07/11/23 12:50:02 BMNxEsT6
~参加者一覧[作品別]~
【魔法少女リリカルなのは】高町なのは/フェイト・テスタロッサ/ヴィータ/八神はやて/アリサ・バニングス
【ローゼンメイデン】真紅/翠星石/蒼星石/雛苺/金糸雀
【魔法陣グルグル】ニケ/ククリ/ジュジュ・クー・シュナムル/トマ
【ポケットモンスターSPECIAL】レッド/グリーン/ブルー/イエロー・デ・トキワグローブ
【デジモンアドベンチャー】八神太一/泉光子郎/太刀川ミミ/城戸丈
【ドラえもん】野比のび太/剛田武/リルル
【魔法先生ネギま!】ネギ・スプリングフィールド/エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル/犬上小太郎
【絶対可憐チルドレン】明石薫/三宮紫穂/野上葵
【落第忍者乱太郎】猪名寺乱太郎/摂津のきり丸/福富しんべヱ
【名探偵コナン】江戸川コナン/灰原哀
【BLACKLAGOON】ヘンゼル/グレーテル
【クレヨンしんちゃん】野原しんのすけ/野原ひまわり
【ドラゴンクエストⅤ】レックス(主人公の息子)/タバサ(主人公の娘)
【DEATH NOTE】メロ/ニア
【メルティブラッド】白レン/レン
【ちびまる子ちゃん】藤木茂/永沢君男
【カードキャプターさくら】木之本桜/李小狼
【テイルズオブシンフォニア】ジーニアス・セイジ/プレセア・コンバティール
【HUNTER×HUNTER】キルア/ゴン
【東方Project】レミリア・スカーレット/フランドール・スカーレット
【吉永さんちのガーゴイル】吉永双葉/梨々=ハミルトン
【ヴァンパイアセイヴァー】リリス
【MOTHER】ネス
【サモンナイト3】ベルフラウ=マルティーニ
【Fate/stay night】イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
【みなみけ】南千秋
【武装錬金】ヴィクトリア=パワード
【BLACKCAT】イヴ
【からくりサーカス】才賀勝
【銀魂】神楽
【ひぐらしのなく頃に】古手梨花
【灼眼のシャナ】シャナ
【とある魔術の禁書目録】インデックス
【るろうに剣心】明神弥彦
【ボボボーボ・ボーボボ】ビュティ
【一休さん】一休さん
【ゼルダの伝説】リンク(子供)
【ベルセルク】イシドロ
【うたわれるもの】アルルゥ
【サザエさん】磯野カツオ
【せんせいのお時間】鈴木みか
【パタリロ!】パタリロ=ド=マリネール8世
【あずまんが大王】美浜ちよ
【ポケットモンスター(アニメ)】サトシ
【SW】ベルカナ=ライザナーザ
【Gunslinger Girl】トリエラ
【ぱにぽに】レベッカ宮本
【FINAL FANTASY4】リディア
【よつばと!】小岩井よつば
計86名
3:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 12:50:43 BMNxEsT6
~参加者一覧[あいうえお順(名簿順)]~
01:明石薫/02:アリサ・バニングス/03:アルルゥ/04:イエロー・デ・トキワグローブ/05:イシドロ/
06:泉光子郎/07:磯野カツオ/08:一休さん/09:猪名寺乱太郎/10:犬上小太郎/
11:イリヤスフィール(略)/12:インデックス/13:イヴ/14:エヴァンジェリン(略)/15:江戸川コナン/
16:神楽/17:金糸雀/18:城戸丈/19:木之本桜/20:キルア/
21:ククリ/22:グリーン/23:グレーテル/24:小岩井よつば/25:剛田武/
26:ゴン/27:才賀勝/28:サトシ/29:三宮紫穂/30:シャナ/
31:ジーニアス・セイジ/32:ジュジュ・クー・シュナムル/33:白レン/34:真紅/35:翠星石/
36:鈴木みか/37:摂津の きり丸/38:蒼星石/39:高町なのは/40:太刀川ミミ/
41:タバサ(主人公の娘)/42:トマ/43:トリエラ/44:永沢君男/45:ニア/
46:ニケ/47:ネギ・スプリングフィールド/48:ネス/49:野上葵/50:野原しんのすけ/
51:野原ひまわり/52:野比のび太/53:灰原哀/54:パタリロ/55:雛苺/
56:ビュティ/57:フェイト・テスタロッサ/58:福富しんべヱ/59:藤木茂/60:フランドール・スカーレット/
61:ブルー/62:古手梨花/63:プレセア・コンバティール/64:ヘンゼル/65:ベルカナ=ライザナーザ/
66:ベルフラウ=マルティーニ/67:南千秋/68:美浜ちよ/69:明神弥彦/70:メロ/
71:八神太一/72:八神はやて/73:吉永双葉/74:李小狼/75:リディア/
76:リリス/77:梨々=ハミルトン/78:リルル/79:リンク(子供)/80:レックス(主人公の息子)/
81:レッド/82:レベッカ宮本/83:レミリア・スカーレット/84:レン/85:ヴィータ/
86:ヴィクトリア=パワード
計86名
4:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 12:51:24 BMNxEsT6
~ロリショタロワ・基本ルールその1~
【基本ルール】
参加者全員で殺し合い、最後まで生き残った一人が優勝となる。
優勝者のみが生きて残る事ができて『何でも好きな願い』を叶えて貰えるらしい。
参加者はスタート地点の大広間からMAP上にランダムで転移される。
開催場所はジェダの作り出した魔次元であり、基本的にマップ外に逃れる事は出来ない。
【主催者】
主催者:ジェダ=ドーマ@ヴァンパイアセイヴァー(ゲーム・小説・漫画等)
目的:優れた魂を集める為に、魂の選定(バトルロワイアル)を開催したらしい。
なんでロリショタ?:「魂が短期間で大きく成長する可能性を秘めているから」らしい。
【参加者】
参加者は前述の86人(みせしめ除く)。追加参加は認められません。
特異能力を持つ参加者は、能力を制限されている場合があります。
参加者が原作のどの状態から参加したかは、最初に書いた人に委ねられます。
最初に書く人は、参加者の参戦時期をステータス表または作中に記載してください。
【能力制限】
参加者は特異能力を制限されることがある。疲労を伴うようになっている能力もある。
また特別強力な能力は使用禁止になっているものもあるので要確認。
【放送】
放送は12時間ごとの6時、18時に行われる。内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」
「過去12時間に死んだ参加者名」など。
【首輪と禁止エリア】
・参加者は全員、爆弾の仕込まれた首輪を取り付けられている。
・首輪の爆弾が起爆した場合、それを装着している参加者は確実に死ぬ。
・首輪は参加者のデータをジェダ送っており、後述の『ご褒美』の入手にも必要となる。
(何らかの方法で首輪を外した場合、データが送られないので『ご褒美』もない)
・首輪が爆発するのは、以下の4つ。
1:『禁止エリア』内に入ってから規定時間が過ぎたとき。
2:首輪を無理やり取り外そうとしたとき。
3:24時間で死者が出なかったとき。
4:ジェダが必要と判断したとき(面と向かって直接的な造反をした場合)。
5:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 12:52:05 BMNxEsT6
~ロリショタロワ・基本ルールその2~
【舞台】
URLリンク(www25.atwiki.jp)
【作中での時間表記(2時間毎)】(1日目は午前6時よりスタート)
深夜:0~2
黎明:2~4
早朝:4~6
朝:6~8
午前:8~10
昼:10~12
真昼:12~14
午後:14~16
夕方:16~18
夜:18~20
夜中:20~22
真夜中:22~24
【支給品】
・参加者が元々所持していた装備品、所持品は全て没収される。
・ただし体と一体化している装備等はその限りではない。
・また衣服のポケットに入る程度の雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される物もある。
・ゲームの開始直前に以下の物を「ランドセル」に入れて支給される。
「食料」「飲料水」「懐中電灯」「地図」「鉛筆と紙」「方位磁石」「時計」「名簿」
「ランダムアイテム(1~3種)」。
なおランドセルは支給品に限り、サイズを無視して幾つでも収納可能で重量増加もない。
その他の物については普通のランドセルの容量分しか入らず、その分の重量が増加する。
【ランダムアイテム】
・参加者一人に付き1~3種類まで支給される。
・『参加者の作品のアイテム』もしくは『現実に存在する物』から選択すること。
(特例として『バトルロワイアル』に登場したアイテムは選択可能)。
・蘇生アイテムは禁止。
・生物および無生物でも自律行動が可能なアイテムは参加者増加になる為、禁止とする。
・強力なアイテムには能力制限がかかる。非常に強力なものは制限を掛けてもバランスを
取る事が難しいため、出すべきではない。
・人格を変更する恐れのあるアイテムは出さない方が無難。
・建前として『能力差のある参加者を公平にする事が目的』なので、一部の参加者だけに
意味を持つ専用アイテムは避けよう。出すなら多くの参加者が使えるようにしよう。
【ご褒美システム】
・他の参加者を3人殺害する毎に主催者から『ご褒美』を貰う事が出来る。
・トドメを刺した者だけが殺害数をカウントされる。
・支給方法は条件を満たした状態で、首輪に向かって『ご褒美を頂戴』と伝えるか、
次の放送時にQBが現れるので、以下の3つから1つを選択する。
1:追加のランドセルが貰える。支給品はランダムで役に立つ物。
2:ジェダに質問して、知人の場所や愛用品の場所などの情報を一つ聞ける。
3:怪我を治してくれる。その場にいれば他の人間を治すことも可能。
6:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 12:52:46 BMNxEsT6
~ロリショタロワ・基本ルールその3~
【ステータス表】
・作品の最後にその話に登場した参加者の状態、アイテム、行動指針など書いてください。
・以下、キャラクターの状態表テンプレ
【現在位置(座標/場所)/時間(○日目/深夜~真夜中)】
【キャラクター名@作品名】
[状態]:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
[装備]:(身に装備しているもの。武器防具等)
[道具]:(ランタンやパソコン、治療道具・食料といった武器ではないが便利なもの。
収納している装備等、基本的にランドセルの中身がここに書かれます)
[思考・状況]
(ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。
複数可、書くときは優先順位の高い順に)
◆例
【D-4/学校の校庭/1日目/真夜中】
【カツオ@サザエさん】
[状態]:側頭部打撲、全身に返り血。疲労
[装備]:各種包丁5本
[道具]:サイコソーダ@ポケットモンスター
[思考]
第一行動方針:逃げた藤木を追い、殺害する
第二行動方針:早く仲間の所に帰りたい
基本行動方針:「ご褒美」をもらって梨花の怪我を治す
【予約】
・キャラ被りを防ぐため、書き手は自分の書きたいキャラクターを予約することができます。
・期間は基本的に予約から72時間(3日)です。
・やむにやまれぬ事情で完成が遅れる場合、最大で一週間まで期限を延長することができます。
ただし、3日の期限の間に、進行状況の報告も合わせて延長申請を行う必要があります。
・予約期間終了後は、他の人がそのキャラを使った話を投下して構いません。
・予約しなくても投下することはできますが、その際は他に予約している人がいないか
十分に確認してから投下しましょう。
【投下宣言】
・投下段階で被るのを防ぐため、投下する前には必ずスレで 「投下します」 と宣言を
して下さい。 投下前にリロードし、被っていないか確認を忘れずに。
・近頃連投規制が厳しくなっております。居合わせた方は、できるだけ支援するようにしましょう。
【トリップ】
投下後、作品に対しての議論や修正要求等が起こる場合があります。
本人確認のため、書き手は必ずトリップをつけてください。
7:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 13:18:02 ghohQnVr
>>1乙!
前スレは短めのssならもう一ついけそうだけど…
感想とか指摘とか考えると、埋めたほうがいいだろうか?
8:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 15:00:17 BveIKcq1
>>1乙。
40k近くあるから埋めはまだいいかなと思う。
9: ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:00:00 otuDKd30
投下開始します。
10:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:00:59 BveIKcq1
11:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:01:12 otuDKd30
ヒュンッ―。
巨大な建物の探索も、彼女にとっては何の苦労も無いことだった。
未だ目覚めぬ仲間を残したまま、彼女は病院内を「跳び」始める。
じっとしていたらあの「嫌な夢」の記憶に絡み取られてしまいそうで、だから彼女は動き始める。
ヒュンッ―。
壁も床も、瞬間移動能力者(テレポーター)である彼女の前には意味を成さない。
廊下を駆けるより早く部屋から部屋へ。エレベーターを使うより早く階から階へ。
彼女は病院の中を跳ぶ。連続して跳ぶ。
ヒュンッ―。
素っ裸だった『親友』に着せるための服は、すぐに見つかった。入院患者用の無個性なパジャマ。
距離を無視して『親友』が寝ている部屋に飛び戻り、着せてやる。
本来、脱力しきった人間に服を着せるのは結構な重労働なのだが、それも彼女には何の問題もない。
床に綺麗に並べたパジャマを『親友』の周囲に転移させるだけでいい。一瞬で着替えが完了する。
BABELの制服への早着替えと、同じ要領だ。
ヒュンッ―。
一瞬で『親友』の眠る病室に戻れるから、『親友』の所から離れることにも不安はない。
部屋の外に1歩出るのも、他の階へ行くのも、彼女には同じこと。彼女の前に距離はほとんど意味を成さない。
周囲や病院内に誰も居ないことは既に確認している。何か異常を感じたらすぐに戻ればいい。
テレポートは一種の複合能力なのだ。「見えない場所」の気配を感じ取る能力にも、自信はある。
彼女は病室から病室へ、診察室から診察室へと跳んで、目的のモノを探す。
ヒュンッ―。
辿り着いたのは、札に「リハビリテーション科」と掲げられた部屋。
いくつか転がっていた義足を目の前にテレポートで引き寄せてみて―彼女は小さく溜息をつく。
どうもサイズが合いそうにない。専門家なら微調整もできるのかもしれないが、しかしやり方が分からない。
連続転移の応用で擬似的な空中浮遊も出来るが、それでもやはり片足の欠損は不便なものだ。
代わりの足の入手を諦めた彼女は、そして部屋の片隅に転がっていた「もっとシンプルなもの」を引き寄せる。
長さ、よし。重さ、よし。両手が塞がっても彼女の能力があれば何の問題もない。これで多少はラクになる。
ヒュンッ―。
松葉杖を両脇に抱えた格好で、彼女は病院内を跳ぶ。
『親友』の服は見つかった。自分の左脚の代用品も、見つかった。
あとは『親友』が目覚めた時のために、おいしいゴハンでも確保しておくか―そう考えて1階に跳ぶ。
病院の構造なんて、どこに行ってもそう大差あるものではない。病室以外の施設は1階に集中するのが常だ。
食堂や売店を探し、廊下を連続跳躍していた彼女は、そしてふと、遠くから響く電子音に気が付いた。
pururururu……pururururu……。
予想もしなかった、しかし慣れ親しんだ音に一瞬だけ思考が停止した彼女。しかしすぐにそちらに向けて跳ぶ。
何度か小刻みに転移して、辿り着いたのは玄関近く。外来総合受付のカウンターの内側。
鳴り続ける電話を前に、意味もなくキョロキョロと周囲を見回し、唾を飲み込んでから手を伸ばす。
「……もしもし?」
『あっ―やっと繋がった! もしもし? そちらは『病院』ですか?』
「……誰や、アンタ?」
彼女は―野上葵は、BABELの特務チーム「チルドレン」の中では一番の常識人だ。
どこからかかってきたのか分からない電話に対し、警戒心を露わに眉を顰めたが、電話の相手はお構いなく。
真っ直ぐな明るい声で、あっさりとその問いに答えた。
『僕ですか? 僕はトマと言います。よかったら少し情報交換でもしたいのですが、どうでしょう?』
12:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:02:32 BveIKcq1
13:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:03:17 otuDKd30
* * *
そう、もちろんそれは、シェルターにいるトマであった。
彼はファクトリアルタウンの“白”との会話の後、あちこちに電話をかけていたのだ。
島の他の場所にも、“白”と同じように情報交換に乗ってくれる人が居るかもしれない。
さらに仲間が、絆が広がるかもしれない。そんな期待があった。
だが……短縮ダイアルで登録された相手に片端から電話をかけても、なかなか相手が出ることはなかった。
『D-4 学校』―繋がらない。
火災のせいで職員室に置かれていた電話も焼け落ちてしまっていたのだが、トマが知る由もない。
『E-8 救いの塔』―繋がらない。
開幕直後にジーニアスが目撃したこの塔は、しかし誰1人訪れることなく、完全な無人状態のままだ。
『B-7 タワー』―繋がらない。
タワー1階の管理室への直通電話。もしあと僅かばかり早ければ、まだキルアがいたはずなのだが。
『B-3 廃病院』―繋がらない。
凝った演出の一環なのか、それともジェダも意図せぬミスか。廃病院の電話は他の調度品と同様、壊れている。
『F-3 城』―繋がらない。今までとは違う電子音に、トマは首を傾げる。
実はタイミング悪く『通話中』だったのだが、トマには理解できない。ほんの数秒遅れのすれ違いにも気付かない。
いずれも不運としか言いようがないが、しかしトマにはそれを知る術はない。
なかなか繋がらない電話に、いい加減諦めて夷腕坊の修理に戻ろうか、と思いかけたその時。
『G-7 病院』―これでダメなら後回しにしよう、と決めた最後の一箇所が、繋がったのだった。
* * *
14:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:03:26 QrALamsQ
15:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:03:43 BveIKcq1
16:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:04:37 otuDKd30
「えーと、そちらはどうお呼びすればいいですか?」
『ウチの名前は、のが……いや、えーと、『あお』……やのうて……その……」
「?? “青”さん、ですか?」
『あー、まあ、それでええわ』
どこかはやてを思い出させる独特の口調で、“青”と呼ばれた少女は曖昧に語尾を濁す。
真っ直ぐに人を信じてしまうトマには、想像もできない。
電話の向こうにいる野上葵は、本名を言いかけた所で、本名を明かすことの危険に思い至り、口篭っただけ。
『葵(あおい)』を途中で切って『青(あお)』―トマの早とちりにそのまま乗っただけなのだ。
しかし、情報を秘するために偽名を使う、という発想自体のないトマは、全くあさっての方向に思考を巡らせる。
(“白”さんの次には、“青”さんですか……色を呼び名にする人、結構いますね。
青色さん、ということは、この名簿で「ブルー」って登録されてる人でしょうか……?)
トマは考える。
名簿の上で、色がそのままストレートに名前になっているのは、レッド、グリーン、ブルー、イエロー、真紅の5名。
しかしそれがそのまま普段の呼び名に使われているかどうかは分からない。
格式ばった場で使う「本名」が「ブルー」、くだけた場で使う普段の呼び名が「青」、ということもあるかもしれない。
さっきの“白”という名前の方は、また違うルールによるものだろう。
一番それらしいのは、「白レン」という、とても人名には見えないような名前で登録されている人物。
無理やり解釈すれば、『レン』というのがファミリーネームで、“白”というのが個人の名なのかもしれない。
これなら、「“白”と呼んで」という彼女の言葉もしっくり来る。
それは、全く見当違いの解釈。なまじ頭が回り、「異なる世界の住人」を受け入れられるトマだからこその誤り。
しかしそんな自分のミスに気付くことなく、トマは会話を続ける。
「で、まずはそちらから。“青”さんは何か知りたい情報とかってあります?」
『そやなぁ……できれば合流したい子が1人おるんやけど、どこにおるかとか分からへん?』
「探してる子、ですか。名前とか外見の特徴とか、教えて貰えませんか?」
『シホ、って言うんやけどな。三宮紫穂。ふわふわの髪した、見た目だけなら可愛い女の子や』
“青”の言葉に、トマはしばし考え込む。
少なくともトマの出会った相手には、それに該当する少女は居ない。はやてやアリサの話にも出てきていない。
さっきの電話の時、“白”さんが遭遇した相手の話も聞いておくんだった、と後悔するが、仕方がない。
「えーっと、僕はまだ紫穂さんという方とはまだ会ってません。名前も聞いたことがないです。
ひょっとしたら、今外に出ている僕の仲間たちが何か情報を持って戻ってくるかもしれませんけど」
『そか……しゃーないな。知らんのやったらええんや。何か分かったらまた教えてくれへん?』
「分かりました。すいません、こちらから情報交換を申し出ていながら、お力になれなくて」
時刻はもう夕刻。きっと“青”は病院で夜を越すのだろう。
その頃には、はやてとアリサも帰ってきているかもしれない。集めた仲間の中に「三宮紫穂」もいるかもしれない。
彼女たちが帰ってきたら再度病院に電話しよう。トマはそう心に決める。
『そんな、謝らんでもええて。じゃ、次はウチの番やな。トマはんが知りたいことって何やの?』
「僕は、仲間を集めてこの島を脱出するつもりです。そのためには、まだ情報が足りません」
『……脱出……』
「何か、役に立ちそうな情報はありませんか? ……もしもし? “青”さん?」
* * *
17:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:05:12 BveIKcq1
18:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:06:00 BveIKcq1
19:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:06:26 QrALamsQ
20:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:06:34 otuDKd30
脱出―。
そう、『脱出』だ。野上葵が目指すものも、それ以外にはありえない。
上の階の病室で寝息を立てている明石薫と、未だ行方も掴めない三宮紫穂。
身を守り、薫を保護し、紫穂を探すことで精一杯だった葵だが、「その先」を考えれば脱出以外の選択肢はない。
優勝狙いでは、3人揃って皆本の所に帰ることはできない。
葵がその望みを叶えるには、どこかでジェダに対して反抗する必要がある―あの絶大な力を持つジェダに。
そして、この少年は明確にその道を目指しているのだ。迷うことなく、目指している。
『もしもし? “青”さん? 大丈夫ですか?』
「……あー、大丈夫や。
脱出……ウチ、そんなこと全然考えてなかったわ。ただただ、生き延びるのに必死でな。
そうや、みんなで揃って帰るには、それ考えなアカンやん! 何で思いつかなかったんやろ」
『それは仕方ないですよ、こんな状況ですから。僕だって昼間はそれどころじゃ無かったんです。
あなたのせいじゃありません。自分を責める必要はないですよ』
「トマはんは優しいな……。この島にもアンタみたいな人がおったんやね。
今日1日でウチが会った奴、揃いも揃ってロクな奴おらんかったから……」
顔も知らないトマという少年の言葉に、葵は少しだけ癒される。
言葉は弱気だし腰は低いし、とても似ては似つかないが、何故だろう、彼の温かさが皆本と重なって見える。
数少ないレベル7超能力者として腫れ物のように扱われていた自分達に、ごく普通に接してくれた皆本。
奇人変人悪人変態ばかり(と、葵の目には映っていた)の狂った島で、ごく普通に会話が成立するトマ。
どちらも、砂漠の中に見つけたオアシス。暗い海で見つけた灯台の灯り。
彼は信頼できる。彼を助けよう。葵は心からそう思う。
「それで、具体的には何を知りたいん? ウチに何が出来るか分からへんけど、なんでも協力するで?」
『とりあえず、この『首輪』を外す方法と、この島の外に物理的に出て行く方法を探しています。
どっちも難しいことだっていうのは、分かってるんですけど』
「なんや、そんなことか。それなら―」
あくまで弱気で慎重なトマの口調に、葵は思わず呆れたような声を上げてしまった。
首輪を外す? 島から出る? なんだ、そんなことか。
その程度の障害、彼女の前には障害に成りえない。何故なら。
「それなら―ウチの力なら、どっちも簡単やわ。考えるまでもあらへん」
世界でも数少ない最高ランク、レベル7の瞬間移動能力者。
精密な物体転移も、長距離大人数の連続テレポートも、お手の物だ。
彼女なら首輪を分解するまでもなく、一瞬で外すことが出来る。
首輪の方を転移させてもいい。首輪だけをその空間に残して、身体の方を転移させてもいい。
そしてまた、船を調達するまでもなく、みんなで島の外に逃げ出せる。
普段の飛距離なら、連続転移で大陸横断すら簡単にこなす彼女だ。こんな小島から出ることなど容易い。
兵部京介が『光速の女神(ライトスピード・ゴッデス)』と呼んだ彼女を鎖に繋ぐことなど、誰にもできないのだ―
――本来なら。
* * *
21:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:06:35 ghohQnVr
22:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:06:36 BveIKcq1
23:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:07:48 BveIKcq1
24:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:08:01 ghohQnVr
25:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:08:13 QrALamsQ
26:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:08:21 otuDKd30
『それなら―ウチの力なら、どっちも簡単やわ。考えるまでもあらへん』
「ええっ!? ほ、本当ですか!? それは凄い!」
電話の向こうから聞こえてきた“青”の力強い断言に、トマは驚く。
ここまでの短い会話の中で、既に“青”と名乗る少女の性格は大体把握している。
常識的で、良心的で、少しばかり弱さも抱えた、しかし真っ直ぐで真っ当な人物だ。
できもしない大風呂敷を無闇やたらと広げるような人間とは思えない。
いったいどんな方法で?! そもそも、そんな凄い彼女の『力』とは何なのだろう?!
思わず聞き返そうとしたトマの言葉を、しかし彼女はすぐに遮る。
『あ……ちょっとタンマ。ぬか喜びしとるところ悪いけど、少し言い忘れたわ。
あくまでそれは、ウチが『普段通りの力が出せれば』、やな。
なんかこの島に来てから、力の調子がおかしいんよ。
もし上手くできずに爆発とかしたら、シャレにならへんし』
「ああ、確かに……。ジェダもそこまで間抜けではないでしょうしね」
膨らみかけた希望が一瞬にして萎んでしまう。確かにそうだ。ちょっと考えれば分かる。
参加者の能力で簡単に首輪が外せるのなら、この殺し合いのゲーム自体が成立しない。
何らかの仕掛けによって外せないようになっている、と考えた方がいい。トマは溜息と共に呟く。
「そう言えばジェダも言ってましたね。『強い力は制限させてもらう』って。その一環でしょうか」
『言われてみれば、そんなこと言うとったな。ECMなんて『普通の人々』でも手に入れられる装置やし」
「?? 『いーしーえむ』、ですか? 何です、それ?」
『知らへん? 『超能力対抗装置』言うてな、周囲の超能力を打ち消す機械や。
普通のECMやったら完全に使えなくなるところやけど、変な調整してるかもしれへんし』
「装置、ですか……。もう少し詳しく教えてくれませんか? その装置の形とか、性質とか」
『形は、まあ色々やな。傍目にはただ怪しい機械、ってだけで、偽装されとることもある。
ただ『効果に比例して大型化する』のは確かや。『効果に比例してエネルギーを喰う』のもな。
島のどこでも効いてるなら、よっぽど大きな装置で、電気代も相当かかっとるはずやで』
「ということは―それを何とかすれば、首輪が外せて、脱出も出来るってことですよね」
トマは考える。新たな材料を元に、魔技師ならではの推測を組み立てる。
周囲の人間の特殊能力を妨害する装置の存在。そして、ファクトリアルタウンに遺されていたというメモ。
2つの情報が、トマの頭の中で1つに繋がる。
いくらジェダに余裕があっても、無意味に解体と組み立てを繰り返すだけのものは作らない。
工場を丸ごと使ってチェック機構とするエネルギー源を用意したなら、それを使う本来の目的があるはずだ。
そして、島全体を覆うような妨害装置を動かすには、莫大なエネルギーが必要となってくる―!
