヘイズの力に変わる。
シャナは最初、そういった激情を持たなかった。
アラストールは憎しみといった感情的な理由に振り回される人間ではなく、
決然とした使命感で行動する人間を契約者として求め、シャナをそう育て上げたからだ。
それは決して間違った選択では無かっただろう。
だがその代償に、シャナはフレイムヘイズでありながら殆ど炎を操れず、何年も肉体のみで戦っていた。

シャナが炎を本格的に操り始めたのは、初恋をしてからだ。

坂井悠二という少年に恋をしてその感情と向き合う中で、恋が彼女の心に火を点けた。
恋により燃え上がった心が引き金となって、シャナの炎を操る力は強大に育って行ったのだ。
しかしこの島には、坂井悠二が居ない。
それ故にシャナは彼の安否を心配する必要も無く、目の前の使命の事だけを考えていられた。
それは良い。だがその安定は、気づかない内に彼女の力までも削ぎ落としていた。
しろがねとなるまでは。

しろがねは元来復讐者である。
しろがねは自動人形のばらまくゾナハ病に身体を冒された者達がなる。
病の末の死か、それとも自動人形を撲滅するために朽ち果てるまで戦い続けるか。
戦いの生を選んだ時、しろがねが生まれる。
自動人形たちに怒りを燃やし、それらを一体たりとも残すまいと使命に駆られるしろがね達が。
だがその怒りはしろがねとなった者達がその前から持っていた感情ではないのだ。
自動人形により住んでいた村の者達を虐殺され、娘を失い、自身も病に冒され、
死ぬ事さえ出来ない生き地獄を何年も味わった最古参のしろがねですら、こう語る。
しろがねとなった時に入り込んできた憎しみは、己が憎しみよりもなお壮絶なものだったと。

しろがねとなった者は、知識と意思を継承する。
しろがねを生み出す生命の水は、その内に白銀と呼ばれたある錬金術師が溶けている。

385:新たな武器と共に(6/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:51:33 OtA1E1mV
その水を飲んだものは錬金術師白銀の知識とその意思を受け継ぐのだ。
意思。即ち自動人形に対する深く重い、重油のように蟠る憎悪。
―怒りとして燃え上がるもの。

この島で自動人形たるトリエラの存在を認識した時から、シャナは新たな激情を手に入れた。
連綿と継承されしろがね達を縛り続ける、自動人形への強烈な憎悪を。

しろがねは元来復讐者である。
フレイムヘイズは元来復讐者である。
故に。

シャナの手の中に生まれた業火は爆発的な勢いで膨れ上がり、リリスが居た空の一帯を呑み込んだ!

悲鳴さえ上がらなかった。
そこには何も残ってはいなかった。
その遥か先で、雨細工のように捻じ曲がった鉄柱がその破壊力を克明に物語っていた。
ただそれだけが全ての焼き払われた光景。

シャナの胸元でコキュートスが明滅し、僅かに戸惑った声を伝える。
『……ジェダの事を訊くのではなかったのか?』
シャナは毅然とした声で答えた。
「逃がすよりはマシだから」
その灼銀の瞳には一片の迷いも無い。
万が一にも倒しそこねていないかしきりに空を見上げていた。
………………。


ぴしり。



386:新たな武器と共に(7/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:52:25 OtA1E1mV
『いかん避けろ!』
「え!?」
振り返ったシャナの眼に映ったのは『亀裂が走り脆くなっていた屋上の床を突き破り、
分身を囮にしたリリス本体が、自らの目の前まで迫って片翼を伸ばしてくる』その光景だった。
片翼が腕に変わりシャナの胴を鷲掴みにする。
もう片翼が変形して弓へと変りシャナの体が番えられる。
(しまった、逃れ―)
「バイバイ!」
ミスティックアロー。
敵自体を弓矢の矢とする奇想天外な投げ技で、リリスはシャナを撃ち放った。
体制を整えることも出来ず射飛ばされ、巨大な鉄柱に叩きつけられる。
「くそ、こんな程度で!」
受けたダメージはそう大したものではない。
シャナはその巨大な赤い鉄柱に手を突いて姿勢を正し、焦らずリリスの追撃に備えて……。

『警告する。その場所は禁止エリア内だ。三十秒以内に退出したまえ』

首輪からジェダの声が再生された。
シャナは息を呑み、その言葉を理解すると共に焦燥が頭を埋め尽くした。

     * * *

「すぐ爆発するんじゃないの!?」
一方のリリスも焦りを感じていた。
シャナを叩き込んだのは巨大なタワーが聳えるB-7エリア。
十九時を境に禁止エリア指定された場所だ。
禁止エリアに叩き込めばすぐに爆発すると思っていたのに当てが外れた。
シャナを仕留める為にはあと三十秒近くの間、シャナを禁止エリアに閉じ込め続けなければならない。
『26、25、24……』
ジェダのカウントが再生され始める。
短い決戦が幕を開けた。

シャナは即座に鉄柱を蹴り禁止エリアの外へ直進する。即ちリリスへ向って一直線に。
「ソウルフラッシュ !」
放たれた低速の魔力弾をシャナは軽く一刀両断にした。その速度に遅れは見られない。
(わかってる、これを一発だけ撃ってもダメ! でも、これなら!)
「ソウルフラッシュ !」
「そう何度も!?」
距離が迫ったシャナに対し、今度は出力を上げて撃ち放つ。
緑色の蝙蝠型魔力弾はこれまでと違い高速で炸裂した。
シャナは吹き飛ばされる。その首輪からカウントが響く。
『21、20、19……』
すぐに反転して再び加速した。
対するリリスは全身の魔力を励起すると、青い燐光と共に再び射撃する。
「ソウルフラッシュ!」
何故か低速で放たれたそれを訝しんだシャナは夜傘で防ぐ。三倍の衝撃が弾けた。
一見同じように見えて通常時より強大な魔力を注ぎ込んでいたのだ。
「くっ、この……なっ!?」
それでも直撃せず防いだため遅滞は一瞬だ。
改めて加速しようとしたシャナの目の前に、リリスが居た。
(なんで!? こんな近くじゃこいつも禁止エリア内に入って……!)
その理由はすぐに判った。
『18、17……』
『―は禁止エリア内だ。三十秒以内に退出したまえ』
二つの警告が重なった。

387:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:53:12 zl4bUSe7
 

388:新たな武器と共に(8/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:53:15 OtA1E1mV
シャナとリリスには十秒以上の時間差が存在する。
つまりリリスはシャナが爆発してから外に出ても十分に間に合うのだ。
リリスが手を広げる。その全身の衣服が、解けた。
スプレンダーラブ。
解けた衣服は無数の蝙蝠と化してシャナに殺到した。
「この、燃えろぉっ!!」
シャナはそれを炎による爆風で薙ぎ払う。
蝙蝠は吹き散らされ、リリスへと帰り衣服に戻る。
『いかん、力を使いすぎるな!』
『15、14、13……』
だが当然その分だけ、炎の翼へ回す力が僅かに低下してしまう。
シャナは慌てて炎の翼へ力を注ぎ、強烈な推力を得て加速した。
あろう事かリリスへの警戒を怠って。

致命的な隙だった。リリスがその隙を逃す筈は無い。
「落ちちゃえ!」
「しまった!?」
リリスの翼が腕に変じて、逃げるシャナの足を掴み取った。
そのまま急降下し地上へと叩きつける。タワー下の舗装された地面が砕け散る。
それでも二人は動いていた。
『12、11、10……』
「ぐ、放せ! この!」
「ぜったいに逃がさない!」
リリスはシャナに抱きついて動きを封じていた。
シャナは死に物狂いでそれを振り払おうとする。
この間合いでは刀など使えない。拳を叩きつけ、腕を掴み引き剥がす。
単純な怪力で強引に振り払おうとするシャナを、リリスは翼まで腕に変えて四つの腕で押さえ込む。
いつの間にかその腕は八つに増えていた。
最初の戦闘やビルの屋上から隠れる時にも使ったマインドレスドールを使い、
分身を作り出してリリス二人がかりで押さえ込んでいたのだ。
こうなれば戦況は一進一退。
『9、8、7、6……』
即ちタイムリミットが刻々と落ちて来る!
「このお……!!」
シャナは二人のリリスに纏わり付かれたまま強引に進み始めた。
足で地面を蹴り、手で出っ張りを掴み、炎の翼による推力で強引に押し進む。
『5、4……』

それでも禁止エリアの切れ目には届かない。

『3……』

「こんな……」

『2……』

「ところで……」

『1……』

「―――!!」

爆音が全ての声を掻き消した。

     * * *


389:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:55:29 zl4bUSe7
 

390:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:56:53 zl4bUSe7
 

391:新たな武器と共に(代理)
08/08/10 00:59:45 zl4bUSe7
リリスは町外れのホテルで一息を吐き、体を休めていた。
そのところどころには軽い火傷が増えていたけれど、それほど大きな傷は受けていない。
少し休めばまた動けるだろう。
「つかれた。あそこまで強い子がいるなんて思わなかった」
リリスはぐったりとなりながらも、拾ってきたランドセルの中身を確認する。
シャナが持っていたランドセルだ。
中からはポロライドカメラ風の大仰なカメラが一つ転げ出てきた。
何故か服のデザイン画が付いていて、よくよく探すと説明書もランドセルの底に引っかかっていた。
(着せ替えカメラ? 服を着せ替えられるの?
 あたしはそんなの必要無いから、誰かに対して……グリーンならどう使っただろう)
使う為には『充電』が必要らしいので、付属のコードを付けてコンセントに差した。
人間社会の事は詳しくないが、見よう見まねでどうにかなった。
「だけどこれ、なんに使えばいいのかな」
一見するとあまり使える支給品には思えないが、グリーンなら上手く活用しただろう。
どんなところに着眼するか、どんな使い方を考えるかを想像してみる。
「あ、そっか。どう使うにしても相手の元々着ていた服は無くなっちゃうんだ。
 不思議な力の有る服を着てる相手に使うとか……
 そうだ、動きを阻害する手錠とか描いて置けば着けられるのかな?」

リリスは考える。
これまで殆ど知らなかった考えるという行為に没頭する。
(そうだ、まだあたしは考えが足りなかったんだ。
 例えば支給品を使えば良かった。使い方は気をつけないといけないけど、眠り火を使うとか。
 あたしの技だけでも呪いのダンスを強要するグルーミー・パペットショーならもっと足止めできてたんだ)
リリスは考える。
これまで手にした事の無かった新たな武器を使いこなす為に。
(あたしはグリーンやニアみたいに頭が良くない。だから考えて、もっと考えなきゃいけない。
 次こそは勝つために)
リリスは敗北を糧にして考える。
それは紛れも無く最強の武器だった。
「そうすればきっと、どんな奴が相手でも負けないから」

