07/03/19 17:33:56 Ng72ZqWl
「だ……誰か居ないの……?」
目を開ければ、そこは相変わらず濃い霧の中。
辺りを見回しても、敵だった真紅すらおらず、彼女は寂しさに身を震わせる。
孤独。それは幼きローゼンメイデン第六ドール、雛苺がこの世で最も恐れるもの。
この世で1人きりになるくらいなら、敵でもいい、誰かに近くに居て欲しい―
キョロキョロと、誰か居ないものかと辺りを見回す雛苺の背に、声がかけられる。
「……ひな、いちご?」
「―ジュジュ!」
それはずっと待っていた待ち人の声。念願の再会に、雛苺は満面の笑みを浮かべて振り返る。
だが、その笑みはすぐに凍り付いて。
「逃げろって、言ったじゃない。なんでまだ、こんなところに居るのよ」
「……じゅ、じゅ?」
「あなたのために、命を張ったのに……全部無駄になっちゃったわ。……くそばか」
面白くもなさそうな顔で、最期に雛苺を罵倒する言葉を吐いて、ジュジュは倒れる。
身体に開いていたのは、素人目にも明らかな致命傷。白目を剥いて、血を吐いて、それっきり動かない。
「じ、じゅじゅ! 起きて、ジュジュ! ねぇってば!」
「……ヒナちゃん」
動かないジュジュを揺さぶり続ける雛苺に、今度は別の角度から声がかけられる。
振り返れば、いつの間にそこに居たのだろう? 雛苺と同じ姿形をした、人間の少女。
いや、それは間違いない。雛苺の元契約者である、柏葉巴だ。
「と、トモエ!?」
「ヒナちゃん、やめて……。あ、あたし、苦し……!」
雛苺と同じ服・同じ髪形で、顔だけは元のままの巴が、胸を押さえて倒れている。
慌てて駆け寄ろうとする雛苺だが、憎悪の篭った巴の視線に射竦められ、動けなくなる。
「ヒナちゃんのせいで……やめて、って、何度も言った、のに……!」
「トモエッ!!」
最期に呪詛の言葉を吐きながら、契約の力を使われ過ぎた巴が、がっくりと崩れる。
それはこのうえなく忌まわしい記憶。否、実際には回避していたはずの悲劇。
雛苺は泣きながら彼女の身体に縋り付くが、もうどうしようもない。
もう、全く動かない。
529:不思議の国のアリスゲーム ◆3k3x1UI5IA
07/03/19 17:34:31 Ng72ZqWl
「ヒナちゃん……!」
「この馬鹿人形……!」
「役立たずの、チビ苺……!」
のりが。ジュンが。翠星石が。蒼星石が。金糸雀が。過去歴代の雛苺の契約者たちが。
雛苺の知る人々が、霧の中に次々と姿を現し、雛苺への呪いの言葉を吐いては倒れていく。
みんな、雛苺のせいで死んでいく。
みんな、雛苺1人残して死んでいく。
みんな、雛苺との約束を破って死んでいく。
みんな、雛苺の心に寂しさだけを残し、雛苺を孤独にする。
「いや……いや……!」
雛苺は頭を抱えて、激しく首を振る。
気付いていたのだ。表層意識では誤魔化していたけど、とっくの昔に気付いていたのだ。
ジュジュが助かるはずもないことくらい。ジュジュが死ぬつもりで雛苺を逃がしたことくらい。
優しかった柏葉巴を殺しかけてしまったのは本当だし、過去にもそれに近い例は無かったわけではない。
孤独―
それこそは、幼きローゼンメイデン第六ドール、雛苺がこの世で最も恐れるもの。
深い深い霧の中、無数のトモダチの屍に囲まれて、雛苺はただ1人絶叫する。
「い……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
* * *
―深い霧の中、真紅は雛苺を見下ろしていた。
白目を剥き、涙と涎を流し、うわごとを言いながら、ビクビクと痙攣を繰り返す薔薇乙女の姉妹。
これが人形でなかったなら、きっと失禁でもしていたに違いない。
悪夢のような幻覚に捕らわれ倒れ込んだ雛苺の姿に、真紅は呟く。
「私は、相当に下劣ね。貴女の恐怖も苦しみも何もかも、全て知り尽くしていたはずなのに」
雛苺が人一倍孤独を恐れていることは知っていた。だから、幻覚でそこを突くのも必然だった。
相手の弱いところを突くのは、戦いの基本。上手いと賞賛されこそすれ、卑怯と呼ばれる謂れはない。
―けれども、何故だろう。何故こうも、釈然としないものが残るのだろう。
胸の奥に湧き上がる躊躇いを、真紅は頭を振って振り払う。
「……楽にしてあげる。もう、終わりにしてあげる。
そして貴女のローザミスティカは私の物になり、貴女は私の中で生き続ける。
可哀想な雛苺、貴女は永遠に孤独から解放されるのだわ―」
真紅の手の中に、舞い上がる薔薇の花弁が出現する。
雛苺はなおも倒れ、痙攣するだけ。この距離、この状態なら、外しはしない。
真紅は腕を振り上げ、雛苺に破壊の力を叩きつけようと―
530:不思議の国のアリスゲーム ◆3k3x1UI5IA
07/03/19 17:35:16 Ng72ZqWl
「―え?」
―叩き付けようとして、その動きが途中で止まる。
身体が動かない。金縛りにあったかのように、動かない。
いや……それは金縛りではなかった。
いつの間にか音も無く、身体に巻きついていた緑色の蔦。その所々に揺れる鮮やかな赤い実。
―『苺轍』。
「い、いつの間に……こ、これは!?」
信じられない。
この距離感を狂わせる『アリス・イン・ワンダーランド』の中で、どうやって真紅のことを捕捉したのか?