島のどこかにあるはずの『動力炉』。それと繋げられたECM、あるいはそれに類する『妨害装置』。
そのどちらかを破壊する・停止させることができれば、『能力制限』を解除できる?
“青”がその『普段通りの力』を発揮して、首輪の解除と島の脱出、その双方を解決することができる!?
それはもちろん、仮定の上に仮定を重ねた、弱々しい仮説でしかないが……
『ただ、ECMやのうて、ESPリミッターみたいなモンかもしれんけどな』
「ESPリミッター? それは?」
『こっちは広範囲に念波を妨害するんやのうて、触れてる人間の超能力を、ちょっとだけ弱める装置や。
ESPリミッターならアクセサリーくらいの大きさにできるしな。この首輪の中に仕込むことも出来るはず。
もしそうなれば、ウチとしては完全にお手上げやね』
「…………」
27:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:08:31 BveIKcq1
28:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:09:42 BveIKcq1
29:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:09:53 ghohQnVr
30:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:09:54 QrALamsQ
31:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:10:18 otuDKd30
少しだけ考えて、それはない、とトマは思う。
トマなら、首輪だけにそこまでの機能は詰め込まない。一極集中は避ける。
仮に、魔技師としてこの殺し合いのシステムの設計を任されたとしたら、トマなら機能を分散させたい。
ジェダの立場に立って考えてみよう。
主催者にとって最も厄介な展開は、参加者が殺し合いを始めず、手を取り合ってジェダに反抗するケースだ。
強力な武器を与えられ、強力な力を持った者たちが一致団結したら、あのジェダだって危機感を覚える。
そして、その予想しうる危機を防ぐ手段として用意されたのが、「首輪の爆破」と「能力の制限」であるはずだ。
能力の制限は「どの幼子にもチャンスがあるように」と説明していたが、それを素直に信じるわけにはいかない。
昼間に出会ったレックスなどを見ても分かるように、それでもなお参加者の戦闘力には大きな隔たりがあるのだ。
参加者の機会を均等にする、というのはおそらく言い訳に過ぎないだろう。
さてそこで、もしこの2つの重要な機能を、揃って首輪の中に押し込んでしまったとしたら?
どんな機械も魔法も絶対ということはない。何かの拍子に壊れることもある。機能を失うこともある。
トマのように器用な参加者に解体されてしまう展開も、あるかもしれないのだ。
そして、万が一にも首輪が外れてしまったら、ジェダはその参加者をコントロールする手段を完全に失う。
「爆破の脅し」と「能力制限」、その2大反抗抑制処置が、一気に失われてしまうのだ。
ここまで慎重に戦いの舞台を整え、状況を整えたジェダが、そんな危険性を良しとするはずがない。
技術的に可能であるなら、2つを分けて管理したいと思うのは必然。
何らかのトラブルで片方がダメになっても、もう片方は残る。ジェダは参加者に対して優位を保てる。
仮にイレギュラーが発生しても、最悪の事態だけは回避できる―そう考えるはず。
そしてその、二重に保険をかけようとする思考こそ、トマたちがジェダを攻略する糸口になりうるのだ。
現時点では、まだほとんど何も分かっていないに等しい。
『動力炉』の位置も分からない。ECMあるいは『それに類する装置』の位置も分からない。
ひょっとしたら、能力制限は全く違う仕組みによって成されているのかもしれない。だとしたら最初からやり直しだ。
それでも今、はっきりと見えた。ジェダへの反抗と脱出の筋道が、初めてくっきりと見えてきた。
まず『能力制限』をなんとかする。そして“青”の力で首輪を外し、“青”の力で島の外に逃げ出す。
あるいはひょっとしたら、“青”以外にも、能力制限の解除で事態が打開できる人がいるかもしれない。
強力な魔法使いである八神はやて、高町なのは、フェイト・テスタロッサ。愉快型魔術礼装カレイドルビー。
彼女たちの力を結集し、また、まだ見ぬ人々の力も結集すれば、きっと何か上手い方法が―!
「……ありがとうございます、“青”さん! あなたとお話が出来て、本当に良かった!
今まで手も足も出なかった宿題が、これでなんとかなるかもしれません。あなたのお陰です!」
『な、なんや急に改まって。そんな……照れるやないか』
「良ければ、直接会って詳しい話をしませんか? “青”さんの『力』も一度見せて欲しいですし。
事情があって僕はここから動けないんですけど、そこの病院からはそう遠い場所じゃありません。
H-5とG-5に跨った『シェルター』という大きな建物、分かりますか?」
『ああ、川の北側の、大っきな奴?そういや『跳んで』くる途中にそれっぽいの見えたわ。そこにおるん?』
「ええ。外からは入れない構造になってますけど、“青”さんが来て下さるのなら扉を開けますから!」
『その必要はないわ。だってウチの力なら―』
『 ――穢れ無き魂を持つ幼子達よ。久しいな 』
それは、唐突だった。身を震わせるようなその声に、2人ははッと口を噤む。
反射的に視線を時計にやる。午後6時ジャスト。予告されていた時間。
受話器を握ったままの2人の前で、第一回目の定期放送は始められた。
32:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:10:23 BveIKcq1
33:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:11:40 BveIKcq1
34:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:11:45 otuDKd30
* * *
『 まず禁止区域の発表を行う。 これから一時間後に最初の禁止区域が発動す― 』
「アカン、今手元に地図ないわ。ちょっと取ってくる」
『いや、僕がメモしておきますよ。後で“青”さんにも改めて教えてあげますから』
「そう? 取ってくるのに時間はかからへんのやけど……トマはんがそう言うなら、お願いするわ」
『 19時より B-7 21時より H-8 23時より A-1 1時より G-4 3時より E-7……』
『僕たちにはあまり影響のない場所ばかりのようですね。病院とシェルターの間は指定されてませんよ』
「ひとまずは安心やな。ここやそっちが指定されなくて良かったわ」
『全くです。出て行ったお2人は大丈夫ですかね。まあ、放送は聞いてると思いますが……』
『 該当時刻になってもその場所にいる場合、首輪が爆発するぞ。自ら命を絶ちたい愚かな者以外は…… 』
「やっぱり、この首輪はなんとかせなアカンな」
『そうですね。あ、くれぐれも、軽はずみに『実験』したりしないで下さいよ? 万が一のことでもあったら……』
「分かっとる。ウチ1人のことやないからな。心配せんでも無茶はせぇへん」
それはきっと、幸せな会話だったのだろう。
常識人同士、頭のいい者同士、チームのサポート役同士、そして何より、真っ直ぐに正義を愛する者同士。
ほんの短い時間の会話で、2人は確かに、互いを「仲間」として認め合っていたのだ。
2人とも、素直に信じていた。
この幸せな時間がまだまだ続くと。自分たちが協力すれば、きっと幸せな未来を作りだせるのだ、と。
『 ――次はこの放送までに命を落としてしまった者達の名前を発表する。 』
無情にもその名が呼ばれる、その瞬間までは。
『 01番 明石薫 』
葵の手から、音も無く受話器が滑り落ちた。
* * *
35:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:11:49 QrALamsQ
36:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:12:33 QrALamsQ
37:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:12:44 BveIKcq1
38:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:13:17 BveIKcq1
39:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:13:19 ghohQnVr
40:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:13:33 otuDKd30
『……もしもし? もしもし、“青”さん!? どうかしましたか!? もしもし!』
「――嘘やっ!!」
ヒュンッ―。
数秒の間を置いて、思考停止から立ち直った彼女は絶叫する。絶叫と共に瞬間移動する。
能力を制限されている今、目的地まで1跳びでは届かない。
コンマ数秒のタイムロスが、恐ろしいほど長く感じられる。
未だにジェダの放送は流れ続け、延々と人名が読み上げられていたが、彼女の意識には届かない。
「そんなはずあらへん―だって、ついさっきまで―!」
ヒュンッ―。ヒュンッ―。
3回目の空間跳躍で辿り着いたのは、あの病室の前。
ほんの一瞬、中に飛び込むのを躊躇する。見たくもないものが見えてしまう気がして、足が竦む。
トマとの会話に夢中になって、すっかり『親友』のことを忘れていた自分を、今さらながらに呪う。
大きく深呼吸1つ、そして彼女は。
「―薫ッ!!」
ヒュンッ―。
そうして飛び込んだ、その病室は。
彼女が親友を運び込み、パジャマを着せ、布団をかけて寝かせておいた、その病室は。
はだけた布団の皺もそのままに、誰も居なかった。
「そ……そんな……!?」
全くの無人。見回す限り誰一人おらず、置き去りにしていたランドセルも見当たらない。
良く見たら他人がそこに寝ていました、ということもない。
葵の焦燥を嘲笑うように、空っぽの病室が、ただそこにあった。
「な……何があったんや……薫……どこ行ったんや……?」
頭の中身が、ゴチャゴチャになる。
部屋に飛び込む直前、一瞬思い浮かべてしまった「最悪の想像」は、血に染まった病室。
葵が目を離した隙に、誰かに侵入され殺されてしまった薫の姿だ。
けれども―死体すらない。争った形跡もない。
まさに神隠しのように。あるいは、高度なテレポーターの手でどこか遠くに転移させられたかのように。
ベッドの上に僅かな温もりだけを残して、綺麗さっぱり、消えうせていた。
思考の纏まらない頭で、葵は必死で考える。ありそうもない、しかし僅かな可能性を捏造する。
「は……はは……わ、わかったで。ジェダの阿呆、嘘ついとるんや。
か、薫のバカ、目ぇ覚めて勝手にどこかに行きよったんやな。し、心配ばかりかけさせて。
おーい薫、どこ行ったん~? あの子が飛んでも、そう遠くには行っとらんはずや。見つけなあかん……!」
ヒュンッ―。
野上葵は転移する。どこかにいるはずの明石薫の姿を求めて病院内を跳ぶ。
昼間に眠って、それっきりで、きっとお腹を空かしているに違いない。なら食べものを探して歩いているのか。
それとも、あの好奇心旺盛な薫のこと、この見知らぬ建物の探検でも始めてしまったか。
ヒュンッ―。
ヒュンッ―。
ヒュンッ―。
葵は跳ぶ。連続して跳んで、薫の姿を探し続ける。
信じられない。信じたくない。でも彼女を見つけるまで、否定しきることもできない。
逆に言えば、死体でも目の当たりにしない限り、信じるわけにはいかない。
放送はまだ続いている。けれども一言だってその意味は頭に入らない。
目の端に溢れる熱いモノを拭う余裕もなく、松葉杖を両脇に抱えたまま、彼女は無闇やたらと跳び続けた。
41:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:14:02 BveIKcq1
42:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:14:34 ghohQnVr
43:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:14:51 QrALamsQ
44:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:15:00 BveIKcq1
45:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:15:31 otuDKd30
* * *
「もしも」を挙げていけばキリがないが、もしも仮に、野上葵がもう少し冷静だったとしたら。注意深ければ。
彼女は、気が付いていたに違いない。
テレポートは一種の複合能力。PK系の物体移動能力のみならず、ESP系の要素もある。
見えない壁の向こうの様子を直感的に把握できる彼女に、「その程度の擬態」は通用しなかったに違いない。
なにしろ彼女は、完全に目隠しされた状態で完璧な戦闘を演じたこともあるのだ。
「そういう敵」に対しては、相当に「強い」。
けれど放送で薫の名を聞いた彼女は、明らかに動揺していた。混乱の極みにあった。
だから、気付くことができなかった。
無人にしか見えない病室の中、壁際で息を潜める透明人間の存在に。
(咄嗟に『カメレオン』を唱えてしまいましたけど……さてこれからどうしましょう?)
