ロリショタバトルロワイアル8at SUBCAL
ロリショタバトルロワイアル8 - 暇つぶし2ch316: ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:15:05 TXL/3I8f
投下宣言。
これより投下開始します。
wiki収録を考え前後に切りましたが、状態表は後編のみ付属します。
……というか予定以上に長くなっちゃったから、
これでもテキストモードでページ作らないと入らないかな。

317:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(1/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:16:34 TXL/3I8f
灰原哀は……いつの間にか、目覚めていた。
薬の不眠症の効果も有り、失神から睡眠へと移行しない意識の喪失は短い物だった。
梨花と一休のやり取りも全て聞こえていた。
まだ聴覚その他諸々は鋭敏なままだった。
耳障りな雑音や声が耳に響きわたっていたが、その全ては無視する。
そんなのはどうでも良い事なのだ。
………………。
少女の目の前には一つの支給品が転がっていた。
古手梨花のランドセルから転げ出たそれは、ある種の『武器』―
(……いいえ。普通は武器と考えないわね、これは)
説明書きも一緒に転がっている。
その内容からして、これを武器と考えるのは極めて難しいだろう。
説明書きからしてふざけているし、使える状況は極々限定される。
―ように見えた。
(でも……そうじゃない……?)
ある思考に陥っていた灰原はそれ故にその使い道に気づく。
手には手錠を掛けられていたが、体の前で掛けられたこの程度なら支給品は使える。
顔を上げると、目に映るのはとんでもない格好をした小坊主と、モップを突きつける少女。
先程、その見た目からは想像できないテクニックで彼女を気絶させた少女。
少女は灰原に無防備な背中を向けて小坊主と対峙していた。
…………その事が少し、腹立たしかった。

     * * *

「……警戒を解いてはもらえませんか?」
「へんた……そんな変な格好の人はすぐには信用できないのですよ」
「おや、これは困りました。この頭の物ならかぶるのはやめますが」
「被るのをやめたらどうするのですか?」
「履きます。それが正しいのでしょう」
「………………」
(……何か変な事を言ったのでしょうか)
降参のポーズを取る一休に、少女は以前警戒を解かないでいた。
こんな小坊主が手を上げて降参の意志を示しているのだ。
少なくとも無力と考えてくれても良いはずだが、一向にその気配は無い。
(確かにわたしにだって奥の手は有りますけどね)
「さもないと石」なる怪力乱神を呼び寄せる宝石。
これを使えば人間一人程度は殺めてしまえるのだろう。
(いやはやおそろしい物です)
出来る限り使いたくはない物だ。誤解による諍いならば尚更だろう。
他は体の力が抜けてしまう粉末状の毒に、気付け薬。
焚く事で嘔吐感と気怠さを感じさせたり、激しい幻覚を見せたりする焚薬などだ。
(脱力させる『“わぶあぶ”の粉末』とやらは効果的なのでしょうが、
 取りだして撒く前に叩かれてしまいますし、不意を打たなければ吸い込んでもらえるか判りません。
 これはなかなか困りましたね)
やはりどうにかして信用を得るのが一番だろう。
(それにしても変な格好という事はこの頭に被っている物のせいでしょうか?
 確かに下履きを頭に被るというのは妙な図ですからね。
 でもそれを直すと言ったのにあまり評価が芳しくありません。
 そこまで最初の見た目で判断されてしまうとは困ったものです)
一休はどうすれば良いか考える事にした。
こういう時は少し考えれば良いとんちが閃くものだ。
しかし自慢の頭までいつもより冴えが悪く、良いとんちが出てこない。
集中できないのだ。
……理由は判っている。
(この『音』が無ければ……諸行無常とはいいますが…………)
内心の歯痒さを押し殺し、一休は梨花と対峙する。

     * * *


318:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(2/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:17:12 TXL/3I8f
一方の少女、梨花から見た一休の危険性を再確認しよう。
まず、どうやら着物を着たお坊さんらしい。頭も剃っているから本職だろう。
お坊さんらしい生活によってか同年代の子供よりは鍛えられているのが見てとれる。

一休自身はブルーに手痛い目に合わされたり理科室に怯えたりで強みとは考えていないが、
同年代の少女の肉体から見ると押さえ込まれれば危ない相手には変わらない。
梨花は自分自身の脆弱さをよく知っているのだから。
しかし梨花が危惧していたほどに脅威が無いのもまた事実だった。
(幸い大した相手じゃないわね。捕まりさえしなければなんとでもなる。
 変な道具を持っていなければだけど)
梨花とて異常にスペックの高い部活メンバーの中で鍛えられた身だ。
自分の未熟な肉体でどう戦えば勝利を掴めるかはよく知っている。
要は正面から戦わなければ良い。
相手の油断を誘い、隙を作り、不意を打ち、手段を選ばずに戦えば良い。
―それとは別に正面から戦わなければならない時も知っていたが、今は置いておく。

そういう意味で言えば不意打ちでモップを突きつけた状態はもう勝ちに等しい。
相手が時間を止めて殴ってきたりする可能性はどうしようもないので除外。
(問題は……あのヤク女ね……)
今は背後で気絶しているが、あんな少女(?)を変態少年の前に残して逃げられる筈がない。
だが古手梨花の幼く弱い肉体ではあの少女を持ち運ぶのはあまりに困難だ
よって、連れて逃げようと思えば目の前の変態少年を邪魔出来ないよう叩きのめす必要がある。
正直これが一番手っ取り早く、確実だ。
モップを突きつけている現状ならさして難しくないだろう。
問題は目の前の変態少年がどこまで危険か判断しづらい事にある。
もし悪人でも危険人物でもないのなら、話し合いの余地がある。
話し合いで解決するならそれに越した事は無い。
古手梨花は改めて目の前の少年の姿をじっと観察した。

「………………みぃ、やっぱりどこからどう見ても変な人なのです」
「し、失敬な!」
頭に被った赤ブルマがやはり最大のチャームポイント。
着物の隙間から見えるのは体操服だ。多分ブルマとセットの女生徒用。
更に懐から覗く先程の打撃を受け止めた本は保健の教科書。
真面目な意味ではあるが言ってみれば『からだのお勉強』の本である。
更に梨花は目敏く気づいてしまったが、手に握られたリコーダーは……。
「その笛は……『吹いた』のですか?」
動詞を強調して確認する。
「え? …………い、いいえ、そんな事は全く」
一休はしらばっくれる事にした。
(吹いてはいけない物だったのでしょうか。これは参りました。
 うそだと気づかれなければ良いのですが。
 いや、この少女もやはり神仙の類で既にお見通しだという可能性も有りますね。
 もしそうだとすれば……どうしたものでしょう)
などといった動揺だ。
そして一休が内心警戒する一方で、梨花もまた警戒を強めていた。
しらばっくれたのを見破ってしまったのが警戒する理由の一つ。もう一つは……。
(『吹いた』にも動揺したようね。でもちょっと『吹いた』だけでそんな濡れ方するわけが無い)
梨花が偶然にも気づいたのは、リコーダーの吹く所がよくよく見ると妙に湿っている事だ。
実はこれは水道を弄った時にかかった水が僅かな湿り気を残していただけ、全くの偶然だ。
また、水が掛かったそれは吹いたという湿り方ではなかった。
そのために一休もそこから梨花が推理(誤解)した事までは気づかなかった。
(あの湿り方は『吹いた』んじゃない。あれは……)