―リリスは“知恵”という新たな武器を使いこなしつつあった。

     * * *


392:新たな武器と共に(9/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:00:19 OtA1E1mV
リリスは町外れのホテルで一息を吐き、体を休めていた。
そのところどころには軽い火傷が増えていたけれど、それほど大きな傷は受けていない。
少し休めばまた動けるだろう。
「つかれた。あそこまで強い子がいるなんて思わなかった」
リリスはぐったりとなりながらも、拾ってきたランドセルの中身を確認する。
シャナが持っていたランドセルだ。
中からはポロライドカメラ風の大仰なカメラが一つ転げ出てきた。
何故か服のデザイン画が付いていて、よくよく探すと説明書もランドセルの底に引っかかっていた。
(着せ替えカメラ? 服を着せ替えられるの?
 あたしはそんなの必要無いから、誰かに対して……グリーンならどう使っただろう)
使う為には『充電』が必要らしいので、付属のコードを付けてコンセントに差した。
人間社会の事は詳しくないが、見よう見まねでどうにかなった。
「だけどこれ、なんに使えばいいのかな」
一見するとあまり使える支給品には思えないが、グリーンなら上手く活用しただろう。
どんなところに着眼するか、どんな使い方を考えるかを想像してみる。
「あ、そっか。どう使うにしても相手の元々着ていた服は無くなっちゃうんだ。
 不思議な力の有る服を着てる相手に使うとか……
 そうだ、動きを阻害する手錠とか描いて置けば着けられるのかな?」

リリスは考える。
これまで殆ど知らなかった考えるという行為に没頭する。
(そうだ、まだあたしは考えが足りなかったんだ。
 例えば支給品を使えば良かった。使い方は気をつけないといけないけど、眠り火を使うとか。
 あたしの技だけでも呪いのダンスを強要するグルーミー・パペットショーならもっと足止めできてたんだ)
リリスは考える。
これまで手にした事の無かった新たな武器を使いこなす為に。
(あたしはグリーンやニアみたいに頭が良くない。だから考えて、もっと考えなきゃいけない。
 次こそは勝つために)
リリスは敗北を糧にして考える。
それは紛れも無く最強の武器だった。
「そうすればきっと、どんな奴が相手でも負けないから」

―リリスは“知恵”という武器を使いこなしつつあった。

     * * *


393:新たな武器と共に(代理)
08/08/10 01:01:15 zl4bUSe7
 
『3……』

「こんな……」

『2……』

「ところで……」

『1……』

首輪のカウントが0を刻む一瞬前。
シャナは炎の翼を消した。
肉体強化に注いでいた存在の力も防御に回し、夜傘で身を包んだ。

「死んでたまるか!!」

そして残る全てを、至近距離で炸裂させた。零距離で巨大な爆発を起こしたのだ。
爆風で禁止エリアから脱出する為に。
それは当然ながら極めて危険な賭けだった。
移動用に洗練された炎の翼は、存在の力が概念として燃焼して見えるだけで実際の熱を持たない。
そのためシャナを高速で飛行させる程の推力を与えながらシャナの身を焼く事が無いのだ。
だがその瞬間にシャナが放ったのは純粋な爆発だった。
最大威力では鉄骨すら飴の様に捻じ曲げた莫大な熱量を零距離で爆発させたのだ。
いくらフレイムヘイズ兼しろがねのシャナでも、あまりに危険な賭けだと言えた。
その力は激烈であり、タワーの柱の一本が破壊された程の壮絶な破壊を撒き散らしたのだ。
だがシャナは、生き残った。

「流石に……効いた……」
夜傘と存在の力による防御は零距離爆発の殺傷力を大幅に軽減してくれた。
しかし吹き飛ばされるのが目的である以上、衝撃自体は受け止めなければならない。
それでも禁止エリアから脱出出来たのは幸運だったが、残念ながら幸運は敵にも降っていた。
リリスの方は爆発の間にシャナを挟んでいた為、大したダメージを受けなかったのだ。
それでもリリスがトドメを刺しに来たら返り討ちにしてやろうと狙っていたのだが、
生憎それも見通されたらしく、リリスはシャナを放置して飛んでいってしまった。
そしてシャナにはリリスを追撃するほどの余裕は残っていなかった。
『無理をするな。あの状況から命と武器が残ったのなら運が良い』
「判ってる。今は……戦うべきじゃない」
あるるかんは禁止エリアへ叩き込まれる前に離していたし、刀も何とか回収できた。
そしてフレイムヘイズでありしろがねでもあるシャナは強力な再生力を発揮していた。
流石に全快までは時間を要するだろうが、動きながらでも治っていく勢いだ。
それでも今は相当な重傷に違いない。
北東の市街地を目指すにしても、戦いを前提とするならばしばらくの休息が必須と言えた。
シャナは自らのふがいなさに歯噛みする。

―リリスの捜索及び捕縛は、ここに至って遂に諦めていた。


394:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:02:05 zl4bUSe7
 

395:状態表 ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:02:49 OtA1E1mV
【B-8/市街地/1日目/真夜中】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:しろがね化、消耗(中)、全身に相当なダメージ(再生中)
[装備]:楼観剣(鞘なし)@東方Project、コキュートス@灼眼のシャナ
[道具]:支給品一式(水少量、パン一個消費)、包帯
[思考]:少し休んで、それから……
第一行動方針:休憩後、北東の市街地に向かい居るはずの自動人形(トリエラ・リルル)を破壊する
第二行動方針:要件が済んだら、インデックスや双葉たちと合流。
基本行動方針:ジェダを討滅する。自動人形(と認識した相手)は、全て破壊する。
[備考]:義体のトリエラ、及びロボットのリルルを自動人形の一種だと認識しました。
[備考]:これまでのインデックスの行動の全てを知っています。
    神社を拠点にする計画も知っています。
    弥彦、キルア、アラストールと情報交換しました(どの程度かは次の書き手任せ)


【C-6/ラブホテル/1日目/真夜中】
【リリス@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]:右足と左腕にレーザー痕。顔に酷い腫れ。全身打撲。(以上全て応急手当済み)
     疲労(大)。全身に軽度の火傷。額に浅い切り傷。背中に打撲。
     微かな哀しみとすっきりと澄み渡った決意。『考え』る事に目覚めた。
[装備]:首輪×2(グリーンとニアのもの。腕輪のように両腕に通している)
[道具]:基本支給品(ランドセルは男物)、眠り火×8@落第忍者乱太郎、魔女の媚薬@H×H、
    メタちゃん(メタモン)@ポケットモンスターSPECIAL、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
    小狼のランドセル(基本支給品一式) 、きせかえカメラ@ドラえもん
[思考]:あたしが、考えるんだ。
第一行動方針:少し休憩
基本行動方針:優勝して、グリーンの魂ともう一度語り合う。もう「遊び」に夢中になったりはしない。
[備考]:
荷物の中の『魔女の媚薬@H×H』には説明書がついていません。
きせかえカメラ@ドラえもんは充電中です。


※:B-7のタワーの脚が一柱完全に破壊されました。
  更にリリスのダミーに放った必殺の業火も直撃し、鉄柱がかなり破壊されています。
  現時点で即座に倒壊する様子は有りません。



・私信。
すみません、避難所で代理投下を頼む前に駄目元で投下してみたらさるさん規制が解けていました。
どういう基準なのでしょう、一体。

396:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:03:14 zl4bUSe7
 

397: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:08:05 OtA1E1mV
ともあれこれで投下終了です。
お騒がせすみませんでしたが代理投下の人ありがとうございます。

ちなみに与える影響は次の通りです。

・街中でド派手な戦いをしました。市街地に(キルアか弥彦が)居たらまず気づく事でしょう。
 ただし時刻は真夜中、前の話から二時間以上後となります。
・シャナが洞窟前に居たのは24時より2時間以上前。
 よって前の話は夜中の終わり頃ではなく、夜中の中~前半。

ここら辺を気にしてキルアと弥彦も予約していたのですが、
どうも不要な内容になってしまったので、その分の予約は撤回します。

支援の方々もありがとうございました。

398:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:22:29 QzO9i14x
投下乙!
リリスとシャナの大バトル、両者の+α要素でどちらかが負けるかハラハラドキドキしました
ひとまず痛み分けの結果に終わってよかった

399:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:33:04 ew7QMh1C
投下乙です!
やばい、シャナが死ぬかと思って凄いドキドキしたw
知恵を絞ったリリスがここまで強いとは・・・。
GJでした。


400:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:33:20 yNBEourX
投下乙です。
知恵を身につけたリリス、しろがねの力をフル活用のシャナ。
どちらも恐ろしい存在となたものだ……GJです。

401:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:34:07 cxIp4ZXs
投下GJ! リリスKOEEEEEE!
グリーンやニアとの出会いがここで活きるとは……!
最後までハラハラさせやがって、GJだこのやろう!

402: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:34:14 OtA1E1mV
すみません、修正事項です。
シャナの装備に『あるるかん@からくりサーカス』を追記します。

403:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:34:59 zl4bUSe7
投下GJ。両者の恋愛観の対比がいいなあ。
迫力ある空中戦も良かった。あるるかんの再登場は予想外だったw
リンク、エヴァときて今度はしろがねか。扱い難しいのに使えるキャラにちゃんと渡り続けるとは。
しかしリリスの成長ぶりはやばい。グリーンいなくてもここまで作戦練れるなんて……。
禁止エリア初めて活かそうとするのがリリスだったってのも驚き。
タイムリミットまでの泥臭いせめぎあいもwktkしながら読んでました。

誤字の指摘を。夜傘→夜笠、紅世の従→紅世の徒

404: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 16:03:25 r5yLOvdW
感想たくさんありがとうございます。
今回初めから終わりまで思う存分バトルというバトルのための話でしたが、
割と好評で嬉しい限りです。

>>403
ああっ、用語の字間違えてましたか。
wiki掲載時に直しておきます。指摘ありがとうございます。

405:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 18:21:25 JUqE7iUs
それにしてもロリショタだらけの会場にラブホを設置するあたり
さすがジェダ様は変態という名の紳士w

406:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 21:28:13 b3vsAB1N
そろそろ放送いけるかな?


407:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 21:39:45 zl4bUSe7
ヴィクトリア、イエロー、ひまわり
キルア、弥彦

時間夜中で描写があったほうがいいかもしれないのはこの二組だろうか。

408: ◆sUD0pkyYlo
08/08/11 00:30:34 Tpc3QKNz
では、 キルア、弥彦  以上2名予約します。

409:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/11 03:34:51 NKr7F6b9
期待

410:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/11 22:43:00 gvOjZY0f
期待
ショタだけってなんだか新鮮だなw

411:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 03:07:27 nKYIUOJ3
転載&期待

945 名前: ◆iCxYxhra9U[sage] 投稿日:2008/08/12(火) 03:03:31 ID:3VUByKUo0
アク禁なのでこちらで。
パタリロ、エヴァ、インデックス、リンク、なのは、アリサの
六名を予約します。


412:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 10:06:44 jDGR7Er/
豪華だな

413:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 15:58:27 I+y6mINd
なのはさんにエヴァにパタリロ…
大波乱の予感だ

414:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 16:42:16 xmgSizPl
パタリロが終わった様な気がしてならない…生きろパタリロー!w

415:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 18:25:13 Qstyl/LD
火種多過ぎて拭いたw

416:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 18:31:48 QpH66CBw
>>414
殿下の生存力はある意味チートなのでむしろその他のキャラのほうが・・・

417:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 18:50:33 5BnLBaN5
どうしてだろう?
マーダーはいないハズなのに……
全員が対主催のハズなのに……

何故か穏便に済む気がカケラもしないw

418:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 19:05:46 T7yyVZmo
いや、消火できるかはさておきすぐに爆発するとも限らない。
もしかするととりあえずは擦れ違いで収まる可能性だってあるw
マイナス×マイナスでプラスに転じる希望だって……一片くらいは?

419:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 20:35:59 7Is5qVkk
マイナス同士はかければプラスになるが足すとマイナスのままなんだぜ

420:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 21:58:33 egS6mjBf
>全員が対主催のハズなのに……

 ・ ・ ・ ! ?  マ ジ で !?

…本当だ、一応皆ジェダを倒す事を考えてるw
でもパタリロ、エヴァ、なのはの三人が出会ったら確実に嵐が吹き荒れそう。

>>416
殿下は残りの全員から攻撃されかねないからなw

421:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 22:28:28 COmiFazr
久々のなのはさんが怖すぎる
超マーダーキラーに進化したなのはさんだからな

422: ◆sUD0pkyYlo
08/08/13 01:48:54 VNQHWSe4
すいません、予約してる2名ですが、
期限である明日の深夜までに書きあがる自信がもてないので、予約の延長をお願いします。
どうも、妙な苦戦の仕方をしてまして……。うーん。

423:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/13 09:27:09 jw/gu/kz
保守代わりにプチなのを。

主人公は全国でもトップクラスの陸上選手だったが、足を壊してしまい走れなくなった高校生。
特待生待遇で入った学校を逃げるように転校し、療養も兼ねて引っ越したのは田舎の寂れた高校だった。
そこで彼は「陸上部を作ろう」と書かれたビラを生徒に渡している少女と出会う。
主人公の存在を知っていた少女は主人公を勧誘しようとするが、主人公は少女の熱意を鬱陶しく思い、拒絶する。
だがそれでも少女はしつこく彼を陸上の世界に戻そうと誘い、彼にまとわりつく。
彼はついに少女の熱意に負け、「マネージャーとして」入部。部を設立すべく生徒の勧誘を手伝うようになる。
始めはかったるく思っていたが、次第に彼の中で陸上への思いが再燃。リハビリを兼ね、こっそりと練習を始めた。

一方部員はまったく集まらず、学校側は予算不足を理由に同好会としての活動すら認めようとしない。
そこで少女がある提案をする。
「100m走で去年の全国記録を破れれば部として認めて欲しい。0.1秒でも遅ければこの件は諦める」と。
どうせ破れるわけがないと思った学校側はこの案を承諾。そしてついに部の存続を賭けた100m走の日がやってきた。
少女は自分の力を出し切り、100mを駆け抜ける…しかしそのタイムは僅かに届かなかった。
地面に突っ伏し、泣き出す少女。そんな彼女に主人公が話しかけた。「…陸上部員はもう一人いるだろ?」

去年の全国記録は全盛期の自分が出したタイム。それを更新することは難しい。無理をすれば再起不能になるかもしれない。
だが今の主人公に迷いはなかった。スタートラインに立ち、スタートの合図を待つ。
そして…。
非公式ではあるものの、タイムは更新された。
そしてこの日、田舎町の小さな高校に二人だけの陸上部が生まれた。


…これなんてロケットの夏?


424:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/14 04:34:39 PuVVODgH
 【エセ右翼の目的は、右翼は痛い団体だと日本人に思わせ、まともな愛国心ある人を貶める事です】

 ・右翼団体「松魂塾」(豊島区) - 極東会(構成員1500人)
  松魂塾最高顧問:松山眞一こと曹圭化(在日)
 ・右翼団体「祖国防衛隊」(大阪) - 七代目酒梅組(構成員160人)
  七代目酒梅組組長:金山耕三郎こと金在鶴(在日)
  六代目酒梅組組長:大山光次こと辛景烈(在日)
 ・右翼団体「松葉会」(台東区) - 松葉会(構成員1400人)
  松葉会六代目会長:牧野国泰こと李春星(在日)
 ・右翼団体「日本皇民党」(高松) - 山口組宅見組系
  日本皇民党行動隊長:高島匡こと高鐘守(在日)
 ・右翼団体「日本憲政党」(世田谷区) - 中野会弘田組
  日本憲政党党首:呉良鎮(在日)
  日本憲政党最高顧問:金敏昭(在日)
  金俊昭の実兄:金銀植(在日)
 ・右翼団体「双愛会」(千葉)- 双愛会(構成員320人)
  双愛会会長:高村明こと申明雨(在日)
 ・右翼団体「三愛同志会」(下関) - 六代目合田一家
  五代目合田一家総長:山中大康こと李大康(在日)
 ・右翼団体「東洋青年同盟」(下関) - 四代目小桜組系
  四代目小桜組組長:末広誠こと金教換(在日)
 ・右翼団体「日本人連盟」(会津若松)
  四代目会津小鉄会長:高山登久太郎こと姜外秀(在日)
 ・右翼団体「アジア建国党」
  アジア建国党最高顧問、金相洙(在日)
 ・右翼団体「亜細亜民族同盟」
  三代目山口組柳川組、柳川次郎こと梁元錫(在日)

 【興味がある方は、「右翼の正体」でググって下さい。さっきアドレスが打ち込めたんですが、
  さっそく規制かけられた様でアドレス入力出来ません。】


425:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/14 10:12:45 etn52dId
転載

946 名前: ◆iCxYxhra9U 投稿日: 2008/08/14(木) 00:21:21 ID:qft6MqVU0
相変わらずアク禁なのでこちらで。
今日中には書き終わらない見込み。予約の延長をお願いします。
なんか、どんどん長くなってく……

426: ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 16:13:17 NXBXpcLB
延長していた予約分ですが、推敲の上今夜投下するつもりです。
夜の8時頃を予定しています。お時間のある方、支援をお願いします。

427:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 16:54:28 E9cRwljC
今夜用事ある俺涙目。支援できないけどがんばれー

428: ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:00:19 NXBXpcLB
では、投下開始します

429:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:01:12 NXBXpcLB

満月が、街外れの平原に立てられた2つの墓を煌々と照らしていた。
片方は巨大な鉄の板。片方は墓標もない質素な盛り土。
2つの死を悼む2つの記念碑を前に、それぞれを作った少年たちの姿があった。

「俺は行くけど、お前は?」
「俺は―」

キルアの問い掛けに、明神弥彦は少しの間逡巡する。
ある意味、彼らしくもなく―思い悩む。

犯人を追う。
いましがた弥彦が墓を作った、名も知らない少年を殺した、その犯人。それを追う。キルアはそう言っていた。
その目標は明確で、とりあえず進む方向も分かっている。
対する弥彦は、懸念事項は多いものの、どこから手をつけていいのか分からない状態。
行方の分からない千秋も、本名も顔も分からぬ『バンコラン』も、生死さえも怪しいニアも、全て手掛かりなし。
だからキルアの「お前は?」という短い問いかけは、言外に「お前も一緒に来るか?」という意味だろう。

彼とはこの場で少し話しただけの関係でしかないが、それでもお互いの性格はかなり理解できた。
弥彦の見たところ、少し口は悪いが悪人ではない。
真っ当に知り合いの死を嘆くことが出来、真っ当に知り合いの死に怒ることのできる人物だ。
そしてまた、彼は頭がいい。カンがいい。
先程のシャナも交えての情報交換の場では、少ない説明でこちらの意を的確に汲み取ってくれた。
きっと弥彦の性格も、弥彦がキルアを理解している程度には、理解してくれている。
彼が真っ直ぐな性格であることも、一箇所にじっとしていられない性分であることも、分かってくれている。
分かっているからこそ、「一緒に来ないか」と、誘ってくれている。

そこまで分かっていて……理屈ではなく、直感的にそこまで解しておいて、しかし、弥彦は迷う。
いや、そこまで解しているからこそ。
簡単に同意を返すより先に、確認しておかねばならないことがあった。

「俺は―いや、俺がどうするかより先に、聞いておきたいことがある」
「ん?」
「キルア、お前……その『犯人』を見つけて追いついた後、どうすんだ?」

問い掛けた弥彦のその手の平に、思わず汗が滲む。
そうであって欲しくない。けれども、予想がついてしまう答え。弥彦の受け入れることの出来ぬ答え。
果たしてキルアは、弥彦の予想通り。
何の気負いも力みもなく、さらりとその答えを口にした。

「どうするって……そりゃ、殺すに決まってるだろ」


430:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:02:54 W6GSfBKr
支援

431:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:03:05 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


キルア=ゾルディックは、元・殺し屋である。

世界最高レベルの暗殺者一家に生まれ、一族内でも抜きん出た資質を認められ、闇のエリート教育を受け。
家業を嫌って家を飛び出し、紆余曲折の末にハンターとなった今も、それらの過去は彼の中に生きている。
念能力を身につけ、オーラを電気に換える技を習得した後も、彼の強みはその殺し屋の技。

だから……彼が後悔するとしたら、ただ一点。
大した理由もないのに殺しを躊躇ってしまった、その部分。

今思い返せば、キルアが「のび太」を生かしておく必要などなかったのだ。
できればニアの話の裏を取りたい、と欲張ってしまったが、あの時の優先事項はあくまで首輪の確保。
だから……速攻で殺していれば良かったのだ。
最初から殺す気で挑んでいれば、下手なプライドを気にすることもなかった。隠蔽工作など考えなかった。
太一を長時間放置したりしなかった。太一を騙して殺そうとした奴を、きっと返り討ちにすることもできた。
実際「最初から殺す気」で対峙した銀髪の殺人狂少女は、あっさり心臓を抜き取れたのだ。

「どうするって……そりゃ、殺すに決まってるだろ」

自らの言葉で、キルアは自分のやるべきことを改めて認識する。
犯人を追う。そして、見つけたら殺す。物事はやっぱりシンプルがいい。
そりゃあ犯人かどうかを判断するためにも、多少は言葉を交わすことになるのだろうが……
そうと分かりさえすれば、即殺す。疑わしいくらいで殺してもいいかもしれない。間違いを怖れてはいられない。

とりあえずは、さっきトンネルの中で死んでいた少年を殺した奴。そいつを探して殺す。
そいつだけじゃない。
殺し合いに乗ってる者。殺し合いに乗ろうとしている者。出会って気付けば、全部殺す。
そうやって殺して殺して殺していけば、きっと太一とゴンの仇とも遭遇できる。2人の仇も討てる。
誰が仇だったかなんて、殺した後に確認すればいい―3人殺しの、ご褒美の権利で。
いや、太一の方は犯人が持ち去ったゴーグルで確認できたのだっけ。