野上葵が本物の「明石薫」だと信じて連れてきた少女、ベルカナ・ライザナーザは、小さく溜息をつく。
目が覚めたのはほんの数分前。6時間を越える睡眠で、精神力も完全に回復している。
辺りを見回せば、そこは信じられないほど綺麗で清潔な部屋。
魔法としか思えぬ蛍光灯の灯りも含めて、フォーセリアでは見たこともないような空間だった。
いわゆるファンタジー世界の住人である彼女にとって、近代の病院は異界のようにしか感じられない。
(古代王国の遺跡が「遺跡」でなかった時代には、ひょっとするとこんな感じだったのかもしれませんわね)
ぼんやりとそんなことを考えるが、しかし現在地を掴む手掛かりにはならない。
ここはどこなのか。今地図の上でどこに居ることになるのか。
指定された禁止エリアは聞いて大方覚えたが、現在地が分からないと動きようがない。
(丈さんのお仲間のお名前も呼ばれていますわね。生き延びているのは「太刀川ミミ」さんだけ、でしょうか。
イエローさんはまだ無事のようですが、レッドという名前も呼ばれてましたし……早く合流しないと)
最初は、明石薫のフリをしてこの場を乗り切るつもりだった。
荷物が残されていたことから、葵が近くにいるだろうとは思っていた。偵察でもしているのだろうと思っていた。
だから、帰ってきた彼女と合流して、口先三寸で誤魔化そう。そう考えていたのだが……
その矢先に、「明石薫」の名が呼ばれてしまったのだ。
反射的に、マズい、と思った。
『シェイプ・チェンジ』による変身が簡単に看破されるとは思わない。
けれど名前が呼ばれ、死人のリストに載せられてしまえば、きっと疑われてしまうだろう。
そんな状況で「記憶喪失になりました」、なんていうベタな嘘で乗り切れるとは、とても思えなかった。
選択肢はほとんど存在しなかった。葵がいつどこから戻ってくるかも分からない。
走って逃げても間に合わないかもしれない。なにせ相手は『テレポート』をほぼ無制限に使える存在である。
考える時間すらほとんどない状況の中、ベルカナが選んだのは、魔法を使って「姿を消す」ことだったのだ。
葵が病室内に姿を現したのは、まさに壁際に貼りついた彼女が魔法を唱え終わった直後であった。
(しかし、せめてケチらずに『コンシール・セルフ』にしておくべきでしたわね。これでは1歩も動けませんわ)
46:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:16:47 QrALamsQ
47:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:16:51 ghohQnVr
48:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:16:58 BveIKcq1
49:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:17:04 otuDKd30
心の中で小さく舌打ちをする。
午前中は、魔法を大盤振る舞いし過ぎてあやうく死ぬところだった。その恐怖が頭を過ぎったのか。
ベルカナが咄嗟に選んだ『カメレオン』は、周囲の景色に同化して姿を隠す、初級の幻覚魔法である。
これを維持している限り、視覚によって彼女を捉えることは誰にもできない。
精神力の消費も極めて少なく、難易度も低く、手軽に緊急避難できる便利な魔法であった。
ただし……簡単かつ効果的な魔法だけあって、欠点も多い。
その最たるものが、「移動できない」という問題だ。
普通の精神集中を要する魔法は、それでもゆっくりと歩いて移動することができる。動き回ることができる。
けれども、周囲の景色と同化しているに過ぎない『カメレオン』では、位置がズレればそれで終わり。解けてしまう。
ついでに、視覚以外の感覚ならば簡単に捉えられてしまうのも心細いところだ。
もちろんこの魔法の維持中は、他の魔法を使うことはできない。複雑な動作もできない。
ベルカナは思案する。精神を集中し『カメレオン』を維持している頭の片隅で、これからの行動を考える。
透明になってはいるが、まだ『シェイプ・チェンジ』は維持されている。まだ『明石薫の姿形』はカードとしてある。
いずれ戻ってくるかもしれない、あの『テレポート』使いに対して、取るべき策は―
まだ残っている『明石薫の外見』を活かして、葵を騙して利用する?
彼女が戻ってくるよりも先に、『フライト』か何かを使ってここから逃げ出す?
逆に彼女が諦めてどこか遠くに行くまで、『カメレオン』などで隠れ続ける?
それとも―姿を隠す前に拾い上げた、この2つのランドセルの中身に打開策を見出す?
ベルカナは悩む。どの選択にもリスクが伴い、結論を出すのは簡単ではない。
そして、彼女が取った選択は―
* * *
「そん、な……はやて、さん……!」
明石薫の名が呼ばれ、野上葵の手から受話器が滑り落ちてから、数十秒後、
トマもまた、電話の前で崩れ落ちていた。
ジュジュの名前が呼ばれた時も、ショックだった。泣きたくなった。
フェイトの名前が呼ばれた時も、ショックだった。はやてやアリサも泣いているだろう、と思った。
人数が30人を越えたあたりで、叫びたくなった。いったいどれだけの人を殺せば気が済むのか、怒りすら湧いた。
けれども、名前の羅列が終わろうとした時に呼ばれた、その名前には―
『 72番 八神はやて 』という、その宣告には―。
「はやて、さん……!」
トマの頬から零れ落ちた熱い雫が、無数のバツ印がつけられた名簿を濡らす。
ジェダが嘘を言うとは思えない。嘘をつく理由がない。必要がない。
そうと理解できてしまう自分の頭脳が、トマには憎く、また辛かった。
50:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:18:16 +z7CMYS+
51:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:18:37 BveIKcq1
52:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:18:47 otuDKd30
【H-5/シェルター地下/1日目/夜】
【トマ@魔法陣グルグル】
[状態]:健康。激しい精神的動揺
[装備]:麻酔銃(残弾6)@サモンナイト3、アズュール@灼眼のシャナ
[道具]:基本支給品、ハズレセット(アビシオン人形、割り箸鉄砲、便座カバーなど)、
参號夷腕坊@るろうに剣心(口のあたりが少し焼けている) はやて特製チキンカレー入りタッパー
[思考]:…………ッ!!
第一行動方針:ひとまず落ち着いて冷静になる(できるかどうか分からないが)
第二行動方針:参號夷腕坊の修理。
第三行動方針:他の参加者と情報と物の交換を進める。必要ならその場で道具の作成も行う。
第四行動方針:『三宮紫穂』の情報を掴んだら、「病院」にいる“青”さん(ブルー?)に教えてあげる。
第五行動方針:『首輪の解除』『島からの脱出』『能力制限の解除』を考える。そのための情報と物を集める。
第六行動方針:できればトリエラと再び会いたい。それまでは死ぬわけには行かない。
基本行動方針:ニケたちとの合流。及び、全員が脱出できる方法を探す。
※ハズレセットのうち、豆腐セット、もずくセット、トイレの消臭剤、根性はちまきを使用しました。
割り箸鉄砲の輪ゴムは、まだ残りがあります。
※「工場」にいる自称“白”の正体は「白レン」、「病院」にいる自称“青”は「ブルー」、と誤った推測をしています。
【G-7/病院内(??)/1日目/夜】
【野上葵@絶対可憐チルドレン】
[状態]:左足損失、超能力の連続使用による微疲労、激しい混乱
[装備]:松葉杖×2
[道具]:なし
[思考]:……薫!? どこ行ったん!? 嘘やろッ!?
第一行動方針:病院内から消え失せた薫を探しだす(放送で死を告げられたことは半信半疑?)
第ニ行動方針:紫穂を探す。
第三行動方針:シェルターにいるトマと直接会って協力する? テレポートで首輪解除と脱出?
第四行動方針:レミリアかフランドールに出くわしたら逃げる
第五行動方針:逃げた変質者(ベルカナとイエロー)は必ずぎったんぎったんにしたる
基本行動方針:三人揃って皆本のところに帰りたい
[備考]:イエローをサイコキノ、ベルカナも何らかのエスパーと認識しました。
なお二人が城戸丈を猟奇的に殺害し、薫に暴行をしたと思っています。
テレポートに掛かっている制限は長距離転移不可(連続転移は可)、
「意識のある参加者(&身に着けている所持品)は当事者の同意無しでは転移不可」です
他者転移禁止の制限には気づいていません。
首輪の転移・首輪を残して身体だけ転移、といったことが可能かどうかはまだ分かりません。
第一回放送の、「明石薫」の名前が呼ばれた以降の内容を完全に聞き落としました。
53:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:18:52 ghohQnVr
54:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:19:59 BveIKcq1
55:電話越しの希望、放送越しの絶望 ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:20:04 otuDKd30
【G-7/病院内(病室内)/1日目/夜】
【ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT】
[状態]:明石薫に変身中。左腕に深い切り傷、全身に打撲と裂傷(手当済み)、
あばら骨数本骨折(他も骨折している可能性あり)
古代語魔法『カメレオン』で透明化中(移動不可能)、精神力消耗微少
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心
支給品一式、黙陣の戦弓@サモンナイト3、返響器@ヴァンパイアセイヴァー、消毒薬や包帯等
[服装]:入院患者用のパジャマ
[思考]:さて、これからどうしましょう……?
第一行動方針:葵への対処を考える。このまま逃げる? 隠れてる? 明石薫のフリをする?
第二行動方針:現在地を把握したい。
第三行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない)
第四行動方針:仲間集め(イエローと丈の友人の捜索。ただし簡単には信用はしない)
基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア
参戦時期:原作7巻終了後
[備考]:制限に加え魔法発動体が無い為、攻撃魔法の威力は激減しています。
変身魔法を解除した場合、本来の状態(骨折数箇所、裂傷多数、他)に戻ります。
荷物もろとも『カメレオン』の魔法で透明化しています。動かないかぎり、視覚で彼女を捉えることはできません。
※古代語魔法「カメレオン」について
見るものの視覚を欺瞞し、背景と同化して術者の姿を隠す幻覚魔法の一種。
必要とするレベル・精神力消費共に非常に低く、古代語魔法としては最も初級の部類に属する。
ただし、欺瞞できるのは視覚のみ。聴覚や嗅覚などは誤魔化せない。
また、維持には精神集中を要する上、他の集中を要する魔法と違い、その場から移動することもできない。
上位魔法に「コンシール・セルフ」という魔法もある。こちらは匂いや音も隠してくれ、ゆっくりとなら移動も可能。
ただし精神点の消耗は多い。
56:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:20:45 BveIKcq1
57: ◆sUD0pkyYlo
07/11/23 20:20:46 otuDKd30
投下完了。支援感謝です。
トマの考察が正しいかどうかは、今後の展開次第でしょう。やっぱり首輪で制限してるのかもしれません。
あ、人名考察は明らかに間違いですがw 彼は探偵でなく魔技師なんで、技術が絡まないことはからきしかと。
電話の繋がる先はまだ他にもあるかもしれません。神社とか温泉旅館とか携帯とか。
58:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:25:32 BveIKcq1
投下GJ。立て、立つんだトマぁ!
ベルカナは助かったのか助かってないのか……。
放送前に目覚めるのは予想してなかった。
しかも、それで状況が悪化したように見えなくもないw
葵も動けるようになれば、これほど足の速いキャラはいないからな。
次にどう動くかは重要だし自由度も高そう。
59:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:26:11 QrALamsQ
投下GJ。
葵が悲惨すぎる……。放送後は確実に荒れるだろうと思ってたけど、予想以上だった。
心理描写が巧いので、読んでるこっちまで胸が痛くなりましたよ。
あと、トマの考察もナイスだったと思う。漸く対主催に希望の光が見えてきた…のか…?
60:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 20:33:07 ghohQnVr
投下乙!
ベルカナはまた微妙な状況になったなぁ…
薫とトマの考察で対主催側が少し進展した感じがしたが、直後にあの放送…やり切れん。
それとトマ、その白さんに本物の白さんが狙われてるんですw
61:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 23:51:29 JzFqqj58
今後ニケとトマが上手い事やれば、
なのは、ヴィータ、エヴァ、アリサ、葵、トリエラが
対主催者グループの戦力として。
選択ミスれば…………
グルグル勢責任重大?
62:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/23 23:56:19 +z7CMYS+
>>60
前スレで…
63:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 00:00:51 DDyr2V1d
>>61
ニケトマ自業自得なところがあったからなあ……。
自分で崩した積み木を元に戻せるかどうか気になる。
>>62
志村ー時間ー
64: ◆CFbj666Xrw
07/11/24 03:45:15 NFhjT6QK
予約延長を申請します。
毎度延長してすみません。
65:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 09:16:00 qxy3C4fS
投下GJ
ベルカナの魔法は便利だがクセがあるんだよな。万能選手にどう立ち向かうか……
葵とトマの心情が痛い。いの一番に薫が呼ばれたから余計に痛い。
66:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 13:09:00 O26TZlve
>>57
投下GJ。ほとんど進んでいなかった脱出の道筋を作ったのは見事の一言です。
妨害装置とエネルギーの関連づけも上手い。電話も役に立ってるなあ。
色を使った名前の誤解が今度どう転がるのか楽しみです。
>>64
期待!
67: ◆JZARTt62K2
07/11/24 16:59:31 O26TZlve
20時ごろから投下する予定です。
時間がある方は支援をお願いします。
68:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 17:05:19 DDyr2V1d
了解
69:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 17:10:14 e9CYmXC2
了解、wktkして待ってます。
70: ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:03:31 O26TZlve
それでは投下を開始します。
71:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:04:14 ctGqP1PE
灼眼の支援!
72:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:04:33 O26TZlve
「……至急、今すぐ、即座に、ソッコーで、なのはを探し出すべきだね」
『……うむ。我も同意見だ。今のあの子は危うすぎる』
長い沈黙を破ったのは、張り詰めたインデックスの声だった。
頷くアラストールの響きにも苦々しげな成分が混じっている。
「なのはのやつ……何考えてんだ?」
二人からやや遅れて、ヴィータも苛立たしげに息を吐いた。
搾り出す言葉に含まれているのは、まぎれもない怒り。
(あたしに説教垂れておいて、腕まで潰しておいて……!)
動かぬ拳を軋ませながら怒気を噛み殺す。
(自分はあっさり人殺しかよ……!)