慌てて首を巡らせ、濃霧の中目を凝らした彼女は、そしてそのカラクリを知る。
―倒れ、痙攣を続ける雛苺の身体を中心として、360°全ての方向に延びた苺轍!
遠近無視の、全方位苺轍。触れたもの全てを縛り上げる、無差別拘束。
確かにこれなら、鉄壁を誇る武装練金の欺瞞効果も意味が無い!
それはほぼ唯一にして確実なる『アリス・イン・ワンダーランド』の攻略法だった。
「ひ、雛苺の作戦が、私の計算を上回った? いや違う、これは―!」
あの雛苺に、そんな作戦立てられるわけがない。幻覚に溺れる彼女が、まともに戦えるはずがない。
これは、単なるヤケクソだ。これは、単なるブチ切れだ。
策士策に溺れ、息を飲む真紅の目の前で、雛苺がゆっくりと立ち上がる。
壊れた操り人形のように不気味な動作で、起き上がる。
「―みいつけた♪ しんく、みいつけた♪」
その虚ろな瞳は、未だ現実世界を見ていない。
密集したチャフによる幻覚の世界を見ながら、それでも雛苺は、にまぁッ、と笑って真紅の方を向く。
苺轍の手応えが彼女に教える、現実の真紅がいるはずの方向を向く。
「探したのよ。みんな、ヒナのこと残して死んじゃって、でも真紅だけ居ないから、探したのよ」
「…………!!」
「でももう、捕まえた♪ もう、ぜったい離さない♪」
雛苺の言葉に、真紅は己の犯した致命的なミスを悟る。
真紅が知る限りの「雛苺の知り合い」を登場させた、『アリス・イン・ワンダーランド』による幻覚。
けれどもそこに、当の「真紅自身」は登場していなかった!
もしも真紅を登場させれば、真紅自身も幻覚の中で死なねばならなくなる。
たとえ現実の真紅に何の影響も無くとも、自分自身がジャンクになった姿は見たくない―
そんな無意識の恐れが、このミスに繋がったのだ。
531:不思議の国のアリスゲーム ◆3k3x1UI5IA
07/03/19 17:36:40 Ng72ZqWl
雛苺は真紅の方に歩み寄る。ギリギリと締め上げられ、動けない真紅の方に歩み寄る。
幻覚世界をいくら探しても真紅だけは居なくて、1人で居るのはあまりに寂しくて。
手当たり次第に苺轍を延ばして、ようやく捕まえた雛苺の「トモダチ」。
締め上げる力が、一際強くなる。既に壊れかけていた身体が、破滅的な軋みを上げる。
苦痛に身じろぎした弾みで、真紅の顔を覆っていたオシャレな蝶の仮面が、零れ落ちる。
「やッ、やめなさい、雛苺……! こッ、壊れ……!」
「だーめ☆ 真紅も、みんなみたいに約束破ってヒナを1人ぼっちにするんでしょ?
だったら、そうなる前に……」
真紅の悲鳴に、雛苺は虚ろに笑う。その、この世の者ならぬ笑顔に、真紅は戦慄する。
幻覚による精神攻撃は、有効だった―あまりに、効果的過ぎた。
そこに居るのは、既に真紅の知っている雛苺ではない。
過酷過ぎた責めに幼い心は砕け散り、彼女は「こちら側」の常識の通じぬ「彼岸の住人」と化した。
もう、真紅の言葉は、届かない。永遠に、届かない。
「真紅は、ヒナの中で生きるのよ。永遠に、ずーっと一緒なの☆」
雛苺は動けない真紅に歩み寄り、その頭にゆっくりと手をかける。
ツインテールにされた金髪を、両手でしっかりと掴む。
嬉しそうに、ニッコリ笑って―
ゴキリ、メキリ、バキリ。
霧の中に、破壊音が響く。悲鳴を掻き消すかのような、無骨な音が響く。
やがて、霧を掻き退けるように、赤いローザミスティカの輝きが現れて―
一瞬のうちに濃密な霧が消滅し、小さな音を立てて核金が落下して。
穏やかな風が草原を吹き渡り、さわさわと心地よい音を立てる。
青空の下、首の無い人形が静かに崩れ落ち、それっきり、動かなくなる。
―後には、ただ沈黙。
* * *
孤独―
それこそが、幼きローゼンメイデン第六ドール、雛苺がこの世で最も恐れていたものだった。
そしてもう、彼女は孤独ではない。
これからは、ずっと真紅が一緒。どんなことがあっても、真紅が一緒。
誇り高きローゼンメイデン第五ドール、真紅……の頭を胸に抱き、雛苺は小さく微笑む。
澄み切った青空の下、雛苺は爽やかに微笑む。
「ヒナ、頑張るの。真紅と一緒に、アリスゲーム、頑張って戦って優勝なの。……ね?」
もちろん真紅は答えない。
首だけになったアンティークドールが、命を失った薔薇乙女が、答えられるはずもない。
それでも雛苺は、まるで誰かの声を聞いたかのようにニッコリ笑って頷くと、歩き出した。
大きなバットを引き摺りながら、しっかりした足取りで、歩き出した。
生きることとは、戦うこと。その信念は、ローザミスティカと共に彼女に引き継がれて。
雛苺は、もう孤独ではない―その壊れきった精神の中で、永遠に、真紅と一緒なのだから。
532:不思議の国のアリスゲーム ◆3k3x1UI5IA
07/03/19 17:37:17 Ng72ZqWl
【G-5/シェルター西側の平原/1日目/真昼】
【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:真紅のローザミスティカ継承。精神崩壊。見るものの不安を掻き立てる壊れた笑顔。
[服装]:普段通りのベビードール風の衣装。トレードマークの頭の大きなリボンが一部破けている。
[装備]:マジカントバット@MOTHER2、真紅の生首(!)