恐らくは女生徒の物である体操服を着て、頭に赤ブルマを被り、懐に保健の教科書を入れた少年が、
吹く部分がちょっと吹いた程度ではなく湿ったリコーダー(体操服やブルマと同じ出所?)を持っている。
これらの情報からどういった答えを連想するか。
それは現時点まだ純真である一休には如何にとんちでもひねり出せない答えである。


319:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(3/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:17:54 TXL/3I8f
(そう考えると……所々に付着している『微かな白い汚れ』もまさか…………)
それは本当は白いチョークを回収した時に付いてしまった汚れだ。
手に付いた汚れは水道を弄った時に洗い落としたが、衣服に僅かな汚れが残ってしまった。
きっぱりそれだけだ。
それだけなのだが梨花がそんな事を知る由も無く、位置もこれまた絶妙な位置だったりする。
(…………考えすぎよ。
 大体、唾液の臭いもいわゆるアレの臭いも別に……
 くっ、さっきの女のあれでまだ臭って、これじゃ別の臭いが混ざっても判らないじゃない。
 疑心暗鬼に囚われるのは愚かだけれど、後ろの女の事も考えると慎重に動かなきゃ……。
 当たり前だけど思考が落ち着かない。胸騒ぎが止まらない。
 ……リンク。
 早く、この『音』を止めて。あなたが止めて……)
梨花は内心の焦燥を押し込めて考えていた。
どうすれば良いのかを。

     * * *

灰原は、梨花に対して少しだけ腹立たしく思った。
(どうして……殺してくれなかったの?)
汚れ乱れて、愚かに、そして惨めに殺されて死に果てる。
それが灰原の望みだった。
それなのに灰原は梨花に……いかされた。
生を選ばされた。
死に全てを委ねようとしていたのに、強引に生へと進み行かされた。
(…………馬鹿ね。本当に馬鹿)
今、灰原の手の中には一つの支給品が有る。
それは『武器』……いや、こう言い換えた方が良いだろう。
『凶器』と。
灰原は多少なりとも江戸川コナンの周囲で頻発する殺人事件を見てきた。
その経験から言えば、人を殺すには少しくらい無茶に見える物でも十分だ。
流石に複雑すぎて動かし方の見当すら付かない『あるるかん』は無理と判断したが―
実現できるかどうかは別の問題として、要は殺し方をこじつければ様々な物が凶器に変わる。
そんな目で見れば、梨花が使えないと考えたこの支給品でも実は人を殺せる。
―灰原自身の命を奪うことが、出来る。
(自分の手で私を殺していればご褒美の糧となったのにね)
いつの間にか『夢』である筈のこの世界を現実のように考えている事に苦笑する。
これが夢なら自らの死により全ては終わるはずなのに。
灰原はそっとその『凶器』を身につけて、自らの胸に押し当てた。
後は一言でいい。
たった一言の憤りをぶつけるだけで、この『凶器』は灰原の命を奪う。
灰原哀は灰原哀を殺せる。
罪を殺せる。
そう、今も死に瀕しているであろうこの『音』のように。
(せっかく助けてもらったのに悪いわね。でも私には……生きている権利すら、無い)
そして―

     * * *

時の将軍様をも唸らせた程のとんち。
あるいは数千の死を超えた元魔女の経験。
それはどちらも、とても優れたものだった。
その両方が戦いを望まないでいた。
争いを起こさないためにはどうすれば良いのか、その答えに気づき、あるいは知っていた。


320:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(4/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:18:36 TXL/3I8f
それでも、それを実行する事が出来るかはまた別の問題だった。
現実の障害はいつも多い。
例えば……『音』だ。
その音はずっと聞こえていた。
灰原は、それが悪夢を構成する欠片の一つに過ぎないと聞き流していた。
梨花は、リンクがそれを止めてくれると願っていた。
一休は、可哀想だが触らぬ神に祟り無しを通していた。

「みなざ『ピーーーーガガガッ』ば3人も、死なせでし『ガガガピーッ』を申し上げたく……」

ずっと聞こえていた。
その音は梨花や一休の耳に響きわたり思考を掻き乱していた。
目の前の人間に対する不安を増幅させていた。
その音は。

「うる『ガガッ、ピー』もう」
「ごめんなゴフッ!?」
「キミはもういらないから『ピー、ガガガ』」

どこまでも無邪気で残酷な声に壊された。
微かに、液体が勢いよく降り注ぐ音がして。
それから、湿った柔らかい物が覆い被さるくぐもった音がして。
それを最後に、響いていた音は途切れた。

「ひぃ…………っ」
一休はおそらくその形で放送が終わる事を予想していた。
それでも恐ろしかった。
今この瞬間に自分と同じ年頃であろう少年が殺されたのだ。
恐れずにいられるものか。
だから一休はこの張りつめた状況の中で思わず一歩、二歩と後ずさり―

「リンク―!」
梨花はその形で放送が終わった意味を理解していた。
これはリンクの戦いの始まりを示す音だ。
あの哀れな少年を使って罠を仕掛けた別の少年が、戦いを始めた合図。
おそらくはリンクが戦場に到着した合図。
その合図に思わず押し殺した声が漏れ、意識が逸れる。
その瞬間。
目の前の少年、一休が一歩二歩と後ずさった。
(まずい)
梨花は一休を不意打ちで追い込む事が出来ていた。
それはつまり一休がどんな武器を隠し持っていようと封じ込めていたという事で、
逆に言えば距離を取られ危険な武器、例えば銃器を取り出されれば梨花の勝機は消え失せる!
だから反射的に、踏み込んだ梨花は一撃を見舞っていた。
その打突は一休の胴を打ち、教科書に止められながらも痛みを届ける。
「ヒ、ヒィッ!!」
一休は怯えながらも必死に、同じくモップを振り回す。
梨花はそれを受け止めそして……辛うじて受け流す!
「お、重―!?」
「この、この!!」
焦った思考ながらも穏便な話し合いを断念した一休は更に連撃で押し込んでくる。
火事場の馬鹿力という言葉がある。
一休は喧嘩はからっきしだったが、それだけにこの状況では目の前の少女にすら死の脅威を感じていた。
だからこそ、その一撃は必死の重みを持つ事になる。
(この変態小坊主が!)
梨花はそれをとにかく必死に受け流しながら反撃に出た。

321:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(5/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:20:55 TXL/3I8f
攻撃を受け流すだけなら力は要らない。
力がちょっと強いだけで単純な打撃なんて体力が尽きるまで避ける自信が有った。
これに倍する力と速度で巧妙さと豪快さを併せ持つ大鉈の連撃でも時間を稼ぐ位は出来たのだから。
だが問題は……。
「えい!」
掛け声と共に振り下ろされたモップの柄は見事一休さんの頭を叩いた。
赤ブルマに覆われた頭を。
「やっ!」
突きは教科書に護られた胴に吸い込まれ。
「く……っ!」
足払いは仮にも山寺育ちの足を揺るがすには至らない。
攻撃される合間の反撃はどうしても軽くなる。
(あと5年分も尺が有れば……!)
元々、梨花の力は喧嘩をするには弱すぎる。
催涙スプレーのような腕力に関係無い武器でも無ければまるで相手を止められない。
このままでは必死に暴れる一休との根比べになる―いや。
僅かな隙に一休が懐に手を突っ込み、粉末を撒いた!
「しま……ケホッ! ケホコホッ」
梨花は完全に粉末に突っ込んでいた。
後ずさりながらも幾らかを吸い込んでしまうのは避けられない。
(まずい……)
一休は距離を取り、慎重に様子見の体勢を取る。
一休は激しく動揺する中で一抹の冷静さを取り戻していたのだ。
梨花も焦燥に駆られながらそうするしかない。
(まずい、まずい、まずい! 何かの毒!? それなら一体何を撒いて……!)
「“わぶあぶ”という虫を乾燥させた粉末だそうです」

梨花の手の力が、抜けた。

「あ……!」
「即効性で、粉を吸った者を脱力させてしまうそうです。説明書き通りですね」
カランと音を立てて、梨花の握っていたモップが床に転がる。
握力が低下して手から放してしまったのだ。
「そ、そんな……」
握力はまだ残っている。モップを拾い上げて戦う事は出来るだろう。
しかし屈み込んだ瞬間に叩かれれば、終わる。
拾い上げても握力の低下したこの腕では攻撃を受け流す事もできるかどうか。
「どうやら手詰まりですか。やっぱり落ち着かないといけませんね。
 あわてない、あわてない」
一休はふぅと息を吐いた。
どうやら事を納めされそうだという安堵の溜息だ。
(穏便とは言えなかったけれど、後は話し合いでなんとかなりますよね。
 本当にあぶないところでした)
一休にはこれ以上彼女達を害するつもりは毛頭無かった。
何故なら。
「あなた達は摩訶不思議な力を持っているわけではないようですね。
 いやはやわたしも喧嘩などからっきしですが、大変ですよね。
 か弱い女子ばかりで居るなんて。襲われでもしたら大変です」
一休は自慢のとんちで、この争いの理由は互いの不安によるものだと気づいていたからだ。
(必死になったとはいえわたしが勝ってしまうくらいですから、おそらくは弱いのでしょう。
 誰も彼もがとてつもなく強い人々ではないのでしょうね)
その結果、互いの不安から戦いになってしまった。
必要なのは力そのものではなく、安心感だ。
心強い、頼れるといった安心感があれば、こんな争いは起きなかっただろう。
(つまりわたしが敵ではないという事と、わたしを強く……は見せられなくとも心強く感じさせる言葉。
 男性的な力強さなどをアピールするべきでしょう。
 やれやれ、あまり慣れた言葉ではありませんね)
とにかく何と言うべきかは決まった。
だから一休は、真面目な話だからと安堵で緩んでいた顔を引き締めて。
……言った。

322:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(6/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:21:44 TXL/3I8f
「男手を貸しましょう」
「…………え?」

     * * *

そして……灰原が自殺しようとしたその時。
耳障りなほど響いていた少年の放送が終わった。
「リンク―!」
梨花が一瞬だけ視線を逸らし、どこか遠くに意識を向けた。
その時にようやく灰原はもう一人の少年がこの場に居ない事に気が付いた。
あの放送は……違う、あの声は灰原が彼女達に会う前に聞いた覚えがある。
あの放送は東の森にいた別の誰かの声だ。
(別れたの? …………でも、どうして)
答えは朧気ながら、出た。
リンクという少年は、おそらく放送を強要された少年を助けに向かったのだ。
梨花はこの場に残った。灰原と共に。
(……私のせい、ね)
灰原は手錠を填められ概ね無力化されながらも、生かされている。
おそらくは自分のせいで、彼女がここに残ったのだ。
無責任に放り出さない為に。
(私は生きる資格なんてないのに)
だからそれはとてもとても滑稽で。
……もしそれで梨花やリンクが傷付くなら、それは済まないと思った。
一休と梨花が棒術合戦に雪崩れ込んでしまったのを見ながら、思う。
(勝って。お願いだから)
だが願いは虚しく、一休の撒いた毒の粉により梨花は破れてしまう。
後ずさった梨花は偶然にも灰原の目の前に立っていた。
梨花は背後を見る余裕が無く、灰原が起きている事すら気づかない。
一休は梨花に隠れた灰原の様子に気づかない。
「どうやら手詰まりですか。やっぱり落ち着かないといけませんね。
 あわてない、あわてない」
勝利を確信したのだろう。
変態小坊主(灰原の認識)はふぅと息を吐いて、穏やかに言った。
「あなた達は摩訶不思議な力を持っているわけではないようですね。
 いやはやわたしも喧嘩などからっきしですが、大変ですよね。
 か弱い女子ばかりで居るなんて。襲われでもしたら大変です」
その穏やかな口調がかえって恐ろしかった。
(この坊主……一体何を考えているの?)
背筋が薄ら寒く冷えた。
そして一休は……顔に浮かべていた笑いを、消した。
その瞬間に灰原は確信した。

―この男は、危険だ。

確信の次の瞬間に一休は口を開く。
「オトコデオカシマショウ」
「…………え?」

理解できないという様子で聞き返す梨花に、一休は再びにこやかな笑顔を浮かべた。

「おや、聞き逃しましたか?
 オトコデオカシマスと言ったのです」

確信は必然たる誤解を呼び寄せる。
灰原は一瞬思った。自分が汚されるなら、それでも良いと。
無惨に汚され、殺されてしまえば良いと思った。
その為に理性を放棄して他の者を汚そうとまでした。
だけど、それでも自分を助けた目の前の少女が汚され殺されるのは…………イヤだと思った。

323:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(7/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:22:32 TXL/3I8f
だから。
灰原は梨花にそっとささやき、手の中のそれを差し出した。
「……これ、使えるでしょう?」