踏みしめる石段に、亀裂が入った。
「……高町なのははいい仲間を持っているようなのです」
二人と一柱の反応を見て、梨花の視線が同情的なものへと変わる。
「全員が彼女のような性格だったらどうしようかと思っていたので良かったのです。にぱー」
軽口に反応する者はいなかった。
古びた朱色の鳥居の下で伝えられた事実は、インデックス達に衝撃を与えるに足るものだった。
当然といえば当然である。勝と斥候に出たはずのなのはが、学校で大量殺人を行っていたのだから。
境内での邂逅の後、自分が殺し合いに乗っていないことを証明した梨花は、真っ先に高町なのはの所業を告発した。
『高町なのはの仲間』が、どう反応するか見るために。
反応は、おおよそ梨花が予想した通りのものだった。
学校で起こった事件のあらましを聞き終えたインデックス達は、“ただ”驚いたのだ。
感情的な反論はしなかった。
話を嘘だと断ずることもしなかった。
受け入れて、絶句した。
(この人達は『高町なのはならやりかねない』と、心のどこかで思っていたのね)
普通、仲間が人を殺したなどと言われたら、まず始めに虚言を疑う。
ましてや『二人の人間を下半身だけ残して蒸発させた』などという話は信じるほうがおかしい。
だが、目の前の『仲間』は受け入れた。
『殺し合いに乗った殺人鬼』として貶め陥れるような情報でないとはいえ、
高町なのはが危険人物の排除という理屈をもって人を殺したという事実を、受け入れた。
梨花は確信する。
この人達は間違いなく高町なのはの仲間だ、と。
「小太郎の情報では他に三人ほどいるという話なのですが……」
『エヴァは神社の中に寝かせてある。ニケは斥候中でここにはいない。もう一人……勝は行方不明だ』
質問に答えたのは、インデックスの首から垂れ下がっているペンダント。
「……みぃ。あなたがアラストールなのですね」
喋る装飾品に梨花は改めて戸惑ったが、すぐに気を取り直した。
「アラストールを探している、シャナという人物の居場所を小太郎から聞いているのです」
『む。それはありがたい。して、一体何処に?』
「ここから西へ行ったところにある廃病院に―」
言い終える前に、轟、と島が揺れた。
森が咆えた。
空がうねった。
大地が震えた。
梨花が言葉を止めた。
アラストールが黙り込んだ。
インデックスが空を仰いだ。
リンクが周囲を見渡した。
ヴィータが顔を上げた。
誰も彼もが、一瞬停止した。
第一放送が、始まったのだ。
73:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:05:12 MkXSLrkh
74:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:05:28 DDyr2V1d
75:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:05:29 e9CYmXC2
76:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:05:51 O26TZlve
※ ※ ※ ※ ※
“―以上、37名だ”
「ウソ……だ……」
零れ落ちた言葉が地面に落ちて砕け散る。
無情な現実は全ての未来を打ち消して。
ガラス玉の希望は、木っ端微塵に吹き飛んだ。
「はやてが死んだなんて……間違いに、決まっ……て……!」
言葉が詰まった。台詞が喉の奥から出てこない。
虚構に縋る思考を、理論が、理屈が、理性が打ち崩す。
夜天の主であるはやてが死ぬはずがない?
否。デバイスがない八神はやては足が不自由な唯の少女だ。
夜天の騎士である自分が消えていないからはやては生きている?
否。守護騎士システムは切り離されており、はやてが死んでも自分は存在し続ける。
同姓同名の人違い?
否。本物の『高町なのは』や『ヴィータ』が参加している以上、そんな都合のいい展開はない。
ジェダが嘘を吐いている?
否。嘘を吐いてまで生かしておく理由がない。
―結論。八神はやては、死んだ。
「ち、くしょおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!」
吼える。吠える。咆える。
真っ赤になった視界の中で、はやてのいない世界がグニャリと歪む。
見上げた空は血よりも紅く、肌を刺す風は刃より冷たい。
頬を伝う感触が情けなさに拍車をかける。
主を守れなかった騎士に、涙を流す資格などありはしないのに。
鉄槌の騎士は、八神はやてを見殺しにしたというのに。
「うああああああああああああッッッ!」
「ヴィータ!」
突然駆け出したヴィータに、インデックスが金切り声を上げた。
鬼のごとき形相で地面を蹴る赤毛の少女は、一切合切を無視して神社を飛び出そうとする。
「駄目だ!」
だが、両腕が使えず、片足に傷を負った動きは粗末なものだった。
立ち塞がるリンクが足払いをかけると、碌にバランスが取れないヴィータは無様に転がる。
「離せッ! 離せよぉッ!」
「落ち着け!」
地面に押し倒され動きを封じられたヴィータは拘束から抜け出そうと身を捩る。
暴れる身体を押さえつけながら、リンクは声を張り上げた。
「いったい、一人でどこへ行くつもり―」
「はやての仇を討つに……決まってんだろうがぁッ!」
一喝とともに、尋常ならざる膂力がリンクを襲った。
「ぐうっ……!」
「リンク!」
もつれる二人に梨花とインデックスが組み付く。
梨花は足を、インデックスは肩をそれぞれ押さえてヴィータの動きを封じにかかるが、夜天の騎士を制圧するには十分とは言えない。
「があああああッ!」
牙を剥き爪を立て髪を振り乱し、自傷行為にも似た少女の狂乱は止まらない。
まるで、自分自身を罰しているかのように。
77:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:06:23 DDyr2V1d
78:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:06:39 MkXSLrkh
79:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:06:43 O26TZlve
「よく考えなよヴィータ! 当てもないのに突っ走るのは無謀すぎるよ!
もし見つけることができたとしても、その腕じゃ返り討ちにあうよ!」
三人がかりで押さえられてもなお暴れ続けるヴィータをインデックスが諭す。
『復讐なんて無意味だ』とは言わない。大切な人を喪った相手には逆効果だ。
『気持ちはわかる』なんて言えるわけがない。虚偽の慰めは何の力も持っていない。
感情による説得は感情による暴走を加速させるだけ。
故に、理性に訴えかける。
「……ヴィータ。蛮勇による無駄死にには、何の意味もないんだよ?」
抗う動きが徐々に鈍くなる。
憤怒の炎が哀惜の泥へと変わっていく。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょおぉッ……」
砂利の海に埋もれた口は、ただただ嗚咽を漏らし続けた。
世界の全てを、呪うように。
「……なんとか、落ち着いたかな。リンク、リカ。協力、ありがとうなんだよ」
「いや、たまたまタイミングが合っただけだよ。でも、止めることができて本当によかった……」
ようやく暴走を抑えきった三人は安堵の吐息を吐く。
未だヴィータは怨嗟の声を上げていたが、すぐに暴走することはないだろうと判断できた。
少なくとも、今しばらくは。
「いきなり叫び出すからびっくりしたのですよ」
服に付いた土埃を払いながら、梨花が疲れたような声を出す。
どことなく口調が刺々しいのは、ヴィータの暴走によって放送の後半部分を聞き逃してしまったせい。
禁止エリアや死者名といった最低限の情報は聞こえたが、細かな情報を手に入れられなかった可能性がある。
梨花の心情を察してか、インデックスは素直に謝った。
「ごめんね。放送については後からニケに詳しく聞こう。
でも……『八神はやて』はヴィータにとって、本当に本当に、大切な人だったんだよ。
理解してとまでは言わないけど、考慮してくれると嬉しいな」
『……インデックス』
今まで沈黙を貫いてきたアラストールが、遠雷のような声を響かせた。
『八神はやてもそうだが、もう一人聞き捨てならぬ名前が呼ばれたのはわかっているか?』
「うん……。まさる、だね」
才賀勝。
山小屋で出会った仲間にして、高町なのはと共に斥候に出た少年。
そして、第一放送で脱落が伝えられた37人の内の一人。
『梨花よ。一つ確認しておくが……。確かになのはは一人で行動していたのだな?』
「小太郎と出会ったとき、高町なのはは一人だったようなのです。勝という参加者についての情報は、何も」
『ふむ』
山小屋から出発した高町なのはは才賀勝と一緒だった。
斥候に出たはずの二人は、結局帰ってこなかった。
その後、高町なのははたった一人で学校に現れた。
才賀勝は―死んでいた。
軌跡は不明。道程を埋める情報はない。
『うむ……。本人に聞くのが一番早そうではあるな』
「高町なのはなら西に向かったようなのですよ?」
『西か。確か、シャナがいるという廃病院も西方になるな』
梨花の補足にアラストールが唸る。
なのはもシャナも西方にいることがわかっている。
移動する可能性を考えれば、すぐに向かわないとせっかくの情報が無駄になる可能性がある。
とはいえ、気絶中のエヴァと不安定なヴィータを放っておくわけにもいかず、ニケは学校から帰ってこない。
単独行動は常に危険が伴う以上、梨花達に二人を任せてインデックス一人で捜索に向かうわけにもいかない。
『八方塞りか……』
「どのみち高町なのはがじっとしているとは思えないので、単純に西へ行っても会えない可能性が高いのです」
沈んだ声を出すアラストールに追い討ちをかけるように、淡々とした予測が述べられる。
80:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:07:39 DDyr2V1d
81:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:07:42 O26TZlve
(……あいつは、高町なのはは一ヶ所で大人しくしているような性格じゃない)
梨花は、思い出していた。
殺し合いに乗った少年を、そうでない少年ごと容赦なく焼き殺した後の無表情な顔を。
傷つき、苦しみ、死にかけている二人の命を平気で天秤にかけた冷たい目を。
灰原哀を―梨花の友人を撃ち殺したときの、悪魔のような立ち姿を。
「……学校での行動からして、またどこかで暴れているんじゃないの?」
苦虫を噛み潰した言葉は、素の口調に戻っていた。
「な……のは……?」
不意に、ずるり、と亡者が動き出した。
「そうだ……。まだ、あいつがいた……」
梨花の言葉に反応して、ヴィータが幽鬼のように立ち上がる。
「あちこち動き回ってるなら、はやてを殺した糞野郎の情報を持ってるかも……」
手負いの騎士は片足を引き摺りながら動き出す。
虚ろな目は闇以外を映しておらず、呟く言葉は誰にも向けられていない。
鬼気迫る様子は、さながら螺子が外れた機巧人形だった。
「ダメだよヴィータ! その傷じゃ……」
「どうせ治る見込みはないんだろ……? だったら関係ねーよ。それに……」
インデックスの言葉を一蹴した後、自嘲気味な掠れ声が漏れる。
「何か行動してねーと、自分で自分を殺しそうだ」
カラカラと、乾いた嗤いが空に溶けた。
壊れかけた灰色の言葉に、インデックスは思わず息を詰まらせる。
再びずるずると動き始めたヴィータを、ただ見つめることしかできない。
(これは、重症だね……)
ヴィータにとって八神はやては己の命より大切な存在であったと、今更ながらにインデックスは思い知る。
わずかな目当てができただけで再び飛び出そうとするなど、完全に予想の埒外だった。
『諦めよインデックス。もはやあの子は止まらんだろう。
どうしても止めたいのであれば、今度は両足を潰すほか手段はあるまい』
見かねたアラストールが口を挟む。
ヴィータを止めることは不可能だ、と。
今のヴィータは、たとえロープで縛ったところでそのまま進み続けるだろう。
それこそ、高町なのはがしたような手段でも取らない限り。
「だけど、あの腕じゃとても戦えないよ。一人で行かせることなんてできない」
『エヴァを治療したときのように、ヴィータの傷も治せないのか?』
「そうは言うけどさ。強力な魔術は安易に使えないんだよ。ニケは一回使っちゃってるし」
人間が『魔道書』の魔術を行使するとき、そこには常に失敗のリスクが存在する。
手順を踏み違えた場合、魔術を行使した人間の神経回路と脳内回路を焼き切り、最悪の場合は死に至らしめる可能性すらある。
宗教防壁で脳と心を守っている聖職者や、人間を超えようとして自ら発狂を望む魔術師ならばある程度は耐えられるが、
宗教観の薄い人間が何度も『魔道書』の知識を使おうとすれば、終わる。
そのため、既に一回『魔術』を行使しているニケが再び魔術を行使することは、あまりにも危険すぎたのだ。
「私には魔力がないし、エヴァは気絶してるし、体調が万全じゃないヴィータ自身に使わせるのは避けたいし……」
『ならば、あの二人ではどうだ?』
アラストールの意図を読み取ったインデックスが慌てて振り返ると、
石畳の上で、梨花とリンクが居心地悪そうに立ち尽くしていた。
「僕たちがどうしたのですか?」
自分達のことが話題に上がったと勘付いた梨花に、インデックスは少しだけ躊躇しながら、言った。
「ごめん。ちょっと、力を貸してくれる?」
82:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:07:59 e9CYmXC2
83:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:08:30 DDyr2V1d
84:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:08:39 O26TZlve
※ ※ ※ ※ ※
闇の中に一つの人影が在った。
周囲の黒に匹敵するほどの気配を発しているのは、人ならぬ夜の眷属。
放送の音で目を覚ました吸血鬼は無言で闇を見つめている。
「…………」
人形使い。
闇の福音。
不死の魔法使い。
いくつもの恐るべき二つ名を持つ吸血鬼はしかし、全くと言っていいほど威圧感を放っていなかった。
放送で弟子の名が呼ばれてから、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの時間は止まっている。
「……そうか。ぼーやは死んだか」
ようやく気だるげに呟いたエヴァは、放送の残響に包まれている暗い部屋を見渡した。
「ふん」
生活臭のない部屋には、エヴァ以外誰もいなかった。
眠りに落ちる前には確かにいたはずの同行者が、一人残らず消えている。
白い少女も。変態勇者も。シスターも。剣の少年も。赤毛の敵も。
誰も、残っていなかった。
