06/05/13 07:53:19 rTq1V0Tu
夜10時55分、最後の大当たりの玉を掻きだしているところで、
店内に蛍の光が流れ始めた。今日はなんとか、ノルマをこなせたようだ。
1万5千円ほど浮きになる計算なので、久しぶりに近所の飲み屋で一杯やって帰るとしよう。
交換所で現金に換え、路地を離れたところで、コンパがはねた大学生の集団とすれ違った。
最近、彼らがやけにまぶしい。彼らだけではない、この社会にきちんと「居場所」を持っている連中を、まともに正視することができなくなっている。
今日も、華やかな熱気が溢れている彼らをなるべく視界に入れないように、しかしスクーターを停めてある場所に行かねばならぬため、なるべく目を逸らして逃げるように横を通り抜ける。
「単位が…」「…内定いくつ…」…自分も、数年前には確かにあの熱気の中にいたことがあった。
しかし、今彼らが話していることはまるで、別の宇宙の出来事のように空々しく耳を通り抜けていく。
しかし、通り抜ける途中で確かに、私の心の最も敏感な部分に、微かに傷をつけて過ぎていくのだ。
そして、その傷は癒えるどころか、日々身体の中に溜まり、そして弱い微生物が仲間を求めるかのように
体の中心に集まり、ひとつひとつの弱さがまるで嘘だったかのように強固な生命体となり、私の肉体と精神をまるで癌細胞のように蝕んでゆく。
いつもいつも、 胃の底のあたりにそいつは潜み、普段は顔を出すそぶりも見せない癖に、
こうして「社会」というものの存在を目の当たりにせざるをえなくなったときに、まるで猛獣のように体の中を暴れまわり、そこら中を生傷だらけにしていくのだ…