[道具]:基本支給品一式、ぼうし@ちびまる子ちゃん ツーカー錠x5@ドラえもん
光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、ジュジュのコンパス
[思考]:真紅は、これからずっとヒナと一緒なの。真紅と一緒だから、ヒナも頑張れるの。
第一行動方針:「新ルールのアリスゲーム」(=殺し合いのゲーム)に乗って、優勝を目指す。
基本行動方針:優勝して、「永遠に孤独とは無縁な世界」を作り、真紅を含めた「みんな」と暮らす。
[備考]:
雛苺は真紅のローザミスティカを獲得しました。以後、真紅の持っていた能力を使用できます。
雛苺は自分の支給品をマトモに確認していません。
【真紅@ローゼンメイデン 死亡】
[備考]:
G-5の湖寄りに放置された首のない真紅の残骸のすぐ傍に、
パピヨンマスク@武装練金、核金LXX70(アリス・イン・ワンダーランド)核鉄状態@武装錬金
が落ちています。
533: ◆3k3x1UI5IA
07/03/19 17:38:14 Ng72ZqWl
以上。
核金は雛苺には使い方が分からなかったために放置です。説明書も無いですしね。
……どうでもいいですが、身長より長いバットを振り回す薔薇乙女って、怖い絵になりそうだなぁ。
534:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 17:48:23 6xzuO5ia
雛我物故我太……
そしてジュジュの託した望みも叶わずか……カワイソス。
535:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 17:50:25 wx4Y6g5n
これは……
なんというか、怖くて素晴らしい
536:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 17:50:42 6xzuO5ia
真紅・翠の子→ティウンティウンティウン
雛→ぶっ壊れた
蒼→大ピンチ(色々と)
金→へたれ
誰かを除いてロクないことがないなローゼン勢……
537:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 17:55:00 CZLtVRz3
GJ
怖い……怖いよ……最初の頃の純粋がゆえの怖さだよ雛苺。
真紅も冷酷さが裏目に出たな、まーあんな仕打ちすれば仕方ないさ。
薔薇の花弁と苺轍で上下全体攻撃のマーダーとかテラツヨス。
細かいことだけど、核金じゃなくて核鉄ですよ。
538:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 17:55:01 A4Mmmfyx
ひ、雛が壊れたー!?
真紅……因果応報とはいえ、無惨な。
……GJ。
539:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 17:56:51 UZA1qFO1
なんという雛……間違いなく今のこいつは呪い人形。
でもよくよく考えてみれば、漫画での初出時は水銀燈並みにイカレた子だったっけな……
>>536
水銀燈のことかー!
540: ◆3k3x1UI5IA
07/03/19 17:58:43 Ng72ZqWl
>>537
あ、素で間違えました。単純な表記ミスなので、wikiにでも収録された後に修正しておきます。
541:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 18:12:25 6xzuO5ia
>>539
つまりこれは本来のヒナに戻ったにすぎなかったのだよ!!
542:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 18:30:21 SpQFAIX+
ほ、ホラードールの誕生や・・・
543:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 18:35:51 nQWy4oLi
うはwwwこれは予想GUYデースwwwww
まさか雛がここまでやれる子だとは思わなんだwwwwwすげぇwwwww
544:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 19:02:26 RtKi/7eM
効果音こえええええええ……
あ、容量500KB目前なのでどなたか新スレお願いします。
545:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 19:02:33 UZA1qFO1
容量よば。次スレ立てる。
546:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 19:06:40 UZA1qFO1
容量よばって何だorz
次スレ
スレリンク(subcal板)
547:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 19:28:18 prah6FVv
>>546
GJ。
危ないところだったな。
548:名無しさん@お腹いっぱい。
07/03/19 20:14:46 efl1BxdZ
雛苺こわいよ雛苺