     * * *

「どうやら手詰まりですか。やっぱり落ち着かないといけませんね。
 あわてない、あわてない」
落ち着いて息を整える小坊主が憎たらしく、そして恐ろしかった。
梨花の命運はもはや目の前の変態坊主の手の内に有るのだから。
「あなた達は摩訶不思議な力を持っているわけではないようですね。
 いやはやわたしも喧嘩などからっきしですが、大変ですよね。
 か弱い女子ばかりで居るなんて。襲われでもしたら大変です」
(……結構な皮肉屋ね)
彼の言うとおり梨花はか弱い女子の灰原と居る所を彼に襲われ敗北した、つまり大変な目に遭った。
灰原は気絶している足手まといなのだから尚更だ。
正直なんで助けてしまったのだろうかという気もしないではない。
だが今更だ。
(それで何をする気? この変態坊主め)
そして一休は……顔に浮かべていた笑いを消して、言った。
「オトコデオカシマショウ」
「…………え?」
(今、こいつは何て言った……?)
戸惑う梨花に一休は再びにこやかな笑顔を浮かべ、繰り返した。
「おや、聞き逃しましたか?
 オトコデオカシマスと言ったのです」
オトコデオカシマス。
“男手を貸します”という本来の意味合いは、確信に裏打ちされた誤解に呑まれて消え失せた。
その誤解から代わりに浮かび出た意味合いは、一休には想像すらも出来ないだろう。
一休が坊主でありながら世俗の垢にまみれていくのはまだ先のこと。
目の前に居る少女達(倒れている灰原含む)が見た目にそぐわぬ齢を重ねている事を知る由はない。
彼女達が一休と出会う前にどのような事があったのかも知らない。
彼女達はこの島にはそういう者もいるのだと認識し、
一休もそれだと確信し、更に一休を戦いに突入してしまった敵だと判断していた。
その結果一休の言葉がどう取り違えられたかは、如何なとんちでも計れない事だったのだ。

―――『男(隠語)で*します』

(この小坊主、やっぱり正真正銘の変態じゃない!!)
梨花は確証を持って誤解し一休への抗戦続行を決意する。
だがどうすればいいのか。
梨花の力は萎え、モップを拾い上げる事が出来てもまともに抵抗は出来ないだろう。
加えて変態坊主が持つ毒もあれで終わりではないだろう。
更に一服撒かれてしまえば完全に抵抗できなくなる。
(どうすればいい? どうすれば……)
いっそ殺されないならそれで良いかも知れないと思い始めた時、囁き声が聞こえた。
「……これ、使えるでしょう?」
そっと後ろ手に握らされたそれは……

「…………礼を言うわ。あなたの名前は?」
「灰原哀よ。梨花さん」
「ありがとう、灰原哀。そう、私は梨花。古手梨花」
灰原哀に礼を言い、梨花はそれを腕に填めた。
それは綺麗なブレスレットの形をしていた。
一見すると武器には見えない腕輪。
例えその機能を知ったとしても武器とは考えにくい腕輪。
だがその機能を知れば万人が思い知る。
“この状況において、これは紛れもない武器なのだ”と。

324:でにをは、そして正しすぎる拳(前編)(8/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:23:17 TXL/3I8f
「まだ何か?」
「ええ、一言だけね」
梨花は、もうケリは突いたと思いこんでいる変態坊主に向かって走り。
ブレスレットを付けた拳を突きだして絶叫した。

「この、ド変態坊主ッ!!」

     * * *

その支給品の名前は『勇者の拳』という。
普段はお洒落なブレスレットの形をしているが、使用時は巨大な拳に変わる。
それは本来も武器と言うより、勇者である事の証を立てる為の物だ。
入手、そして使いこなすための条件は一つ。
世界に満ちるおかしい事に対して『それはおかしい』と誅す事。
その勇気によって勇者である事を証明する勇者の証なのである。
これらを意訳するとこうなる。

『勇者のツッコミ』

その意訳や使用例『ツッコミ所のある所で使いましょう』、
『正式名称“恥ずかしの拳”(勇者“ああああ”命名)』などという
頭が変になりそうな説明書きから梨花はこれを外れだと判断した。
実際、相手にツッコミを入れられなければ使えないのだからどうしようもない。
そんな敵に襲われる珍しい事態などそうそうあるわけがない。
命を取り合う危険な島でそんな事をしている奴など居るものか。
ここはとても恐ろしい島なのだから。

…………さて。
突然だがここで、一休さんの状態を整理してみよう。

・頭に被った赤ブルマ
・それから考えて女生徒の物と思しき体操服着用
・保健の教科書が懐から覗いている
・手にはリコーダー(女生徒の物と(略))を握り、吹くところは妙に濡れている
・所々絶妙なポイントに白い汚れ有り
・怪しい薬で少女を無力化
・オトコデオカシマス(男(***の隠語?)で*します)


………………………………………………………………南無阿弥陀仏。


梨花の手に填められたブレスレットが一瞬で変化。
1mはあろうかという巨大な石のゲンコツと化す。
梨花の手はそれに包まれるが、重みは無い。だが、その威力も腕力では引き出せない。
その威力は全てその時に発現した言葉の力が決定する。
今回は言うまでもなく、殆ど最高値。
―むしろ振り切れていた。
「なんでゴグゲピッ」
声は変な音に叩き潰され、一休は叩き跳ばされた。
背後にあるのは教室の扉。一休は扉に叩きつけられ……
ちゃちな金具は衝撃を止めきれず千切れ弾けて、扉も飛んだ!
そのまま吹き飛ぶ一休と教室の扉は廊下を横断!
廊下の窓に叩きつけられ、窓を破って落下する。
一休は教室の扉と割れた窓ガラスと共に、植え込みの木に向かって墜ちて―


騒音は、梨花達の居る教室にまで響き渡った。



325:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(1/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:24:08 TXL/3I8f
(…………死んだ、かな)
少なくとも普通の人間なら4階の教室から墜ちただけで死因としては十分だ。
その前の打撃に至っては……普通でない人間でも耐えきれない気がする。
(殺す事は無かったんだけど)
いくら変態の性犯罪者―彼女達のこの誤解は完全に定着していた―とはいえ、
殺し合いに乗っていたとは限らない。
それなら殺すほどの理由とは言い切れない。
……殺しても心がそれほど痛まない位の理由では有ったが。
(とにかく生死を確認して、それからここを離れなきゃまずいわね)
さっきの騒音は1階から4階まで聞こえたほどだ。
恐らくは無惨な情景を晒し人を怯ませているだろうが、逆に集まる者も居る。
リンクも心配するかも知れない。
だけどその前に……

「本当に助かったのですよ、灰原哀」
危機を脱する事が出来た功労者に改めて礼を言う。
あの時に灰原が勇者の拳を手渡してくれなければどうなっていた事か。
「あなたのおかげなのです」
「……そう。良かったわ」
哀は冷淡に答え、それに相反する熱っぽい笑みを浮かべた。
梨花は眉を顰める。
(まだ薬の効果は抜けてないようね。慎重に対応しないと)
とにかくこれを聞かなければならない。
成り行きで捕縛してしまった灰原哀を連れて歩くか決めるために。
「一つ、哀に訊きたいのです。良いですか?」
「……内容によるわ」
「哀は、これからどうするつもりなのですか?」
「………………」
灰原哀は対価として梨花に質問しようかと思った。
灰原にとっては梨花の方が謎の塊だ。
なぜ自分を生かしたのか。
目的が読めない。
なぜその幼い外見にそぐわないものを内に秘めているのか。
素性が判らない。