ともかく……殺していけばいい。
2人の仇を取ったあとどうするかなんて、その時になってから考えればいい。
この島から、優勝なんて狙う馬鹿野郎が全部いなくなってから考えればいい。
キルアの口元が、楽しげに吊りあがる。酷薄さも孕んだ、危険な笑みを形作る。
どこか楽しげに、どこかからかうように言葉を紡ぐ。なぜなら。

「で、それをわざわざ聞いて、明神弥彦はどうすんだ?」
「なら……俺は、お前を止めなきゃならねぇ」

なぜなら―
弥彦がキルアの返答を予測できたように、キルアも、なんとなく弥彦の答えが分かっていたのだから。


432:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:03:07 ADk0aTmm
支援

433:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:03:45 ADk0aTmm
 

434:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:04:04 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


明神弥彦は、未熟な身ながら神谷活心流の剣士である。

神谷活心流が目指すのは、人を殺さずして人を活かす、活人剣。
そして背に負うた刀は、かつての人斬り抜刀斎が不殺(ころさず)の信念を誓った逆刃刀・真打。
明神弥彦は、その双方を自らの目標とし、生きる道としたのだ。

だから……彼が後悔するとしたら、ただ一点。
手の届かない者を助けようとして突っ走り、手の届く位置にいたはずの者を守れなかったこと。

目に映る者全てを守りたいと思っても、弥彦はまだまだ未熟な身だ。
けっきょく、カツオも、太一も、ニアも、守ることが出来なかった。
出会っていたのに……守れたかもしれないのに、届く距離にいたかもしれないのに、守れなかった。
もう、あんな思いは嫌だ。あんな思いを誰かにさせるのも嫌だ。
だからせめて、手の届くところにいる者だけでも。
手の届くところにいる者が、間違った道に進もうとしているのなら。

「なら……俺は、お前を止めなきゃならねぇ。
 事情も聞かずに殺すつもりの奴を、そのまま行かせるわけにはいかない」
「おいおい。オレが殺すって言ってるのは、殺人犯だけだぜ?」
「それでもだ。もう、人が殺すのも殺されるのも、御免なんだ。
 どんな奴だろうと俺は、この手が届く限り、誰1人たりとて死なせねぇ!」

気に入らない奴・悪い奴は見殺しにしていいのなら、ニアの破滅に心を痛めたりはしない。
きっと、ニアに反発しニアの下から離れ、ニアを破滅させることもなかっただろう。
敵や悪党であっても出来るだけ殺さずに済ませたいと願うのが、明神弥彦という少年なのだ。

弥彦は背に負うた刀をすらりと抜く。
あいにくと今の彼の体躯では、腰に常時差しておくには長すぎる。重すぎる。そ
大人が野太刀を背負うように、いつも竹刀を背負っていたように、肩口から突き出した逆刃刀の柄。
掴んで、抜いて、構える。
その切っ先は自らの正中線上、中段の高さ。教科書にそのまま載せられるような、綺麗な正眼の構え。

「あ? なんだその剣。峰と刃が逆じゃねーか。そんなモンでオレを止めるって?」
「逆刃刀・真打(さかばとう・しんうち)。不殺(ころさず)を誓った、最強のサムライの『魂』だ」
「へェ……。面白ェ。『不殺』と来たか」

キルアの顔が、歪に歪む。笑みと呼ぶにはあまりに攻撃的過ぎる表情。
互いの信念を論じ合っても、言葉だけでは誰も止まらない。
キルアは進もうとするだろう。弥彦は追いすがり立ち塞がろうとするだろう。
そして、いずれ衝突する。
殺し合いに乗っている「敵」と対峙した時か、その「敵」を倒した後かは分からぬが―いずれ、衝突する。

ならば、どちらにとっても、決着は早い方がいい。

弥彦は刀を両手で構え、キルアはだらりと両手を下げた自然体で。
町の外れ、満月の下、2つの墓の前。
じり、と2人は間合いを詰めた。


435:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:04:57 +Mv/7HTg
 

436:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:05:07 W6GSfBKr
支援

437:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:05:11 ADk0aTmm
シエーン

438:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:05:36 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


(―力量は、そうだな。大雑把に言ってズシと同じくらい、ってとこか)

相手の構えからその力量を推し量ったキルアは、油断なく観察しつつも考える。
才能はある。鍛錬も積んでいる。経験も年齢の割には相当なもののようだし、普通に言って相当に強いはず。
ただしそれも、キルアほどではない。
キルアほどの天性の才はないし、キルアほどの訓練は受けていないし、キルアほどの場数は踏んでいない。
自惚れではなく冷静な判断として、そう見切る。
キルアはポケットに入れていた『コンチュー丹』の容器を一旦手に取り、しかし考え直してまた戻す。
こいつは、今は必要ない。
キルアの性格上出来るだけ慎重を期したいところだが、貴重な消耗品を使ってやる程の相手とも思えない。

素の実力でも、油断や事故が無ければ負ける気はしない―だがしかし、その上でキルアは少し迷う。
弥彦には恨みもない。弥彦は殺し合いにも乗っていない。
弥彦には、殺しておくほどの価値すら見出せないのだ。
ただ、大事な所で邪魔されたくないから早めに対処しておこう、という程度の相手だ。
適当に彼我の実力差を思い知らせてやれば諦めるかな、などと考えた所で、ふと思いつく。

(そうだな……いい機会だし、いろいろ試させてもらおうか)


      ※     ※     ※


(逆刃刀が、やけに重いぜ……。あんまり、時間かけるわけにはいかねェな)

明神弥彦は、手の内の得物の重さに、内心舌を打つ。
不殺の信念を背負わされているから―だけではない。それもあるが、もっと物理的な意味だ。
元々、それが普通の日本刀であっても、今の弥彦の身体には大きすぎ重過ぎる。
銀髪の大槍使いを前に、桜観剣そのものでなくその鞘を武器としたのも、1つにはそれが理由だ。
普段弥彦が振り回している得物は、木刀よりもさらに軽い竹刀でしかないのだ。

さらには、弥彦は今日一日で随分と走り回っている。
千秋と「バンコラン」を探し午後一杯走り回り、日没後にタワーまで駆け戻り、そのまま非常階段を登り切り。
さらには粗末なものとはいえ、人間1人が納まるほどの穴を掘り、墓を作って―
既に、相当に疲労しているのだ。
食事も休憩もロクに取っていない。年齢の割には体力がある方だが、それでも限界が近い。
刀の重さも考えに入れると、長期戦は自分に不利。弥彦はそう判断する。
『神谷活心流』はどちらかといえば守りに重点を置く流派だが、この際仕方ない。先手必勝で行くしかない。

(悪いけど早めに叩きのめして、そのやばい考えを捨ててもら―ッ!?)

439:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:06:31 ADk0aTmm
 

440:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:07:13 1gc7/tcB
 

441:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:07:22 W6GSfBKr
支援

442:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:07:53 NXBXpcLB

自然体のまま、しかし打ち込む隙の見えないキルア。
それでもこちらから攻め込み状況を崩そうと、弥彦は踵を浮かして―驚愕した。
弥彦の呼吸を読んでいたのか、まさにその瞬間に静かに歩き出したキルア。
その姿が、増えたのだ。
鏡写しのようにそっくりの無数の『キルア』が音も無く出現し、弥彦を取り囲む。彼の周囲を歩き出す。

「な―!?」
「―『肢曲(しきょく)』、って言うんだけどな。その様子だと、『コレ』はちゃんと効いてるか」

早いのか遅いのかさえもよく分からぬ速度で周囲を回りながら、無数のキルア「達」が一斉にニヤリと笑う。
弥彦は瞬時に理解する……これは、あくまで「錯覚」だ。
実際にキルアの数が増えているわけではない。緩急のついた独特の歩方で、残像が残って見えているだけ。
四乃森蒼紫の『流水の動き』と同系統の、『技術』であり『体術』なのだ。
ならば。

「なら……キルアは『1人』だっ!」

幻惑して隙を突こうとしているのを承知の上で、弥彦は雄叫びと共に『キルア』のうちの『1人』に斬りつける。
たまたま『本物』に当たればよし、外れても『本物』のキルアが襲ってくるはずだから、そこを返り討ちにする。
かなり不利で危険な賭けだが、しかし他に策が思いつかない。長々と悩んでいる時間さえ惜しいのだ。
果たして逆刃刀は予想通りに空を切り、同時に弥彦の背後で『誰か』が跳躍する気配がする。

(上から?! って高っ! 剣心並みの跳躍じゃねーか!)

咄嗟に振り返って、また驚愕。
キルアの身体は、ちょっとした家なら飛び越えられるくらいの高さにあったのだ。なんという脚力か。
だがそこは、飛天御剣流の戦いを間近で見続けた弥彦だ。瞬時に気を取り直す。
頭上を取られたのは確かに痛いが、こっちにだって迎撃用の技くらいある!
逆刃刀を構えなおした弥彦は、そして。

「撃ち落してやるっ。龍翔閃・抵(りょうしょうせんもど)―!?」
「ほとんど『練(れん)』はなし、だと、どうかな……『鳴神(ナルカミ)』」

空中のキルアの手元が小さく光ったかと思った次の瞬間。
小規模な落雷が、弥彦の身体を貫いた。
目も眩む閃光。過去に味わったことのない衝撃。形容の言葉も見つからない体の痺れ。
明治初頭の日本に生を送る弥彦には、「感電」という単語すらも咄嗟に思い浮かばない。
ただ、逆刃刀から伝わってきた正体不明の感覚に、ただ混乱する。
妖術か魔法としか思えぬその技に、とにかく混乱する。
膝を着きそうになるのを必死に堪え、ガクガクと震える脚で必死耐える弥彦。
その視界の片隅に、キルアがストンと着地する姿が映る。

(……やばっ! このままじゃ……やられるっ! 動け、俺の身体っ……!)
「ふ~ん、この程度のオーラ量で『発(はつ)』すると、こんなもん、っと……。
 じゃあ今度は―『拳』に『60』、『身体』に『40』。これだと、どうなるかな」


443:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:08:12 ADk0aTmm
 

444:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:08:17 svSQgIlc
 

445:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:09:04 ADk0aTmm
 

446:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:09:23 q8pNJctX


447:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:09:50 NXBXpcLB

キルアが何やら意味不明なことを呟いているが、弥彦には詳しく考える余裕がない。
痺れの残る弥彦に無造作に近づいてきて、これまた無造作に殴る。避けようとするが、間に合わない。
まるで手甲でもしているかの如き硬い拳が、弥彦の鳩尾に突き刺さる。

(な、なんだこの硬さッ! 暗器を持ってる……ってわけでもねぇのか!?)

