07/09/05 21:07:40 O
15年前、実の父と大喧嘩した。当時俺は高校3年。
喧嘩の原因は俺の将来のことだ。
俺の親父は医師だった。
小さい頃は医師である父を尊敬していたし、医師になりたいとも思っていた。
だが年をとるにつれ、医師ではなく、画家になりたいとも思いだした。
そして転機は訪れた。
友達の紹介で東京で手広く絵を出している有名な画家と知り合えたのだ。
その画家は俺のことをすごく気に入ってくれた。
画家と医師。選択肢は2つあった。だがすごく迷った。
俺の気持ちは画家に傾いていたが、
父は反対するだろうと思い、理系の科目に力を注いだ。
だが画家もあきらめきれず文系の勉強もした。
一年間死に物狂いで両方勉強した。
そして俺は親には内緒で医大と東京の美大の両方を受験した。
医大はかなりてこずったが一応合格。美大は比較的楽に受かった。
しかし合格通知が届いたときに親に美大を受けていたことがばれた。
ばれた瞬間、父は複雑な表情をしたが、すぐに怒りだし、
「記念受験のつもりだったのか知らんがなんて無駄なことをしたんだ。
受かったからよかったものの医大に落ちてたら許さないところだ。」
とだけ言い、美大の合格通知をごみ箱に捨てた。
それがもとで俺と親父は大喧嘩した。母は横でおろおろしてた。
俺は父にとことん嫌気がさし、家を飛び出した。
ここでようやく決心した。俺は医師にはならないと。
正直迷っていたから踏ん切りがついてよかった。
しばらくしてから母が電話してきて、
「お父さんは私がなんとか説得するから美大にお入り。薄々感付いてたから…」
と言った。入学金や授業料は母がやりくりしてくれることになった。
853:2
07/09/05 21:09:40 O
そして俺は東京へ行き、画家のところでお世話になりながら美大に通った。
母からはときどき手紙がきた。
父のことについてはあまり書かれておらず、俺の身を案ずる内容と、
わずかばかりの現金が入っていた。
大学での勉強、絵の勉強、日々の生活の忙しさで、
俺はだんだん親のことを忘れていった。
そしてついに俺は知り合いの画家の助けもあり、絵の会で見事に金賞を獲得した。
一躍俺の名は売れ、よいやく絵で楽に食べていけるようになった。
結婚も東京ですませ、家庭も築いた。
そして家を飛び出してから早15年。久々に母から手紙が届いた。
住所を知るのにだいぶ苦労したそうだ。
手紙の内容は父の死だった。癌で入院していたが、
あちこち転移してしまって手の施しようがなかったそうだ。
手紙を見たとき、俺は不思議とショックを感じなかった。
家を飛び出したときのあの喧嘩のせいか。
とにかく一応実の父の通夜と葬儀に行くことにした。
実家に帰るのは東京にきてから初めてのことだった。
家に着いたとき、いたのは母だけだった。実に久しぶりに母を見た。
あまりの変わりようにお互い内心驚いたようだった。
さらに驚いたのは、俺の描いた絵が狭い家にたくさん飾られていたことだ。
売れなかった頃の絵から、最近の絵まで飾ってあった。
棺桶の父の表情は穏やかだった。俺の心にはわだかまりがまだあった。
それに気付いたのか、母は重い口を開き何やら話し始めた。
「おまえはあの時の喧嘩のことをまだ気にしているみたいだねぇ。」
俺は言葉に詰まった。
「無理もないかね。あんだけ喧嘩すれば…だけどね…お父さんは…
本当はおまえを美大に入れてやりたいと思ってたんだよ。」
俺は耳を疑った。父が…まさかそんな
854:3
07/09/05 21:15:33 O
「あのとき、美大の合格通知がきたときのことね。
お父さんは内心ショックだったんだよ。
親である自分に内緒で何も言わずに美大を受けていたなんて。
自分の後を追って医師になるもんだとしか思わなかったからね。
でも気持ちが美大に傾いてることは