―だけどそんな事はどうでも良いとも思った。
(今更、興味や好奇心を持ってどうなるというの。
 “これからどうする?”、ね。正鵠を射た問い掛けだわ)
「それは私にとってとても重要な問いよ」
「……答えてもらえないのですか?」
「そのブレスレットを貸してくれれば答えるわ。気になる事が有るの」
灰原哀の指差したソレは言うまでもなく、“勇者の拳”だ。
巨大な拳の形は攻撃の後すぐに消え去り、元のブレスレット型に戻っている。
限定された相手に対しては武器として使える支給品。
(…………どうしたものかしらね)
確かに先程一休に使用した時の威力は驚異的な物だった。
あれだけツッコミ甲斐がある相手だったのだから当然だろう。
逆に言えばあんなぶっ飛んだ敵にしか使えないはずだ。
だけどもしも使えたら……
(私の腕力は低下している。
 哀はあのリングで何かをしようとしている。攻撃かもしれない。
 でも哀は這い蹲って体勢が悪く、手錠も掛かっている。
 ブレスレットを向けてツッコミを叫ぶまでには先手を打てる。
 それに……あまり長く問答していられる状況じゃない)
結論は出た。

326:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(2/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:24:41 TXL/3I8f
梨花は先程落としたモップを拾い上げて保険を張ってから、灰原に勇者の拳を差し出した。
「……どうぞなのです」
「ありがとう」
灰原哀はブレスレットを受け取り、それを腕に填めた。
梨花の警戒する中、灰原哀はその腕を誰にも向けず静かに語り始める。
「それじゃ話しましょうか。私のこれからと、それに連なる理由をね」
「手短にお願いしますのです」
「ええ、判ったわ。手短にしましょう」
哀はその場の緊張に似合わない陶然とした笑みを浮かべて、話し出した。

「ねえ、あなたはこの夢をどう思う?」
「……夢、ですか?」
「ええ、夢よ。……私にはそれ以外にこの世界を説明できる言葉を知らないわ。
 世の中には、にわかに信じられない事があるのは知っている。
 私や探偵君がこの身で体験した事だって常識の枠の外にある。
 それでもこれは夢よ。信じがたい夢……」
「………………」
確かにこの世界は余りに非現実的だ。
魔法。冥王。救世主。異世界。殺し合い。
どれをとっても常識人の理解を超えている。
(……ある意味、当然か。
 例えば悪の組織の陰謀といった理屈の上では現実に起こりうる話でさえ、普通の人なら信じない。
 神の実在は目の前に現れ、あるいは何かを為さねば信じられない。
 荒唐無稽な予言は当たった後で顧みられる)
信じないなら、どこかで辻褄を合わせなければならない。
狂った歯車で動き出した世界がおかしいのか。
それとも世界が狂って見える自分がおかしいのか。
灰原哀は後者、自らの視点に原因を求めたのだ。
世界は何事も無く回っていて、これは自分が見ている夢幻に過ぎないのだと。
(でも……それじゃおかしい)
梨花の疑問を気にもせず、灰原は話を続ける。
陶然とした笑みを浮かべたまま。
「私はこれを、罰だと思うの。私の罪に対する、罰」
「罪と、罰?」
「そう。私は罪人だもの。人殺しの薬を作ってしまった、罪人」
……涙を流して。
陶然とした笑みを崩さぬままに涙を流して。
言った。
「そんな私が……他を押し退けて生き残って良いはずがない」
「な……っ!!」
すっと。
灰原は勇者の拳を身につけた手を、抱え込むように自らに向ける。
そして、叫んだ。

「どうして私なんかが生きてるのよ!」

それは彼女の定義した“過ち”を誅す言葉。

     * * *


327:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(3/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:25:19 TXL/3I8f
「あいたたた……まったく、ひどい目に遭いました……」
そこは1階の廊下。
正確には窓から1階の廊下に入った所だ。
一休はそこに居た。
しっかりと、生きて。
「九死に一生を得るというのはこういう事を言うのでしょうね」
人間は簡単に壊れる一方で意外な頑丈さを見せる事も有る。
頭に被っていた赤ブルマや懐に入れていた教科書は、勇者の拳の衝撃を緩和してくれた。
それは僅かなものだが、それにより跳ね飛ばされた背後に扉が有った事も幸いした。
一休と共に弾け跳んだ扉はその後に窓を割った時もガラスから身を護り、
更に植え込みの樹に向かって墜ちた時、百舌のはやにえになる事を防ぎ、
それどころか衝撃を広く吸収し、樹をよくしなるクッションに変えてしまった。
結果、普通の人間なら5回位は死ねそうな経緯を生き延びるに至ったのだ。
『奇跡の生還!』などという特集が組めそうな悪運である。
ついでに赤ブルマや保健の教科書やリコーダーを失ったのも本人は知らないが幸運だ。
しかも墜ちた近くの窓から廊下に入ると、目の前に有ったのは保健室である。
どうやら簡単な治療を行う部屋らしいという事は調べがついている。
「いやはや、運が良いのか悪いのか」
意味不明な理由と手段で叩きのめされ死にかけたのはどう考えても不運だろうが、
それを抜けて無事だったのは運が良いと言って良いだろう。
苦笑いしながら一休は保健室の扉を開けた。
―中に居た二人の少年と対面した。

「お、おや。先客ですか」
流石に一休の顔が強張る。
奇跡的に生き残ったとはいえ軽傷とは到底言えない状態だ。
こんな状態で、しかも年下に見えるが“まともな武器を携帯している二人”に襲われたら絶体絶命だ。
しかし眼鏡(一休にはギヤマンと金具の奇妙な組み合わせとしか判らなかったが)の少年が言う。
「そういう事だな。まあ、オレ達は用が有るからすぐ出ていくけどな」
幸いにも、警戒している様子は有るものの戦うつもりは無いらしい。
不干渉。
彼らが今求めるのはそういう事のようだ。一休はホッと安堵の息を吐いた。
「待ってください。さっきの凄い音はあなたですよね。一体何が有ったんですか?」
「それは……」
もう一人の少年の問いに一休は少し考え、すぐに結論する。
ここは明かした方が良いだろう。ただし部分的に。
「先程、4階で襲われてしまいまして。いやはや危ないところでした」
「襲われた? どんな人ですか?」
「ネギ、気になるのは判るが今は急がないと……」
「黒い髪の女の子でしたね。
 ああ、それとそこのあなた位の……少し赤っぽい茶髪の子も居ましたっけ。
 手枷のような物を付けられていましたが」
「な……っ!」
二人の少年、ネギとコナンは息を呑んで目を合わせる。
「確かコナン君が捜してるのって……」
「ああ。……お坊さん、その子の名前とか判らないか?」
「名前……ですか?」
そういえば最後に襲ってくる直前、何か聞こえた気がする。
あの時はそれどころではなくなってしまったが、確かそう……
「古手梨花……それと…………灰原哀、でしたか」
「――!」