込み上げてきた酸っぱいものを吐きながら、それでも弥彦は「あえて殴り飛ばされる」。
瞬時の判断で、逆らわずに吹っ飛ぶことでその身に受ける衝撃を最小限に留める。
そういえば飯も喰ってない。胃液と唾液が混じっただけの苦い吐瀉物の味に、弥彦は顔を顰める。
それでも血の味が混じってないということは、内臓へのダメージは大したことではないということだ。
もっと酷い暴行を受けたことだってあるのだ。この程度なら、まだまだやれる!
むしろ間合いが開いた今が好機と、反撃に移ろうとして―

ぴたり。
いつの間にか爆発的に距離を詰めてきたキルアの手の平が、弥彦の胸に当てられていた。
ぞくり、と背筋が凍る。
そのあまりに素早い突進速度に、ではない。先ほどの情報交換の時に聞いた話が、ふと思い出されたのだ。
確かキルアは、銀髪の大槍使いの少女の、心臓を……!

「―なっ」
「『雷掌(イズツシ)』―」

心臓を抜かれる、と思った次の瞬間、しかし弥彦の身体を襲ったのは先ほどの落雷の時と同様の衝撃。
今度は放電ではなく通電―スタンガンの如きもう1つの電撃技、『雷掌(イズツシ)』だ。
やられた当人には理屈も原理も分からない。
ただ、弥彦にも分かったことが2つある。
キルアはその超人的な体捌きに加えて、『雷』を自在に操れる神秘の力を持っている。
そして、それらの力を持っていながら。

「っと、なるほどね。この程度の力なら、このくらい、と。
 じゃあ次は―『拳』に『70』。続いて、『足』に『65』、だとどうかな」

電撃に痺れた身体に、さらに鉄塊を叩き付けるかのような拳撃と蹴撃を浴びながら、弥彦は確信する。
キルアは……こいつは、「実験」している!
弥彦と戦いながら、手加減しながら、自分の能力を、その威力を、ひとつひとつ確かめている!
弥彦を相手にしながら……全力を、出していない! 全力を出す価値すら、認めていない!

(ちく、しょうっ……!
 何が10歳としては「日本で」一番強いかもしれない、だ。やっぱりそんなの大した意味ねぇじゃねぇか!)

キルアとは何歳も離れていないようにしか見えないのに、この有様だ。
どう見ても日本人には見えぬキルアを前に、弥彦は己の無力さを呪う。
殴られ、蹴られ、反撃は悉く宙を切り、合間合間に電撃を受け、痺れて焼かれ。
手も足も出ない一方的な状況の中、弥彦は怒りと悔しさに涙を滲ませた。


448:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:10:01 nq6/8vp5



449:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:10:37 ADk0aTmm
 

450:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:11:08 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


(うん、大体分かってきたな……)

弥彦を一方的になぶるように痛めつけながら、キルアは1人自信を深める。
そう……弥彦の読みは、正しい。
キルアがやっていたのは、「実験」であり「テスト」である。
自らに課せられた「念能力」への「制限」。その程度を測るための「実験」だ。
電撃を放つ前に溜めるオーラの量。それによる稲光の強さに、実際に人に当てた時の反応。
念の基本技術である「流(りゅう)」による、拳や足の強化……それも、様々に度合いを変えて。
念ではないが、「肢曲」のような暗殺者の体術も。
実力差があるとはいえ、実戦の中で試し、用い、具合を確認したのだ。

元々キルアは、精密なオーラの操作を得意としている。
1%の狂いもなくオーラを身体の各所に振り分ける「流」の正確さは、師の1人であるビスケも認めるところだ。
自らの能力を正確に把握し、理解し、使いきる。それがキルアの真骨頂。
だがしかし、だからこそ、だったのかもしれない。
彼は、このジェダによる殺し合いの場で……致命的なミスを犯した。
手加減の度合いを、間違えた。殺す気のない相手を、殺してしまった。
理由は、「制限」。
それは、この島に来て始めて本格的に使った念能力。実験も試し撃ちもない、ぶつけ本番の一撃。
そのせいか、自らの身に課せられた枷の重さを多めに見積もってしまい、強すぎる雷を撃ってしまったのだ。

己のプライドに賭けて、二度とあんなミスは犯さない。
そのために必要なのは、正確で精密な自らの能力の再認識。
「制限」でどの程度能力が落ちることになるのかを、自らの身で把握しなおすのだ。
どうせ弥彦を叩きのめさねばならぬのなら、これは一石二鳥。実戦の中でしか掴めないことも多いのだ。

そんなわけで、手加減しながらも正確さを志し、戦いを続けてきたキルアだったが。
色々と試したお陰で、ほぼそちらの目的は達したと言っていい。
「制限」によってどの程度の目減りが見込まれ、どの程度の威力低下があるのか、ほぼ完璧に把握した。
もうこれで「のび太」の時のようなミスはしないだろう―だが、計算違いは、別の部分にあったわけで。

「それにしても……タフな奴だな。おい、いい加減辛いだろ?
 そのまま寝とけよ。邪魔さえされなきゃ、オレはそれでいいんだからさ」
「まだ……まだぁっ……!」

キルアの計算違い―それは、殴れど蹴れど倒れない弥彦の存在だった。
確かに急所は打っていない。内臓も潰していないし骨も砕いていない。顎や頭も打っていない。
体中に青痣と、掠り傷と、電撃による火傷が刻まれていたが、いずれも致命傷には程遠い。
どれもただ、「痛い」だけだ。
出来ればサンドバック役として長く立っていて欲しかったから、あえて決着を引き伸ばしていたのだが―
いい加減、うんざりしてきていた。
この辺で気絶でもしてくれれば、ちょうど都合がいいのだが。

「だってお前、勝ち目ねーじゃん。
 そっちの刀、全然オレの身体に当たってねーし。何回か惜しい時もあったけどさ。
 どうせ無理だから、さっさと諦めなって」
「神谷活心流は、活人剣……。活人剣を振るう奴には、どんな負けも許されねぇんだよっ……!」

いい加減苛立ちすら感じ始めたキルアの前で、そして弥彦は、言葉とは裏腹に、おもむろに刀を納めてみせた。


451:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:11:46 ADk0aTmm
 

452:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:11:59 q8pNJctX


453:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:12:29 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


(そう、俺には敗北が許されない……!)

神谷活心流は、活人剣。
人を守るために振るう剣であり、人を守るための剣だ。
1本の剣に、自分と守ろうとする者、2つの命運を賭ける。それが活人剣。
ゆえに、負ければ自分は勿論、守ろうとした者の命運をも尽きてしまうのだ。

ここでキルアを逃したら、彼は必ずやあの犯人に追いつき、殺すだろう。
釈明も弁明も改心も懺悔も許さず、雑草を刈り取るように命を奪ってしまうのだろう。
そしてそれは、弥彦にとって望ましい話ではない。

剣心の過酷な戦いを間近で見続けてきた弥彦は、よく知っているのだ。
悪党と一言で言っても、進んで悪の道に堕ちた者ばかりではない。
哀しい過去、致し方のない経緯、理不尽としか言えぬ運命。
そういったものを背負った、被害者とでも呼ぶべき殺人者たちを、どれだけ見てきたことか。
彼らの存在を思い出せば、「殺し合いに乗ってる奴は全部殺せばいい」なんて、安易に言えるはずもない。
だから。

刀を一旦納めて、鞘ごと背から外す。
外したそれを、改めて左腰に差しなおす。余裕なのか好奇心からか、幸いキルアは動かない。
そのまま左手を鯉口に、右手を柄に添えて腰を落とせば―その姿勢は。

「へぇ、居合いか。なるほど、考えたもんだ」
「…………」

キルアが楽しそうに口笛を吹く。が、その細められた目は笑っていない。
彼も分かっているのだ。この構えの特性が。
数多の剣術の中でも、居合いは「後の先」を取ることに特化した構え。カウンターこそがその本領。
これなら、キルアのスピードも捉えうる。
素手と刀のリーチの差で、先に攻撃を叩き込める可能性がある。
弥彦もあまり慣れてない構え、長すぎる刀、抜刀には向かぬ逆刃の刀……不利な条件は揃っていたが。
それでも、この構えに賭ける。
この構えから繋がる、わずかばかりの勝機に、全てを賭ける。

454:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:13:06 W6GSfBKr
支援

455:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:13:18 q8pNJctX



456:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:13:43 ADk0aTmm
 

457:殺意×不殺×轟く雷光  ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:13:59 NXBXpcLB

(さっきまでだって、ただ殴られてたわけじゃねぇ。
 既に手は1つ打ってる……そしてまだキルアは、「気付いてない」。
 だけど、「それだけ」じゃきっと「届かない」。「それだけ」で勝てる甘い相手じゃねぇ……!)

己の懐にある「あるもの」を意識しつつ、今はキルアの動きに集中する。
基本的に「待ち」の姿勢である居合いの構えだが、しかし持久戦になれば弥彦が圧倒的に不利。
しかし、弥彦はその部分は心配していなかった。何故なら。

「気付いてるだろうけどさ。オレ、ずっと手加減してたんだよね。
 これ以上やるってんなら、もう手加減やめるぜ? お前、本気で死ぬぜ?」

余裕を見せているキルアの声に、微かに抑えきれない苛立ちが混じり始めている。
もう一押し。あと一押しで、きっと、望んでいたチャンスが。

「やって、みろっ……! 出し惜しみしか出来ないお前に、出来るもんならなっ……!」
「ふーん、そう。じゃぁ……」

キルアが何気ない呟きを漏らした、次の瞬間。
彼の身体が、掻き消える。
いや、消えたのではない―人間の意識が追いづらい、タテ方向の高速移動。
キルアの手の間に、紫電が走る。
念能力者でなくとも分かる、素人目にも分かる。今までの比ではない威力の電撃、その予備動作。
刀も届かぬ距離、まともに喰らえば黒焦げになること必至の大技を前に、それでも、弥彦は。

「じゃあ……死になっ!」
(剣心―技を借りるぜ!)

弥彦は、未だ勝負を諦めていなかった。


458:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:14:55 q8pNJctX


459:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:15:08 W6GSfBKr
支援

460:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:15:17 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


「じゃあ……死になっ!」

両足に念を込めて、一気に跳躍。
頭上を取って、「練(れん)」で練り上げた大量のオーラを両手の間に溜める。
「制限」下における、今のキルアの最大出力だ。

弥彦が居合いの構えで刀の間合いを制するのなら、「そのさらに外側」から攻撃すればいい―。
幻影旅団のノブナガよりは遥かに劣る相手、突進して接近戦を挑んでも十分に勝ち目はあったろうが。
間合いという一点に限れば、ナイフやブーメランを投げても良かったのだろうが。
なんとなく……腹が立って仕方なかった。
弥彦の諦めを知らない瞳に、責められているような気分になってしまった。
どこか見覚えのある瞳。それはそう―ゴンが追い詰められた時のような。太一が垣間見せたような―!

(……ふざけるな! あいつらと一緒なんて……認められるかっ!)