「クク。言いつけをちゃんと守っているじゃないか」
“私のことは放っておけ”
意識が消える直前に出した命令がしっかり守られていることに、氷のような笑みが零れる。
割と甘いところがある連中だったが、気絶した人間を置いていく程度の非情さは持ち合わせていたようだ。
(それでいい)
足手纏いを切り捨てる覚悟があるならば、ある程度は生き残れるだろう。
役に立たない者を見捨てることは、別に悪いことではない。
所詮、この島で出会っただけの赤の他人なのだから。
だから別れた今、なのはやニケが何をしようと知らないし、自分も勝手にやらせてもらうことにする。
ちょうど“脱出よりも優先すべき目的ができたから都合がいい”
皮肉気に歪めた顔を隠そうともせず、エヴァは近くに置いてあったランドセルを掴む。
中を改めると、支給品はそっくり残っていた。
「……道具をそのまま置いていったのか? 少しは見直したと思ったが、やはり甘いな」
苦笑しつつ蓋を閉じたエヴァは、ふとあることに気付いた。
よく見ると、今いる部屋は気絶する直前に見た山小屋ではない。
「ここはどこ、だッ……!?」
立ち上げかけた足に力が入らず、エヴァは大きくバランスを崩した。
寸前で手をついたため身体を打ち付けることは防げたが、起き抜けの頭に甘い衝撃が走る。
「ちっ……」
エヴァの魔力は、ほとんど残っていなかった。
それこそ、通常の運動にも支障をきたすほどに。
(いかんな……)
舌打ちとともに苛立たしげな言葉が漏れる。
リリスとの戦闘で消費した魔力に加えて、八卦炉に使った分も馬鹿にならなかった。
ふらつく身体に鞭打って部屋を漁ってみても碌な物が出てこず、早々に手詰まり状態に陥ってしまう。
フェアリィリングは消費魔力を減らすことはできるが、失った魔力を補充する分には役に立たない。
現状において、手持ちの札による魔力の回復は絶望的だった。
それはつまり、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの能力の殆どが使用不能だということ。
(……りん)
この戦いにおいて、魔力の枯渇は致命的な隙となる。
合気道などの接近戦術も苦手ではないが、力の大部分を殺ぎ落とされたまま戦うのは好ましくない。
雑魚には対抗できてもリリスのような実力者相手には通用しないだろう。今、そんな相手に当たればアウトだ。
(……足りん)
ジェダを打ち滅ぼすための、
リリスを屠り去るための、
―“出来の悪かった弟子”を殺した犯人を豚のように虐げ、豚のように縊り、豚のように砕き、
足の先からゆっくりと裁断し、骨を挽いて髄を引き抜き、蛆虫の群れにその身を喰らわせ、
生かしたままぐちゃぐちゃの肉片に磨り潰すための力が、魔力が、絶対的に足りない。
85:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:09:03 MkXSLrkh
86:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:09:05 DDyr2V1d
87:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:09:35 O26TZlve
(……が、足りん)
滅多にない緊急時において、貧血気味の頭は一つの答えを弾き出す。
道具による魔力補充は不可能。
自然回復を待つ余裕はない。
魔力を融通してくれそうな仲間は皆無。
ならば、手段はただ一つ。
「血が、足りん」
他者の血から、魔力を奪い取るまで。
※ ※ ※ ※ ※
「治っ、た……?」
未だ痺れが残る拳を何度も握り直しながら、ヴィータは呆けたような声を出した。
高町なのはによって赤黒い肉塊へと変貌させられていたはずの両腕を、無心に動かし、曲げ、伸ばす。
「うご、く……?」
元の機能を取り戻した腕は思うままに動いてくれた。
こそぎ落とされた肉は埋め立てられ、焼き切られた神経は繋ぎ合わせられている。
痺れるような感覚は残っているが、たいした問題ではない。
「動く……!」
これで、戦えるのだから。
これで、はやての仇を討てるのだから。
「いま使ったのは『ヘルメス文書』の白魔術だよ。自然魔術とも呼ばれる癒しの魔術だね。
その名の通り自然の力を借りる魔術で、神社の下を通る竜脈と大地の恵みである果物の生命力を利用して……って、もう走り出してる!?」
「遅れんなインデックス! 置いてくぞ!」
「ちょっとくらいは聞いてくれたっていいのに! おに! あくま!」
インデックスの説明を無視してヴィータが走り出した。
逸る気持ちが脚に表れているのか、走る速度が徐々に上がっている。
『追うぞインデックス。我もシャナのことが気にかかる』
「みんなして私をこき使って! ああもう、わかったよ!」
次々と勝手なことを言う仲間達に嘆くと、インデックスもヴィータを追って走り出した。
「わかってるよねヴィータ! 私達の目的はシャナが属する集団となのはの捜索だよ!」
「わかってる!」
「両方見つけたら一度神社に戻ってニケと合流するんだよ! ニケがはやての情報掴んでるかもしれないんだから!」
「わかってる!」
「……日が完全に落ちたときも、一旦戻るんだよ?」
「わかってる!」
「朝は足4本、昼は足2本、夜は足1本。なーんだ?」
「わかってる!」
「絶対聞いてないよね!?」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、二人は道の先へと消えていった。
後に残されたのは、ぽかんと口を開けた一組の男女のみ。
「……行っちゃったね」
「騒々しい人達だったのです」
梨花は溜息を吐きながら周りを見渡す。
境内の土砂利の上に、大きな魔法陣が描かれていた。
大きな円の中に小さな円。そして、小さな円に接するように星を描くような線が引かれている。
いわゆるペンタグラムという魔法陣だ。
円周上には魔術的な意味を持っているらしい単語が並び、五芒星の各頂点には干からびたリンゴやバナナが置かれている。
果物の生命力を神社の神気に乗せて魔法陣中央の負傷者に集めたとかなんとか。
「……よくわからないのです」
「無理に理解する必要はないと思うよ、梨花ちゃん」
よく理解しないまま魔術儀式に手を貸した二人は、やはり深く考えないことにした。
88:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:09:37 DDyr2V1d
89:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:10:30 O26TZlve
「まあ、とりあえず当初の目的は達成できたかな?」
二人が小太郎に頼まれたのは、『シャナ一行に学校での出来事を伝えること』と『山小屋組との合流』。
幸運なことに、山小屋組との合流はアッサリと達成できた。
そして、シャナ達に情報を渡す役目はインデックス達が請け負ってくれた。
梨花達も同行すると言ったのだが、インデックスとアラストール曰く、
『ニケが戻ってきたときに事情を説明できる人が必要なんだ。私達のことを伝えておいてくれないかな?』
『神社の中で寝ているエヴァもよろしく頼む』
結局、二人は神社に残って皆の帰りを待つことになった。
若干の不安はあったが、二手に分かれるのが最も効率的なことは確かだったからだ。
というより、血気逸るヴィータのおかげで二手に分かれざるを得なかったのだが。
「でも、これで脱出チーム結成の目途が立ったね」
「高町なのはと合流するのは気が進まないけど……我慢するしかなさそうね」
「梨花ちゃん?」
「なんでもないのですよー」
ニケはまもなく神社に戻ってくるだろう、とはアラストールの言である。
メロという同行者もついているらしい。
インデックスとヴィータは西方に捜索に出かけたが、この二人もしばらくすれば帰ってくる。
うまくいけば、小太郎の仲間であるシャナ一行を連れてくることができるかもしれない。
……高町なのはと合流できる可能性もないわけではない。
これに小狼と小太郎を加えれば、おそらく島中最大となるであろう反ジェダ集団が形成されることになる。
「この神社で、反撃の烽火を上げるのですね……!」
「ああ。できたらいい、じゃない。やらなくちゃいけないんだ。がんばろう!」
暗闇の中に、小さな光が見えた気がした。
「……それにしても、あの変態坊主が生きているとは思わなかったのです」
不意に、梨花の口調が忌々しい響きに変わる。
放送で呼ばれた脱落者の中に『一休』の名が入っていなかったことを思い出したからだ。
「絶対に倒したと思ったんだけど、やっぱりぶっ飛ばしたアレも幻覚だったのかな」
「その可能性は高そうなのです」
小太郎によると、一休は幻覚魔術師である可能性が高いという。
幻覚魔術師とは幻覚や幻聴など人の五感を欺く魔法を使う者達の総称で、非常にタチの悪い連中らしい。
「生きてるってことは……また、襲撃してくるだろうね」
リンクが予測する未来は暗い。
相手は女の子二人を性的な意味で襲った変質者だ。そして変質者はねちっこいと相場が決まっている。
このまま引き下がるとはとても思えない。
「……それは、とても大変なのです。すぐに対策を立てないと……!」
梨花が一休に抱いている想いは、嫌悪などという生易しいものではない。憎悪、あるいは殺意だ。
『男で*しましょう』などと言われた恨みは忘れていない。
個人的な恨みを別にしても、神社を荒らされるのは絶対に避けなければならなかった。
拠点になる場所を守ることこそ、今の梨花達の役割なのだ。
そのために必要なのは―武器。
(もしここが本当に古手神社なら……!)
一縷の望みを賭けて梨花は記憶を辿った。
何度も何度も繰り返した、仄暗い記憶の端を。
目的の建物はすぐに見つかった。
「やっぱり、あったのです」
本来なら集会所の裏にあるはずの古びた蔵は、本殿から少し離れた森の中で木々に埋もれていた。
人目から逃れるようにして存在している建物の名は『祭具殿』。
血生臭い歴史を持つ、拷問具の封印地。
鬼ヶ淵村の暗黒史が収められている神殿が、辺りの空気を澱ませている。
「ここに、武器が?」
異様な雰囲気を感じ取ったのか、リンクが不安げな声を出す。
「武器に使えそうなものもあったはずなのです……。
リンク。鍵を取ってくるのでちょっと待っててください」
「だったら僕も一緒に行ったほうが……」
「すぐに戻ってくるので心配しなくてもいいのですよ。この神社は僕の庭みたいなものなので任せてほしいのです」
身を案じるリンクを置いて、何度も通った道を駆け出した。
90:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:10:51 DDyr2V1d
91:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:11:13 MkXSLrkh
92:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:11:25 O26TZlve
足が軽い。
心が軽い。
まさか、見慣れた古手神社があるとは思わなかった。
配置は違うしジェダの目的も不明だが、正直とても心強い。
建物の構造は完全に把握しているし、道具の所在だって完璧だ。
祭具殿の道具を使えば、集結する仲間の武器も補充できる。リンクに合う道具はあっただろうか。
(……羽入には悪いことするわね。帰ったら甘いものでも奢ってあげよう)
仲間が集まる。
拠点ができた。
何より、自分にもできることがある。
それが、たまらなく嬉しい。
(大丈夫。ジェダは倒せる。一人じゃどうにもならないけど、皆の力を合わせれば……!)
サイコロの6は続いている。
奇跡の光は、すぐそこに―
あっという間に本殿に辿り着いた梨花は、勢い勇んで戸を引いた。
血が凍るほどの殺気を纏った金髪碧眼の吸血鬼が、そこにいた。
「―なんだ。ちょうどいいところに餌があるじゃないか」
梨花の不運は6つ。
1つ。ヴィータの暴走によりインデックスとアラストールが早々に神社を離れてしまったこと。
2つ。ニケが学校に出かけており、まだ帰ってきていなかったこと。
3つ。一休憎しと、神社内の『仲間』より祭具殿を優先してしまったこと。
4つ。見知った建物を見つけて舞い上がってしまったこと。
5つ。神社には気絶した『仲間』がいるだけだから安全だと思っていたこと。
6つ。その『仲間』の機嫌が、最悪だったこと。
2つ振ったサイコロの目は両方とも1。
―ファンブル。致命的、失敗。
「……あ」
アラート。アラート。アラート。
ここは危険です目の前にいるのは化け物ですこのままだと貴女は死にます逃げてください逃げてください。
「おまえがどんな人間なのかは知らん。聞くつもりもない」
逃げてください逃げてください早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くはやザンネンテオクレデス。
「―ただ、私の目的のためだけにおまえを喰らおう」
その後のことは一瞬で。
恐怖に竦んだ人間の少女に避けきれるはずもなく。
がぶりと、白い首筋に吸血鬼の牙が突き立てられる。
数十秒後、全身の血を吸い取られ、干からびた死体が転がった。
93:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:11:26 DDyr2V1d
94:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:11:55 e9CYmXC2
95:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:12:25 DDyr2V1d
96:ファンブル ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:12:36 O26TZlve
【C-4/神社西の森/2日目/夜】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:はやての死により激昂、両腕に痺れが残っている、左足に火傷跡、左手爪全剥(痛みは減衰)
[装備]:祈りの指輪@DQ
[道具]:基本支給品 ぬのハンカチ×20(即席ロープ)
[服装]:普段着(ドクロのTシャツ、縞模様のニーソックス等)
[思考]:はやてを殺した糞野郎め、覚悟しやがれ!
第一行動方針:はやてを殺した犯人を見つけ出し、殺す。
第二行動方針:第一行動方針を達成するためにインデックスとともになのはを探し出し、はやてに関する情報を引き出す。
基本行動方針:もうどうでもいい。
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、それなりに疲労
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅤ、コキュートス@灼眼のシャナ、葉っぱの下着
[道具]:逆刃刀・真打@るろうに剣心、支給品一式(食料-1日分)
[思考]:待ってよヴィータ!