     * * *


328:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(4/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:26:13 TXL/3I8f
「…………チッ。また人が増えちまった」
「ケケケ、ゴ愁傷様ダナ」
メロとチャチャゼロ。
悪党と悪人形は少し離れた場所からそれを見ていた。
静かに密かに物陰に潜んでいる。
「しかし四階から叩き落とされて無事とはどういうガキだ。
 運が良いのか、それとも何か魔法の品でも持ってやがるのか」
「魔法ッテ感ジハシナカッタゼ? 多分ダケドナー」
「ラッキーボーイだろうと、何かを持っている可能性は有るな。
 四階の方は……動きが無いなら放っておくか。教室の扉ごと外まで吹き飛ばす火力だ。
 そんな怪物を相手に出来るかよ」
「ケケッ、慎重ダナ。ケドヨ」
チャチャゼロがケラケラと笑って囃し立てる。
「ソンナ調子ジャア、三人殺ルノニ日ガ暮レチマウゼ?
 にあッテ奴ニ負ケチマウンジャネーノ?」
確かにこれまでにメロが敬遠した獲物の数は十指に届こうかという程だ。
襲った数は二名、仕留められたのは一名だけ。
慎重で着実な成果と言えるが、十分な早さとは言い難い。
ニアより先にジェダをやりこめるメロの目的からすればもう少し殺害数を稼ぎたい。
「別に狙ってる奴が居ないわけじゃない。何処かで危ない橋も渡らないといけないからな」
「ホウ? デ、ドコヲ狙ウンダ?」
「保健室だ」
「オイオイ、ソコハヤベェンジャネーカ?」
そこは現時点の情報において最大戦力であるネギと、それ以外に二人もの人が居る。
同じ三人でも漁夫の利を狙える裏校庭の方が一見マシに思えるほど。だが。
「今すぐ襲うわけじゃない。
 ……正確には今保健室に居る連中の、ネギって小僧以外が狙いだ。
 どうやらネギと眼鏡のガキは他にも仲間が居るみたいだ。
 多分、裏校庭に駆け付けた二人のどっちかがそうなんだろう。
 そっちの方に行こうとしている様子が見てとれるからな」
「向コウカラ来ルカモシレネーゾ?」
「駆け付けるなら保健室から戦場に、だ。逆は無い。
 考えてもみろ、どうして奴らは仲間を一人戦場に行かせて保健室に居る?」
「アア、ナルホドナー」
それはつまり、ネギと同行している一人は単独行動に不安が残る戦力なのだ。
だから応急処置の為にネギという戦力が付いた。
無防備になってしまう応急処置の最中に襲われても対抗できるように。
「それでも剣は持っているし、支給品ならこの天罰の杖の様に特殊な力が有るかもしれない。
 だがそれでも“戦力的に不安がある”事は間違いない。
 小坊主の方に至っては武器は懐に有るか無いか、しかもあの怪我だ。
 あの二人なら不意を突けば十分狙える」
メロは合理的に狙いを定めていく。

「ナア、ミンナシテ裏ニ行ッタラドースンダ?」
「その時は……また次の獲物捜しだ」
「ナンダヨ、マタソレカヨー」

息を潜めて待っている。

     * * *


329:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(5/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:27:51 TXL/3I8f
カツ、という音がして。
次の瞬間、木の棒がへし折れる音がした。
「く……っ」
「え……?」
二種類の音が漏れる。
梨花の振り下ろしたモップは灰原の手錠の鎖を引っかけてその方向をねじ曲げた。
その腕に纏われた勇者の拳は梨花のモップを叩き折る。
灰原哀は、また生かされた。
古手梨花によって。
梨花は内心で冷や汗を流す。
「そういう使い方も出来るわけね……思ったよりも強力な代物じゃない」
勇者の拳の本質は『おかしい(と感じた)事におかしいと言う事』だ。
多少こじつけでも発動するし、おかしいと思う事は人それぞれだ。
例えばこの殺し合い自体を間違っているとするならば、殺し合いに乗った者達も否定できる。
今回の威力は先程よりは遥かに見劣りしたが、それでも当たる所に当たれば人が死ぬ。
(この使い方さえ判っていればリンクに渡しておいたけれど……そうすれば変態に負けていた。
 それにリンクならきっと大丈夫、だから今はそれよりも―!)
―それよりも今、彼女はなんて言った?

「『どうして私なんかが生きてるのよ』?
 ふざけないで。あなたを生かしてくれた人が居たからでしょう?」
「それは……」
何故判るのか。
灰原の顔に驚愕が浮かぶ。
「そんな言葉が出てくるなら居なかったわけがない!
 『私なんか』と言うのなら、あなたを護り助けた人が居たはずだ!
 それを全部放り出して死ぬつもり!? 願いも遺志も踏み躙って!」
「………………」
そう、確かに灰原は助けられて生きている。
『組織』から逃げた時、阿笠博士に助けられなければ死んでいた。
だから……もしも『組織』に正体がバレそうになれば自分の存在を消してでも巻き込みたくないと思っている。
江戸川コナンこと工藤新一にも助けられた。
だから……この島で彼が生き残る可能性を自らの一人分だけでも高めたいと思った。
そして……灰原哀の姉は…………。

「だから、そんな理由で死を選ぶなんて私は許さない。許すものか」
古手梨花が近寄り手を差し伸べ。

灰原哀は絶叫した。
「どうして私なんかを助けるのよ!」

―暴発した。
跳ね飛ばされた小さな体はくるくると宙を舞い、机の群に叩きつけられた。
飛び散った血が灰原の顔に……かかった。

「……あ…………」

     * * *

「ネギ、おまえは急いで小狼の方に向かえ」
その言葉にネギはギョッとなる。
「コナン君!? ダメだよ、一人でなんて!」
「バーロー、罠の方に一人で行ってる小狼の方がヤバイっての。
 無茶はしねーよ。様子を見て、必要だったら動くだけだ」
「必要だったらって……」
それでもネギには不安が残る。
小狼はどうやら東洋系の魔術師のようだった。
ネギ自身は言うまでもなく魔法使いだ。
しかしコナンはそういった特別戦い慣れた人間ではない。
単独行動で、それも危険人物の様子を窺うのは危険なのではないだろうか?

330:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(6/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:29:19 TXL/3I8f
コナンは笑って首を振った。
「心配いらねーよ。
 確かにオレはおまえみたいな魔法は使えないし、格闘技だって大した事無い。
 ただの人間だ。そう、オレは……」
江戸川コナンこと工藤新一はただの人間だ。
サッカーが得意なスポーツマンではあったが、格闘技も魔法も学んでいない。
その上にその体は子供と化していて、荒事には随分と頼りない。
もしも一休の言葉が本当なら殺し合いに乗った危険人物が相手になるのにだ。
(違うな。この坊主は全てを語っていないか、嘘を吐いている。あるいは誤認している)
少なくとも古手梨花という少女は全参加者を無差別に殺すつもりは無いだろう。
灰原哀に手錠を掛けて捕らえていたという事は、生かしているという事だ。
少なくともすぐに殺すつもりが無い事だけは明白だ。
目の前の坊主が何故四階から叩き落とされたのかは判らないが、そこには必ず理由が有る。
その理由を導き出せば自ずとどうすれば良いかも明白となる
コナンはそこまでの推論を短い時間で弾き出す。
コナンにはこの武器がある。名探偵工藤新一の頭脳がある。
体は子供、頭脳は大人。
それが彼の今の名。

「江戸川コナン。探偵さ」
コナンは不敵な笑みを浮かべて、宣言した。

「…………判った。それじゃコナン君も、気を付けて」
「おまえもな、ネギ!」
パンっと手を打ち合わせ、二人はそれぞれの目的を持って…………散った。

―悪党はそれを見ていた。

     * * *

「あ………………………あはっ…………」

灰原哀は………………笑っていた。
「は……はは…………くすっ、ふふふ………………ふふ…………」
甘美で破滅的な熱情に身を焦がされて……笑っていた。
古手梨花に一時的に吹き飛ばされ、殺意への緊張が凍らしていた炎が、溶けていく。
薬のもたらす発情に呑まれていく。
フォクシーの効果は3~6時間。まだ効果は持続している。
手錠が填ったままの不自由な手で体を抱き締める。
鎖が食い込む。
身も心も縛られる
とてつもなく濃密で甘ったるい……絶望へと溶けていく。
「本当に……なんて罪深いのかしらね…………」
その罪悪感すらも苦痛に変わり、更に快感へと変わり果てる。
罪に快感を感じている事さえも新たな罪悪感の火種に変わる。
終わらない悪循環。
罪と罰の両方が心を溶かして犯していく。
灰原は吹き飛ばされた梨花を見た。
机の群に叩き込まれた梨花はピクリとも動かない。
小さな体が動く事はなく、その体の方々には無数の傷がついている。
そう、あれは……

「私が……………………………………………………殺した…………」


331:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(7/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:32:46 LcFiHyst
その言葉を口にした瞬間、全身に電流が走った。
体がおこりのように震えて視界が真っ白に明滅する。
「…………あ………………は………………」
その心地よさに笑えてしまう。
涙がぽろぽろと止まらない。
掠れた笑い声が止まらない。
「……は…………は……は…………は………………」
思考は千々に乱れて纏まらなかった。
それでもやらなければならない事だけは判っていた。
「私は……夢の中でまで…………罪深いのね…………」
これは夢だと、自らにそう言い聞かせながら。
ゆっくりと、ブレスレットに戻っている勇者の拳を向けた。
自分自身へと。
「本当に……なんておろか…………」
そして叱責の言葉を紡いで。
それを舌に。





―乗せようとした。
「そう、あなたは本当に馬鹿ね、哀」
「……………………え?」

幻聴だと思った。
だってそんな事が有る筈がない。
そんなに都合の良い事が有る筈がない。
「何を驚いているの? この世界があなたの夢だというなら都合の良い事が起きるのは当然でしょう」
だけど灰原の視界に映ったのは確かに。
体の所々から血を流し、全身に打ち身を作りながらも。
「それなのに驚いているのはどうして?
 ……それはあなたが最初から判っていたから。
 この世界が紛れもない現実だって事が判っていたからよ!」
しっかりと自らの足で立っている古手梨花の姿だった。

喜ぶべき事の筈だった。……だけど灰原哀はその姿に、怯えた。
「こ、来ないで……」
動揺する灰原哀の言葉を意に関さず、古手梨花は歩き出す。
机の間の通路をゆっくりと進み往く。
「この世界は夢なんかじゃない。そして例え夢だったとしても……死んで良いわけがない」
「私は罪人よ。人殺しの為の薬を作ってしまった、今もあなたを殺しかけてしまった罪深い罪人」
その足取りは確かなものとは言えなくて。
節々が痛むのか、時折揺らぎもするけれど。
「それなら私が赦しましょう」
「な…………!?」
それでもその足取りは止まらない。
その想いは止まらない。
「私は私を傷つけたあなたを赦す事が出来る。だからあなたを赦しましょう」
「……それでも私の罪は……残るわ」
それどころか一歩一歩進む毎に歩みは力を取り戻す。
足取りは確かに、その言葉は力強い響きを増していく。
「それなら哀のやるべき事は自らを滅ぼす事じゃない。罪を滅ぼす事。自らの罪と戦い滅ぼす事よ」
「――っ!!」
遂に梨花は灰原へと辿り着く。
伸ばした手はブレスレットを抜き取って、万が一にも暴発しないようポケットへとしまい込む。
「……誰もが強いわけじゃないわ。私は……」
今だ弱音を吐く灰原の弱さを。
「変えられないと諦めていたら何時まで経っても変われない!」
梨花はその襟首に手を掛けて。

332:でにをは、そして正しすぎる拳(後編)(8/8) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:33:39 LcFiHyst

「運命と戦え! 罪を滅ぼせ、灰原哀!!
 だって私達は生きている! だから最後まで生き足掻こう!
 私達はまだ何も終わってなんかないんだから!!」

―魂の叫びで打ち破った。

(生きて……いる……)
灰原哀の胸を過ぎったのは、彼女を助けようとしてくれていた姉の姿。
……姉は死んでしまった。
組織に始末されて死んでしまった。
(だけど私はまだ生きている。だから……生きろっていうの?
 まだそっちに行っちゃダメなの……?
 そうなの? ……教えて。
 教えて……姉…………)
「……………………さん…………」
灰原は俯いて。

声もなく静かに、泣いた。


333:でにをは、そして正しすぎる拳(報告1/2) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:34:51 LcFiHyst
【D-4/学校4階、4-2教室内/1日目/昼】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:色々と疲労困憊。全身に無数の打ち身と擦り傷(骨折などは無い)。腕力低下(ワブアブの毒)
[装備]:勇者の拳(すぐ取り出せるポケットに入れている)
[道具]:基本支給品、5MeO-DIPT(24mg)、エスパー錠の鍵@絶対可憐チルドレン 、平常時の服
[服装]:体操服。体操着に赤ブルマ着用。
[思考]:灰原の様子を見たい。
第一行動方針:灰原を連れてこの場から離れたい。
第二行動方針:リンクを待つか合流に向かうか。
第二行動方針:同行者を増やす。
基本行動方針:生き延びて元の世界に帰る。ゲームには乗らない。
参戦時期:祭囃し編後、賽殺し編前
[備考]:一休さんの事は変態性犯罪者と認識しました。