思わず脳裏に浮かんでしまった、気の迷いを振り払うにも。
全力で叩き潰さないと、気が済みそうにない。
弥彦がこれで死んでも知ったことか。
全オーラを電気に換え、弥彦の頭上から叩き付ける。
並みの人間はもちろん、生命力あるキメラアントが相手でも即死しかねない出力で。

「見様見真似―」
「遅ぇ! ……『鳴神(ナルカミ)』―!」

2つの墓の傍、眼下の弥彦が「何か」をしようとしている。
抜刀術の構えで、身体ごとその場で一回転。
だけど、この距離、この高さだ。何をしようとも、雷が落ちる方が早い!

必殺の確信を持って、キルアは電撃を放って―
落雷の轟音が、弥彦の技の宣言の後半を掻き消して―
同時に、弥彦の左腰から、「何か」が弾丸のような勢いで撃ち出されて―
けれどその方向は、キルアに当てるには、狙いがズレていて、技の出だしを潰すにも遅すぎて―

キルアは、目を見張った。

(な……? 『鳴神』が……電気が、曲が、るっ……!?)

眼下には、逆刃刀の鞘を突き出すように持つ弥彦の姿。
スローモーションのようにゆっくりと進む時間の中、キルアは確かに、弥彦の目が笑うのを見た。


461:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:15:26 nq6/8vp5



462:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:15:46 ADk0aTmm
 

463:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:16:01 nq6/8vp5



464:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:16:48 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


それは、一瞬の出来事だった。

キルアの手から放たれた雷は、地上の弥彦を狙った雷は、しかし虚空で僅かに進路を変えて。
虚空に投げ出された「鉄の棒」……『逆刃刀・真打』に命中し。
刀を伝わった電光はそのまま逸れ、弥彦の傍ら、やや離れた位置にある巨大な鉄の板に誘導される。
そう、それは―トンネルを塞いでいた鉄扉を用いて立てた、八神太一の墓。
キルアが太一のために、と立てた「立派な墓」が、キルアの技を逸らす。受け止める。大地に放電する。
弥彦を傷つけることなく、弥彦を守る。

(よしっ、読み通り―!)

キルアの持ち技の1つ、『鳴神(ナルカミ)』。
変化系能力者が不得意とする遠距離攻撃、放出系能力であり―
不得意な部分を補うために、雷としての特性を模倣した技。
だからそれは、近くに「避雷針」があれば対象に当たらない。
明治時代の弥彦だって、雷が高い所に落ちることくらいは知っている。
門扉だけでは高さが足りず尖ってもおらず、雷が導かれることもなかったが……そこに逆刃刀を加えれば。
タイミングを合わせて、太一の墓に沿うよう逆刃刀を撃ち出せれば。
それは「読み通り」というより、髪の毛ほどに細い可能性に全てを賭けた一撃であったのだけど……!

『見様見真似・飛龍閃・改(みようみまね・ひりゅうせん・かい)』。
かつて緋村剣心が石動雷十太の『飛飯綱(とびいづな)』を前に撃ち放った抜刀術、『飛龍閃(ひりゅうせん)』。
居合い抜きの動作そのままに、しかし柄に手を添えず腰の捻りだけで剣を撃ち出す、奇想天外な飛び道具。
本来は地面と平行に撃ち出されるはずの刀、そこに弥彦は独自のアレンジを加えて。
撃ち出す瞬間、鯉口を押し上げ、足腰のバネも利用して、斜め上方に発射したのだ。

いわばこれは、弥彦オリジナルの対空迎撃技。
居合いの構えで牽制すれば、キルアがこの「刀よりも間合いの広い」技を使ってくることは容易に予想できた。
そして『飛龍閃』とは、剣士には不利な遠距離の間合いを制することに価値がある技。
優れた弟子は師の模倣だけに終わらない。
その術理の本質を見抜き、自分なりの応用をしてこそ、なのだ。

だがしかし、今この瞬間、これで終わってしまえば意味が無い。
絶妙のタイミングで、ぶつけ本番のオリジナル技を成功させはしたが、しかしそれは一撃を避けただけ。
あさっての方向に飛んでいってしまった逆刃刀・真打を拾うヒマは、おそらくない。
だが焦ることなく、素早い動きで、弥彦は懐から「とあるもの」を取り出す。
それは先ほど一方的に殴られていた時に確保した、「逆転の切り札」。
迷うことなく手に取ると、彼は「それ」を、口に含んだ。

465:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:17:01 ADk0aTmm
 

466:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:17:47 nq6/8vp5



467:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:18:42 W6GSfBKr
支援

468:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:18:53 NXBXpcLB

      ※     ※     ※


(焦るな、たった一発、かわされただけじゃないか―!)

空中のキルアは、瞬時に意識を切り替えようとした。
ありったけのオーラを注いだ一撃をあんな方法で避けられたのだ、当然動揺はある。
避雷針代わりに太一の墓を利用されたことも、正直言って腹立たしい。
けれど、今考えるべきはそんなことではなく。

空高く跳躍したキルアは、未だ自由落下の途中にあって―
念を、電気を一旦使い切った今の状況では、空中での行動の自由はほぼなくて―
つまりは地面に着地までの数秒にも満たぬ時間の間、無防備になってしまう。
低威力でも『鳴神』が当たっていれば、そんな心配はせずに済んだのだが。

(いやしかし、奴は『隠し札』とも言えるあの技を使った直後だ。もう武器もないし、やれることは……!?)

もうやれることはない、と冷静に判断しかけたキルアは、そしてすぐに驚くことになる。
弥彦が何かを口に含んでいる。見覚えのある容器から出した丸薬を、口に放り込んでいる。
あれは……! キルアは咄嗟に自らのポケットを探る。ない。

(こ……『コンチュー丹』!? いつの間に掏り取られた!? 構えを変える前、一方的だった時か!?)

確かにあの時、手の届く距離に何度も入った。弥彦も空振りばかりだったが、何度も反撃してきた。
キルアも頭に血が昇ってきていたし、チャンスはいくらでもあったと言っていい。
しかし、こんなに鮮やかに……! キルアだってそれなりに心得があるのに!

そして次の瞬間には、キルアは自らの動揺そのものを後悔する。
動揺してポケットを探っているヒマがあったら、ナイフなり何なりを投げておけば良かったのだ。
ランドセルから殺虫剤を取り出すのも、もう間に合わない。
気付いた時には自由落下するしかないキルアに合わせ、弥彦が大地を蹴っている。
蟻のパワーと蝶の身軽さ、蜂の素早さ。いやしかしこのジャンプはまるでバッタの跳躍だ。
念能力者の本気の跳躍にも負けぬ勢いで、弥彦が迫る。
飛天御剣流の継承者にも匹敵する脚力で、弥彦が跳ぶ。
そして、その手には。

「おおおおっ、『龍翔閃・抵?(りゅうしょうせんもどき)』っ―!」
「くうぅっ!」


469:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:18:57 ADk0aTmm
 

470:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:20:14 5oMrYyqp
 

471:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:20:26 nq6/8vp5



472:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:20:30 NXBXpcLB

衝撃。
下からかち上げるように、黒い棒状の凶器が振り上げられる。
なんとかキルアは両腕を交差させ、僅かに残ったオーラを集めてブロックする。
刀のように振るわれた凶器の正体―それは『逆刃刀・真打』の鉄拵えの『鞘』。
飛天御剣流の抜刀術は、全て隙を生じぬ二段重ね。
ゆえに「二の手」として使われることの多い鞘にも、十分以上の強度が求められる。十分に、『武器』になる。

(それでも、なんとか止めたっ! これでこっちにも、反撃のチャンスが―)
「まだだッ! 見様見真似・龍槌閃(みようみまね・りゅうついせん)っ!!」
「!!」

反撃のチャンスもなく、空中で弥彦が一回転する。
下からの攻撃を止めたばかり、姿勢の崩したキルアの頭部に衝撃が走る。
念によるガードすら、間に合わない。
目の前に火花が散る。脳が揺さぶられる。意識が刈り取られる。

そのまま成す術もなく、気を失う直前。
キルアが考えたのは、ただ1つ。

(畜生っ……。
 やっぱコイツも、「最初っから」殺しにかかっておくんだったぜ……。
 もし、「次」があるなら、必ず……!)

もしもこの後、意識を取り戻すことがあるのなら。生き恥を晒し命を永らえることになるのなら。
次からは、容赦しない。
殺し合いに乗ってる奴は最初から殺す。疑わしい奴も最初から殺す。
そして、キルアを邪魔する奴も、容赦なく完全に殺す。
全部、片っ端から、殺す。
呪詛にも近いどす黒い誓いを胸に抱きつつ、キルア=ゾルディックは、そして意識を手放した。


      ※     ※     ※



473:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:21:14 ADk0aTmm
 

474:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:22:06 W6GSfBKr
支援

475:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:22:14 NXBXpcLB

居合いの構えで相手を威嚇し、遠距離技である『鳴神』をあえて撃たせる。
『飛龍閃』の派生技で逆刃刀を撃ち出し、それを避雷針にして直撃を免れる。
相手が驚いた隙を突き、予め掏り取っておいた『コンチュー丹』を口に含み、彼我の身体能力の差を埋める。
掏り取りの事実に動揺する隙を突き、逆刃刀の鞘で『龍翔閃』の模倣技。脚力の不足はコンチュー丹で補う。
そして、最後のトドメとして、『龍槌閃』の模倣技―。

要約すればたった5行。時間にすれば数秒にも足りぬ間の攻防。
しかしこれのみが、弥彦の見出した僅かな勝機だった。
単に掏り取ったコンチュー丹を使っただけでは、きっと勝てなかっただろう。
キルアが弥彦に勝っていたのは身体能力だけでなく、戦闘技術全般だったのだから。

「まったく、俺のスリ技はどこまでも役に立ちやがる……。喜んでいいんだか」

弥彦は荒い息をつきながら、飛んでいった逆刃刀を回収して戻ってくる。
二人の激闘の跡の残る墓の前には、白目を剥いて気絶したままのキルアの姿。
コンチュー丹で得た怪力で、思いっきり頭を殴ったのだ。簡単には目覚めるまい。
頭蓋骨の中でも特に硬い所を狙って振り下ろしたから、後遺症などはないと思うのだが……。

「で……どうするかな、こいつ」

疲労困憊、全身アザだらけ。戦いの前半は避けたいと思った持久戦にもなってしまっていた。
自分自身も倒れる寸前の身体で、それでも弥彦は思案する。
それは、そう。シャナに最初に会った時、彼女から出されていた「宿題」。

 『考えてみればいい。おまえが殺さなかった敵はその後どうするの?
  ここには犯罪者を捕まえる警察も、拘置しておく刑務所も、裁いてくれる裁判所もないのに。
  おまえの言う“不殺”はこれらなしでも成り立つものなの?』

後回しにしてきた問いかけが、今になって弥彦の所に戻ってくる。
このキルアをどうするべきなのか。
殺すべきか、放置すべきか、手足の腱でも切って身動きできないようにしておくべきか。
頭に浮かんだいくつもの選択肢に、しかし弥彦は。

