07/03/10 23:16:44 gQC9QpBq
「ちょいとそこ行くお姉さん、暇ならボクと遊ばない?」
「悪いけれど、用事があるんだ」
近づいて声をかける。見てみれば背も高いし、何だか男の人みたいだ。口調もはすっぱだし。
まあ可憐なお嬢様がこんな時間・こんな場所に一人で来る事があったら、そっちの方が奇妙だけど。
「ふーん、どんな用?
ボクの知る限り、こんな時間にここに来る人はお肉を埋めに来る人が多いね。
もちろんすぐ掘り出して美味しく頂いてるよ」
「ああ、私もそのクチだ」
その割には何かを持ってきた様子が無い。
「だったら埋める前に頂戴よ」
「それは無理だ。お前がその肉を食べる事はできない」
「ふーん。なんで?」
一応聞く。答えの見当はつくけど。
「その肉は…お前え自身だからだ。
この山に棲んでいるお前の事だ。ここが開発の対象になっている事は知っているだろう。
…いや、知らないはずはないな。その開発を邪魔しているのはお前だものな」
「そりゃそうだよ。誰だって自分の住んでる場所を荒らされたら守るさ」
「だからお前を退治するよう依頼を受けた」
やっぱり、あまり世に出ない職業の人だったか。退魔士か何か…。
でもだからって…
「証拠も無いのに決め付けるなんて酷いよ…」
「さっき自分がやったって言っただろ?」
「自白だけじゃ証拠にならないって刑事訴訟法319条2項にも規定されてるよ」
「お前は狐なので人権享有主体になってないから大丈夫だ」
「うーん…ボクは狐だから法律の事は分からないよ」
ちょっとピンボケ会話を楽しむ。でも、そろそろ始まる頃合かな?
「それじゃ、そろそろ埋まってもらうとしようか」
女の人の目つきが変わる。
「ボクを埋めちゃったら退治したって証拠がなくなるんじゃない?」
上目遣いに、でもしっかりと相手の目を見据える。
「そうか、それなら持ち帰るとしよう」
懐から猟銃を取り出す。狐狩り…ってところだろう。
「ふふふ…神隠しに遭って帰れなくならなければね……」
護符を取り出し、霊力を込める。
――ボクは人間が好きだ。
人間ほど愛嬌があって、賢くて、愚かで、暖かくて、残酷で…愉快で、熱くなれる存在を他に知らない……。