【灰原哀@名探偵コナン】
[状態]:健康、目覚め、催淫薬の効果はまだ続いているがほぼ切れかけ
[装備]:エスパー錠@絶対可憐チルドレン
[道具]:基本支給品、ふじおか@みなみけ(なんか汚れた)
[服装]:子供服。着方が乱暴でなんか汚れてる。
[思考]:罪を……滅ぼす……?
第一行動方針:罪を償うため……私は…………
参戦時期:24巻終了後
[備考]:この世界を現実だと認識しました。
    一休さんの事は変態性犯罪者と認識しました。


【D-4/学校本校舎1階保健室→裏校庭へ移動中/1日目/昼】
【ネギ・スプリングフィールド@魔法先生ネギま!】
[状態]:胸に斜めに大きく浅い傷痕(ダメージ小)。魔力を相当使ってだいぶ疲労。
[装備]:指輪型魔法発動体@新SWリプレイNEXT
[道具]:なし(共通支給品もランドセルもなし)
[思考]:とにかく急がなきゃ。
第一行動方針:小狼の元へと急行する。
第二行動方針:そちらを解決した後でコナンの方に急行する。
第三行動方針:出来る事なら魔力回復の為休みたい。
第四行動方針:二人(エヴァ&小太郎)と、小狼の仲間(桜)を探す。
第五行動方針:18時のリリスとの約束に遅れずに行く。
最終行動方針:ロワから脱出する
[備考]:
リリスと殺害数を競う約束をしています。待ち合わせは18時にB-7のタワーです。
催淫作用は解けましたが、襲ってくる存在には容赦するつもりはないようです。

【D-4/学校本校舎1階保健室→4階教室へ移動中/1日目/昼】
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:右腕骨折(応急処置済み)
[装備]:はやぶさの剣@ドラクエ
[道具]:支給品一式、バカルディ@ブラックラグーン、銀の銃弾14発、
   シルフスコープ@ポケットモンスターSPECIAL
   蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン
   殺虫剤、リリスの食料と飲み掛けの飲料水
[思考]:灰原哀の居るらしい四階教室に向かう。
第一行動方針:四階教室の古手梨花と灰原哀を捜索し、見つけたら様子を見て慎重に行動。
第二行動方針:ネギ、小狼の仲間を早めに見つけたい。
第三行動方針:リリスを倒す為に協力してくれそうな人物を探す。
最終行動方針:ロワから脱出する。
[備考]:リリスと殺害数を競う約束をしています。待ち合わせは18時にB-7のタワーです。
 バカルディと飲み掛けの飲料水は、リリスが口をつけたため弱い催淫効果を持っています。
 一休さんの情報は部分的にのみ信じています(灰原哀が手錠を掛けられ囚われているなど)。


334:でにをは、そして正しすぎる拳(報告2/2) ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:36:32 LcFiHyst
【D-4/学校本校舎1階保健室/1日目/昼】
【一休さん@一休さん】
[状態]:軽くはない傷(勇者の拳で吹き飛ばされ四階から転落し奇跡的に助かった)
[装備]:シャインセイバー(サモナイト石)@サモンナイト3
    体操着(着物の下)、教科書(服の下に仕込んである。保健は無くした)
[道具]:エルルゥの薬箱の中身(ワブアブの粉末(残2)、カプマゥの煎薬(残3)、ネコンの香煙(残3)、紅皇バチの蜜蝋(残3)) @うたわれるもの
体操着袋、チョーク数本、雑巾、ブリキのバケツ、ホース数m、教科書数冊
[思考]:さて、どう動いたものでしょう。さっきの少女は危険人物と考えるべきでしょうか。
第一行動方針:あわてない、あわてない。
第二行動方針:どう立ち回るか考える。
第三行動方針:驚く事ばかりだけれど、周囲への理解と食料の確保をしたい。
第四行動方針:余裕があれば、森にでも骨格標本を埋葬し供養したい。
基本行動方針:ゲームをうまく脱出する。
[備考]:懐と体操着袋とバケツに細かい荷物を分けて入れています。
水道の使い方、窓や扉のカギの開け方を理解しました。
ブルーを不思議な力(スタンガン)を持った神仙または学術者の類と思っています。
※:負傷の程度は軽傷や即死物で無いという事以外は不明です。次の話で決定どうぞ。


【D-4/学校本校舎1階、保健室より少し離れた場所/1日目/昼】
【メロ@DEATH NOTE】
[状態]:軽い打ち身と掠り傷。
[装備]:天罰の杖@ドラゴンクエストⅤ、賢者のローブ@ドラゴンクエストⅤ
[道具]:基本支給品(ランドセルは青)、チャチャゼロ@魔法先生ネギま!
   ターボエンジン付きスケボー@名探偵コナン(ちょっと不調)
[思考]:機は熟した!
第一行動方針:ネギと別行動になった江戸川コナンと一休さんを襲い、殺害する。
第二行動方針:保健室で物資を調達する。
第三行動方針:『3人抜き』を達成し、『ご褒美』を貰い、その過程で主催側の情報を手に入れる。
第四行動方針:どうでもいいが、ドラ焼きでなく板チョコが食べたい。どこかで手に入れたい。
基本行動方針:ニアよりも先にジェダを倒す。あるいはジェダを出し抜く。
[備考]:ターボエンジン付きスケボーは、どこか壊れたのか、たまに調子が悪くなることがあります。



【勇者の拳@魔法陣グルグル】
普段は綺麗なブレスレットの形をしている。
勇者専用装備の一種だが、『勇者しか装備できない』のではなく、
これを『使いこなす事で勇者と認められる』言うならば勇者の証である。
このロワイアルにおいては誰でも使えるようになっている。

使用方法は腕に身につけ、拳を突き出しながらツッコミを叫ぶ事。
瞬時に1mほどもある巨大な石のゲンコツと化す。
重そうにする様子は無く重量は軽いようだが、威力も腕力に寄らずツッコミの強さで決まる。
追い回されて「イタチごっこかよ!」、ゴーレムに向かって「岩かよ!」など、実は割と応用が効く。
ただしツッコミである以上、一つのツッコミ所に対するツッコミは一回までである。
ちなみにツッコミとはいうがこれはニケ達の意訳であり、『おかしい事におかしいと言う』事がその本質である。

余談だが、ニケがこれを入手し記録天使に勇者の名前及び拳の名前を聞かれた時、
神様がお読みになるだけでなく永遠に記録されるという説明にニケが慌てふためいた為、
『恥ずかしの拳(勇者ああああ銘々)』というとんでもない名前になってしまった。
この名前は説明書きにもしっかり記載されている。

335: ◆CFbj666Xrw
07/03/29 11:41:01 LcFiHyst
投下完了。えらい所で連投規制喰らってもたつきましたがw
一部キャラは微妙に自信無いので少し不安有ったりします。

336:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/29 11:53:23 EO7dn8LU
一休wwwwwwwwwwww誤解ふりまきまくりんぐwwwwwwwww


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