「……どれも論外だろっ!!」

476:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:22:32 ADk0aTmm
 

477:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:22:59 nq6/8vp5



478:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:23:15 ADk0aTmm
 

479:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:23:24 NXBXpcLB

一声吼えると、頭から血を流すキルアの身体に手を伸ばす。
殺すことなんて出来ない。それをしたら、弥彦はキルアを否定できなくなる。
放置することも出来ない。「バンコラン」やそれに類する殺人者に見つかれば、そのまま殺されて終わりだ。
手足の腱を切る? 何だその悪趣味なアイデアは。考えるまでもなく却下に決まってる。

そう。敵対こそしたけれど。意見の相違こそあったけれど。
キルアもまた、弥彦が守りたいと思っている命の1つであることには変わりがない。
そして、そんなキルアが血を流し、怪我を負い、気を失っている。
となれば、今やるべきことは1つしかない。

「病院は……アッチか。待ってろよ、すぐに手当てしてやるからな」

脱力しきったキルアの身体を背負い、彼の荷物も両手に提げて、弥彦は沼の中央を抜ける道を走り出す。
ニアのことも、千秋のことも、「バンコラン」のことも、全て後回しだ。
キルアが追うつもりだった「犯人」のことも、後回し。
もう少し具体的な手掛かりがあったら違う判断をしていたかもしれないが、今は苦渋を呑んで後回しだ。
ひょっとしたら後で後悔することになるのかもしれないが、今はまず、キルアを助ける。
目に映る全ての人を守れる程の力はまだないけれど、せめて、手の届く所にいる命だけでも守りたい。

「目が覚めた時に気が変わっててくれりゃ、いいんだけどな……。
 そうじゃなかったら、また仕切り直しだ。何度でも、叩きのめしてやる」

正直、再戦するとなったら弥彦が圧倒的に不利。あんな奇策、そうそう何度も通じるものか。
それでも、弥彦は諦めない。弥彦は折れない。弥彦は挫けない。
自分は決して強くない、だからこそ何度でも挑もう。何度でも繰り返そう……他に手段が、無いのなら。

「ぐっ……おおっ……! お、重てぇっ……!」

跳ぶように沼地の間を走りぬけ、古びた塔が見えてきたところで。唐突に弥彦の動きが鈍くなる。
コンチュー丹の効果が切れたのだ。
元より疲れきった満身創痍の身、荷物がなくとも限界間近。
蟻の怪力・蜂の素早さがなければ、とてもではないがヒト1人を背負って歩けるコンディションではない。
思わず意識が遠のきかける。膝を屈したくなる。何もかも投げ出して眠りたくなる。
だけど。

「負けるっ……もんかっ……! 見捨てる、もんかよっ……!
 それじゃこいつと、キルアと、一緒になっちまうっ……!」

あと少し。あと少しで廃墟の町に辿り着き、立派な病院に辿り着けるのだ。
だから、そこまでは。

頭上の満月は変わらず煌々と輝き続け、辺りには人の気配もなく。
忘れ去られたかのような静かな廃墟の町。
弥彦は蛞蝓が這うような速度で、しかし決して歩みを止めることなく、足を踏み入れた。



480:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:24:31 5oMrYyqp
 

481:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:24:38 NXBXpcLB

【F-8/廃墟群外周部/1日目/深夜】

【明神弥彦@るろうに剣心】
[状態]:疲労(極大)、全身に打撲と青痣と擦り傷と火傷。背中にキルアを背負っている
[装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心、サラマンデルの短剣@ベルセルク
[道具]:基本支給品一式、首輪(美浜ちよ)、核鉄(バルキリースカート)@武装錬金
     コンチュー丹×5粒@ドラえもん、
[服装]:道着(ドロと血と吐瀉物で汚れている。右腕部分が半焼け、左側袖も少し焼けてる)
[思考]:負けねぇ、ぞっ……!
第一行動方針:ひとまず病院に向かってキルアの手当てをする。キルアを死なせない。
第二行動方針:キルアが目覚めたら、人を殺さないよう説得を続ける。必要なら何度でも叩きのめす。
第三行動方針:いい加減、休息と食事を取りたい。
第四行動方針:出来れば南西市街地に点在する死体(しんのすけ・ちよ・よつば・藤木)を埋めてやりたい。
基本行動方針:この手の届く限り、善悪問わず一人でも多くの人を助ける(目の前にいる人を最優先)。
         それ以外のことはあえて今は考えない。
[備考]:バルキリースカートは、アームのうち3本が破損した状態です(現在自己修復中)。
     コンチュー丹の効果は、既に切れています。

【キルア@HUNTER×HUNTER】
[状態]:疲労(中)。頭を強く殴られ気絶。頭から流血。
[装備]:ブーメラン@ゼルダの伝説、純銀製のナイフ(9本)、
[道具]:基本支給品×3、調理用白衣、テーブルクロス、包丁×2、食用油、 茶髪のカツラ
    天体望遠鏡@ネギま!、首輪(しんのすけ)、水中バギー@ドラえもん、
    殺虫剤スプレー、ライター、調味料各種(胡椒等)、フライパン
[思考]:…………。
第一行動方針:殺し合いに乗っている者・乗ろうとしてる者は容赦なく殺す(間違えても気にしない?)。
第二行動方針:キルアを邪魔しようとする者も容赦なく殺す。
第三行動方針:太一とゴンの仇をとる。ゴーグルも取り返す。
基本行動方針:仇討ちも兼ねて、殺し合いに乗っている者を積極的に探して殺していく。
       いわゆるマーダーキラー路線。その後のことはあえて今は考えない。
[備考]:自らの念にかけられた制限、制限下における念能力の効果を、ほぼ完璧に把握・理解しました。
    キルアの怪我の程度(特に、最後の頭部への打撃のダメージ)は、後続の書き手にお任せします。


482:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:24:42 nq6/8vp5



483:殺意×不殺×轟く雷光 (後編) ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:25:37 NXBXpcLB

以上、投下完了。支援感謝です。

wikiに収録する際は、おそらくギリギリで分割が必要になるラインだと思います。
一気に収録できるのなら、それに越したことはないのですが……。

あと、作中で「龍翔閃モドキ」の漢字が一部文字化けしてしまったようです。
wiki収録後に、なんとかします。中国語を引っ張ってくることになりますかね。

キルアが起こした『鳴神』の光と音は、シャナに影響を与えずに済むと思います。
墓作りで時間をかけている間にシャナは移動を開始しており、あるるかんの確保と練習をしていますから。
逆に、シャナが起こしたタワーの爆発も、既に弥彦が移動していて「気付かなかった」で済むと思います。


484:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:26:01 ADk0aTmm
 

485:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:28:42 W6GSfBKr
投下乙です
ジャンプキャラ同士の戦闘か
圧倒的不利をひっくり返した弥彦は凄い
でもそのせいでキルアの思考が何か恐ろしげなことにw
目覚めた時が怖いなw

486:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:43:42 7v7+rbsx
投下GJ
このロワはマーダーよりマーダーキラーの方が過激なのは何故だw
弥彦は決意固めてから格好いいなぁ。主人公気質だ。
キルアは初めての敗北かな?変なスイッチ入りましたー
キルアって思い込むと周り見えなくなって暴走するタイプだぞw
今のキルアはなのはさんと気が合いそうだ。
信念貫く道は険しいが弥彦頑張れーGJ

487:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:51:44 zSzv4GPp
投下乙!
キルアが目覚めたときが怖くもあるが楽しみでもある
頭への一撃はイルミの針への布石になるか

488:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 21:37:59 ShFhzd8w
投下乙
基本方針からも明らかに対極な二人の対比が見事だった
弥彦の頭脳プレイもるろ剣っぽさが出ててよかった

気絶直前、「弥彦を殺す」とか言い切っちゃってるキルアが今後の不安要素かな
数少なくなったショタのうちの二人には頑張って欲しいが

489:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 21:40:04 yJGT6knw
投下GJ
弥彦が主人公すぎる
最初一方的にやられてギリギリで逆転するのはカタルシスあるね
スリ技術役立つなー、さすが元泥棒
信念的にこの二人がぶつかるのは必然だけど……キルアがテンパリモード入ってしまったw
これは目覚めたときが楽しみだ

490:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 21:48:27 0JE4MS2+
奇しくも一対一の戦い×2になった構図か、南西エリア。
キルア、前向きなようでいて徐々に危なくなってきたな。
そして弥彦は……よく頑張ったものだ。上手い。
方向性も見つめなおせていて、爽やかだ。GJ。

491:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 22:09:15 8pXQXayW
圧倒的な戦力差を覆した弥彦には見事の一言。
しかしほんとに南西には人がいなくなったなwキルアが起きない限りは平和そうだ。
怪我の治療したら動きぐらい拘束しておけよーwああでも通用しなさそうだ。
誰かー誰かきてー
信念のぶつかり合いが凄くよかった。この前の乙女対決といい宗教対決といい名勝負がおおいLSロワだ。
キルアのテンパリモード始動とさりげない爆弾を設置していく手腕はさすがです。


492:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 22:13:35 1gc7/tcB
弥彦がんばれ
すごくがんばれ

493:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 22:27:42 E9cRwljC
投下GJ。キルアはどう転んでも中央に行くだろうと思っていたから驚いた。
先がどうなるか不透明だけど、少なくとも今はちゃんと信念を貫けたな、弥彦。
演出的には太一の墓が雷撃逸らしたのが印象深い。

494:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 23:24:47 dj1ECuBK
弥彦がんばったな、乙!
病院か・・トマ達とはタイミング的に会えないっぽいな

495:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 23:25:41 dj1ECuBK
スマソsage忘れた・・・orz

496:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 23:51:22 E9cRwljC
と、忘れてた。状態票は真夜中の間違いかな?

497: ◆sUD0pkyYlo
08/08/16 00:04:29 1s5nf+gS
……あっ!

すいません、状態票の時間は「真夜中」の間違いです。
本当に申し訳ない。指摘に感謝です。
トマたちとは……双方共に、時間の解釈に相当の幅が取れる状況ですので、自由度は高いと思います。

498:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 00:14:50 0Wcj0gaq
弥彦逃げてー!

499:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 14:06:59 5uHzk3Re
ローゼンメイデン ハリウッドで実写映画化

ワーナーブラザースは15日、『ローゼンメイデン』の実写映画化を正式に発表した。
同作品はPEACH-PIT原作の人気漫画及びアニメ作品で、一部のファンからは熱狂的な支持を得ている。
大ヒットとなった「マトリックス」シリーズを手掛けたウォシャフスキー兄弟が、今回は何とも意表をつく作品に手を出した。
日本のアニメの大ファンで知られる彼らだが、まさかこの作品を手掛けるとは意外に感じるファンも多いのではないだろうか。
『実は2年前からこの作品にハマってしまって、自分の手で実写映画にしてみたいと思っていたんだ』
堰を切ったように、アンディ・ウォシャフスキーは興奮気味に熱く語り出した
『オタク・アニメのカテゴリに分類されて、一般受けしなさそうだという意見もたくさんあったよ。でも僕はそうは思わないんだ。
 魂を持つドール達が、愛する父に会うために悲しい運命を辿っていく、これはもう誇るべきストーリーなんだ。
 実写にすればこの作品が本来持っている素晴らしさが存分に表現できると確信しているんだ。
 だからこそ今回、周囲の反対を押し切り踏み切ったのさ。期待は絶対に裏切らない。
 哀しくて儚い、でも美しいアリスゲーム(作中でドール達が戦う行為)をお見せできると思うよ。』
物語の“主役”ともいえる“ドール”は子役にCG加工を加え人形と人間の中間のような雰囲気を出す手法を取るという。
製作の中心となるのは日本製アニメの海外配給を多数手がけてきた米国のADV Filmsで、
製作費は6億ドル、公開は再来年夏になる見通し。

【ジュンが】ローゼンメイデン実写映画化 part5【ジョンに】
スレリンク(comicnews板)l50


500:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:11:05 OoYqOvf3
なのはの人はいつかな?

もうほとんどのキャラが真夜中だっけ?
0時放送は結局どうなったんだろ。
区切りってのは欲しいと思ってるんだけどさ。

501:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:21:02 VSLptOZG
0時になるには北東の連中が動かないとダメやね。
絶賛修羅場中のタバサ回りと耳の皮を被ったホムンクルスが行動直前だ。

502:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:25:55 2QhrPFBQ
タバサは真夜中だからどっちでもいい気がするけどヴィクトリアたちは夜中だからな。

503:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 18:45:19 dDftSXnJ
現在の予約状況まとめ

予約済 6/34
8/12予約(予約期間 8/19 まで)延長申請
 ◆iCxYxhra9U 氏:<北西・西> (インデックス、リンク)、(エヴァ、パタリロ)、アリサ、なのは

未予約 28/34
 夜中  :<北東> (イエロー、ひまわり)、(桜、雛苺)、レミリア、ヴィクトリア
 真夜中:<北西> (紫穂、ヴィータ)、イヴ
 真夜中:<北東> (アルルゥ、ベルカナ、梨々、レックス)、(小太郎、蒼星石、タバサ)、トリエラ
 真夜中:<中央> (ニケ、ブルー、メロ)、グレーテル、千秋
 真夜中:<南西> シャナ、リリス
 真夜中:<南>   (キルア、弥彦)
 真夜中:<南東> (トマ、レベッカ)

休んでいるレミリアはともかく他は描写が必要かもね


504:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 22:09:10 ZGhZoRM3
雛苺組は孤立中だからいらないっちゃあいらないけど
現在行動直前の黄まわりと性悪は描写がほしいね。

505:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 22:45:22 OoYqOvf3
難しそうなパートだなw
QBの監視役としての心情が明かされたりするんだろうか
ここアツイヨ……的なw

506:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/16 23:34:52 wueHqCcI
ぶっちゃけ死者の放送をしないなら零時のするかなしか先にやっても矛盾は起きないんだけどね。
定時放送の前に足並み揃えるのはそれで矛盾が起きちゃうからだし。
ただ、ここらで足並みを揃えておくと遅れたパートが生まれにくい利点は有る。

507:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 13:16:08 Ho5e6+Ri
>>501
耳の皮って何かと思ったw

508:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 19:07:17 WWkBetUR
転載

948 名前: ◆iCxYxhra9U 投稿日: 2008/08/17(日) 18:25:34 ID:wZtEw0Po0
相変わらず規制中なので、こちらで中間報告。
予約期間ギリギリまでかかりそうです。
投下は明日の深夜に。
多分、前半後半2回に分けての投下になると思います。

509: ◆2G4PiPq.z.
08/08/17 20:57:03 +PImC4Fg
桜、雛苺、小太郎、蒼星石、タバサ予約します。

510:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 21:25:17 PVTQTPt2
期待

511:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 22:20:18 KRcyBy+D
メンツがこええええええww
なのはの人も楽しみにしてますー

512:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 23:30:51 iAcBjYTS
全員対主催なのに死相の漂うやつばかりな北西も気になるが
こっちもどうなるか気になるな。
二つ合わせて死者何人出るんだろうか…

513:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/17 23:52:10 vqG4Wzfq
これでイエロー、ひまわり、ヴィクトリア、(レミリア)がくれば放送行けるな

514:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 00:11:39 6YFbsCRP
三角関係にマーダー突入かよw
wktkしながら待ってるぜ

515: ◆lr.SvCnhCc
08/08/18 00:11:44 TDm7YGnJ
遅筆ゆえ、かなり前からこつこつ書き溜め進めていましたが、ようやく目処がついたので
ヴィクトリア・ひまわり・イエロー予約します。

516:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 00:47:20 Bh0o0WUa
久々の予約ラッシュktkr
期待してます

517:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 07:33:46 tGRYcKMc
一気にきたー
これは楽しみだ

518:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/18 20:07:49 dYgiW5BN
代理投下行きます

519:許されざる者 ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:09:11 dYgiW5BN
工場の外壁に背中を預け、アリサ・バニングスは草むらの蔭で膝を抱えていた。
露出の高いチャイナドレス姿のため、腕や太股に葉の先端がチクチク刺さる。
やぶ蚊がいないのが、せめてもの救いだった。そういえば、ここに来てから虫や鳥の類を一匹も見かけていない。
もしかして、参加者以外の生き物は、植物しかいないのかも知れない。

逃避しがちな思考をぐるぐると弄びながら、アリサは先ほどの、親友との決別を振り返っていた。
胸に苦いものが込みあがってくる。
腹立たしく、恨めしく、堪らなくやるせなかった。
友情を拒絶されたことよりも、言い放ったばかりの自分の言葉に、彼女は深く傷付いていた。

―友達になんかならなきゃよかった!

失言じゃない。本音だったからこそ、心が痛い。
友達じゃなければ、こんなに哀しくなかった。
こんなに失望しなかった。
こんなに怒ったりしなかった。
多分、とっとと見捨ててしまえてた。

ああ、本当に友達でなきゃよかったのに。
でも、残念ながら友達だ。
絶対に離れたくない親友だ。
それがよくわかっているからこそ―アリサは傷付かずにいられない。

思えば今までどれほど、なのはの重荷になってきたのだろう。
ずっと、互いに支えあってこれたと思っていたのに。
魔法は使えないけど、魔導師のなのはたちを日常からサポートしてきたつもりだったのに。
いつの間にか、こんなになのはを理想化して見てたなんて、バカみたい。
こんなの友達じゃない。友達って、もっと対等なもののはずだ。

もう、なのはには頼らない。
なのはだって、自分と同じただの人間。失敗することも、間違えることもある。
魔法少女は、完璧超人じゃない。
だからもう、なのはに過度な期待は寄せない。

今までずっと、なのはを頼りにしていた。あたしはもちろん、きっとはやても同じ。
なのはと合流できればなんとかなると思っていたのは、つまり、なのはに頼りきりだったってこと。
でも、もうなのはには頼らない。

守ってもらうんじゃなくて、あたしが守る。
戦ってもらうんじゃなくて、あたしが戦う。

だって、友達だから。
やめたくってもやめられない親友だから。
そもそもあたしたちが親友になったのは、なのはがきっかけなんだから。
絶対に、そのことを後悔させた責任取らせてやる!

そこまで考えて、アリサはようやく俯いたままだった顔を上げた。
真っ赤になった目をごしごし擦り、気合一発、ぺしりと頬を叩く。
一息大きく深呼吸すると、胸の中に溜まっていた重いものが、少し薄らいだ気がした。

『アリサさん、これからどうするんですか』

今まで黙っていたルビーが、おずおずと声を掛ける。
コイツに気を遣われちゃおしまいね、とアリサは苦笑しながら言った。


520:許されざる者(2/20) ◇iCxYxhra9U
08/08/18 20:10:37 dYgiW5BN
「なのはを見張るわ」
『見張るって、こっそりですか?』

アリサは立ち上がりながら頷いた。

「そ。なのはをこっそり見張って、これ以上誰かを殺しそうになったら邪魔をする。
 もしも危なくなったら助ける。ルビー、忍者モードってある?」
『忍者? 忍者ですか……。うーん、つまり気配遮断のスキルがあって、尾行が得意ならいいんですね?』
「うん、そんな感じの」

了解です~と言いながら、ルビーは多元転身のシークエンスを起動する。
七色の光に包まれて現れたのは、いつもの和風メイドのコスチュームだった。

「? なんでまた割烹着なのよ」
『それはもう、ご主人に気付かれないように日常生活を余すところなく観察するのもメイドの趣……仕事ですから』
「やなメイドね、それ……」
『でも能力は折り紙付きですよ~。凄腕の暗殺者にだって気付かれたりしません』
「いや、そんなメイド絶対いないから」

だいたい、自宅にメイドのいる立場としては、年がら年中見張られてるなんて堪らない。
まさか、すずかのところのノエルやファリンはそんなことしてないだろう、と思う。
……思う。思いたい。
まさかウチの鮫島も? とか考えると、ひたすら気が重くなる。
というか、具体的に瞼が重くなってきていた。

「あと、かなり眠くなってきたんだけど、コレ、なんとかなんない?」
『ああ、ハードな一日でしたから無理もないですね~。もう夜も遅いですし。
 材料さえあればなんとかなりますよ。コカの木かマリファナを探してみましょうか』
「いや、あんたの暴言にはそろそろ慣れてきたけどね? それって麻薬の原料じゃなかった?」
『目が覚める薬というと、つまり覚醒剤ですからね。薬剤師モードになれば作れますよ』
「いや、それなんか違う。てか、なんで作れんのよ。全国の薬剤師さんが怒るわよ?
 普通にカフェインとかいう発想は出てこないわけ?」
『だって、それじゃ面白くないじゃないですか』
「面白けりゃいいってもんでもないわよ」

軽口を叩き合いながら気合を入れ直したその時、割烹着メイドの保有スキル『聞き耳:A+』が、
目の前の森の奥から急速に近付いてくる木の葉のざわめきを捉えた。
アリサは一瞬で、警戒態勢に切り替える。

「誰か……来る!」


    ※    ※    ※    ※    ※

背中で目覚めた少女との対話は、平行線を辿っていた。
自分に非はない、とパタリロは思う。
なにせ、彼女の言うことときたら、「おろせ」「うるさい」「いいからおろせ」「黙れ」「殺すぞ」ばっかりなのだ。
会話が成立するはずもない。

仕方なく、ある意味予定通り、騒ぐ少女を背負ったまま適当に宥めつつ、一路工場を目指すことにした。
どうやら少女は最近流行りのツンデレらしい。なだめるには少々手間がかかりそうだ。
なに、どうということはない。いつものように自分のペースに巻き込んでしまえばいい。
仮にも命の恩人である自分に、それほど酷い噛みつき方はしないだろう。
ただそのためには、こんな座る場所もない藪の中ではなく、落ち着いた場所が必要だ。



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