第一行動方針:ヴィータとともになのは、シャナ一行の捜索。見つけたら神社に戻ってニケ達と合流。
第二行動方針:第一行動方針が達成できなくても、捜索が困難なほど暗くなったら一旦神社に戻る。
第三行動方針:状況を打破するため情報を集める。
第四行動方針:普通の下着、てか服がほしいかも。
基本:誰にも死んで欲しくない。この空間から脱出する。
【C-4/古手神社・祭具殿前/2日目/夜】
【リンク(子供)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]:左太腿、右掌に裂傷(治療済み)
[装備]:勇者の拳@魔法陣グルグル
[道具]:共通支給品一式、あるるかん@からくりサーカス
[服装]:中世ファンタジーな布の服など。傷口に包帯。
[思考]:……イヤな、予感がする。
第一行動方針:梨花が鍵を持って帰ってくるのを待つorやっぱり心配だから後を追う。
第二行動方針:神社にて待機。集まってくる参加者との合流を目指す。
第三行動方針:もし桜を見つけたら保護する。
基本行動方針:ゲームを壊す
参戦時期:エンディング後
【C-4/古手神社本殿内/2日目/夜】
【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル@魔法先生ネギま! 】
[状態]:『悪』モード、静かな怒り(冷静さを失っている)、衰弱(中)、魔力(吸血により中回復)
[装備]:フェアリィリング@テイルズオブシンフォニア
[道具]:基本支給品、歩く教会の十字架@とある魔術の禁書目録、クロウカード 『希望』@CCさくら
なのはの荷物(基本支給品、時限爆弾@ぱにぽに、じゃんけん札@サザエさん)
[思考]:まだ足りんか……。
第一行動方針:ネギを殺した犯人とリリスを見つけ出し、殺す。特に前者は徹底的に。
第二行動方針:ジェダが島の地下に居る、という仮定に基づき、地下空間に通じる道を探す。
基本行動方針:ジェダを殺す。が、今は復讐最優先。自分勝手に動く。
※ジェダの甘言は無視しています。
※なのは、ニケ達が気絶していた自分を切り捨てたと思っています。そして、そのことを喜んでいます。
【古手梨花 死亡】
※梨花のランドセル(共通支給品×2(食料は1人分)、エスパー錠とその鍵@絶対可憐チルドレン、ふじおか@みなみけ(なんか汚れた)、
5MeO-DIPT(24mg)、(古手梨花の)平常時の服)は梨花の死体が所持しています。
※祭具殿内に何があるかは不明です。
97:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:14:27 MkXSLrkh
98:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:15:58 e9CYmXC2
99: ◆JZARTt62K2
07/11/24 20:16:12 O26TZlve
投下終了です。支援ありがとうございます。
ヴィータの腕を治した魔術についてですが、せっかく神社にいるし、前話で果物手に入れたし、ヘルメス文書を知ってるみたいだし……
ということで白魔術にしました。まずかったら原作でも描写のある共感魔術に書き換えます。
100:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:24:00 DDyr2V1d
さて、この島には3人の吸血鬼がいた。
一人は血吸う加減ができなくて身体を吹き飛ばす上に退場済み。
もう一人は小食。最後の一人はずっとお昼寝のターン。
だから吸血死が来るとは思わなかったんだよ。……ぎゃあああああああGJ!
エヴァ様いきなり面目躍如を(悪い方向で)しすぎだろっ!
一時的とはいえヴィータ抑えて一安心だったのに!
危険なタイプのマーダーキラーがまた一人生まれちまった!
101:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:24:43 MkXSLrkh
投下乙。
え……エヴァ様何やってるのぉぉぉぉッ!! 梨花哀れ。
一瞬にして復讐鬼2体誕生か。しかもそのターゲットを考えると……恐ろしいことになるなぁ。
本当にこのロワは対主催とかマーダーとかいった分類の意味が無さ過ぎるよ!
GJ。
102:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:25:22 94d1dOvO
投下乙
梨花……
リンクの疑心暗鬼と死亡フラグktkt
なんという爆弾だらけの話なんだ
最大勢力チームオワタ
話に引き込まれて面白かった
103:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:33:40 e9CYmXC2
うおおおおい!エヴァ様やりやがったぁ!!
梨花ちゃま、古手神社で死ぬなんて…運命からは逃れられなかったか……
インデックスは相変わらず苦労人だなぁ。
そしてヴィータ…それはなのはなんだ、なのはなんだよっ……!
その事実を知ってるのは本人とマジカルルビーだけか。
ちくしょう…面白くなってきやがったw
とりあえずGJ!!
104:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:39:55 /X+pTvJt
エヴァ様復活
105:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:45:09 NDAFu1Na
ちょ、エヴァ様ぁぁぁぁぁぁ!?あんた何やってんのぉぉぉぉぉ!?
ヴィータもエヴァもマーダー化はしてないけど、凄まじすぎるぜ……
106:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 20:52:40 htykiqtv
このロワはホントになかなか対主催集団が出来ないなw
今現在、二人以上で行動してる対主催なんてほとんど無いし
107:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 21:00:01 SiPHbPZC
ああああ、やっぱりエヴァ様暴走しちゃったよ。しかもかなりヤバイ方向へ。
荒れるのは半分予想していたが、まさか他キャラを吸血するとは……。
そうだよね、考えてみれば吸血鬼なんだものね。……でもビックリした。心臓に悪いです。
梨花ちゃんは本当にご愁傷様。折角、対主催集団に光が見えそうだったのにね…。
108:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 21:06:44 qxa7aDyI
嗚呼、投下乙……悲惨だ、南無い。
ファンブルというタイトルが実にらしいな。最悪の場面で出て事故って即死かあ……。
ただ気になるのが一点。
魔力が枯れてる時のエヴァって血を吸えたっけ。牙が無くなっちゃうし。
もちろんざっくり何かで切って飲めばちゃんと吸血になるとは思うけど。
109: ◆JZARTt62K2
07/11/24 21:16:08 O26TZlve
>>108
満月の夜以外は碌に吸血鬼としての魔力は使えないという設定ですね。
この島に来ている時点で「登校地獄」は(一時的にしろ)解けているものと判断しました。
夜なので満月にしても良かったのですが、あんまり決定事項を増やすのは良くないと思いまして。
110: ◆IEYD9V7.46
07/11/24 21:26:29 DDyr2V1d
23時から投下します。
のび太一人なのに20k近くになってしまった……。
なので、お時間のある方支援お願いします。
111:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 21:27:43 htykiqtv
任された
112:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 21:49:46 rqDap941
やっとの思いで六月を越えたのに、梨花ちゃまは結局、古手神社でお亡くなりになったか…。
リンクがどうなるか楽しみだ。
113:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 22:49:17 cQwk8NZX
>>55
GJです。ここで『カメレオン』か!?事態がどんどん混沌としてきましたね。
ようやく、考察が進んだにも関わらず、その直後この後どうなるか分からない
状況に戻ってしまう・・・。このバランスが絶妙です。
>>109
こちらもGJ!!
ヴィータの鬱っぷりが痛々しい。こうなると、リンクとエヴァの対決は避けられないな。
この結末を予測しなかったとはいわないけれど、まさか一気にミイラ化するとは思わなかったなぁ。
こちらも痛々しすぎる。
あ、TRPG知らない人のために8レス目にファンブルの説明を付け加えた方がいいと思います。
もう、知らない人はいないかもしれませんが。
ファンブルは、サイコロで行動の正否を判定するTRPGにおいて、最悪の出目。失敗するうえに
多くの場合悲惨な事態が発生する。
参加作品、ソードワールドでは、二つ振るサイコロが両方とも一になるとファンブルである。
上手く入れられなかったら入れなくてもいいかも。
114: ◆IEYD9V7.46
07/11/24 22:59:27 DDyr2V1d
投下します。
115:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 22:59:43 MkXSLrkh
116:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:00:24 e9CYmXC2
117:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:00:38 cQwk8NZX
支援
118:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:01:03 DDyr2V1d
ある日、一本の草は突然無造作に摘まれ、見知らぬ土地へと植えられた。
その土地は、今まで草が過ごしていた日当りのよい長閑な丘とは、
比較に値しないくらい凄惨で、酷薄な世界だった。
暖かな陽光など望むべくも無く、土壌から吸い上げられる水と養分は、
生を保つのがやっとという有様。
生きるには過酷であり、死ぬには不足している苦痛。
その加減は喝采を贈りたくなるほどに絶妙なもの。
どう考えたって、誰かが悪意を持って計算した末に産まれた世界だとしか思えなかった。
死にたくない。普通に立っているだけじゃ、すぐに死んでしまう。
恐怖と狂気に中てられてしまった草は、あっさりと自分が何者なのかを忘れた。
もともと大した名前なんてついてはいない。
鮮やかな花弁で目を惹けるわけでもなければ、芳烈な香りで癒しを与えられるわけでもない。
秀麗な草花たちの中に混ざれば、一本だけひどく浮いてしまう。
あるいはその華やかな列に埋もれて呆気なく消えてしまう。そんな、名無し草だったから。
自分の在り方を見失った草に残っていたのは、純粋な生存本能だけだった。
粗悪で僅少な水と栄養を少しでも求めて、ひたすら固い地面に根を下ろす。
下に掘ればきっと水が見つかる、広く掘ればきっと美味しいご飯にありつける。
その思いに囚われた草は、我武者羅に動きつづけた。
時には他の草花の邪魔までして、貪戻に光と水と栄養を求めつづけた。
そうして勝手気侭に私腹を肥やしてから、草は気づいた。
すぐ近くに、一輪の小さな花が咲いていることに。
鮮紅と呼ぶのが相応しい、小さく可憐でありながら強烈な印象を焼き付ける花だった。
ただし、それはあくまで第一印象に過ぎない。
よくよく観察してみると、赤い花びらには今にも裂けるのではないかというくらいに
不自然な皺が寄り、左右に広げられた葉からも瑞々しさが失われ、力なくしおれている。
―ねえ、君。どうしたの?
そう話し掛けようとした草は、ギリギリのところで踏みとどまった。
尋ねるまでもなく、理由が分かった。
奔放に伸ばした自分の根が、花の周辺にまで達してしまい、
花に行くはずだった水と養分を奪っていたのだ。
その事実を認識している間にも、まるでビデオが早回しにされているように、
みるみるうちに花が枯れていく。
カサカサになった花弁が一枚、また一枚と落ちる。
その身を優しく撫でるはずの微風は、茎を折ろうとする悪質な暴風のようにまで見えた。
しなびた葉が重力に屈して、とうとう地面にへたりこんでしまったとき。
―駄目だ! と、草は絶叫した。
「あ」とか「い」とか文章にならない震えた声を出したあとに、やっとのことでそう叫べた。
生きるために他者を騙し、傷つけようとまでした草は、
最後の一線を踏み越える前に本来の自分のあり方―優しい心を取り戻すことができた。
燭火のごとく弱い光。
けれども、確かに胸に灯った光はその身を奮い立たせ、
もう絶対、生きるために他のものを騙したり、傷つけたりはしないと心に決ることができた。
その心変わりが気に入らなかったのか。あるいは単なる気紛れなのか。
119:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:01:05 htykiqtv
120:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:01:41 DDyr2V1d
瞬きよりも短い時間。
そのあいだに、草はまたも場所を移動させられていた。
その事実に気付いた主因は、いきなり降り注いだ太陽の光。
さっきまでの自分が、追い求めてやまなかったものだ。
自分の根が掴んでいるのは相変わらずの貧土だが、
つい先ほどまでいた暗い日陰の世界からすれば、天国と言っても差し支えのない。
光に満ち溢れた、場所だった。
頭上に、一人の男がいなければの話だが。
紛れもない、男は草をこの地獄に連れてきた張本人だった。
草はガタガタとその身を揺らし、竦然とする。
その内心を知りながら、いや、知っているからこそ。
ニタリ、と愉快そうに男が笑う。
同時に、燦燦と降り注いでいた陽の光が唐突に陰った。
雲かな? 草は恐怖も忘れて呑気にそう思う。
しかし、そんなはずはなかった。
何か、黒くて大きなものが太陽と草の間に割って入っている。
アスファルトだった。
道路を四角く切り取って持ってきたような、石油の残りかす。
現実にもあるそれが、非現実的に宙に浮いていた。
身じろぎ一つもできないでいた草は、ゆっくりと落下し始めた塊を見て叫声をあげた。
いやだ、うそだ、ゆるして、ごめんなさい。
延々と続く叫びを封殺するように、冷たいアスファルトはその温度そのままに、冷酷に草を押しつぶした。
押しつぶして、当然その声は途絶えた。
暖かで眩しい天光は、もう草には届かない。
草に許されたのは、アスファルトの天上と一片の光も存在しない暗闇の世界だけだった。
* * *
121:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:02:18 DDyr2V1d
野比のび太の運は底なしに悪い。
ぼーっと外を歩いていれば、当たり前のように犬の尻尾を踏んで何百メートルも追いかけられる。
ジャイアンやスネオが空き地に作った落とし穴にも、吸い寄せられるように簡単に引っかかる。
不幸なことは、いつも向こうのほうから勝手にやってくる。
ゆえに幸運がやってくること、例えば宝くじの当たりを期待するなんて以っての外だった。
仮に当たったとしても、それは大体ドラえもんの道具頼りの話なのである。
買う度に増えるのは溜息の回数と役目を果たした紙屑ばかり。
そうして、いつしかくじを買うこと自体殆どなくなっていった。
どうせ買っても当たりはしないのだから、最初からそんなものを買ってもしょうがない。
そう、諦めていたから。
だから、今回も外れてくれると信じていた。
『―穢れ無き魂を持つ幼子達よ。久しいな』
放送が始まって、のび太は慌てながらも地図と名簿を取り出した。
テストができないのび太にだって、この放送の意味と、
やらなければならないことくらい分かっている。
『まず禁止区域の発表を行う』
地面に広げた地図に、ガリガリと鉛筆を突き立てる。
禁止エリアの情報が淡々と告げられていく。
『23時よりA-1』
ビクリ、と背筋が強制的に伸ばされ、思わず西のほうを振り向く。
(こ、ここの隣りくらいじゃないか!?)
しかし、落ち着いて考えてみたらまだ時間があることに気付き、ホッと胸を撫で下ろす。
『次はこの放送までに命を落としてしまった者達の名前を発表する。01番明石薫……』
(……やっぱり、本当に殺し合いが起こっているんだ。
あの子豚の他にも、死んじゃった人はたくさんいたんだ)
知らない名前が読み上げられ、のび太は名簿上に黙々とバツ印を付けて行く。
胸が痛かった。名前にバツを付けると、まるで自分が今まさにその人を殺しているような
錯覚が湧き起こってしまい、どうしようもなく怖かった。
そして―
『07番磯野カツオ』
息が詰まった。
遂に、知っている人の名前が呼ばれてしまった。
一緒に過ごした時間は短かったし、交わした言葉だって少ない。
けれど、この島に来た直後、弥彦と一緒に自分といてくれたというだけで充分だった。
それだけで、のび太は安心することができたのだから。
のび太にとって、これが一つ目の不幸。
122:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:02:39 cQwk8NZX
123:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:02:50 e9CYmXC2
124:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:02:59 DDyr2V1d
『18番城戸丈。24番小岩井よつば』
対するこちらは、一つ目にして最後の幸運。
もちろん、人の死を告げる放送に良いことなんてあるはずがないし、あってはならない。
けれど、不謹慎だと思いつつものび太は喜ばずにはいられなかった。
(お兄さんは、生きている!)