合格通知を手にしたおまえの顔を見てすぐにわかったんだよ。
だからお父さんはおまえを笑顔で美大に行かせてやりたかったの。
でもそんなお父さんを見て、心の優しいおまえが美大じゃなくて医大に行って
お父さんの後を継ごうって考え直してしまうかもしれない。
お父さんはそうなるのを恐れてわざと本当の気持ちと逆のことをしたんだよ。
そうしたほうがおまえが美大に行きやすいだろうからって。
おまえが東京に行ったあともお父さんはおまえことを気にしてたねぇ。
おまえの絵が売れなかった頃も、お父さんはおまえの絵をたくさん買ってきては
親戚や近所の人たちに配ったりしてたわ。
口癖のように
『あいつは今年の盆は帰ってくるかもな』
って言ってたのよ。
お盆がくるといつ帰ってきてもいいようにっておまえの部屋を掃除してたわ。
そのたびに期待を裏切られて
『東京は遠いからな。あいつも忙しいししかたないな。』
ってつぶやいて笑ってたっけ。
癌だとわかったときもおまえにだけは言わないでくれって。
わざわざ俺のために忙しい中無理して帰ってきたら後が大変だろうからって。
死ぬ間際もおまえの絵を見ながら、
『あいつの夢が叶ってよかったなぁ』
って言いながら静かに眠りについたわ。お父さんはね。
一日たりともおまえのことを思わなかった日はなかったんだよ。」
855:ラスト
07/09/05 21:16:22 O
俺は何も言わずに静かに母の話に耳を傾けていた。
話が終わると母は父の顔に目をやった。
俺も父の顔に目を向けた。
息子のために自分の想いを抑え続けてきた父。
父は……優しすぎたのだ。
俺は涙がとまらなかった。
856:ほんわか名無しさん
07/09/05 21:18:11 0
『あいつは今年の盆は帰ってくるかもな』
『東京は遠いからな。あいつも忙しいししかたないな。』
お父さん・・・
857:ほんわか名無しさん
07/09/05 22:16:54 0
泣きそうになった
858:ほんわか名無しさん
07/09/05 22:54:31 O
(;д;)父ちゃん……
きっとなんだかんだ言って学費やら入学金やらも
父ちゃんが出してくれてたんだろうな
859:ほんわか名無しさん
07/09/06 03:05:37 0
チャン^4♪
860:ほんわか名無しさん
07/09/06 05:36:35 0
早く学校行きたいなあ
861:ほんわか名無しさん
07/09/06 19:06:17 0
行ってよしなのだ~
862:ほんわか名無しさん
07/09/07 05:08:16 O
右から左へ~招き猫~
863:ほんわか名無しさん
07/09/07 12:51:17 0
真田アサミが出てきましたが
864:ほんわか名無しさん
07/09/07 21:49:28 0
ネ申
865:ほんわか名無しさん
07/09/08 00:22:24 0
ついに新たなる敵が現れた!
866:ざりがに
07/09/08 03:07:34 0
えぇ~そうなんですかぁ~~??
867:ほんわか名無しさん
07/09/08 15:09:20 0
心温まらない
868:ほんわか名無しさん
07/09/08 21:08:46 O
ざり、がに(幸あれ風)
869:ほんわか名無しさん
07/09/08 21:13:49 0
おろんの抱擁でいっちまいな
870:ほんわか名無しさん
07/09/08 21:20:47 O
おろん
って誰?
抱擁?
871:砕星欠☆ ◆nqXEVXoBaY
07/09/08 21:24:59 0
853-855さんのお話に目がうるんだ・・・
お父さんの切ない気持ちを感じたよ
身を斬る様な寂しさだったんだろうなぁ
けれど後悔はしていなかったんだ、きっと
872:ほんわか名無しさん
07/09/08 23:42:54 0
そしてまた新たなる敵が…。