そう。あのとき自分とひまわりを逃がすために、
一人勇敢にリリスに立ち向かったグリーンの名前が、呼ばれなかった。
諦め半分で名簿上のグリーンの名前を注視していたのび太は、
放送がグリーンの名前を飛び越して、その先の名前を読み上げたことに気がついた。
(すごい! お兄さんはちゃんと逃げられたんだ!)
瞳に光が宿り、小刻みに震えていた身体に一本の芯がしっかりと通る。
希望が繋がった。この殺し合いの暴力にグリーンは負けなかったのだから。
冷静に首輪と脱出のことまで考えていた頼れる少年が、生き残ってくれた。
別れ際に見たグリーンの力強い姿と言葉を思い返したのび太は、
まるで漫画の中の正義の味方が、そのまま飛び出してきたみたいだと歓喜した。
希望が胸一杯に風船のように膨らんた瞬間。
『25番剛田武』
ぷつり、と。
希望の袋に、針を刺された。
「……………………え?」
声ともつかない間抜けな音を出すのが、精一杯だった。
止まらない。心に空いた穴から、たった今生まれた希望が漏れ出す。
流れ出た希望が、絶望に食われてどんどん死んでいく。
今わかった。さっき口をついて出たのは自分の声なんかじゃない。
穿たれた穴から飛び出した希望が最期にあげた、薄弱な断末魔だったのだ。
同時に、のび太の身体からも力が失われ、鉛筆が地に落ち、カラカラと音を立てた。
『26番ゴン』
放送が続く。だけど、のび太の耳にそんなものは入らない。
絶望がケタケタと笑いながら耳と心に蓋をする。
『……では、次の放送は午前六時の予定だ。その時にまた会う事にしよう。
これにて放送を終了する』
125:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:03:36 DDyr2V1d
結局、のび太は放送が終わるまでずっと動かなかったし、何も喋らなかった。
ただただ膝をついて、焦点の合わない瞳を、
橙と紺色によるグラデーションに彩られた夜空に向けるだけ。
放送の残響が完全に掻き消え、耳が痛くなるほどの静謐さが訪れる。
時間が止まった世界。
その中でふいに、強い風が吹いた。
冷々とした夜風が目にしみたのだろうか。
のび太の両目から静かに涙が溢れ出し、
「ウソだ……」
流れ始めた涙が、感情の堰を切った。
「ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだあーーーーっ!!」
人目を全く気にすることなく、のび太は空に向かって吼えた。
その行動がどれだけ目立ち、どれだけ危険なのかを理解できていない。
理解できないほどに、のび太は暴走した。
そして、
「信じないぞ! 僕はおまえの言うことなんか信じないからなっ!」
正常な思考能力を奪われたのび太は、愚考に走った。
友達の死を信じたくない、おまえの言ってることは間違いだ。
聞こえ方だけなら、運命に抗い、決意を促す美しい言葉。
だが、否定する根拠も力も伴っていないそれは、
聞き分けのない子供が駄々をこねているのと何ら変わらない。
むしろ、この殺し合いを管理しているジェダのもたらす情報を、
頭から否定することは、そのまま死に直結するかもしれない悪手だ。
「ジャイアンが死んだりするもんか! そんなわけないだろぉ!」
それでも、のび太は認めようとはしない。
ジェダの言うことを論破する材料は何もないのに、ただ泣き叫ぶ。
惨めで、情けない慟哭が辺りに響き続ける。
負け犬の遠吠えとはよく言ったものだ。
やはり、のび太はダメな子供だった。
幾度も世界を救ってきたはずなのに、ドラえもんがいなければ何も出来ないのだ。
その事実が、ここで無様に露呈する。
のび太の精神がガラガラと音を立てて崩れていく。
「っ……死ぬもんか…………死ぬわけないよぉ……ジャイアァン……」
しゃくりあげていた声がどんどん小さくなる。
もう、声を張り上げる力さえ残っていなかった。
薄志弱行。最初から無理だったのだ。
何もできないのび太が、このバトルロワイアルに抗うことなど。
戦う力がない。貫き通す意志もない。
のび太は、全てにおいて無力だったのだから。
126:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:04:24 DDyr2V1d
――否。
違う。無力などではない。
まだ、のび太には信じるものがある。
放てる言葉と守りたい想いが残されている。
だから、突き立てることができる。
夜天に響いた悪魔の声、その向こうに対して。
心の友が生きているという、確かな証を。
「だって、僕は見たんだ……」
喉から搾り出す。
「21世紀の未来で、僕はしずかちゃんと結婚していて……」
俯いた顔をゆっくりと上げる。
「スネ夫は貿易会社の社長になって忙しそうに働いていて……」
涙と鼻水でグシャグシャになった顔を、空に向ける。
「ジャイアンは大きなスーパーを経営していて―」
深呼吸。そして、
「―みんな、幸せに暮らしていたんだっ!!!」
天に届かんばかりの怒号を打ち上げた。
その叫びは転機だ。
人が産まれたときにあげる声。産声という名の転機。
「ジェダぁ!! もう一度言うぞお!! 僕はおまえの言うことなんか信じない!!」
言葉が止まらない。
体内から湧き出る叫びは、封じてしまえば身を砕く。
だから、吐き出さずにはいられない。
たとえ、それが愚かな行為であったとしてもだ。
「僕が信じるのはドラえもんが見せてくれた未来だけだ!!
みんな揃って大人になって! 時間が経っても仲が良くて!
たまには一緒にお酒を飲みあって、楽しそうに昔話をしていた―
―そんな未来だけだあっ!!! それ以外認めるもんかあぁっ!!!」
荒い息遣いが、咆哮に取り残される。
叫び終えたのび太は、何キロも走ったあとのように肩で息をした。
のび太が信じたもの。
それはどこの誰とも分からない冥王の、冷徹な宣告などではない。
いつも自分のことを思ってくれた、掛替えのない親友が見せてくれた暖かい未来だ。
あの風景があるのを知っているから、のび太は希望を失わずに済んでいる。
あの未来に辿りつきたいから、のび太は足掻くことができる。
127:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:04:47 e9CYmXC2
128:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:05:10 cQwk8NZX
129:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:05:15 DDyr2V1d
―けれど。
(……本当は、僕だってわかってるよ……。ジャイアンは、きっともう……)
戻ってこない。
ドラえもんの道具を使っても、死んだ人間を生き返らせることはできない。
仮にできたとしても倫理や法律、色んな事情が許さないだろう。
でも、もしかしたら。
どこかに希望の抜け道があって、ジャイアンを生き返らせられるんじゃないか?
ジェダは極悪な時間犯罪者なのだから、タイムパトロールが何とかしてくれれば、
またジャイアンに逢うことができる、そんな特例が許されるんじゃないか?
そう願わずにはいられなかった。
願い。
―私は最後まで残った子を救世主として迎え『何でも好きな願いを……
願いといえばこれだ。
ジェダの言うことを信じるなら、やはりこれが一番確実だと思えてしまう。
だけど、
(黙ってよ)
のび太は一瞬で自分の弱い心と、空隙に滑り込むジェダの甘言をまとめて葬り去る。
この島のルールに則って、人を殺してジャイアンを生き返らせるなんて発想は、
既にのび太の中には存在していない。
確かに、のび太は殺し合いの圧力に潰されて、堕ちるところまで堕ちた。
女の子も赤ん坊も、更には子豚までも、本気で手にかけようとした。
あのときのままだったなら。負の方向に歩み続けたままだったなら。
ジャイアンの死によって、のび太は二度と引き返せない畜生道へ進むしかなかっただろう。
だが、のび太は気付けたのだ。
人を殺すことは間違っているということに。
自分が陥れた少女、シャナが死んでしまう直前になって、
のび太は自分の本質、世界だって救ってこれた優しい心を取り戻すことができた。
だから、のび太は揺らがない。
幾多の冒険がのび太に残していった勇気の種が、今ここで芽を吹き、成長を始める。
しかし、その決意は身を裂くほどに悲壮なものだ。
のび太が人を殺さないと心に決めれば決めるほど、
ジェダにジャイアンを蘇生させてもらうことから遠ざかるのだから。
それでも、のび太は人を殺さない。
ジャイアンのことを、大切に思っていないわけじゃない。
人を殺すのが怖いわけでもない。いや、怖いけれど我慢できないわけじゃない。
どんなに勇気を振り絞っても、やっぱり自分の命は大事だ。
襲われたときに、正当防衛で殺してしまうことだってあるかもしれない。
だから、そのくらいの覚悟はできている。
でも、私利私欲を満たすためだけに、人を殺すわけにはいかない。
なぜなら、そうしてしまったら最後―
(……きっと、僕は僕じゃなくなっちゃうんだよ。
人を殺して帰れたとしても、知らんぷりすれば誰にも分からないかもしれない。
ドラえもんやみんなに話しても、仕方ないよって赦してもらえるのかもしれない。
でも、ダメなんだ。そんなの僕には耐えられない。
人殺しになっちゃったら、そこからどんなに頑張っても。
たとえジャイアンが生き返ったとしても。
……僕は、あの未来に行けなくなる。
みんなと一緒に、笑っていることができなくなる。
……そんなの、イヤなんだ……)
130:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:06:06 DDyr2V1d
のび太が人を殺さないのは、自分のため。
自分の心を、守るため。
残酷な言い方をすれば、自分の心と友達の命を秤にかけて、
自分の心のほうに重きを置いたのだ。
ジャイアンにはもう逢えないかもしれないのに。
生き返らせるチャンスは、これっきりかもしれないのに。
のび太はそれを、ふいにしようとしている。
ここにはない不確かな要素が、ジャイアンを助けてくれると祈って。
みんな一緒に、21世紀の未来に辿り付けると願って。
ありもしない奇跡を、それでも信じる。
だから、謝った。
自分の手で助けてあげれらないことを、とにかく謝った。
「ごめんよぉ、ジャイアン……。
僕は、……弱虫だから、ッ、……こう、思ってないと……」
両手を地面につく。
最後の叫声。
「もう一歩も! ――歩けないんだよぉーーーーーーっ!!!
ごめん! ごめんよジャイアーーーーーーン!!!」
出来損ないの土下座みたいな体勢で、のび太はわんわんと泣いた。
泣いているあいだにも、夕日が力尽きていき、辺りが闇に包まれていく。
しかし、そんなことはどうだっていい。
たとえ世界が闇に満ちたとしても、光は自分の中にちゃんとある。
だから、今はただ。
泣くための時間と場所さえあれば、それでいい。
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131:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:06:51 MkXSLrkh
132:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/24 23:06:53 e9CYmXC2
133:いつか見た、懐かしい未来 ◆IEYD9V7.46
07/11/24 23:06:58 DDyr2V1d
日が完全に落ちきったころ。
島全体に、夜の帳が完全に掛けられたころ。
暗く、荒涼とした地面に、人影がぽつりと直立している。
地面から立ち上がったのび太は、唯一の光源、
太陽に代わって空に浮かんだ、月を眺めていた。
優しく、ぼんやりと光る月だ。
月明かりに照らされたのび太の顔と身体は、ぐちゃぐちゃになっている。
涙、汗、鼻水、唾、血。
パッと思いつく人間の体液、その殆どが一同に会していた。
挙句の果てに、乾いたとはいえズボンには失禁の染みまで残っている。
しかし、それが何だというのか。
月を見やるのび太の瞳は、どこまでも澄み切っている。
覗き込めば、磨礪を重ねた鏡のように像を返せる双眸だ。
眉は逆八の字のように強く吊り上り、引き結んだ口は真一文字。
背筋には決して折れない鉄心が真っ直ぐと。
心臓は力強く拍動し、熱い血液が全身を駆け巡る。
握り締めた拳。地を踏みしめる足。
大丈夫。
身体中にこびりついた、泥と汚水は何の障害にもならない。
「……行こう!」
決意を言葉にして、自分の中に刻み込む。
寸退尺進の意気込みを胸に、一歩一歩、歩みを進め始める。
のび太は生まれ変わった。
でも、それで変えられたものなんて多くはない。
急に力が強くなったわけでも、頭が良くなったわけでも、足が速くなったわけでもない。
今だって、ドラえもんや他の人が助けに来てくれることを願っている。
けれど、その想いは今までとは少し違うもの。
(まずは、自分の足で真っ直ぐと歩こう)
今までは、ドラえもんが来てくれること、誰かがなんとかしてくれることに縋っていた。
自分では何もしようとしないで、ただ他の誰かに寄りかかっていただけだった。
もう、そんなことはしない。
他の人を信頼はする、けれど任せっぱなしにはしない。
心境の変化と共に、心の底に沈んでいた言葉が再浮上する。
―お前の用事だろう、お前が片付けるんだ。
今なら、グリーンの言葉にしっかりとした意思を返すことだってできる。
(分かったよ、お兄さん。やってみる)
僕はダメ人間だ。
そんなことは分かっている。
生きていても、何の役にも立たないのかもしれない。
それでも、それを解かった上で前に進むんだ。
半人前以下、“0.5”の僕がやらなければいけないのは、“1”の人の足を引っ張る掛け算なんかじゃない。
“1”の人を助けて“1.5”にする足し算だ。
簡単な計算くらい、僕にだってできる。
この島にいるみんなと力を合わせて、絶対に生きて帰るんだ。
生きて帰って、もう一度確かめるんだ。
いつか見た未来が、消えたりなんかしないってことを。
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